透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

76 / 90


ウマ娘の二次小説ネタを練っていたせいで執筆がだいぶ遅れました。申し訳ない。




シュレディンガーの猫はその密室で何を見たのか

 

 

 

 

「じゃあ私は先に寝室に戻りますので、イサネさんも体を冷やさない内に帰って来て下さいね。」

 

「んー。」

 

ヒフミの言葉に頷きながら、ぱたぱたと合宿所の中へ入って行く彼女をぼんやりと見つめる。

 

(・・・流れに流れて、まさか政治の渦中となってる奴らと一緒にする事になるとは。)

 

どうにも本校から移動手段を提供して貰ったらしい先生とコハルが思ったよりも早く合宿所に帰ってくる中、一足先にシャワーを終えたイサネは着替えが無い為今の今まで来ていた服をそのままに、外のベンチに背を深く預け星々が煌く夜空をただぼーっと眺めていた。

 

ここ数週間の足止めが確定してしまったものの、今回の依頼において設けたメールアドレスに明日の午前中に連絡するという旨のメールは送ったので今はもう寝る以外にする事も出来る事も無い。

 

「あいつらはある程度心を許してくれたみたいだけど、なんでだかベッドで寝る気にならないんだよな・・・どーしよ。」

 

体を横に倒し、ベンチを占領する形で寝っ転がる。今日の夜空は晴天、都心部の様に周囲に強い光源も無い為星が本当によく見える。これもまたイサネが心を灼かれた空の内の一つ。無限に続く澄み切った青を昼とするならば夜は宇宙(そら)の深淵と限りなく広がる夢幻と狂気を映し出す昏くも輝く妖しい煌き。

 

「パーカー一枚だけで十何年も汚染地帯で生きてきた人間が、今更外で寝たくらいで風邪なんて引くのかなぁ。ましてや今はリンクスだし。」

 

ホテルの出発時から今の今まで捲っていた黒灰のワイシャツの長袖を戻して最低限の熱が逃げない様にしつつ、微かに微睡み始めた意識に身を任せる。

 

「ベッドなんてとうに慣れ親しんだと思ってたんだけどなぁ。何で今更になって外のベンチで寝ようとしてるんだか。」

 

そんな事をぼやく傍ら、姿勢はそのままに軽く周囲に耳をそばだててみると案の定というかなんというか、建物の壁一枚を挟んでわいわいと元気な補習授業部の話し声が聞こえてくる。まぁ会話といってもやれヒフミの香りがどうだの皆で体を洗い合うだの概ねハナコが始めそうな話ばかりで特に興味を引かれるものではなかったが。

 

そこから大浴場の無い合宿所で如何にして皆一緒にお風呂に入るかだったり昨日の大掃除の際にハナコが着用していた水着は本当に水着だったのかだったりと特に興味もない話が続き、つい増大した眠気に身を委ねようとしていたイサネだったが、恐らくアズサと思しき声が告げた言葉にぴくりと反応を示す。

 

 

「・・・なるほど、五つ目のあれか。」

 

 

五つ目のあれ。何か曰く付きな御伽噺でもあっただろうかと、イサネは完全に落ちかけていた思考回路を叩き起こす。

 

「ただの聞いた話だけど、キヴォトスに昔から伝わる7つの古則。それの5番目、だったはず・・・確か――」

 

 

 

――楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事は出来るのか。

 

 

 

一言一句間違いの無い様に壁越しに聞こえるアズサの声を反芻し記憶する。7つという事で他の古則も聞けるかと思ったのだが、次いだ彼女の言葉がこの古則がアリウス分校以上にキヴォトスから忘れ去られている可能性がある事を教えてくれた。

 

「・・・そんな感じだった気がする。残りは知らないけど。つまり、誰も証明できない楽園は存在し得るのか。・・・そういう禅問答みたいなものだったと記憶している。」

 

「アズサちゃん、どうしてそれを・・・その話を知っているのは・・・」

 

そんな事を言ったアズサの次に言葉を発したのはハナコ。それもかなりの動揺ないしは驚きの感情が声から滲み出ており、どうにも普段の彼女らしくない。

 

「もしかしてアズサちゃん、セイアちゃんに会った事あるんですか・・・!?」

 

「・・・」

 

「・・・セイア?」

 

ハナコの質問に答えるアズサの声が聞こえない。小声で言ったのか、それとも答えていないのか。アズサの性格からして恐らく後者なのだろうが、それよりもイサネは何故ここにきてセイアという名が出てきたのかという事の方が気になった。

 

(どうして行方不明のティーパーティーホストの名前がここで・・・しかもこれ確実に失踪後、ないしはその直前に会っていたっぽいのが・・・)

 

「・・・分からない。この話は、ただどこかで聞いた記憶があるだけで・・・」

 

思いもよらぬ事態を前に眠気が吹き飛んだイサネを余所に、アズサの声が聞こえる。どうにも幼少の頃の曖昧な記憶故に分からないとするつもりだったのだろうが、イサネに真実を確信させるには十分な言葉だった。

 

「・・・そうでしたか。そう言えばアズサちゃんは転校生、でしたね。vanitas vanitatum・・・という事は。」

 

(セイア行方不明の原因はこいつだったか。多分だけど、あの間からしてセイアは少なくとも生きている事も確定した。)

 

そしてハナコもアズサについて何か勘付いた様子。しかし、この場で言及しようとはせず、あくまでも独り言として片付け、疑問符を浮かべるヒフミとコハルに就寝を促していた。

 

「そうかそうか・・・」

 

ハナコの「では、本日もお疲れ様でした!」という締めの言葉を聞き流しながら、イサネは頭の中で今の一連の会話の内容をもう一度精査する。

 

(アズサ・・・アリウスの密偵がセイアを襲撃した。けど、恐らくアズサとセイアの間で何かあった・・・というか恐らく密約の様なものを結んだ。だからアズサは言葉を濁した。古則を知っているのもセイアが原因でしょう。)

 

いよいよ本当にアリウスとトリニティが入り混じり始めた。これではトリニティとゲヘナの条約なのにゲヘナはまるで蚊帳の外ではないかというツッコミを華麗に無かった事にし、イサネはアズサの置かれた余りにも厳し過ぎる立場に同情の意を示す。

 

(この事からアズサはアリウス以外に自分の思惑を持っている。これは本人から聞き出すしかないでしょうけど、概ね今のアリウスの在り方に反する思想である事は確実。・・・どうにか、利用できないか?アズサがベアトリーチェの事をどう思っているかの真意が知れれば・・・)

 

アズサが今のアリウス分校のトップであるベアトリーチェに対し、殺意ないしはそれに近い感情を抱いでいるのなら事は非常に楽に進む。事情を明かせば利害の一致として大分強い協力関係を得られるだろう。

 

しかし、そうでなかった場合は逆に面倒な事になる。何せ思想の違いこそあれどアズサはアリウス分校の人間なのだ。もし調印式前にベアトリーチェの命を狙う存在が居るとアリウスに知られれば確実に向こうは対策を練ってくるだろう。最悪逃げられる。

 

(・・・どっちみち調印式まで待つしかなさそうね。トリニティはともかく、アリウスに情報が漏れている事を知られるのは不味い。)

 

リターンに対してリスクが致命的という判断を下したイサネは、明日早く起きて朝ごはんを買いに行こうと決意を固めながら、寝室に戻るという事をすっかり忘れたまま暖かく心地良い眠気に身体を委ねる。

 

 

 

 

「おぉい誰だよ・・・こんな真夜中に出歩く馬鹿はよ・・・こっちは徹夜で森抜けてきてんだから寝かせろって・・・」

 

「!?」

 

熟睡中ながらも聞こえた物音に対して零した寝言が、物音の主である()()を知らず知らずの内に驚かせいたのは内緒の話。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

東の空に昇り始めた太陽の橙と白み始める空。郊外区の24時間営業のコンビニの自動ドアをビニール袋片手にくぐる。

 

「・・・あざしたー。」

 

眠気maxかつやる気皆無な店員の間延びした声が店内に響く中、コンビニを出たイサネは左手に持ったスマホを耳に当てたまま、周囲を気遣った小さい声で喋り続けている。

 

「そうそうそういう事。正直依頼の本筋と関係性は大分薄いけど、アリウスが送り込んだ密偵は今かなり複雑な状況にある。で、後はあれね?」

 

『なるほど・・・それで聖園ミカ、という訳ですか。』

 

「あくまでも推察の段階ね?ただ確度は大分高い。仮に間違いだったとしてもティーパーティーの所属する人間としてちょっと問題があるくらいには黒い。」

 

『ふむ、それでこの話に繋がるという事ですか・・・クックック、実に鋭い推察をありがとうございます。しかし、貴方もその補習授業部と行動を共にしていると・・・いえ、深くは踏み込まない事にします。』

 

通話の相手は勿論黒服。話の内容は昨日一昨日で得られた情報と推察の共有。コンビニで購入した朝食の入ったビニール袋左手に、黒服との通話を繋いだスマホを右手に午前7時半過ぎという起き始めたトリニティ郊外の町を合宿所に向けて歩く。

 

『調印式の警備配置やスケジュールは入手できなかったとの事ですが、私の方でもどうにか出来ないか探ってみましょうか?』

 

「うーん、どうしよう。これ以上正義実現委員会の連中に私がトリニティに対して何か企んでいると思われたくないし、貴方の存在も表に出るリスクも避けたい。」

 

『クックック、ご配慮はありがたいですが、そこについては気にしないでください。私の方は私の方で色々と予防線を張っておりますので。』

 

「でもアリウス分校への入り口はカタコンベにある事には変わりないんでしょ?なら無理のない範囲でやって。どっちみち調印式襲撃の混乱に乗じての強行突破しかないんだから。」

 

一通りの報告と共有を終え、黒服に今後の方針について軽い要望を伝えると、イサネは人目の付かない場所まで向かい、町の外れの木々の茂る森へと向かう。

 

『では今まで通り、という事で良いですね?』

 

「それで行こう。はぁ、悔いても仕方ない事ではあるんだけど、もうちょっと情報を持ち帰れたらなぁ。私の役目が調印式からが本番っていうのは分かってるんだけどね。」

 

『ククク・・・随分と焦っていらっしゃる様ですが、貴方の役割はベアトリーチェの計画を破綻させる武力担当であって諜報担当ではない。それを忘れないでください。』

 

「ふん、分かっているとも。私の仕事は裏方の貴方が何の役にも立たない単独突撃。私の存在と仕事こそがこの作戦の要。失敗は許されない・・・だったね?」

 

『理解出来ているのあればそれで良いのです。本日そちらに送った装備はメールに記載してあります。・・・では、調印式以降は頼みましたよ?』

 

そのやりとりを最後に通話を切り、スマホをスカートのポケットに仕舞うと、合宿所に一直線に帰るべく鬱蒼とした森の中に躊躇なく入って行く。

 

 

 

 

・・・まぁ入って行くと言っても予めどう進めば合宿所に辿り着けるかは既にスマホの地図アプリで確認済。迷う道理など無く、ただ合宿所のある方角に向かって一直線に歩けばゆっくりのペースでも1時間から2時間くらいで合宿所に辿り着ける。

 

 

正義実現委員会から逃げおおせるべく咄嗟に飛び込んだ一昨日の森の中とは訳が違う。合宿所の位置的にシンプルに距離がある以外の弊害など何もない。長めの朝散歩。

 

「朝食は確保できでも着替えの服は買えなかったのは痛い。・・・果たして消臭スプレーだけで私の体臭はどうにか出来るのだろうか。そこが問題だ。」

 

問題があるとすれば今イサネが着用している服が夜間のトリニティ侵入から変わっていないという事。時間の単位に換算すれば今の段階で3日目に突入した事になる。今の人生の大半をサバイバルで生きてきたイサネ個人だけなら別に気にする事も無いのだが、社会の中で活動するのならそうはいかない。

 

「一先ず3本買ってみたけど、足りるかな。」

 

ここからホテルに向かうにはそこそこの距離がある。先生に言えば「イサネの好きにして良いよ」と平気で昨日の賭けの約束の反故を許してくれるのだろうが、それはそれで何だか癪に障る。常識的に考えれば着替えを取りに行くくらい約束の反故には当て嵌まらないのだが、癪に障ったのだから仕方がない。

 

ビニール袋から取り出した消臭スプレーを体中に振り撒きながら早朝の森の中を進む事30分強。並外れた体力故の歩く速度と一直線に森を突っ切った事により大分早く合宿所の建物が木々から見え始める。

 

「臭いは消えたかな?今日一日だけで良いから消えてくれると良いんだけど。というか一本で十分だったんだねこれ。余っちゃった。」

 

普段は捲っている両袖を手首まで伸ばし、すんすんと臭いを嗅ぎながら木々の隙間から見える合宿所の玄関の方へ向かう。

 

 

「・・・かー。もう、・・・に・・・にも教え・・・こんな・・・なんて。」

 

 

その時、イサネの鋭敏な聴覚が確かに声を捉える。補習授業部でもシャーレの先生でもない声。

 

「・・・あ?誰か居るな?」

 

直後に体の中に響いた直感に従い、イサネは気配を殺して声がする方へ歩いて行く。近づいていくと分かるが、話し声のもう一人は聞き慣れた先生の声だ。恐らく本校からの訪問者の対応でもしているのだろう。

 

足音を立てない様に声のする方――プールへ向かい、プールサイドを囲う外壁の外にしゃがむ。ここなら直接目視される事もなければ至近距離ではっきりと会話が聞ける。

 

「・・・その提案は断ったよ。」

 

「え、そうなの?どうして?」

 

愛嬌のある無垢なお姫様の様な声。何かの広告に出てくる何かのアニメの姫役らしきキャラクターがこんな感じの声を出していた様な気がするが、今はどうでも良い。

 

「自分達の生徒を疑いたくないから?それとも――」

 

「それは私の役目とは違うかなって思って。」

 

その声が最後まで言い切る前に、先生の声が覆い被さる。話の内容は不明だが、直接会話している以上第三者の所属がトリニティである事には違いない上に「既に断った」という旨の発言から見て合宿所に行く前にあった話だろう。

 

「そっかそっかぁ、確かに先生はシャーレの所属だもんね。トリニティとは本来無関係の第三者。なるほどね。まぁ私達にとってはずっとトリニティそのものが世界の中心みたいな感じだからあれだけど・・・面白い考えだね、新鮮かも。」

 

トリニティらしいというか、花よ花よと甘やかされて育ったお嬢様らしい考え方。興味もなければそのままでいてくれた方が罠に掛け易くて助かるのだが、まぁこれもどうでも良い。

 

 

「それじゃあ先生は、誰の味方?」

 

 

特に深く考えずただ話を聞いていたが、大分唐突に深い所を突く質問が飛び出す。誰の敵で誰の味方なのか。世間の言う正義の区別よりもよっぽど複雑で難解な境界線。

 

「もしトリニティの味方じゃないとするなら・・・ゲヘナの味方?連邦生徒会の味方?それとも、誰の味方でもない、とか?」

 

金と権力でどうにかする以外の思考を持たないトリニティ生の割には随分と考えさせられる質問だとジョークを内心で吐くイサネを余所に、先生は一拍置いた後に答える。

 

 

「私は、生徒達の味方だよ。」

 

 

先生はあくまでも生徒全員の味方だと強く言い切る。本当に普段から己の在り方を問われればそれらしい事しか言わないいつもの先生に「はいはいいつものね」などと心の中で言うイサネ。一方質問をした声は困惑、というか想定外の回答に困った様子だ。

 

「生徒達の味方、かぁ・・・そっかぁ、それは予想外だったなぁ。」

 

そしてしばしの困惑の後、その声は恐る恐る問い直す。

 

「あ、あのさ・・・っていう事は、その・・・」

 

動揺、悔恨を含んでいる様に聞こえるその声は、助け、もしくは救いを求める様に問いを紡ぐ。

 

 

「先生は一応、私の味方・・・って考えても、良いのかな?私も一応この立場とは言え、生徒である事には変わり無い訳だし・・・」

 

 

本人がどういうつもりで言ったのかは知らないが、今の発言から確信した。

 

 

(こいつがトリニティにおける事の元凶か。)

 

 

声の主はトリニティ首脳部たるティーパーティーのホストこと聖園ミカ。同時にアリウス分校所属の白洲アズサの身元を偽ってトリニティに入れ、百合園セイア襲撃の手引きをしたのもまた彼女。

 

「勿論、ミカの味方でもあるよ。」

 

思いもよらぬ所でぴったりと嵌ったピースに零れそうになる笑みを抑えていると、先生の方から答え合わせをしてくれた。ここら一帯にイサネ、第三者こと聖園ミカ、先生の三人を除いて他に誰も居ない事から彼女は単独、いわばお忍びでここに来たのだろう。

 

(個人的に色々と話を聞きたくはあるんだが・・・目的が逆である以上接触できても普通に戦闘になりそ――いや、私の目的はあくまでもベアトリーチェだけだから交渉次第か?)

 

何となくではあるがミカの言葉に感じた感情の焦燥から何とか話が通じればアリウスに関する情報が得られるのではないかと考える。彼女の言動から感じられる焦燥は明らかに何かの失敗を前に焦る、もしくは動揺している類のものであり、上手く心の隙間に入る事が出来ればアリウスと繋がっていると思わしき彼女から何か有益な情報を得られるかもしれないという算段だ。

 

「わーお・・・さらっと凄い事を言ってのけるね、先生・・・」

 

ミカは先生の言葉を前に目を丸くして驚いていたが、すぐに表情を戻し「生徒全員の味方って事は逆に誰の味方でもないとも解釈できる」などトリニティの政治の最前線に立つ者らしい言葉遊びをしてのける。

 

(ミカは何を失敗したんだ?エデン条約が嫌でアリウスと繋がって、調印式はまだだけどセイアの襲撃は出来た。なら焦る理由なんて無いんじゃ・・・?)

 

ミカとアズサの繋がりは確実。セイアの襲撃と言い現状ミカとアリウスの思惑は上手く行っている様に思える。イサネの中にあるセイア生存の可能性というイレギュラーこそあれど言動にまで滲み出る事はないというのがイサネの予想。

 

これまでのイサネの推理が彼女の経験と強化人間に依存しない頂点捕食者としての天賦の才による悟り妖怪の如き洞察力と思考力を以て為せる業だという事は彼女の知る所ではないのだが、まぁ細事でしかない。

 

「そのまま受け取るんじゃなくて、私から先生に取引を提案させて貰おうかな。」

 

その後ミカは先生にナギサの探すトリニティの裏切り者がアズサである事を教えると同時にアズサの事を守って欲しいという取引を持ち掛けていたが、既に知っている事なのでこれ以上盗み聞く事もない。音を立てない様に立ち上がり、その場を後にする。

 

(ミカが焦っている理由が知りたいな。現状あいつの陰謀とアリウスの繋がりが公になる可能性なんて殆ど無いだろうから余計に焦る理由が分からない。後はもうどうでも良いや。)

 

隠密の邪魔だからと少し離れに置いたビニール袋をゆっくり拾い上げ、イサネはプールの外壁の外側から先日授業を受けた教室へと向かう。

 

(さて、最初は模擬テストをやるんだったっけ?始まる前にちょっとくらい参考書とか読んでおいた方が良いかな・・・?)

 

今だ後ろで話を続ける二人を意識から除外し、イサネは今日の事に思考を向け直してビニール袋から朝食――チキンや何か具材を挟む為のバンズの入った袋を取り出す。

 

「ハンバーガーじゃないじゃんこれ。これが俗に言う詐欺商品って奴なのか?私はハンバーガーが食べたかったんだけど。・・・潰してやろうか、あのコンビニ。」

 

袋を開け、中身を取り出し一口。口の中に広がるのはただのパンの味だけ。本来別売りされているチキンや具材などを自分で購入し、自分好みにカスタムしたハンバーガーが作れるのがこの商品の醍醐味。それを単品で口にしているのだからこの結果は当然である。

 

商品の説明をよく確認しないまま勝手に嵌められたと勘違いしたまま、教室に向かうイサネ。勿論教室に着いた後、

 

「あら?中に挟む具はどうなされましたか?」

 

「中?何それ。」

 

「中身の具材は自分で買って、それを挟んで食べるんですよ!」

 

「ハンバーガーだと思って買ったら中身なくて潰してやろうかあのコンビニとか思ってたけど、そういう感じの奴なのねこれ。っていうか袋の裏面に書いてあるじゃん。朝っぱらから何やってんだ私は・・・」

 

「あんたやっぱり馬鹿でしょ。」

 

この様なやり取りが交わされた事は言うまでもない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

第二回模擬テスト 採点結果

 

阿慈谷ヒフミ 64点

下江コハル 49点

白洲アズサ 58点

浦和ハナコ 8点

 

特別参加

標根イサネ 100点

 

 

 

「凄いっ!イサネさん満点じゃないですか!」

 

「まぁ知っている内容しか出題されなかったしね。社会科の範囲が昨日の授業で出てきた奴だけだったのには救われたね。キヴォトスの歴史とか欠片も知らないし。」

 

イサネが教室に戻ってから30分弱程。漸く戻ってきた先生に先に一同が受けていたらしい模擬テストの回答を採点してもらい、その間にイサネも模擬テストを受け、今その結果が返ってきた所。尚補習授業部の4人には自身のテストの採点まで待って貰ったというのはここだけの話。

 

そしてイサネの結果は言うまでもなく百点満点。イサネから見れば当然と言えば当然の結果ではあるが、問題が複雑化する高等学校の総合テストで満点というのはそう簡単に見れる例ではない。

 

「・・・紙一重だったか。」

 

「今回は本当に紙一重でした!アズサちゃん、本当に惜しかったです・・・!」

 

「み、見た!?ヒフミ、私も結構点数上がったよ!!」

 

「はい、しかと見ました!前回は15点だったのに・・・伸びしろは一番です!」

 

コハルもアズサも合格点には至らずとも前回の結果からは大きく点数が伸びており、確実に努力が数値に反映されており、皆々の努力の結果とも言えるだろう。

 

 

「そして、えっと・・・は、ハナコちゃんは・・・」

 

 

「あら?ヒフミちゃん、どうしてそんなに声量が下がってしまうのですか?最初の試験が2点、次の模試が4点、今回は8点ですよ?これは数列として考えれば、あと3回受ければきっと合格圏内に届く筈です♪」

 

 

・・・現状補習授業部きっての変人、浦和ハナコを除いて。

 

 

「そ、そう考えたらそうかもしれませんが・・・」

 

8点。前回の点数が4点だから単純な伸びしろは2倍。第一回の特別試験では2点だったらしいので、これを数列――初項2の公比2の等比数列として見るなら単純計算で2、4、6、8、16、32、64・・・と模擬試験含めあと3回で合格点に到達はする。・・・数字通りの点数を取れれば、の話だが。

 

「でも点数が上がってる事には変わりないし、皆よく頑張ったね。それとイサネも、いきなりのテストだったけどよく復習を――」

 

「してないよ。昨日はそのまま外のベンチで寝落ちだよ。」

 

「してないんだよね、あはは・・・それで満点は凄いや。それと外で寝るのは止めようね、風邪引くから。」

 

ハナコの机上の空論じみた言葉に苦笑いしか出来ないヒフミに助け舟を出す様にも場を纏める様にも口を開いた先生。途中イサネが身も蓋もなくぶった斬ったせいで崩壊しかけたが、試験前日でもないので無理に持ち直す必要も無いというのは場の一同の総意。

 

その後、勉強の目的が落第回避からモモフレンズグッズにすり替わったアズサをモモフレンズファンであるヒフミが複雑な心境で宥めたり、勉強の途中で訪れたシスターフッドからの客人こと伊落マリーから如何にしてイサネを隠すかでてんやわんやしている時に彼女がアズサの仕掛けた侵入者用の罠に引っ掛かったりとやや惨事がありつつも、今日という日は割とキヴォトスの日常の範囲に収まったまま進んで行く。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

同日夜。

 

 

「失礼します。」

 

 

夕食とシャワーを終え、就寝を待つのみとなった23時。次回模擬テストの作成とイサネの授業内容、トリニティ本校への報告書などの作成を行っていた先生の部屋にヒフミが訪れる。

 

「どうぞー、開いてるよ。好きな所に座っちゃて。」

 

既に昼の段階で「夜にハナコの事でお伺いしたい」という話を聞いていたので驚く事もない。先生に入室の許可を貰ったヒフミは扉を開け―――

 

 

「こんばんは、先生。」

 

 

水着。否、そもそもヒフミではない。

 

 

「!?!?」

 

 

腰下まで伸びた綺麗なペールピンクの髪に蠱惑的なエルムグリーンの瞳。見る者に清楚でお淑やかな才女を印象付ける整った容姿。・・・言動にさえ目を瞑る事が出来れば、の話だが。

 

浦和ハナコ。変人奇人変態の三拍子を掻っ攫う現状トリニティでも屈指の問題児。本来ここに来る予定の筈のヒフミを差し置き、何故か彼女が先生の部屋に訪れた。

 

 

――トリニティ指定のスクール水着を着て。

 

 

「ふふっ、夜間に自室の施錠を行わないなんて、随分と不用心ですねぇ♡」

 

先生の驚愕を余所に、ハナコはにこにことご機嫌な笑みを浮かべながら、上品ながらもカジュアルな所作で対面の椅子に座る。

 

「え、ハナコ・・・!?いや、なんで水着を着て・・・っ!?」

 

「あぁ、これについてはお気になさらず。パジャマなので。」

 

「いやいやいや、流石にそれは・・・」

 

水着についてしれっと寝巻・パジャマだと言ってのけるハナコだが、果たしてどこまでが真実なのかがだいぶ微妙な所だ。強いて言うのなら後する事が布団に入って寝るだけなので問題無いと言えばないのだが。

 

「いや、でもイサネはそもそも着替えが無いとか言って裸で就寝まで過ごそうとしてたし・・・」

 

「うふふ、そういう事です。所で先生、少し相談したい事がありまして。」

 

水着をパジャマだと言い切るハナコの言葉は何とも受け入れ難いものがあった先生だが、イサネに至っては着替えが無いからと何事も無い様に全裸で部屋に戻り、そのまま洗濯に出した服が乾くまで全裸で居るなどとほざいていた事を引き合いに出し、何とか自分を納得させハナコの相談に耳を傾ける。

 

「・・・アズサちゃんの事についてなのですが。」

 

数瞬の後、ハナコが口に出したのはアズサについて。ここに来て遂に補習授業部内の人間関係に問題でも起きたのかと思う先生だったが、どうにも違う感じがする。

 

「アズサ?」

 

人間関係でないのなら一体何だろうか。先生とヒフミ以外に補習授業部がエデン条約における推定邪魔者を退学させる為のごみ箱である事など知らない筈以上人間関係や試験関連以外で相談事など・・・と思案を巡らせたその時。

 

 

「し、失礼します・・・先生、いらっしゃいますか・・・?」

 

 

おずおずとした声と共に再び扉が開く。今度は確実にヒフミの声。

 

 

・・・ヒフミの声。

 

 

「昨日より遅い時間になってしまいごめんなさい。実は・・・え。」

 

 

「あら。」

 

 

廊下に居るヒフミが扉を開けたのだから当然彼女は中に入ってくる。先に中に居たハナコは勿論水着。当然、中に入ってきたヒフミの視界にはハナコの水着姿が入る。勿論ヒフミは学園指定の体操服にジャージ姿。後はもう語るまでもない。

 

「・・・」

 

沈黙は数秒。ヒフミがハナコの姿を確認し、無表情で硬直。先生もまたとんでもないタイミングが重なった事で冷や汗全開で沈黙。ハナコは・・・言うまでもない。

 

「・・・・・・・・」

 

そして数秒、重く止まった時は動き出し―――

 

 

「本当に失礼しましたぁ!?ごご、ごめんなさい!私そんな事知らずに・・・ぜ、全然本当に何も知らなかったんです本当です!い、いい、一体何時から・・・!?しかもお、同じ女性同士で・・・!?」

 

 

―――惨事は起こる。

 

 

「・・・!ヒフミちゃん!今、昨日よりも遅い時間と言いましたね!?つまり昨晩も来たという事なんですよね!?そうなんですよね!?」

 

 

ヒフミは確実に素の反応をしているのに対し、恐らくハナコは分かって便乗している。というか分かっていないとこんな反応は出来ない。相手の咄嗟の動揺から出た言動を掴むなど、理性が働いていなければほぼ不可能。平たく通俗的に言えば確信犯という奴だ。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!また後で、は不味いですよね!?どうすれば良いですか!?今晩は止めた方が良いですか!?知らなくてごめんなさい間に入ってごめんなさい空気を壊してごめんなさい―――」

 

「待ってくださいヒフミちゃん詳しく教えてください!昨晩はお二人で何をしていたのですがか!?今晩はナニをする予定だったのですか!?是非説明――いえいっそ私の前で実際に再現を・・・!」

 

「あの、お願いだから一旦落ち着いて・・・」

 

完全にパニックに陥り、訳の分からない謝罪を叫ぶヒフミに何故かそれに便乗してとんでもない事を言い出すハナコ。完全に収拾が付かなくなる。

 

「違うんです違うんです!私はちょっと相談があって来ただけで決してお二人の邪魔をする心算なんて全く・・・!と、兎に角ごめんなさい!この事は絶対に誰にも言いませんから!ごめんなさいごめんなさいっ!」

 

「相談!?まさかナニについての相談ですか!?最近お互いにマンネリ化してきたからだとか刺激を求めてもっと激しくて、それはもう目も当てられない様なすっごいプレイをしようという相談ですか!?是非実物も金て事細かに―――」

 

「ちょっとハナコ!?」

 

どうすれば良いのだろうか。そんな事がぼんやりと頭に浮かぶ中、先生は兎に角この状況を鎮圧しようと声を投げ掛け続ける。そんな中、

 

 

 

「・・・何してんのこんな夜中に。」

 

 

 

はっと見れば部屋の入り口に居たのは困惑と呆れが入り混じった表情でこちらを対岸の火事の様に眺めるイサネの姿。

 

 

―――勿論、バスタオルを巻いたままの姿で。

 

 

アビドス高校の時の一件やミレニアムサイエンススクールでのアリスを取り巻く事件。元SRT特殊学園の生徒と共にヴァルキューレの内部に潜んだ歪みに抗った日々。この中にも、特にミレニアムの生徒会長が実力と共にアリスを連れ去った時はかなり苦しい思いをした。だが、

 

 

 

―――終わった。

 

 

 

キヴォトスに来て連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)に着任してからというもの、今程までにこの文字が明確に浮かんだ事はないだろう。

 

 

これはエデン条約が無事締結され、アリウス分校に関するある程度の仕事がトリニティに引継ぎ終わった後の事。先生がトリニティ内のカフェテリアの中で補習授業部の面々との茶会中ににふと零した心の底からの本音。

 

 

 

 






ふと自分の書いた話を見返すと誤字とかが酷くてイラっとしましたw
すぐにとはいきませんが適宜修正できればいいなと思います。

ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?

  • 普通にイサネさんがボコって終わり
  • 誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
  • 先生やアリスクの目の前でぶっころ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。