透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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ハナコエミュがムズ過ぎるんじゃ!あんな超多様な語彙とヒマリリオに並びかねない頭脳から繰り出される卑猥な言動とかどうやって出力すれば良いんだよ!!(泣)

何やっても「奴だから」で全て納得がいく某プリティーな葦毛の悪魔が羨ましい・・・!




その傭兵、学はあるが学歴はない。ついでに常識も無い

 

 

 

 

トリニティ自治区、学園から遠く離れた郊外区。

 

「え!?あんたってあの万物の天敵なの!?ハスミ先輩が定例会議で超要注意人物だって言ってた・・・!」

 

補習授業部の合宿先に割り当てられた小型の学校施設、その内の教室にコハルの甲高い驚愕の声が強く反響する。

 

「・・・不本意だけど、ブラックマーケットに居る大勢は私の事をそう呼ぶみたいね。本当に不本意だけど。」

 

それに言葉を返すはコハルの言った万物の天敵本人こと標根イサネ。本来なら今頃滞在中のホテルに戻りシャワーなり黒服と連絡なりをしている筈だったが、ハイリスクを強引に敢行した結果追いに追い回されここ――補習授業部の合宿所に迷い込んだ。

 

「ここに来たのって依頼なんだっけ?どういう依頼かは聞いても大丈夫?」

 

「契約に触れるから具体的には言えない。ただ本来なら都市部の方でテキトーに突っ立ってれば全部終わる筈だったんだけど・・・まぁ今ここに居るってのはそういう事で。」

 

恐らく好奇心から来る先生の質問に知られたくない事を適当にぼかし嘘を挟んだ答える。取り敢えず依頼という事は間違ってないし、調印式まで滞在場所でだらだらしてれば最低限問題はなかったので決して嘘ではない。・・・本当でもないが。

 

「そっか、イサネも大変だね。」

 

「別に依頼は完遂できてるだろうから良いんだけどさ。それより・・・」

 

イサネの事情にいたわりの言葉を投げ掛ける先生に、イサネは問い返す。

 

 

「こんなトリニティの辺境にこれは何の集まりなの?後そこの3人はそれぞれなんて呼べば良い?・・・一人凄いガン飛ばしてくるのが気になるけど。」

 

 

つ、とイサネが向ける視線の先には先程から物珍しいものを見るかの様にイサネを見る浦和ハナコ、友の仇と言わんばかりに睨んでくる下江コハル、そしてヒフミから手当てを受けながらじっとこちらを見つめる白洲アズサの3人。既に資料で容姿と名前を知っているが、一応初対面である為初めて知りましたという演技をしておく。

 

「あ、確かに自己紹介がまだでしたね。じゃあちょっと簡単にはなっちゃうんですけど、左から順に2年生の浦和ハナコちゃん、同じく2年生の白洲アズサちゃん、そして1年生の下江コハルちゃんです。」

 

「ふふ、よろしくお願いしますね?」

 

「よろしく。」

 

「・・・ふん。」

 

イサネの言に反応したヒフミが簡単にだがそれぞれの紹介を行う。反応は三者三様ではあるものの、ハナコとアズサは特に問題は無さそうに思えるが、コハルの視線だけは相も変わらず厳しいままだ。

 

(容疑者3の人質1。ここまでは資料通り。で、コハルが正義実現委員会属だから・・・いやぁ、随分と嫌われたなぁ。どっちかといえば被害者側なんだけどねぇ、今の所は。)

 

補習授業部の実態が資料通りである事を確認したイサネは、一先ず自分に向けられる大分強めな敵意の籠った視線から反応していく事にする。

 

「ハナコ、アズサ、コハル。うんうん覚えた覚えた・・・のは良いんだけど、やっぱりなんか凄い嫌われてない?私何かやらかしたかなぁ?」

 

「え?あ、こ、コハルちゃん、幾ら校則上は不法な侵入をしたとは言っても、初対面の人をそんなに睨んじゃ色々と失礼ですよ・・・!」

 

案の定ヒフミがそれに反応してくれるが、愛銃を抱えてこちらを睨みつけるコハルの反応は概ね想定通りだった。

 

「何言ってるのよヒフミ。こいつはあの標根イサネなのよ!?万物の天敵、私達正義実現委員会が超要注意人物としてずっと動向を探っている危険人物その人なの!ここに来たのだって絶対何かあくどい企みがあっての事に違いないわ!」

 

「でもイサネさんはもう依頼は終わってるって・・・」

 

「そんなの私達を騙す為の嘘に決まってるわ!いいかしら?少しでも怪しい動きなんてしてみなさい、あんたなんてすぐにとっ捕まえて委員会に突き出してやるんだから!」

 

「うわぁ凄い敵意だ。」

 

想定以上に自分の事を敵対視しているコハルだが、正直そこまでの脅威は感じられない。というか何なら正義実現委員会を笠に着ている様にしか思えない。

 

(・・・敵を前にした時に自分の意識がある状態で持つ銃の持ち方じゃない。そもそも捕まえるつもりならどうして銃口をこっちに向けないんだろう。)

 

捕まえるなどど言っている割に戦闘態勢どころか銃を腕に抱いてただこちらを睨むだけという目の前の小柄なピンク髪の生徒に「こいつ本当に捕まえる気あるのか」と疑問を感じながら、イサネはコハルの敵意を削ぐべく思った事を口に出す。

 

「捕まえるってなら銃くらいちゃんと持ちなって。そんながっつり抱き込んで捕まえる気ある?」

 

「あ・・・!いや・・・これは、その・・・あれよ!ここに居る先生と皆を戦いに撒き込む訳にはいかないから、止むを得ず警告だけに留めたってだけよ!」

 

「仮にも治安維持組織の人間が危険人物を目の前にあれこれ言い訳なんてするんじゃない。指摘されて尚銃を碌に構えない君に一体何ができる?」

 

イサネの指摘にコハルは思いっ切り動揺をした後、尤もらしい言い訳を始める。敵意を削ぐつもりがイサネが大いに嫌う類の言動のかなり真ん中を叩き込まれてしまったが、これ以上の面倒事は御免だと騒めき立つ怒りを内側に抑え込む――

 

 

「・・・あっ、ごめんグレネードのピンが外れてどっか落ちちゃった。」

 

 

と同時にそんな事を口走りつつ腰回りを触ってみる。これはコハルの言動に燃え上がった怒りと同時に湧き上がった微かな悪戯心。イサネはこれを自身の内部に溜まった怒りを納める供物として利用する事にした。

 

「いゃぁっ!!?」

 

「え!?ちょっとイサネ!?」

 

「イサネさん!?」

 

「あら・・・?」

 

すると案の定というべきか、コハルが完全に虚を突かれたと言わんばかりの大リアクションを返してくれた。大きく目を開き、大慌てで床に視線を滑らせる。コハル以外にも1人か2人程ぎょっとした反応をしていたが、ここはコラテラルダメージという事で認識しなかった事にしておく。

 

「ははっ、嘘だよ嘘嘘。コハル、緊張し過ぎだよ。警戒を怠らないのは良い事だけど、そんな露骨に敵意を剥き出しにされると却って相手を刺激して逆上させちゃうよー?」

 

コハルが見栄っ張りのプライドを反して、逃げるのではなく爆発の被害から皆を守る為に転がった手榴弾(イサネの嘘)を血眼で探していた事に少々の感心を覚えつつ、イサネはけらけらと笑う。キヴォトスの住人が頑丈と言えど、雷管が叩かれた手榴弾から仲間を庇おうとする奴は見た事がない。だが、それを割と迷いなく実行に移した下江コハルの行動は、彼女の隠された長所の現れなのだろう。

 

 

・・・因みにだが溜飲はそんなに下がらなかった。やはり苛立ちは直接ぶつけるに限る。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「えっと、まぁ皆知ってるだろうけど改めて。標根イサネ。傭兵バイトとしてブラックマーケットを中心に活動してる。報酬は取るけど、やって欲しい事があるなら大体誰からでも何でも言ってね。それじゃ改めてよろしく。」

 

イサネの悪戯により一時場が騒然となったものの、先生の叱責やイサネの周りを漂っていた警戒心がかなり解れた事により場の雰囲気もまた昨日までの補習授業部へと変遷していった。

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

「うん、よろしく。」

 

「よ、よろしく。」

 

しっかりと傭兵の売り込みも忘れないイサネの自己紹介に三者三様の反応を返す初対面に3人を見て、先生は苦笑を漏らす。

 

「相変わらずだね、イサネは。あとここは皆で頑張って掃除した場所だから、余り汚さないで欲しいかな。」

 

「あー、それについては申し訳ないことをした。・・・それにしても補習授業部かぁ、成績不振の生徒の救済措置ってのは分かったけど、具体的には何をしてるの?」

 

そんな先生に対し、謝罪と同時にふと湧いて出た純粋な疑問を投げかけるイサネ。AMS適性があるかの検査やカラード所属のリンクスとして順守すべきルールを問う簡易テストなどは受けた経験のあるイサネだが、教育機関に通った事がないので学力を問う試験の類は一切の経験がない。故にイサネにとって、補習というものはほんの少しばかりの興味を湧かせる。

 

「具体的に、と言っても結構シンプルだよ。模擬試験をやって、答え合わせをして、どこが間違っていたのかの間違い直しをして、分からない所を教える。それが終わったら自習って流れで、そんなに何か特別な事はやってないよ。」

 

「へぇー、補習ってそんな感じなんだ。あーいや、どちらかと言えば泊まり込みだからこそのスケジュールって感じか。」

 

「ヒフミが考案してくれたやり方なんだ。私は模擬テストの作成と答え合わせとか、分からない所を教えたりとかをするだけだよ。」

 

先生の説明に頷く事で内容の理解を示す。生徒の主体性を重視する先生のやり方を差し引いても、教育機関に通った経験の無いイサネはその辺が全く分からないので、一先ずそういう感じなんだと感想を零す。

 

 

「私学校とか通った事ないから、補習授業部って聞いても余り想像が付かなかったんだよね。でも何となく理解出来たよ。」

 

 

「え?」

 

 

はてさて今の「え?」は誰の声か、空気が凍る。そんな中イサネだけが固まった先生含め5人を見て首を傾げる。

 

「あれ、私何か不味い事言った?」

 

「え、イサネ?その、学校に行った事ないっていうのはどういう・・・?」

 

「そのまんまの意味だけど。」

 

イサネの口から次いだ言葉を皮切りに先生が恐る恐る問い掛けるが、無いものは無いし嘘をつく理由も無い。無いのだが、ここは嘘をついてでもそういう事を口走るべきではなかった。

 

「えっ!?学校に行ったことないって流石に冗談ですよね!?中学校には――」

 

「だからないって。というか言われてみればそういう施設に通った記憶がないね・・・あぁ、これが学歴って奴なのか。あの人が言っていた事が漸く分かったぞ。」

 

「嘘でしょ!?じゃあ傭兵バイトなんてしてる場合じゃないじゃない!」

 

「学歴なくても別に生きていくことは出来るから。それに四則計算が出来れば問題無くない?」

 

だが、一般常識にすら難のあるイサネにここで口走るべきではない事など分かる筈もない。故に普通に質問に流されるまま馬鹿正直に答えてしまう。その結果――

 

 

「・・・イサネ、悪い事は言わない。ここで一緒に勉強しよう。」

 

 

「なんでそうなる。」

 

 

当然生徒を導く以外にも教師としての役割と技能も持つ先生が見逃す筈もなく、何やら決意の決まった瞳で割と至極当然な事を言う。

 

「嫌だよ面倒臭い。それに別に今のままでも生活できてるし――」

 

「そんなことないよ!今勉強しておかないと未来ですっごく苦労する事になるから―――いや分かった。イサネ、ダイスで勝負しよう!出目の計が大きい方が勝ちで、私が勝ったらここで一緒に勉強をしよう!大丈夫、ナギサとかには報告しないから!」

 

「だからどうしてそうなるんだ。そもそも私に何のメリットが――」

 

理論武装からゴリ押しに変わった先生に困惑しながらもなんとか逃げようとするイサネ。だが、現実はそう甘くはなかった。ひっくり返ったラッキーコインの裏は普通にアンラック。

 

「あら、良いじゃないですか。人が増えればその分賑やかになりますし。」

 

「それ貴方のメリットじゃん。私のメリットはどこにもなくない?」

 

「そうだ。私もイサネの戦い方を学ぶ必要がある。だからどうにか出来ないか?」

 

「だからそれはそっちの都合だよね?」

 

「じゃあまずは私から行くよ!!」

 

「おいちょっと待て振るんじゃないやめろやめろ――」

 

ハナコもアズサも反論無し。そしてイサネの制止も虚しく先生は懐から取り出したサイコロ二つを少し大げさに構えて振る。

 

 

「出目は5と3。まぁまぁといった感じでしょうか。」

 

 

結果は5と3で合計8。そしてイサネが選べる逃げ道はこの賭けに勝つ以外に無くなった。

 

「だから勝手に振るなって。く・・・しかももう逃げられないじゃないかこれ・・・最悪だ。」

 

サイコロを振る義理など無いと逃げれば「逃げるのか」と煽られる(リンクス時代の記憶)、あれこれ理屈を並べても同じ事。つまるところ振るしかない。

 

「くそったれ・・・もう振るしかない。頼む、9以上だ。私なら出来る。カーパルスとラインアークを生き残った私なら出来る筈だ・・・!」

 

エデン条約を控えた今、こんな所で足踏みだけはしたくない。イサネはかつて自らが体験した死線を思い出しながらサイコロ二つを手に取る。

 

 

 

「やってやるッ!!私はッ、万物の天敵だ(人類種の天敵だ)―――」

 

 

 

不本意である今の自身の異名に縋り、なんなら前世の異名にすらも決死の祈りを捧げて右手に握ったサイコロを振るい―――

 

 

 

―――1と2。

 

 

 

「うぅああぁぁぁぁぁぁぁぁーーッ!!!」

 

 

 

出目の合計3。標根イサネ、それは最も悪運に好かれた女。運での勝負になった時点で、イサネに勝ち目と言える勝ち目は欠片たりとて存在していなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「それじゃあ授業を始めるね。最初にどこまで出来るかを知りたいから、まずは渡した教科書の32ページを開いて。最初は数学から。」

 

「32ページ・・・これは因数分解ね。まぁ随分と懐かしい。」

 

補習授業部の4人がそれぞれ午前中の模擬テストの間違い直しや自習を行う中、サイコロ勝負に見事敗北したイサネは大分不本意ながらも負けを受け入れ、今はシャーレの先生とマンツーマン授業を受けていた。

 

「お、因数分解は知ってる感じかな?じゃあ69ページはどう?」

 

「・・・なんか放物線のグラフであったなこれ。なんて言うんだっけ?」

 

「二次関数って言って、イサネの言う通り物理以外にも工学とかで多く使われているよ。二次関数を知っているとすれば、高校一年生で習う内容は大体分かる感じなのかな?」

 

「いや知らないけど。」

 

先生が行ったのはイサネにどこまでの学があるのかについて。基礎あってこその応用、中学校で習う内容から始め、1対1という授業形態を利用し、一つずつ内容を確認していった。

 

 

「うーん、じゃあここが怪しい感じだからここからにしようか。教科書の109ページを開いて。」

 

 

「109・・・あぁ、これね。了解。」

 

 

そうして標根イサネことかつて人類種の天敵と恐れられたイレーネは、人生初の教員免許を持った人が開いた授業に臨む。

 

 

 

 

ここで一つ、標根イサネはリンクス――言わば強化人間である。それもただのACではなくネクストAC専用のチューニングが施された特別仕様。AMSに接続する接続口以外にもネクストの生み出す異次元の加速に耐えられる肉体と筋力、それ以外にも各種センサーから送られてくる莫大な情報を超ハイG環境で瞬時にかつ正確に認識するだけの脳の演算・認識能力の強化が彼女の身体には施されている。要約すれば超力持ちで超頑丈で超頭良い。

 

 

標根イサネは教育機関に通った事がない。それは事実である。ただ彼女の母親代わり兼師匠の元リンクス、セレン・ヘイズがイサネ――もといイレーネに教育を施していなかったかといえばそれは否だ。むしろ四則計算などの初等教育から中学校のカリキュラムである中等教育前期、そして高等学校で習う中等教育後期まで、拾われてからカラードに登録された後も暫くの間、イレーネはセレン流教育術の元ネクストの知識以外にも基本的に学校で習う学問を徹底的に教え込まれた。

 

 

つまるところ、イレーネ――もといイサネにとって高校の授業などとうに通り過ぎた場所であり、並外れた記憶能力と領域を有する彼女にとってこれらの授業は本当に今更な話なのだ。強いて問題を挙げるなら、セレン流教育術にはこの内容は中学校で習う内容だ等のどこで習う学問なのかの注釈が無い為にこれらを「高校で習う学問」や「中学で習う学問」ではなく「この分野に分類されている学問」としか認識していない事くらいだろうか。

 

 

要するに――

 

 

「イサネ、ここ結構苦戦する人が多い場所なんだけど、本当に大丈夫なの?さっきからうんしか言わないのがちょっと不安なんだけど・・・」

 

 

「うん、全然大丈夫。何の問題もない。」

 

 

「本当に大丈夫なんだよね?後でここが分からないって聞かれてもちゃんと教えるけど、本当に大丈夫なんだよね!?」

 

 

この結果はある種必然であった。

 

「何も問題ないから先進めて。」

 

イサネにとって先生の授業で理解出来ない所など何一つとして無く、故に質問もこれが分からないもない。やろうとすれば1時間2時間程度なら人の発言をほぼ完全に記憶できるのでノートを取る必要もない。そして時折先生から出される問題もその驚異的な演算能力ですらすらと正答を導き出し、先生を別の方向で困らせる。

 

 

「えぇ・・・?ちゃんと全部正解・・・という事はもうこの辺は大体知ってる・・・?でもイサネはよく分からないって・・・一応嘘はついてなさそうだったし・・・」

 

 

補習授業部の4人が各々知恵を貸し合いながら勉強に勤しむ中、シャーレの先生は全く想定外の大きな大きな試練にぶつかる事となっていた。

 

「じゃあ明日の朝に補習授業部の皆と一緒に模擬テスト受ければ良いんじゃない?どうせ今日明日で終わりそうにないし、調印式まではここに居るよ。補習授業部の皆が良いと言うのなら。」

 

「じゃあ・・・そうしようか。キヴォトスに来てから色々な生徒を見てきたけど、イサネみたいなパターンは初めてだよ。・・・その、学園に通っていない事情はこっちが合わせるよ。多分聞かれる事になるだろうし。」

 

「あー、OK。適当にでっち上げておく。」

 

そうして先生の計らいにより本校にやや多めに注文された昼食夕食を分けて貰い(一度断った)、その後も補習授業部の一同とは別に先生の授業を受けたイサネは、書類仕事以外で初めて見る疲弊した様子の先生とイサネの特別な事情も含め軽く口裏を合わせ、数m先でそれぞれの勉強を行う補習授業部四人の方へ向かう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

イサネと先生のマンツーマン授業が色々よく分からないまま終わりを迎えた一方、補習授業部の4人はそれぞれがそれぞれ明日の模擬テストに向けて今の自分に出来ていない所、改めて出来ている所の確認などを行っていた。

 

「コハル、質問。」

 

「うん・・・え、私?私に!?」

 

「そう、コハルに。今同じ所を勉強している筈だ。この問題なんだけど・・・」

 

そんな中、ある事情により2年生でありながら1年生の範囲のテストを受けているアズサが同じ内容のテストを受けるコハルに声を掛ける。まさか声を掛けられると思っていなかったコハルはアズサの声に驚きつつも、偶々知っている所だったのか数瞬の後に解き方を口に出す。

 

「あ、これ知ってる・・・!これは確か、下の所と90度になる様に線を引く。そうすると、この三角形とこの三角形が一緒になる。分かった?」

 

「なるほど、そういう事か。助かった。これは確かに正義実現委員会のエリートというのも頷ける。」

 

「っ!?・・・そ、そうよ、エリートだもの!」

 

アズサの素直な感謝と称賛に胸を張るコハル。そんな様子をふと眺めていたハナコは、顔に柔和な笑みを浮かべてふと口を開く。

 

「あらあら、流石は裸の付き合いをしただけはあると言いますか、もう深い所まで入った仲という事ですね・・・♡」

 

「ちょっ、何言ってんの!?そういうあれじゃないから!」

 

まぁ開いた口から出た言葉は通常運転と言わんばかりの卑猥というか紛らわしい言葉であり、案の定コハルがそれにアレルギーの如く反応を示すのだが。

 

「うん?ハナコも体を洗って欲しいのか?」

 

「あ、あの、うぅ・・・」

 

「あ、コハル、もう一つ聞きたい。これなんだが・・・」

 

「ん?この問題は、えっと・・・」

 

最近のいつも通りを通常運転し始めたハナコの鎮圧に躍起になり始めたコハルにアズサはお構いなしに声を掛け、コハルも下らない茶番を止めてそれに応じる。が、どうにも答えに詰まる。

 

「コハルも知らない問題か?」

 

「いや、この問題は・・・うーんと、確か参考書で見た様な・・・ちょ、ちょっと待って。確か持ってきてた筈・・・」

 

考える事十数秒、何か記憶に引っ掛かるが全容が出てこないコハルは業を煮やし、バッグを漁る。そして、

 

 

「んしょっ!」

 

 

小さな掛け声とともに取り出したのはピンクと赤紫色が表紙の参考書――ではなく、何かのムードを感じさせる赤紫色の背景に綿密に絡み合う男女の髪がピンクに抽象された表紙の端に「R18」という記載のある一冊の本だった。

 

「・・・?この本に載っているのか?」

 

それを見て目を大きく見開くヒフミとハナコ、疑問符を浮かべながらもそれがコハルの言う参考書なのかと問い掛けるアズサ。そして場の時が止まる。

 

「うん!この参考――あれ?」

 

「エッチな本、ですねぇ。」

 

アズサの問い掛けに堂々とyesを返そうとしたコハルだったが、表紙を見て首を傾げる。それに真っ先に喰い付き、一番槍を叩き込むは勿論彼女、浦和ハナコ。今度止まったのはコハルの時間、そして彼女の顔が一瞬で沸騰する。

 

 

「うわぁぁぁああっ!!な、なんで!?」

 

 

――そう、エッチな本、通称エロ本である。

 

 

「コハルちゃん、それエッチな本ですよね?まぁある意味参考書かもしれませんが。あ、隠しても無駄です。R18ってばっちり書いてありましたよ?」

 

 

羞恥と混乱の入り混じった叫びの後、目にも止まらぬ速さでその本と鞄に仕舞うコハルだったが、ハナコは食い入る様に追及の手を緩めない。

 

「ち、違う!見間違い!とにかく違うから!絶対に違う!」

 

「いえ違いません。私の目は誤魔化せませんよ、確実にあれな事をする本でした。それも結構ハードな・・・トリニティ、いえキヴォトスでもなかなか見る事の出来ないレベルの内容とお見受けしました。きっと肌と肌が擦れ合い嬌声が飛び交い理性が弾け飛ぶような・・・!・・・どうしてその様な本を持っているのですか?確か校則でも禁止されていた筈ですが・・・」

 

早口にも関わらず、一言一句噛む事無くかつ誰にでも聞き取れるような見事な滑舌でどんどん踏み込んでいくハナコ。

 

「い、いやっ、これは、その、本当に私のじゃなくて・・・」

 

「でもそれ、コハルちゃんの鞄から出てきましたよね?それを合宿所に持って来るなんて・・・お気に入りなのですか?」

 

割と一方的に捲し立てた後一人で勝手に何か納得した様に頷き、コハルに一歩、二歩と近づいていくハナコとそれに合わせて半歩つづ後退するコハル。事態の収拾は既に高難易度の領域に突入しつつある。

 

「ヒフミ、エッチな本って何だ?何かの指南書じゃないのか?」

 

「えっ!?そ、それはですね・・・その、なんというか・・・えっと・・・」

 

一方ヒフミもヒフミでその手の事に全く知識がないアズサに純粋な疑問としてエロ本とは何かと問われ、お年頃の生徒には中々答え辛い回答を前に言葉を詰まらせる。更にそんな軽い地獄の中――

 

 

「adult only・・・成人向け。R18、確かrating18・・・つまり18歳未満は閲覧禁止。つまりこの本は成人用の本という意味になるね。高校生以下は法律で所持が禁止されている奴だ。」

 

 

性知識こそあれど羞恥心を欠片として持たない危険人物、標根イサネが合流する。

 

「細かい内容は不明だけど、本の表紙から見て成人向け書籍の中でアダルトと言われて真っ先に思い浮かぶジャンルである性行為を描いた本ね。多分本屋のアダルトコーナーに入ればすぐ見付けられる筈。学生じゃ入れないけど。」

 

「えっ、ちょっとそんな何で急に細かく説明を――ってイサネ!?なんであんたが居るのよ!?っていうか何でそんな淡々とそんな事言えるのよ!!?」

 

どうせハナコの仕業と思い込んで声を上げたコハルが突如として場に現れたイサネに気付きリアクションしたのも束の間、表情の変化なくアズサの疑問に答えたイサネはそのままアズサの方へと歩いて行き、

 

 

「良いアズサ?表紙にR18って記載されている本を世間一般ではエロ本と言って、然るべき知識を以て読むと性的興奮を覚える事が出来る代物らしい。覚えて何になるかは知らない。因みにハナコの言っていた敏感な部分っていうのは所謂性器の事で、女性の場合だとまずは・・・」

 

 

と人前にも関わらず羞恥など知らないと言わんばかりの無表情で自分ワイシャツのボタンに手を掛けて服を脱ぎ始める。場が呆気に取られる中、イサネは瞬く間に黒灰のワイシャツのボタンを外してするりと袖から腕を抜く。

 

「まずは上半身。ここは生後数か月の幼児の栄養補給に使われるので性器ではないが、アダルト・・・まぁエッチな本と呼ばれる書物とかだとこの概ね胸部全体の事を―――」

 

そしてワイシャツを脱ぎ捨てたイサネの手が自身の胸部にそびえる黄金比の双丘を抑え覆い隠す運動用ブラジャーに掛かった時、漸くヒフミとコハルが動く。

 

「あ、あ、あ、あの、イサネさん、ちょっと、本当にちょっと待ってくださいッ!!」

 

「ばばばば馬鹿っ!!何しれっと脱いでるのよ!?あんたもハナコと同じ変態なの!?」

 

「は?アズサが分からないって言うからあれらがどういう物なのかを説明してるだけでしょ。丁度良い実物だってここに幾つもあるんだか―――もごご。」

 

「ちょっと本当に黙ってッ!!」

 

コハルとヒフミの決死のタックルによって取り押さえられ、コハルの手で大分強引に口を塞ぐ事で漸く止まるイサネの奇行。

 

「あ・・・ちょっとそんな頭に体重掛けないで、普通に痛いしあれが見えちゃう。」

 

「変な事言ってないでさっさと服を着なさい馬鹿!アズサになんてことを教えてんのよ!」

 

「医学的に確立されている性知識。」

 

「そういう事言ってんじゃないわよッ!!」

 

床に抑え付けられた状態で脱いだワイシャツを半ば押し付けられる形で着せられる中、もぞもぞと蠢いて抵抗をするイサネ。凄まじく酷い絵面だが、それでも収集不可能の無間地獄は回避できた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ私はコハルと一緒に正義実現委員会の押収品保管室に行ってくるから、ちょっと待っててね。ヒフミ、イサネに寝室の場所を教えてあげて。」

 

「あ、はい!分かりました。」

 

「別に外のベンチとかで・・・いや、まぁここは従っときます。」

 

バッグから出てきたエロ本を皮切りに始まった一連の騒動が鎮火。エロ本はコハルの物ではなく彼女が学内で没収した物との事だが、急な特別学力試験のスケジュールと合宿によって押収品保管室に置く事が出来ずに彼女のバッグの中で眠っていたという事らしい。

 

「それじゃあイサネさん、私達が合宿で使っている寝室を案内しますね。」

 

「私一応部外者だし、別室とかでも良いよ?最悪外のベンチで寝るし。」

 

「そんな所で寝れば確実に風邪を引いてしまいますよ?大丈夫です、私もアズサちゃんも、イサネさんとベッドを共にする事を嫌とは思っていませんから。コハルちゃんは態度こそやや難があるようですが、嫌とは言わない筈です。」

 

「そう?まぁそこは信じてみるか・・・」

 

先生とコハルが本校に向かうのを見送ったイサネは、ヒフミやアズサ、ハナコの案内に従ってここ数週間の滞在が確定する事となった寝室に向かう。

 

 

 






補習授業部のシーンは殆ど原作と差異が無くなる可能性があるので大きく省略します。ぶっちゃけここの文面だけで伝えても「分かる訳ねぇだろバカ」となるだけなので実際にその辺の話が投稿されてから「あぁ、こういう感じで省略したんだな」くらいに思っといてください。正直どうでも良いっちゃ良いので忘れても何の問題もありません。

ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?

  • 普通にイサネさんがボコって終わり
  • 誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
  • 先生やアリスクの目の前でぶっころ
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