ゲームを間違えてますよ奥さん()
因みに作者はトンネルくぐり大っ嫌いです。
ブラックマーケットの一角、それなりに名の知れた銃火器の販売店にイサネの怒号が響き渡る。
「おい黒服!昨日までに揃えろって言ったやつ武装以外なにも揃ってないぞ!どうなってる!?」
カウンター越しに座る店主の目の前で店主ではなく電話越しの相手に怒鳴るイサネの目付きは、普段戦闘中ですら見せる事のない見る者を凍てつかせる、非常に冷徹で鋭利なものとなっている。
『申し訳ありませんイサネさん。まさか装備を積んだトラックが貴重品の輸送車と勘違いしたゲヘナ生によって襲撃され、装備を奪われる事になるとは・・・』
「何だってこのタイミングで・・・いや、悔いるのは後だ。グレネードと夜間時の服は私がどうにかする。それ以外を急ぎ調達して。最終的な期限は調印式前日か2日前。」
『分かりました、そこに間に合う様調達を急ぎます。クックック・・・作戦開始でいきなりこの様とは、どうにもツキが無いみたいですね、お互いに。』
「・・・心当たりがあるんだからそういう事言うの止めろ。」
カウンター越しにほぼ無感情に何者かと感情の無い会話を繰り広げるイサネにかなりの恐怖を感じながら、店主の獣人は恐る恐るイサネに渡す様その何者かに頼まれた品々――想定されていた量の約半分をイサネに差し出す。
「あ、あの、イサネ様。ご注文いただいた品の点検が終わりました・・・だ、代金の程は既に受け取っているのですが・・・その・・・」
「装備が殆ど揃っていない事と貴方に関係性はない。貴方は金を貰って仕事を遂行した・・・そこになんの問題がある?仕事を無事に終えたんだ、何を心配する事がある?」
「ひぃっ!?」
通話を切ったイサネは威圧オーラ全開のまま、怖がる店主に普段よりも多めに言葉を投げ掛け、段ボール箱に入っている装備――アサルトライフルとハンドガンをてきぱきと身に付ける。ナイフと共に持参したコンバットブーツはきっちりハーネスベルトに固定する。
(主兵装のM4A1はアタッチメントも含め完全な状態。サイドアームのM17はフラッシュライトが無いだけ。ククリとナイフ3本は持参だが・・・スニーカーでまともに交戦するとなると蹴り技は封印しないといけないな。)
事の発端は今よりも3日前。イサネは黒服が出した依頼を紆余曲折の末に受諾し、複雑極まるトリニティ総合学園とエデン条約に関する渦中に飛び込むベく作戦立案から事前情報の整理、そして依頼遂行に必要な物資装備の見積もりなどを行ったのだが・・・
(うーん、コンバットブーツに仕込む金属板が無いのかぁ。これもしかするとアリウス自治区に入ってからも靴に気を使わないといけない感じか・・・?)
主兵装としてイサネが選んだ武器、M16A2のカービンモデルにして拡張性と汎用性に優れるM4A1や副武装である軽量で携帯性も高いSIG SAUER M17の銃そのものや弾薬こそ何事も無く届いたのだが、先のエリドゥの一件でも用いたコンバットブーツの金属板の替えやグレネード類にハッキング用ノートパソコンなど様々な装備が不慮の事故により納品日に間に合わなくなってしまった。
「OK、装備が最低限すら割っているけど、まぁこれで行こうか。じゃ、またね。」
頼むから店内で怒鳴らないで欲しい、と言うかもう来ないで欲しいという店主の心の声を背中に受けながら、受け取った装備を身に付けたイサネは店のドアを出、傘入れに立て掛けておいた愛銃【quid est pax】を掴むと、すたすたとブラックマーケットの喧騒に姿を消す。
あの日、日が暮れ夜が更け尚一度完成した作戦を崩して一から組み直したり失敗時のリスクや事前情報を何度も確認し直したりと、碌に食事すらも取らないまま黒服との話し合いが続いた。
その結果、最終的に組み上がった遂行プランはエデン条約調印式にアリウス分校が行う襲撃の混乱に乗じてアリウス自治区に侵入する事以外の全てがほぼイサネ任せというとんでもない作戦であり、企業連がリンクスに向けて出す依頼の作戦プランと見紛う程のスカスカプランとなった。
――・・・黒服、これ本当に作戦なの?
――これを作戦と定義できるかどうかについては、それこそ人の解釈次第でしょう。
――じゃあ貴方はどう思う?
――・・・作戦、では・・・ないかと。
――・・・事ある度に予測出来ないから場の状況に応じてーってやった結果だぞこれが。
その日の深夜2時。初期の形で組み上がった依頼遂行のプランを印刷したA4サイズのプリント数枚を順序通りに並べた机を前に黒服と交わした会話の回想。イサネがリンクスとして様々な依頼を遂行してきた経験が無ければ、この依頼は遂行プラン立案の段階で失敗に終わっていただろう。
だが、トリニティやゲヘナへの復讐の為に年単位で計画を練り準備を進めてきたアリウスの軍勢を限られた時間の中で看破し、更には歴史のベールに隠されたその本拠地の奥に居るベアトリーチェをどうにかしないといけないとなるとそういう作戦にならざるを得ないとも言える。
『そこを通れば現在正義実現委員会が敷いている臨時検問所を通らずにトリニティに入る事が出来ます。検問所では通行許可者に対し何か許可証などを発行している訳でもないので、治安維持組織等に侵入さえ見られなければ問題はないでしょう。』
「はいよ。トリニティ入りしたらまずはホテルのチェックイン。部屋で一通り情報精査の環境が整えられたら学外での情報収集を始める。」
一般的なマップや地図において、ブラックマーケットと認識されているぎりぎりの境界線。廃墟と胡散臭い建物が疎らに点在する如何にもな場所。イサネはその一角にある閉鎖された何かの建造物に取り付けられた鉄格子の扉をその膂力を以て抉じ開け、スマホ片手に地下へと続く老朽化著しい階段を降りていく。
『そこはかつてハイランダー鉄道学園が地下鉄の建設を試みた場所なのですが、ブラックマーケットの様々な勢力の妨害により建設は中止。基礎工事も中途半端なまま閉鎖されました。今やここの存在を知っている者は極少数です。』
「・・・地下鉄のトンネルが、トリニティ郊外のどこかに繋がってるって事?」
『はい。経路は貴方の端末に送った通りです。移動方法はお任せします。そして整備されていない地下はどうしても通信が届きませんので、これで一度失礼します。』
「はいはい。トリニティに着いたら連絡する。」
通話終了のマークを押すとほぼ同時にスマホをポケットに突っ込んだイサネは、明り一つない地下の暗闇を光量強めの懐中電灯を左手に恐れも無く進んで行く。
(基礎工事も中途半端なまま閉鎖したとは言っていたが・・・なるほど、入ってすぐの段階ですらコンクリートや埋蔵物の設置が終わっていない。これだとこの先本当にただの洞窟を進んで行く事もあり得そうね。)
懐中電灯の光で地形を把握しながら、改札口と思われる場所を抜けて更に階段を降る。所々蜘蛛の巣や虫の気配に羽音などはあったものの、虫の楽園になっていないのは幸運だった。
(うん?ここにも鉄格子があるのね。もしかして、区分けして閉鎖でもされてる?)
地図に従い勘に従い、道を塞ぐ鉄格子を抉じ開けて瓦礫の山を除けて、イサネは生き物の気配の感じられない不気味なトンネルを懐中電灯片手に一人進んで行く。
不気味な地下トンネルに蔓延する暗闇は、存在を隠蔽するかの様にイサネの姿形を飲み込――
―――めなかった。飲み込めなかった。
「・・・誰も居ないなら飛ばすか。」
数年単位で放置され、日の光が届かず暗闇に閉ざされた地下トンネルの中に、一筋の翠緑が光を散らす。そして遅れた衝撃が、トンネルを叩き揺らす。
(うん、こっちの方が速いな。まぁこういう徒歩よりも速い移動手段を持ってるなら、使わない選択肢はないよね~。日常での多用は出来ないけど。)
電車を通させる為か人サイズから見てかなり広く掘削されたトンネルを、イサネはその身に流れる
トリニティ自治区とブラックマーケットの間、推定するまでもなく数十km以上の距離。いくら警戒網の隙間を潜っているとはいえ、何かの企画でもないのにその距離を徒歩で行くなど馬鹿のする事。そこで頭脳明晰イサネちゃんが弾き出した答えは、私超高速で飛べるんだから飛べばいいじゃん。である。
はっきり言って馬鹿の考えだ。地下トンネルなどという閉鎖空間を音速で駆け抜けるというのは可能不可能を考慮の外に置いたとしても馬鹿げているとしか言われない話だ。妄想と言ってもいいかもしれない。危険性など最早言うまでもない。
とち狂った地下トンネル飛行においてまず最初に挙げられる問題は音速で移動する物体に伴う
物体の常識的な速度の移動によってゆっくりと押し退けられる空気が音速を越えて進む物体にぶつかり、押し退けられる間もなく無理矢理圧縮された事で生じる周囲の空気との圧力差が音や空気の揺らぎの次元を超える事で発生する現象。これを
通常の環境なら発生したソニックブームはそのまま外側へと拡散し、やがてその威力を失う。が、閉鎖空間で発生したソニックブームは発生した瞬間に壁に衝突し、強く反射して残る。そして反射された衝撃波が更に壁に反響する・・・という現象が続き、内壁に凄まじい衝撃を複数に渡って与える事になる。それが創作に登場する不壊の物質でできた空間ならまだしも、基礎工事も終わっていない様なトンネルに叩きつけられようものなら・・・どうなるかなど想像に難くない。いや、逆に想像が難しいかもしれない。
ドゴォォン!という音と言うには余りにも威力を持ち過ぎた巨大な空気の揺らぎが、ただ掘られただけに等しいトンネルに反響し、一応ある程度滑らかになっていた内壁をべりべりと引き剥がす。
(前に瓦礫が3つ。)
更に言うのであるなら、内壁で反射した衝撃波は音速で飛行する物体にも襲い掛かる。衝撃波によって加速の方向を物理的に狂わされた挙句全身を不可視の打撃に打ち据えられ、派手に内壁に衝突。圧倒的加速度に押されるがまま大根おろしの様に肉体をすり下ろされて一つの命が挽肉らしき何かになる。
(あとスマホの地図が正しいなら出口まで後3分の2くらいか。PA維持とOB分の生成量の維持はどちらも出来てるし、後はどこで一度に生成できる量の上限に近付いて力尽きるか次第だなぁ。)
コジマ粒子を操る能力による飛行がAMSによるネクストの操縦感覚と同じなのもあって、1mmでもミスやずれが生じれば死がほぼ確定する極限の状況にあっても、イサネは別の事を考えながらかつ時折QBを吹かしながら曲り道の曲線を寸分の狂い無く辿り、所々にある障害物を遊魚の如くひらひらと避け進み、更なるコジマ粒子の炸裂と共にかっ飛ぶ。
年単位で放置され、暗闇に閉ざされたトンネルは、イサネの手によって今やキヴォトスの住人ですら本格的に死が見え始める様な地獄空間と化している。そして同時に、イサネが巻き起こす破壊の嵐は地下のみならず地上にまでその影響を及ぼす。
「な、何だこの音は・・・すげぇでかいぞ。」
「下に何か居んの?しかもちょっと揺れて・・・いや、まじで地震だ。」
「怖っ・・・逃げるか、今の内に。」
イサネの大暴走によって廃棄されたトンネルを荒らし尽す衝撃波は地下だけに飽き足らず、地盤を伝播しそこそこの揺れと底から響く地鳴りとなって地上に現れ、そこで普段通りの日常を暮らす者達に非日常を誤解させる。
『地鳴りですか?』
「はい。ブラックマーケットとの境界付近で地震と共にそこそこ大きな地鳴りが・・・」
『温泉開発部・・・この重要な時期に何故そう面倒事ばかり・・・!いえ、ブラックマーケットで起きた事件の責任はかの地域の性質上学園に影響し辛い。・・・追加で2個小隊を送ります。再び地鳴りが聞こえたら証拠と共に報告してください。』
「了解。」
それこそブラックマーケットが自治領に隣接しているゲヘナ学園にもまた、厄介事として
・・・まぁ、だから何だという話ではあるのだが。
地上でそんな事が起きているなど露も知らぬイサネは、息を吸う様にOBの超加速にQBを併用。地上はおろか閉鎖された地下トンネルへの被害をも考慮せず、全長数十kmのトンネルを約1000km/h超という速度で駆け抜ける。
「・・・報酬、後で黒服とちゃんと決めないとな。」
これは後の世(数か月後)に、キヴォトスで戦場を駆ける傭兵達の間で御伽噺となった話。
――――キヴォトスには、長いトンネルを音速でぶっ飛んだ
今回はかなり短めです。なんかこの部分だけで一本書けそうじゃね?と思ったのでゴリ押しを敢行する事となりました。・・・ウソですこの後に繋げられる話が全然出てこなかっただけですごめんなさい。
それと物体が音速を越えた速度で移動する事で発生するソニックブームについての説明ですが、正直あれで万人に伝わるのか分からないし何なら調べても「何がどうなっているんだ」状態になったので正しい知識としてソニックブームの原理が知りたかったら自分で調べてください。
ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?
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普通にイサネさんがボコって終わり
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誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
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先生やアリスクの目の前でぶっころ