来ると思っていなかったハイランダー生徒の実装が来てちょっとびっくりしている作者です。ヒカリとノゾミは当分実装無いかと思ってただけに本当に驚きました。
今回はイサネさんがDivi:sionの機械達と戦いながら、キヴォトスに転生して彼女の体に宿った力についてほんの軽く触れていく回となっております。
つい先程までの喧騒が静まり返り、遠くに見える微かな爆発の炎すらも景色の一部に溶け消える要塞都市エリドゥのタワー最上階。
「・・・ダイブ成功。皆さん無事にアリスの精神世界の中に侵入する事が出来ましたね。」
人の声よりも機械の駆動音が響く中、先生とモモイ、ミドリ、ユズの4人で行っているアリスの精神世界へのダイブを機械のモニター越しに見守っていたミレニアム随一の天才こと明星ヒマリが静かに告げる。
「・・・成功したの?」
ほっと一息つくヒマリのすぐ隣、意識の無いアリスがしなだれかかる機械だらけの玉座の脇に立っていた灰銀色の長髪の少女――標根イサネがおもむろに口を開く。
「はい、先生方は現在、アリスが無意識の内に作り出した彼女だけの世界の中に居る筈です。中で何が起きているかまでは把握出来ませんが、何かあった場合は直ぐにダイブを停止させます。あ、あの機械達の迎撃に向かうのであれば構いませんよ。」
それに対しヒマリはすらすらと状況を伝え、ふと外を見やる。ガラス張りから見えるはタワーの最低限の機能を残して光の消えた暗闇都市の暗闇に蠢く、keyが追従者と呼んだ球体から複数の機械の触手を生やし、何処かクラゲを彷彿とさせる気色悪い機械の群れ。
「・・・どうにも、途中で離脱してしまったエンジニア部の皆さんがあの機械達の迎撃に一役買ってくれているみたいですね。アバンギャルド君mk2・・・如何にもリオらしい名前と言った所でしょうか。」
だが、タワーの入り口は指示を受けて急行したC&Cが塞いでおり、更にはユウカとノアによって再び通信に復帰したヴェリタスの面々がオペレートを取っている為まず抜かれる事は無い。それに都市内にはリオのAMASの軍勢が残っており、所々でAMASと追従者達で衝突が起こっている。
「・・・どういう意味かしら。」
「さぁ、どういう意味でしょうね?」
アリスの精神世界へダイブと言う一山を超えた事により、元の仲の悪さからか口論を始めそうになっているリオとヒマリからすっと視線を逸らしたイサネは、追従者迎撃の為の準備を始める。
「
戦闘で何処かへ消えてしまったアサルトライフルを諦め、イサネは己が愛銃ことquid est paxを左手に持ってすたすたと歩き出す。
「ネル。貴方のサブマシンガン2丁、借りて良い?起きてるでしょう?」
向かった先は床に仰向けで横たわる小柄なメイド服を着た生徒――C&Cの部長にしてミレニアム最強の個人戦力こと美甘ネルだ。先程アリスの愛銃こと【光の剣:スーパーノヴァ】による砲撃を零距離で受けてしまい、今の今まで満身創痍で意識を手放していた。
「・・・どうせあたしは動けねぇし、好きにすりゃ良い・・・が、あたしの、それも銃を借りて戦場に出るんだ。負けて帰ってくるなんて許さねぇぞ・・・」
だが、流石は靭帯を切った状態でかつ通常の10倍という重力下の中で平然と戦闘をやってのける異常なまでのタフネスとガッツを見せたネル、レールガンの砲撃が直撃したにも関わらず意識の覚醒は早かった様だ。
「ははっ、やられる訳ないでしょあんな数押ししか能の無い連中に。まぁ任せておけって。」
ネルの脅しにも近い約束を笑い飛ばしながら、イサネは床に落ちていたネルの愛銃【ツイン・ドラゴン】を拾い上げる。イサネによるレールガンの攻撃によりツインドラゴンのトレードマークの一種である2丁を繋ぐ鎖こそ引き千切れているものの、黒を基調としたペイントの銃身に刻まれた黄金の龍はその超常的なまでの力を象徴するかの如くモニターの光を反射して輝いている。
「畜生、まだ体動かねぇ・・・頼んだぞ・・・」
「はいはい、すぐ帰って来ますよっと。」
ツインドラゴンの一丁を右腰に、もう一丁を右手に持ったイサネは全身をレールガンから発射された弾体と衝撃波によって切り刻まれた体を必死に動かそうとして呻くネルを横目にエレベーターの方へと歩き出す。
「あなたの事ですから気に掛ける必要もないでしょうが・・・お気を付けて。」
「りょーかいりょーかい。精々この行き場の無い闘争心をあの烏合の衆に吐き散らしてくるよ。」
ヒマリの言葉を適当に流し、イサネは最上階に到着したエレベーターに乗る。行先を最上階に設定し、扉を閉じる。そして上昇を始めたエレベーターの中で、静かに戦闘態勢を取り直す。
待つこと10秒弱、エレベーター内に緩く掛かっていた重力が消える。次いでポーンという音と共に開いた扉から、イサネは屋上の床に一歩踏み出す。
「初めて見た時には既に壊れてたから何とも言えないけど、ゲーム開発部とヴェリタスという戦闘経験の少ない生徒らでも撃破出来る程度なら正直どうにでもなりそうなのが印象なんだよなぁ。」
エリドゥ各地に現れた追従者達の戦闘能力の憶測をぼやきながら、イサネはツインドラゴンの残弾と予備マガジンを確認すると、ぐっと姿勢を低く構える。コジマ粒子を操作し、PAとして展開。次いですぐにPAに回すコジマ粒子の量を削り、その分を全てチャージ。
「では・・・」
声と共にチャージ。AMSを通じてネクストのブースターを操作する感覚。そして1秒弱の充填の後、逐次解放。ネクストの標準機能であるオーバードブーストだ。
「ふ・・・ッ!!」
直後、イサネの
タワーの高さは高層ビル群が立ち並ぶエリドゥを遠くから見てもはっきりと超常が見える程であり、少なく見積もったとしても100mは下らない。そんな超高層建築物の屋上からパラシュート等の衝撃対策無しで飛び降りるなぞ自殺行為以外の何物でもないのだが、現在進行形でかっ飛んでいる
「向かい風ぇぇええーーッ!!」
裏返った声を上げながら、これまでの速度を落としたOBとは訳が違う正真正銘ネクストが用いるOB本来の速度である1000km/h強でほぼ垂直、ぎりぎり斜め下の角度を以て地面へ、追従者ひしめく敵地へと一直線に突き進む。
「着地はAAを無理矢理合わせれば良いとして・・・だぁもう考えるの止めだぁッ!!」
謎のハイテンションのままOBに加えQBも併用し、音をぶち抜き風を切り裂き一直線に追従者の群れに突き進むイサネ。QB時は時速2000kmに迫ろうとしている為地面との激突も近い。だが、ふと思い出す。
――ネクストで上下逆さまになった事、無くない?
「・・・そう言えば、上下逆さまになった時ってどうすれば良いんだっけ?姿勢制御はどうするのかって、セレンはその辺なんて言ってたっけ・・・?」
ネクストだけでなくノーマルも含めたAC全般に言える事なのだが、重力影響下で機動するACが事故以外で上下逆さまになる事態はまず起こらない。そして事故になった時というのは大体制御不能状態でもある為、例外的な要素として除外出来る。
――つまり、
事故以外の要素で上下が逆さまになった時の対処法など超々高級ACことネクストのパイロットであるリンクスですら対処法は曖昧だ。イサネとて例外では無い。ましてや自分から逆さまになりに行った時の対処法など
―――しかし、一度始まった加速は止まらない。
「不味いッ!た、助け―――うあああぁぁぁぁーーッ!!」
孤独な空中に、一人のお馬鹿な脳筋の至極自業自得な悲鳴が風に消えた。
意識が回想から帰還する。
「ふ、我ながら良くもまぁあんな馬鹿な真似が出来たね本当に。普通にOBの上昇推力だけを少しづつ落としていけば良いだけの話を、本当に何であんな馬鹿な真似を・・・」
時間にして僅か数瞬、数分の回想を終えたイサネは目の前に広がる気味の悪い機械の群れへ向けて更に地を駆ける足を速める。
「ははっ、数さえいればどうにでもなるってか?舐めた理論だ。」
都市の至る所にひしめくクラゲ型機械に改めて吐き捨てると、左手に握った
「神だか何だか知らないけど、文字通り数だけでどうにかなる時代は終わった。高慢に妄言を語るのは良いけど、変化の無い時代遅れにしがみ付いていると消し炭にされるぞ?」
踏み込みと同時に左腕を機械共に向け、握った大得物の引き金を引く。
――閃光。
減音器の無い対物ライフルの銃声すら掻き消すコジマ粒子の爆音が辺りに響き渡り、極太の翠緑がイサネの正面に居た機械達を飲み込む。
その圧倒的な破壊力に頑丈な金属で出来ている要塞都市エリドゥの地面が何かの冗談の様に抉り取られ、更に衝撃波が下に埋まっていたパイプや電線を地面から掘り起こし、千切り吹き飛ばす。
「次。」
そんな破壊を前にイサネは気にも留めず、ツインドラゴンの片割れを握ったままの右手でquid est paxのコッキングレバーを引き、空の薬莢を排出する。コッキングを終えると、ネクストがブースターを吹かして地面を滑る様に移動する所謂ブースト移動やブーストダッシュと呼ばれる移動方法に切り替える。
そこから更にQBにより超加速。機械達のセンサーの認識すらも置いてきぼりにして、イサネは右手に持ったサブマシンガンを掃射する。本来の持ち主とは異なる手によって放たれた銃弾はこれも普段とは異なる翠緑を纏っており、ものの数発で気味の悪いクラゲ型機械の装甲を撃ち抜く。
「この脆さと数・・・有澤のグレネードが欲しくなるな。」
QBを多用するというこれまで幾度となくこなしてきたネクストの強みを存分に活かした戦い方。同じネクストのFCSですらその速度にロックオンが追い付かなくなるという速度を一切抑える事無く狭いビル群の間を飛び回り、一方的な蹂躙劇を演じる。
イサネの右手に握られたサブマシンガンが火を吐く度に数機のクラゲ型機械が力無く地面に転がり、左手に持つ対物ライフルが翠緑の奔流を吐き出す度に数十機が無残な残骸に姿を変える。機械達から放たれる紫のエネルギー弾の弾幕など張ったPAにすらも掠らない完全に一方的で、天敵という言葉が何よりも相応しい頂点捕食者の戦い。生きる為ではなく、愉悦の為だけに弱者を無惨に弄り回す無慈悲な狩り。
『イサネー!聞こえてるかしら!?』
その中0と1の境で彷徨う闘争心を辛うじて保ちながら、傍から見れば蹂躙という言葉が何よりも相応しい戦闘を繰り広げていると、周囲のスピーカーからユウカとノアの声が響く。
「うぉっとなんだうるさいな。そんな大声出さなくても聞こえてるよユウカ、ノア。」
『通信状況は問題無さそうですね。イサネちゃん、そっちは大丈夫そうですかー?』
「こいつら弱過ぎてびっくりするくらい楽しくない。」
『・・・大丈夫そうですね。えーと、連絡網を統一したいので戦闘はそのままにエンジニア部の皆さんと一度合流してくれませんか?こちらの通信が登録されている無線機を渡しますので。因みにですがエンジニア部の皆さんはイサネさんから見て左手の500m程先に居ます。』
継いだノアの指示に「はーい。」と返事を返し、PAに回していたコジマ粒子を全てチャージ。近距離以遠ではよく目を凝して辛うじて見えるほど薄い翠緑の膜が強く色を帯び始め、光を放つ。
「じゃあ移動を始める。AAによる通信障害には気を付けてねー。」
恐らくエンジニア部とイサネ両方のオペレートを執っていると思われるユウカとノアに軽く警告を投げた後、チャージしたコジマ粒子を解放。近寄るもの全てを塵の如く吹き飛ばす特定のブースターに設計されているネクストの追加機能、アサルトアーマー。
『ちょっと!?そういう事はもっと早く言いなさ―――』
『あら――』
イサネを中心として球状に解放された翠緑の光は、轟音と共に周囲に居たクラゲ型機械だけでなく地面から高さ10m程に設置されていたスピーカー、硬材で建てられているビルの一角を飲み込み、その全ての存在を翠緑の光の元に消し去る。
「・・・備え付けの通信機器まで壊しちゃったか?」
スピーカーの破壊と共にAAの光と轟音に消されたユウカとノアの声に若干思考を巡らせるも、全てがもう手遅れ。翠緑の閃光と衝撃波が去った後に残っていたのは金属製の床が紙屑の様に剥げ、また建物の基盤となる最下層を大きく削られた事で今にも倒壊しようとしている高層ビルと運良くAAの範囲外に居た事で被害を受けなかった機械達。
「・・・まぁ気にしたら負けか、先を急ごう。」
一瞬視野を巡らせ、ここがもうじき現在進行形で倒壊し始めている高層ビルの下敷きになる事を理解したイサネは即座にQBを発動。ノアの指示にあった左手に向かえという言葉に従って左手に伸びている道路へと突っ込む。
そしてその十数秒後、AA跡には基盤を吹き飛ばされた高さ十数mにも及ぶビルが3つ程落下し、その一帯に残っていた機械達を金属製のおせんべいに変えた。
「ったく、なぁんで要塞都市ってありながらこんな高層ビルが多いんだよ!市街戦なんて数でゴリ押ししかしないこいつら相手じゃ何の効果も無いだろうが!無人ネクストに
移動を始めたイサネは自らが放ったAAによって起きた二次被害が機械達に降り注いでいる事など気付きもせず、高層ビルがひしめき合うエリドゥの構造に知る人じゃないと伝わらない悪態を吐き散らしながらも至って順調に機械達の殲滅。ついでにエンジニア部との合流を目指していた。
対物ライフルをハーネスベルトに引っ掛け、両手に今は亡きネルの形見――ではなく一時的に本人から借りた二丁一艇のサブマシンガンこと【ツイン・ドラゴン】を握り、所謂壁走りでビルのガラス壁を踏み砕きながら、下にひしめく機械達に向けて掃射を行う。
「くそったれが、本当にどうなってんだこの都市は・・・うん?あそこに居るのは・・・アバンギャルド君か?色々と改造されているけど・・・」
コジマ粒子を纏った9mm口径の銃弾の雨は下で壁を走るイサネを撃ち落とさんと光弾を撃つ機械群に容赦なく降り注ぎ、その雨を浴びた機械に風穴を空ける。
そんな中、イサネは丁度大通りで戦車の様にキャタピラで機械達を轢き、4本腕にそれぞれ装備した少し特異とも取れる形状の銃火器を乱射しているアバンギャルド君らしきロボットの姿を認める。どうやら誰かが修理と改造を加えた様だ。
「あっ、エンジニア部の皆あそこ乗ってるじゃん。見失う前に合流するか、なら・・・」
更にはそのアバンギャルド君のキャタピラ部分に乗ってそれぞれの愛銃を振るうエンジニア部の面々を見つける。予測を立てるまでも無いだろうがアバンギャルド君を修理・改造したのは彼女達だろう。イサネはすぐさま壁を蹴って跳躍。再びコジマ粒子をチャージし、オーバードブースト。
「っすぅー・・・ウタハ!ヒビキ!コトリぃッ!!聞こえるなら返事しろぉッ!!そこら一帯を今から吹っ飛ばすぞッ!!!」
薄れゆくPAで空気抵抗による減速と向かい風を踏み倒し、大きく息を吸ったイサネは今出せる限りの声量を以てエンジニア部に呼び掛ける。
「ッ!?この声、イサネか!?」
強化人間の肺活量から発せられる咆哮はものの百数mという普通の人ならまずちゃんと言葉が聞き取れなくなるであろう距離を難無く通り抜け、ウタハだけでなくヒビキやコトリの耳にもその言葉の意味をはっきりと伝える。
「どうやらイサネがここいらを吹っ飛ばすらしい。コトリ!今すぐここから離脱だ!」
「了解です!アバンギャルド君mk2、最大出力で移動開始!」
ウタハの指示に頷きを返すと、コトリは懐から取り出したタブレットを操作する。どうやら声は届いていたらしい。あの図体からは想像も付かない程の加速力を以て距離を取り始めただいぶ簡略化されたデザインのタンク型ネクストかタンク型ハイエンドノーマルの様なロボットとエンジニア部を確認したイサネは、タワーの最上階で先生率いるC&Cとゲーム開発部を相手にした時に見せた人サイズで汚染すら引き起こせそうな量のコジマ粒子を生成する。ヘイローを形作る翠緑の粒子の対流は加速し、体中からコジマ粒子を放出。瞳のライムグリーンが輝きを放つ。
「初めてこの力を使った時から気になっていた事ではあるけど・・・やってみるか。」
戦闘による精神の異常な昂揚をトリガーに発露するこの状態。普段一射撃つだけでもそれなりの疲労感に襲われるコジマキャノンもどきをノーリスクで撃ち、ただでさえ高い身体能力をさらなる領域に引き上げる放出量上限解放とも呼べるこの状態。
(廃墟の時、私の体はほぼ精神だけで生き永らえていた様な状態だったと思う。だというのに何故、キヴォトスで目覚めてからは不自由なく動けるのかが分からない。それに生身でコジマ粒子の生成と操作が出来るという意味不明な力も。)
何故この強化状態とも言えるものが発現したのか、そもそも何故人の身で機械が作り出した粒子を生成・操作出来るのかとイサネ自身この能力について自分の事ながら解決の手がかりすら無いままの疑問が渦を巻いている。
(ただ、それでも使える手札である事には変わりない。それもキヴォトスにおいてもかなり強力な。・・・だからこそ、代償を踏み倒してでも境界線を探る意義はある。)
が、それでもこれらの能力は迂闊に
「機械であるネクストならこんな真似は出来ないが・・・ッ!ノアの完全記憶能力の様に、アスナの超常の第六感と幸運の様にッ!これが人である私に宿った力ならッ!!」
何かを確信する様に、未知の中に何かを見出す様に、イサネは吼える。確かに未だ人の身で機械から生まれた力を扱う事が出来るのかは分からない。たが、人の身で使える以上機械と違って明確に決められた上限というものは存在しない筈だ。
「限界の一つや二つ、越えられるだろ、ぉ・・・ッ!!」
OBで加速しているにも関わらず、イサネを覆うPAの光は強くなる。OBの原理上をOB起動すればPAの減衰は避けられない事であり、それは生身でコジマ粒子を扱えるようになったイサネとて例外ではない。だが、今のイサネの体を包む翠緑は薄まる気配が無い。どころかその輝きを増し、イサネの姿を覆い隠す。更に速度を上げ、つい今程までアバンギャルド君mk2が居た場所――クラゲ型機械の群れのど真ん中に翠緑の光球となって突っ込む。
「ぅ・・・うおぉぉぁぁああああーーーッ!!!」
一匹の獣の咆哮が大気をびりびりと震わせる。
一つ。未知に拓いた可能性を示す様に、その線引きを踏み越える。
そしてそれに呼応する様に、少女から放たれた翠緑の光が辺り一帯を越えて飲み込む。
「は?え、ちょ、待って部長。あの光、全然こっちにまで届いて――」
「うーん、目算になりますが推定サイズは大体100m弱はあるでしょうか!それに対し私達の避難距離は凡そ30mと言った所ですね・・・え?さんじゅ――」
「急いでアバンギャルド君の陰に隠れるんだ。完全な退避は間にあわ――」
・・・想定したここら一帯を遥かに遥かに上回る範囲に当然エンジニア部も巻き込まれる。
―――天敵
二つの世界でそう呼ばれた一匹の獣の咆哮が、理不尽なまでの暴力となって荒れ狂う。
純然たる力を象徴するかの如く、翠緑の光は自らの威容に呑み込んだものを一切の例外なく引き千切り、すり潰す。
時間にして数秒にも満たない。しかし、それだけで十分――否、過剰だった。衝撃波の余波が最寄りの外縁部に設置された監視カメラにまで及んだ翠緑の光が消えると、そこにあったのは直径にして100m少し、深さ2mは下らないクレーター。更にはAAに巻き込んだビルの上層階の物と思わしき残骸が周囲に降り注ぎ、そこだけ電子の光が煌く要塞都市に似合わぬ光景を生み出している。
圧巻とも異常とも言える光景。その中心に、たった数瞬でここまでの破壊を齎した張本人は居た。
「はぁッ・・・はぁッ・・・ぐっ・・・」
張本人――標根イサネはクレーターの中心で全身に冷や汗を流して片膝をつき、肩で息をしていた。灰銀色の長髪から覗く美しくも機械の如き無機質さを感じさせる顔立ちは明らかに不調時特有の青さを帯びている。
(確かに代償は覚悟していた・・・コジマキャノンもどきの時の様な疲労感の重い奴だろうと。だが、何故、何故
碌に力が入らない左足を必死に抑えつけ、今にも胃酸をぶちまけそうになる吐き気を口の中で堰き止めながら、イサネは焦った思考を回す。
(確かに代償は受け入れるか踏み倒すとは決めている。だが、よりにもよって何故これなんだ。これらの症状は本当に訳が違う・・・特に今は!)
コトリの目算にして直径100mという全高が10m幾つのネクストが使うAAに匹敵せんばかりの範囲を全高1.6mの人の身で焼き払ったイサネ。幾らコジマ粒子が生成出来るとは言え明らかに体のサイズと規模が合っていないそれを無茶と無謀を承諾する事で成し遂げた。
「はっ、はっ・・・ぐ、ぅ・・・うぉえぇっ!!」
しかし、そんな無茶を押し通したイサネに課された代償は、かつて自らを最期まで蝕み続けた苦痛だった。当時と比べ症状こそまだ軽いものの、それでも耳鳴りを始めとして左足の麻痺、吐き気と倦怠感、視界の左側を中心とした視力の低下と完全にコジマ汚染によって自身の身に起きた症状と同じだ。
(これと言いコジマキャノンもどきを撃った時と言い一度に大量のコジマ粒子を消費するとコジマ粒子の枯渇か大量消費だかで体に反動が返ってくる事は確定した。けど・・・まさか
抑えても抑えても湧き上がる吐き気に打ち負かされ、激しくえずきながらもイサネは辛うじて身を起こし、反動が身体を襲った際に取り落とした借り物の
「ったく、前世じゃコジマ粒子に殺された様なものなのに、今やそのコジマ粒子が無いと生命活動が出来ないなんてね。本当に世の中は摩訶不思議だ。ははは・・・」
皮肉を零しながら立ち上がり、未だ喉に残る吐き気と全身に圧し掛かる倦怠感を無視してサブマシンガンを構える。相変わらず鼓膜は耳鳴りばかりを聴覚に訴えるが、気にしない。耳鳴り越しでもエンジニア部の部員達の声が彼女らの生存と無事を伝える。
「ははっ、
ハーネスベルトにまだ
「・・・エンジニア部との合流が優先だな。ノアとユウカが言っていた無線機が生きてると良いんだけど。」
クレーターの中心から、若干まだ感覚の鈍い左足を引きずって移動を始める。幸い自らの命を危険に晒して放ったAAにより追従者ことクラゲ型の機械達はまだ遠い。一歩一歩着実にクレーターの坂を登って行く。
「おーい!イサネさーん、大丈夫ですかー!?」
するとクレーターの外側からコトリの元気な声が鼓膜を叩き、同時にウタハヒビキコトリのエンジニア部の三人が縁から姿を現す。彼女らの背後には傷だらけのアバンギャルド君mk2が控えており、左右の腕一本ずつを失いながらも未だ正常に稼働している様だ。
「おーい!ここだ、聞こえるかー!?」
「あっ、居ました!部長、イサネさん居ましたよ!」
「あぁ、意外と元気そう・・・いや、顔が真っ青だね。」
「それに加えて左足も引き摺ってるみたいだし、担架なんてあったっけ?」
コトリの呼び掛けに至って平然を装って応えるイサネに対し、ウタハとヒビキはイサネの不調に気付き、すぐさま駆け寄ってくる。
「凄まじく顔色が悪いが、大丈夫か?それに加え引き摺っている左足にも何かあったのかい?」
「大丈夫・・・じゃない。が、不調は理解の上。左足ももうじき感覚が完全に戻る。だから余ってる無線機ちょうだい。C&Cとヒマリの後輩が入り口を守ってくれてるから、こっちは遊撃として動く。作戦時間は先生とゲーム開発部が眠り姫を叩き起こすまで。」
駆け寄ってきたウタハはすぐさまイサネの体の調子を心配するが、不調を承知の上で戦うと返したイサネに渋い顔をせざるを得ない。
「だが、いくら君と言えどその状態で未知の敵と戦わせるのは余り気が進まないな。一帯の掃討と助勢をしてくれたのはありがたいが、無茶だけはして欲しくない。」
無茶をすればその分だけ知り合いや友人に心配を掛け、無茶の結果何か傷を負えばその分だけ友人達が悲しい顔をする事くらいイサネだって分かる。そして何よりキヴォトスの生徒達は皆一様に仲間想いだ。そんな人達の前で無茶なぞしようものならどうなるかなんて火を見なくても分かる。
「私の体の不調くらい私が一番理解してる。」
だが、それでもイサネは戦う事を選ぶ。自らの不調を言い訳と断じ、斬り捨てる。
「自分の事だ、それくらい言葉で説明されるよりも理解している。ただ、私はそれらすべてを承知の上で戦うだけの事。無茶でも無謀でも何でもない。何があっても私は絶対に退かない。」
例え今皆の周りを囲い込む機械達が烏合の衆だったとしても、戦端が開かれている以上イサネに撤退や退くという選択肢は存在し得ない。
「・・・それ程の覚悟という訳か。」
吐き気と倦怠感を跳ね除ける為か、自らの意志を押し通す為か、気迫を纏いながら物を言うイサネの圧に思わずたじろぐウタハ。
「というか、そもそも私の中に戦闘中の撤退っていう選択肢は無いから。戦闘が始まる前なら状況に応じて避ける選択も取るけど。」
「いくら何でも脳筋過ぎないか?それは。」
「脳筋?あぁ脳味噌が筋肉のみで構成されてる、もしくは力業一筋の考え無しって事かな。まぁ否定はしないけど、それでも戦闘中に策とか罠くらいは巡らせるから。」
「そういう事を言ってるんじゃないだが。」
圧に押されたウタハに追い打つ様に、若干ずれた事を言いながらコトリの持っていた無線機をすっと抜き取ったイサネはそれをハーネスにしっかりと固定する。
「まぁ私の不調とかそんなどうでも良い事は気にするな。貴方達が今為すべき事はアリスを救う事でしょう?お互いやるべきをやろうよ。」
吐き気と倦怠感を闘争心で振り払い、体中に闘争心と殺意を満たす。大放出によって極限まで薄れたコジマ粒子を急速に生成し、放出を再開する。
「安心して、今のAAで大体の境界線は分かった。抑え際は間違えないさ。」
「・・・本当に無理はしないでくれよ?君が傷つけばそれだけで悲しむ人は居るんだから。それと折角改良したアバンギャルド君mk2をこれ以上巻き込むなら本当に勘弁して欲しいんだが。」
「流石に大丈夫でしょそれは。・・・多分きっと恐らく。」
いつまでも心配の声を掛け続けるウタハを適当に流し、イサネは無線の調子を確認。武器を握り直して歩き始める。
「ユウカ?合流出来たよ。聞こえるー?」
『合流出来たのね!?さっき凄い爆発が観測されたから心配したんだけど・・・』
無線機に声を掛けると、ユウカの声がはっきりと聞こえてくる。どうやらAAによる被害は運良く免れた様だ。イサネは無線に「指示あったら頂戴」とだけ伝えると、
「じゃ、ウタハ、ヒビキにコトリも。最後まで頑張ろうねー。」
と手を振りながらクラゲ型機械達に向かってずんずん進んで行く。そんな彼女を見送りながら、ウタハは口を開く。
「・・・では、私達も行こうか。彼女に主力を半壊させられたが。」
「ぱっと見だけど、兵装の二つが完全に逝ってる。損害で言うならアリスのレールガンの大体半分弱が鉄屑になったって所かな。」
「アリスさんのレールガン、光の剣:スーパーノヴァの開発費が後期予算の約70%。なのでその三分の一という事は・・・大体私達に割り当てられた予算の9割が吹っ飛んだ事になりますね!・・・えぇっ!?9割!?」
・・・エンジニア部の苦難はまだまだ続く。
「コトリの目算にして直径100mという全高が10m幾つのネクストが使うAAに匹敵せんばかりの範囲」
についてですが、acfa攻略サイトに乗っていたアサルトアーマーの範囲の数値をmと推測し、そこから適当に値を設定しました。正直違う気しかしないのですが正確な範囲が分からなかったので誰か正確な範囲が分かる方が居ましたら「確か○○mだったよ」と教えて下さると幸いです。