透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

82 / 90


前回から大分地続きに始まります。多分視点が混ざってるかも。



うねり唸るは黒き巨影のLeviathan

 

 

 

 

『こちらアズサ。20秒後に接敵、攻撃を開始する。』

 

「OK、こっちも今作戦におけるアリウスの主力を捉えた。恐らく本隊のどこかに居る筈だ。」

 

『了解した。アウト。』

 

地上から捕捉されない様に高度を維持しながら、アズサからの無線に応える。どうやら向こうは既に先遣隊に潜伏場所を発見され、いよいよ戦闘が始まるらしい。だが、こちらも先遣部隊に遅れて学園内に侵入する大勢のアリウス生を見つけた。

 

(あれを追えば、ミカの元に辿り着けそうね。)

 

右手に構えた愛銃【quid est pax】にマウントした可変スコープを覗き込み、倍率を下げる。狙撃をする訳ではない、どの辺に居るかを仔細に把握できればそれで良い。イサネは上空200mの位置に浮遊したまま、本隊と思わしきアリウス生達の動きを追い続ける。

 

 

――銃声、爆発音、銃声。

 

 

「始まったか。」

 

遠く、第4体育館の方から聞こえてくる銃撃音や爆発音が、ついにアズサと先遣隊が交戦を開始した事をイサネに告げる。アリウス分校の中でもトップクラスの特殊部隊の隊長からゲリラを仕込まれたというアズサなら、先遣隊程度で苦戦するような事態にはまずならないだろう。小さく呟きながら、監視の傍らでアズサの健闘を祈る。

 

「やっぱりパテル分派の校舎に行った・・・という事は聖園ミカはまだ自室か?」

 

ハナコも概ね検討が付いていると言っていたが、イサネの中では既に本当のトリニティの裏切り者はパテル分派首長である聖園ミカで確定している。アズサをアリウスの人間と断定した時よりも物的証拠が無いが、正直否定する要素が何一つとして無い。

 

「そろそろ動いててもおかしく無い筈だ、が・・・」

 

アリウスのナギサ暗殺が既に始まっている以上、アリウスと手を結んでいるミカもまた動き出している筈だ。先生にお願いをする為だけに護衛も付けずお忍びで容疑者達の巣窟に足を運ぶ程の行動力、動いていない筈がない。

 

更に言うのであるなら、補習授業部によってナギサの暗殺は失敗している。今頃アリウスの指揮の方では連絡の取れなくなった一つのセーフティルーム捜索隊を巡って何かアクションが起きているのは確実、そうなると自然の流れとしてミカの方にも一報が届くだろう。

 

 

「はっははぁ・・・♪・・・見ぃーつけたぁ。」

 

 

そしてイサネの予想は見事どんぴしゃに的中する。対物ライフルのスコープで監視を続けていた本体の動きが止まったのだ。それに合わせてスコープを先頭にずらしてみればなんと言るではないか、特徴的なピンクの長髪に綺麗に手入れされた真っ白な翼。ティーパーティー仕様の制服にでかでかと刻印された三位一体(トリニティ)の紋章。

 

 

―――間違う筈がない。パテル分派首長にして黒幕、聖園ミカだ。

 

 

「パテル分派校舎最寄りの生徒寮。やっぱり動かない筈がないよねぇ・・・あっははははははッ・・・!?」

 

上がる口角がが抑えられそうにない。自然と見開く瞼の動きに気付かない。丹田の奥底から湧き上がる黒く昏い衝動が闘争心を本物へと昇華させ、火をくべる。

 

 

――殺してやりたい。

 

 

機械然と精緻の整い過ぎるイサネの美貌が妖艶に、しかし獰猛に嗤う。曇りなきライムグリーンの瞳に爛々とした輝きが宿る。

 

 

――その端正な顔を、恐怖と涙と血でぐちゃぐちゃに歪めてやりたい。

 

 

体が自然に飛行を開始し、奇襲を掛け易い位置へと移動する。そして一瞬で解放される思考クロックの上限と脳内に響き渡る「メインシステム、戦闘モードを起動します。」の幻聴。

 

 

 

―――絶望に染まり切った死に様を、隅の隅まで堪能したい。

 

 

 

セーフティルームでアリウス生数名を死に際に追いやってから、戦いたいというフラストレーションが限界だ。体を融解させる程の闘争心に突き動かされるまま、イサネはコジマ粒子を充填する。

 

 

「はは、はははははは・・・ッ!あは、あははははッ・・・!!」

 

 

コジマ粒子の充填完了。その上から翠緑の薄膜――プライマルアーマーを展開し、更に余剰生産分をチャージ。折角自由にやれる時間なんだ、オーバードブーストだけで突撃するのは私が満足しない。更にチャージ。

 

 

 

―――全体時間にして2秒。・・・充填完了。

 

 

 

「あッははははははははッ!!?」

 

 

 

―――解放。

 

 

 

殺したら駄目だとか、ナギサを守る為だとか、そんな事はもうどうだって良い。ここ数週間、ずっとずっと抑え付けられてきたのだ。自由にやれる時間、その間に全て吐き出し切る。たとえその結果に何人死ぬ羽目になろうとも。

 

 

――知った事ではない、抑え込もうとした奴らが悪い。

 

 

クイックブーストの連続噴射も合わせ、今は音速を優に突き抜け時速2000km超。空気を強引に吹き飛ばし、衝撃波すらも置き去りにして約200mの距離を()()()

 

「んもう!こんな時に何の音―――」

 

「なんか光っ――」

 

時間にして0.3秒半。単純計算だと0.36秒。一般人の反射神経の限界が0.2秒、アスリートでも0.15秒。避けるのなら先にイサネの場所を知っていた上で動き出しの瞬間を認知して猶予は0.16秒。動き出しに気付けなかった時点でもう回避は不可能。それはキヴォトスの住人であっても同じ事。逃げられぬ自然の人体の限界。

 

 

 

「はッはははっ!?死ぃぃねぇぇぇぇえええーーーーッッ!!!」

 

 

 

激情に任せるままに、闘争心の示すがままに、保持されたチャージ済コジマ粒子を解放する。アサルトアーマー。エリドゥでの時の様に撃ちたいが、まだ終わっていないので通常で出せる限界を決める。この時点で、もう過剰すぎる火力。

 

 

 

―――空気の揺れが光球を纏い、そして光に覆われる。

 

 

 

キュィィィィ・・・という独特な音と共にパテル分派保有の建物群の一角が微かに翠緑の混じった白い光球に包まれる。中に呑み込まれた者は、何かが起きた事すらも認識できず、光に意識を溶かし消し飛ばされる。

 

光球の周囲も迫撃砲程度では到底起こせない常識外れの衝撃波が飾り立て、展開前で密集していたアリウス生を土くれの如く舞い上げる。

 

地面は光球を受け入れるかの様に削られ、木造建築も一瞬で芯までの構造体を喰い尽くされる。まるで餌だと言わんばかりに。そして余剰の牙は、トリニティの一区画を激しく揺らす震災と成る。

 

 

「居ッ・・・たぁ・・・ッ!!!」

 

 

そんな在るもの全てを呑み込む光の中、イサネは感覚だけでミカに手を伸ばし彼女の胸倉を掴み上げる。超威力のアサルトアーマーと言えど効果は割と数瞬。被害者側はそうではないだろうが、まぁそこはどうでも良い。

 

イサネは掴み上げた左手を前に突き出し、認識が過去に居るミカを突き飛ばす。そして即座にその腹にquid est paxの銃口を叩き込み、先に充填しておいた分に加え更にコジマ粒子をチャージ。

 

 

「ひははは・・・ッ!!!」

 

 

0.5秒未満でチャージを終えたイサネは、殺意のまま引き金を引く。

 

 

 

―――光芒。

 

 

 

直後、ミカの身体が再び翠緑の光に消える。否、銃口から放たれた翠緑の光芒によって校舎に大空洞を空けて吹っ飛ばされた。

 

 

「あっはははははッ!!?」

 

 

僅かに昇るコジマ粒子の残滓を銃口から垂れ流したまま、イサネはライフルを下ろし、たった今自分が開けた校舎の大風穴を眺める。

 

「・・・まだ生きてるな。というか立てそうだな、あれ。」

 

そして数秒後、半数以上がものの見事に意識を失い、完全に壊滅したアリウスの本隊の残骸が転がるクレーターの真ん中で、イサネは更に悦に嗤う。

 

 

――まだ動ける。まだ戦える。

 

 

これほどまでのタフネス、エリドゥでぶつかった時のネル以来だろうか。残骸を蹴飛ばし、ゆっくりと、しかし徐々に速度を上げながらイサネは光芒が作り上げた一直線の破壊跡を進んで行く。

 

 

 

 

 

 

一瞬白くなった後に飛んだ意識の中、何か音がかすかに聞こえた様な気がしたと思ったが、気付けば舗装された地面のど真ん中に転がっていた。余りにも現実離れした理解不能な現象。

 

 

(・・・なに?・・・え?どういう事・・・?)

 

 

思い出せる記憶がアリウス部隊を率いている隊長から連絡を受け、大慌てで寮から出てきた所で途切れている。そこから今に至るまでの部分が完全に断絶している。

 

(・・・え?待って・・・どういう―――)

 

「あ・・・が・・・ぅ・・・」

 

(声が出ない!?)

 

どういう事?と溢そうとして気付く。声が出ない。必死に喉に意識を向けれど、微かな呻き声を挙げるだけで言葉が紡げない。口が動かない。更に遅れて全身を襲う鈍い痛み。

 

(か、体・・・鈍くなってる・・・!?)

 

幾らお嬢様と言えど銃撃戦は一般人並みの頻度でやってきたし、戦車砲だって直撃した事もある。だがこうなる事は一度だってなかった。戦車砲を受けた時も吹っ飛ばされた際に極小さな切り傷擦り傷が付いたくらいで身体に異常なんて無かった。それが今や体の感覚すら曖昧で、視界すら碌に動かせない。

 

理解が追い付かない、何が起きたというのだ。掘り返す記憶は答えはおろかヒントの一つだって落としてはくれなかった。混乱が脳のリソースを徹底的に締め上げるせいで考える事も難しい。

 

 

(起き・・・ないっ、と・・・!この、ままじゃ・・・痛いッ!!このままじゃ・・・!)

 

 

だが、確実に分かる事が一つだけあった。それは自分が何らかの被害を受けたという事。アリウスと裏取引で契約を結び、俗に言う総大将の地位に着いた自分が身体に異常をきたし地面に倒れ伏している。戦いにおいてこれ程不味い状態があるだろうか。

 

全く動こうとしない体に必死に力を入れ、何とかして体を動かそうとする。今すぐにでもこのまま力を抜いて眠ってしまいたいという衝動に駆られる心を必死に抑えつけ、ミカは脳信号を全身に送り続ける。

 

 

 

「はっはははは・・・まだ生きてるかぁー?はっはっは・・・」

 

 

 

その時、遠くから呼び掛ける声が聞こえる。同時に、感覚が戻っていない筈のミカの全身に強烈な悪寒が走る。

 

(まだ感覚が戻ってないのに、どうして―――)

 

 

――否、魂からの悪寒。

 

 

最早力が入らないなど言っている場合ではない。直感が告げるままに、ミカは強引に全身を駆動させる。勿論碌に力が入らずに仰向けからうつ伏せに倒れるだけだったが、関節の方向に正しく曲がったままの膝と肘をかなり無理矢理下に捻じ込む事で辛うじて四つん這いの状態に持ち堪える。

 

「生きて・・・はいるな。でも、動けそうには無いねー。んふふふふふっ。」

 

(不味い不味い不味い・・・ッ!あの人、何かやばいっ!!)

 

元から感覚型の人間であるミカはテストや勉強を持ち前の感覚的な要領の良さでどうにでもしてきた。その感覚が、直感が、かつてない程警鐘を鳴らしている。

 

 

(まさか、あれをやったのはあの人・・・?)

 

 

だからこそ気付いてしまう。否、気付けてしまう。まだ距離はあるものの、こちらにゆっくりと、しかし確実に近づいてくる声の主の存在とその脅威が。

 

 

「意外と遅いんだねぇ、ははははっ。」

 

 

「・・・」

 

 

立つのが精一杯。表面的なダメージがまだ抜けきっていない。回避はおろか歩く事すら出来ないミカに、標根イサネはミカと比べ美麗が似合う顔に恍惚の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

(ふぅん?意外と起き上がるのが遅い・・・いや、起き上がれる時点でこいつもキヴォトスの中では最高峰に近くはあるか。取り分け頑丈さはヒナと並んでツートップかな。)

 

目の前のピンク髪の少女――聖園ミカが震える足で立ち上がるのを狂気の笑顔をそのままにどこか他人事の様に眺めていたイサネは、左手に握られていた愛銃を右手に持ち替え、コッキングをしてからの薬莢をコジマ粒子の残滓ごと排出する。

 

「ふ、プラズマキャノンを喰らっても死ななそうだな。いや、流石に無理だな。」

 

「プラズマ、キャノン・・・が、何の事かは・・・分からないけど、あなたが、私の敵である事は・・・よく分かったよ。ありがとうね、教えてくれて。」

 

まだ口の様に精密な動作を要求される部位の動きが安定していないらしく、途切れ途切れながらもしっかりと敵意を向ける事が出来ているミカにイサネ愉快に嗤う。しかし、ミカの体が明らかにこちらに突撃する為の溜めを行っている事は一切見逃さなかった。

 

 

「だから、もうちょっと優しく教えて欲しいなぁッ!!」

 

 

数秒後、ミカがこちらに突撃を仕掛ける。突進する猪と見紛う程の速度。なるほど、頑強さがキヴォトス最高峰なら当然俊敏性や筋力もそれに比例するという訳だ。そんな事を心の中でぼやきつつ、イサネはしっかりと軸をずらして避け、すれ違いざまに足を引っ掛ける。

 

「おっと。前は見ようねー、あはははっ。」

 

「あぅっ!?」

 

確かに脅威的な回復力と身体能力だが、イサネを相手するにはまだ回復が追い付いてなさ過ぎる。足を綺麗に引っ掛けられたミカは体勢を思いっ切り崩し、顔から地面に激突して転倒する。

 

「ったく、総大将が迂闊に姿を見せたら駄目でしょー?いくら丈夫だって言っても、殺し方なんて幾らでもあるんだから。」

 

いじめっ子の様に言葉を投げ掛けるイサネに、ゆらりと立ち上がったミカは普段通りの陽気さを持ちつつもそこに敵意を混ぜ込んだ薄い笑みを浮かべ、銃床にトリニティの校章が刻まれた他に夜闇でも目立つ上品な装飾が施されたランチェスター短機関銃――【Quis ut Deus】を右手に握り、イサネに向ける。

 

 

「やらないといけない事があるの、そこを退いてくれるかな?ブラックマーケットの珍獣さん。」

 

 

「それは私も一緒なの~。貴方の方こそ死んでくれないかな。出来損ないの傀儡人形さん?」

 

 

イサネもまた、右手に握った愛銃quid est paxの銃口をミカに向ける。数秒の沈黙。何を言っても双方退くつもりがないのは理解している。故にここからはどちらかが倒れるまでの戦いだ。

 

(なぁーんて思ってんだろうけどね、本当甘いんだよなぁ。)

 

沈黙が場を支配して6秒。丁度のタイミングでイサネは引き金を引く。部位狙いなどない、ただの射撃。躱してくれる事を前提とした射撃。

 

「危ないっ!なんで対物ライフルなのさ!?この距離で戦う武器じゃないでしょ!?」

 

「お前の目は節穴なの?ここにアサルトライフルちゃんと挿してるんだが。」

 

「だって使ってないじゃん!そんなので本当に私と勝負する気なの――って、速っ!!」

 

凄まじいダメージを負っているとはいえ、戦闘態勢に移行したミカには当たる筈もない。ひょいっと対物ライフルの銃弾を避けたミカはそのままサブマシンガンの本領――近距離での銃撃を始めようとして、同時に驚異的な速度で接近してきたイサネが振るったナイフを見、咄嗟に身を投げる。

 

「まー避けるよねこれも。」

 

「ちょ、ナイフ!?そんなの―――」

 

空を切ったナイフを左手で弄ぶイサネに、辛うじて刺突を避けたミカが動揺のままに声を荒げる。だが、返ってきたのは今日の昼ご飯の予定を答える友人の如き声で話される殺人未遂。

 

「ナギサの居たセーフティルームを襲ったアリウスの生徒は、こいつで片付けたよ。ほら、私返り血凄いでしょう?」

 

「っ!!?刺した・・・の?」

 

「?だってナギサを殺そうとしてるんでしょう?なんで逆に殺されないと思ったのさ。そっちがルールを破ったんだから、こっちだって破るでしょそりゃ。」

 

更に続いたイサネの答弁にミカは絶句する。ミカの中では卒業まで軟禁しておくつもりのナギサを殺そうとしたアリウスの裏切りも衝撃だが、それ以上に人殺し紛いの行為を平然とやってのけるイサネの異常性に強烈なショックを受ける。

 

 

「むしろ救護騎士団次第で生き残れる可能性を残してあげただけ感謝して欲しいよ。トリニティのネット掲示板にも写真を投下したし・・・そろそろ発見されても良いんじゃないかなぁッ!!」

 

 

「不味―――」

 

 

そして、ミカが受けたそのショックがイサネの時間を創り上げる。言葉と同時に地面を踏み込んだイサネに、明確に反応が遅れる。

 

「わっ!?やば―――」

 

先程のコンタクトで彼我の距離は3mあるかないか。イサネの速度からして反応が遅れたミカにはあと一回程度の選択権しか与えられない距離。イサネはそれをライフルの至近射で強引にミカの行動を強制させる。

 

(これで何も出来ないでしょ・・・)

 

ミカの意識が至近射に釣られるのを認めたイサネは、改めて左手に順手で握ったナイフを後ろに引き絞り、ミカの左脇腹に狙いを定め――

 

 

(・・・()()なら。)

 

 

「このぉッ!!」

 

 

るよりも先にナイフを手放し、直後に暴威を纏って撃ち込まれたミカの左腕を身体を左に捻って回避すると同時に手首を左手で掴む。

 

「嘘でしょっ!?」

 

「あははははッ!そうだよねぇそう来ると思ったよッ!!」

 

そのまま捻りの勢いを利用し、180度後ろを向くと同時に左腕を振り回してミカを投擲する。

 

「らぁぁッ!」

 

「きゃぁッ!!」

 

ミカの身体がフリスビーの様に回転しながら高速で飛んでいき、軌道先の建物の壁に直撃。爆音と共に外壁を破壊して止まる。

 

「普通なら対物ライフルの至近射を受けようだなんて考え方はしない。何故ならそれで一撃だから。でも貴方は違う。至近射が直撃しても何ら平然と出来るだけの耐久性があるから、強引に反撃するという選択が取れる・・・あぁ、最高に面白いよお前。」

 

「痛ったた・・・体が馬鹿になっちゃったみたいな感じがするよ・・・」

 

そう、キヴォトスの住人とはいえ対物ライフルの弾は流石に回避するし、喰らえば一撃で意識を失いかねない高脅威の攻撃として広く認知されている。だからこそ撃つだけで意味がある。今回もそういう意味を持っての至近射だったのだが、事もあろうにミカはそれの直撃を受けた上でイサネを叩いてきた。

 

「そう!だから楽しいんだよ!こういう奴らが居るからさぁッ!!ひははははははっ!!」

 

並外れた耐久力と膂力を有するミカだからこそ出来る圧倒的な力技。イサネは最初の奇襲を耐えきったミカだからこそやってくるだろうと推測を立て、ナイフを手放してのカウンター返しを行ったのだ。コッキングを終え、高らかに笑い声を上げる。

 

「次はこっちの番だからッ!」

 

土煙の中、ミカの声が響いたとほぼ同時にイサネは身を屈める。直後、イサネの上半身があった場所を数mはあろう巨大な木片が埋め尽くす。

 

「あっはははっ!?」

 

巨大な木片が塞いだ視界が開ける頃、イサネはとっくに回避運動に入っていた。低く屈んだ状態から体を地面に転がし、今度は丁度地面に着弾する様飛んで来た2発目を間一髪で避ける。

 

「く、当たらないの!?」

 

間髪で放たれる9×19mmパラベラム弾の雨を身体で受け、立ち上がってすぐに飛んで来た3発目の豪華なシャンデリアを上を超す跳躍で回避。4つの目の投擲が来る前に土煙の中に居るミカにライフルを撃ち、彼女が掴んでいた重厚そうな木製テーブルの一つ足を吹き飛ばす。

 

「思ったよりも痛い。やっぱ銃弾を受けながら攻撃するのは合わないな・・・おっと。」

 

「ふぅん、あれを避けちゃうんだ。流石といった所なのかな。」

 

地面に着地し、騙し討ちの如くタイミングをずらして飛んで来た木製テーブルの円盤を体を反らして回避。やはり想定は出来ていた。その圧倒的膂力を用いた重質量の投擲。はっきり言って下手な小細工よりも威力がある。今回は全て回避できたが、PAでは受けられない上一つでも喰らえばイサネとて危なかっただろう。

 

「狙いの無い投擲なんてそんなものでしょう?それとも、あんな適当さで狙ってたって言うつもりなんだ?はははははっ!面白い冗談だね!?」

 

まぁ、あくまでも当たった時の話であって、全て回避したのなら何の問題もないのだが。イサネの煽り文句を受けたミカは苛立ちを抑える様に手に残っていた木片を握り潰す。

 

「その不愉快な笑い、すぐにでも黙らせてあげる・・・ッ!」

 

「止めてみろよ脳筋!あーっはっはっはっはっはっはッ!!」

 

だが、イサネは変わらない。闘争を前にただただ笑うだけ。負けようが勝とうがそれは結果でしかない、命のやり取りを、すれすれの削り合いを。闘争の世界をただただ駆け抜け、極限の一線に見た世界の先へと没頭する。それだけだ。

 

ボルトアクション方式の対物ライフルとフルオート射撃が可能なサブマシンガン。何十倍という手数の差が付いた銃撃戦も所詮は闘争を飾り立てるスパイスでしかない。あらゆる手段を用いて不利をひっくり返すも良し、誇る様に己が技巧を見せ付け蹂躙するも良し、圧倒的な力で圧殺するのだって良し。相手を殺せるのなら何だって良い、そこに卑怯も堂々も存在しない。

 

 

―――何でも良い、敵を殺す。レイヴン達の時代から続く、戦場の不文律。

 

 

どんなに熱くなっても良い、どれだけ感情に支配されても良い。だが勝ちたいならありとあらゆるものを使え、ありとあらゆる事象を見逃すな。思考が焼き尽されても、生き残りたいなら考えるのを止めるな。常に敵を見据えろ。

 

セレン・ヘイズという大恩師に学び、レイヴン達から見て盗み、リンクスの戦場を駆けて身に付けた、キヴォトスでは重要視される事が殆どない殺し合いの方程式。

 

キヴォトスではやや事情が異なる為方程式の全てが当て嵌まる訳ではないが、それでも現状拮抗している様に見えるイサネとミカの戦闘の裏側を支配し、確かに勝敗の天秤を壊し狂わせているのはいかに闘争心に支配されようとも戦場を見据えるイサネだ。

 

 

「どうして・・・!」

 

 

故、その差は広がり続け、表にまで影響を及ぼす。

 

 

「どうして・・・ッ!」

 

 

銃の相性的に有利対面の筈がミカに勝機をもたらさない。

 

 

 

「どうしてぇ・・・ッ!!」

 

 

 

競り合いこそすれど、弾幕を貫く一発一発の射撃が正確にミカの体力か集中力を掠め取っていく。対するミカの射撃は、イサネにとって敵ネクストのライフル掃射を避けるのよりも遥か容易い。

 

 

「はははっ、温いなぁ随分とぉ!あはっ、あははははははっ!?」

 

 

綺麗なアルトボイスを台無しにするイサネの狂笑が、ミカの精神をごりごりと抉っていく。

 

 

「ひひっ、ひっははははッ!!」

 

 

セイアにちょっと痛い目に遭って貰うつもりがまさか殺す所まで行ってしまったというショックと後悔、

 

 

「あひゃひゃっ!?はは、はぁーっはっはっはっはっはッ!」

 

 

親友で幼馴染のナギサだけはと思った矢先こんな化物の顎に追われる恐怖と焦り。

 

 

「このっ・・・ナギちゃんの、ナギちゃんのとこに行かないといけないのに・・・!」

 

 

イサネの狂った笑いが烏の様にミカの平常心を啄み、本物の狂気と殺意に嗤うイサネの美貌がミカを恐怖のどん底に叩き落とさんと囀る。

 

 

――怖い。

 

 

自分の目的の為に目の前で友人や幼馴染が消えていくのが怖い。

 

 

――恐い。

 

 

命を命とも思っておらず、殺人に何の躊躇いもない、そんな目の前の相手(イサネ)が恐い。

 

 

 

――怖い、恐い、畏い、懼い。

 

 

 

目の前で銃弾の雨を気にも留めず地を駆けるイサネに対する恐怖心が、閾値を超えつつあった。感情の堤防が、決壊しそうになっていた。イサネの人を逸脱した立ち振る舞いとその強さは、これまでのストレスで壊れかかっているミカの心に止めを刺すには十分過ぎる。

 

戦場は既にイサネの奇襲を受けた場所から大きく移動しており、本隊の生き残りが何をしているのかも分からなくなっている。奇襲の為小戦力の編成となっている先遣隊などとうに殲滅されているだろう。幾ら正義実現委員会にも戒厳令を出して動きを封じているとはいえ、これではむしろ逆効果だったのではないかとすら思えてくる。

 

 

――尤も、今のミカにそんな事を考える余裕など一辺たりとて無いのだが。

 

 

「捕まえたぁっ。」

 

 

対して射撃のパターンとテンポを完全に見切ったイサネは、即座に銃撃に対して全身を敢行。一瞬でインファイトの射程に潜り込み、超至近距離で対物ライフルの銃口をミカの頭部に向ける。

 

「来ないで・・・ッ!」

 

咄嗟にライフルの銃口を払い除けるミカだったが、それが取ってはいけない選択肢である事に気付いたのは一瞬後だった。

 

 

「腕を使ったねぇッ!あっはははははぁッ!!?」

 

 

右肘の少し上をがっしりとイサネの左手が掴む。更に彼女の右手には微かに残って固まった血が付着したコンバットナイフが握られており、月夜に照らされた朱が異常なまでに禍々しく濁る。

 

「ぃ、嫌・・・!」

 

付着した血が、ミカの最後の平常心を平らげる。冷たい死の恐怖が自身の身体に深々と突き刺さるナイフを想像させ、恐怖に歯止めが効かなくなる。

 

 

「いやぁッ!!」

 

 

逆手に持ったナイフをミカの左肩に突き立てようとしたイサネだったが、間一髪でミカの左腕が間に合う。

 

「ぐ・・・なんて力・・・ッ!!やっ、ぱり・・・力比べは不味かっ、た、なぁッ・・・!」

 

「う、うそ・・・力、強っ・・・!?」

 

イサネ自身かなり本気で右腕に力を込めているのだが、何かの冗談の様にびくともしない。間にあった左腕でイサネの右腕を支える様にして抑えるミカの瞳には涙が浮かんでおり、既に色々としんどい事は間違いない。だが、そんな状態でもまだ筋力勝負で勝てないのは流石に想定外だった。

 

「これは・・・ッ!はははっ!!」

 

ここまでやって漸く力比べで大体互角にしかならないミカの膂力にイサネは呆れる事しか出来ない。ミカの右腕の方は抑え込めているが、逆にこちらの左腕も完全にミカの左腕に止められているという拮抗状態。

 

(・・・このままこいつを力ませて別の個所を刺すのは楽だ。でも筋肉馬鹿ではないから反応が追い付く可能性も0じゃない。・・・仕切り直すか?逃げられると面倒なんだが。)

 

(どうしようどうしよう・・・!このままだとナイフが私に・・・け、蹴り飛ばして距離を取らないと・・・距離を取って、そしたら猶予が出来るから、その内にナギちゃんの所に・・・)

 

拮抗状態のまま、双方数秒の思考を巡らせる。ミカは如何にして標根イサネという人の皮を被った怪物を避けてナギサの所に行くか、イサネはどうやってこのフィジカルの暴力こと聖園ミカを無力化ないしは殺すか。

 

 

思考の後、双方同時に動き出す。

 

 

「しぃッ!!」

 

 

「やぁぁッ!!」

 

 

イサネはナイフを突き立てようとしていた右手でミカの頭部を狙い拳打。対するミカは右足でイサネを蹴り飛ばして距離を取る。

 

「がッ―――」

 

「ぐぅっ!?」

 

ミカの前蹴りはイサネの左脇腹を捉え、イサネの右拳はミカの左頬を捉える。左頬を信じられない力で殴られたミカは殴られた頭部に引っ張られる形で大きくよろけて後退し、左脇腹を冗談みたいな力で蹴られたイサネは全身をくの字に曲げる形でノックバックする。

 

「がぁぁ・・・ッく、くはははっ、ヒールぅ・・・!」

 

「うぁぐ・・・っつぅ・・・うぅ・・・」

 

イサネの脇腹はヒールによる小面積での打撃だった為力が一点に集中し、痛みに異常なまでの耐性を持つイサネに片膝を突かせ、ミカの左頬はイサネが右拳に握っていた逆手のナイフにより浅くはあるがぱっくりと大きく切れ、がっつりと血を流す事となっていた。

 

 

――そして、双方に5m程の空間が開く。

 

 

「ぃま・・・!」

 

 

ミカは開いたこの間隔を待ち侘びた様に、左頬の血を拭って走り出す。この怪物の手をすり抜けて親友の元に行くには今しかない。半分恐怖、半分焦燥に突き動かされるまま、ミカは地面を蹴ってナギサの発見報告のあった方へ走っていく。

 

「あぁくそ、こんな時になんでクリーンヒットなぞ・・・!!」

 

イサネもすかさず追い縋らんと立ち上がりかけるが、脇腹に突き刺さった膂力+ヒールの一撃の痛みはそれを許してはくれなかった。痛みが許容範囲に収まったのはその数瞬後。その頃には既に辺りにミカの姿はない。

 

 

「・・・脳震盪くらいは起きてると思ったんだけどなぁ。見誤ったかぁ。」

 

 

痛みに慣れたイサネはゆっくりと立ち上がり、投げ捨てた己が愛銃quid est paxを拾い上げる。

 

「痛っった・・・まぁ貫通はしなかったから良いか。あのサイズだと皮膚を貫通してもおかしくないからなぁ。・・・コジマ粒子くらいは使っても良かったなぁこれ。」

 

一応確認の為にワイシャツの裾をスカートから抜き、左脇腹部分だけを挙げて中を見るとミカに蹴られたであろう下部に一点、数cm程の辛うじて青を認識できる真っ黒な痣が出来上がっており、軽く押せば確かな鈍痛をイサネに伝える。思ったよりも痛かったのはここだけの話だ。

 

「まぁ、あれ使えばあの馬鹿力も勝負できそうね。さて・・・先生、生きて―――うわ、すっごい銃声。ちょっとうるさすぎるな・・・」

 

愛銃に異常がない事を確認したイサネは気持ちを切り替えて無線機を起動し、声を掛けてみる。生存確認のつもりだったが、返事よりも先に聞こえる銃声に間違いなくまだ皆生きていて戦闘中だと言う事が確認できる。

 

『この数・・・間違いない、今作戦の本隊だ・・・!』

 

『これ以上下がれる場所はない・・・防衛線の維持を徹底して!』

 

「まぁ本隊はそう動くよなぁ。じゃ、あっちに加勢しに行きますか。」

 

無線から聞こえる会話の内容的に、どうやら奇襲を生き残った本隊のアリウス生達はナギサの確保を優先したらしい。

 

「聞こえてるか先生。こちらイサネ、黒幕を見つけたんだけど逃げられた。多分そっちに行ってるだろうから、私もこれから合流する。場所を教えて。」

 

『イサネ!えっと、現在地は―――』

 

「なるほど、了解した。」

 

無線越しの先生から現在地を聞いたイサネは、対物ライフルの空弾倉を投げ捨てると、そのまま銃撃音が響く方へと向けて走り出す。

 

 






やばい、前話で自制を切った展開を書いたせいかすげー早く仕上がるw

ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?

  • 普通にイサネさんがボコって終わり
  • 誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
  • 先生やアリスクの目の前でぶっころ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。