透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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まずは一か月投稿が開いた事、大変申し訳ありません。言い訳の予知も無いのがスゴククルチイ...

えー、報告の際に次回はエデン条約かビナー編にすると告知していたのですが、現在進行形でエデン条約編の構築をしている以上ビナー編の展開構築がどう考えても出来ないだろうという至極当然な解に辿り着いてしまったので、今回はぶっつけ本番で書いた完全番外編です。申し訳ない。

完全に思い付きだけで書き始めたので、本編とはほぼ何の関りもありません。強いて言うならここの首輪付きが虐殺者となった時はこんな感じだったよってくらいです。なので忘れて貰っても何の問題もありません。気楽にどうぞ。



【完全見切り発車の番外編】啓蒙の覚醒の裏に隠れた一雫の後悔

 

 

 

 

 

 

 

『・・・お前とは、もう一緒にやれんよ。』

 

 

 

歓喜と昂揚に湧く私の中で、大事な何かがぷつりと切れた様な音がした。

 

 

 

「あっははは・・・ッ!?」

 

 

 

蹂躙という言葉すら生温い。感情のあるがまま、必要以上のものをひたすらに薄氷の安寧から叩き墜としていた不可侵の筈の揺り籠揺蕩う蒼天の宙の下で。

 

 

――一瞬、極僅かな一瞬だけ機体操作の完全性が澱む。

 

 

その一瞬が今の戦場において自身の致命的な死を齎す事は無く、また戦況の推移にも一切の影響はない。リンクスにとっての一瞬など、素の人間からすれば認識すら困難な領域にあるのだから。

 

『誘ったのは俺だが、随分と冷たく振られちまったなぁ。首輪付き。』

 

短い言葉の後一方的に遮断された通信とは別の通信。揶揄う様な、同情するような口調で語るは私に()()()の存在を囁き、私がその道へと進むきっかけを寄越した反逆者集団の中の反逆者。

 

「はははッ!殺す・・・!」

 

その通信に私は応えない。応えられない。私は至って平静を装い、いつも通り共有された機体の視界とUIから情報を見極め、いつも通り思考から指示を飛ばし、いつも通り機体を動かす。

 

「遅い・・・!もっとだ、もっと速くだッ!はっはははっ!!」

 

『流石はあの白き閃光をも沈めたカラードの現ランク1、尋常じゃないな。』

 

視界に映る非行型ノーマルに自機が持つライフルを向けると同時に引き金を引く。私が乗る機体――ネクストに積まれた高性能の演算機器により命中率が100%に固定された射撃がコジマ粒子による防壁(プライマルアーマー)やAFの様な堅牢な装甲を持たないノーマルを次々に撃ち墜とす。

 

次いでそのノーマル共が必死こいて守っていたと思われる空の揺り籠こと住居用高空プラットフォームことクレイドル。その超巨大な全翼機の背部にあるエンジンに狙いを定め、一瞬で距離を詰める。

 

「ここ・・・」

 

接近と同時に私の乗るネクスト――ストレイドので右手に握られたライフルが火を噴く。基礎構造からして戦闘を考慮していないクレイドルの外壁は、ただでさえ貫通力の高いネクストの銃撃をほんの僅かにも減衰させる事が出来ず、自身の中に致命の異物を招き入れる。

 

『お前にたかるノーマルは俺がやろう。』

 

生成装置が破損しない限り理論上無尽蔵のエネルギーを持つネクストの近くで、飛行型のノーマルの編隊が超高速で飛び回る私のネクストともう一人――オールドキングの駆るネクストAC、リザをどうにかして迎撃せんとブースターの火を撒き散らしながらこちらに向かってくるが、はっきり言って邪魔にすらならない。銃撃を受けたネクストよりも大きなブースターが火を噴き、クレイドルはその飛行能力を喪失する。

 

 

『6000万。』

 

 

クレイドルのエンジンを攻撃している私を狙うノーマルの群れを風船を撃ち墜とすかの様に撃墜しながら、オールドキングはクレイドルの居住人数の概算で私達の殺人数を数え上げる。丁度今ので3機目、クレイドル03の群体は一機一機に2000万人程乗っているとの話だから丁度そんなものだろう。揺り籠があるとはいえこの高さから落ちて生き残れる人間などそう居ない。仮に生き残ったとしても、火を噴きながら墜ちる揺り籠から脱出など出来ないだろう。

 

『また墜ちたぞ!早く、早くあのネクストをどうにかしてくれぇっ!』

 

『ノーマルの防衛隊じゃ歯が立たない!それにこいつら・・・速過ぎる!』

 

傍受や混線などで聞こえてくる哀れな被害者達の悲鳴と恐怖の叫びがうるさいが、一切の無視を決め込む事で鼓膜への被害を抑える。

 

『カラードのネクストはいつ来るんだ!新しくランク1になったとかいう奴は何してんだ!』

 

はい。カラード現ランク1、ここに居ます。貴方達に銃口を向けています。・・・なんて少しばかりちょけてみたところでやる事は変わらない。これは敵わぬと助けを叫んだ守備隊のAC乗りも、クレイドルの管制室の中から恐怖の絶叫を撒き散らすどこぞの誰かも、皆等しく殺して焼いて地に墜とす。相手の守備隊なんてのは名ばかりで、所詮は実戦経験の無い自称精鋭部隊。私にとってはどれも次元が低すぎる。

 

『いつまでも自分達が平和と安寧の中に居ると思い込むこと程、愚かしい事はない。リンクス戦争も、今回の企業間戦争も、宇宙(可能性)を他者阻害の為だけに覆い尽くした企業連が犯した大罪の隠蔽事業でしかないのさ。』

 

隠蔽事業とは良く言ったものだ。私が生まれる前起きた現在のクレイドル体制の切っ掛け。そして私の今を作り出す事となった切っ掛け。前者は私の恩人から聞いた話でしかないが、どちらも結果的に生き残った側の企業が幾ばくかの人的資源を代償に更なる権力とその源を手に入れたに終わった。反企業勢力も結局は企業によって潰され、空で暮らす人々には平和を平穏を、企業達は罪過の隠蔽という安寧を齎しただけに終わった。

 

「空を・・・私の空を・・・」

 

クリックブーストの終わり際、左腕に装備した大型レーザーブレードこと07-MOONLIGHTを振るう事ですれ違ったノーマルを上下に両断しつつ、未だ空を飛び続ける揺り籠(クレイドル)に機体を向ける。

 

「受信機・・・機体中央・・・」

 

びきり。と走った極僅かな違和感を無視し、私は狙いを定めた揺り籠の少し上の方から強襲。加速しながら右手に握った01-HITMAN(マシンガン)、右背部に装備したHLC02-SIRIUS(ハイレーザーキャノン)、そして左背部に装備したMP-O200(散布型ミサイル)の全ての砲塔をクレイドルの中心部に向けて撃つ。

 

勿論ゆっくりと決められた軌道上を飛行する事しか出来ないクレイドルにこれらの一斉射撃を回避する事など出来ない。ライフルから火を噴いて撃ち出された銃弾が、右背部から構えられた砲から放たれた極光が、左背部からばら撒かれた火の群れが全て狙い通りに中心部に命中。地上から送られてくる電力受信装置を外壁ごと焼き尽す。

 

『8000万。』

 

不可侵空域の為ネクストは来ない。交戦など論外な空域の為増援も無い。つまりはいつの間にか私の中に生まれていた闘争心を満たす事も無い。中央部が大爆発を起こし、そのまま真っ二つに圧し折れるというその死に様を一瞥もせず、私は機体を翻す。極限の一線が地平水平にすら見えないの(ネクストやAFが来ないの)なら、その戦闘に私の戦いの満足を満たせる悦はない。

 

「・・・ネクストは来ないのね。ははは、面白くもない。」

 

『ネクストのクレイドルが飛行する空域への進入を禁止したのは他でもないこいつらだ。いくら攻撃されているとはいえすぐに急行させる事はまず不可能だ。数か月前に占拠したクレイドル21の時もそうだった。・・・ま、お前さんに全て台無しにされたがね。』

 

自分の中で何かの熱が冷めていくのを感じながら最後の巨影を探さんとレーダーに意識を向けていると、生きたまま落下するクレイドルから投げ出された人達が何とか手を繋ぎ合って輪を形成したり両手を合わせて恐らく神に祈ったりなど必死の努力をしている様が視界に見える。恐らく空中分解したクレイドルの破片からタイミングよく投げ出されたのだろう。それに数十数百人規模で大きな輪を作った状態で水面に落ちる事さえできれば、極々僅かながら生き残る者が出る可能性はあるだろう。・・・本当に僅かだが。

 

「ははっ、この超高空でそんな事しても生き残れる訳ないだろ。それにそもそもの話誰の目の前でそんな事してると思ってるんだ。」

 

だが、それは今この状況がクレイドルの事故等で犯人無く墜落を始めた場合での話。クレイドル墜落の原因は間違いなく私達だし、その私の目的が人類種の絶滅と定まった以上この際のたった一人の生き残る可能性も残す事は許さない。

 

機体を反転させ、宙に投げ出された奴らに対して微加速状態の機体を当てたり、レーザーブレード(07-MOONLIGHT)で焼き消したりと確実に一つ一つ命を摘んでいく。高空故の空気抵抗で凄い顔になっている名前も知らない誰か達が何か叫んでいる様にも見えるが、私の知った事ではない。お前らのエゴの為に青い空は穢されたんだ、そんなお前らに死ぬ以外の道がどこにある。

 

『おい、これが終わった後ちゃんと機体の消臭やっとけよ?人の死臭はどうしようもなく臭ぇからな。消臭剤は用意しといてやる。格納庫で俺のリザにまで血と内臓の匂いがこびり付いちゃ堪ったもんじゃないぜ。』

 

「え、どうせこの環境じゃすぐ消えるでしょ。それに10m級の機動兵器の消臭ってどうやるの?」

 

『やり様はいくらでもある。人の死臭だから完全消臭には時間は要るが、どのみち時間が掛かる道のりだ。今後の方針の検討と歓迎会の合間にやれば割とすぐに終わる。』

 

人に限らず死骸全般例外なく臭いものだというのは実体験で知っている事だが、これほどの環境下でも消えない可能性があるというのは流石に予想外だった。・・・なんてやり取りをしつつ5機あったクレイドルの内の最も高空に位置する最後の一機をレーダーで認識。機体を加速させる。

 

「じゃあ最後の一機も早く墜とさないとね。歓迎会には興味ないけど、貴方とのオーダーマッチは結構面白かったから。」

 

『・・・一部特権階級でなければ見る事も叶わない様な高級な酒や食い物よりもオーダーマッチと闘争か。トップランカーにまともな奴は居ないのかね。』

 

仮想環境内であれどORCA旅団の中でも上位の実力を持つオールドキングとのオーダーマッチ。はっきり言って今この時点でもう口角が上がるくらいは楽しみで仕方ない。防衛隊のノーマルも全て撃墜し、既にこの場ですべき事は一つだけ。後に確定した楽しみを前に昂る己が闘争本能のままに機体を加速し、クレイドル03最後のクレイドルに向けて突き進む。

 

 

――そして

 

 

「汚れのない空を返せ・・・害虫共・・・ッ!!」

 

 

怨念と共にAMSに送信するはAA――アサルトアーマーと呼ばれるオーバードブースターの追加機構の発動指示。脳内のイメージというか感覚としてはコジマ粒子の色である翠緑の薄い膜の光を一点に集中させ、全方位に解放するイメージ。

 

『くくく、大盤振る舞いだな。』

 

一直線にクレイドルに向けて直進(オーバードブースト)し、その慣性のままAAをチャージし始めた私を見てオールドキングは愉快に笑う。・・・だから何だという話ではあるのだが。

 

自機を包み込む第一の防壁がエネルギー源(コジマ粒子)を充填させ、1秒以下後、外側全方位にそれを解放する。周囲に居た者は勿論、AAを発動した私の視界も白く灼き上げられ、同時に翠緑の衝撃波がその範囲に巻き込んだものを消し飛ばしていく。

 

「エンジン停止。これで最後。」

 

エネルギー源を受信するクレイドル中心部で炸裂したAAは外壁を泡の様に引き千切り、内部にあった受信機関を外壁同様に塵に変えていく。つい今しがたと同様に中心部に甚大な被害を被ったクレイドルは中心構造が一瞬で脱落。中央を起点に居住区を構成する左右の巨翼が真っ二つに割れ、推力を失った黒い巨翼が重力の檻に囚われていく。

 

 

『1億!!』

 

 

最後の一機の中央部が爆発すると同時に、オールドキングが高らかに殺人数を謳い上げる。私の思惑はともかく、どうせこの先幾億単位で人を殺すのだ。その度にこの調子では流石に疲れてしまうのではないだろうかと、彼の様子を見て思わなくもない。

 

『終わったか。・・・まだまだ腐る程居るがな。面倒だが、先は長いぜ、相棒。』

 

「相棒・・・ねぇ。」

 

オールドキングは私の事を相棒と呼んだ。確かに相棒と呼ばれる程誰かに信頼を置かれるのは物理的にも精神的にもそう悪くないが、今はとにかく帰還を優先せねばならない。幾らここがネクストの進入が禁止されている空域とはいえ、ちんたらしていてはいずれカラード属のリンクスがすっ飛んでくる。急ぐに越した事はない。

 

 

「レーダーに反応なし。さて、帰ろう。セレ―――」

 

 

ぴしり。

 

 

いつも通り。依頼を終えて帰還すべくオペレーターに帰還を宣言する普段のルーティン。今回も無事に依頼を終えた。だから()()()()()()私のオペレーターであり師匠であり恩人であるセレンに声を掛けようとして。

 

 

「・・・あ・・・?」

 

 

『首輪付き、お前さっきこっぴどく振られたばかりだぜ。忘れたか?』

 

 

ぴきり。

 

 

オールドキングの声がやけに遠くに聞こえる。AMSでネクストと繋がっている以上ネクスト同士の通信で声が遠くなるなんて事は有り得ないのだが。それに振られたというのは―――

 

 

 

―――『お前とは、もう一緒にやれんよ。』

 

 

 

ばきり。

 

 

 

記憶の蓋が抉じ開く。数分前に一方的に告げられた後途切れ、それ以降何も音を発する事のないとある通信回線。今回に限り聞こえない安堵の感情が籠った労いと戒めの言葉。

 

 

「あ。」

 

 

即席のパンドラが底を覗かせる。平静を装い、普段通りを装う事で意識のベールの奥に仕舞い込んでいた現実が露わになる。

 

 

――居ない。正確には居なくなった。

 

 

「い、ない・・・」

 

 

自分で選んだ道。行き着いた答えに付随するであろう確定された未来と離別。

 

 

「ぅ・・・あ、あぁ・・・」

 

 

恩人を通さずに私の元に届いた彼の依頼を受諾する時に想定し、受け入れた筈ではなかったのか。見て見ぬ振り、忘れた振りをしていた感情の濁流が激情となって私を貫き、そして咆える。

 

 

「あは・・・っ。」

 

 

同時にもう一つの昏い何かが濁流に真っ向から衝突し、暗く暗く燃え上がる。何時しか私に根差した、極限の先を覗かんと戦いの度に昂揚を躍らせる狂気の闘争心とかつて私の心を灼いたあの澱みなき青を汚し続ける人類への際限無き憤怒と慟哭。

 

『どうした?何か見つけたか?』

 

「はは、はっはは・・・っ!」

 

隣で機体を空域から離脱させようとしていたオールドキングが私に何事かを言っているが、よく聞き取れない。いや、聞き取れていたとしても、今の私を滅多刺しにする激情と昂揚が言葉の理解を頑として拒むだろう。

 

 

セレン・ヘイズ(私の大切な人)が居ない。

 

 

今を生きる為だけにただ人の廃棄物を漁り、極々僅かなおこぼれを必死に啜る私を、その世界しか知らなかった私を連れ出し、人として生きるという事を教えてくれたあの人が。

 

私に才があると見込み、力を与えてくれただけでなく恩返しの機会までも用意してくれた私の命よりも大事な人が。

 

私の生きる原動力。あの人の為なら命だって迷いなく投げ出せる。狂信だと思われるかもしれないが、私にそれだけの意味を与えてくれたあの人が。

 

 

「はははッ!?はは・・・は・・・う、ぅあぁぁ・・・」

 

 

遠くに行ってしまった。淡泊な言葉だけを私の耳に残して。

 

 

今自分が恩人との別離に泣いているのか、それとも人類絶滅への一歩を踏み出した事による際限無き殺意に笑っているのかさえも良く分からない。だが、今自分の頬に伝う生暖かい水滴――涙を流していることだけは唯一理解出来る。

 

 

『大丈夫か?』

 

 

「うぁ、ぁ・・・はは、っははは・・・だ・・・大、丈夫、じゃ・・・ない・・・」

 

 

新たに僚機兼相棒となったオールドキングとの最初のミッション。クレイドル03襲撃の依頼の完了からオールドキング率いる反体制勢力リリアナの秘匿基地に帰還するまでの間、私が彼の通信に返した言葉は記録ではこれが最後だったというのは帰還後の彼の証言だ。

 

『今度のランク1様は精神的に不安定過ぎる。せめて帰投まで持って欲しいんだがね。』

 

呆れた様な、諦めた様なオールドキングの言葉など既に耳にも入らない。生存本能からか、それともセレンの教え故か、こんな精神状態でも本能的に機体を操作しつつ帰投ルートを飛んでいる事はほぼ奇跡に近いと言ってもいい。

 

「はっ、はっ、はっ・・・!あぁ・・・ッ!ぃや、いやだ・・・置いて行かないで・・・!」

 

自分から別離の道を選んだ事など既に頭には微塵も残っていない。コックピットの中で、ただただ別れに情緒を乱し続ける今の私は体だけ大人の幼児だと言われても反論はないだろう。自分でその道を選んだくせに、進んだらそうなると分かっていたくせに、ただただ無様としか言い様がない。

 

「どこ・・・!?どこに・・・?っあ・・・ははっ!あっははははは・・・っ!」

 

AMSにより視界はネクストと共有されている筈なのに、私の視界は殆どが黒に埋め尽くされ、外の景色を何も映し出さない。私の心を灼いた空を穢す人類を殺す昏い喜びも、今の私には何の慰めにもなりはしない。

 

「ははは・・・っはははは・・・ぅ、うぁぁ・・・っ!」

 

ほぼ本能、条件反射で機体を制御しながら、自身の中で暴れ回る二つの感情が責め立てるままに理性が外れた空笑いと吐き出す様な嗚咽をひたすらに繰り返す。

 

もう二度と会えないと分かっていて、次の邂逅があるとするならそれが銃口を向け合う状況になると理解していて。

 

「はっ、はっ、はっ・・・」

 

乱された情緒に引っ張られる様に荒く息を吐き、閉じていたらしい瞳を見開いて上を見る。ネクストに搭載された各センサーが取得した周囲の情報が、AMSを通じて私の視界に投射される。

 

 

「あ・・・」

 

 

雲の上、ただただ青いあの大空。私の心を灼いた、澱みなき青。

 

 

 

「はっはは・・・そうだ、そうだったな。」

 

 

 

今程までの狂乱が何かの冗談の様に、私の心が綺麗さっぱり薙がれていく。直接見た者の目を物理的に焼く恒星こと太陽の極光が、太陽光が地球の大気と衝突する事で発生するレイリー散乱によって生み出される青が、乱れ澱んだ思考を一点に収束させる。

 

 

 

―――空を。

 

 

 

あの青を穢す輩を一人残らず消し去る。自分含め一切の例外もなく。そう決めたじゃないか。そう辿り着いたではないか。彼が私に内密に出したこの依頼を読んだ時に、その答えに思い至ってしまった時に。

 

 

「あは、ははッ!ははははははははッ!!だから一人残らず殺さないとなぁッ!?」

 

 

地上から約7000mの高さを巡行するクレイドル群の中で最も多くの人口を有するクレイドル03。その雄大な巨翼群が存在していた空域で、一匹の獣が人類を一方的に駆逐する天敵としての産声を上げる。

 

「微かな可能性だって、しっかりと絶たないとねぇぇーーッ!!」

 

『あ・・・?おい、まさか?』

 

湧き上がった炎に従い、帰還ルートに乗せていた機体を迷う事無く反転。オーバードブーストを起動し、巨翼の残骸が舞う空域へと音の壁を突き破る。

 

 

「あははははっ!」

 

 

超加速により揺れる視界を気にも留めず、私はストレイドに左腕部に装備した大型レーザーブレード、07-MOONLIGHTこと通称「月光」を起動。共有された視界に映る全てを眦が引き千切れんばかりに見開いた目で凝視し、未だ運良く生き残り宙を舞う生存者を徹底的に洗い出す。

 

 

 

「死にやがれ害虫共ッ!!あぁーっはっはっはっはっはっはッ!!」

 

 

 

視界に映った僅かな黒い点目掛けて機体を向け、発振器より形成される長大な光刃を慣性のままに振るう。

 

一瞬。電刃が一閃され、光刃の軌道上に居た極僅かな生存者が光刃を境に昇華する。最後の断末魔すら誰の耳にも残らない。

 

 

そして私は機体を翻さずにクイックブースト。そのまま月光の攻撃角の外かつ機体の近くに居た生存者に音の壁を突き破る速度で突っ込む。クイックブーストの最中で高度を調整し、脚部の非関節部に当てる。

 

機体重量10t越えの金属塊を音速越えの速度で当てられた生存者は何が起きたかを認知する事も無く肉片となり、その肉片すらもストレイドのブースターから発せられる爆炎により瞬く間に塵と化して消えていく。

 

 

「ははっ!はははッ!!はぁーっはっはっはっははははははッ!!」

 

 

人の営みの残骸が舞う中空で、私は嗤う。何が繁栄だ、何が存亡だ、何が・・・何が人類だ。これだけの青を、絶対的な不可侵を汚してなお平然と繁栄を謳う人類など、皆一様に消えてしまえばいい。誰が何を言おうと、これが私の辿り着いた答え(for answer)だ。

 

そうして目に見える範囲の生存者を粗方轢き潰した後、改めて機体を帰還ルートの方向に翻す。だが、激情は未だ収まらない。

 

 

「はっははははッ!!奪われるのなら、奪う前に殺さないとなぁぁッ!特に人類はッ!!あははっ、ははッ!あっはははははッ!?」

 

 

本能が叫ぶままに任せ、咆える。

 

 

口角が上に向いて尚頬伝う涙の感覚はもう分からない。まぁどうせ枯れるか消える涙だ、気に留める必要性も無い。

 

 

首輪は外れた、飼い主は去った。そして答えは定まった。ならばもう迷う事も逡巡する事も無い。

 

 

 

「はははっ、あは、ははははは・・・!!」

 

 

 

獣の咆哮の如き狂笑を携え、オーバードブーストを起動。巡行速度で先に帰投中のリザをも追い抜き、音速のままに空を駆け抜ける。

 

 

 

 

―――頬には未だ、雫が伝うまま。

 

 

 

 

これはリンクス戦争という戦後を終え、国家解体戦争から波打ち始めた二度目の黎明を終えた世界で、一人の少女が最悪にして理から外れた例外としての産声を上げた時の話。

 

 

 

全ては幻想。

 

 

 

 

全ては衰退の物語。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

閉じていた眼を開ける。

 

 

「随分とまぁ、直近の記憶を・・・」

 

 

恩人と共同で済んでいた自宅よりも慣れ親しんだコックピットシートに預けていた背を起こし、力無く太ももの上に投げ出していた両手を握って、開く。

 

「左手の開きが・・・鈍い。」

 

最近、嗅覚の欠落に加えどうにも左手や左足の反応や力の入りが鈍い。一般人なら病院に行くくらいで気にも留めないであろう僅かな違和感。何ならAMSにより操縦桿を握らずともネクストを問題無く操縦できるのだが、普段のスタイルが崩れるというのはまた中々脳のリソースを削られる。

 

 

クレイドル03襲撃、その後企業連からの釣り依頼でアルテリア施設カーパルスで企業連の最大戦力との激突。その後収まる事のない闘争心のままクレイドル06を破壊してから今は大体一週間くらい・・・だろうか。正直常日頃から襲撃や奇襲を警戒しているせいで今がいつの何時なのかの時間感覚が狂い始めている。

 

「よし、準備OK。」

 

そしてオールドキング亡き後も律儀に私の支援をしてくれるリリアナの為無茶な襲撃が出来ない今、私は愛機であるストレイドのコックピットの中で録画用のビデオカメラを起動している。

 

所謂遺言と呼ばれるものを撮ろうとしている。ネクストを動かせず、何か新たな体験がある訳でもない。そんな気紛れでもいいからこの暇な時間を如何にして潰すかを考えた結果が遺言の撮影という訳だ。・・・我ながら意味不明な行動選択だとは思っている。

 

「地獄から、あの二人の様子が見れると良いな。」

 

姿勢を正し、カメラの録画を始める。こんなものを撮った所でネクストの破壊と共に消えてしまえばだれの目にも触れないだろうし、仮に触れたとしても企業の技術部門の人間が精々だろう。そんな事を考えながら、私は口を開く。

 

 

「・・・この動画が再生されているという事は、恐らく私はその答えを成就出来ず、道半ばで斃れたんでしょう。」

 

 

思い付くままに出た言葉をカメラに向けて喋りながら、生きているのか死んでいるのかもわからない知人達を思い返す。

 

 

どうせ人類である以上知人だろうと恩人だろうと皆この手に掛けるのだ。思考からあの二人以外を追い出し、私は一人喋り続ける。

 

 

 

―――一つ思い付いた悪意の魔法を、その遺言状に仕込みながら。

 

 

 

 






標根イサネ氏に関するちょこっとメモ(独自設定)
完全に精神が闘争心に振り切れたのはアルテリアカーパルスかそれ以降での話。



次回はちゃんとエデン条約編出します。ただ時間掛かりそうなので期待せず更新されたら思い出すくらいでお待ちください。


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