透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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イサネ登場までの流れは思ったよりもネタばらし会話が多く描写が面倒だったのでシスターフッド登場からイサネ乱入まですっ飛ばす事にしました(屑)

まぁこの時のミカ様は黒幕ネタばらし芸が出来ていたのが不思議なくらい精神的に追い詰められていたみたいなんで、更にプラスで精神叩けばこれくらいにはなるでしょという予想で書いてます。



軋んだ翼を手折るのは

 

 

 

アリウスの先遣隊をアズサが準備してきた防衛網に引き込み、背水の陣での交戦の末に全滅させる事が出来た。後はハナコの作戦通りコハルから連絡を受けた正義実現委員会の副委員長こと羽川ハスミが委員会を動かし、アリウス主力となる部隊を撃退ないしは撃破する。そういう手筈だった。

 

 

――だった。というのは、既に目の前でその手筈が決壊してしまったからだ。

 

 

「正義実現委員会は動かないよ。改めて待機命令を出したからね。」

 

 

想定よりも早い主力部隊の到着。コハルの連絡の後に下されたと思わしきティーパーティーからの待機命令。そして―――

 

 

 

「黒幕登場☆といった所かな?」

 

 

 

何故か戦闘直後の様に衣服を汚し、頬と口から血を流すティーパーティーの一人にしてパテル分派首長、本物の【トリニティの裏切り者】聖園ミカによって。

 

「・・・って、ちゃんと言える格好だったら良かったんだけどね。主力も半分くらい吹っ飛んじゃったけど。まぁでも良いや、目的を達成出来ればいい話だし。」

 

明らかに消耗した様子のミカだが、軽く息を整えた後に戦闘態勢で整列するアリウス生達の前で先生と対峙する。その立ち姿はややふらついている様にも見えるが、本人は気にした様子がない。気にかける余裕もない、といった方が近いのかもしれないが。

 

「そういう訳で、ナギちゃんをどこへやったか教えてくれる?時間も猶予もなくてさ。ここに居る全員を消し飛ばしてからは・・・間に合うかなぁ、ちょっと微妙かな☆」

 

「ミカ・・・」

 

「気になる?でもごめん、そんな時間はないの。あいつが来ちゃう。人を人とも思わない化物が来て、全部喰い荒らされちゃう。おっかないおっかない、化物か怪物(リヴァイアサン)が。一体トリニティのどこに居たんだろうね?あんな奴。」

 

その口から紡がれる言葉に強者の余裕はない。憔悴し、何かに恐怖する様に言葉を重ねるミカに、先生のみならずミカの性格を知る者は皆一様に違和感を覚えた。

 

 

「化物?それはどういう――」

 

 

「もう時間がない。譲らないなら、力づくでやるよ。・・・皆、やって。」

 

 

先生が問い掛けるよりも先に、ミカは周囲に待機しているアリウス生に攻撃指示を下す。その声に、圧倒的優勢下での余裕など微塵も感じられなかった。

 

「先生、気を付けて。・・・手負いでも、あれは十分過ぎる程に強い。」

 

「そうだよって、言えたらよかったんだけどね。でも、あなた達を消すにはこれでも十分かな。」

 

周囲に展開したアリウス生が一斉に銃撃を開始する。それに応じる様に補習授業部の4人も各々愛銃を構え、反撃を始める。

 

 

「はっ、はっ、はっ・・・お願い、あと少しだから。持って・・・!!」

 

 

やはり様子のおかしいミカは、銃撃戦の最中にも関わらずぎゅっと胸を抑える様にして数秒俯き、何事かをぶつぶつと呟いている。

 

「うわっ!・・・ヒフミ!これを遮蔽に使って!まずは左右に展開した相手から!ミカの動きには十分注意して!」

 

「は、はい!」

 

「了解した。」

 

とは言えこちらもミカの様子を気にしている場合ではない。先に先遣隊とはいえそこそこの数を相手にしているのだ、そのまま連戦で本隊+ミカと交戦するとなると果たしてどこまで持ち堪えられるか。そもそも正義実現委員会が来ない段階で自分達に勝機はあるのか。

 

「先生、恐らくミカさんが言っているあいつというのは・・・」

 

「分かってる。私もそんな気がしてる。」

 

無い訳ではない。戒厳令により殆どのトリニティ生が動けない中、自由に動ける筈のミカを襲撃できる者などほぼ確定している様なものだ。勝ち筋とすればそれが到着するまでの時間を生き残る事だろうか。

 

 

「シャーレの先生・・・皆がやたらと囃し立ててたけど、全く以てその通りだったね。でも、もう本当に時間がない。だから―――」

 

 

アリウスの主力は確かに数は多く、れっきとした戦闘の心得を持つ者が殆どで構成されていたが、まだ何とかなりそうだ。このまま時間を稼げればだなんて思っていたのだが。

 

 

「先生ッ!来る!!」

 

 

――私がやるね。

 

 

ここでミカが動き出す。覚悟を決めた様に頷いたと思ったら、手負いとは思えない程の速度でアズサに接近し、左拳でアズサの頭を狙う。

 

「くっ!?」

 

「アズサッ!?」

 

普段の訓練の賜物か、ぎりぎりで反応が間に合ったアズサが自身の頭部に迫っていた拳を身体を右に傾ける事で回避する。

 

「一瞬で良いからミカに攻撃を集中して!アズサ、下がって――」

 

「私がこのままこいつの相手をする!」

 

「それじゃあアズサが・・・!」

 

近距離かつ室内での対峙の為ゲリラは出来ない。ミカの力が強すぎる為CQCは極める前に落とされれかねない。

 

「大丈夫だ!私はッ、大丈夫だッ!こんな私でも受け入れてくれた皆に・・・応えるんだッ!!」

 

そんな圧倒的不利状況でも、アズサはミカの攻撃を必死にいなし続ける。時折銃撃に混じった拳打や蹴りがアズサの身体を掠める度、明確に彼女の動きが悪くなるが、それでもアズサはミカの前に立ち続ける。

 

「先生、少しアズサちゃんの援護にも回ります。このままだと、本当に取り返しに付かない事に・・・」

 

「分かってる、無茶だけはしないでね。」

 

「はい。」

 

途中ハナコが援護に手を回したことでアズサの形勢も安定するが、はっきり言って綱渡りも良い所だ。先生の指示やハナコの援護射撃がなければとっくに捻じ伏せられていただろう。

 

「きゃぁっ!!バリゲートが!」

 

「コハルちゃん、こっちです!」

 

「違うコハル!右後ろだ!この状況でグレネードランチャー持ち相手に密集したら纏めてやられる!」

 

そしてアリウス主力を2.5人分の戦力で相手しているこちらもかなり限界が近い。予め設置したバリゲートは即席の物が残り1人分づつという有様で、コハルもヒフミも体で銃撃を受ける事が多くなってきた。

 

「そこっ・・・!」

 

「くっ・・・」

 

更に調子を取り戻し始めたミカに元々不利だったアズサが露骨に押され始め、いよいよ終わりが見え始め始めた頃。

 

 

「トリニティの生徒が一部、こちらに来て―――」

 

 

割と過密状態になっているアリウス主力の後方から体を捻じ込んできた一人のアリウス生が思いもよらぬ報告を告げる―――

 

 

――爆発

 

 

しかし、言い切るよりも先に体育館の壁が外からの爆発によって吹き飛ぶ。

 

「・・・どうして?ティーパーティーの戒厳令を無視して動ける人達は――」

 

報告を受けたミカはおかしいと言わんばかりに眉を顰める。だが、それに否を投げる声が一つ。 

 

「居ますよ。ティーパーティーですら指示を出せない、独立的な集団が。」

 

「確認取れました!大聖堂から・・・シスターフッドです!」

 

答えが重なる。吹き飛ばされた壁の外に展開するはトリニティの制服上部のセーラー構造にシスター服を合わせたシスター達。その先頭にシスターフッドのリーダー歌住サクラコが白を基調に神々しさをイメージした装飾とペイントの施されたIMIタボールTAR-21――【浄化の織り手】を手に立ち、それぞれ若葉ヒナタと伊落マリーがサクラコに付き従う様にして左右に控えている。

 

 

「シスターフッド・・・!っ、浦和ハナコ・・・!」

 

 

「まぁ、ちょっとした約束をしましたので。・・・あなたが知る必要はない話ですが。」

 

 

何故政治不干渉を掲げるシスターフッドがここに来て動いたのか。ミカはすぐさま合点がいった様にハナコを睨みつける。対するハナコもまた、その敵意の目線を悪意の籠った言葉で切り返す。

 

「けほっ、けほ・・・ッ!きょ、今日も平穏と安寧が、皆さんと共にあります様に・・・けほっ。」

 

「す、すみません・・・お邪魔します・・・」

 

そんな二人を余所に、爆煙にむせながら挨拶句をデザートイーグル片手に述べるマリーと、同様にデザートイーグルを腰のホルスターに挿し、手には車載運用が前提となっているグレネードランチャーを握るヒナタ。その二人の間を抜け、サクラコは静かに口を開く。

 

「シスターフッド、これまでの慣例に反しますが・・・ティーパーティーの内紛に、介入させていただきます。ティーパーティーの聖園ミカさん、他ティーパーティーメンバーへの傷害教唆および傷害未遂で、あなたの身柄を拘束します。」

 

「シスターフッド・・・これが切り札って事?」

 

サクラコからの宣告を受けたミカは、変わらずどこ吹く風といった様子だったが、明らかに目に映る焦りの色が強くなっている。

 

 

「・・・うんうん、確かに切り札かもね。ただ、いくら時間を稼いだとしても、結果は変わらないよ。戦力だってまだまだ残ってるし、私も動ける。そしてここの皆が消えれば、私を罰する人は居なくなる。」

 

 

だが、それでもミカは銃を捨てない。包囲に等しい状況を軽く見渡したミカは、シスターフッドの増援すらも時間稼ぎにしかならないと断じ、斬り捨てる。

 

「じゃ、続きを始めよっか。」

 

「・・・戦力は残っている、ですか。既に最後続が見え始めている手勢で言う事でしょうか?この状況での勝率がない事くらい、分からないあなたではないと思いますが。」

 

数的だけで見るならミカという単騎で圧倒的な戦力を補える存在を考慮して互角かやや先生有利といった所だが、その先生の指揮能力は生徒一人一人の戦闘能力を一つ上の次元までに引き上げる。それがシスターフッド全員分となれば流石に話が違ってくる。

 

「でも私はここまで来ちゃた。引き返しのきかない場所まで。だから降参は出来ない。それに・・・どんなに不利でも、もう止まれないから。」

 

ハナコの説得も応じる気配がない。先生は戦意を滾らせる補習授業部に無理はしないでと指示を下しつつ、サクラコから預かったシスターフッドの指揮を引き継いで戦闘に備える。

 

 

「私はもう、行く所まで行くしか―――」

 

 

総勢で戦闘態勢に入ったシスターフッド+補習授業部に銃口を向けるミカ。さっきまでの焦りはどこへやら、悲壮な覚悟が浮かんだ顔でこちらを見据えて口を開く―――

 

 

 

―――光芒、遅れて轟音

 

 

 

突如として体育館の天井が翠緑の光に変わり、衝撃波でシスターフッドが爆破した反対の外壁が吹き飛ぶ。結果、天井が消し飛びただでさえ半壊していた体育館が完全に崩壊する。

 

「この光は・・・!?」

 

「どうやら、来てくれたみたいですね。少し遅い気がしなくもないですが。」

 

「私はナギサが無事かどうかの方が気がかりかな・・・」

 

常軌を逸した一撃に混乱するシスターフッド、勝利を確信した様に先生に声を掛けるハナコと辛うじて生き残った舞台裏に隠したナギサに怪我がないかという問題に新たに気を揉み始める先生。

 

 

「・・・結局、こうなっちゃうんだね。」

 

 

そして、諦めた様にぽつりと零すミカ。

 

 

補習授業部+先生、アリウス+ミカ、そして先生に助成するシスターフッドに次ぐ4つ目の乱入要素。それは綺麗に吹き飛ばされた天井から、燐光をばら撒きながらやってきた。

 

 

「ごめん先生遅れた!普通に迷った!で、大口叩いておいて逃げ出した傀儡人形さんはどこだ?」

 

 

ミカが化物か怪物(リヴァイアサン)と称した存在――標根イサネは、地面に舞い降りるや否や右手に握っていた長大な対物ライフルを投げ捨て、左腰のホルスターに挿していたM4A1を抜く。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ミカを追ってイサネが現場に辿り着いた時、体育館に防衛線を張っていた補習授業部はかなり危険な状況にあると判断できた。

 

(私が相手するのはミカで確定かな。ミカを単機で抑えられる奴が居なさそうだし、多少邪魔をしてでもミカを優先する方が良さそうだな。)

 

補習授業部の疲弊具合とアリウス主力の残数、後は恐らくハナコの手引きによってこの現れたと思われるティーパーティーに並ぶ大勢力シスターフッドの存在を確認したイサネは、ここにおける己が役割を即座に定め、ミカに向けて口を開く。

 

「ミカ、貴方ティーパーティーの中でもホストに次いで権力があるんでしょう?こんな変な事してないであの同じ外見の建物をどうにかしてくれない?案内板が機能してないんだけど。」

 

「うーん、それは後で大聖堂の掃除と一緒にやっておくね。後あなたが居るとそれも出来そうにないから、消えてくれないかな?」

 

ここに来るまでにほぼ同じ外見の建物の間をぐるぐると回ったりと、トリニティの学園構造と夜間による視界の悪さによってかなり迷わされた。今の言葉もイサネの本音100%から出た言葉だ。

 

 

「まぁ校舎の外見変更はナギサにでも意見すれば良いだけの話。・・・やろうか。」

 

 

ミカの冗談交じりの返答に適当に返し、イサネは先程の戦闘では封印していたコジマ粒子の利用を解禁。身体から微かに翠緑の燐光を漂わせる。

 

「さっき天井を吹き飛ばした光と同じ・・・!?」

 

「なにそれ・・・」

 

始めてコジマ粒子を見たであろうシスターフッドや奇襲のせいで認知が出来ていないミカの反応を纏めて無視し、コジマ粒子を放出して身体能力を強化。ミカに向けて踏み込む。

 

「教えないねぇ、特に敵に対してはなぁッ!!」

 

「速・・・ッ!?」

 

先程の戦闘で見せたものよりも一段上の速度。ミカの想定していた速度よりも更に速く至近距離まで接近したイサネは、左腕にコジマ粒子をジャージ。ボクシングのジャブを放つ感覚で拳を放つ。当然、予備動作無しで放たれたイサネの拳をミカは咄嗟に腕で受けるしかなく―――

 

 

――起爆

 

 

「え―――」

 

 

疑似コジマブレード。の左腕に圧縮充填されたコジマ粒子は、ミカの腕に接触した事をトリガーに一気に解放。コジマ粒子の煌きをばら撒きながら大爆発を起こす。

 

「何が・・・!?」

 

「これは・・・!」

 

「今のはイサネの・・・の、能力?だよ!気にしないで!」

 

銃撃戦の最中、何の前触れもなく発生した大爆発に混乱を起こす一部の者達を置き去りにし、イサネはコジマ粒子の炸裂によって吹き飛んだミカに銃口を向け、アサルトライフルの引き金を引く。

 

「なに今の・・・ってもう!」

 

「あー、やっぱり5.56mmじゃ頭以外効果なさそうだな。これじゃAKも形無しだ。」

 

銃口から発射された5.56×45mm弾は一瞬行動不能になったミカを容赦なく叩くが、全く効果があるようには見えない。イサネは普段戦闘で楽しくなってくると発作の如く笑い始める自らの性分を抑え込み、銃弾を受けながら起き上がるミカを無表情に見つめる。

 

(いつもみたいにリスクを踏んだ接近は控えるべきだな。あとはあの翼で空が飛べるのかが少し気になるが・・・まぁ私が空に行かなければ使う必要も無いでしょ。)

 

イサネとミカの戦場は体育館隣の路地に移行した。10m強の距離を空けて対峙するミカの動きに注視しながら、イサネは高速で戦術を組み上げる。

 

「人殺しの咎、ちゃんと噛み締めてからくたばってくれよ?今度はちゃんとこいつ(M4A1)を使ってやるからさ。」

 

「っ、それは白洲アズサが――」

 

「主犯の時点でアズサより重罪に決まってんでだろばぁーか。そんな事も分からないのに、一丁前に政治を語るな。」

 

言葉の投げ合いと当時に、こちらでも銃撃戦が始まる。とは言え、先の戦闘において射撃戦は既にイサネに軍配が上がっている。それは連射力の代わりに一発の威力を失ったアサルトライフルに持ち替えても同じ事で、ミカもまた十分に理解している事だろう。

 

「くっ。」

 

「ほらね。」

 

故に、ミカが己が頑強さを盾に銃撃と共に至近距離での攻防を仕掛けて来る事は容易に想像が付く事であった。次々に飛来する9mmパラベラム弾を最低限の動きで躱したイサネは、異次元の膂力を持つミカとの格闘戦に備える。

 

「でも・・・っ。近接戦、避けてるでしょ。」

 

「避けてはいるけど、出来ないとは一言も言ってないねぇ。」

 

瞬く間に距離を詰め、走力の乗ったまま振るわれたミカの左ストレートにイサネは綺麗な左クロスカウンターを合わせる。と同時にアサルトライフルの銃口をミカの左脇腹に向け、引き金を引く。

 

「くぅ・・・ぅ・・・」

 

ミカの左ストレートはイサネの頭部ぎりぎりの所で空を切り、イサネの左カウンターはミカの右頬骨を捉える。だが、姿勢の関係上決定打には期待できない。

 

(投げる。)

 

カウンターを顎に当てる事は出来なかったが、それでもミカが怯んだ感触が確かにあった。今のマガジンに装填された残弾全てミカの脇腹に叩き込んだイサネは、自身の右手に持った銃のバレル部を左手で掴み、空いた右手で大きくバランスを崩し愛銃を握る右手で脇腹を抑えるミカの右腕を掴む。

 

「おぉぉッ!!」

 

掴んだミカの右腕を握り潰す勢いで締め上げながら、イサネは体ごと左回転。一周強――数値にして420度の回転の後、遠心力を利用してミカを投げ飛ばす。

 

「うわぁぁッ!?」

 

「なになになに!?」

 

人間砲弾と化したミカは地面から高さ80cm程の高さで補習授業部+シスターフッド対アリウス分校の主力残党との戦場を横切り、避け損なったシスターフッド3人とアリウスの生徒4人を薙ぎ払って建物に叩きつけられる。

 

「攻め手が単純すぎるんだよなぁッ!」

 

混乱する主戦場を気にも留めず、投擲の残心を解いたイサネは即座にアサルトライフルをリロード。ミカを追って大きく跳躍、シスターフッドとアリウスの軍勢の上を跳び越す。

 

「撃って来たぞ!・・・ぐおぇっ!!」

 

「速―――うわわっ!」

 

跳び越す最中にアリウス生に向け射撃。コジマ粒子を纏い、通常よりも威力貫通力共に強くなったアサルトライフルの掃射は、直撃したアリウス生達に無視できない被害を与える。

 

「援護ありがとうイサネ!」

 

「はいはい!」

 

先生の声に適当な返事を返しながら、既に起き上がりこちらに銃口を向けるミカの愛銃に意識を向け、コジマ粒子を操作。

 

「墜ちて・・・っ!」

 

銃弾が発射されると同時に少量のコジマ粒子を放出して空中で体をずらす。跳躍軌道はそのままに、人の急所となる場所に当たりそうな銃弾のみを身体捌きと僅かな機動調整で凌ぎ切る。数発腕や足に命中するが、気に留める必要もない。そのまま銃撃戦に移行する。

 

「なんで、なんであなたが私の邪魔をするのッ!?部外者には関係のない話じゃん!指名手配だってされてるんだし、どうして大人しくトリニティの外に居てくれないのッ!!」

 

「私は報酬と引き換えに依頼を遂行する傭兵だ!依頼の達成こそが仕事、お前ら他人の思想なんて知った事か!」

 

「じゃあその依頼って何さ!内容によっては私達の邪魔なんてする必要ないでしょッ!!」

 

「あっははッ!?教える訳ないでしょ仕事の情報なんだからさぁ!ぺらぺらと口の軽いお前とは違うんだよぉッ!」

 

銃撃戦はどこまで行ってもイサネ有利。ミカも先程の戦闘と比べ立ち位置を変え遮蔽を作りと立ち回りを変えて撃ち合うが、そもそも遮蔽の利用を抑え身体捌きとステップ等で銃弾を躱し、どんな姿勢からでも片手で正確に目標を狙い撃つというイサネのスタイルは相性が悪過ぎた。

 

 

「そもそもさぁ、お前焦ってんじゃないの?多分・・・セイアが死んだ事かな。あー、なんとなく分かってきたぞ、幼稚な理由で暴動が起きるキヴォトスだもんなぁ!嫌がらせ程度にしか思ってなかったんでしょ!?そうなんだろうッ!?」

 

 

更にイサネはこれまで自らが不運に嘆きながらも集めた情報と血が付着したナイフを見たミカの反応から、ふと思い当たる節を一つ声に出してみる。

 

「うるさいうるさいッ!あなたに私の何が分かるの!?セイアちゃんのヘイローを壊すのは計画の内だった!ナギちゃんだって・・・!」

 

「血の付いたナイフ見ただけで怯える様な奴が出来る事には思えないなぁ!?」

 

「っ!!?」

 

当然凄い剣幕で否定の言葉を怒鳴り散らすミカだが、血の付いたナイフを見て明らかに恐怖していたミカを知っている身からすればそんな反論は子供の屁理屈に過ぎない。イサネはいた情緒の壊れた狂った笑みを抑える事を止め、爆発的に広がる闘争心のままに激情を発露させる。

 

「ひゃははっ!?その顔だよそれぇ!ひっはははははは!やっぱり人殺しの咎は背負いきれなかったねぇッ!!?」

 

「違う・・・そんなつもりだった訳じゃ――」

 

「言い訳をするなよ人殺しぃ!あぁーはっはっはっはっはっはッ!!」

 

セイア暗殺がミカの望む所では無かった事は先の戦闘で微かに感じていた。恐らくは病院で数か月程度のつもりだったのだろう。だが、ミカはアリウス分校の生徒が持つ復讐心を読み違えた。先の戦闘で隙を突いて逃げ出したのはアリウスの主力にナギサが殺害されるよりも先に彼女を確保する為だったのだろう。

 

眉間にコジマ粒子を纏った銃弾が直撃し、僅かに隙を見せた所にすかさず懐に飛び込んだイサネは、アサルトライフルをホルスターに仕舞い両手でミカの右腕関節を掴み逆方向に捻じ曲げる。抵抗しようと暴れるミカの鳩尾に膝蹴りを叩き込んで抵抗を阻害し、膝蹴りの勢いを使って一気に関節を逆向きに圧し折る。

 

 

「あぁぁ――――!!」

 

 

ごきゃりという不快な音が聞こえたと同時にミカの声にならない悲鳴が木霊する。

 

「ふふふっ、高々一人を殺せって指示出したくらいでそこまで動揺できるならまだまだ向こう側の人間だよ。慣れちゃうとねぇ、1人2人殺った程度じゃ何とも思わないのよ。」

 

激痛でミカの聴覚が機能していない内にぼそりと零す。殺す事に慣れると実にシームレスに殺害という選択肢が日常にも浮かぶ様になる。そこから更に進むと、友人に凶器(ネクストの銃口)を向けても何も思わなくなり、殺した後でも平気で「仲は良かったよ」と戯言を平気で口にする。本当の人殺しというものは、それ程までに救いがない存在として一般人の目に映る。

 

「ほら立ちなよ。アリウスの主力はもう殆ど残ってないぞ。」

 

距離を取り、ホルスターからアサルトライフルを持ち直したイサネは、折れた右腕を抑え蹲るミカに友人に食事を誘うかの様に声を掛ける。ちらりと軽く体育館の方を見れば、既にアリウスの主力部隊は数人を残して殲滅されており、趨勢がほぼ決まっていた。

 

 

「それとも何、貴方もナギサを殺しに行った奴らと同じ末路を辿りたいの?」

 

 

「っ!!」

 

 

飽きたと言わんばかりに血の固着したナイフを抜いてみせれば、それを恐れる様にミカが体を起こし後ずさる。だが、既に手空きになったシスターフッドの生徒達がミカとイサネの周囲を囲む様に展開しており、逃げようとしても逃げられる様な状態ではないのだが。

 

「お待たせイサネ、シスターフッドと君のおかげでこっちはどうにかなったよ。だからその物騒な物は仕舞ってくれないかな?」

 

雇用主(先生)がそう言うのなら。」

 

そうこうしてミカの反応を待っている内に、アリウスの主力部隊の残党を全て撃破した補習授業部とシスターフッド、そして先生がこちらにやってくる。立ち上がりはしたものの右腕を抑えて俯いたままのミカの周囲を完全に包囲しチェックメイト。聖園ミカの勝ち筋は完全に潰えた。イサネは先生の指示通りにナイフを仕舞い、口を開く。

 

 

「まだやるか?幾らでも相手になるけど。」

 

 

周囲を完全に包囲され、更に推定利き腕を折られたミカに続けるか否かを問う。既に勝敗など決まった様なものだが、ミカがまだやる気なら幾らでも相手をしてやれる自信がある。アズサの様にCQCやゲリラなどの戦術が出来る訳ではないが、異次元の身体能力にはまだまだ興味がある。

 

「・・・あはは、どうしてかな。どこで見誤ったのかな。」

 

イサネに声を掛けられたミカは、圧し折られた右腕を抑えながら悲痛に歪んだ表情で話し始める。

 

 

「ハナコちゃんの事を、見くびったから?」

 

 

視線を向けられたハナコは、ただミカの事を見返すだけで何も言わない。

 

 

「アズサちゃんが、裏切ったから?」

 

 

隠し切れない疲弊に引き摺られながらも、アズサは目を逸らさない。

 

「ヒフミちゃんはただの普通の子で、コハルちゃんはただのお馬鹿さんでしょ?どっちも変数になる様な存在じゃなかった。」

 

銃も碌に握れなくなったミカは、諦めた様に地面に転がる彼女の愛銃【Quis ut Deus】を数秒眺め、ふと思い出した様に先生に視線を向ける。

 

 

「そういえば、一番大きな変数を忘れてたね。・・・シャーレの先生、あなたを連れてきた時点で、既に私の負けは決まっていた。ナギちゃんがあんまりにも騒ぐから、しょうがないなぁってシャーレに連絡をして・・・そこからかぁ。」

 

 

キヴォトスにおける最大の乱数、シャーレの先生。確かにミカから見れば先生がトリニティに来てからが全ての始まりだったというのは間違いではない。

 

「シャーレの先生か・・・」

 

ミカの言葉を聞きながら、ふと黒服が言っていた言葉を思い出していた。かなりの例外的な存在であると彼はイサネの事を言っていたが、同時にほぼ近しい例外性を持つ存在として先生の事も挙げていた。乱数という意味では確かに最大の存在だろう。敵として対峙するなら、絶対に考慮しなければいけない存在。

 

「ミカさん、セイアちゃんは・・・」

 

「本当に、殺すつもりじゃなかったの。今の私が言っても言い訳にしかならないけど・・・もともと身体も弱かったし・・・」

 

再び俯いたミカに何かを察したのか、ハナコがセイアについて言及する。が、ミカは諦めた様に本音を零す。戦闘時は初めから殺すつもりだったとは言っていたものの、実際の所はやはり殺意はなかったとの事だ。

 

「百合園セイアは生きてるぞ。」

 

「え・・・?」

 

「イサネさんの言う通り、セイアちゃんは無事です。襲撃があったというのは間違いありませんが、犯人が特定できなかったのと安全を考慮してトリニティの外で行方を偽装、今は療養をしています。」

 

セイアの生存は確信していた事だったが、作戦結構前のアズサの話によって漸くイサネも理解が追い付いた。

 

「セイアちゃんが・・・無事・・・?」

 

「はい。傷が治らなくてまだ目を覚ましてはいませんが、救護騎士団の団長がずっとそばで護衛と看護にあたっています。」

 

今になって初めてセイアの無事を知ったミカは、何かが落ちたような表情でハナコの話を聞いている。その様を見つめながら、イサネは一人溜息をつく。

 

(・・・写真を見てようやく顔を知ったが、元気に人の夢荒らしてやがったぞ。予知夢だか何だか知らないけど、人の秘密勝手に暴く馬鹿が実は目を覚まさないで療養ってのも気に食わないな。)

 

数週間前、黒服からの依頼が来る前日に見た余りにも懐かしく、そして不快な夢。思い出すだけでいらいらしてくる、一度本人に月光の光刃(07-moomlight)を突き付けて問い詰めたいくらいには根に持つ夢。

 

 

「そっかぁ・・・っ。生きてたんだ・・・」

 

 

一人嫌な記憶で苛立つイサネを余所に、ハナコから一通りの話を聞いたミカは心の底からの安堵を顔に浮かべ、唯一動く左腕をゆっくりと上げ降参の意を示す。

 

「降参。私の負けだよ。おめでとう補習授業部、そして先生。あなた達の勝ちだね。」

 

漸く投降の意志を見せたミカに、シスターフッドは包囲を狭め始める。

 

「もう何でも良いや、私の事も好きにして。」

 

続いたミカの言葉を受け、シスターフッドが圧し折れたミカの右腕を気遣いながらも彼女を取り押さえる。

 

「・・・アズサちゃん、自分が何をしているのか、この結果がこの先どうなるのか。それは分かってるんだよね?」

 

「勿論。」

 

「トリニティが守ってくれると思う?これからずっと追われ続けるよ。どこに行っても、ずっと。」

 

身柄を取り押さえるシスターフッドの生徒達に抵抗しない中、ミカはアズサに試す様な言葉を投げ掛ける。対するアズサの返答は変わらない。

 

 

「あなたが安心して眠れる日は来ると思う?・・・サオリから、逃げられると思う?アリウスの出身なら、分かるでしょ? et omnia vanitas―――」

 

 

「うん、分かってる。それでも私は最後まで足掻いてみせる。最後の最期、その時まで。」

 

 

――全てが虚しくても、それが全てを諦める理由にはならない。

 

 

アズサの確固たる意志を聞いたミカは、「そっか・・・」とだけ呟き、これ以上をアズサに問おうとはしなかった。しかし、今度は一人空を眺めるイサネに向けて口を開く。

 

「標根イサネ。・・・あなたは、トリニティで何をするつもりなの?知ってるよ、丁度2週間くらい前に生徒会区域に不法侵入者が出たって。あれの犯人、あなたでしょ?」

 

トリニティに入ってからずっと不快に思っていた桐藤ナギサをまさか守る羽目になるとは・・・と複雑な心境で日の昇り始めた空を見上げていたイサネは、そんなミカの問い掛けに面倒臭そうに返答を投げ返す。

 

「業務上、他人に過ぎない貴方に話す理由はないね。」

 

「ふぅん。でもこうして人の目を浴びた以上は、もうまともに外も歩けないんじゃないの?」

 

依頼が依頼故に他人に情報の一切を漏らせないイサネ。だが、ミカが視線を向ける先には既に見慣れた黒セーラー服の集団がこちらに向かってきており、深々と溜息をつく。

 

「はぁ・・・面倒な。」

 

確かに今まで以上にトリニティで付け狙われるのは面倒なんて次元の話ではないが、時間的にはもうどうでも良い話ではある。イサネの視界に映るミカの瞳には未だイサネに対する恐れの感情が浮き沈みしている様にも感じられるが、恐らく全てが終わった今、これ以上恐怖を味わう事もないとでも思っているのだろう。

 

 

「これだから、トリニティは嫌いなんだ。」

 

 

朝日を反射する綺麗な銀灰色の長髪をがしがしと掻きながら、しかめっ面のイサネはアサルトライフルを仕舞ってそっぽを向く。

 

「・・・はぁ。」

 

その後正義実現委員会の生徒達が合流し、ミカが連行されるその時まで、イサネがミカの居る方向に視線を向ける事はなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・漸く落ち着きましたね。」

 

 

到着した正義実現委員会の生徒達による簡易的な事情聴取とナギサの回収。その後戦闘で負った傷の応急手当と補習授業部が解放されたのはミカが連行されてから30分強後となった。

 

「うん・・・」

 

「コハルちゃん!」

 

一晩中休みなし事前の睡眠なしで戦闘を続けた補習授業部の面々は、精神的にも肉体的にもかなりの疲労を背負う事となっている。現にコハルは動いていないと意識が飛びそうになっており、既に何度かヒフミに支えて貰っている。

 

「行動開始が確か今日の2時とかで、ナギサのセーフティルームに乗り込んだのが・・・4時とかだっけ?そこから2時間強ぶっ通しで戦闘・・・うーん、一介の生徒がやる事じゃないね。」

 

「改めて見ると凄いですね・・・それにここ一週間ちゃんと睡眠も取れませんでしたし・・・これで漸く―――」

 

大まかな時間の計算を行うイサネの傍で、ヒフミが一段落付いたかの様に言う。確かにここで終われればどれだけ良かった事か。

 

 

「何を言っているのヒフミ、ここからがスタートだ。」

 

 

「はい?」

 

 

だが、勘違いしてはならない。彼女達の部活名は補習授業部。3回ある試験の内一回でも全員合格を果たす事が部の本来の活動目標であり、探偵の真似事などは補習授業部のする事ではない。

 

「貴方達に本番はこれからだね。3回目の特別試験はまだ始まってすらいない。」

 

「あぁ。それに現在時刻は7時50分。試験会場まで1時間で着かないと。」

 

そしてアズサの言う通り現在時刻は7時50分。今から試験会場となる校舎に行くには徒歩だと確実に間に合わない。

 

「走らないと間に合わない。行くぞ。」

 

「えぇっ!?走るんですか!?待ってくださいアズサちゃ――って速ッ!?ここから走って付く距離なんですかぁッ!?」

 

「うーん、全力で走ればぎりぎりでしょうか。生憎この辺から会場までを繋ぐ交通機関等はありませんし・・・さぁヒフミちゃん、コハルちゃん、ファイトです!!」

 

「も、もう歩くだけでも辛いのに・・・ま、待ちなさいよぉ・・・」

 

結局こうなるのか。イサネは深い溜息をつき、どんどん小さくなっていくアズサの背を見送る。

 

「・・・先生も早く行きなよ。顧問の同伴は必要でしょ。」

 

「イサネ。あの空飛ぶやつで運んでもらっても―――」

 

「1kmごとに料金が発生するけど。あと乗り手を考慮しないから落ちても責任取らないよ。」

 

そんな一同の背を見送りながら、何やらふざけた事をほざき出した先生を適当にあしらう。少なくとも、コジマ粒子による飛行は誰かの為の移動手段ではない。

 

「いや、そこはほら・・・こう、安全運転でいけないかな?後料金はちょっと―――」

 

「生徒の見本となる人間が生徒を走らせて自分だけ楽な手段ですか。良い御身分ですね。」

 

「んぐ・・・ッ!」

 

遅れて数秒、へろへろになってコハルの背を追い掛ける先生の情けない姿に軽く手を振る。

 

 

「ほらほら頑張れー。途中で倒れてるのを発見なんてされたらお笑いものだなー。」

 

 

「そんな事言わないでよ!?有り得るんだからさぁーっ!!」

 

 

こいつ本当に尊敬できる大人なのかなどとは言ってはいけない。これでも一応アビドス、ミレニアム、ヴァルキューレ、そしてトリニティとそれぞれの学園が抱える問題を見事ハッピーエンドで解決してきた実績があるのだから。

 

「・・・はぁ、それじゃ私も、そろそろ引き上げますかね。」

 

少し離れた所に見える、数時間前まで自分達がアリウスの手勢と交戦していた体育館跡。一面だけ残った壁を眺めながら、先生が見えなくなったことを確認したイサネはトリニティ学園の外に向かって一歩踏み出し―――

 

 

 

「申し訳ありません。そこから動かないでください。でなければ即時発砲します。」

 

 

 

何となく察していた気配に呼び止められる。

 

 

「標根イサネさん。補習授業部と共にクーデターを起こそうとしたミカさんの制圧に助力していただき、ありがとうございます。あなたの陰で、最悪の事態が引き起こされずに済みました。」

 

 

既に聞いた声。この声が掛かる前にさっさと退散したかった。

 

 

「ですが、元よりあなたはトリニティに不法に侵入している身。クーデターを阻止してくださったことには感謝しますが、別の理由であなたの身柄を取り押さえねばなりません。」

 

 

正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミ。ミカの指示によって今の今まで碌に動く事が許されなかった組織が、このタイミングでこちらに銃口を向けてきた。更に言うのなら補習授業部や先生が居なくなった時を見計らったのだろう。

 

「・・・はぁ、こんな事になるくらいなら、首を突っ込むべきじゃなかったな。ナギサが死んで、トリニティがアリウスの巣窟になるのを黙って眺めてればよかった。」

 

確かに検問を無視して不法侵入をしているのはイサネだ。正義実現委員会も正義実現委員会でやらなければいけない事情がある事くらい分からない訳ではない。イサネは発火しそうな怒りの導火線を抑えながら問い掛ける。

 

「仮にここで大人しくしたとして、いつまで拘留なの。」

 

「詳しい精査をした訳ではないので必ずしもこうなるとは限りませんが・・・そうですね、エデン条約の調印式。それが終わるまでは拘留されることになるでしょう。」

 

「調印式までか・・・無理だ、受け入れられんな。」

 

「そうですか、やむを得ませんね。」

 

調印式の前々日くらいまでならまだ何とか許容できたが、調印式が終わるまでは流石に無理だ。イサネはコジマ粒子の生成量を増やし、もう一人の気配に備える。

 

 

「ツルギ、交戦を許可します!」

 

 

「悪いが、強引に行かせて貰う。」

 

 

左手でコンバットナイフを抜く。丁度正門の方からこちらに疾走してくる土煙を視認し、反転。同時にプラズマ化したコジマ粒子を解放する。

 

「マシロッ!!」

 

「ふぅ・・・ッ!」

 

クイックブースト。イサネは自身の約100m後ろで伏せ撃ちの体勢を取っていた黒セーラー生徒――ハスミがマシロと呼ぶ生徒に向け瞬く間に距離を詰める。

 

「くっ!?速――」

 

マシロは即座に伏せ撃ちの姿勢を解除しようと体を起こすが、0.3秒で100mという距離を飛んだイサネに反応出来る筈もない。殴り合いの至近距離に持ち込んだイサネは、迷いなく地面に置いてあるアンツィオ20mm対物ライフルと思わしき対物ライフルのバレルを右手で掴む。

 

「お前からだ狙撃手。」

 

「っ!?この力は――」

 

マシロの腕力を一瞬で振り払い、バレルを掴んだ対物ライフルを持ち上げて適当な方向へと投げる。平均的な身長の黒セーラーの生徒が銃身にしがみ付く形で宙を舞い、抵抗の余地すら出来ないまま飛んでいく。

 

マシロが建物の間に消えていくのを視認したイサネは即座に反転、猛スピードで突っ込んでくる正義実現委員会の委員長にしてトリニティが誇る【歩く戦略兵器】こと剣先ツルギを迎え撃つべくナイフを仕舞ってアサルトライフルを抜く。

 

 

 

「きしゃぁぁぁぁぁああああーーーッッ!!!」

 

 

 

左手に握ったアサルトライフルをツルギに向けて掃射しながら、ブーストを吹かして真っ向から突撃。右腕にコジマ粒子をチャージする。

 

 

 

「そこを退けぇぇぇぇえええーーッ!!」

 

 

 

一つの大きな変遷へと続く分かれ道を切り捨てた朝のトリニティに、二つの咆哮が響き渡る。

 

 

 

 






ラストバトルもうちょっと派手に出来なかったかなあとやや後悔。

次回、エデン条約編2章完結。次々回から幕間兼3章がスタートします。

ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?

  • 普通にイサネさんがボコって終わり
  • 誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
  • 先生やアリスクの目の前でぶっころ
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