あまりにも遅すぎたあけおめ(2月)
お久しぶりでございます。どうも作者です。ようやく物語構成がある程度形になりましたので、投降が再開できそうです。今回からエデン条約3章という事で、ブルアカ名物が一つ、ミサイルどっかーんでございます。(今話では出てきません)
そんな訳でお待たせしました、vol3エデン条約編3章(原作だと前話からが3章)、スタートです。
「へぇ、調印式襲撃にはゲヘナも絡んでいると。」
「はい、貴方が武装調達で外している間にちょっとした収穫がありまして。」
トリニティ市街地に立つビル群の一角の内の更に一室、一人用のオフィスに座る人型の黒が下三日月の白を口の様に歪めて言葉を紡ぐ。
「どうせアリウスの人間捕まえたから拷問にかけて吐かせただけでしょ。偶々そいつが調印式襲撃絡みの情報を知ってたってだけで。」
それに対し、冷えた声色で返すは頭上に
「アリウススクワッドとは別の生徒でしたので情報を知っているかどうかは分の悪い賭けでしたが、まぁ吐いてくれただけ良しと言った所でしょうか?」
「自白剤を打つだけの価値がある情報とは思えないんだけど。エデン条約がどうなろうがどうでもいいのは私も貴方も同じ事だし、アリウスの生徒から搾れる情報なんて要らなくない?」
「ククク・・・そう言わないでください。裏社会における情報というのは千金に値する可能性があるというのは貴方も分かっている事ではないですか。」
「黒服ぅ・・・そういう事言ってんじゃないんだよ。」
少女の微かに不機嫌な言葉に黒の異形――黒服は適当に誤魔化し、話をすり替える。
「そうは言いますが、イサネさん。貴方の方も大丈夫ですか?先週の騒動のせいかトリニティ内でも万物の天敵の名がかなり広まっている様にも見えますが。」
「元より正義実現委員会には目を付けられてたし今更でしょ。気に掛けるまでもない。」
対する少女――標根イサネはデスクに座る黒服を見下ろしながら、呆れた様子でオフィスを出ていく。
「わざわざ戻って聞く価値もない情報だった。歩哨に戻るから、そういう政治絡みのどうでもいい情報は電話で言ってね、黒服。」
「クックック、これは手厳しい。」
「下らない用で空いた警戒から治安維持組織に入られたらどうするのさ。今の貴方じゃなにも出来ないでしょ。ましてや調印式前で警戒が強くなってんだから。」
あくまでも淡々と言葉を吐くイサネを見送った黒服は、手元にあるノートパソコンに視線を戻し、正義実現委員会に居場所を嗅ぎ付けられていないかの歩哨に戻ったイサネ同様自らの作業に戻る。
「・・・やはり、どこの小中学校にも在籍記録がありませんね。というより、傭兵に関する極最近の情報以外ない?まるでいきなりあの姿のまま現れた様な・・・」
インターネットのどこを見ようとも傭兵、ないしは万物の天敵以外の標根イサネに関する情報が出てこない。人のプライバシーが商品の如く転がっているダークウェブにすら、標根イサネの過去を形作る情報の一つとて見つからない。
「あれ程までの戦闘能力を有しているなら、小中学校の段階である程度の認知度があってもおかしくはない。完全に孤児とすればこの不自然さも通りますが、あそこまでの学と博識さを一体どこで学んだのかという事になりますね・・・」
天敵とはライオンがシマウマを捕食する様に特定生物の死亡要因となる生物種の事を指す。時に不倶戴天の敵という使われ方もするが、基本的には前者の方が意味合いとしては知名度が高い。
そんな天敵という単語を異名に付けられる程の強さを持つイサネに黒服がベアトリーチェの計画阻止という依頼を出した理由は、イサネに伝えた通りベアトリーチェの計画によりゲマトリアだけではなくキヴォトス全体が終焉を迎えかねない存在を招来する可能性があるからという理由が偽りない本音だ。殺害までもを許可したのは例え死んでしまった所で特にベアトリーチェが自分達に貢献してくれた事もなければ協力性もない故の損切りに近い。
「最初にブラックマーケットで姿を確認した時は既にあの格好をしていたと・・・この記録がキヴォトス全土を見ても最初の出没情報ですか。そして瞬く間に名を広げた・・・」
だが、裏方兼オペレーターと言えど調印式を前にやるべきタスクは当に殆ど終えてしまっている。だからこそイサネを味方に付ける事が出来ている今、自らの興味に従って彼女に関する情報を漁っている。
「彼女とて生物です。成長期が終わった段階でキヴォトスに生を受けた訳ではないでしょう。ですが、あの姿形以外での目撃事例がないというのは、孤児だとしても余りにも不自然・・・」
しかし、探せば探す程、探れば探る程に秘密のヴェールが重なっていく。底が暗闇に沈んでいく。まるで初めからそうだったかの様に、一般的に世間に認知しているあの姿の標根イサネしか確認できない。
「・・・他の生徒とはかなり異質な存在だとは思っていましたが、本格的に踏み入るとなるとこちらも相応の覚悟と犠牲が必要になりそうですね。」
ノートパソコンの画面に広がるサイトやダークウェブのUIを閉じ、黒服はゆっくりと背凭れに体重を預ける。
「・・・まずは、不確定要素を呼び込みかねないあの儀式をどうにかするのが優先ですね。」
準備も備えも出来ている。後はイサネが場をどう荒らすか次第だ。
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「久しぶりに帰ってきた・・・なんて思ってたら、調印式がもう明日・・・どうなってるのこれぇ・・・私のお休みはどこぉ・・・?」
D.U.外郭部、シャーレオフィスビル・・・ではなく、そこから更に30分程の距離にある一軒家。豪勢でもなければ最先端のデザインと洗練された近未来の邸宅という事もない、敷地と体積が他と比べそこそこ大きいだろうかと言った事以外都会を歩けばすぐに見かけることができる一軒家と殆ど差異の無いデザイン。
そんな普通の域を出ない一軒家の中で、齢20弱程の女性――シャーレの先生は寝間着姿のまま、寝室のベッドの上でわんわんとこの世の理不尽を嘆いていた。
「おかしいよ・・・こんなのおかしい!だって帰ってきたのはつい昨日だよ!?それがなんでもう今日になってるの!あと2日の休みはどこに行っちゃったの!?こんなの絶対有り得ないよ!!」
訳の分からない事を抜かしながらベッドの上でどたんばたんと暴れる先生。大人の威厳などどこへやらといった様子だが、別に時間が吹き飛び結果だけが残った訳でも時間が爆発して休日が無かった事になった訳でも何でもない。ただ単にトリニティでのクーデター阻止の後、やっとの事で手に入れた3日間の休日の殆どを惰眠と怠惰で喰い潰しただけというだけの話。
「嫌だ嫌だ・・・お仕事嫌だ・・・でもやらないとリンちゃんに活〆にされちゃう・・・でも買っておいた積みゲーが・・・プラモデルとフィギュアが・・・書類が、積み重なった書類が・・・」
生徒の為なら命でも何で投げ出せる先生だが、仕事にだけは命も体も張る事は出来ない。それが哀しき社会人の切っても切れぬ縁である。
「うぅ・・・もう、だめだ・・・」
寝起き故やや裾や襟が乱れたパジャマや髪のままベッドから起き上がり、朝食の準備をするべく若干ふらふらとした足取りでリビングへと向かう。
リビングの壁に設置されたアナログとデジタルの両方の時刻方式を載せた複合時計が示す時刻は午前10時21分。モーニングルーティーンとしては遅すぎる時刻だが、この日先生がしなければならないのはエデン条約調印式に参加する為にトリニティに向かうのとエデン条約調印式傘下の為に七神リンが減らしてくれた書類業務を終わらせる事とそう多くはない上当番の生徒も今日は設定していない。
「朝ごはんは・・・あ、これにしよう。」
キッチンを適当にうろつき、8枚切りの食パンとバターをそれぞれ戸棚と冷蔵庫から取り出す。遅い朝食とはいえ、昼食まで待つとなると流石に空きっ腹が持たない。
袋からパン一切れを取り出し、トースターに入れてつまみを捻る。そして焼き上がりとほぼ同時に取り出し、表面にバターを塗って一口齧る。
(まだまだ解決してない事は沢山あるけど・・・)
口に広がるバターの塩気を感じながら、ふと翌日に控えるエデン条約調印式について思考を巡らせる。
ゲヘナとトリニティ、長い歴史の内殆どをいがみ合いと対立の関係で過ごしてきた二校。その負の歴史に終止符を打つのと同時に最悪の結末を避ける為、失踪した連邦生徒会長が発案した条約。発案者の失踪に合わせ空中分解しかけたが、トリニティの生徒会長こと桐藤ナギサがどうにか持ち直し、いよいよ調印式を控えるにまでに至った。
そんな中、トリニティの裏切り者という一件においてミカ発案の元ナギサ直々に依頼をされ、容疑者兼ごみ箱として作られた補習授業部の担当となった先生。最終的に裏切り者はミカである事が発覚し、同時にアリウス分校という新たな脅威が存在するなど謎が残ったまま解決してしまったこの事件。
(現場検証やミカとアズサの証言的に考えて、このまま調印式をやってはい終わり、にはならない気がする。)
元々トリニティ自治区に散らばる派閥の一つだったとされるアリウス。第一公会議でのトリニティ併合の際に最後の最後まで反対し、迫害の末にトリニティ自治区を追われて以降歴史から姿を消していた者達。
ミカやアズサ曰くアリウスはトリニティには自分達を追いやった事への復讐心、ゲヘナにおいてはトリニティ以上に恨みを持つという。恐らくだが黒幕としてのミカと対峙したあの夜に見せたガスマスク姿はアリウスが抱く憎悪の一端に過ぎないのだろう。
そして今、アリウスにとって不倶戴天とも言える二校が不可侵条約に加え共同の中立組織まで立ち上げようとしているのだ。同時期に表舞台に微かに気配を漂わせるようになったアリウス分校にとっては許せないだとか最早そんなレベルの話ではない事だけは想像できる。
(何事もなく終わるのが一番だけど、アリウス分校を放っておくっていうのも・・・良くない気がする。二つの意味で。)
二つの意味、1つはアリウスによる攻撃が本格的に始まるのではないかという懸念。もう一つは先生としての使命と役目を負う身として、アリウス分校の生徒達を見て見ぬ振りだけは絶対に出来ないという意。
生徒全ての味方であり続けるという自らの立ち位置的に、「生徒全ての味方なら、私の味方になってよ」と言われてしまうとかなり返答に困るというのは否定できない。何せ否定した時点で矛盾、しかし肯定すればもう片方の生徒を裏切る事になり結局矛盾。
これまでこの手の生徒同士のいざこざをあの手この手状況ごとに適宜臨機応変に対応したり両者の言い分を真摯に聞き折衷案の提示など毎日の如くやってきた。だが、長い歴史に刻まれた感情の溝が相手となると流石に話が違ってくる。キヴォトスの外における、大昔から続く宗教絡みの問題は理屈で消えるものではないのと同じ事だ。
(連絡が繋がらないイサネの事も気になるし・・・)
どうしたものか。だらだらと思考を続けていた先生だが、ふと宙に漂わせた視線が壁に付けられた時計を捉える。
(10時41分か・・・え、10時41分!?)
シャーレに到着する予定は12時、自宅からシャーレまでの移動時間30分。やらないといけない事は歯磨き身支度etcで確実に1時間以上は掛かる。化粧を始めとし、女性の身支度はそれほど大変で時間がかかる。本人談で化粧を一切と言っていい程行わず、身支度に1時間も掛からないと言うどこぞの女傭兵がおかしいのだ。
「やばぁーいッ!!やばいやばいやばいッ!遅刻しちゃうぅぅーーッ!!」
表示されている時刻が既にリーチを示している事に漸く理解が追い付いた先生は、悲鳴を上げながら既に食べ終わった朝食の後片付けに奔走するのであった。
――間に合うか、それとも遅刻してリンに活〆にされるか。
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「・・・ここも
トリニティ市街地。都会然としつつも所々トリニティらしさを感じる街並みの隙間、建物と建物の隙間に隠れる様に周囲を警戒するのはキヴォトスでも屈指の実力者にして【万物の天敵】、標根イサネ。
聖園ミカによるクーデター事件において、補習授業部と共に事件の解決と真犯人の撃破という事件解決の立役者となった彼女は今、トリニティの街並みに身を隠し、来たる時を待っている。
(明日・・・調印式は明日か。いよいよって感じだけど、さてどうなる事やら。)
歩道を数人固まって歩く正義実現委員会の黒セーラーを物陰から見送りながら、イサネは数週間前の作戦会議を脳裏に再現する。
(巡航ミサイルによる爆撃がアリウスの最初の一手。幾らナギサが襲撃対策として部隊を配置していたとしても現場は確実に混乱するだろうから、突っ込むならそこがベスト。)
キヴォトスにおいてミサイルという兵器そのものは認知されている。攻撃ヘリを筆頭にアビドス高校2年生の砂狼シロコが保有するドローンには小型のミサイルポッドが装備されており、組織以外にも個人での所有も数多く確認できている。
しかしその一方、軍艦を沈める為や大陸間を飛んで目的を吹っ飛ばすレベルの大型のミサイルの方は存在を確認できておらず、黒服曰くオーパーツに近い代物との事らしい。エデン条約調印式の会場となる通功の古聖堂の大きさ的に見て巡航ミサイルか対艦ミサイル程度の規模の物が用いられるのではというのがイサネの予想。
(アリウス生の個人個人は何の問題もない。実力も恐らく正義実現委員会とか風紀委員会とかと大差はない筈。問題はアズサの言っていた特殊部隊の方だ。確かアリウススクワッドだっけ?)
ミサイルに関しては爆風を喰らわなければ問題ないので特に気にする必要もない。イサネは自分の持っている情報を元に戦況の推移予測を立てる。
(黒服が正しければ、ミサイル着弾の混乱に乗じてこのスクワッドが聖堂地下に侵入。条約文を書き換えるんだっけ?そしたらミメシスが出現する・・・原理が繋がらないが、まぁ書き換えたら出てくるって認識でいいでしょ。)
思考の傍らに、イサネは建物の物陰から物陰へと移動し、巡回の目を掻い潜り、一方的に監視する。正義実現委員会が、トリニティ自警団なる独自組織が、グレーな手段で黒い事をしようとしている自分達を発見していないかを警戒する。
(聖堂を占拠したら・・・トリニティとゲヘナが戦争を始めるのを待つ?でも先生が居る状態でそう簡単に戦争は始まらないだろうから、先生を無力化ないしは殺害が次の目標か?)
歩道を呑気に歩く黒セーラーの生徒を平坦な目つきで観察し、こちらの存在に勘付いていない事を確認する。同時に、脳内のシュミレーションも並行して進める。
(先生はナギサとも交流があるだろうし、ヒナとは言うまでもないって所。私がアリウスならすぐに潰しに行く・・・まぁ殺すかなぁ。ただ・・・)
アリウス分校の目的がゲヘナとトリニティの共倒れなら、トリニティゲヘナ双方のトップから一定以上の信頼を得ている先生は正に目的達成における障壁。先生二校の間に居る以上アリウス分校が何をしたとしても全面戦争は起きないだろう。故にアリウスの次なる狙いも大まかに絞れはするのだが・・・
(・・・勘だけど、先生はここじゃ死なない。そんな気がする。)
根拠も理由もないが、これから起きる災禍を先生は生き残るだろうという確信がイサネの中にはあった。キヴォトスの住人と比べ非力で一発の銃弾が致命傷になる先生が、キヴォトスの人間に本気で狙われて生き残る。普通なら有り得ないと一笑されてしまう話が、どうにも有り得る気がしてならない。
(あの見えない防壁とか関係なく生存する・・・黒服の言っていたイレギュラー、ってこういう事なのか?)
元ヘイローを持たない人間のイサネだから分かる。銃弾の直撃を殴られた程度のリアクションで済ませ、幼児ですら成人女性ばりの筋力を有する事の異常さを。そんな人型の化物共に銃器を以て無抵抗な所を狙われて生き残る事がどういう事なのかを。
(私が単騎で
考えても分からない。イサネは推察を投げ、歩哨という名の隠密に意識を戻す。理解できないものはどう考えても理解できない。自分の目で見た情報からその理解の及ばないものにどうするのかの選択こそが重要であり、無理矢理な理解はリソースの無駄だ。
「・・・報酬は、私の疑問解決にでも付き合って貰おうかな。私は死人なのか人間なのか、それも知りたいしね。」
―――エデン条約調印式
運命の螺旋は破滅を刻むのか、それとも光を覗かせるのか。
リハビリを兼ねて短く書きました。焦らす様で申し訳ない。
物語構成以外にもリアルが忙しく碌にサイトを覗く時間も作れずといった状況だったので。
次回、皆さんお待ちかねのブルアカの曇らせと言ったらの内の一つ。