透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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ただでさえ低モチベで進みが悪かったのに、GWに体調を崩してしまったせいで更に進行が遅くなってしまいました。

文章が全く思い浮かばないよぉ...



Who are you? And what do you want to be?

 

 

 

 

 

 

撃つ。

 

 

 

ひたすらに撃つ。

 

 

 

 

撃って撃って撃ち続ける。

 

 

『イサネちゃん、そこから見て右斜め後方。敵正反応多数です♪』

 

 

「んー。」

 

 

オペレートに導かれながら、目の前にひしめくクラゲの様な機械に向かってひたすら撃ち続ける。

 

「最後はそこか。」

 

『お見事です。今のでイサネちゃんの居るセクションにいる敵正反応は全て撃破しました。タワー入口の防衛も至って順調ですし、行先はイサネちゃんにお任せしますね?』

 

「なら取り敢えずタワー近辺に戻って撃ち漏らしの掃討でもしておこうかな。何らかの拍子に紛れ込む奴が居るかもしれない。」

 

『ふふっ、分かりました。では先に近辺の状況をチェックしますね・・・』

 

オペレートの声――セミナー書記、生塩ノアと短い会話をしながら、気味悪いクラゲの様な機械がうろつく近未来都市を少女――標根イサネが一人疾走する。

 

(大分体調が安定してきた。そろそろまたコジマ粒子を使っても良いんだが・・・どうしようか。)

 

近未来的な高層ビル群の間に敷かれた道路を駆け抜けながら、イサネは思考する。

 

(普段の状態でのコジマ粒子の生成量からして体内に保持したコジマ粒子が枯渇したとしても、再びコジマ粒子の操作が可能になるまではそう時間は掛からない筈。・・・あくまでも推測だし、体調は最悪なままだろうけど。)

 

そう、それはつい数分前の話。ネクストという機械には出来なかった限界値を超えた無茶振りを思考時間僅か数秒未満で実行し、その反動で死にかけた時の話。

 

『イサネちゃん。現在位置はタワーから半径200mの地点、周囲に敵性反応はありません。』

 

そして今は反動で死にかけたその後。合流したエンジニア部から無線機を受け取り(すり取ったとも言える)、ノアのオペレートを受けながらエリドゥ全域に湧いた追従者なる機械群を駆逐すべく駆け回っている。

 

「タワーからその距離感を保って一周しよう。それで敵性反応が認められなかったらこっちから攻めに行く。」

 

『分かりました。ではそのまま道なりに進んでください。次に400m先にある大通りを左です。』

 

限界まで出力を上げたAAの反動による吐き気や倦怠感、左足の麻痺といった症状が完全に消えた事を何度も何度も確認しながら、ノアのナビゲートに従って一歩強く踏み込み、走り出す。

 

 

『標根イサネ。噂通り・・・いえ、それ以上とでも言えば良いのかしら?基礎的な身体能力は勿論、銃火器の扱いや戦場における判断の速さと正確さ。更には不意の接敵や相手側の奇襲すらも瞬時に回避ないしは対処行動を起こせるその反射神経・・・彼女、本当に何者なのかしら?』

 

 

コジマ粒子を用いた移動方法程では無いにしろ、それでもかなりの速度で道路を走っていると、ふともう一つの無線からリオの声が聞こえてくる。発言からしてどうやらイサネの戦闘能力について論じている様だ。軽く溜息を吐き、無線に声を掛ける。

 

「・・・ただの傭兵バイトだよ。ただちょっと腕っぷしが良いだけの。」

 

『貴方の戦闘能力はただちょっと腕が良いで済ませられるレベルの話ではないわ。幾ら名も無き神々の追従者の個々の力が低いとしても、あれだけの数を一方的に、そしてあそこまで早く殲滅出来るのは普通じゃないわ。』

 

だが、イサネの戦闘を観測していたリオにその言い訳は通じなかった。化物と対話している様な雰囲気を無線越しに感じたイサネは、それは心外だと言い返す。

 

「私が異常ならネルはなんなのさ。あのタフさはどう考えても異常でしょ。少なくとも薬物で痛覚制御を弄ってないと立ってられない程には重症なんだけど?」

 

『・・・ネルは元から多少の負傷は気にも留めずに動く事が出来るわ。今回の負傷度合いで動くのは私も始めてだけど、それでも痛い時は痛いとちゃんと言えるわ。他にもアビ・エシュフの未来予測システムに手も足も出なかった辺り彼女はれっきとした人間よ。』

 

だが、そんな反論もリオ持つ美甘ネルのこれまでのデータに基づいた明確な理由により敢え無く斬り捨てられる。どころか――

 

「じゃあ私は人間じゃないって事ですかぁ?私心臓動いてますけど?栄養補給とかしないとちゃんと衰弱死しますけどぉ?」

 

『・・・これまでの貴方の言動を鑑みると、限りなく人間に近い何かの方がまだ納得出来るわ。特にあの翠緑の光の粒子。ちゃんと分析した訳じゃないけれど、あれは重金属粒子の類でしょう?人の身でそんな代物を扱える時点で既に普通からは逸脱しているわ。』

 

本人すら原理を理解していない人の身でコジマ粒子を扱えるという特異性を理由に少なくとも普通の人間ではない事が結論付けられてしまう。・・・尤も、リンクスである時点でまず普通の人間ではないのだが。

 

 

「くそ・・・どいつもこいつも寄ってたかって化物だの怪物だの破壊神だの言いやがって。ノアもあの合理馬鹿に言ってやってよ!標根イサネは普通の人間ですって!」

 

 

理論面で完全に論破されてしまったイサネは、半ばやけくそでノアに助けを・・・ではなく同調を求める。だが――

 

 

『うーん、私はイサネちゃんの事を大事な友人だと思っていますが、確かにラーメンや炒飯と言った極々一般的な料理や常識にとても疎いというのは少し変わっているなとは感じましたね。』

 

 

―――誰が言ったか言葉のパイルバンカー。

 

 

「がはっ!」

 

 

ノアの悪意無き事実提示という名の特殊合金杭により、イサネの心に風穴が空く。自分が強化人間という普通の人間ではない事に思う所など無かったイサネだったが、ここまで執拗につつかれるとそうもいかない様だ。強烈極まった言葉の一撃に走る足までもが止まってしまう。

 

だが、周りから見て標根イサネが普通の人間では無い事を周囲に知らしめたのは他でもないイサネ自身であり、この結果は好き放題に振るった力に伴う責任と代償が漸く自身に降りかかっただけとも言えるだろう。そもそもの話、銃火器による銃撃戦が普通のキヴォトスにおいて企業という一勢力を単独で破滅させている時点でその実力が日の目を浴びないという事はまずあり得ないのだ。要するに言ってしまえばただの自業自得、因果応報である。

 

「く・・・だ、だがまぁいいさ。あの時みたいに必死に足掻いた果ての結果が企業連中から要らない釘を刺されないだけここは本当に楽―――」

 

『あの時・・・?』

 

「・・・喋り過ぎた。今のは内密に。」

 

とはいえ、この狂人にとって力に伴う代償など元より興味も無ければ目を向ける事も無かった事。今更指摘された所で踏み倒す以外の手段など知りもしないし、出来たとしても力に潰された敗者の遠吠えを嘲笑うのが彼女に出来る精々だろう。敵に向ける慰めや発破の言葉など、標根イサネ、ひいてはイレーネの生きてきた人生の中には存在しなかった。

 

『左に曲がりましたね。ではそこから次の次にある十字路をを左です。敵性反応は・・・タワーの入り口に居る極少数を除くと北部側に反応多数、かなりの規模です。』

 

「了解。このまま攻撃に向かう。エンジニア部の方は大丈夫?」

 

故に空いた心の風穴の修復も早い。ノアの指示に頷いたイサネは先程までの傷心度合いが嘘の様に普段の調子を取り戻す。

 

『アバンギャルド君mk2の腕が左右一本ずつ吹き飛ばされてしまったが依然何の問題もない!そっちと比べて敵が減る気配は無いが、武装が二つでも十分にやってくれている。ユウカのサポートもばっちりさ。』

 

「なら良かった。少しでも危ないと思ったらすぐに連絡してね。そのアバンなんとかだって損傷してるんだから。」

 

『・・・その損傷、100%の割合で君の攻撃のせいなんだが。』

 

「・・・」

 

次いでエンジニア部とも安否の確認をしたイサネは、次いだウタハの正論を無視してエンジニア部との無線を切り、走り出す。

 

『改修が入っているとはいえ、アバンギャルド君の装甲にあそこまでの損壊を与えるなんて。一体あの粒子にどれだけのエネルギーが・・・?』

 

「まともに運用しようとしたら確実にキヴォトスが汚染されるから絶対やらないでねー?」

 

イサネの扱うコジマ粒子に興味を示し始めたリオに釘を刺しながら、コジマ粒子を操作。走力の勢いを乗せて壁を蹴り、宙に飛ぶ。そのままネクストで言う所のブースト移動に移る。ブースターの炎の代わりに翠緑に輝くコジマ粒子を撒き散らしながら、イサネは更に加速する。

 

時速にして100kmに迫らんばかりの速度で飛翔しながら、ビル群をすいすいと飛び回る。更には方向転換にビルの壁面を蹴るなどして推力を保持、瞬く間にノアの示した敵性反応がある地点へと急行する。

 

 

「・・・あれか。」

 

 

そして地上から高さ5m程を飛翔する事1分と数秒。ビル群の隙間から見えたクラゲ型機械の群れを見つける。そして遅れること数瞬、無線からも敵性反応に関する情報が聞こえてくる。

 

『もう見えているかもしれませんが、敵性反応はイサネちゃんからビル一つ挟んだ先です。数は・・・全部で31体ですね。今の所それ以外確認されていませんが、全て同型です。』

 

「今隙間から見えた。このまま上から奇襲しよう。あの程度の数ならすぐに片付く。」

 

的確に情報を述べるノアに奇襲の宣言を返しながら、イサネはビルとビルの1m少しの隙間に迷いなく突っ込む。

 

 

「分捕った後こいつを弄り回しただけはある、数発程度なら故障もしないか。なら・・・っ!」

 

 

ブーストを切り、ビル壁を駆けながらイサネは自身の左手に持ったツインドラゴンの片割れを空いているアサルトライフルのホルスターに突っ込み、代わりにハーネスの背中側に保持したイサネの愛銃quid est paxのグリップを握る。

 

『あの速度で幅1m少ししかないビルの隙間を?一体どんな原理で・・・?』

 

リオの驚愕を余所に、ビルの隙間を抜けたイサネはグリップを握るだけだった己が愛銃を背中から抜く。そしてすぐにコジマ粒子をチャージ、照準をすぐ下に群がるクラゲ型機械に向ける。

 

 

「壊れろ・・・ッ!」

 

 

底から絞り出す様な呻き声と共に愛銃の引き金を引く。刹那、対物ライフルに良く見られる大型のマズルブレーキが火と翠緑を吐き出し、同時に14.5mm×114mmの銃弾がコジマ粒子を纏って射出される。

 

『命中ですね♪』

 

一発に纏わせるには過剰な量のコジマ粒子を纏った銃弾はそのまま機械群の内の一体に命中。同時に纏わせていたコジマ粒子が解放され、周囲を地面諸共吹き飛ばす。

 

「っく・・・!無茶した後に無茶はするものじゃないな・・・」

 

エンジニア部達と合流した時と比べて敵が満員電車の様に密集していた訳ではなかったが、それでも場に居た機械群の三分の一程は吹き飛ばしただろう。だが、イサネにもまた軽い倦怠感と吐き気が襲い掛かる。

 

(自身の限界を越えたコジマ粒子の使用というのはネクストで言う所の・・・あれか、ラインアークで見たホワイト・グリントの再起動みたいな奇跡や超常的な~ってのに近いものか。)

 

幸い症状はまだ軽い。イサネは飛行を終わらせ、落下の際に感じる下からの向かい風で倦怠感を吐き気を振り払い、地面に降り立つ。

 

『その場に居る敵性反応、あと22です。あなたの実力でしたらそう苦戦する事も無いでしょうが、それでも囲まれた上での集中砲火を受ける事だけは避けてください。』

 

「突っ込み過ぎなければ大丈夫。」

 

ノアの警告を改めて心に刻み直し、目の前に居る機械達を見据えると、すぐさま突撃を仕掛ける。右手に握ったMPXを掃射し、左手に握った対物ライフルの銃口を一体目掛けて突き込む。

 

「やっぱり全体的に動きが鈍い・・・ケイもアリスも意識が表層に無い影響だろうね。」

 

叩き込んだ対物ライフルの銃口がクラゲ型機械の本体をぶち抜くのを手応えでか確認すると、左腕を大きく右へ振る。ぶぅんという音が聞こえてきそうな程の勢いで振るわれた左手に持っていた対物ライフルもまたその動きに従い、また銃口が本体らしき箇所に突き刺さる形でくっ付いていた機械もまた機械触手を鞭の様にしならせながら振り回され、投げ飛ばされる。

 

MPXの掃射により3体、対物ライフルを振るって1体。イサネはすぐさま左右に握った銃のリロードとコッキングを終わらせると、反撃とばかりに飛んでくる紫の光弾を視線を動かす事無く躱す。

 

(いや違うな、機能不全の時に良くある動きの不自然さが無い。・・・とすれば見ているのか、keyとかいうAIが。恐らくはこいつらを通して。・・・少し、ちょっかいでも掛けてみるか?外れだとしても壊す事には変わりないし。)

 

自身に向けて飛翔する光弾を体を傾ける事で全て躱し切ったイサネは即座に右手に持ったツインドラゴンの片割れを正面に居る3体に向け、引き金を引く。勿論イサネが撃った数発の9mm弾はその全てが命中。狙い通り三体のクラゲ型機械の中心を破壊する。

 

 

「さて・・・見えてるかな?先生とアリス。後は・・・出来損ないのAIさん?」

 

 

だが、ここでイサネは攻撃を止め、言語なんて通じない筈の機械達に声を掛ける。

 

『イサネちゃん?一体何を・・・』

 

「まぁちょっと待て、すぐ終わるから。」

 

敵を目の前にして攻撃を止めるという行動を取ったイサネに思わず疑問の声を上げるノア。だが、イサネはノアの問い掛けを軽くいなすと、そのまま物言わぬ筈の機械達に向けて、

 

 

 

「聞こえているか?天童アリス。見えているか?出来損ないのAI。」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「アリスは・・・」

 

 

 

それは、紛う事無き本人の意思による回答だった。

 

 

 

「・・・アリスは、帰れません。」

 

 

 

天童アリスを構築するデータの深層領域に隔離されててしまったアリスの精神を連れ戻す為、タワーにあるダイブ設備を用いて彼女の精神世界にダイブしたゲーム開発部と先生。眼を開いた先に広がる見覚えのある廃墟の光景に驚くままに足を進め、辿り着いた先にあったのはあの時と同じ様に、苔むした玉座に座るアリス。

 

 

――と、彼女の傍に控えていたもう一人のアリス、key。

 

 

「エリドゥの監視網から見てきた光景。それら全て、あなた達がこの場に足を踏み入れる前に戦い、転び、傷付いてきた光景です。」

 

 

彼女が言う通り、ここが精神世界なのか宙に浮かぶ様にして投影された光景はまさしくこれまで先生やゲーム開発部を始めとしてC&Cやエンジニア部、ヴェリタスと言ったミレニアムでも著名な部活が天童アリスをリオから取り戻す為に彼女の配下達と激戦を繰り広げている様子だった。

 

トキ操るアビ・エシュフによって戦闘不能にまで追い込まれ、アバンギャルド君によってゲーム開発部とエンジニア部が大苦戦を強いられた。更にはタワー最上階で交戦したイサネに至っては無理を押したネルが完全に撃破され、あまつさえ先生すらも彼女の凶刃に斃れかけた。

 

 

―――何故この様な事が起きてしまったのか・・・その答えを、王女は既にご存知なのでは無いでしょうか?

 

 

keyは投影された光景に圧倒される一同を余所にアリスに回答を促し、その結果がこれだ。アリス自身、直接的にも間接的にも大切な友人達が自分のせいで傷付いている事を理解しているからこその選択なのだろう。

 

「アリスが皆の傍に居たら、皆はその分傷付いてしまいます。」

 

「アリスちゃん、違う!そうじゃないよ!」

 

「ミドリの言う通りだよ。アリスちゃん、私達はそんな事・・・」

 

ミドリとユズがアリスの発言を否定するが、自罰意識に飲み込まれているアリスに対しては焼け石に水と言った所で、何の効果も無い。

 

「ミドリ、ユズ・・・でも、アリスのせいで皆が怪我をしてしまいました。それにモモイも・・・ミドリもユズも・・・ネル先輩も。」

 

そして今、keyが見せてくれた様に先生一行がエリドゥ各地で死闘を繰り広げる中、アリスもまたその様子を見せられていたのだろう。

 

 

「アリスは・・・勇者ではなく、魔王ですから。」

 

 

かつての憧れを諦める様に、無地で無情な現実を受け入れる様にアリスは告げる。

 

「いつか・・・いつか世界を、キヴォトスを滅ぼすかもしれない魔王として・・・生まれた、から・・・」

 

しかし、その声色からは己に定められたであろう運命と負わねばならないであろう責務を受け入れ切れていない事が容易に見て取れる。

 

「世界を滅ぼす・・・そんな魔王が、皆の傍に・・・居ては・・・いけません。」

 

自らを世界を壊す魔王だと認め、また世界の為に自らの存在を否定しようとするアリスは最早半泣きであり、声も震えていた。

 

「大切な人が、苦しんで傷付くのなら・・・いっそ、アリスは―――」

 

静かに半泣き声で話し続け、一区切り。そして――

 

 

 

「アリスは、このまま消えるのが正しいのです。」

 

 

 

その小さな体に、不相応な悲壮の覚悟を告げる。

 

 

「・・・」

 

 

「・・・!」

 

 

場に沈黙が流れる。keyもまた、その沈黙に口を挟まない。

 

 

「違う・・・!」

 

 

――否。

 

 

「テイルズ・サガ・クロニクル2は・・・ッ!」

 

 

一人、重苦しい沈黙に反旗を翻す。

 

 

 

「私達が一緒に作ったゲームはッ!特別賞を貰ったよ!!」

 

 

 

はっとする。数週間前の記憶が蘇る。ゲーム開発部という部活の存続の為助けて欲しいという依頼とも言えない頼みから始まり、神ゲーを作る秘訣の本ことG.bibleを探す為の廃墟探索、そして発見したG.bible解析する為にセミナーとC&Cを相手に鏡というハッキングツールを巡る戦い。

 

そしてその全てが空振りに終わった後、他でもないアリスの励ましによって一から望みを勝ち取ったテイルズ・サガ・クロニクル2。

 

「も、モモイ・・・?」

 

「キヴォトスの終焉だとか、アリスが居るだけで皆が傷付くとか、誰がそんな馬鹿みたいな事言ってるの!?」

 

呆気にとられる一同を気にも留めず、反旗を翻した一人――モモイは力強く叫ぶ。

 

「アリスに出会えたから、アリスが居たから!私達はゲームを作れて!ミレニアムプライスで賞も貰えて!部活を守る事が出来たんだよ!」

 

廃部の危機に陥ったゲーム開発部が今も残っている理由。ミレニアムプライスで特別賞という前例の無い特例を生み出し、そしてミレニアム外の多くのゲームプレイヤーにもその影響を与え続けているヒット作を生み出した切っ掛け。

 

「うん、そうだよ。」

 

「・・・うん!」

 

G.bibleの中身がただ普遍的な一文だけだった事実を知ったあの時、ゲーム開発部一同の心は間違いなく折れていた。もう終わりだと、G.bible無しに神ゲーは作れないと。

 

 

――いいえ、否定します。

 

 

だが、アリスはそれを否定した。諦めるにはまだ早いと、周囲に狂気のクソゲーと言われ続けた初代テイルズ・サガ・クロニクルを肯定し、絶望に暮れる一同の心を奮い立たせた。そう、先生でも、他の誰でもない天童アリスが。

 

「そうだね、あれはアリスが居たからこそ出来た事だよ。仮にもしアリスが居なかったら、今のゲーム開発部は無かったと思うんだ。」

 

先生もまた、モモイの言葉を強く肯定する。

 

「部活を守れた事も、ゲームを作って一緒に遊んだ事も!ただ怖い先輩だったネル先輩と一緒にゲームをする中になれたのも!全部、ぜーんぶアリスが居てくれたからだよ!!」

 

「モモイ・・・?」

 

困惑に近い反応を見せるアリスだが、元よりアリスには何の責任も咎も存在しない。ただそうだから、そういう風に生まれたからと、ただ押し付けられた白紙の原罪と未来を狭めた性悪説。

 

「私達にとって、アリスは皆を繋いでくれた勇者だよ!世界を滅ぼす魔王だとか、生まれついた定めだとか、そんなのどうでも良いの!ましてや初めから魔王だっただけで消えなきゃいけないなんて、それこそ意味分かんない!そんな適当、誰が納得するもんか!!」

 

「うん。生まれてきた事が罪だなんて、そんなの絶対おかしい。」

 

「そんな理由で、大事な人が消えるのを・・・放ってなんか、おけないよ・・・」

 

天童アリスという機械仕掛けの少女は、停滞の最中にあったゲーム開発部に間違いなく光と切っ掛けをもたらしたのだ。それに比べリオが一方的に論じた出所も不明な原罪なぞ、彼女らからすれば比較対象にも値しない些細な妄想でしかなかった。それは今こうしてアリスの中に眠っていた脅威の因子が覚醒した今でも何ら変わる事は無い。

 

「な・・・何故、ですか?・・・皆、どうして・・・あ、アリスは・・・魔王、なのに・・・アリスのせいで、皆怪我をしたのに・・・」

 

アリスは理解が追い付かない。これまでプレイしてきたゲームの中の描写でも、魔王やモンスターといった所謂敵キャラに分類されるキャラクターが人の住む村などに入ってきた時には、村人達は皆一様に「何だあの化け物は」と指を指し、恐怖していた。

 

「なのに、皆・・・アリスを怖がったり、憎んだりしないで・・・」

 

そしてそれらゲームにおいて、大切な人や村を魔物や魔王なる存在によって奪われた者達は皆口を揃えてこう言うのだ、「あいつが憎い」「怖くて怖くてたまらない」と。

 

「だって、アリスちゃんは・・・」

 

しかし、果たしてそれは今のアリスには当て嵌まるのだろうか。ただ純粋にゲームで盛り上がり、無垢なままに周りと接し、無邪気に笑う小さな少女は、本当に魔王なのだろうか。本人すらも知らない内側に破壊の因子を宿していただけで。

 

 

「私達の仲間(友達)だから・・・!」

 

 

答えは恐らく否だろう。内にナニカを宿していた程度で崩れる信頼なら、そもそもこんな事態には発展していない。

 

「この前、アリスちゃんが言ってくれた事があったよね?どんなゲームでも、主人公達は決して仲間を諦めないって。」

 

「例えアリスが魔王だったとしても、そんなの関係無いよ!魔王だって勇者だって、そんなのはジョブに過ぎない!自分が誰なのか、それは自分自身で決めるものだよ!」

 

主人公は仲間を諦めないとミドリは言ったが、この物語の主人公が誰かなど、この場に居る者にとっては細事でしかないというのはゲーム開発部共通の認識だ。

 

「そう、結局どこまで行っても、勇者とか魔王とかって言うのは職業・・・ゲームで言えばジョブやクラスでしかない。アリス、なりたいものは自分で選択するのがプレイヤーだよ。戦士、騎士、魔法使い、僧侶・・・勿論勇者だって、なりたいと思ったものになれば良いんだ。生まれながらの運命に縛られる必要は無いんだよ。だから―――」

 

この世に生きる一人一人は皆自分の人生があり、主人公であるなんて言葉の通り、自分が何者になるかを決めるのは自分しか居ない。どんな手を使ったとしても、最終決定権を誰かに渡す事は出来ないし、誰かの決定権を奪う事なんて出来やしない。例え強制であれ脅迫であれ、それに従うか否かを最後に決める事が出来るのは自分だけだ。

 

 

「だから、アリスの本心を聞かせて欲しいな。」

 

 

故に先生は問う。天童アリスは、何になりたいのか。

 

 

「・・・アリスは。」

 

 

数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開くアリス。

 

 

「アリスは、魔王・・・なのに・・・世界を、滅ぼしてしまう・・・のに・・・」

 

 

ここまで言って尚、アリスは自分が魔王である事を引き摺っている。

 

 

「・・・なのに、それでも・・・アリスは・・・」

 

 

引き摺っていると同時に迷ってもいる様だ。まぁ無理もない。何の前触れもなく友達を撃ち、更には周りに居た知り合いも傷付け、その果てには自分を巡ってこうして大激戦にまで事が発展したのだ。後ろめたさなどそう簡単には消えないだろう。

 

 

「そんなのでも、良いんですか・・・?」

 

 

故に迷う。故に躊躇う。アリスの口が止まる。言葉が詰まる。再び沈黙が場に流れ―――

 

 

 

『聞こえているか?天童アリス。見えているか?出来損ないのAI。』

 

 

――霧散

 

 

消えた筈の外の光景が、ノイズと共に一同の前に一枚のスクリーンとなって現れる。聞き慣れた声が、沈黙を殺して響き渡る。

 

「この声は・・・!?」

 

アリスだけでなくゲーム開発部や先生、そしてkeyまでもが突然の闖入者に驚愕する。スクリーンに映ったのは背中程までに綺麗に垂らした灰銀色の長髪。そして見る者に機械の様な無機質さを感じさせながらも万人の目線を引き付ける美麗に整った顔立ち。そしてこちらを見据えるライムグリーンの瞳。そう、標根イサネだ。

 

「イサネ・・・!?どうやってここを・・・」

 

「干渉元の特定・・・タワー北方に居る追従者?・・・理解不能。いくら視界を共有しているとは言え、外からの干渉など出来る筈が――」

 

突然の乱入にびっくりする先生達を余所に、大慌てでkeyが何かの確認を始めている様だが、闖入者ことイサネは気にも留めていない様だ。

 

 

『はは、粗製AIが騒いでそうだな。こっちからじゃそっちの様子なんて欠片も分からないけど。』

 

 

更にはkeyの動揺っぷりまで見事に言い当ててみせる。彼女の発言的に本当にこちらの事は見えておらず、完全にイサネの感覚や勘任せの言葉なのだろうが、それでもどんぴしゃに当ててくるのだから恐ろしい。

 

「・・・異常。状況把握が出来ていないというのに、一体何故・・・」

 

『まぁ欠陥AIには用が無いんだ。邪魔してるならさっさと死んでくれ。何ならパーツの一つでも寄越してくれない?』

 

アスナばりの勘を発揮するイサネを前にkeyに相変わらずの凄まじい罵倒を浴びせながら、イサネはアリスに話の主題を向ける。

 

『さて、天童アリス。要らないかもしれないけど、死なれると皆が悲しむらしいんで、私も少しばかり御節介を焼かせて貰おうか。・・・聞こえてるのかは知らないけど。』

 

「アリスに・・・ですか・・・?」

 

『というか聞こえてなかったらこれ本当にただシンプルに頭が狂ってる奴なんだよねぇ。聞こえててくれよ・・・?私が恥かくから。』

 

しょうもない予防線を置き、イサネは話し始める。

 

 

『薬物やってると思われたくないからさっさと言っちゃうけど・・・まず貴方が生まれ持った特性が何であれ、自分が何者であるのかは自分だけが決める事が出来る。他人が決め付ける人の正体など、所詮は他者定義のレッテルでしかない。』

 

 

支配される事を嫌い、ブラックマーケット内で何処かに所属する事無く完全に自立して傭兵業を完遂させるイサネらしい考えだ。

 

 

『リオが言っていた世界を滅ぼす力とやらも、その王女とかいうkeyの傀儡にしか聞こえない性質も、振るうかどうか、振るうならどう振るうのかは全て自分で決めるべき事だ。keyとかいうジャンクデータとか、他の誰かに決められている様では貴方もまだまだプログラムの傀儡人形。』

 

 

しかし、他の皆と違い、イサネは危険極まりないその力を振るう事を否定しない。力を用いるか否か、どのように使うかは全て自分で決めるべきだと言う。

 

 

『もし貴方が本当に世界を滅ぼし得る程の力を持っていたとしても、他人の意志のままにそれを振るっている様では、そこに貴方が貴方である意義も価値もない。』

 

 

「・・・!?」

 

 

『良い?どんなものであれ力というものは中立無色なもの。使い手次第で白にも黒にも、幾らでもその色を変える。確かAL-1Sだっけ?その中に組み込まれたその力だって同じ事。keyがその力でキヴォトスを終わらせるならそれは悪い物と捉えられ、貴方がそれを平和の為に振るうならそれ正義だと捉えられる。使い手次第だ、良くも悪くも。』

 

 

鋭利な言葉の刃が、アリスに突き刺さる。イサネのシビアな物言いが、アリスの心に覆い被さった黒い皮膜をごりごりと剥ぎ取っていく。

 

『誰かに言われるがまま、自分の意志では何もしないっていうのは人形と同じだ。自分で道を選んでこそ意味がある。自分で答えを出してこそ価値がある。従属を選択するという事すらも捨て、ただ人形の様に他人の言いなりで決めた答えなど何の意味も無い。』

 

スクリーン越しに、イサネの全てを見通さんばかりの目線が突き刺さる。

 

 

 

『全ての事例についてそうだと言うつもりは無いが・・・それでも、自分の意志で決めて、自分で為してこそ意味がある。』

 

 

 

――スクリーンに大きな亀裂が走る。

 

 

 

 

『まだ何者でもない天童アリス。お前の選択を、教えて欲しい。』

 

 

 

 

めきめきめきぃっ!と機械を潰したかの様な大きく不快音と共に、投影された光景にノイズが走り、乱雑に消える。

 

 

「・・・アリスは。」

 

 

映像が消えて数秒。再び場に訪れた沈黙を破ったのはアリスだった。彼女は小さな、しかしこの場に居る誰もが聞き取れる声で、ぼそぼそと話す。

 

 

「世界を滅ぼす魔王・・・そんな存在のアリスが、勇者として、また皆と一緒に・・・冒険を続ける。そんな選択を選んでも・・・良いんですか・・・?」

 

 

未だ自分に秘められた力に恐怖し、一歩踏み出せない様子のアリス。だが、その言葉を否定する者はkeyを除いてどこにも居ないだろう。それを聞いた先生は迷う事無くアリスの言葉を肯定する。

 

「イサネの話は少し難しくて複雑な話だったけど・・・良いんだよ、アリス。自分の意志で決めて、自分の意志で生きても。」

 

先生だけではない。モモイ、ミドリ、ユズの三人もまた、先生の意見と同じだ。

 

 

「なら・・・」

 

 

友達(仲間)に背を押され、アリスは恐る恐る自分の意志を口に出す。

 

 

「それなら、アリスは・・・アリスも勇者になって!皆と・・・」

 

 

隣でkeyが、はっとした表情でアリスを見るが、遅い。既にアリスは自分の意志を決めた。決意を固めた。本来の主が主導権を握り直した今、最早補助役のAIに出来る事など何もない。

 

 

 

「モモイ、ミドリ、ユズ・・・そして先生と、皆で一緒に、また冒険を続けたいです・・・!!」

 

 

 

―――道は拓かれた

 

 

 

「魔王であるアリスに、それが許されるのなら・・・いえ、例えそれが、誰かに否定されたとしても・・・!私は―――!!」

 

 

「うんうん!アリスがそうしたいならそれで十分!それ以外に理由なんて要らないね!」

 

 

「魔王だって、勇者になれるよ。いや、もうアリスは魔王じゃなかったね。」

 

 

「最近だと・・・そういうのもよく見かけるしね。それに、無いなら私達で作ればいいから。」

 

 

即答。待っていましたと言わんばかりに、皆アリスの意志を強く肯定する。

 

「だって私達4人は、色々な想像を形にする事が出来る・・・!」

 

「何でも作る事が出来る・・・!」

 

続けてモモイとミドリが、一歩、前に出る。そして、ユズも共に声を合わせ――

 

 

 

「「「ゲーム開発部だから!!」」」

 

 

 

―――道は定められた

 

 

 

「・・・では、アリスは・・・アリスは、勇者になりたいです。」

 

 

涙と共に、アリスは宣言する。平穏を焼き、世界を破壊する魔王ではなく、悪を浄化し、世界に光を齎す勇者になると。

 

 

――道は拓かれた、道は定められた。

 

 

アリスの宣言と同時に、一同の視界を白い閃光が灼く。数瞬の後目を開けると、先程までアリスが座っていた機械仕掛けの玉座の代わりに、一つ大きな見覚えのある砲がそこに突き刺さっていた。

 

「あれは・・・」

 

「勇者の剣・・・アリス、これ!」

 

「勇者の剣を・・・!」

 

「剣を抜くんだよ、アリスちゃん!」

 

【光の剣:スーパーノヴァ】アリスの愛銃にして数ある勇者の証の内の一つ。自らの内包する破滅の因子が露見した時に消えてしまった光の剣が再び彼女の元へと舞い戻る。

 

 

「・・・はいっ!」

 

 

声援を受け、アリスは床に突き刺さったスーパーノヴァの取っ手を強く握り、一息に引き抜く。直後、アリスの両手に収まったレールガンが待ち侘びたかの如く起動。即座にチャージを始める。

 

「王女よ、その力は・・・あなたのその能力は・・・!」

 

銃口と言うには余りにも大き過ぎるそれを向けられたkeyは、初めて明確に動揺を露わにしてアリスに呼び掛ける。

 

「あなたのその力は、世界を滅ぼす為に存在しているというのに・・・!」

 

「違います!アリスのこれは勇者の武器です!今、アリスがそう決めました!」

 

が、全てが手遅れ。

 

「それに、イサネも言っていました。力は使い方次第だと。例えアリスの力が世界を滅ぼす為にあるものだとしても、アリスがそれを世界を救う為に使えばそれは世界を救う力になるんです!」

 

「・・・ッ!!そんな例外的存在(イレギュラー)の妄言など―――!!」

 

 

――手遅れ。手遅れ。手遅れ。

 

 

演算結果は変わらない。訂正も修正も受け付けない。

 

 

 

 

「光よ―――――!!!」

 

 

 

 

砲口から溢れた光が、再び一同の視界を真っ白に染め上げる。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『エリドゥ全域に渡り敵性反応の消失を確認。』

 

 

追従者、もしくはDivi:sionと呼ばれていたクラゲ型機械の消失を告げるノアの声を無線越しに聞きながら、イサネは無数の残骸の中で一人正面に向けていたMPXの銃口を下ろす。

 

 

「・・・終わった・・・と、言って良いのかな・・・?」

 

 

最低限の明りが照らす中、改めて周囲を見回す。

 

「つい今の今まで虫みたいに群がってたのに、一瞬の内に全部消えるとは。で、その代わり残骸は残ると。」

 

見回した視界に映るは無数の残骸。亡骸。スクラップ。まるで殺人犯が残した血痕証拠の如く、凶器から垂れ落ちる被害者の血液の如く、追従者なる機械達の残骸はイサネが辿って来た道筋をありありと要塞都市に残していた。最早どれがどこの機械片とくっ付いていたのかは判別不能だ。

 

「これじゃあ研究材料にもならないか?」

 

『イサネさん、聞こえますか?ヒマリです。こちら先生とゲーム開発部の皆さんの帰還を確認しました。アリスも一緒です。』

 

正に屍山血河と言った様子の残骸達を無感情に眺めていると、無線からタワーで精神世界へのダイブの補助を行っていたヒマリが賭けの成功を告げる。イサネもまた、連戦による微かな疲労感から逃げる様に無線に応じる。

 

「状況終了って所?リオが目を張らせているから知ってるとは思うけど、こっちもあの機械群の消滅を確認した。後は?」

 

『そうですね、追従者達の消滅はこちらでも確認出来ました。一先ずタワー最上階に戻って来てくれませんか?ユウカとノアから報告は貰っていますが、改めてイサネさんとエンジニア部の安否を確認したいので。』

 

「了解した。タワー中層に置いてきた道具類を拾ってから最上階に向かう。・・・はぁ、びっくりするくらい張り合いが無かったな、こいつら。」

 

集団になっても尚相手にならなかった機械達の無残な末路の姿を荒々しく蹴り飛ばし、イサネはタワーに向かうべくコジマ粒子を用いて空へ舞い上がる。

 

「ノア、そっちは大丈夫だった?」

 

『はい、大丈夫ですよ。事故処理は皆さんがミレニアムに帰って来てからですね。こちらもこちらで急いで機材を用意したので、そろそろ片付けを始める必要はありますが。』

 

「はいよ、お疲れ。」

 

『はい、お疲れ様でした♪』

 

ノアと軽いお喋りに興じながら、イサネは空を飛び続ける。道中可能性を覆した先生達の偉業に唖然とするリオとそれを一方的に煽るヒマリとのしょうもない会話を聞き流す事数十秒後、タワー中層部――狙撃地点へと辿り着く。そして右腕を振るってガラス壁を叩き割り、中に入る。

 

「取りに行くのが面倒臭くて使わなかった予備のアサルトライフルに弾薬ケース。ハッキング用ノートパソコンに双眼鏡、諸々の音響機材・・・多くない?荷物。」

 

自分が用意させた荷物の量にぶつくさと文句を垂れながら、イサネはそれらをひょいと担いで稼働しているエレベーターへ乗り最上階へと向かう。

 

 

「戻った・・・って、何だこの無駄に語呂の良い無駄な言い争いは。」

 

 

エレベーターを出た瞬間に迎えたリオとヒマリのしょうもない痴話喧嘩に溜息を吐いたイサネは軽く周囲を見回す。すると、巨大なモニターの傍で何やらわいわいと雑談に興じていると思われるメイド服の集団――C&Cの3人を見つける。

 

「ネルー、起きてるー?」

 

目を凝らし、その三人の足元でモニターの操作盤に背を預ける形で力無く床に座るネルを見つけたイサネは迷う事無く彼女達、正確にはネルに声を掛ける。声を掛けられたネルもまた、雑談を切り上げてイサネの呼び掛けに応じる。

 

「・・・お前か。一応起きてるぞ、体中が死ぬ程痛ぇけどな。」

 

疲労とダメージのせいか声にいつもの覇気が無いが、それでも安静にしている分には問題は無さそうにも見える。

 

「何だ結構元気そうじゃん。この様子ならこいつを私に預けないで自分で迎撃に参加すればよかったのに。」

 

「あたしもそうしたかったけど体が動かねぇんだよ。主にてめぇのせいでな。」

 

「それは避けれない貴方が悪い。」

 

「尤もらしい事抜かしやがって・・・」

 

片や連戦上がりで片や重症患者同士の容赦ない口の叩き合い。お互いに一切の引け目無くコミュニケーションを取る事が出来、かつ実力においてもほぼ互角故の気兼ね無い会話のつもりなのだろうが、普通に喧嘩の売り買いにしか見えず、さしものアカネ、カリンも苦笑いと溜息を隠せない。

 

「あははっ!リーダー、すっごい痛そうなのにすっごい元気だね!」

 

「て、てめぇが最初に話を振ってきたから始まった話だろうがよ!・・・くそ、大声出すのもきちぃってのに・・・!」

 

「んー、忘れちゃった☆」

 

・・・一方のアスナはついさっきまでの真面目さが嘘のの様にフリーダムで能天気だ。

 

「これ以上ネルに喋らせるのも悪いし、はいこれ。ツインドラゴンだっけ?返却します。予備のマガジンは全部使い切ったよ。」

 

「おうよ、しかと受け取ったぜ。・・・悪ぃアカネ、ちょっと預かっておいてくんねぇか?腕に力が入らねぇ・・・」

 

一通り雰囲気が落ち着いた頃を見計らい、イサネはネルに借りていた彼女の愛銃こと【ツイン・ドラゴン】を返却する。二丁の黄金龍の紋様が刻まれたMPXを受け取ったネルだが、腕に力が入らないのですぐさまアカネに預ける。

 

「お任せください。損傷度合いも激しいので、ついでに修理にも出しておきましょう。部長の退院には間に合わせます。」

 

その様子を確認したイサネは適当に挨拶を述べると、そのまま復活した小さな勇者(天童アリス)と抱き合うゲーム開発部を温かい目で見守る先生の方へ歩いて行く。

 

「イサネ。」

 

「先生、大役お疲れ様・・・って言えば良いのかな?」

 

先に声を掛けたのは先生だった。他者の精神世界などという非現実そのものに飛び込み、眠り姫を叩き起こした挙句何の後遺症も無しに現実世界に戻ってくるという偉業も偉業を成し遂げた直後だというのに、相変わらずの信条。

 

これで生徒の為の過剰なまでの自己犠牲精神や、趣味に対する浪費癖がどうにかなれば・・・なんて思わなくもないイサネだが、他人事な上に少なくとも今は関係ない話なのでスルー。

 

「これで事は全部終わった・・・って事で良いの?」

 

「まぁそうなるかな。リオの言っていたアリスの中に宿った脅威までも解決出来たっていうのは流石に想定外だったけど、皆のお陰だよ。」

 

問い掛けに答えを返す先生だが、その返答を聞いた途端にイサネは胡乱な目付きで先生を見直す。

 

「先生はもう少し理論に対して理論で言葉を返せるようになろうね?部室でリオと口論になった時の先生の言い分聞いてたけどさ、普通に絵空事ばっかりで何の説得力も無かったよ。幾ら反論するだけの根拠が無かったとしてもね。」

 

「うぐ、何も言い返せない・・・」

 

ゲーム開発部の部室にて、リオと先生の口論を変装して聞いていたイサネだが、結果主義に寄った考え方を持つ彼女にとって先生の言い分は余りにも無理があるものだった。

 

皆で力を合わせれば、皆を信じればいつかきっとなど如何にも主人公が言いそうな言葉だが、それに裏付けされるだけの根拠や理由が無いのであればその言葉に意味はなく、ただ周りが見えていない夢遊病者の妄言にも等しい。

 

「私にこれを言う資格が無いからこれ以上は言わないけど、絵空事の押しつけと妙な浪費癖はさっさと直した方が良いとは思うよ。」

 

「なっ・・・ま、まさか、近頃当選発表の完全応募制限定プラモデルことカイテンジャーロボ・KAITEN FX VENDETTAを手に入れる為、ユウカに黙って応募した事を知って・・・ッ!?」

 

「は?」

 

・・・話の腰が捻じ曲がる。

 

vendetta。イタリア語で復讐を意味し、イレーネ(イサネ)が滅茶苦茶にしたあの世界の遥か未来にて、とある独裁者に抗うレジスタンスのリーダーが駆るACの名前にもなるそれが、何故か今お尋ね者の盗賊集団が所有するロボットのフィギュアのプレミアに付けられている。

 

「何それ。びっくりするくらい興味が湧かないんだけど。それにvendettaってイタリア語で復讐を意味するんだけど・・・どっちかと言えば復讐される側の奴らの兵器に復讐を意味する単語を付けるのはおかしいでしょ。」

 

「確かに・・・!いや創作文化にマジレスは良くない。」

 

「どういう事?」

 

だがそんな遥か未来の話、やるだけやって死んだ馬鹿(人類種の天敵)ことイサネが知る筈も無ければ興味を持つ筈も無い。セレン流教育術によりちゃっかりと多言語話者(マルチリンガル)なイサネの容赦無いツッコミの刃が、罪の無い企業努力を貶す。

 

「取り敢えずフィギュアの話は後にして・・・うん。エンジニア部の皆も戻ってきたし、これで全員かな?」

 

創作文化に疎いイサネの冷静なマジレスを何とか受け流し、エンジニア部の帰還を確認した先生は改めて周囲を見渡してエリドゥの何処かに取り残された生徒が居ないかを改めて確認する。

 

「はい、私の助手には一足先にミレニアムに戻っている様連絡しましたので、既に帰路についているかと思います。」

 

ヒマリの連絡も聞き、先生は頷く。

 

「分かった、とすれば欠員は無しかな。」

 

アリス云々からキヴォトスを巻き込みかねない大惨事寸前にまで発展した今回の一件だが、それも一段落、皆無事(二名重症、ココダイジ)に日常に戻る事が出来そうだ。

 

 

 

「皆居るね?・・・じゃあ、帰ろうか。ミレニアムに。」

 

 

 

先生の声に従い、15人の声が応の意を返す。

 

 

 

 

 






小さな勇者の冒険は、終わらない。


acfaの言語設定についてですが、企業が国家の代わりに世界を支配するようになったとは言え、言語系は変えないだろうと言う事で特に弄ってません。って言うかそこ弄ったら絶対物語が回らなくなるw

BFF語とかローゼンタール語とか出てきたら泣いちゃうぞワシ。

あ、これにて時計仕掛けの花のパヴァーヌ2章完結となります。多分。次回は後日談&ギャグ回にする予定です。イサネさんと絡みが少なかったゲーム開発部を中心とした話になるかと思います。御興味があれば一読でもして頂けると嬉しい限りです。

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