透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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ブルアカのエイプリルフールネタであるto school ~君がそばにいる日常~ プレイこそしてないですが中々公式もすげぇ事しますね。知った時は「うっそだろお前」状態になりましたw

やるかどうかについては・・・未定です。多分やらないかも。




繋ぎ留められた結論

 

 

 

 

 

 

 

夜間にも関わらず、まるで昼間の様に明るく照らされた都市。

 

 

 

「敵はミレニアムで見たのと同型。数は・・・うーん、沢山。」

 

 

 

そんな近未来都市を一人駆け抜けながら、イサネは一人呟く。

 

 

(図体があって数が多いとはいえ、個々の戦闘能力自体はゲーム開発部の生徒らでもどうにかなる程度。拘束されない限りはどうにでもなるな。)

 

 

見渡す限り一杯に居る全高4mは確実であろう球体から複数の機械触手を生やしたクラゲの様な機械の群れを相手に、一直線に突っ込んでいく。

 

 

(にしても、AIの人格に干渉するってヒマリの説明・・・何度思い返しても意味不明だな。一体どんな原理でプログラムの中に入るんだ?)

 

 

彼我の距離は大体3m。イサネは左手に新たな自分のもう一つの腕こと【quid est pax】を握り、右手でアサルトライフル――ではなく、銃身に金色の龍が描かれたMPX(サブマシンガン)のグリップを握る。

 

 

 

「まぁ、その辺は先生に任せますか。私の仕事はこいつらの迎撃だ。」

 

 

 

束の間の思考を中断し、イサネは気持ちを切り替える。

 

 

 

 

「面白味にも欠ける消化試合と言った所だけど・・・まぁ、初見のAFよりは楽でしょ。」

 

 

 

 

愚痴を零す様に言い、イサネは左手に持った対物ライフルの銃口を機械群に向ける。

 

 

 

 

 

・・・時は数分ほど前に遡る。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「その問題自体が間違っていると、私は答えるかな。」

 

 

 

その言葉にリオが少しばかり目を見開く。が、数秒後にはすぐに反論を述べる。

 

 

「・・・それは問題の答えではないわ。ただの詭弁よ。」

 

 

答えでなく詭弁。

 

 

「思考実験の前提を否定する事がまかり通るなら、それはもう思考実験ではないわ。」

 

 

リオの言い分はkeyの玉座の上で拳を止めたままのイサネも理解出来た。

 

(まぁ決められた条件と決められた択の中から選択する思考実験なのに前提として与えられる条件を無視してるんだから、リオの言いたい事は理解出来なくも無いけど・・・)

 

そう、先生はリオの提示したトロッコ問題という二者択一が前提の問題の問いに対し、どちらを選んでも犠牲者が出るから問題が間違っているという問題提起の外の答えを出したのだ。決められた前提や条件の中で推論を進めていく思考実験にも関わらずに、だ。

 

「先生。トロッコ問題ってのはAかBのどちらかしか解が存在しない思考実験だよ?今の貴方みたいにどっちを選んでも犠牲者が出るから問題が悪いみたいな答えはただの戯言でしかないと思うんだけど。」

 

滅茶苦茶な先生の言い分に、事を静観していたイサネもそれは流石にと口を挟む。

 

「そんな事は無いよ。もしかしたら、レバーを握る人が何か見落としたものがあるかもしれない。」

 

「思考実験にもしもの話を持ち込む事自体がおかしいって言ってんでしょうが。レバー云々の話の前に思考実験の意味を調べ直して来いよ。議論するつもり無いだろお前。」

 

だが、そんなイサネの苦言に対しても何ら意見を曲げない先生。これにはイサネも再び語気を荒くし、先生に送る目線に苛立ちを込める。

 

(実際に起きたと仮定して、レバー以外にも行動が出来るならまだ先生の答えも納得がいくんだけど・・・思考実験にそれを持ち出されると話にならないんだよな・・・うん?)

 

呆れた様に内心でぼやくイサネだったが、ふと違和感を覚える。

 

(先生の言い分は行動の自由が利く仮の現実で見るなら通じる・・・現実のトロッコ問題なら一人の方を避難させるかトロッコを脱線させるとかの選択肢が生まれる・・・そういう事か?)

 

確かに先生の言う事は前提条件がある思考実験においては論外として扱われる屁理屈だ。だが、現実においてはそうとも限らない。何せ実際に二者択一を迫られた時は二択以外の第三案を提示して解決する事も、選択から逃げる事も立派な選択と意思決定なのだから。

 

そしてアリスの命を取るかキヴォトスの存亡を取るかというリオの問題については今こうして実際に現実で起きている事だ。イサネは己の閃きのままに先生に問い掛ける。

 

 

「・・・もしかして、先生は思考実験どうのじゃなくて今のこの状況を見てそれを言ってる?」

 

 

「どういう事かな?」

 

 

対する先生はイサネの質問の意図をいまいち測りかねている様子。イサネは続けて、今閃いた仮説を話す。

 

「先生の言い分は思考実験において論外とも取れる解。けど、リオの言ったトロッコ問題を今のアリスを取り巻く状況に照らし合わせると1人の方がアリスで5人の方がキヴォトス。そしてそれは実際に現実で起きている。現実なら先生の言い分だって十分に通じる訳だ。というか最初からそのつもりで話してたでしょ?」

 

「・・・ッ!?」

 

「リオの反応的にどうやら双方で認識ずれが起きていたみたいだな。もしくはリオが現実にトロッコ問題をそのまんま持ち出した馬鹿か。そういう意味では先生の方が現実を見ていたって事になるか?」

 

「そんな事はないよ。リオはミレニアムだけじゃなくてキヴォトス全体の事を考えて動いていたし、それに来たる災禍に対してこうやって備えを用意していた。少なくとも私よりは現実をちゃんと捉えていたとは思うよ。ただ、何事も一人でやろうとしてしまった結果こんな事になったってだけで。」

 

イサネの発言の意味を理解し驚愕するリオを余所に先生はやっぱり若干ずれた解を述べる。が、更に続けて、

 

 

「まぁ、ゲームと違って現実ならどんな選択だって出来る訳だし、アリスを含めて皆が納得出来る道だってきっとある筈だよ。・・・ゲームと違って課金で解決は出来ないけどね。」

 

 

―――遠回しにYesを答えた。

 

 

「・・・あのさぁ、双方の認識違いって結構すぐに大事になるからその辺ちゃんとしないと駄目だよ?思考停止で言われるがままに敵を撃って来た私が言うのもおかしい事ではあるんだけどさ。」

 

 

「ははは・・・次からは気を付けるよ。でも意見の食い違いって、当人同士じゃ中々気付き難い事でもあるよね。」

 

 

自分の事を棚に上げ、呆れた様に苦言を呈するイサネに苦笑いで返す先生。それに対しイサネもにやりと顔にわざとらしい笑みを浮かべ、先生を揶揄う。

 

「おいおい生徒を導くって言ってた先生が言い訳かぁ?大人としてそれはどうなんですかぁー?」

 

「い、痛い所を突いてくるなぁ。」

 

狂人の真似事を止めたかと思ったら今度はけらけらと笑い始めたイサネに先生とリオを除いた一同が完全に置いてけぼりになっている中、先生はイサネとの会話を切り上げてリオに向き直る。

 

「リオ、確かに君はこうしてアリスの潜在的な危険性を察知し、一人でここまでの備えを誰にも知られる事無く用意してきた。凄い事だと思う。これだけのことを一人でやるなんて、難しいなんてレベルの話じゃないと思う。」

 

「・・・それは。」

 

「でも、その途中で本当に誰にも手を差し伸べられなかったのかな。勿論、傭兵で雇った・・・とかは無しで。」

 

その質問に、リオは答える事が出来なかった。いや、手を差し伸べてくれた人は居ない訳じゃなかった。現にミレニアムサイエンススクール史上3人しか名乗る事が許されなかった「全知」の学位を持ち、やたらと自己肯定感の高い盟友を始めとして同志は居たのかもしれない。

 

だが、リオ自身がそれら自分に差し伸べられた手を、意見を理解は出来ても共感出来ないとして斬り捨て、自分の意見を内側に仕舞い込んだ。やがて共感や納得、その為の話し合いの過程すらも億劫として捨て去り、何時しか志や意見を共有する仲間ではなく計画遂行の為の手駒として人を見る様になっていた。

 

「・・・その反応的に、無かった訳じゃなさそうだね。ただ、何かしらの要因でそれをしなくなったと言った感じかな?」

 

先生の言葉は正に図星だった。

 

「君は頭がすごく良くて、大体の事が一人で出来ちゃうから気にも留めなかったんだとは思う。でも、何でも一人で勝手に進めちゃうと、何処かで行き詰まると思うんだ。それこそ今みたいに。」

 

「今・・・」

 

今みたいに。それは力ずくでアリスを連れ去り、秘密を交渉材料に戦力を従わせた結果、先生を始めとしたゲーム開発部、エンジニア部、ヴェリタス、果てには配下であるはずのC&Cにすら銃口を向けられ、更には無理矢理従わせた戦力であるイサネにすらも首輪を噛み千切られた上に飼い主であるはずの自分の首すら噛み切られたという明確な事実。

 

「勿論どこまでを失敗とするかはそれこそ人によるとは思うけど、それでも一人だと必ずいつか限界が来ると思うんだ。」

 

自身が保有する戦力の壊滅と雇い入れた戦力の離反、更には今回の事件の発端である厄災そのものの顕現と今のリオにとってこの状況は詰み以外の何物でもない。

 

「一人じゃ何も出来ない・・・それについては私も賛成。だからこそ先生、アリスの命とキヴォトスの存亡。この二つが天秤に賭けられている今、貴方はどんな選択を取る?」

 

かつて一人で世界全てを敵に回した首輪付きが、沈黙したリオに代わって改めて問い掛ける。

 

 

「そうだね、私は―――」

 

 

先生はイサネの問い掛けに対し、示し合わせたかの様に答えを返す。

 

 

 

「皆で力を合わせて、全てを救う選択をしたい。」

 

 

 

普段と何ら変わる事の無い、矛盾だらけで夢物語な答え。

 

 

「有り得ないわ・・・厄災もキヴォトスも救う。そんな選択肢なんて・・・」

 

 

それを聞いたリオが真っ先に否定の声を上げる。当然だ。どう計算しても、どこをどれだけ妥協しても、敵も味方も全てを救う選択肢などどいうものは本来どこにも存在し得ないのだから。

 

 

――だが、何事も例外というものは存在する。

 

 

『ノア!今の内よ!全域の電力を全部落としちゃって!』

 

 

キヴォトスの外、キヴォトスでは外の世界と呼称される先生の出身地とも違う世界にて、深く傷付いた一匹の渡鴉が、世界を支配する権力者の全力をも跳ね除けた様に。

 

 

『は~いユウカちゃん。その言葉を待ってました♪』

 

 

誰かが拾い上げた一匹の山猫が、権力と支配が横行する世界の大半を喰らい尽くした様に。

 

 

『えいっ♪』

 

 

少しばかりの茶目っ気を乗せて、突如として先生一同の無線に響いたとても良く聞き慣れた声と同時に、エリドゥにある光と言う光が消える。

 

「リソース確保失敗。システムのシャットダウンを確認。」

 

そしてイサネの妨害によりエリドゥのリソース奪取が遅々として進まなかったkeyも、突如としてそのリソースを保管するシステムがシャットダウンされた事でリソース奪取を強制的に停止させられる。

 

 

『皆、大丈夫!?』

 

 

keyの介入により完全に沈黙した無線から声が響く。

 

「ユウカ!」

 

「ノア先輩・・・!」

 

モモイとユズが割り込んだ声の主の名を呼ぶ。そう、ミレニアムサイエンススクールを運営する生徒会組織セミナーの会計と書記、それぞれ早瀬ユウカと生塩ノアだ。作戦会議時に「セミナーは事態に介入しない」と明言していた二人だったが、どうやら事の異変を察したらしく、挨拶を省いて話し始める。

 

『時間が無いので挨拶は省きます!チヒロ先輩からの連絡もあって今の状況が普通では無い事は確認しました!』

 

『本当は都市の場所だけ伝えて手を引くつもりでしたが・・・ふふ、ユウカちゃんがそれだけじゃ駄目だって、最後までどうにかしないと。と言ってましてね?あ、勿論チヒロ部長代理から連絡があった、と言うのも事実ですよ。』

 

中立でこれ以上の介入はしないと言ったあの時の言葉とは裏腹に、なんともユウカらしい理由。だが、だからこそ研究に金を使うミレニアムの財政を担っているにも関わらずミレニアムの生徒から冷酷とは言われつつも嫌う者は居ないという人望を無自覚の内に得るに至ったのだろう。

 

「流石ユウカ!おかげで助かったよ!」

 

『これくらいは当然です。それより、会長!』

 

先生の称賛の声を軽く流しながら、ユウカは自らの上司に当たる筈のリオに容赦なく怒声を浴びせる。

 

『セミナーの予算を横領して、こんな物を作るなんて・・・後で説教ですよ!覚悟しておいてください!!』

 

「ッ!?」

 

ミレニアムにて「冷酷な算術使い」や極一部で「大魔王ユウカ」の通称で恐れられるユウカの説教はミレニアムの生徒会長でも十二分に効くらしく、説教宣言を受けたリオが明らかに肩を揺らす。

 

 

「リソース確保プロセスにエラー。Divi:sion電源、プロトコル実行者保護の為に全機をエリドゥ中央に―――」

 

 

だが、そんな中でもkeyは機械らしく淡々とプロセスの実行を進めていく。更なる援軍を気にも掛けず、抑揚の無い声でリソース奪取の為のプロセスを読み上げ――

 

 

「誰がいつお前に発言権を与えた?黙って寝てろ。出来ないなら粗大ゴミらしく死んでくれ。」

 

 

る前にイサネが再びkeyの操る体――天童アリスの左側頭部を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた首が常人なら確実に骨が逝ったであろう勢いで右に向く。

 

「めっ、命令プロセスにエラー発生。指揮系統の再構築を――」

 

「鉄屑風情がッ!!」

 

尚も喋り続けるkeyに流石に堪忍袋の緒が切れたのか、罵声と共にkeyの細首を締め上げる。

 

「イサネ!」

 

「なんでも良い!早く話を進めて!じゃないと下から子機が昇ってくる!」

 

「ふむ、では子機・・・あの軍隊達の相手は私達C&Cが担当しましょう。それとイサネさん、その身体の持ち主はアリスちゃんです。余り痛め付け過ぎない様にお願いしますね?」

 

「はぁ、手加減なんか殆どした事無いんだけど・・・?それに戦闘用アンドロイドが首を潰された程度で止まるのか・・・?」

 

それと同時にアカネがアスナとカリンを連れてエレベーターへと走っていく。

 

『イサネ!怪我が酷いから医務室で安静って言われてたでしょう!なのになんで勝手に抜け出しちゃうのよ!?塞がった傷口が開いたらどうするのよ!!』

 

「うっ・・・だ、だって、リオから用があるから夜に抜け出せって・・・依頼も断らせて貰えなかったし・・・」

 

C&Cを見送ったイサネだったが、ユウカの説教が時間の空白を許さない。

 

『イサネちゃんの件についてはまだ情状酌量の余地がありそうですね。イサネちゃんの運ばれた医務室の状態がいつの間にか変更されていましたので。・・・依頼を放棄して離反行為を行った件についてはノーコメントと言った所ですが。』

 

『・・・取り敢えず、その話は事が全部終わってからよ!今はこの場をどうにかするのが先決!』

 

しどろもどろにらしくもない言い訳を吐くイサネを余所に、ユウカは本題に切り込んでいく。

 

『先生、今のアリスちゃんは救出出来そうなんですか?』

 

「はっきり言って無理だね。アリスの中に眠っていた人格って言えば良いのかな、それが今アリスと繋がっているケーブルを無理に引っこ抜いちゃうとアリスが本当に帰ってこれなくなるって。それに今の事態を引き起こしたのも彼女だから、一旦無力化する必要があるのかどうかも・・・」

 

『ではどうにかしてアリスの人格を表に引っ張り出す必要があると。それも彼女の妨害や抵抗を受けながら・・・そんなの、一体どうやって。』

 

ユウカとノアの援護によりkeyによるエリドゥ掌握を一時的に防ぐ事は出来たものの、それでもまだ事の大元であるアリスの内に秘められた脅威そのものは未だ健在だ。イサネが幾度となく浴びせた打撃により多少の損傷こそあるだろうが、それもナノマシンによってすぐに修復出来るだろう。

 

そして何より根本的なゴールはkeyの肉体の破壊ではなく、keyが支配する天童アリスの体を本来の持ち主に返す事だ。物理的に壊してしまえばそれは犠牲となる。

 

「何か無い・・・!?アリスの心に呼び掛ける方法・・・!」

 

しかし、元より機械の体に宿った人格。それも裏に秘められたもう一人が自らの意志で表に出てきてしまった以上ここからの呼び掛けはもう効果が無い。幾ら口が上手くても、その意志が本物だとしても聞こえなければそれは何の意味も無い。見つからない活路に焦れる先生だったが――

 

 

「なら、彼女の精神と直接話をしてみてはどうでしょうか。」

 

 

エレベーターの方から聞こえた透明感のある声。この場に居る誰のでもない声。

 

「誰・・・!?」

 

モモイがはっと声を上げる。先生も視線を声の方に向ける。

 

そこに居たのはハイテクそうな車椅子の座った生徒。その長髪を筆頭に透き通った白を基調として整えられた儚さを見る者の印象に与える容姿。そしてキヴォトスならではと言うべきかその長髪からでも良く見える名が尖った耳。

 

「・・・ヒマリ。」

 

「ふふ、貴方がかの傭兵を手駒に加えたと知った時は流石の私でも肝が冷えましたが・・・どうです?その傭兵に悉くを台無しにされた気分というのは。」

 

リオも一同に倣う様にエレベーターの方を見、ぼそりと呟くのに対し、声の主はここぞと言わんばかりにリオを煽る。

 

「えっと、確か君は・・・」

 

「申し遅れました。私、ミレニアム随一の超天才ハッカーにして穢れ無き万年雪が輝く名峰の頂上で咲き誇る一輪の花、そしてミレニアムの特異現象捜査部の部長を務めている明星ヒマリと申します。以後お見知りおきを、先生。」

 

これが初対面とは言え予め生徒の名前と顔を把握していた先生が名前を思い出すよりも先に凄まじい自画自賛塗れの自己紹介を行う。そう、イサネも戦闘が始まる前に相対した、一応その知力は事実である特殊現象捜査部部長、明星ヒマリだ。

 

「貴方、逃げたんじゃ・・・」

 

凄まじい自画自賛に困惑する一同を余所に、リオがヒマリに問い掛ける。戦闘の最中に独房が何者かに襲撃された事こそ把握していたものの、そこからの彼女の行動までは流石に把握し切れていない。だからこそと言うべきか、リオはヒマリが独房から出た後はそのままエリドゥから出て行ったものだと考えていた。

 

「逃げるなんて、なんて寂しい事を。それにこういった状況になる事くらい、殺風景な独房の中でも容易に予測出来ます。ですので隔離施設から脱した後、急いでここに来たのです。」

 

「ふーん、語録豊富な自己紹介をしているだけの頭脳は持ってるって事か。それもお飾りじゃない本物の奴。」

 

「確かにリオがやらかすであろうという予測自体は既に立てていましたが、どちらかと言えば貴方がこうして先生とリオ双方にとってイレギュラーな動きをするという方が予測も的中も簡単でしたよ。殆ど貴方が教えてくれた様なものでしたが。」

 

「まぁあの時あんなことすればそりゃ予測するまでも無いだろうけどね。」

 

途中から話に入ってきたイサネの軽口を軽口で返しながら、ヒマリは事の本題に入る。

 

「と挨拶もここまでにしまして、これがkey・・・無名の司祭のオーパーツを稼働させる為のトリガーAIですね。わざわざ調査する必要も無いですが、このまま放っておけばアリスの人格はkeyに置き換えられ、無名の司祭の望む通り名も無き神々の王女として覚醒するでしょう。」

 

既に正体を知っていたのか、イサネに抑え付けられている瞳の赤いアリスを見てヒマリはすらすらとその正体を口頭で述べる。

 

「そ、それじゃあ・・・!」

 

「っ!!ヒマリ先輩、それじゃあ・・・」

 

「アリスちゃんは、このまま・・・」

 

このままではどう頑張ってもアリスは助からない事を改めて理解したゲーム開発部の三人の表情が悲痛に歪む。が、ヒマリは更に続ける。

 

「勿論それはこのまま放っておけばそうなるという話です。今この段階でこちらが何かしらの干渉を以て彼女を表に引き摺り出す、もしくは起こす事が出来れば、その限りではありません。」

 

「でも外からの呼び掛けには応じない・・・なら、一体何をすれば良いの?」

 

「イサネさんが時間を稼いでくれたおかげでエリドゥの再起動から変貌までまだ少しばかりの猶予があるとはいえ、無名の司祭達は動き出している以上時間的余裕はありません。」

 

流石はミレニアムの誇る賢者と言った所だろうか。ヒマリはアリス復活の為のプロセスを話し始める。

 

「ですので、無名の司祭達が到着する前に、keyの起動によって隔離されてしまったアリスを起こすのです。そうすれば事態も収まるでしょう。リオ、ダイブ設備くらいありますよね?」

 

「えぇ、あるけれど・・・いくらなんでも危険過ぎるわ。仮にアリスの精神世界に入れたとしても、戻って来れる確証はどこにも無い。そもそもアリスの精神世界に入れるかどうかすらも怪しいと言うのに。一体誰が・・・」

 

ダイブ設備を用いてアリスの精神世界に侵入し、直接アリスと話すというのがヒマリが示した方方らしいが、リオの反対を見る限り賭けに近い程の危険性を伴う様だ。

 

「何せ他人の心の中に入るのですから。それくらいの危険は当然伴います。ですが、それしか手段が存在しないのもまた事実です。時間さえ許すのであるならもっと安定した方法で干渉を行うのですが・・・」

 

ミレニアムが誇る天才二人が口を揃えて危険だと言うのだ。間違いなく分の悪い賭けなのだろう。だが、

 

「・・・やります。・・・アリスちゃんを、連れ戻せるのなら。」

 

「私も行くよ!アリスは私達のパーティーメンバーで、大切な仲間なんだから!」

 

「私も行きます。アリスちゃんの居ないゲーム開発部なんて考えられません。皆居てこそのゲーム開発部なんです。」

 

先生は勿論、当事者たるゲーム開発部の面々もその危険極まりない賭けに迷う事無く乗る。

 

「ふふっ、そう言ってくれると思っていました。では私が今からアリスの精神を分析し、隙間を作り出します。皆さんはそこからアリスの精神世界に侵入し、アリスを連れ戻してきてください。」

 

「分かった。・・・行こう。」

 

「・・・ダイブ設備は向こうよ。」

 

ゲーム開発部、そして先生の4人が頷き、リオの指差す方にあるダイブ設備へと歩いて行く。

 

「皆さん、ダイブ用の機械を装着、固定しましたら決してそれに触らないでください。機械の位置がずれてしまうとダイブした時にエラー引き起こす可能性が高くなるので。それとダイブが始まってからは――」

 

アリスの座る機械だらけの玉座に似た設備に腰掛け、それぞれ準備をしているゲーム開発部にヒマリが注意事項を口頭で述べる。

 

「イサネさん。貴方は私の合図があったらアリスの体をノックダウン・・・気絶させてください。その間に私がダイブの為の隙間を作り出します。ノックダウンについてはあの翠緑の光さえ使わなければ問題はありません。腐っても戦闘用アンドロイド、致命傷でなければナノマシンでの修復が働く筈です。」

 

「やるとは一言も言ってないけど・・・まぁいいや、頭部への打撃を以て沈黙させる。それが終わったら私もあの機械共の迎撃に向かって良い?」

 

「はい、大丈夫です。」

 

首を締められ口を塞がれ尚未だに「プロセスの・・実行、を・・・」と抵抗し続けるkeyの拘束を強めながら、ヒマリの指示を受けたイサネもこの戦闘用アンドロイドを一撃で機能不全に持って行くべくコジマ粒子を更に放出させ、身体能力を引き上げる。

 

「・・・あの、その力は使わないでほしいと今言ったばかりなのですが。」

 

「身体能力を限界まで引き上げる為に必要なの。ただ放出するだけなら問題無いでしょ。人サイズでの放出なら数時間もすれば拡散するし。」

 

いきなり言い付けを破ったのかと苦言を呈したヒマリの誤解を解きながら、イサネは右腕を脱力させる。拳を打つ前に無駄な力を抜く事で拳打時に全ての力を効率良く威力に変換させる為の準備。そして数回深呼吸。

 

「ヒマリ、準備出来た。いつでもいいよ。」

 

「あと数秒で分析が終わります。先生、ゲーム開発部の皆さん、装置を起動してください。」

 

「おっけー!皆、行くよ!」

 

イサネや先生達が準備完了の声を上げる中、そんな彼女達に指示をする傍らでアリスの精神構造の分析を行っていたヒマリも準備を終え、ついに作戦開始の合図を告げる。

 

「イサネさん、3カウントでノックダウンをお願いします。先生とゲーム開発部の皆さんは目を閉じて。このタイプの機器ですとダイブの際にゴーグルが強く点滅します。」

 

ヒマリの最後の指示を受け、四人は目を閉じ、イサネはより強くkey操るアリスの体を抑え付ける。そして全て確認を終えたヒマリがゆっくりとカウントダウンを始める。

 

 

「3・・・」

 

 

どこがどう転んだとしても、これがアリスを取り戻す最後の道だ。

 

 

 

「2・・・」

 

 

 

――でも、

 

 

 

 

「1・・・!」

 

 

 

 

―――でも、

 

 

 

 

「0!イサネさん、今ですっ!」

 

 

 

 

何があっても、あの小さな勇者は帰ってくる。

 

 

 

 

 

「しぃぃッッ!!!」

 

 

 

 

 

―――不思議と、そんな感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






前話のあとがきで次回次々回でエリドゥ周りは終わると言ったな、あれは嘘になった(有限不実行)

ち、違うんすよ、何か愉快なおじさんに君は特別だって、特別だから出来るって言われたんすよ・・・!って言うのにこれじゃ・・・は、話が違うっすよ・・・い、嫌だ、これ以上長引かせたくn―――


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