前話での宣言通り、今回は第二次特別学力試験まで行きます。
急ぎたいけど各場面の描写は挟みたいという作者のエゴにより中途半端に飛ばし飛ばしになっています。ご注意を。
建物の中に居るというのに、物理的な重圧すら感じる程の豪雨。そろそろ午前の9時に差し掛かろうという時間帯にも関わらず、まるで夜の如く暗い。
雨音が騒音として補習授業部の皆の鼓膜に襲い掛かる中、アズサは何やら幸せそうな夢に包まれ、イサネは死体の如き様相で爆睡をかます。
「忘れていました、昨日の洗濯物が外に・・・!」
豪雨がかなりうるさいが、それでも日常に分類される起床時間の中、一発の雷鳴と共にハナコが発した言葉が今日の全ての始まりだった。
「ま、不味いです・・・!!」
洗濯物がまだ干している最中だと言うや否や寝巻――ジャージ姿のまま寝室を飛び出したハナコを追い掛ける様にして、ヒフミとコハルも後を追い掛ける。
「あ、えっ、アズサとイサネを・・・嫌でもまだ熟睡してるみたいだし・・・着替えはある。えぇいままよ!!」
遅れること一瞬、場に居合わせた先生は寝ているイサネとアズサを起こそすべきか否かの逡巡の後、睡眠の妨害は良くないとしてハナコ達の後を追い掛ける。
「んぅぅ・・・?・・・イサネ、皆が・・・外に行った・・・私達も・・・行こう。」
皆が洗濯物を救出するべく飛び出した数十秒後。騒ぎに目を覚ましたアズサがふらふらとベッドから身を起こし、軽くあたりを見回した後に隣で骸の如く横たわるイサネを軽く揺らす。
「・・・」
だが、当のイサネは自身に備わった本能由来の危機察知センサーが反応しないせいか、正に死体が揺れるか如く何の応答も返さない。というか至近距離で耳を凝らさねば呼吸音すら聞き取れない。
「行かないと・・・」
揺すること数秒。イサネが起きない事を認めたアズサは寝ぼけ眼を擦りながらベットから立ち上がり、やや覚束ない足取りで寝室の扉を開けて外に向かう。
「・・・」
自分以外誰も居ない寝室で、イサネは一人眠り続ける。凄惨な戦場の風景に溶け込む骸の如く。
「ひゃあっ!?体操服が一瞬でびしょ濡れに・・・!」
「うわ・・・!全滅じゃないこれ!早く洗い直さないと・・・!」
「今着ている衣服は駄目になってしまいますが、洗濯物の取り込みを優先してください!豪雨で声も通りにくいので、出来るだけ声を張ってください!先生、指揮をお願いできますか!?」
「えっ、ここで!?・・・わ、分かった!じゃあヒフミ、右側に掛けてあるハンガーを片っ端から中に入れて!ハナコとコハルは私からバケツリレーで洗濯物を中に!」
端的に言って、外は地獄だった。大きく多すぎる雨粒によって視界が半分アウトし、一歩でも屋根の外に踏み出せば瞬く間に体中に落ちた雨水が這い回る人の活動を考慮しない、滝という表現が何よりも相応しい降水量。
「先生・・・私もてつ―――ッ!?冷たい・・・!先生、私も手伝う。何をすれば良い?」
「アズサ!じゃあ寝起き早々で申し訳ないけど、ヒフミの方を手伝ってあげて!洗濯物の種類は問わず中に入れて!」
「分かった!ヒフミ、今行く!」
洗濯物といっても補習授業部の皆が着ている衣服だけが全てではない。ベッドに敷くシーツや掛布団、バスタオルやバスマットなど日常生活で使用する殆どの布物が幾つも干されている。数人でやったとて十分前後で終わる様な作業量ではない。
「皆雨の中外で何して――うわっ!何この雨の量!?あっ、洗濯物・・・!」
アズサに遅れる事更に数分、漸く外の騒ぎに気付いたらしいイサネがバスタオル姿で外に現れる。一同の視線は一瞬イサネに集中する。
「先生!何をすれば良い!?あぁもう、声が掻き消される・・・!」
「イサネ!?その恰好は流石に風邪を引くから中に――」
「少なくとも貴方達よりはその辺ちゃんと調整されてるわ!それにこの雨じゃ服の有無なんざ変わんねぇよ!良いから指示を寄越せ!くそ、またバスタオル生活か・・・!」
「わ、分かった・・・!じゃあ、あっちに干してあるシーツとバスタオルを先に仕舞って!サイズが大きいからこっちが終わったら応援に行く!」
イサネの格好を見た先生はすかさずその恰好は不味いと口にするが、イサネはそれをばっさりと斬り捨て、指示のあった方の校舎へと裸足で走っていく。
「あれ、イサネ裸足じゃなかった・・・?」
「何なら走っている最中に
「そんな事言ってないで早く洗濯物を仕舞いなさいハナコ!本当に風邪引いちゃうわよ!!」
そうして約20と6分の時間を要し、補習授業部+一人は校舎の外に干された洗濯物を全て中に仕舞い終えるのであった。
「・・・屋根のある所に干した奴以外全部駄目になっちゃったか。」
「一回の洗濯でどうにかなる範囲で回収できたので良しとしましょう。所で・・・」
25分強の努力虚しく、干していた洗濯物の大半は雨水によって再度洗濯が必要なレベルまで雨水を吸い、更には豪雨の中雨具も無しに外で活動した補習授業部+αの全員の服もまた日常生活を送れない程に水を吸ってしまっていた。
その結果――
「さぁでは記念すべき第1回、補習授業部の水着パーティーを始めます♡」
「なんで、どうしてこんな事に・・・」
途中落雷のせいか停電し暗い教室に集まった補習授業部の一同は、皆一様に学園指定のスクール水着を着る事となった。先生は服の替えがあったのでそれに着替えた事で事なきを得た。尚イサネは唯一ある服がまた汚れてしまった為バスタオル続行だ。
「流石に下着だけと水着のどっちかって聞かれれば・・・まぁ水着・・・仕方ない、か・・・?」
「はぁ、またバスタオルか。動く度ずり落ちそうで嫌なんだよな・・・脱げたらもう裸のままでいる事にしよう。」
ハナコの猥談紛いの発言から始まった水着パーティーは、勉強でやや硬直した一同(イサネを除く)のメンタルにひと時の休息を齎した。
「そういえば、トリニティのアクアリウムでゴールドマグロという希少なお魚が展示されているみたいですね。」
「あっ、私もパンフレットで見ました!確か幻の魚って言われてるんですよね?」
「はい。近くの海で発見されたとの事ですが、入場料も安くないので・・・」
「海、か・・・そう言えば一度も行った事ないな・・・」
「海?あんな所誰が――あぁいや・・・私も行ったことないね。あんまり興味もないんだけど。」
「アズサちゃんだけじゃなくてイサネさんもですか?でしたら今度時間が出来たら行きませんか?すっごい綺麗なビーチが――」
ゴールドマグロなる希少魚から始まった海の話にアズサが興味を示したり、
「それで、とっくに潰れたアミューズメントパークにも関わらず、夜になると何やら騒がしい音が聞こえてきて・・・」
「そ、そんな訳ないじゃない!聞き間違いよ!」
「まぁ私もあくまで噂話として聞いただけですが。」
「・・・なんか聞いた事あるなって思ったけど、もしかしてあそこの事か?大分前だけど私を名指しでそんな感じの調査をして来いと依頼してきたな。忙しいつって断ったきり何もないけど。」
「えっ・・・い、いや、絶対気のせいよ!きっと名前の売れたあんたを陥れる為の罠に違いないわ!」
猥談ではなく怪談で盛り上がったり、
「水着で町や学園内を歩くのは、別にそこまで変な事じゃないと思いますよ?」
「そんな訳無いでしょっ!?常識を改変しないで!」
「これはシスターから聞いた話ではあるんですが、キヴォトスのどこかの無法地帯では水着姿に覆面を被っている犯罪集団があるみたいですよ?・・・そう言えば、ヒフミちゃんがそんな感じの事をとイサネさんが・・・」
「わ、わーっ!わーっ!ちょっとそれは言わないでくださいッ!そもそもあれは即興でああなってしまっただけで―――」
「トリニティって確かブラックマーケットに面する境界の警備がだいぶ厳しい筈なんだけど・・・何でそこまで噂になってるの?たかだか一回の闇金潰しでおかしくない?」
「な、なんでなんだろうね、本当に・・・本当に・・・」
水着で外を出歩く事の正当性を説き始めたハナコに
「イサネさんって普段どんな依頼を受けたりするんですか?」
「端的に言えば色々。基本的にどこかの襲撃とか防衛とか、紛争抗争にどちらかの陣営で雇われる事がいつもだけと、軽犯罪くらいなら別に断る理由にならないかな。殆ど来ないけど。」
「え、犯罪?」
「犯罪って言っても誘拐拉致監禁とかの法律で重罪に当たる奴は断ってる。一般的に捕まっても罰金だの即時釈放で済まされるか否かくらいが基準かな。後は・・・郵送運送、警備とか普通の生徒がやってるバイトもやるかな。それこそ前に貴方に届けたあのふざけたぬいぐるみとか。」
「ふざけ・・・っ!?そ、そんな事ないですよ!ちゃんと見たら愛くるしくて可愛いじゃないですかペロロ様!」
「ちゃんと見てふざけてると思ったからそう言ってんだよ馬鹿。ホワイトグリントっていうかACに喧嘩売ってるでしょあれ。」
【万物の天敵】として有名な生ける伝説の傭兵・標根イサネの普段の日常や猥談などと、当初の不安は特も肥大化する事もなく消え、一同が薄暗い教室の中でわいわいとおしゃべりに興じる。
その中でハナコがアズサの睡眠時間の少なさを指摘していた時、教室の端にある伝統の操作板に光が灯り、電気が復活した事を教える。
「あ、電気が・・・」
「直ったみたいですね。」
「あ、雨も止んでる・・・!」
「そうですね、では改めて洗濯を始めましょうか。」
どうやら電気の復活と同じタイミングであの豪雨も止んだらしい。確かに水着パーティーの最中雨の音が自然に意識から消えて行った辺り、時間経過によって勢いも弱まっていったのだろう。
「ブレーカーとか電気系統見てくるから先やってて。多分大丈夫だと思うけど、一応ショートとかないか確認したい。」
「でもイサネはバスタオル・・・いや、私も行くよ。確か工具は向こうの倉庫にあったと思う。」
「工具使う程旧式の設備でもなくない?まぁいいや。」
イサネが先生と共に電気系統の確認に出るのを見送った4人は、豪雨で水没した洗濯物達を復活させるべく洗濯機のある部屋へと向かう。
「安全装置は動いてないから電線か?サージで焼けた形跡もなさそうだし、特に問題はないか・・・先生、ここの電線はどこに繋がってる?」
「う、うーん。流石にそこまでは分からないかなぁ・・・」
「だよねー。まぁこっち側に異常がないなら変電所かな、問題なーし。」
外に出、校舎それぞれに取り付けられた電力メーターや電力設備の確認をしに行くイサネと先生。
「あれ、このベルト・・・何か固くて重いのがくっ付いて――ってナイフ!?」
「あら、外すのを忘れていたのでしょうか?どちらにせよ、戻ってきたイサネさんに聞いてみましょう。それにしてもククリナイフですか・・・ふふっ、なんて大きくて硬い・・・♡」
「なっ、なな、何言ってんのよ変態!」
中では大雨により汚れた洗濯物達を再び洗濯機に叩き込み、再度洗濯を始める補習授業部の四人。
そうしてそれぞれがそれぞれに定めた行動を遂行し、予期せぬ豪雨によって補習授業部が負う事となった勉強合宿におけるマイナスを補填する――
――いいえ、まだです!このまま一日を終わらせるなんて、そんな勿体ない事はさせません!
だけではなかった。洗濯を終え、乾燥を終えた服を着直しさぁ寝るかという一同の前でハナコは力強くそう声を上げた。
「き、来ちゃいましたね・・・」
「どうですか?もう既に楽しくないですか?禁じられた行為をしているというこの背徳感、同時に皆と一緒にしているというこの安心感。この二つが合わさって・・・!」
「なるほど、これが夜の街か。思ったよりも活気がある。」
結果、気付けは補習授業部一同は先生を伴って合宿所付近の街へ夜遊びに繰り出していた。
「あれはスイーツショップ?24時間開いている所もあるのか。喫茶店もだ・・・」
「そうでしょう。以外と夜遅くまでやっているお店も少なくないんですよ。」
「この辺ですと、あちらに少し行った所にモモフレンズグッズの販売店があります。そこから少し脇道に入りますと、限定グッズだけを扱う知る人ぞ知るお店がありまして・・・」
「うぅ、結局誘いに乗っちゃった・・・こんな所、万が一にでもハスミ先輩に見られたら・・・!」
夜間にも関わらず今だ賑わいが収まる事のない夜の街に目を輝かせるアズサに、誰が知っているんだという様なモモフレンズグッズの情報を言われてもないのにすらすらと口に出すヒフミ。そしてこんな夜中に火遊びなど・・・と尊敬する大先輩からの説教を恐れるコハルと、慣れない夜の街に三者三様の反応を見せる。
「イサネさんも連れて行きたかったのですが・・・イサネさんの言った通り、注意喚起の張り紙が目立ちますね。」
『まぁ2週間くらい前から既に警戒されてたからね。それにこないだはフィリウス派の校舎が強盗だか襲撃に遭ったみたいだし、無理もないよ。』
そんな中、ヒフミが申し訳なさそうに先生が手に持つスマホに声を掛ける。その画面はスリープ中を示す黒ではなく、合宿所の寝室を背景にはははと軽く微笑むイサネの顔。そう、補習授業部と先生が夜の街に繰り出す中、イサネは自身に対する
「一緒に連れて行けなくて本当にごめんね。絶対、絶対にお土産を持って帰るから!」
『いや別にそんなに行きたかった訳じゃないし・・・っていうかその感じだと絶対お土産大量に買ってくるじゃん。私はここから見てるだけで十分だから、頼むから処理し切れない量を買うのだけは止めてくれよ?』
「うんわかっ―――あれ、何か色んな意味で私信用されてなくない?」
『まぁ・・・うん。貴方の善意は良い意味で信用出来るけど、今はちょっと要らない善意かな。』
画面越しのイサネが放つかなり素直な言葉の刃に大いに心を抉られる先生を連れて、補習授業部の四人は夜の火遊びを楽しんでいく。
『・・・そういや前にトリニティで取り調べを喰らった時も近しい事を言ってたな。っていうか食事量の制限での減量は体を壊すだけだと思うんだけど。高校生くらいの年齢ならちゃんと運動をすれば食べ過ぎでもちゃんと痩せれるでしょ。』
「だ、大丈夫よ!ハスミ先輩だもの、きっとダイエットを成功させるに違いないわ。あの人はとっても強んだから!」
『強さの意味を履き違え過ぎじゃない?正義実現委員会の副長以前になんかもう色々と間違ってると思うんだけど・・・まぁ今の当人に言っても届きそうにないか。』
正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミが傍から見れば明らかにおかしな理由で訳の分からない暴走をしたという笑えるのか笑えないのかよく分からない話で一同を困惑させたり、
「あ、ここにもスイーツ屋が。」
「食べ物の話をしていたせいかお腹が空いてきましたし、ここで何か食べましょうか?」
「あ、ここの限定スイーツはとっても美味しいんですよ!24時間も空いているとは思いませんでしたけど。」
「じゃあイサネへの最初のお土産はこれかな。」
『ちょっと早いって。私そんな食わないから大量に買われても困るって。』
「大丈夫、皆で食べるから!」
『誰かあいつを止めてくれ・・・』
「パフェ・・・良いな、行こう・・・!」
「ふふ、行きましょう。」
ハスミのダイエットの話からふとアズサが見つけたスイーツ店に寄る事になり―――
「奇遇ですね、ハスミさん♡あら?真夜中にパフェを3つも・・・確かダイエット中だと伺いましたが?」
「あ、あの、これは・・・その・・・」
「はい、心中お察しします。真夜中に襲ってきた悪しき欲望に導かれて、ここまで来てしまったのですよね?そうして欲望のまま滅茶苦茶にしてしまった後、理性が戻った後にはもう取り返しのつかない程に乱れて・・・♡」
『・・・こいつ本当に痩せる気あるん―――』
「よ、夜中に作業とかしてるとよくお腹が空くよね。」
注文したら丁度売り切れと宣告された限定パフェを3つを前に暴食に明け暮れている羽川ハスミに偶然出くわし、ハナコがノリノリでハスミの事を揶揄ったり先生が必死にイサネとビデオ通話の繋がったスマホを隠したりしながらも、お互い目を瞑るという事で裏取引をしたり、
「よし、美食研の皆が展開した。ハスミ!ハルナ―――あの銀髪の子を狙って!リーダーを落として一部の動揺を狙うよ!アズサ、ヒフミの支援と一緒に前衛の二人を落として!あの縛られてる子は巻き込まれてるだけだから攻撃しないで!」
「了解です。相手も狙撃手、狙撃勝負です、ゲヘナのテロリスト・・・ッ!!」
「了解した。ヒフミ、突っ込むぞ。」
「えっ、ちょっとアズサちゃん!?流石に前に出過ぎじゃないですか!?危ないですよ!!」
『先生、あいつら逃げようとしてる。車に乗り遅れたのは多分獅子堂イズミ、気軽に仲間を見捨てれるのはあいつらの強みだから正義実現委員会に追撃指示を出した方が良いかも。』
「そ、そうだね・・・ハスミ!他の正義実現委員会の子達に追撃の指示を出して!多分そろそろ闘争を始める筈!!」
「了解です。各自追撃の準備をしてください!あれらを地の果てまで追い掛けます!取り逃がしてはなりませんッ!!」
「あぁっ、マグロがぁーーーっ!!!」
そこからパフェを食べる筈が何故かゲヘナでテロリストとして有名な美食研究会と銃火を交える事となったりと夜の火遊びにしてはおかしな事ばかりに巻き込まれながらも、時間は進み夜は更けていく。
『・・・食う為に持ち出したのに、なんでそれを射撃の盾にするの?本末転倒じゃないのあいつら。焼夷グレネードの火で焼いた魚なんて食えないでしょ。』
「・・・そういう事も普通にあるんだよ、あの子達は。」
因みに騒動の主犯――美食研究会は車に乗り遅れたイズミを颯爽と見捨てたハルナが巻き込まれた給食部の愛清フウカ共々真っ先に拘束され、その後アカリとジュンコが正義実現委員会委員長こと剣先ツルギによって敢え無く無力化された。真っ先に置いて行かれたイズミは意外にも生き残ったらしいが、ゲヘナ自治区域ぎりぎりに張っていた空崎ヒナによって何事もなく拘束されたと引き渡しの際に当人の口から報告された。
尚騒動の原因であるゴールドマグロは美食研究会がアクアリウムから持ち出した後、銃撃戦によって全身に無数の銃弾を浴びた上、焼夷手榴弾の爆炎によって文字通り無価値の生ごみと化した。それによってゴールドマグロの所有者である水族館は数千万円程の損害を負ったと後に耳にした話だが、まぁ今更どうにもできる話ではないので吹き飛んだ数千万の冥福を祈る事しか出来ないだろう。南無。
そうして一同が興奮と僅かな疲労と共に帰路に就く中、
『全てが信用できない状況で、唯一信じられるもの・・・それは自分の意志だ。何かあっても、自分の意志だけは自分が進むべき道標を示してくれる。心が望む方向を教えてくれる。』
引き渡しの時だったか、ふとスマホから聞こえたイサネの言葉が、ベッドで横になり意識が途切れるその時まで先生の脳裏に強く反響していた。
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翌日、翌々日と、息抜きもそこそこに合宿の日常に戻った補習授業部は第二次特別学力試験に向けて前進を再開した。イサネもまた先生に許可を取って服の替えを取りに行き、劣悪な衣類環境に終止符を打った。
第三回模擬テスト 採点結果
ヒフミ 75点
コハル 61点
アズサ 73点
ハナコ 69点
束の間のリフレッシュも効果があったのか翌日に実施された模擬テストでは全員が合格点に到達し、いよいよ本格的に希望が姿を見せ始める事となった。
「では、モモフレンズ授与式を行いたいと思います!皆さん、お好きな物をどうぞ!!」
「むむ・・・これは・・・!」
「あはは・・・私は謹んで辞退させて頂きますね。」
「わ、私も・・・」
余談ではあるが合宿2日目の約束通り行われた合格ライン到達の褒美として用意されたモモフレンズグッズ授与式ではコハルとハナコの二人が辞退。
「あぅぅ・・・そうですか・・・あ、そう言えばイサネさんもこないだの模擬テストで満点取ってましたよね?もし良かったら―――」
「大金を積まれても要らない。」
「そ、そうですか・・・うぅ、どうして・・・こんなに可愛いのに・・・」
イサネに至っては拒絶に近い拒否の意を示した。ラインアークの白き閃光、ホワイト・グリントを穢された彼女の心の傷が癒えるのは当分先の様だ。
・・・などという事がありつつも、試験への不足要素は着実に潰れて行き、後は試験に合格し晴れてこの檻から脱出するだけなのだが―――
「補習授業部の第二次特別学力試験に関する変更事項の知らせ・・・試験範囲の拡大、合格点を60点から90点に引き上げ・・・な、なんですか、これは・・・!?」
「どうやら向こうはなりふりを捨てたらしいね。余程先生のやり方が気に入らないみたいだ。」
―――事件は起こる。
そう、勘違いをしてはならない。今回エデン条約締結に並んで設立された補習授業部はただの成績落第者救済の為の部ではなく、ナギサがエデン条約を妨害せんとする疑いのある者を纏めて舞台から叩き出す為に作り上げられた檻。つまり推定容疑者を潰す為なら何だってやってくる。
「試験会場はゲヘナ自治区第15エリア77番街の廃墟1階・・・え、ゲヘナ!?」
「行かなければ未受験で不合格扱いですよね・・・」
「まぁそれもナギサの狙いなんでしょうね。概ね道中のゲヘナ生と衝突させて試験に遅刻させるって所かな。」
「嘘でしょ・・・!?それに退学ってどういう事・・・?」
混乱と衝撃が一同を襲う中、一先ずコハルの疑問に答えるべく先生は補習授業部の本当の目的を説明する。途中アズサの表情が苦に歪んていた様にも見えるが、部外者のイサネを除いて誰一人気付く事は出来ない。
「・・・状況は分かった。だが、まずは出発しよう。試験時間が午前3時となっている、今から行かないと間に合わない。泣くのも怒るのも、試験が終わってからでも遅くはない。」
「明らかに人の眠気が頂点に達する時間。さては集中力の低下が狙いか?眠い時の集中力はかなり落ちるからなぁー。」
一通りの状況説明の後、目的地が無法地帯ゲヘナという事で筆記用具と銃火器含めた戦闘の準備も行い、一同は急ぎで合宿所を出る。
「それじゃあ行ってくるから、留守番よろしくね。」
「ここで皆の合格通知を待ってるよ。ほら、時間無いんだから早く行った行った。」
機械の如く無機質に、しかし視線を釘付けにする美貌と彼女にしては珍しく温かい情が映る澱みの無いライムグリーンの瞳に見送られ、ハナコとアズサ、ヒフミとコハル、そして先生という組み合わせで3台のバイクに跨った補習授業部は合宿所から移動を始める。
「さて、私も行きますかねー。ふふ、私、機動戦は大好物なの。あはははっ、今からでも楽しくなってきた。」
補習授業部の姿が消えた駐車場で、にやりと悪戯な笑みを浮かべたイサネもまた動き出す。
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「うわぁぁぁーーーッ!!なんですかなんですか!?一体どうしてこんな事に!!?」
「ちょ、ヒフミ揺らさないで!狙いが定まらないから・・・ッ!」
爆炎と曳光弾が夜空に閉ざされた薄暗いハイウェイ照らす。同時に舗装されたアスファルトを吹き飛ばし、前を走る小型バイクとオープントップのトラックの車体を揺らす。
「トリニティのあなた、バイクの運転上手だね!」
「良いじゃん良いじゃん、頑張れー!」
「いえ一杯一杯なんですけどっ!?」
小型バイクのハンドルを握るのは半泣きのヒフミ、そしてその後ろに相乗りで愛銃を構えるはコハル。トラックに乗っているのは勿論美食研究会の4人であり、トラックの本当の持ち主はロープでぐるぐる巻きにされた状態で荷台に置かれている。
「アカリさん、8秒後にまた爆撃が来ますわ。」
「はい、問題ありません☆」
トラックの助手席から指示を飛ばすハルナにハンドルを握る鰐渕アカリが笑顔でそれに応じてハンドルを捌き、物資運搬が目的のトラックに強いるべきではない運転を強要させる。荷台ではフウカが「車は良いから降ろして!」と被害者として至極当然の事を叫んでいるが、食に関してはキヴォトス屈指の狂人集団には応援としてしか受け取られない。
「というかショベルカーやブルドーザーまで来てません!?どうして温泉開発部にも追われてるんですかぁっ!?」
更にはここら一帯の戒厳令の原因こと付近で道路を盛大に爆破したゲヘナ屈指のテロリストこと温泉開発部もこの逃走劇に混じり始め、混沌に混沌が混ざり始める。
『こちらチームブラボー、アルファ応答せよ。・・・ごめん、陽動作戦は失敗した。こっちは今包囲されてる。先生は先に離脱させた。』
「アズサちゃん!って包囲されたぁ!?」
『前方には火炎放射器持ちの温泉開発部、後方にはやたら強いツインテールの風紀委員会。退路を塞がれた。前も数が多くて強行突破には火力が足りない。ハナコと何とか逃げるから、後で落ち合おう。幸
「アズサちゃぁぁぁぁんっ!!?」
追っ手の数を減らす為と別れて進んでいた別チーム――アズサとハナコが無線でヒフミに絶望的な事をしれっと伝える。が、別れて進んでいるのでこちらからでは何も出来る事がない。
「どうして・・・私達はあくまで試験を受けに来ただけのに・・・」
爆炎を駆け抜け銃弾を避け、軍用ヘリのミサイルの嵐を掻い潜りながら、目に涙を溜めたヒフミは大きく叫ぶ。
「どうしてこんな事になってるんですかぁぁぁッ!!うわぁぁぁぁああああーーーんッ!!!」
ヒフミの嘆きは至極当然。だが、これがゲヘナだ。これが理不尽だ。
「風紀委員会に温泉開発部、後は美食研と補習授業部。・・・どいつもこいつも派手にやってるねぇ。まぁテロリストグループが二つも集まればそうもなるか。」
翠緑の燐光を纏いながら空を飛行する長身の少女が、月光を反射する綺麗な銀灰色の長髪を風に遊ばせつつ一人ごちる。
「私も混ぜて欲しいなぁ。ここ数日ずっと勉強ばかり見てたからそろそろ戦いたくってさぁ。」
そう独り言を漏らす彼女は、無垢な少女を目の前に見つけた快楽殺人鬼の如く嗜虐的な笑みをその機械の様に精緻に整った美貌に浮かべている。
「取り敢えずアズサの方を何とかしよう。イオリは話を聞かないしな。後はヒフミの方の追っ手を吹き飛ばせば万事解決だ。」
翠緑の粒子――コジマ粒子を撒き散らし、ぐっと高度と巡航速度を下げた少女――標根イサネは、ハーネスにがっちりと固定した全長2m超えの対物ライフル【quid est pax】のグリップを右手で握りハーネスから外す。
目視で確認できる高度から可変倍率スコープの倍率をほぼ直感で弄り、安全装置を解除。引き金に指を乗せ、左手でバレルを支える。高度50mを飛行する自身の速度を更に落とし、スコープを軽く覗き込む。
「さて、無線の乱入はどのアプリだったかなっと・・・まぁ、取り敢えずお前から墜ちろ。」
空中で停止し銃口を下に下ろすしたイサネは、コジマ粒子を瞬間生成量の限界まで充填した後にゆっくりと照準を定め、引き金を引く。
―――チェンバーに充填された翠緑が、地面に向け一直線に射出される。
久しぶりの戦闘シーンだからちょっとだいぶ苦戦してしまったw
ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?
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普通にイサネさんがボコって終わり
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誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
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先生やアリスクの目の前でぶっころ