透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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会話パートにおけるキャラ同士の動きとかの表現、余り多く入れ過ぎると普通に冗長になる。けどそこを埋める他の事が特に思いつかない。...ここの解決にバカ時間取られるの辛いw
あとエデン条約周りがくそ難解すぎる・・・!アリウスによる調印式襲撃だけでも理解に時間を要したってのに、繋がる点が余りにも多くて爆発しそう()

今回は黒服との会話回です。過激回でもなければギャグ回でもないので冗長です。ご注意を。



私、面倒事は嫌って言った筈なんですけど!!

 

 

 

 

 

 

 

「クックック・・・凡そ時間通りですね?」

 

 

元より気配殺す様に歩いていなかったし、殺す意味も無かったので足音が聞こえていると言えば聞こえているのだが、それでも扉越しにそういう事を言われるのはどうにも不快で仕方がない。

 

「・・・」

 

故に、銀灰色の長髪少女――標根イサネは扉を蹴破って室内に入る事を何の迷いもなく実行に移す。騒音だの修理費だのは自分の知った事ではない。扉の目の前より一歩下がり、上げた右足の足裏を思いっ切り金属製の扉に叩き付ける。

 

「ククク・・・普通に危ないですよ、イサネさん。」

 

ばがぁん!という何かの爆発音の如き音と共に金属製の扉が蝶番の耐久を大きく超えて吹き飛び、部屋の奥へと吹っ飛ぶ。中に居た人物が至極当然な事をイサネに注意するが、イサネはどこ吹く風な上に指摘の言葉が冷静過ぎた。

 

「貴方が人の足音で変なこと口走るのが悪いんでしょ。飛んだ扉が当たらなかった事が残念で仕方ないよ。本当、悔いても悔い切れない。」

 

「クックック・・・!本当に貴方は面白い・・・!」

 

イサネの不機嫌オーラを受けて尚不気味な笑みを零す人型の異形――黒服は、部屋の中に居た護衛兼見張りと思しきロボットに扉の片付けを指示すると、自らが座るオフィスチェアと机一つ挟んで反対側にある同タイプの椅子を指差す。

 

「その椅子にどうぞ。何か飲み物等は要りますか?」

 

「水かな。喉が潤せて人体に害が無いのなら何でもいい。」

 

「ではそちらの冷蔵庫からお好きな物をどうぞ。」

 

イサネは左腰のホルスターとベルトを付けて左肩に掛けた銃火器二丁を机に置き、黒服の指し示した冷蔵庫を物色する。その様子を眺めながら、黒服はその間に机の上に置いたビジネスバッグから紙資料なりタブレットなりを取り出して机に広げる。

 

「・・・何でアルコールまで置いてあるの。」

 

「恐らくここの前使用者の忘れ物でしょう。未成年と思われる貴方がそれを飲んだとしても、私は誰にもばらしませんよ。飲みたいのでしたら話に影響の出ない範囲で遠慮なさらず。」

 

「いや別に飲まないから。何かの拍子で先生に勘付かれそうだし。」

 

冷蔵庫から水の入った未開封のペットボトルを取り出し、椅子に座る。机に放った銃火器を端に寄せ、黒服側に置かれた紙資料に視線を向ける。

 

「では改めて。お越しいただき、ありがとうございます、標根イサネさん。本日は一昨日に連絡しました、私からの依頼のついての話で間違いないですね?」

 

「ないよ。」

 

「確認が取れました。では早速本題の方に移りましょう。」

 

挨拶を終え、黒服は自身の左側――イサネから見て右側にある紙資料を納めたファイルから一枚のプリントを取り出し、イサネの方に寄こすと同時に話し始める。

 

「依頼内容はその資料の通り、私達と同じくゲマトリアに所属するベアトリーチェが現在水面下で進めている計画の阻止です。」

 

「計画の阻止・・・そのベアトリーチェって奴の殺害ではなく、あくまでも計画の阻止なのね。」

 

「はい。その辺につきましては後程お話しますが、彼女の計画における達成目標の全てを失敗に終わらせて欲しいというのが依頼の内容です。」

 

どこぞが行っている計画の阻止依頼など、別にそう珍しい依頼でも何でもない。ブラックマーケットではよくある事だし、ここを襲撃して欲しいという依頼でよく請け負い、完了後にここでこういった計画が行われていたという事が発覚するなどしょっちゅうだ。

 

「そのベアトリーチェって奴が今進めてる計画ってのを達成不可にするのが依頼の内容って事で合ってる?」

 

「はい、その通りです。また依頼達成の為の手段も問いません。合法非合法、如何なる手段を取ろうとも目標の達成で報酬の支払いを約束しましょう。」

 

「その言葉、違えるなよ?」

 

黒服はブラックマーケットにたむろする捨て駒にすらならない小悪党達とは違い契約を破る事はしない。念を押すまでも無いだろう。イサネはベアトリーチェの計画阻止という文のみが記載されたプリントを机に放る。

 

「次に、依頼の受諾前でこちらから提供可能な情報や支援についてお話ししましょう。とは言っても、余り多くは話せないのですが。」

 

一枚目を机に置いたイサネを見て、黒服は二枚のプリントを新たに寄越す。

 

「まずは依頼遂行においてベアトリーチェ、彼女の殺害についてですが・・・出来れば生かしておいて欲しい。というのが望みです。」

 

「計画の主導者を生存させつつ、計画は頓挫させる。エデン条約絡みを抜きにしても中々面倒な仕事ね。」

 

「ですが、状況や場合によっては彼女の殺害も視野に入れてください。私達は可能な限りの生存を願いますが、仮に彼女が死んでしまったからと言ってあれこれを言うつもりはありません。計画の阻止が優先なので。」

 

へぇ。とイサネの口角が僅かに上がる。殺害も視野に入れる。キヴォトスに置いて滅多に聞く事のない言葉。キヴォトスにおいて殺人は最大級の大罪として扱われているが故、襲撃依頼や自分達を怒らせたあいつを分からせろという依頼も殺害を前提としての依頼ではない。精々襲撃して気絶させて引っ立てるか、ゴミ捨て場にぽいするのが普通だ。

 

故に、場合によっては殺害も構わないという彼の依頼は、これまでイサネがキヴォトスで受けてきたどの依頼よりも特異な依頼であった。

 

「理由を聞いても良い?自組織の構成員の計画阻止はともかく、何故構成員の殺害までもを視野に入れる?計画だって最終的にゲマトリアにとって理になるなら放っておくのが普通だと思うけど。」

 

故に少しばかり疑問に思った。何故自組織の構成員が行う利益行為を殺害まで考慮に入れて妨害するのか。これがイサネの居た世界なら別に疑問にも思わないが、殺人の罪の重さが違うキヴォトスでは疑問を呈す十分な要因になる。問い掛けた数秒後、黒服は答える。

 

「・・・そうですね。いくつかありますが、彼女の計画によって先生の持つ大人のカードと先生自体が持つその例外性の全ての力がこちらに向けられる事を避ける為。というのが最も大きなの理由です。ベアトリーチェが計画している事は、それだけ先生の怒りを買う可能性が高いのです。」

 

「大人のカード、例外(イレギュラー)・・・。」

 

シッテムの箱と共に先生が持つ不可思議な力の内の一つ。クレジットカードの様に代金の支払いなどの日常的な使用用途からそれこそ神の御業、奇跡と呼ばれる凡そ人の身に余る超常の力を自らの生を代償に振るう事が出来るらしい代物。曖昧な表現だが、実際に代金の支払い以外の用途で先生が大人のカードを使っている所を見た事がない故に黒服の言伝にしか知り様がない。

 

「えぇ。私の知る限り、先生の持つ大人のカードの力に抵抗しうる力を持つ存在は現状候補の一つすらも目処が立っていません。強いて挙げるとするなら・・・同じ例外的存在である貴方で極々僅か、極限まで0%に近い確率でなら・・・と言った所でしょうか。」

 

「へぇ・・・?」

 

常に例外という物を抱えながら進んできた事の摂理を許さない大人のカードの力の絶対性に、話半分で聞いていたイサネの興味が向く。たった一つの例外すらも許さない。傲慢とも取れる程無法な力と対峙して、今の自分でどこまでやれるのか。それとも認識する間もなく消されてしまうのか、闘争心が小さな火を掲げる。

 

そんなイサネを現実に呼び戻す様に、黒服は話を続ける。

 

「他にも彼女の計画はゲマトリアと言う組織の本来の敵である存在をキヴォトスに招来しかねないというのもありますが・・・まぁ依頼の理由についてはそんな所です。」

 

「・・・電話越しにああは言ったけど、構成員一人の失態の為に組織そのものが潰れるのは余りにも割に合わない。蜥蜴の尻尾切りとはちょっと違うけど、組織を守るには必要な事か。」

 

思考を現実に引き戻したイサネは、資料を斜め読みしながら黒服の話に頷く。

 

「依頼実行に当たって過程の合法非合法の手段は問わない、計画の実行者であるベアトリーチェの生死は問わない。・・・こんな所か?」

 

「はい、事前情報についてはこんな所です。貴方がこの依頼を受諾してくれるのなら、そうですね・・・こちらからは彼女が手駒としているアリウス分校についての情報と、エデン条約周りの最新情報の提供、ある程度の違法行為の隠蔽などを支援しましょう。」

 

「それってほぼ確実に何かしらの重い軽い問わず何か校則違反しないといけないって事?七面倒ってどころの話じゃないんじゃ・・・」

 

「はい、七面倒どころの話では無いと思いますよ。」

 

そんな依頼受ける訳ないだろ馬鹿野郎。思わず心の中でそう吐き捨てる。当たり前だ。何せエデン条約調印式前という事で自治区に菓子類を買いに行った時ですら取調室に問答無用で連行されたというのに、エデン条約に絡むつもりで近づこうものなら・・・想像もしたくない。

 

「・・・イサネさん。本音を心の中に隠し切れてませんよ。」

 

「・・・誰のせいだと思ってるんだ、誰の。」

 

・・・どうやら心の中だけでなく口にも「そんな依頼受ける訳ないだろ馬鹿野郎」が出ていたらしい。深い溜息と共に、イサネは黒服の指摘に対し苛立ちを吐き出す。

 

「しかし、受ける訳ないとなると困りましたね。ゲヘナとトリニティが戦争を始める程度なら特にこちらに支障はないのですが、最悪キヴォトスそのものが大混乱に陥る結末も出てきてしまいますね・・・」

 

「私は治安維持の為に傭兵をやってる訳じゃないからね?」

 

「分かっていますとも。」

 

リオの時の様に本当の標根イサネ――イレーネを盾にして受諾を迫ってこないで・・・が3割、何が何でもこんな依頼受けたくない、最悪ぶん殴って逃げようが7割を占める中、イサネはペットボトルを空けて水を飲む。

 

「イサネさん、受ける訳ないと仰った理由をお聞かせ願いますか?」

 

数秒の間、言葉を発したのは黒服だった。昨日の電話越しから頑なにNoを喚いていたイサネに、その理由を問う。

 

「だってこないだ菓子を買いにトリニティ行った時さぁ。正義実現委員会の奴らに割と問答無用で連行されたんだよ?半分尋問みたいな取り調べされて、菓子を買いに来た以外の目的なんて無いって何べん行っても信じようとしないし。」

 

「クックック・・・これはまた、随分な経験を・・・」

 

「ただ菓子買いに行っただけでこの様なんだよ?それをエデン条約に首を突っ込みますって理由抱えてまたトリニティに行こうものなら・・・いやぁ、どう考えても受ける訳無いでしょ。」

 

痛くない腹が痛みを訴え始める程探られ、常に誰かしらから銃口を突き付けられて行われた取り調べの皮を被った尋問。当時の自分の機嫌が少しでも乱れていようものなら、確実にエデン条約の調印式は延期になっていただろう。

 

(どうせ治安維持の一環だからって謝罪もしないだろうし、脅されっぱなしってのも気に入らないから、いずれ何らかの形で()()をしてあげないとなぁ。)

 

そんな最近のやや嫌な記憶を思い出しながら、イサネは言葉を締めくくる。

 

「まぁそんな訳で、エデン条約絡みの依頼は受けたくないの。それとまだ重罪の疑いを掛けられたまま生きていくのは色々面倒臭いから嫌だ。」

 

「まるで、状況によっては殺人の咎も気に留めないと解釈できそうな物言いですね。」

 

「人殺しなんて、貴方からすれば別に今更な話でしょう?大体戦争に勝つ為の技術開発って名目で一体どれだけの数の人間がメスと毒の犠牲になったと思ってるのさ。」

 

さも何事も無い様に、イサネは殺人を日常の出来事の如く語る。

 

当然と言えば当然だ、一人二人の経験ではない。数百万数千万を遥かに超える数憶数十億単位の数の人間をこの手に掛けているのだ。決して誇れる事でも何でもないが、彼女以上に死に触れてきた人間は居ないだろう。

 

人を殺す事においてイサネ、ひいてはイレーネの右に出る者があるとするなら、それは人ではなく古の時代において命という命を無尽蔵に喰らい尽くした(悍ましいパンデミックを巻き起こした)疫病か現代の戦争の主役である(学園都市キヴォトスの象徴的存在である)銃そのものくらいだろう。それ程までに、彼女の手の平は他人の命を握り潰してきた。

 

「まぁそういう訳で、私は面倒事に関わりたくないの。その選択を逃げただのと外野に言われようともね。」

 

「何かしらの罪の疑いを掛けられたくないではなく、あくまでも面倒事に関わりたくないから。・・・クックック、力を持つというのは、中々に大変ですね?」

 

「そういう事だから、もう帰って良い?今回はご縁が無かったという事で・・・」

 

そうしてイサネは言葉を締め括り、席を立つべく机の端に置いたアサルトライフル2丁(中古のAK-47とAKM)の内一丁をハーネスに装備したライフル用のホルスターに挿してもう一丁にベルトを付けて左肩に掛ける。

 

「そうですか、それは残念です。・・・所でイサネさん。」

 

 

アサルトライフル二丁の安全装置を確認し、席を立ったイサネに黒服が静かに声を掛ける。

 

 

「うん?なんか他に話でもあるの?今日は他に用事とかないから―――」

 

 

「一昨日貴方が見た夢、あの中にキヴォトスの生徒が出てきたのは確実にベアトリーチェ周りが絡んでいますよ。」

 

 

「嫌がらせか?そのベアトリーチェって奴。」

 

 

扉が綺麗に吹き飛んだ出入り口に身体を向けていたイサネは、黒服のその言を聞くや否や眉間に皺を寄せ、凄まじい嫌悪を露わにする。

 

Damn it(くそったれが)・・・!良いだろう。腹は括った、詳細を教えろ。」

 

一昨日自分が夢を見ていた事を黒服が知っている事など気にも留めず、イサネは持ち直したアサルトライフル二丁(叩き売りされていた粗悪品のAK-47とAKM)を再び机に放って席に着く。それを見た黒服は頭部下部にある口と思しき下三日月の白を大きく歪める。

 

「クックック・・・!そう言ってくれると思っていましたよ。」

 

「エデン条約周辺に近寄りたくない事に変わりはないが、どうにも逃げられないっぽいしな。やる気は微塵も湧かないけど・・・はぁ、放っておいたら私まで被害者入りなんでしょう?」

 

「それはベアトリーチェが貴方の事をどう認識しているか次第ではありますが・・・」

 

「まぁ良いよ。もうやるって言っちゃったし、気は向かないけどやるだけやってやるよ。」

 

自らの大事な記憶に干渉されてしまった事でつい感情的になり依頼を受諾してしまったが、受諾の言葉を依頼者の目の前で言ってしまった以上今更やらないというのは傭兵としての矜持に触れる。

 

「取り敢えず、そのベアトリーチェって奴が居る所とそいつらがエデン条約にどう絡んでいるのかを教えろ。時間はある、多少長くなっても良い。」

 

「分かりました。扉が吹き飛んでいるせいで防音性が致命的に低下している点が少々気になりますが・・・まぁ歴史の話ですので盗聴されても特に問題はないでしょう。ではまず、彼女が指揮を執るアリウス分校の成り立ちから―――」

 

刹那的で享楽、楽観的な少女の目から慈悲無き傭兵の目付きになったイサネに、黒服は詳細を語り始める。

 

 

 

 

 

「なるほどね。アリウス分校はそもそも今のトリニティの自治区の範囲内にあった一つの学校というか派閥だった。そして今のトリニティに存在する各派閥もまた完全に分離した状態で存在していて、それぞれが戦争してたと。」

 

「はい。」

 

一時間と数分後、エデン条約からトリニティの成り立ち、アリウス分校と呼ばれる秘匿された学園などを黒服からイサネは、学習内容を復習する様に教えて貰ったトリニティの歴史を黒服に話す。

 

「それで争いに懲り懲りした連中が集まって紛争回避の為に会談を開いたのがティーパーティ・・・今のトリニティ生徒会の始まりって事か。」

 

「その通りです。」

 

「それで当時行われたティーパーティの会談、俗に言う第一公会議ってのでパテル、フィリウス、サンクトゥスという3つの学園というか派閥が頭になって各派閥が合流。今のトリニティ総合学園になったと。」

 

「はい、それが今のトリニティの成り立ちです。」

 

お昼時を過ぎて尚、食事も取らずにイサネは話し続ける。

 

「そんな経緯でトリニティは出来たけど、当時のアリウス派閥は第一公会議に反対。えーっと、殆どが賛成の中唯一反対の立場だったんだっけ?それでずっと反対だーって言ってたら出来上がったトリニティ総合学園によって弾圧。トリニティから追放・・・言わば新たに出来たトリニティの内部団結の為の生贄になったと。」

 

「生贄・・・まぁそういう捉え方も出来ますね。」

 

「追放されたアリウスは派閥という形こそ消し飛んだけど、トリニティにあった地下墓地(カタコンベ)を通って領外へ脱出。脱出先の未開の地をそのまま自治区とした・・・が、未開の地故や逃亡の身等の様々な要因で深刻な物資不足が解決できず、内部で紛争ばかりしていたと。そしてそれを突如として現れたベアトリーチェが紛争を終結というか掌握、そのまま生徒会長の座に就いて今に至るって事か。」

 

「その通りです。そしてアリウス分校は過去の歴史の復讐に、ベアトリーチェは自分の計画完成の為にエデン条約調印式をきっかけとしてゲヘナトリニティ共々に戦争を仕掛けようと今水面下で準備に取り掛かっている所です。時期が時期なので、そろそろ攻撃準備も整う頃でしょうか。」

 

イサネが述べる歴史の暗唱に頷く事で正解の意を返す黒服。それに対しイサネは、呆れ半分で黒服に質問を投げ掛ける。

 

「復讐ねぇ・・・弾圧のやり返しでもするっていうつもりなの?アリウスの連中は。」

 

「その辺につきましては、恐らくベアトリーチェが掌握後のアリウス生達にそういう風に教え込んだからです。洗脳と言ってもいいかもしれません。常に皆を疑い、幸福や幸せ、夢や希望を持つ事を悪とするという本来の解釈から捻じ曲げられた理念を。」

 

「学の無い連中に虚無主義(ニヒリズム)を刷り込んだのか。」

 

「それに伴い元々諸行無常や万物流転の意で使われていたvanitas vanitatum et omnia vanitasという言葉も捻じ曲がった解釈のまま、彼女達は使っており、彼女達に関わるだけで嫌と言う程聞く事になるでしょう。」

 

成り立ちの段階で既に飽き始めているイサネを余所に、黒服は「では依頼の詳細に入りましょうか」と話を続ける。

 

「依頼の内容については先程の通り、ベアトリーチェの計画の阻止、頓挫です。彼女の生死も方法も問いません。あらゆる手段を用いて計画の達成を阻止してください。トリニティやゲヘナに損害は発生したとしてもそれがベアトリーチェの計画のものでなければ問題ありません。」

 

「理解した。エデン条約が破綻したとしても、ベアトリーチェさえどうにか出来れば問題無しという訳ね。」

 

「はい。」

 

黒服が新たに机に広げた資料を眺めながら、彼の話を頭の中で整理する。

 

「次に、アリウスによるエデン条約調印式襲撃の計画についてです。」

 

「・・・書いてる事の殆どが理解出来ないんだけど。調印式の条約締結の瞬間に対艦ミサイルクラスの弾道ミサイルを式場に叩き込むのは分かるんだけど、その後混乱に乗じてアリウススクワッドっていう特殊部隊が式場に侵入して条約内容を書き換えるってどういう事?」

 

「この辺は統合されたばかりのトリニティを統治していたユスティナ聖徒会という組織の話になるのですが・・・」

 

ただでさえ条約の書き換えによるアリウスの紛争介入意義がどうのだのそれによるユスティナの亡霊達だの何を言っているんだ状態だったイサネだが、黒服の言葉によって更に固まる。

 

「え・・・またくそ長い話?」

 

「嫌でしたら省略しますが・・・あっ、はい。その表情で分かりました、省略しましょう。一応資料は渡しておきます。ですが一応兵器としてのミメシス(複製)についてはお話させて頂きます。」

 

「是非そうしてほしい。」

 

聞きたくもない政治と歴史の話を前にへろへろになったイサネに、ユスティナ聖徒会というこれまた歴史が古く長い上色々と謎が多いという歴史マニア歓喜な組織の話は劇物だった。

 

 

「・・・成程ね。そのユスティナって奴らの存在意義を約束を守らせるとか解釈して、エデン条約の内容をエデン条約機構ことETOをユスティナの使役者であるアリウスが担当する様書き換える事でアリウスがゲヘナとトリニティの紛争介入の大義名分を得ると同時に二校に対する無尽蔵の戦力を得るって訳だ。」

 

「そして条約破綻によりトリニティとゲヘナが全面戦争を始めた際にミメシスをけしかける事で共倒れをさせる。これがアリウスによる調印式襲撃計画の大まかな全容です。」

 

頭を軽く振って疲労を無理矢理振り払い、イサネは思考。そして思考を言葉にも吐き出して戦略を練る。

 

「そのミサイル、もう一つあったりはしない?いや、核兵器の方が良いな。資料にあるベアトリーチェはアリウスの生徒を捨て駒にしか思ってない様だから、戦術核レベルでも良いから襲撃開始直前の兵力が集結している所に撃ち込めばアリウス分校の戦力の殆どを完全に破壊出来る。」

 

「確かに襲撃前に戦力を核の炎で焼き尽してしまえば、にミメシスの顕現だけでなくアリウス分校の戦力まで一網打尽に出来ますね。ただ、キヴォトスにおいてはその巡航ミサイルはオーパーツの扱いを受けています。なので核兵器などどこを探しても見つからないでしょう。」

 

「だよなぁ、薄々そんな気はしてた。でもミサイルを阻止しないと確実にミメシスはアリウスの兵力になると言ってもいい。・・・あ、リソース元を潰せば問題無いか?いくら神秘だのを使ってるとは言え等価交換の法則までは覆らない筈。黒服、ミメシスのリソースには何か使われる?」

 

「恐らくアリウスの中でも強いか特殊な神秘を持つ者がリソース元として利用されるとは思うのですが・・・そこまでは明らかになっていませんね。」

 

幾つもの資料を広げ、イサネはひたすら依頼達成に必要な条件を満たす作戦プランを練る。

 

「アリウス分校だけでも人数は多い。故にリソース源の特定は不可能。虱潰しも無駄。・・・ミサイルに対する対抗手段が無さ過ぎるな。予めこの情報を二校に知らせるのは・・・?」

 

「手段としてはありだとは思いますが・・・デマと思われる確率の方が高そうですね。」

 

「分が悪いか・・・流したとしても仲の悪い二校が協力するとも思えないし、何ならその前に戦争始めそうだし・・・あーもうアリウスもトリニティも、全て壊せば解決しないのー?誰だよミメシスとかいうの生み出してる奴はさぁ。」

 

「・・・誰でしょうね、そんな物を作った者は。クックック・・・」

 

だが、中々作戦プランは組み上がらない。当たり前の話だ。向こうが数年単位で綿密に準備してきた計画に数時間~数日程度の作戦立案と準備で挑み、尚且つ完勝に近い勝利を成し遂げなければならないのだから。

 

(問題は言うまでも無くミサイルとミメシス。ミサイルさえ阻止できればミメシスも生成前に処理出来るが、ミサイルがどうにもできない。)

 

攻撃準備の為に集結したアリウスの軍勢を先制大規模攻撃によって一網打尽に出来れば一番楽なのだが、そう上手く事が進むのなら万事において誰も苦労はしない。

 

「うん、調印式の襲撃直前からどうにかするのは止めよう。調印式の幾つか前からトリニティに先入りして情報を集める。そんで調印式前にアリウス分校に侵入して内側から荒らす方が多分現実味があるな。」

 

「私達にとって調印式襲撃を阻止する事自体の重要度は高くありませんからね。」

 

「そう、別に調印式自体がどうなろうと私の知った事じゃない。いやむしろ全面戦争になってくれないかな。そっちの方が依頼が終わった後も好き放題やれそうだし・・・調印式襲撃の混乱に乗じてベアトリーチェの元まで行くか。」

 

視点の転換。調印式の襲撃自体は黒服にとってもイサネにしても別に問題のある事ではない。目的はあくまでもベアトリーチェ、彼女の計画を阻止する事にある。それを聞いた黒服は、カバンからさらなる資料を取り出す。

 

「そうですね、そうなるとこちらの資料が役に立ちそうです。彼女はアリウス分校の校舎から出る事はないでしょうから、貴方の方からアリウス分校校舎に出向く際に必要になる情報です。」

 

「どっかの地図みたいだけど・・・こんな所通る必要があるのか。」

 

「はい。アリウス分校の校舎はトリニティ領内にある地下墓地・・・カタコンベを通った先にあり、そこに辿り着く為にはその迷宮とも言えるカタコンベを抜ける他方法はありません。また私の記憶が正しければカタコンベの内部構造は定期的に変化していた筈・・・」

 

「そんな事が可能なのか・・・」

 

黒服が取り出した資料はどうやらアリウス自治区へ向かう為の地図らしい。ぱっと見ただけでも迷路の様に複雑怪奇な構造をしている上、黒服の言が正しければ内部構造が変化するのだという。一体どんな技術を用いれば一学園規模の、それも地下に埋まった構造物の構造を自動で変化させるというのか。全く以て想像も付かない。

 

「・・・変化のパターンもまた複雑だな。全部記憶し切るには定着作業が必要になるね。」

 

「いえ、恐らく次のパターン変化はエデン条約の調印式より少し後の筈です。これはベアトリーチェも干渉ができない構造ですので、恐らく大丈夫かと。」

 

「なら行けそうか?アリウス分校への侵入ルートが確立したなら、調印式のどさくさに紛れての侵入の方法を取ろう。調印式襲撃でも鬱憤晴らしに少し戦るか。」

 

広げられた地図の構造を片っ端から頭に叩き込みながら、イサネは依頼の達成プランの骨組みを組み上げる。

 

「黒服、今から私が言う装備を明後日までに調達して。出来ないとしてもなるべく早く調達して私の元に届けて。」

 

「依頼の達成は出来そうですか?」

 

「出来ない事はない。ただ調印式襲撃前に凄まじい準備の遅延と妨害が予想される。式前にトリニティ入りして情報収集とかはするけど、多分殆ど成果はないというのが前提で支援して。定期連絡はするけど、万が一には備えておいて。アリウスによる調印式の襲撃に合わせてカタコンベの割り出しと侵入を行う。」

 

「分かりました。その様にしましょう。それと私以外にも二名程、ゲマトリアのメンバーが居るのですが、彼らからの支援については期待しない様にお願いします。同じグループのメンバーだとしても、それぞれの方向性は全く異なるので。」

 

日が西に落ち始め、空に橙が混じり始める時間帯を過ぎて尚、イサネと黒服は机に広げた資料を囲んで作戦会議に興じ続ける。

 

 

「・・・関わりたくも無いイベントだが、如何な形であれ依頼は達成させる。」

 

 

大量の資料から流れ込む大量の情報をノータイムで処理して選別しながら、ぼそりと呟く。

 

 

 

「私はレイヴンじゃ(I'm not Raven)ない・・・けど――」

 

 

 

感情が薄まった目で、ほぼ無意識に言葉を紡ぐ。

 

 

 

「私は・・・私はリンク(I'm Links)スだ。依頼を受けて敵を殺す、傭(I am Mercenary)兵だ。」

 

 

 

標根イサネに翼は無い。黒い渡り鳥(レイヴン)の様に大空を飛び回る為の漆黒の翼は無い。しかし、土を踏みしめ大地を駆ける手足と獲物を無惨に引き裂く爪牙ならある。

 

 

 

―――無尽蔵の血と命を吸った、鋭利な爪と牙が

 

 

 

 






エデン条約周りっていうか、アリウス分校とベアトリーチェ周りが余りにも複雑でかつ調べても全然情報が出てこないので4章とか大分苦労しますねこれ。ただでさえ公式からアリウス分校が主題のメインストーリーが出るって公開されたのに、いまだエデン条約前なの流石に不味い・・・

あと今回急ぎ目で書き上げたので誤字脱字のチェックが緩いです。ごめんなさい。

ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?

  • 普通にイサネさんがボコって終わり
  • 誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
  • 先生やアリスクの目の前でぶっころ
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