透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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今回グロに触れるか否かの表現を用いてるのでちょっと怖い...一応流血タグを追加しましたが、消えてるかR18タグが付いていたら察してください。



背反二律は翼を翻す 

 

 

 

 

「・・・来たか。」

 

 

夜闇の沈黙に包まれた廃墟内に、低い声が鈍く反響する。声の主と対峙したアズサは、表情を変える事無くそれに無言で応じる。

 

「アズサ、日程が変わった。」

 

「変わった?」

 

だが、自分の近況報告よりも先に告げられた言葉に疑問符を浮かべる。アズサの目の前に居る長身痩躯の少女は、軽く頷くと共に硬質素材のマスクによって窺えない口元から更に続ける。

 

 

「明日の午前中だ。約束の場所で命令ないしは合図を待て。」

 

 

アズサの目が一瞬見開く。約束の場所で待機という事はついに計画が実行される時が来たという事なのだが、明日の午前中というのはトリニティに残る為の最後のチャンスこと第三次特別学力試験の真っ只中だ。

 

(明日の午前中・・・!?それじゃあ試験は・・・っ!!)

 

試験を優先すれば、自分がトリニティに居る理由にして本当の使命を放棄するという事になる。それはつまり、死を以て償わされる家族の裏切り。使命を優先すれば、補習授業部の皆もまたトリニティから追い出される。それだけじゃない、これまでの数日で積み重ねてきた補習授業部の皆との思い出も全て灰となってしまう。

 

「ま、待ってサオリ。明日は――」

 

無感情な人間だったならどれほど良かった事か。アズサは自分の人間性を生まれて初めて後悔した。故に、この言葉が出たのは必然の結果と言えた。

 

「何か問題が?」

 

アズサの言葉を遮って突き刺さる疑問の声に、思わず喉を鳴らしそうになる。だが、あくまでも平静を装い、アズサは咄嗟に思い付く言葉を口に出す。

 

「まだ準備が完了していない。この状態で計画を実行に移すには、リスクが大き過ぎる。そもそものトリニティの戦力がこちらの想定よりも高い。だからもう少し猶予を―――」

 

「いや、明日決行だ。これは決定事項、しっかりと準備しておけ。大丈夫だ、犠牲など計画の段階から想定されている。準備が不足していたとしてもお前を責める様な事態にはならない。」

 

「ッ!!!」

 

だが、反対の理由すらも一重に斬り捨てられてしまう。取り付く島もない。目の前の少女――サオリはあくまでもアズサの成果を高く評価している様だが、アズサからすれば一つ一つ人としての感情を撃ち抜かれている様な気分だ。

 

(もう、猶予はない。私一人で、あの数を相手にする事は出来ない。それに・・・サオリは家族だ。アツコもミサキもヒヨリも・・・皆私の家族だ。それに銃を向けるなんて・・・とても、出来そうにない。)

 

目の前でアズサの返答の違和感に首を傾げるサオリは、アズサにとってゲリラを筆頭に戦闘技術を教える教官であり、同時に冷たいあの地で身を寄せ合った家族だ。幾ら大切な友達が危ないと言えど、家族に銃を向ける事だって出来やしない。

 

「これは前段作戦に過ぎないが、どちらにせよ明日になれば全てが変わる。私達アリウスにも、このトリニティにも、不可逆の大きな変化が起こる。トリニティのティーパーティー、そのホスト、桐藤ナギサのヘイローを破壊する為に、お前はここに居るんだ。」

 

心が壊れそうになる。桐藤ナギサのヘイローを破壊し、壊れた人形の様に地面に横たわるナギサの姿を見た時、一線を越え人殺しに堕ちた時、私は果たしてまともで居られるのだろうか。

 

(分からない、分からない、分からない・・・どうすれば、どうすれば・・・)

 

「訓練の時も言ったが、お前は筋が良い。大丈夫だ、上手くやれ。百合園セイアの時の様にな。」

 

サオリ(家族)からの言葉の筈なのに、心が恐怖を抱いている。百合園セイアの時は、上手く誤魔化す事が出来た。だが、今度はそうもいかない。アリウスの同志達が直接見ている。誤魔化す事など出来ない。

 

「・・・分かった。可能な限り準備を進めておく。」

 

考えども考えども、凍り付いた思考では何も出てこない。今のアズサには、指示に対し了解を返す事しか出来る事はなかった。

 

「こちらも物資は多めに持たせる様にしておく。最近はブラックマーケットを好き勝手荒らす【万物の天敵】とやらも姿を見せなくなったおかげで物資の調達が楽になった。準備不足でも何ら問題はない。」

 

「・・・了解した。」

 

家族の筈なのに、どうして視線が怖いのだろう。グレーに染まった心境のまま、アズサはサオリに背を向けて歩き始める。

 

 

「・・・アズサ、忘れていないだろうな。vanitas vanitatum・・・」

 

 

「・・・et omnia vanitas.全ては虚しいもの。どんな努力も、成功も失敗も、全ては無意味なだけ。一度だって、忘れた事はない。」

 

 

嘘だ。アリウスの人間の中で呪いの様に言われ続けている校訓。そんな証明しようのない教義なぞ、とうに自分の中で崩れかけている。

 

 

――努力が無意味なら、分からない問題を頑張って解いた時のあの達成感は何だというのだ。

 

 

――失敗も成功も無駄だというのなら、合格ラインを越えた時のあの喜びは何だというのだ。

 

 

(違う。だから私は、自ら進んでこの任務に志願したんだ。もう、迷っている場合じゃない。・・・事を起こせば大混乱になる。でもせめて、補習授業部の皆だけは・・・)

 

 

 

―――ここ数日で感じた感情は無駄でも偽りでもない。本物の輝きだ。

 

 

 

心は昏い。だが、やらねばならない。全てが、虚偽で出来た悪意に呑み込まれる前に。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(くそ、なんで建物付近に正義実現委員会の人間があんなに待機してやがんだ。近づく事すら出来やしなかったぞ。あー、せめて顔を知られてなければなぁ・・・気も滅入るし腹も減った。)

 

アズサをひとしきストーカーした後に本校の方に向かったイサネだが、ハナコの言っていた不自然なまでに静かだったという話は本当だった。更に言うのであるなら明日の試験会場となっている筈の建物付近には何故か正義実現委員会の者が無数に配置されており、隠密状態を保ったままの突破は完全に不可能な状態となっていた。

 

(気を引こうと余所で騒ぎを起こすにしてもあの様子じゃ動かなさそうだったし、ミッション失敗ですかぁ?ったく、最悪だよ本当・・・ん?)

 

ぶつぶつと心の中で文句を垂れ流しながら合宿所に帰還したイサネ。小腹が空いたので夕食の余りでも貰おうか等と呑気な事を考えながら玄関を上がり、寝室に向かうのだが、丁度先生の部屋から話し声が聞こえてくるのを聴覚が捉える。

 

 

「ティーパーティーのナギサが探している、トリニティの裏切り者は私だ。」

 

 

まさかまさかの人物の、まさかまさかの言葉を。

 

(おやおやぁ?)

 

小腹が空いたなど瞬く間に頭から抜ける。獲物が尾だけでなく腹まで見せたのだ、呑気な表情をしていたイサネは即座に狩人の目付きで気配を殺し、部屋から聞こえる音全てに意識を向ける。微かな呼吸の様子や音の反響から確実に部員一同がこの部屋に居る事は間違いない。

 

「・・・はい?」

 

「・・・え、急に何の話?」

 

先になんとなくの事情を知っているハナコはともかく、アズサの正体など疑いすらもしなかったヒフミとコハルはアズサの言った言葉が理解出来ていない様子だった。だが、アズサは構わず話を続ける。

 

(・・・突入はあれの言い分を聞いてからでも良いな。というかアズサの精神状態的に暴れ出してからでも間に合うなこれ。)

 

今のこの場に乱入し、「漸く正体を現したな」とアズサに攻撃を仕掛けるのは簡単だ。だが、それでは面白くない。訳も分からずに殺してしまうのは余計に混乱を招くだけという事をイサネは虐殺の中で知った。むしろ希望を見出させてから突き落とす方が人の心を壊せる。・・・まぁ人類の完全な駆逐にそれが必要かと言われれば全く以て必要ないのだが。

 

その後もアズサの自白は続く。白洲アズサという人間は元々アリウス分校の生徒であり、トリニティには身分を偽って編入してきたという事。トリニティでの目的はナギサの暗殺という事。そしてナギサの暗殺が明日実行されるという事。アズサは、本来殺されてでも吐いてはならない密偵としての使命を、友人かも怪しい補習授業部の皆に明かした。

 

 

「・・・私は、ナギサを守らなきゃいらない。」

 

 

同時に、自らが思っている事も。ハナコの推理という手助けこそあれど、ナギサの暗殺を企むアリウスの人間が何故ナギサを守ろうとするのか、その真意を、アズサは打ち明けた。

 

(なるほど、とするならセイアはまだ生きているな。どうでもいいけど。さて、幾ら小規模の学園と言えど学園は学園。アズサ一人でどうにか出来るのかなぁ?)

 

何やらハナコの独白も始まってしまい若干乱入のタイミングを逃した気がするが、気にせず耳を傾け続ける。

 

「・・・アズサちゃんの言った通りです。虚しい事だとしても、最後まで抵抗を止めてはいけませんね。」

 

「ハナコ・・・」

 

「アズサちゃん、もっと学びたいんでしょう?もっと知りたいんでしょう?皆でいろんなことをやってみたいって、海に遊びに行ったり、ドリンクバーで粘って夜更かしとか。それを諦めてしまうんですか?」

 

ハナコもハナコなりに、アズサの心境の揺らぎを見抜いていたのだろう。まぁあの天才っぷりを前にあそこまでまんまの言動を見せればすぐに勘付かれても何らおかしい事ではない。

 

「諦める必要はありません。桐藤ナギサさん・・・彼女を、アリウスの襲撃から守りましょう。そして私達は無事で試験を受け、合格するのです。」

 

なるほど、そこまで来たか。イサネは気配を殺しながら内心で頷く。周囲の腐った思惑に心を閉ざしてしまったとはいえ、人情まで失った訳ではない。故にこの結論に辿り着くのは確定事項ではあった。というかもうこの道しかない。皆がハッピーエンドに進む為には。

 

 

「そんな事、物理的に不可能な筈―――」

 

 

ナギサを守りつつもアリウスの軍勢を撃退を脱落者なしで達成し、かつそのまま試験で引き揚げられた合格点90点を取る。難易度など高いで済めば安い方だ。だが、戦力に限って言うのならここに適任が居る。イサネは息を吐き、気配を殺すのを止めて立ち上がり扉を開ける。

 

 

 

「随分と面白い話をしてるじゃん?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「随分面白い話をしてるじゃん?」

 

 

空気が凍った気がした。声色こそ普段と何ら変わりないというのに、たったの一言で一同をぴしりと凍り漬ける、冷え切った殺意にも近い捕食者の気配。

 

「あれ、何で皆そんな黙ってるの。」

 

だが、幸いな事に空いた扉から現れたのは見知った顔こと標根イサネ。平時と何ら変わらない彼女の様子にほっとして胸を撫で下ろすヒフミや先生の事情を知って知らずが、当人は場が凍り付いている理由をいまいち理解していない様子だった。

 

「い、いや、丁度大事な話をしてた所だったからさ。ちょっとびっくりしちゃって――」

 

「アズサがアリウス分校から来た密偵だったって話?」

 

「え・・・?」

 

状況の理解が追い付いてなさそうなイサネに適当な言い訳を述べた先生だったが、それに被せる様に放たれたイサネの言葉に思わず思考がぶった切られる。まさかイサネに聞こえていたのか?と。だが、イサネはあくまでも平静のまま、空いている椅子に座る。

 

「まぁ取り合えず、簡潔で良いから一から聞かせてよ。」

 

「そうですね・・・アズサちゃん、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、問題ない。」

 

「では―――」

 

背凭れにがっつりと背を預けたイサネの音頭に従い、代表でハナコがこれまでの話を簡潔かつ分かり易く纏める。

 

 

 

 

「ふーん、アズサがアリウス分校の出身で、ナギサの殺害っていう任務を帯びてトリニティに編入したと。」

 

「はい、それでナギサさんの襲撃が明日の試験開始と同時刻・・・アズサちゃんは何としてもナギサさんを守りたいと・・」

 

数分後、一通りの説明を受けたイサネは数回頷いた後、普段通りの表情のままおもむろに口を開く。

 

「いやまぁそんな事だろうとはここに来てから思ってたよ。ただ先生のやり方的に生贄を差し出す解決方法は好まないだろうなって思ったから黙ってたけど。」

 

「結構早い段階から気付いてたんだね。言ってもないのに意向をくんでくれてくれたんだね、ありがとう。」

 

「そんな事は別にどうでも良いんだよ。そんな事より、ハナコ。こっちから動くってさっき言ってたよね?どう動くんだ?私も混ぜてよ。」

 

知って尚自らの意向をくんでくれたイサネの心遣いに感謝を述べる先生をガン無視し、イサネは食い気味でハナコに詰め寄る。

 

「混ぜて欲しいとは、何ともイサネさんらしいですね。こちらとしては大歓迎ですが、よろしいのですか?私達が払える報酬は何一つとしてありませんよ?」

 

「言ったでしょう?匿ってくれた恩返しだって。二次試験の時はしくじったからなぁ・・・そろそろ傭兵としての本懐もちゃんと見せないと駄目でしょ?」

 

「温泉開発部でしたね?ふふ、ありがとうございます。」

 

「任せろ。ルール無用の戦いは大の得意だ。それで、どう動くんだ?人数不利なのは変わらないし、動き方は決めないといけない。」

 

詰め寄るや否や瞬く間にハナコと契約を結んだイサネは、すぐさま作戦会議に入る。

 

「そうですね、これまで散々嘘や策略で弄ばれてきましたから、今度は私達から仕掛ける番です。何せここには正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人、ティーパーティーの寵愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人が居ます。あと・・・凄腕の傭兵さんも」

 

そう言って浦和ハナコ(トリニティ1の才媛)下江コハル(正義実現委員会の一員)白洲アズサ(ゲリラ戦の達人)阿慈谷ヒフミ(十分異常な自称一般人)、そして標根イサネ(凄腕の傭兵)の順で視線を巡らせる。

 

「その上、ちょっとしたマスターキー的な存在の先生まで居るんですよ?」

 

「マスターキー・・・まぁ、あながち間違いじゃないかなぁ・・・」

 

戦闘中後方に引っ込んで指揮をしている自分を思い出し、何とも複雑な心境の先生を余所にハナコはこう締めくくる。

 

 

「これだけ居れば、トリニティなんて半日で転覆させられますよ♡」

 

 

言っている事が不穏過ぎるが、言外に自分達なら出来るという事を言いたいのだろう。

 

「えっ、どういう事!?何をする気なの!?」

 

「・・・はいぃっ!?」

 

「・・・」

 

「言葉の真意が伝わってないぞハナコ。あと具体的な作戦をどうするか私は聞いてるんだけど。」

 

・・・イサネはともかく他3人には全く伝わっていない様だが。

 

 

「作戦については私に任せください。さぁ、今こそ力を合わせる時です!イサネさんの言葉を借りますが・・・泣くのも嘆くのも、全て終わってからでも遅くはありません。今は、望む未来の為に全霊を賭しましょう!!」

 

 

「えっと、取り敢えず頑張ろう!」

 

 

「は、はいっ!!」

 

 

「や、やってやるわよっ!!」

 

 

「了解した。」

 

 

「ミッション開始だ、行くぞッ!!」

 

 

――vanitas vanitatum et omnia vanitas.

 

 

仮に全てが虚しいとしても、世界は在るがままに在り続ける。だから私達も、今を生きる為に只足掻き続けるのみだ。そこに何の差異もありはしない。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『あはは・・・えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ。・・・との事です♡』

 

「ぶふっ!?」

 

『・・・ターゲットダウン。これより運び出す。』

 

無線から聞こえるハナコの言葉に、思わず吹いてしまう。

 

「ちょっとイサネさん!ナギサ様に気付かれちゃいますよ!」

 

「わ、分かってるって。でもハナコの奴、しれっとヒフミを黒幕にして・・・」

 

「そ、それは・・・その・・・」

 

「ちょっとヒフミ!早く移動するわよ!イサネもやる事やってよね!あんたが別動隊を志願したんだから!」

 

何かしらナギサの心を抉る事を言うのだろうとは思っていたが、ヒフミをだしにするという所まで考えてなかった。コハルに叱責を受けたヒフミとイサネは、しどろもどろになりながらも各自に割り当てられた役割の遂行に移る。

 

「OKハナコ。こっちは任せて。限界まで派手に暴れて、手勢の目を引き付けよう。」

 

「はい、お願いします。それにしても・・・うふふ、聞こえていましたよ?私の思い付きに思いっ切り吹いた所を♡」

 

「・・・こっち側の人間なの?」

 

「身長の割にこんなに軽い・・・ストレスでかなり痩せてしまっている。健康状態にも影響が出ているだろう。」

 

ハナコにめんどくさく絡まれながらも、イサネはヘイロー消失させているナギサを担いだアズサとハナコとすれ違う様に屋根裏部屋兼セーフティルームに入る。

 

『こちらの戦況は逐一報告します。イサネさんも相手はヘイローの破壊を教えられた人たちが相手です。気を付けてください。』

 

「ふん、言われるまでもない。私を誰だと思ってんだ。」

 

扉を閉じて鍵を閉め、無線機から聞こえるハナコの声に応えた後に無線を切る。

 

 

「・・・何人、殺してきたと思ってんだ。想定できる殺し方は概ね経験済みに決まってんでしょ。人殺し舐めんな。」

 

 

拗ねた様にぼやき、イサネはつい今程までナギサが座っていた椅子に座る。補習授業部の一同も既にセーフティルームから移動し、ここにアリウスの軍勢が来ても何も問題はない。アズサの想定が正しければもうそろそろで到着する筈だ。スカートの裾に隠していたナイフを抜き、至近距離でちゃんと確認しないと見えない様に隠し持つ。姿勢を正し、如何にも要人が座っている様に見せかける。

 

「・・・聞こえているかアズサ。貴方、ラテン語は分かるね?戦ってて少しでもこれは駄目そうだと思ったらpaceと伝えて。もしくは曳光弾を空に撃て。」

 

『ラテン語?古代語じゃないのか?まぁ分かった。必要になったら呼ぶ。』

 

「どうせこっちは私の我儘だ、依頼進捗の優先が私の絶対だ。・・・来たな、切るぞ。」

 

意図的に忍んでいるであろう足音が聞こえたと同時に無線を切り、お上品な振りをして突入を待つ。愛銃は隠蔽済だし、アサルトライフルの方も既に準備万端だ。

 

 

(聖園ミカ。もう部屋には居ないとして・・・どこに居るかだ。)

 

 

アズサ達には先生が付いている。人数不利からか多勢に無勢を強いられるだろうが、ミカが率いていると思われる主力を捩じ伏せれば十分に勝利できる筈だ。最悪正義実現委員会も巻き込めば戦況の泥沼化も期待できる。

 

「セーフハウスに突入。ターゲットを確認。居たぞ、あれが桐藤ナギサだ。」

 

「寝ているのか?まぁいい、周囲を警戒しつつ接近するぞ。」

 

(来たか。)

 

セーフティルームの扉が蹴り開けられ、推定5人から7人程の足音が中に入ってくる。イサネは椅子に座ったまま不動を貫き、あくまでも何らかの要因で気付いていない振りを続ける。

 

「抵抗は無い筈だ、やれ。」

 

「了解。」

 

1人がこちらに近付き、残りが後ろで銃を構えて待機している。合理的な方法ではあるが、今回ばかりは相手が悪かった。

 

「・・・桐藤ナギサだな?」

 

ほぼ斜め右後ろの位置から声が掛かると同時に右肩を掴まれる。

 

 

「返事が――」

 

 

右手に隠す様に握っていたコンバットナイフを逆手に握り直し、僅かな振り向きと同時に自らの右斜め後ろに立っていた侵入者――白の服にガスマスク姿という成りをしたアリウスの生徒の左脇腹にナイフの切っ先を突き立てる。

 

 

 

「が、ぁ・・・ッ!!?」

 

 

 

銃弾一発程度では傷を負わないキヴォトスの住人だが、その頑強性は刃物に対してもほぼ同様に発揮される。指の先などは紙のエッジでも切れる事があるのだが、腕や胴体、頭部や首などについては成人男性以上の力を持つキヴォトスの住人が全力でナイフを突き立てても刺さらない程には頑強である。・・・しばらく悶絶する程痛いが。

 

「甘いんだよねぇ。どいつもこいつも。」

 

しかし、今イサネが突き立てたナイフの切っ先はものの見事に脇腹に埋まり、彼女に触れたアリウスの生徒に経験した事のない激痛を与えている。

 

「何故殺人をヘイローを破壊するという表現でしかしない?ヘイローが壊れたから死ぬんじゃなくて、死んだからヘイローが壊れるんでしょ?ぼかす表現を使う意味が分からない。」

 

ガスマスクで分からないが、脇腹にナイフをぶっ刺されたこの生徒は痛みの余り自分が立っている事すら分からないのだろう。イサネは立ち上がると同時に更にナイフを押し込むと同時に傷を広げ、抜くと同時にグリップでガスマスクを思いっ切り殴りつける。

 

 

「いぃぎぁぁあああ―――!!が――」

 

 

硬質素材のグリップは、イサネの怪力も合わさって難無くガスマスクを粉砕し、強く広まった激痛に悶絶するアリウス生の鼻っ面を叩き割る。

 

 

「ごきげんよう知性の無いお客様方。トリニティ流おもてなしは如何でしょうか。トリニティ総合学園発足時より培われたノウハウを総動員し、アリウス分校の様な品も知能も無い異端者様に己が身の程を知らせる為に()作り上げた由緒()()()()()作法の一つでございます。」

 

 

血を流しながらヘイローを消失させたアリウス生を床に捨て、ナイフに付着した血を振って払うイサネは、仰々しい口調で後ろに展開するガスマスク5人と対峙する。

 

「う、血がこんなに・・・」

 

「こいつ、桐藤ナギサじゃない・・・!」

 

アズサの言う通りヘイローを破壊する訓練は受けてきたのだろう。だが、人が血を流して死ぬ事に慣れる訓練は受けてこなかったと見える。自身の足元で血溜まりを作る同胞を見て震えているのが良い証拠だ。

 

「はははっ、気付くのが遅いんだよなぁ。」

 

それを見抜くや否や、イサネはナイフを左手に持ち替えると同時にホルスターからアサルトライフ(M4A1)ルを抜き、銃撃を開始すると共に突っ込む。

 

「く、お、応戦しながら撤退だ・・・!こちら――」

 

「どこ見てんだ愚図。」

 

「ぎぃっ!?」

 

5.56mmの乱射を浴びてようやく再起動したアリウスの襲撃小隊だが、その時点で勝負は既に決まっていた。真っ先に狙われた小隊長がイサネの銃弾で怯んだ所に飛び蹴りを叩き込まれ、地面に倒れた所に右大腿部を激しくナイフで裂かれてダウン。

 

「た、隊長!?」

 

「次。」

 

隊長格と思しき生徒の左太ももを歩行能力完全喪失レベルで掻っ捌いたナイフを、イサネはそのまま右に居た明らかに動揺を見せた生徒に振り向きざまに投擲。

 

「いやぁぁッ!?・・・あっ!?」

 

「ははっ、こっちぃ。」

 

真っ直ぐ飛んだ血塗れのナイフをガスマスクの目のガラスに直撃し、破砕。眼球にこそ刺さらなかったものの、マスク内部に血がべったりと付着したナイフが入り込みパニックに陥った所を冷静に銃撃。10発も頭部に撃ち込んでやればすぐにヘイローを消失させた。

 

「くそっ、撃て!殺されるぞ・・・!」

 

「そんな怯えた射撃、ふざけているのか?」

 

3人目に6発程銃弾を撃ち込んだタイミングで残りの3人も各々の銃を構えてこちらに撃って来るが、恐怖に支配された銃撃など全く以て怖くない。イサネはその場から飛び去ると同時に速やかに10発を撃ち込み、銃撃戦に応じる。

 

「こいつ・・・!うっ、マガジンが・・・!」

 

「あぐっ!!く・・・こっちの狙いを見切っているのか・・・!?」

 

当然銃撃戦の結果はイサネが超優勢。相手のリロードを狙ってマガジンを手から弾き落とし、急所を的確に狙う事で即座に体力と意識を削っていく。遮蔽すら必要のない、一方的な的撃ち。

 

「駄目だ、撤退――」

 

「生きて帰す訳ないだろ馬鹿共が。お前らが家に帰る時は皆骸だよ。」

 

数的有利の銃撃戦ですら勝機はおろか勝負にすらならない。部隊が壊滅して漸く失敗を悟ったアリウス生達は倒れた仲間を見捨てて出口へ走り出すが、頂点捕食者からは逃げられない。

 

「こっ―――!?」

 

背を向けたから後ろに居る筈のイサネが何故か出口に扉に最も近かった者の目の前に現れ、銃床をそいつの鳩尾に槍の如く突き刺す。走っていた為、速度も相まって通常時よりもすさまじい威力となった鈍器の槍はアリウス生の肋骨を容易に粉砕。胃液を口から吐き出させると同時に意識も吐き出させる。

 

そこからは一瞬だった。背後に居る筈のイサネが突如目の前に現れた事によりたたらを踏んだ残り二人の内一人は、銃を捨て二本目のナイフと腰に佩いたククリナイフを抜いたイサネの二連撃により右上腕部に骨まで届く刺し傷と左鎖骨をへし折る凄惨な切り傷を貰った後壁まで蹴り飛ばされ、もう一人は左肘を筋や軟骨ごとナイフで破壊され、更にガスマスク諸共前頭骨を叩き割られた。

 

 

 

「殺し合いってのは、こうじゃないとなぁ。はははっ。」

 

 

 

血が辺りに飛び散るキヴォトスでは類を見ない最悪の事件現場で、イサネは返り血に染まった美貌で悦に笑う。

 

「さて、時間は余り残されていない。急がないとね。あー、でもやっぱこれだ。戦いってのは。」

 

ここまでの戦闘時間、30秒ちょっと。それだけで6人のキヴォトスの人間の命を危機に晒してのけたイサネは、アサルトライフルとナイフを回収すると、スマホ取り出してこの凄惨極まる光景を撮影。戒厳令でさぞ賑やかになっていると思われるトリニティのネット掲示板に匿名で投下。これで救護騎士団が動くか否かで、目の前に転がるアリウス生の命運は決まる。

 

「・・・後は救護騎士団の腕次第だな。」

 

操作を終えたイサネは投下された写真の反応を見る事もせず、血を拭く事も処理をする事もなくセーフティルームを出る。

 

「どこに居る聖園ミカ・・・必ず見つけて殺――すのは不味いんだった。」

 

人が潜れそうな窓を蹴破って外に出たイサネは、コジマ粒子を操作して空高く飛翔。夜目を用いて大勢で動く人影を探す。

 

 

「殺すのは不味いから・・・見つけて・・・ぶ、ぶん殴るとか?」

 

 

呑気な事を抜かしながら、地上に目を光らせる。

 

 

 






次回、エデン条約編2章 ラストバトル (尚ラストバトルだけで前後編になる可能性あり)

ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?

  • 普通にイサネさんがボコって終わり
  • 誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
  • 先生やアリスクの目の前でぶっころ
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