透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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げーむがたのちくて、とうこうがいっこうにすすまないどうもさくしゃです。わぁい、げーむたのちいのぉ~



...早急に修正が必要だ。




汚泥の黒と純然たる黒

 

 

 

 

 

 

 

時間帯故にやや閑散としているゲームセンターに、一際喧しい声が響き渡る。

 

 

「それでさぁー!その人なんて言ったと思う!?「姐さんさえ居れば、お前なんか一瞬で三つ折りなんだからな」って、ぼこぼこにやられといてそれはだっさくない!?」

 

 

普段ならゲームセンターに設置されるのゲーム機達の爆音のBGMやSEによって小さな声では碌に耳に入らないレベルの環境を、ぎゃーすか騒ぎ立てる声が一つ貫く。

 

「ゲームでも負けるのはまだしも、喧嘩でも私に勝てなくてあの捨て台詞とか余りにも小物過ぎる!あははははっ!」

 

「その人がゲーム弱いのと実戦経験がない事以外なにもわからない。」

 

「う、うーん、あながち間違いじゃないんですけど・・・」

 

だが、そんな光景もまたゲームセンターにおいては馴染みとなっている日常の一つ。店員は気にも留めず、他のゲーム筐体に向かう少数の客達も自身のプレイするゲームに夢中で意識の中にも入らない。

 

「あれは一昨日の午前11時41分の出来事です。格ゲーでモモイに負けた対戦相手の人がいきなり銃を持って「てめぇチートなんか使ってんじゃねぇ!」とモモイに襲い掛かってきたのですが、同じく銃を取ったモモイによって倒されました。」

 

鮮やかな赤香色のショートカットにピンクの猫耳型のヘッドホンカチューシャを付けた生徒――才羽モモイが、つい先日に体験した出来事を格闘ゲームの筐体前の椅子に座りゲームに臨む二人の内の片方――標根イサネに向けて一方的に騒ぎ立てる。

 

「はッ、ゲームで受けた屈辱はゲームで晴らすのが筋だぜ。銃器を取り出した時点でそいつに格ゲーマーたる資格は無ぇ。」

 

それに対しイサネではなくもう片方――美甘ネルがモモイの話に自論を以て返す。

 

ミレニアムプライスの一件から始まったゲーム開発部との交流により格ゲーを主としてゲームを嗜む様になった彼女は、態度こそ厳つくとも決して公共マナーを破る事の無い【リトルタイラント】として今やC&Cコールサイン00(ミレニアム最強)、約束された勝利の象徴以外にもまた違った趣旨の異名で呼ばれる様になっており、今日も今日とてゲーム開発部+標根イサネの面子でゲームセンターでゲームに興じているのだが――

 

「くそ・・・!コンボが出ねぇ・・・ッ!!」

 

「はい隙だらけ。あとそのキャラのそのコンボは最速入力だと繋がらないよ。」

 

「だぁぁぁーーッ!負けたっ!!もう一度だちくしょう!」

 

勝利の象徴ダブルオー、常勝不敗の最強エージェントとしてミレニアム内外でその知名度を誇るネル。ゲヘナに君臨する魔王こと空崎ヒナ、トリニティの歩く戦略兵器こと剣先ツルギと並んでキヴォトス最強格と評される一方、ゲーム開発部をきっかけに始めた格闘ゲームはそれを得意としないアリスと対戦して現在50戦50敗。・・・言葉を濁さずに言うならば雑魚である。

 

「もう一度、もう一度だイサネ!もう一度勝負しろ!」

 

「いやもう飽きた。」

 

そしてアリスを巡ってミレニアムの生徒会長、調月リオと要塞都市エリドゥでの激戦を経て数日。確定した未来を予知する相手という経験を得、激戦の最中で負った重症もC&Cとしての活動に影響が出ない程度には治癒し、その実力により一層磨きが掛かったかの様に見える。が、ゲームの腕前の方は別にそんな事なかった。

 

「あ、ちょ、勝ち逃げはさせねぇぞ!」

 

「20戦もすれば十分でしょ。ほらモモイ代わって。」

 

23戦23勝0敗0分け。これが本日のイサネの対ネルの対戦戦績であり、彼女の手癖などを完全に把握した3~5戦目あたりから一方的なノーダメージ勝利が続いており、さしものイサネも展開の変わらない試合を前に精神的に疲弊、言うなれば飽きていた。

 

これが武器等を用いた実際の戦闘だったなら後100戦でも200戦でも体力尽き果てたとしても戦い続けただろうが、今イサネとネルの対戦の舞台は格闘ゲーム。画面上とは言え相手と直接的に戦うジャンルのゲームではあるものの、それでもゲームという(実戦じゃない)時点でいまいち闘争心が燃えてこない。

 

「くそ、結局一勝も出来なかった・・・」

 

「あーとね、ネル。貴方は体力が少なってくるとボタン適当に押す癖をどうにかしないと格上の相手には勝てないと思うよ。攻撃が繋がらないのも多分そのせい。」

 

ネルの再戦要求を無視して席を立ったイサネは、軽く伸びをしながら対戦相手に勝利する為に分析したネルの手癖や欠点と思しき部分を脳内で纏め、自分よりもゲーム歴の短いプレイヤーに大敗を喫し肩を落とす彼女に声で指摘する。

 

「ぐっ、攻撃貰って焦るとついやっちまうんだよ。やっぱマジで直さないと勝てないのか・・・?」

 

「へぇ、銃を持たせればどんな状況でも冷静に勝利を手にする貴方が焦る?面白いね。ゲームも戦闘も相手の動きや戦況を読んで動きを合わせるってのは一緒なのに・・・本当に面白い。」

 

C&Cの任務等で愛銃【ツインドラゴン】を手に任務を遂行、如何な任務だろうと大量の破壊と共に任務達成の結果を持ち帰る任務達成率100%の凄腕エージェントだが、ゲームの方となると任務では出る事のない直情的な性格がかなり強く彼女の足を引っ張っている様だ。

 

「やるからには勝つ。・・・ただ、任務と違って勝つ為に感情まで殺しちまったらゲームをやる意味がねぇ。こういうのはありのままの自分でやってこそ意味があんだ。・・・まー任務の時みてーに感情を抑えても勝てなかったんだけどよ。」

 

「・・・エリドゥの時のネルって割と感情的だったと記憶してるんだけど。それに感情を殺すならリオを裏切らないで任務を遂行するのが普通じゃない?気に食わないとかの理由で上司から与えられた任務を放棄とか、感情を殺してる状態でやる事じゃないと――」

 

「あぁん!?」

 

「・・・まぁ結果全部丸く収まったっぽいから。」

 

ゲームにおける含蓄ある自らの哲学を静かに語るネルだったが、第三者、特にゲーム開発部やイサネから見てC&Cのリーダー美甘ネルが任務中や戦闘中に無感情、ひいてはそれに準じているのかと問われればYesとはすぐに答えられない。直近のアリスを巡った一連の騒動では、任務が任務とはいえ気に食わないという理由任務を放棄、離反。エリドゥにおいては先生やゲーム開発部側に付いて死闘を演じた。ネルの感情に従った離反はエージェントとして褒められた事ではないのだが、彼女の感情に従った行動によって事が丸く済んだのでまぁ良しと言った所だろう。

 

そして他人の感情の理解力が死滅している(他人の感情を感情として受信しない)イサネはほぼ条件反射でそれを指摘し、普通にネルの怒りを買う。これが格ゲーの対戦中だったらさぞ手元が狂っただろう。しかし、ネルがこうしてイサネの指摘にノータイムで切れる事が出来るのもブラックジョークに近い指摘にこの場に居る誰もが非難を行わないのも、一重に「友達を救いたい」という意志の元、ゲーム開発部を発端にC&Cやエンジニア部、ヴェリタスやトレーニング部など、更には先生やセミナーの皆が成せる限りを為して掴み取ったハッピーエンドのお陰だろう。

 

「やっぱあたしも休憩にすっか。そろそろ昼飯の時間だしな。」

 

「それじゃあ私は向こうで膝を突いてるアリスを呼んでくるから。昼食はどこで取る?」

 

「あ!それならこないだ出来たあそこのハンバーガーショップが良い!あそこのキャラメルホイップなんちゃらって奴がすっごい美味しいってユズが言ってたからさ!」

 

「・・・お姉ちゃん、イサネさんに奢って貰うのは駄目だよ?」

 

しっかり者の(ミドリ)に浅はかな悪知恵を暴かれて「ソ、ソンナコトナイヨ~。」と片言で誤魔化す情けない(モモイ)に「今日の昼食は私が持つよ」と慈悲を投げつつ、イサネはクレーンゲームに挑み無事全滅した勇者一行――ではなく換金した小銭を使い果たして尚商品が取れず「うぅ、レベルが圧倒的に足りません・・・」と項垂れるアリスを迎えに行く。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「14番のお席の方、お待たせしました~。」

 

 

イサネがアリスを回収し、ネルがモモイとミドリ、ユズを連れて向かった近くのハンバーガショップ。モモイ曰くごく最近に出来た店舗で、ボリューム感が売りとかなんとかと言った話だが、残念ながらイサネの食事レベルはその次元に達していない為、モモイの話に疑問符を浮かべるだけで終わった。

 

「わぁー!凄いこれ、めっちゃホイップ盛られてる!」

 

「待て待てそれはどう見てもデザートだろ。いきなり取ろうとすんな。」

 

「ユズ、これとこれをネルの所に置いて。ミドリ、このトレーに乗ってるの貴方の頼んだやつね。確認して。アリス、代わりにモモイのやつも受け取って。それとそのレールガンは床に置いてね。大丈夫機械なしに持ち上げられる奴なんて貴方と私以外に居ないから。」

 

注文の品が席に届き、下らない話からより一層騒がしくなる一同。お目当ての品を前に興奮を隠さないモモイとそれはデザートだから待てと諫めるネル。イサネの指示に従い注文の商品をそれぞれの元に分配するユズとミドリに、【光の剣:スーパーノヴァ】という個人携行が不可能な巨砲を普通に椅子の背凭れに掛けようとして止められるアリスと、凡そ普段通りのゲーム開発部の日常。

 

「わ、これ手にソースが付くのか。」

 

「包み紙を半分だけ剥がしてそこ持って食うんだよ。全部剥がすと挟んである具も落ちるぜ。」

 

「本当だ。中の具材が・・・落ち、そう。いや、落ちな・・・い。」

 

ハンバーガーあるあるにやや苦戦を強いられながらも、肉やレタス以外にもチーズを間に挟んだタイプのハンバーガー――チーズバーガーをもくもくと食べ進める。それを見たネルやゲーム開発部の四人もまた、己がペースで注文したハンバーガーを食べ進める。

 

 

「しっかしイサネ、お前いつ格ゲーの練習なんてしてたんだ。初めて数日の初心者が出来る動きじゃねぇぞあれ。」

 

 

そうして食事に夢中になるのもそこそこに、一つ目のハンバーガーを食べ終えたネルがふとイサネとの格ゲー対戦を思い出しながらポテト片手に口を開く。

 

「い、イサネは始めた時からもう色々とおかしかったから・・・」

 

その内容は勿論先程の格ゲー対戦会について。ミレニアムプライス前後からゲーム開発部と知り合う様になり、同時期に始めた格ゲー。プレイ歴は凡そ数か月くらいと言った所だが、格ゲーを始めて数日のイサネにそれはもう無残なまでの大敗をつい先ほど喫した。

 

「最初の一回目以外負け無しってアリスの言葉、聞いた時は正直嘘か誇張なんじゃねぇかと思ってたが・・・まさかまじで負け無しなのかよ。」

 

「うん・・・まぁそうなるね、一応は。」

 

「自分の事なのになんでそんな曖昧なんだよ。」

 

ゲームを始めて数分の素人が何年もその分野のゲームをプレイしてきた人にバカ勝ちするなど、実際にその目で見なければ仮にシャーレの先生だろうとすぐに信じはしないだろう。それにユズ本人の意向によりネルには伏せているが、ユズとの対戦では彼女の隔絶したプレイスキルと経験を前に一歩、二歩ほど力及ばず、敗北を喫している。

 

「いきなり無敗とか言われてもさぁ、ゲームってのをまともにやったのはあれが初めてだからよく分からないんだよね。」

 

「まじかよ、そんなんありか。それじゃあこのまま続ければ割とすぐランキング上位にでも行けんじゃねぇか。」

 

向こうの世界では兵器(ネクスト)を駆って敵を殺し、キヴォトスでは銃を持って戦う事を何よりも己が最大の愉悦とし、闘争の中で極限のその先を追い求めるイサネにとって休息と未知の娯楽に理解こそ示せど趣味嗜好としてやり込む程の興味を示すには至れない。

 

「いやぁいいよそんなランキングとか。格ゲーやるくらいならブラックマーケットで依頼受けて戦ってる方がずっと楽しいし。」

 

「えー!?その才能を放っとくなんて勿体無いよ!アマチュアの格ゲー大会にでも出た方が絶対良いって!」

 

「大会ぃ?参加の段階で凄い面倒臭そうだから私はいいよ。面倒臭いし。」

 

格ゲーランキングとやらにもそこまで興味を示さず、ゲーム大会への参加にも面倒臭いという理由で否を言うイサネにがくりと肩を落とすモモイ。

 

「というか私がいくらそのゲーム大会とやらに出てもモモイ、貴方が大会に出た実績とか得られる訳じゃないんだから意味が無くない?」

 

「はっ、言われてみればそうじゃん!っていうかむしろイサネがそんなのに出ちゃったら余計に私のランクが落ちる・・・!?」

 

あはは・・・と姉の様子に苦笑いを零すミドリの曖昧な表情を見て溜息を吐いたりしながらも、イサネはポテトをつまみながらゲーム開発部の面々を中心に行われるゲームの話に興じる。

 

すると――

 

 

 

――ヴーッ、ヴーッ

 

 

「あ、電話掛かってきた・・・からちょっと席外すね。」

 

 

スカートのポケットに入れているスマホが通話の知らせを振動で知らせる。イサネは5人に席を外すと伝え、スマホを取り出しながら店を出る。

 

(非通知・・・犯罪絡みの連中か?ちっ、この休息日に何故そう面倒事を持ち込んでくる・・・)

 

別に意図しての休暇ではないのだが、それでも平穏な休暇を欠片も信用に値しない上に人としても屑同然の連中の為に潰されるのははっきり言って不愉快以外の何物でもない。内心舌打ちを鳴らしながら、イサネは不機嫌を隠す事無く通話に出る。

 

 

「・・・誰だ?」

 

 

『クックック、今日は一段と機嫌が悪い様子ですね・・・標根イサネさん?』

 

 

「あぁもう最悪だ・・・」

 

 

不機嫌を隠す事なく電話に出、発信者の第一声を聞いて一秒、イサネはこの非通知の電話に出た事を強く後悔した。

 

『最悪とは・・・またまた随分な御挨拶ですね。ですが、この世に存在するもの全ての天敵たる貴方にそう評価されるというのは、中々栄誉な事でもあるとも捉えられますね。クックック・・・』

 

発信者の正体は黒服。アビドス砂漠に自らの愛機にして半身ことストレイドの格納庫兼第二の自宅を建設した際、協力を持ち掛けられた人型の黒。凄い怪しい人というのが初邂逅時にイサネが黒服に感じた印象であり、同時に関わったら絶対面倒事に巻き込まれるなとも感じた事を記憶している。

 

(くそ、狂人の猿真似の為に色仕掛けみたいな事したの思い出しちゃっただろうが。面はそれなりだろうが夜の火遊びで食える程身体は肥えてないってのに。)

 

己が性格を偽る為にやった狂人の真似事が今更になって似つかわしくないと心を焼く感覚に悶えながら、イサネは一度完全に閉じた口を開く。

 

「お前なんぞを消し炭にするのに5秒も掛からねぇよ。私の機嫌とかどうでも良いから早く用件を言え。」

 

『クックック、なんともまぁ物騒ですね。とは言え世間話が本題ではないのもまた事実。早速本題に入りましょう・・・』

 

「早くしろ。」

 

ブラックマーケットにたむろする不良や企業属の者などを割と無条件で恐怖させるイサネの不機嫌極まりない声を飄々といなしながら、通話の向こう側から黒服は本題を話し始める。

 

『戦闘において非常に優れた戦績を持ち、大罪以外のあらゆる依頼を完遂してきた貴方の実力を見込んで一つ、依頼をしたいと思っています。』

 

「依頼?」

 

『えぇ、それも近々起こる非常に大きなイベントに関する依頼です。』

 

「大きなイベント?それも直近で・・・?」

 

大きなイベントと言われ、口を閉ざし思考を回す。

 

(リオがやったアリスの殺害未遂はミレニアム内部の出来事として表じゃ大規模な実験だという事になってるから別に大きくない。・・・挙げるならヴァルキューレの汚職か。)

 

ヴァルキューレ警察学校とカイザーコーポ―レーションの癒着事件。キヴォトスの首都D.U.区の中にある子ウサギタウン。この街の再開発による利益を狙ってカイザーがヴァルキューレにリベートを行い、地上げを行わせた。これに対しイサネは先生と元SRT学園の一年生小隊ことRabbit小隊に手を貸し、ヴァルキューレとカイザーの繋がりを暴く事となった。

 

(でもあれは一段落付いたから違う。アビドス高校とカイザーの一件は巻き込んだ学園こそ多いけど、公にはならなかったし・・・大きなイベント、イベント・・・)

 

更に思考を巡らせる。

 

(そう言えば、なんかクロノスのニュースで光輪大祭とかいうのがどうのみたいなのは聞いたけど・・・いや、もう一つあったな、本当に直近で光輪大祭よりも人目を引きそうなイベントが。)

 

思考の末、思い出す。

 

(エデン条約。私がキヴォトスに流れ着いて、傭兵業を始めた段階から既にある程度ニュースにも上がっていた。正しくはエデン条約の調印式なんだけど。)

 

エデン条約。キヴォトスの中で特に大きな規模を誇る三大校の内、トリニティ総合学園とゲヘナ学園という規模だけでなく歴史もお互いの間にある溝の大きさも大きい二校が互いに不可侵条約を結ぶというものだ。イサネがキヴォトスに流れ着いた時とほぼ同時期にエデン条約を主導で進めていた連邦生徒会長の行方不明が明らかとなり、それに引っ張られるように空中分解するかと思われたが、何とか締結寸前まで進んでいた。

 

(どうせ他所事だろうとしてすっかり忘れていた。こいつの言った大きなイベントとやらは間違いなくこれだ。・・・あぁもう絶対面倒な依頼じゃないか・・・)

 

イサネはこのエデン条約を前世で言う大企業連中の下らない軍事・経済条約程度にしか認識しておらず、その内話題にも上がらなくなるだろうと興味を示さなかった。というか関わったら面倒事になりそうだからと避けてきたきらいがなくはない。

 

「・・・エデン条約か。」

 

『流石に分かりますか。まぁ概ねその通りです。依頼の詳細については少し機密的な内容を含みますので、こちらが用意した場所で直接お話したいのですが・・・』

 

静かに回答をしてみれば、正解だった。エデン条約絡みの依頼。スマホを耳に当てるイサネの眉間の皺が、より一層険しくなる。

 

「ちっ、またそれか。直接話そうっていう体で私を誘き出し、何らかの方法で無理矢理依頼を受諾させるつもりじゃないだろうな?」

 

『それは有り得ません。私には小鳥遊ホシノの様に選べる選択肢がない者を契約で縛り付ける事は出来ても、貴方の様に秩序も常識も全てを無視して力を振るえる者を抑え付ける手段は生憎持ち合わせておりません。』

 

「嘘だな。お前は何かしらの手段で小鳥遊ホシノ、空崎ヒナといったキヴォトスでも類を見ない実力を持つ生徒を無力化する事が出来る。・・・それこそ、シャーレの先生が持つあの不可解なカードをもどうにかする事だって。故にその言は信用に値しない。」

 

リオとの依頼交渉による苦い苦い記憶からか、直接話をしようという黒服の言にイサネは中々頷かない。

 

『随分と警戒されている様ですが・・・ふむ、困りましたね。貴方が依頼を受けないとなると、確実にエデン条約は破綻の結末を迎えてしまいますね・・・』

 

「条約の破綻などいくらでもすればいい。むしろ破綻により全面戦争になってくれた方が傭兵としては仕事が増えて万歳だし、私個人としても闘争は大歓迎だ。」

 

『クク、そうでしたね、貴方はそういうタイプの人種でしたね。乱に悦を求め、戦に生を感じる生粋の戦闘狂。故に貴方がエデン条約の破綻を歓迎するのも何らおかしくない。』

 

「まぁそんなのはどうでも良い。どちらにせよ依頼については今ここで話せ。でなければこの話は無しだ。」

 

何事もなく無事に条約が締結されるに越したことないが、何らかの要因で条約が破綻を起こし、ゲヘナとトリニティが戦争を始めるならそれはそれでイサネの仕事が増えるから歓迎ではある。

 

条約締結か破綻による二校の全面戦争。どちらに転んでもイサネにとってはメリットしかない上、何よりそういった政治思想や組織的感情がどろどろに入り混じった戦争はイサネがどこよりも慣れ親しんだ戦場だ。

 

『こちらとしても全ては話せないのですが・・・そうですね。端的に申しますと、私達ゲマトリアの一人が実行に移そうとしている計画の完遂を阻止して欲しい。と言った所でしょうか。』

 

「・・・ゲマトリアって組織は自分達の失態の尻拭いすらも碌に出来ないのか。よくもまぁそんな体たらくで堂々と大人ってのを名乗れたな?」

 

だが、幾らエデン条約の結末がどう転ぼうと自分には得しかないとは言え、エデン条約が政治の世界の話である以上エデン条約絡みの事象が面倒事に分類される事に変わりはない。依頼内容を聞いたイサネは、思考よりも先に向こうの世界の企業にも言える罵倒をノータイムで返す。

 

「あぁでも、厚顔無恥を晒すのも大人故の特権だったな。とするなら私にその依頼を出すのも自明の理という訳だ。失礼失礼勉強が足りなかったよ。」

 

『クックック、一体どこでその様な煽り文句を学んできたのか、少しばかり興味が湧きましたよ。指摘の内容については耳が痛い限りなのですが。』

 

「そう思うならこんな依頼を私に出すな。大仕事のすぐ後にこんな面倒事なんてまっぴら御免だ。自力でどうにかしろ。人外一匹の殺傷くらい同じ人外なら出来るだろうが。」

 

『御冗談を。確かに依頼対象は戦闘能力を向上させる身体変化の能力を持ちますが、生憎私にその様な能力はありません。直接相対した所で一方的に殺されるのがオチです。』

 

規模やレベルこそ違えど、前世も世界でもキヴォトスでも汚い大人は普通に汚い。厚顔無恥を地で行き、弱者相手に借り物の暴力を我が物顔で振り回す。それに対し幼少の生活の恨みこそ無いが、その手の者から発される醜さと無能さはとてもじゃないが数秒とて直視し続けられるものじゃない。カイザーPMCの元理事などかなり良例だろう。悪知恵だけは一丁前に働き、そのくせ椅子にふんぞり返って指示も碌に出せない無能という害虫の様な大人をその全身で体現していると言える。

 

「その点お前はまだぎりぎりましだよな。屑である事には変わり無いとしても、自分の身の程を弁えてるし、失態を認めたり場合に合わせて割と臨機応変に行動が取れる。感情で全て台無しにした私とは大違いだ。」

 

『・・・いきなりそんな事言われましても。まぁ一応賛辞として受け取っておきますが。それよりも、私は依頼についての返事を頂きたいのですが。』

 

凄まじい切れ味の罵倒からいきなり賞賛を送られて困惑を隠せない黒服を余所に、イサネはリンクスのミッションの時の様に感情を切り捨てて考える。

 

(エリドゥでの傷や疲労は抜けてる。休暇ももう十分。そろそろ何時ぞやに出した傭兵業も本格的に再開するつもりだったし、契約に沿っている内の黒服は割と信頼できるから受けても良い。)

 

黒服は小鳥遊ホシノ一人の為に数億という金を投げ捨てるなど得体の知れない印象が強いが、契約を確実に果たしたり場合によっては自らに敵対心を持つ者に融通を利かせるなど割と話が通じると言うか向こうから対話を望んでくるなどキヴォトスにごまんと居る屑の中でもトップクラスに人としての筋が出来ている。

 

(乗っても良いが・・・エデン条約絡みってのがどうにも頂けない。ただでさえ政治闘争の多いトリニティで、ゲヘナとの長い長い歴史の溝を埋めようって条約なんだ。そこに干渉するってなると絶対複雑怪奇な政治と歴史の存在が遂行の足を引っ張る。)

 

しかし、幾ら黒服の人間的信頼要素が高く依頼などにおける彼の支援に期待が持てたとしても、エデン条約絡みの物事に首を突っ込もうとはならない。

 

(エデン条約に関しての情報が足りない。この依頼の受諾の有無はともかく今トリニティが何が起きているのかを知る必要がある。話の詳細だけでも聞くべきだ。それに・・・今朝の事もある。)

 

だが、この話をただ単にNoだと言って否定するにはエデン条約周りに関する情報が手元に無さ過ぎた。関わりたくない故に情報収集を怠った結果とも言えよう。

 

そして次に今朝の事。正確に言えば明晰夢に出てきた狐耳のトリニティ生徒について。ただどこかで視界に入った誰かが勝手に夢の中で役割を与えられただけという事もあり得なくはないのだが、それにしてはやけに言動に現実味があり過ぎた。

 

(完全に情報戦で出遅れている・・・リスクは承知だが、顔を合わせて事の詳細を聞くしかない。武力で全てを平たく均して、事を全て踏み倒す事は出来ないだろうし。)

 

エデン条約周りの情報が余りにも欠如し過ぎている。イサネは自らが置かれたこの状況をそう結論付ける。そして長い思考の後、決断する。

 

 

「・・・日時と場所を指定して。そこで依頼の詳細を聞く。依頼を受諾するかどうかもそこで決める。それで良いね?」

 

 

『クックック・・・!貴方ならそう言ってくれると思っていましたよ。標根イサネ、貴方は合理的、感情的のどちらの思考でも物事を考える事が出来る。そう居ませんよ、感情と合理を完全に切り離せるという者は。』

 

 

スマホのスピーカーから聞こえてくる黒服の愉悦の声に、イサネは電話越しにも聞こえる程の深い深い溜息をつく。

 

「思い通りに行ったからって一々ご機嫌取りのお世辞を投げるんじゃない。ただでさえ今こうして休暇を潰されて機嫌悪いのに。」

 

『思ってもいないお世辞などただただ不快でしかない。・・・と言った所でしょうか?クックック・・・これは失礼しました。ですが、少なくとも今の発言は本心からのものですよ。』

 

「・・・切るぞ。日時場所の指定はメールで送れ。」

 

黒服に一方的に言葉を告げて通話を切る。スマホをスカートのポケットに仕舞って空を見上げる。現在時刻は午後の2時47分。お昼時が終わり、おやつの時間に差し掛かる頃合い。天気は晴れ。極光を放ち続ける日光が眩しい。

 

「・・・エリドゥでの事が済んで、皆一様に日常に戻ってるって言うのに、私はこれから別の面倒事に首を突っ込まなきゃいけないのか。」

 

視界を灼く日光から目を背けながら、軽く上げた己が右手を見やる。幾億という数の人間を屠った、悪魔の兵器の引き金を引いた己が手。人の血と怨嗟、そして咎に塗れた怪物の手。

 

「事の規模で言うなら、Rabbit小隊とやったヴァルキューレの汚職調査なんか比にならないぞ・・・それに連邦生徒会は合理と規律で動いているが、エデン条約は過去の感情から事が始まっている。介入するとなると本当に難題を幾つも乗り越える必要が・・・はぁ。」

 

全てを焼き尽し、動くもの全てを殺して解決するのならばどれだけ楽だっただろうか。かつての自分がそうした様に。

 

「・・・今からでもストレイドでトリニティ潰せば万事解決しないかな。」

 

いくらぼやいた所で今更どうしようもない。腹をくくったイサネは、信じられないくらい物騒な事を呟きながら店内へと戻るべく歩き出す。

 

「お、やっと戻ってきやがったか。遅せーぞ。」

 

「話が長引いてね。政治家みたいな腹の探り合いなんてするもんじゃないね。」

 

「早くゲームセンターに戻りましょう!あのお宝がアリスを待ってます!」

 

「・・・もう持って来た金が底を突いたんじゃなかったっけ。」

 

すっかり昼食を終え、ぐでーっと机に突っ伏すネルのぼやき声に出迎えられ、イサネは気持ちを切り替えてそれに応える。

 

「い、イサネさんはまだ何か食べたりはしますか?モモイとアリスはミドリとネル先輩が見てくれるので・・・」

 

「いや、あれでもう十分。今日はこの後も何かある訳じゃないし、何かしようとかも何もないから好きに私を連れ回すと良いさ。付き合おう。」

 

「ほ、本当に良いんですか?ありがとうございます・・・!」

 

「まぁ暇なんでね。ははは。」

 

そうしてエデン条約という不穏極まりないものに関わる可能性という暗い事実から必死に目を背け、イサネは今日という休暇で完全にメンタルをフラットな状態に戻す事を心に決める。

 

 

(良いよ。私の邪魔をするなら幾らでも前に立ち塞がると良いさ。その全てを焼き払って、私は私の答えを完遂させる。)

 

 

 

―――何せ、水面下の暗雲は既に雫となって降り注いでいるのだから。

 

 

 





8月中にあともう1話か2話は投稿したいですね。出来るかどうかは不明ですが。

ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?

  • 普通にイサネさんがボコって終わり
  • 誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
  • 先生やアリスクの目の前でぶっころ
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