祝!エースコンバット8、発売決定!
作者は7から始めた人ですが、かーなり楽しみです。本当はインフィニティもやってみたかったのですが、インフィニティはサ終してしまったのでsteamにある8の協力マルチプレイというタグにはかなり個人的に期待していますw
・・・トンネルくぐり以外は。
今話は先生視点がメインです。
一夜、戒厳令下のトリニティの中で人知れず行われたトリニティ生徒会長の一人、聖園ミカによるアリウス分校の支援を受けたクーデターは失敗に終わった。他でもない、裏切り者と疑われた者達と超危険人物とされた者によって。
翌々日、解除された戒厳令と登校許可によって学園を訪れたトリニティの生徒達は、完全に崩壊した体育館と凄惨たる戦痕に戦慄し、また半壊したパテル分派の高級生徒寮からは多数の負傷者が救護騎士団によって救助され、同じく戦闘で脱落し回収されたアリウス分校の生徒共々救護騎士団の活動リソースを大いに圧迫した。
百合園セイア襲撃に事を発するこの一連の流れは事の始まりからして複雑。生徒会長格が2人居ない中、エデン条約に臨むティーパーティーのホストである桐藤ナギサもといティーパーティーに代わりクーデターに関する調査は政治不干渉の沈黙を破ったシスターフッドが当たる事となった。
―――白洲アズサさん、お入りください。
その中で最初に行われたのはアリウス分校からの密偵としてトリニティに来た、白洲アズサについての審問会。
アリウス分校からの密偵という事で審問会に掛けられた元補習授業部の白洲アズサは、ヒフミとハナコの付き添いの元セイア暗殺の実行役である事を認めると同時に事件当時セイアが居たセーフティルームで何があったのかを話した。
――・・・それがどんな結果になるかは、何も保証は出来ないがね・・・と。
――それで、セイアさんの部屋を爆破したと?
――百合園セイアが死んだと偽装する為には必要な事だった。アリウススクワッドを騙し切る手段は限られていた・・・けど、幸いな事に暗殺の為に渡された物は誰も使った事がない爆弾だった。だから別の爆薬で誤魔化すのも容易だった。
――セイアは事の全てを隠蔽する為の助っ人として、救護騎士団の団長を指名した。この後の事は全て彼女に託せ、と。・・・そして、私は部屋を爆破して逃げた。
白洲アズサにセイア暗殺とトリニティ潜入を命令したのがアリウス分校における特殊部隊アリウススクワッドのリーダー、錠前サオリという者が居る事を始めとし不可視のヴェールに隠された真実が明らかになった。
「過程がどうあれ、アズサさんは自らの意志でナギサさんを守り抜いた事は事実です。特別学力試験にも合格していますし、補習授業部含め、全員が明確な結果を示しています。」
審問会から始まるアリウス分校からの密偵、白洲アズサの扱いについては、本人の選択的にもトリニティへ転校という事になり、書類手続きの処理はシスターフッドの長である歌住サクラコ直々に預かる事となった。ティーパーティーですら手が出せないトリニティの大勢力シスターフッド、その長直々に手続きを行う以上、異議や手違いなど起きる筈がないだろう。
シスターフッドの教会にある談話室にて、ハナコ、サクラコ、マリーを交えた4人で話し合った、もとい事後確認を取った事だ。本来シスターフッドとは距離を置いていた筈のハナコが居る理由としては、クーデター阻止の為にハナコが己が身を切ってシスターフッドと交渉をした結果である。
「では、私には別の用事がありますので、これで失礼します。行きましょう、マリー。」
「は、はい!あの、ハナコさん、先生も・・・状況が落ち着いたら、後で是非ゆっくりお話を・・・」
「ふふっ、そうですね。楽しみにしていますよ、マリーちゃん。サクラコさんも、全裸登校の校則化について、後でじっっくり話し合いましょうね♡」
「だからそれは違うと言っているでしょう!?」
・・・場に現れるや否やいきなりぶち込み、最後の最後まで見せたトリニティ生の全裸登校を推し進めようとする意味不明な姿勢についてだけは、本当に褒められたものではなかったが。
先生がシスターフッドの二人とハナコを交えてそんな話をしているほぼ同時刻、意識が回復し、業務に問題なしと判断されたナギサに呼び出され、ヒフミは生徒会長専用のテラスに来ていた。
「ヒフミさん、どうかきちんと謝らせてください。」
普通の生徒なら緊張のあまり凍り付いてしまうであろう雰囲気の中、微かな緊張だけを帯びたヒフミに、ストレスでやつれ気味のナギサがティーカップを机に置いて口を開く。
「私は、ヒフミさんの事を疑いました。」
「えっ、あっ・・・」
困惑で言葉を詰まらせるヒフミを余所に、ナギサは一人続ける。
「これまでヒフミさんが理不尽に負った傷を考えると、この場で紅茶をかけられたとしても文句は言えません。」
水面下で進行していた各々の思惑が一気に表面化した今、常にナギサの中に巣食っていた疑心暗鬼はアズサの撃った5.56mmによって解消された。故に当時の彼女がさも常識の様に思い込んでいた真偽不明の噂話に振り回される事もなくなったナギサだが――
「ヒフミさんが、水着姿の犯罪者のリーダーだなんて・・・私は、どうしてそんな事を・・・」
阿慈谷ヒフミがアビドス高校――もとい覆面水着団のリーダーである事には変わりはなく、法律が適応されないブラックマーケットの闇銀行相手とは言え普通にトリニティ生として注意の必要がある事には変わりない。
「許してくださいとは言いません。許してくれるとも思っていません。ですが・・・」
「あ、あの、ナギサ様。」
一人語りの様に謝罪の言葉を連ねるナギサを遮って、ヒフミは話し始める。
「わ、私は大丈夫と言いますか・・・も、もちろん大変な時もありましたが、何よりもまず先に、これだけはお伝えさせてください。」
瞳に不安と罪悪感を揺らすナギサに対し、ヒフミは毅然を以て応える。
「私はナギサ様を憎んだりなんて、そんな事しません。ですからどうか、これ以上謝らないでください。」
唖然とした様子で「私だったら、きっと許せなかったと思うのに、どうして・・・」と零すナギサにヒフミは曖昧な笑顔を返す。
「どうしてと言われましても・・・ど、どうしてでしょうね・・・?
そのとき、ナギサ の のうり に きょうれつな きおく が よみがえる!!
――あはは・・・それなりに楽しかったですよ、ナギサ様とのお友達ごっこ。
深く、そして鋭い衝撃がナギサの脳髄を撃ち抜く。それは一撃で復調に向かい始めたナギサのメンタルを粉々に破砕し、その影響彼女の身体にまで響き渡らせる。身体が完全に硬直し、人が認識できる時間レベルで体の活動リズムがとち狂う。そして――
「ごふッ!?ごっほっ!けほっ、けほっ!」
一口、呑み込もうとしていた紅茶がずれた体のリズムに流され容赦なくナギサの気道に入り込み、急激に食道を逆流する。ともすればこの結果は当然。ティーカップを持ったまま、ナギサが激しく咳込む。
「な、ナギサ様・・・!?」
液体の入ったカップを持ったまま激しく咳込んだことによりカップからそこそこの熱量の紅茶が零れ、ナギサに降りかかる。熱さに怯んだナギサの手に薙ぎ払われる形でティーセットと共に置かれていた高級品のアフタヌーンティーセットが吹き飛ぶ。
「けほっ!ごほっ!!熱っつぅ・・・!・・・い、いえ、その、お気になさらず・・・」
凡そ品位と優雅さを体現する桐藤ナギサの印象からは想像も付かない大クラッシュの中、大慌てで駆け寄る付添人達に身を任せつつ、同じく困惑と心配の声を掛けるヒフミにナギサは咄嗟に取り繕える言葉を掛ける。
・・・ハナコの悪戯によって負った心の傷は、皆の想像よりも大きいものだったらしい。
後日、事の仔細をヒフミや謝罪を受けた元補習授業部の皆々から聞き、ナギサのメンタルケアを可能な限り早急に、そして自ら行わなければならないと強く感じた先生であった。
そしてアリウス分校と手を組み当時のホスト百合園セイアを襲撃させ、ティパーティーホストの座を乗っ取ろうと画策したクーデターの主犯こと聖園ミカ。もし仮にクーデターが成功していれば、トリニティ総合学園は聖園ミカを中心とした大変貌を遂げ、今頃学園内にはアリウス分校の人間が跋扈する新アリウス学園として新たな歴史のページを刻むと同時にゲヘナとの終わりなき
――人の思想や感情を超越して。
だが、そんなクーデターも先生の指揮する補習授業部の活躍とトリニティ全域で超要注意人物として半指名手配状態となっていた傭兵、標根イサネの尽力により失敗に終わり、最後まで抗戦していたミカも最後はセイアの生存を知り、銃を捨てる事となった。
遅れて到着した正義実現委員会に拘束されたミカだが、エデン条約の破綻から始まり、学園転覆はおろか殺人未遂と問わねばならない罪状が多く大きい為、一先ずエデン条約調印式までは一時的な拘留処置を取る事となった。調印式後最初の大イベントは聖園ミカの審問会だろう。そこで彼女が何を口にするのか、どういう判決が下されるのか。事件に関わった者として決して目を逸らすべきではないだろう。既に事情聴取と言う名の尋問は何度も行われたらしいが、最終的に審問会が魔女裁判ならないと良いが。
「ナギサさんとミカさん。方向性も違えば性格も真逆・・・ぱっと見ではこのお二人が長い時を共に過ごした親友でかつ、今の仲が良いとは断定しにくいと思います。そもそも、ただゲヘナが嫌いだからという理由のみであの様な事を起こすとは到底・・・」
ハナコの推察は銃火を交えた際のミカの様子から導き出したものだ。戦闘のスイッチが入ったイサネの言葉遊びにも近い饒舌に対し、自分にも言い聞かせる様に殺人を肯定する彼女の言葉。それに加えイサネが見せた血の固着したナイフ。それを見た時のミカの明らかに恐怖の感情を映した瞳。
他人の心を決め付けるのは大変宜しくないが、それでも確実だろう。ミカは人を殺める事に慣れていない、もしくはそれだけの覚悟が出来ていない。
「この前・・・と言っても昨日ですが、シスターフッドの力を借りてミカさんに会いに行ってみました。」
「厳重な監視の中にあるのに、よく会えたね?」
事後処理に対応すべく要請期間を過ぎてトリニティに滞在し、今も尚事後対応を担うシスターフッドの教会の一室で書類とにらめっこをする先生に、その才媛を活かし、瞬く間に書類を蹂躙しているハナコが続ける。
「まぁ、私達は事件の当事者であり一応被害者ですので。付き添いは必要でしたが、話せば意外とすんなり通してくれましたね。先客も居て――」
「え、私何回も訪ねて全部断られたんだけど!?ミカが面会拒否だって・・・!」
ハナコ曰く、ミカが収監されている監獄には先にナギサが来ていたとの事らしく、丁度二人の会話を聞く事にもなったのだと言う。そんな事よりも先生名指しで面接拒否されていた事実の方がかなりショックだったのはここだけの話だが。
「ナギサさんの為にあの二人の間で交わされた詳細なやり取りは伏せさせていただきますが、どうにも嘘をついている様子でしたね。ですので推理を交え少し問い詰めてみたのですが――」
その後直接ミカと対面したハナコのやり取りに耳を傾ける。
――・・・で、何が言いたいの?
「だから私が可哀想だって?本当はそんな事したくなかったんじゃないかって?それとも、間違った選択をしたお馬鹿さんだねって?と・・・」
――全然違うよ。私は裏切り者。仲間も友達も売り飛ばした、邪悪で腹黒な人殺し。
――その事実に目を背ける気はないよ。こんな私、嫌われたって仕方がない。
――もし、仮に他の理由があったとしてさ、それをどうやって知るの?
――だってそれが本当だって言ってるのに、それを否定してまで、ハナコちゃんは何を探そうとしてるの?どうしてそこまで、証明しようのない事に固執するの?
その後も続いたハナコの話を聞くに、どうにもミカが自暴自棄にも近い様な状態に陥っている様にしか思えない。ナギサ同様こちらも直接会って話がしたくはあるが、はてさてどうしたものか。
「まぁ、ああは言いつつも、結局先生には伝えてしまった訳ですが・・・少しだけミカさんに意地悪をしようと思ったのですけど、なんだか最後は本当に嫌がらせみたいになってしまって・・・」
苦笑と共に、ちょっと良くないことをしたと自省するハナコ。
「頭に血が上っていたようです。今度謝らないといけません。・・・ですが、今の所はこういった顛末になるしかないみたいです。」
そこで意地悪しようなどという発想が出るのがトリニティの悪しき風習なのか過度なストレスで歪んだハナコの心の棘なのかは分からないが、どちらにせよ尋問でミカが吐いたこと以上の真実を知る事は出来なさそうだ。
「ゲヘナを嫌うミカさんが、ホストになる為現ホストを襲った。襲撃を指示したのはミカさん、実行したのはアリウススクワッド、そして実際にセイアちゃんの居た部屋を爆破したのは白洲アズサちゃん。」
「皆それぞれ思惑があって、偶々利害が一致した。アズサは、この機に何かできる事があると実行役に手を挙げた。」
「各々違う目的と理由があり、その行動の結果が連鎖し、更に誤解と不審が混ざって、今ここに辿り着いた・・・これが結論、なのでしょうか。」
「分からない・・・でも、少なくともミカはセイアが殺されたと思い込んでしまったからこその行動ではあったのかもしれないね。アリウスの目を逸らす為に死を偽装した事が、ミカならやりかねないとどこか心の中で思っていたからこその行動だったり・・・」
鍵となる二人は皆口を開かない。これでは真相への到達など不可能。先生は一度書類から目を逸らすと、シスターフッドの生徒が用意してくれたティーカップを手に取り、中に入っている冷えた紅茶を一息に飲み干す。ティータイムには相応しくない温度だが、乾いた喉を潤すにはむしろこれくらいが丁度良い。
「ミカの動機も、ただセイアに意地悪をしたかっただけ・・・だとか。」
「過程にしても、かなり極端に思えますが・・・ミカさんはナギサさんに政治は基本的にあれと言われるくらいには政治に向かず、かなり自由気ままに動いているタイプ・・・難しい言い回しを擦るセイアちゃんとは気が合わないのは自然・・・」
「適当に言ってみただけだから、そんな真面目に考察しなくても・・・」
「毎日小言を言ってくるセイアちゃんに、苛立ちが覚えていた・・・?確かにセイアちゃんは性格が良いとは言えないですが・・・ミカさんがそこに対して、仕返しのつもりでアリウスを?かなり恣意的過ぎる様な気がしますね・・・」
深く考えずに行動するミカの行動思想には沿っているが、そんな事の為にアリウス分校を用いるのは流石にリスクの方が大き過ぎる気がしないでもないとハナコは難しい顔をせざるを得ない。
「楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事は出来るのか。・・・こればっかりは、本人の口から聞いてみないと分からないんじゃないかな。」
「それは五つ目の・・・楽園に辿り着いた者は、楽園の外で観測される事はない。存在する事を観測する事は出来ない、楽園の存在証明に関するパラドックス。つまりミカさんの本音は、外側からでは察する事は出来ないと・・・」
人の心はあくまでもその人の中にしか存在しないもの。確か人の意識や感情はニューロンがどうのだとか細胞がどうだとかでーみたいな話を聞いたことがあるが、どれも仮説の域を出ず、真実には辿り着いていない。楽園という存在が外から観測できないのなら、人の心もまた同じなのではないだろうか。・・・少なくとも現状は。
「誰も触れられない誰かの本心を理解したという言葉を、どうすれば本当だと証明出来るのか。・・・まさに矛盾、不可能なのでしょうか。他者の本心を理解する事など・・・」
「だからこそ、人は口を開いて話すんだと思うよ。嘘であれ本当であれ、それを伝える事が出来なければ何も分からない。聞いた事を受け入れて、信じてこそ初めて証明の代わりに出来る。」
寓話や伝説の中には人の心を知る、ないしは感情を何かしらの形で読み取る事が出来る存在が幾つも居るのは知っているが、そのどれもが現実では存在を確認されていない伝説上の存在。どこまで行っても、人は他人の内を知る事は叶わないのだろう。
「仮に誰かの心が読めたとしても、普通にプライバシー侵害になりそうだよね。今月の給料の使い道をユウカに知られたらこってり絞られちゃうよ。怒られるのは、買いたい物を買ってからでいい。」
「それは先生の金使いに問題があるだけでは・・・?」
疑う事を知らない馬鹿と言われるかもしれないが、証明のしようがない事を受け入れるなら、そいつの言葉を信じるしか術はない。
会う人全てを疑い、己が目で見たものすら完全に信じようとはしないあの傭兵バイトの少女ですら、少なくとも信じるものを持っていた。
「エデン条約が終わったら、すぐにでも二人に会いに行く。できるかどうかの予測だけ立てても、人の心は繋がらない。」
元より無理難題を解決する為にここキヴォトスにやってきた。生徒を、守るべきものを信じなければ何一つだって出来やしない。
「まぁ今のミカについて言える事はこれくらいかな。今すぐにっていうのはちょっと難しいかもしれないね。」
「そうですね・・・」
この件については、本格的な解決までまだ時間がかかりそうだ。
そして最後、先生がトリニティに呼び出される前から自治区全域に令が敷かれる程ナギサが介入を恐れ、結果として補習授業部と共にミカのクーデターを阻止したイレギュラー、標根イサネについて。
「先生が試験会場に向かった後、一人残った所を包囲。そのまま同行の要請をしましたが、彼女はこれを拒否。直後に100m先に待機していたマシロを文字通り投げ飛ばし、ツルギと交戦。取り逃がしました。」
「まぁ不法侵入をしてたから・・・仕方ないと言えばそうなっちゃうのか。私が皆にちゃんと声を掛けてからにするべきだった。」
「同行要請に頷いてくれれば、クーデター阻止に助力してくれた事もあって不法侵入の件を相殺できたのですが・・・結論を急ぎ過ぎました。あの様な人種に取るべき対応ではなかった。」
先生や補習授業部の証言によって、イサネが補習授業部の合宿初期の段階で既に合宿所に居たという事が明らかになった。だが、不法侵入の件は今回のクーデター阻止における尽力によって相殺、ないしは表彰も出来るのではというのが一切を知ったティーパーティーの見解らしい。
「動向がある程度把握できれば、トリニティで陰謀を企むにしてもまだ穏便に済ませる方法があるにはあったのですが、連戦して尚ツルギと互角に戦える程の実力を勝手に振るわれるというのは・・・行方が掴めずで看過できる問題ではありません。」
「違う。あいつ、もう普通にぶつかっても相手にならない。次やるなら始めからもっと本気でやる必要がある。」
「そこまでなのですか・・・本気で取り押さえようとしたら、戦略単位での対策が必要になりそうですね。」
そしてトリニティ学園から姿を消したイサネは行方が掴めなくなっており、彼女の真の目的も含め、これまでの行動原理すらも謎に包まれている。
「一応ティーパーティーの支援も受け、イサネさんが滞在していたと思われるリゾートホテルは特定できました。ですが、立ち入り調査を行った時には既にもぬけの殻、ホテルの備品を除いて部屋には何もありませんでした。チェックアウトも既に済ませていたとの事です。」
「イサネ・・・」
一体何が目的なのか。ミカ以上に何も掴めない不可解な行動原理に、完全に調査が手詰まりとなっていた。
「一応、交戦現場の近くからイサネさんの使っていた対物ライフルを回収しました。銃弾は抜いてあります。ご覧になりますか?」
ハスミに言われるまま、正義実現委員会の教室の一角に並べられた机の上に安置された長さが2mはあろう長大なライフルの前に立つ。これを片手で振り回すイサネの姿は大分見慣れていたが、こうして近くで見てみると異様な迫力がひしひしと感じられる。
「銃器のモデルはalligater。全長2m超、銃身の重量約25kg。銃弾に14.5×114mmを使う対物ライフルです。本来はバイポッドなどを用いての伏せ撃ちが基本的な運用なのですが・・・これは基礎構造にまで改造が加えられていて、一度分解すると二度と元に戻せない可能性があります。魔改造、最早別物と言っても過言ではありません。」
「25kg!?そんな物を、イサネは片手で・・・?」
「はい。私達でも25kgの物を片手で持ち上げるくらいなら問題なく出来ますが、幾ら魔改造を加えているとは言え運用上重心が前に偏る設計の大型ライフルを片手で振り回し、乱戦の最中で目標を精密に狙い撃つとなるとまた話は変わってきます。ましてやもう片方でアサルトライフルを撃ちながらなど・・・」
ハスミからイサネの落とし物の詳細な情報を聞き、戦慄を覚える。重量25kgなど、ヘイローもない先生では持ち上げるのが精一杯だろう。ましてや片手でこれを持ち、もう片方の手でアサルトライフルを掃射しながら正確に狙い撃つなどキヴォトス内で見ても十分常識から外れた離れ業だ。
「それだけではありません。事情聴取でシスターフッド、補習授業部、そしてあまつさえミカさんですら見たと言われるあの翠緑の粒子。装置なしでの飛行や100mを一瞬で移動したり、更に拳が接触した際に発生した大爆発・・・」
「銃弾を弾くバリアみたいなのも張れたと思う。使ってる所は余り見た事ないけど・・・」
「銃弾を弾く、ですか。キヴォトスにおいては正に無法と言える能力ですね。通常の銃撃では効果が期待できない障壁を張りながら、更に武器を使用せずにあの破壊力。もし彼女が狐坂ワカモの様に見境なく破壊を振り撒く存在だったら・・・いえ、むしろ目的を持って動いている方が厄介・・・」
報告にあった翠緑の粒子とそれを用いたと思われる凄まじい爆発や瞬間移動と、あの僅かな戦闘だけでもこれまで正義実現委員会が想定していたイサネの脅威度を大きく塗り替える事となった。ゲヘナの風紀委員長に並ぶ、最悪の場合はその上を行きかねないという再計算結果は、ハスミの頭を大いに悩ませる事となった。
「ヘイロー破壊に対する躊躇いの無さが伺える言動、ツルギにあそこまで言わせる程の実力。目的の不透明さ・・・個人的には、彼女の行方が掴めるまで調印式を延期してもらいたい所です。要人を狙って調印式を襲撃などされたら、総力を以てしても果たして守り切れるかどうか・・・」
「忖度抜きで見れば
黒い銃身のバレル部に小さく描かれた「quid est pax」というアルファベットの羅列の白色が黒の中にやけに不気味に光を反射する。
「私一応イサネの連絡先を持ってるけど、連絡してみようか?」
「・・・応じてくれるとは思えませんが、やれるだけやってみましょう。今ティーパーティーにその旨の許可を取ります。
捕捉不可能に乱反射する乱数を前に重苦しくなる空気の中、先生の伝手を借りて、ハスミは行方の知れないイサネとの対話を試みる。
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「・・・イサネさん、スマホが鳴ってますよ。」
「今ぁ?両手塞がってんだけど。」
トリニティ学園から数十km離れたビル群の一つ。その中の更に一室に、イサネは居た。イサネに依頼を出した依頼主、ゲマトリアを名乗る黒服と共に。
「発信者は・・・ほう?シャーレの先生ですね。確かに報告では数週間一緒に居たとの事でしたが・・・」
「あー、行方をくらましたから特定でもしようとしてるんじゃない?っていうか早く貴方もこっち来てよ。貴方の為の秘匿回線設備でしょこれ。」
「おっと、そうでしたね。ではそれはそちらに置いてください。設定は私がやりましょう。」
黒服の指示に従い、両手に持っていた機器を床に置くと、イサネはコールの鳴った自身のスマホを取るべくぱたぱたと2人しか居ないオフィスを駆けて行く。
「ふむ、1時半ですか。イサネさん、昼食は―――」
「
「3日連続それですか。・・・よく飽きませんね。」
「3ヶ月間栄養剤とエナジーバーだけで過ごした人間を舐めるなよ?って、そんなのどうでも良いんだって。」
人類種の天敵時代のイサネの食生活の例に「本当に人間・・・?」と首を傾げ始める黒服を気にも留めず、イサネは発信元の偽装を終えた自身のスマホを手に取る。
「・・・正義実現委員会の差し金。ミレニアムのハッカー相手ならこのレベルの偽装なんて通じないけど、果たしてどうか。」
着信履歴を開き、一番上にあるシャーレの先生という名前の電話番号をタップ。掛け直す。
『もしもし、連邦捜査部シャーレ。顧問の先生です。何のご用件でしょうか。』
待つ事3コールで先生は通話に出る。これまでは特に問題なかったのだが、調印式が迫る今、これからの依頼の遂行プラン上目的を達成するまで黒服以外の者と話をしたくない。通話に出た先生に対し端的に声を出す。
「・・・掛け直し、何の用。」
『イサネ!』
通話先から先生が驚きと歓喜の入り混じった声を上げる。まぁ別れの挨拶すらもなく学園から離れたのだ、先生が喜ぶのは分からないでもないが、こちらとしては余り望ましくない。通話越しの先生はすぐに言葉を紡ぐ。
『いやその、最後ちゃんとお礼も出来ないまま別れちゃってさ。それに今イサネの行方も分からないし・・・だから色々とお礼を言っておきたくて。』
「お礼については前も言ったけど匿ってくれた恩に対して自分なりに報いただけだから、何も気にしなくていいよ。で、正義実現委員会の人間が後ろに居るんでしょう?」
『す、鋭いね。まぁでもそうなんだ。イサネの扱いについて、色々と伝えたい事があるってさ。』
スマホを手に持つ先生のすぐ後ろに正義実現委員会の面々が居る事くらいすぐに想定が付く事だ。現状トリニティ内で自分に用があるのは正義実現委員会しか居ない。割とすぐに吐いた先生にすぐさま言う。
「伝えたい事?」
『うん。取り敢えず、ハスミに代わるね。』
「は、え、ちょ、なんでダイエットが理由で人が買ったお菓子にいちゃもん付ける奴を――」
『あれはいちゃもんではありません!止めてくださいその様な事を言うのは!』
正義実現委員会の副委員長に代わると言った先生に思わずぎょっとするが、言い切る前に正義実現委員会の副委員長羽川ハスミが通話に出る。周囲の音も聞こえる事から、恐らくスピーカーにでもしているのだろう。
「まぁいいや、要件って?」
『・・・要件については、この一連に事件におけるあなたの扱いについてです。』
「扱い?超要注意人物か指名手配じゃないの?」
イサネが現状トリニティでどのような扱いを受けているのかくらい知っている。だからこそ巻き込まれ、時間潰しとして行動を共にした補習授業部の件が片付いた以上すぐさま学園から退散するつもりだったのだが。
『本来は不法侵入者として拘束しなければならないのですが、あなたは補習授業部と共にティーパーティーのホストの一人である聖園ミカが企てたクーデターを阻止してくれたという実績があります。』
「あー、うんまぁ・・・手伝いはしたけど。」
『ですのでその実績であなたの不法侵入を相殺できるのではというのがティーパーティーの見解です。あの時の要請に応じてくれれば、手続きの後に正式に滞在許可を出すつもりだったのですが・・・まずは謝罪をさせてください。武力を用いた要請と、あなたの反応を受けた瞬間の即時的な武力行使、大変申し訳ありませんでした。』
ハスミの口から出てきたのは謝罪。思いもよらぬ言葉に目を見開くも、あれは学園公式の治安維持組織が外敵に対して行う対応としては普通のものだ。確かにクーデター阻止に助力をしたかもしれないが、あの時のハスミが言った通りそれはそれ、これはこれだろう。
「・・・侵入者側からすれば不快だったけど、治安維持組織として当然の対応でしょ、あれは。」
『そう言って貰えると―――』
しかし、既に腹は依頼を受けた時から決まっている。ハスミの言葉を遮って、イサネは自分の考えを述べる。
「だからと言って、今更学園に出頭するつもりはないよ。」
不法侵入者相手に恩赦をくれるのは大変ありがたいが、依頼が最優先だ。それに補習授業部に出会うまでの数日間、大変不快な目に遭わされた借りがまだ返せていない。今更人として器量が狭いかもしれないだなんてどうだっていい。
「指名手配なら好きにすればいい。その分だけ私も好きにするから。」
ハスミや先生が口を挟む暇を与えず、一方的に言葉を投げ掛ける。黒服の情報通りアリウスが調印式に大規模な襲撃を掛けるのであればすぐに面を合わせる連中だ、わざわざ今会いに行く必要もないだろう。
「どうせ私の動向が気になるんでしょう?大丈夫、エデン条約が何事もなく調印される事を願ってるのは私も一緒だから。じゃ、さよなら~。」
通話先の声を待たずに捲し立て、通話を強引に終わらせる。通話終了の文字が浮かぶ画面をホーム画面に戻し、即座にスマホをシャットダウン。追い打ち電話もしっかりと対策しておく。
「・・・終わりましたか。」
「黒服、アリウスが調印式で計画している襲撃計画の全容を教えて。」
「クックック・・・急にやる気ですね。さてアリウス分校の調印式襲撃の計画ですが、トリニティにスパイとして送り込んだ白洲アズサの裏切りにより計画が再編されています。まずは――」
通話が終わるや否や姿を現した黒服に即座に声を掛け、作戦プランの調整と情報の精査に意識を向ける。
「ここから先、私の自由にやって良いんだね?」
「はい、道中と他の情報は渡せる限り渡しました。後の成否は全て貴方に掛かっています。」
まだ何もかも終わっていない。むしろ、ここからが本当の始まりだ。
エデン条約編のメインストーリーを見直してみたのですが、なんかミカのクーデターの事後処理って3章の内容なんですね。ちょっと章管理がズレた・・・w
今話が投稿と同時に開催中のアンケートを締め切ります。沢山の投票、ありがとうございました。
次回、vol.3エデン条約編 3章
12/24追記
えー、物語の切りが悪いと言うのとエデン条約編3章以降の展開構築が難航しているので、次回は来年になると思われます。
ワンチャン年内投稿もあるかもしれませんが、期待はしないでください。作者のリアルもそれなりに忙しくなってしまったもので。はい。
そういう訳ですので申し訳ありませんが、次話は気長にお待ちいただけると幸いでございます。
ベアトリーチェの死に様はどうなってくれると嬉しい?
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普通にイサネさんがボコって終わり
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誰も見てない所で誰も知らない内にグサリ
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先生やアリスクの目の前でぶっころ