透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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投稿遅れて申し訳ない...
どうにもモチベーションが上がらず、PCに向かって一日中頭を抱えるだけで終わってしまうなんて事もあり、絶賛苦戦中です。

通功の古聖堂の内部構造は適当に妄想して作りました。正直そこまで深く考えていないので、その辺はあまり気にしなくても大丈夫です。



伝承無き伝説 依頼:アリウス自治区突入作戦

 

 

 

 

走る。その傍らで、引き金を引く。

 

 

コジマ粒子によって威力貫通力が強化された銃弾がガスマスクを貫いて頭部を打ち据え、本来数十発を撃ち込まなければ斃れる事のないヘイローを有する生徒をものの数発で地に倒す。

 

「ふ・・・しッ!!」

 

こちらに向けて飛翔する銃弾をスウェーとスライディングで強引に回避し、起き上がりと同時に膝の力だけで跳躍。体勢の持ち直しと同時に銃床で青白い亡霊の頭部を吹き飛ばし、そのままスイングの反動を使って銃を左手に構え直して引き金を引く。

 

「天敵が来たぞ!ミメシスに任せて後退しろ!」

 

「駄目だっ、退避間に合わない!」

 

「奴を絶対に入れるな!」

 

目の前には無数の亡霊とアリウスの生徒が展開し、そのほぼ全ての銃口が自分に向けられている。

 

(結構遠方にも展開してる。攻撃部隊に対する遅滞戦闘が目的か?)

 

予知にも匹敵するその感覚で、銃弾が飛ぶ射線を把握する。瓦礫が転がり比較的不安定な地面を傍から見ればほぼ全力疾走と変わらない速度で駆け抜け、左手から右手にグリップを移したM4A1を弾倉の弾が切れるまで撃ち続ける。

 

反動の消失と同時にライフルをホルスターに仕舞い、タクティカルショットガンを持つアリウス生に狙いを定めて前方に跳躍。襲い掛かる銃弾の射線を飛び越えると同時に掴みかかる。

 

「うっ!?」

 

左手で相手の右肩を掴むと同時にガスマスクに向けて勢いの乗った右ストレート。一撃でガスマスクを叩き割り、余剰の威力が相手の顔面に襲い掛かる。

 

「ぶッ!?」

 

ガスマスクの破損を見たイサネはストレートを繰り出した右手を引くと同時に頭と上半身をテイクバック。そして一息の後に左手を自分の方へ引くと同時にテイクバックした上半身ごと自身の頭部を相手の顔面に叩き込む。

 

 

「ふんッ!」

 

 

――頭突き。

 

 

人間の急所である脳を守るべく、脳を覆うようにして存在する骨。これをあろう事か打撃に用いるという攻撃手段。これだけ聞くと只の馬鹿でしかない様に聞こえるが、頭蓋骨と言うのは人体においても非常に硬い骨。更に衝撃吸収に適した構造ととメイスの様な打撃に適した形状を持ち、更に腕の筋肉よりも安定して強い首の筋肉を用いる関係上、時にその一撃は拳による殴打を優に上回る威力を出す。

 

更に言うのならイサネは強化人間だ。AMSによる脊椎と脳の特殊な強化は勿論、全身の骨格を骨よりも硬い強化骨格に置換し、筋肉もほぼ全てが自然の筋肉よりも遥かに強くしなやかな人工繊維に置換されており、ヘイローやコジマ粒子の生成と言う特異な力を持たずとも身体能力は人外と言っても過言ではない。

 

 

「がぼぁッ!!?」

 

 

そんな一撃を受けて、まともで居られる者などキヴォトスですらごく一部だろう。イサネの頭突きはアリウス生の鼻の軟骨はおろか鼻根骨までもを破壊し、前歯諸共口を割る。当然、意識など保っていられる筈もない。

 

(これは・・・レバーアクション?じゃないな、セミオートのショットガンだ。拝借しよう。)

 

だが、敵の大惨事などイサネにとっては大歓迎だ。ヘイロー消失させて脱力するアリウス生の右手からレバーアクションライフルの様な形状のセミオートショットガンを奪い取り、左手に握る。イサネに倒れ掛かってくるアリウス生の身体はショットガンの銃身で押し退ける。

 

「ダブルトリガー復活ってね。じゃ、行きますか。」

 

聞く者が誰も居ない小道でイサネはぼそりと軽口を呟き、右手でホルスターからアサルトライフルを引き抜く。

 

「もうコジマ粒子を隠す理由もないかな。」

 

目の前に居るアリウス生の数は4、ミメシスは8。イサネはコジマ粒子を放出し、PAを形成。同時にコジマ粒子の循環を強めて身体能力を底上げし、今までより更に強く地面を蹴って人では成し得ない程の速度まで加速する。

 

「速――」

 

疾走の最中で右手を上げ、アサルトライフルの掃射と拿捕したショットガンによる射撃も忘れない。全体に弾が当たる様に銃口を振り回し、すれ違いざまにショットガンの銃口を置く。

 

「あっ、くそ、弾切れか・・・!」

 

だが、ショットガンは引き金を4回引いた所で弾切れ。引き金を引いても反動が発生しない事を感じショットガンの弾切れを判断。即座に引き金から人差し指を抜き、手首の軽いスナップだけで上にほんの軽くだけ投げる。

 

イサネの手から数十cmほど上に投げられたショットガンはスナップにより縦に回転。右手のライフルで掃射しつつも、銃身が半回転したタイミングで左手を少し上げ、しっかりと掴む。

 

「ふぅッ・・・!!」

 

そしてそのまま頭上にまで振り上げ、目の前にまで迫ったアリウス生目掛けて一気に振り下ろす。

 

ごッ!という鈍い音を立ててショットガンのストックがアリウス生の頭部を叩き潰し、悲鳴を上げる間もなくヘイローが消失する。同時に強化ポリマー製で出来たストックがイサネの膂力を耐えきれずに破断。ばきゃッ!と破砕音を鳴らし、ストックの強化ポリマーが粉々に砕け散る。更に振り抜いた影響で金属製のバレル部がぎぃぃんと震え、僅かではあるが確かに歪曲する。

 

弾切れに加えストック部の破砕とバレルの歪曲により完全に使い物にならなくなったショットガンを手放し、先を目指す。

 

(ここから先、調印式会場・・・正面以外の出入口。そこから先のどこかに、アリウスが使っている進入路がある。)

 

かつてトリニティから排斥された者達が通り新天地を目指した通路、そして今のアリウス自治区へと続く地下墓地(カタコンベ)へと。

 

走って走って走り続け、イサネはミサイルによる噴煙がより濃い危険地帯へと迷うことなく突っ込んでいく。

 

「銃声が聞こえてきた・・・っ!」

 

濃煙の中に入った瞬間からどんどん大きくなる銃声と爆発音。更には怒声も聞こえる様になり、イサネの闘争本能がより騒めき立つ。

 

 

「ひはは・・・ッ!」

 

 

もう我慢なんて必要ない。多少欲求に任せ過ぎたとしても大丈夫な時間的余裕はある。気にする事もなく、闘争に身を投じられる。

 

 

ここ(キヴォトス)に来て以来の、大激戦の中に。無数の銃火のその中に。

 

 

「ははっ!あははっ、あぁーっはっはっはっはっはっは!!獲物は全部、私のものだぁッ!!!」

 

 

狂笑を撒き散らしながら、ブーストを起動。地を噛みしめ蹴る足が浮き、背部から噴き出す白き炎がイサネの身体を時速数百kmの世界へと連れて行く。

 

空気抵抗を翠緑の薄膜――プライマルアーマーで受け流し、暴風を纏いながら突き進む。

 

 

「ははははっ!」

 

 

時速400km強というキヴォトスでは余りにも過剰過ぎる速さ。イサネは一瞬で古聖堂に辿り着き、ミサイルが吹き飛ばした外壁から内部――大激戦の最中へと突っ込む。

 

「行政官!行政官!」

 

「くっ、左戦線に空いた穴を―――ってなんですか!早く委員長を・・・!」

 

「あちらから新手が!」

 

「新手?一体こんな時に―――」

 

左端にゲヘナ風紀委員の小数生き残りを指揮し、どうにか戦線からの離脱してヒナを探そうと自らも愛銃を抜いて銃撃戦と指揮を執るゲヘナ風紀委員会の行政官、天雨アコの姿。

 

「ツルギ、下がってきてください!新手です!」

 

「ツルギ先輩の戦線はあたしが維持するっす!」

 

「新手・・・じゃない。あいつが来た。」

 

「あいつ・・・?」

 

中央入り口側――古聖堂右側から乱入したイサネからはゲヘナの更に左奥にはこちらも少数の残存部隊を取りまとめ、ツルギと筆頭に戦線の打破に奮戦する正義実現委員会の姿。

 

風紀委員会、正義実現委員会、どちらも戦闘可能な生徒の数はやろうと思えば数えられる程度でしかなく、相対するアリウス分校の生徒と無尽蔵に蘇るのミメシスの数の方がずっと多い。

 

(戦況はアリウスが圧倒的に優勢。私の目的はここで暴れながらアリウス自治区に続く道を探す事。だとするなら取るべき戦術は・・・)

 

 

――アリウスの軍勢ど真ん中に突っ込む。

 

 

イサネにしか出来ない、イサネだからこその最適解。

 

 

「あっははははははッ!!」

 

 

古聖堂の大礼拝堂跡地。今や大勢のアリウス生と亡霊が小数残ったゲヘナとトリニティ相手に大激戦を繰り広げるかつて第一公会議が行われたその場所に、闘争本能全開のイサネ(天敵)が突っ込む。

 

「うわっ!らん――ごっ!?」

 

「乱入だ!誰か来たぞ!」

 

イサネの最も目の前に居たアリウスの生徒の頭部にコジマ粒子を充填した左拳(疑似コジマブレード)を叩き込むと同時に右手に持ったアサルトライフルを横に倒し、右から左へと反動を利用する形で掃射する。

 

爆発によって生徒を吹き飛ばした左拳を振り抜くと同時にPAを改めて展開。掃射したアサルトライフルを正面に向け、あらん限り引き金を引く。そして弾切れと同時に空いた左手で予備マガジンを掴み、即座にリロード。

 

「あの光・・・まさか万物の天敵(標根イサネ)ですか!?こんな時に、一体何のつもりで・・・!?」

 

こちらの存在を認識するアコの声を聞き流しながら、リロードを終えたM4A1をミメシスに狙いを絞って射撃。コジマ粒子での強化により数発で吹き飛ぶ亡霊を次々と撃ち抜きながら、左手でコンバットナイフを抜く。

 

「あはッ!?」

 

足を止める事無く逆手に握ったナイフを大きく振りかぶり、目の前に居る亡霊の右首筋に突き立てると同時に全身を使って振り抜く。

 

刃渡り15cmの刃が有り得ない威力を以て実体を持つ青白い亡霊の身体に襲い掛かり、ミメシスの右首筋から左腰までを一切の抵抗もなく透過して斬り裂く。振り抜いたイサネの手に刺し斬った割には手応えの無い不思議な感触が腕に伝わる。

 

「はは、手応え無さ過ぎじゃない?・・・っと。」

 

ミメシスの不思議な実体構造に軽い違和感を覚えつつ、地を蹴って背後に迫ってきたアリウス生の組み付きを回避。同時に身体を右に回して背後を向き、アサルトライフルを隙だらけの全身に向けて引き金を引く。当然、頭部に全弾命中。

 

至近射が全弾頭部に当たりノックバックして倒れるアリウス生に目もくれず、右回転を止めない事で正面に向き直ると、そのまま前へ進む。

 

「ははははっ!その程度か!?殺しの教育を受けた奴らってのはさぁッ!!」

 

左前方でこちらに銃口を向けるアリウス生と高速ですれ違い、そのすれ違い様に順手に握り直したナイフを右脇腹に突き込む。

 

「ぐっ!?」

 

コンバットナイフの刃が半分程刺さるまで押し込み、通り過ぎるタイミングで傷口を広げる様に左手首を曲げる。走力による牽引力がナイフを引き抜き、空を振り抜く。

 

「ぐぁぁぁああ・・・ッ!」

 

半分とは言え刃渡り15cm。内臓まで届きかねない刃が深々と突き刺さったアリウス生は、刺突の衝撃にまず身体をくの字に曲げ、その後襲い来る激痛に銃を取り落として呻く。

 

(苦痛に対する心構えがなってないねぇ、そこんとこ教えなかったのかな?まぁ過剰な体罰はあっても殺傷はまた別の話なのかもね。)

 

人を殺す教育を受けておきながら死に至る可能性のある攻撃に対する耐性や経験が無いというか薄い。イサネにとってこれは想定外のプラスポイントだった。何せ大量に身体から流れ出る血を見るだけで相応のショックを与える事が出来る上、知らない痛みを受けた生徒が割と簡単に痛みに苦しみ始めるというのは生身での戦闘において楽な事この上ない。

 

「ひゃはははははははっ!」

 

右手に握ったライフルで中距離から自身を狙うミメシスに翠緑を纏った銃弾で撃ち返す。その傍らで右上に切り上げる様に振り抜いたナイフを今度は右から左への水平斬りの要領で薙ぎ、視界の左端に再度映った別のアリウス生の喉笛を皮一枚浅く切る。

 

「あがッ!?」

 

皮一枚と言えど首は首。神経と血管が集中している構造上皮一枚でも出血は多く痛みも強い。更に人は喉を斬り付けられると反射的に喉を抑えるという防衛本能が働く。当然喉を浅く切りつけられたアリウス生も皮一枚とは思えない痛みに声を上げつつ喉を抑えて姿勢を崩す。

 

「っはは、落ちろッ!」

 

「ごぉッ!?」

 

喉を抑えて姿勢が低くなった所を頭部目掛けて右回し蹴り。喉の痛みに気を取られたアリウス生にそれが気付ける筈もなく、側頭部に戦槌の如き一撃を受けて吹き飛ぶ。痛みなど認識する間もない。ヘイローを持たない人間なら一撃で首を折り、容易に頭蓋を砕く殺人脚。

 

「ははははっ、良い物持ってんじゃん。借りるね。」

 

回し蹴りの反動で足を止めたイサネは、蹴り飛ばしたアリウス生が持っていたと思しき軽機関銃(推定XM250)を拾い上げ、ナイフの代わりに左手に持つ。持った感じではどうやら弾倉交換が終わった直後だったらしく、残弾が十分に残っている事が分かる。

 

 

「あひゃっ、はは・・・ッ、ははっははははははッ!!」

 

 

弾倉の残弾数を大雑把に確認したイサネは狂笑と共にライトマシンガンのグリップを強く握り、その場で前方へ跳躍。コジマ粒子を操作し、そのまま重力に従って落下する身体を浮かせる。

 

 

「もっと荒らそうか。はっはははっ!」

 

 

UIの幻視と共に、イサネの感覚が身体以外にAMSにも完全に同期する。否、そう感じるだけの感覚、幻覚。ネクストには乗っていないし、AMSの差込口にもAMS専用プラグは差さっていない。

 

 

――メインシステム、戦闘モードを起動します。

 

 

だが、それでいい。幻視で良い、幻覚で良い。人間自分の身体が最も上手く操れるものである様に、ネクストもまたイサネにとって最も上手く操れるものだ。それこそ、自分の身体と同じくらいには。

 

だからこれでいい。操縦桿とAMSによる神経伝達でネクストを操縦する様に、自分の身体の神経とAMSの感覚で自分の身体と不可思議な力(体に宿るコジマ粒子)を操る。あの時と何ら変わらない感覚で、戦場を駆け抜ける。

 

 

「あっはははははははははッ!!ははっ、もっとだ!まだ、まだ足りないぃッ!!」

 

 

自制心無きままに欲求を喚き散らす子供の様に、欲望を叫ぶ。ブースターに再度火を入れ、再び超高速の世界に入る。

 

 

 

「ひっさしぶりだなこの感じッ!この世界ッ!ふっははははははッ!!!」

 

 

 

粉塵漂う生き地獄で一人、別世界(ネクスト)が愉悦に嗤う。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

翠緑の光が、アリウス分校の独壇場と化した大礼拝堂跡を上書きする。

 

「くそっ、1-5、3-3をこっちに回せ!どうにもならない!」

 

「そんな事は出来ない!既に同小隊はゲヘナの相手で手一杯だ!あの幽霊でも相手にならない!」

 

縦横無尽に地を駆け、視界に収める事すら困難な速度で宙を舞うそれは、巡航ミサイルによる奇襲攻撃で完全に優勢を握ったアリウス分校のアドバンテージを何かの冗談の様に喰い荒らしていた。

 

「2-1から2-5が移動中に全滅!チーム3も既に半数を割っているとの情報もあります!」

 

「はぁ!?2-1、5は位置的に後衛でしょ!?それが一瞬で!?」

 

「その、万物の天敵が現れたらしく・・・!」

 

一方的な殲滅戦。ミサイルを辛うじて耐え抜いたゲヘナトリニティの残存部隊をミメシスを主力とした無限の数の暴力で殲滅し、古聖堂を完全に制圧すると同時にトリニティ学園にまで進行するというこの作戦。

 

本来ならそう労力も消耗もないまま学園にまで進み、本格的な消耗はトリニティ学園に攻め入り、学園全域をアリウスの元に制圧する所までと想定されていた筈の掃討戦が、気付けばアリウス分校側も地獄を見る勝者無き大乱戦となっていた。既に消耗は当初の予想の数倍にも膨れ上がり、作戦続行が不可能なレベルで人員が削られていた。

 

「ぐぇえっ!?」

 

「狙撃手がやられ――あががががッ!?」

 

「駄目だ遮蔽に隠れ――うわぁぁっ!!」

 

幾ら戦場では予想外が付き物とは言え、流石にこれは想定外が過ぎる。万物の天敵の乱入は想定されていたし、奴の行動原理が不明な以上避けられない被害は必ず起きるとも結論付けられていた。だが、地と空を視認が困難な速度で自在に飛翔し、一方的にかつ異常な正確さで銃弾を撃ってくるなど一体誰が想像できようか。

 

 

「はははっ!!この景色だよこの景色ぃ!正に戦場って感じの情景じゃない!?あッははははッ!悪くないじゃんキヴォトスもさぁ!!」

 

 

標根イサネ。翠緑の燐光を翼の様に広げて駆け回り、ぞっとする程爛々とした笑みをその美貌に浮かべながらアリウスを一方的に蹂躙する悪夢の如き存在が、確かにそこに居た。

 

倒されても無限に復活し、圧倒的な数の暴力でゲヘナとトリニティの残存勢力を容易に掃討できるとされていたユスティナ聖徒会が瞬く間に数を減らし、復活が追い付かない。

 

「対空兵装は!?」

 

「あれに当てるのは不可能だよ!あの速度を想定した武器なんてない!」

 

高速で翠緑の何かが見えたと思ったら直後、彼女達に襲い掛かるは翠緑の火線。避ける間もなければ認識する事すらほぼ不可能な上、一発一発の威力も並みの銃火器よりも高く、数発を喰らったミメシスは射撃姿勢のまま姿を霧散させる。

 

「左方向から来る!!」

 

「退避!たい――がッ!?」

 

更にイサネの射撃は精密そのもの。あの速度で地と空を縦横無尽に機動しているにも関わらず、右手に持つアサルトライフルの射撃はその大体がアリウス生かミメシスに命中し、回避を許さない。

 

左手のライトマシンガンはその圧倒的な攻撃力を存分に発揮し、弾幕ではないものの銃口が咆える度にほぼ一個分隊程が無慈悲に吹き飛んでいく。

 

「はははははははッ!」

 

そして地に降りれば爆ぜる翠緑。原理は一切が不明だが、あれが光る時は確実に数人が宙を舞っている。理解も認識も置き去りにして、かの傭兵は戦場を一人愉悦に駆け回る。

 

 

「あははっ!ひひっ、ひゃーっはっはっはっはっはっは!はっはははッ!!」

 

 

虚無と虚構で塗り潰される筈の古聖堂に響くは獣の哄笑と、哀れにも被食者になってしまった者達の届かぬ悲鳴。

 

 

天災の如く理不尽に降り注ぎ、しかしあくまでも人災として襲い掛かる。

 

 

――被災ではなく損害。

 

 

圧倒的な質量を摂理の如く蹂躙しておきながら、それは人として撃ち墜とせる領域に居る。

 

 

 

――概念ではなく実体。

 

 

 

しかし、その姿は捉えられない。せめてもの抵抗が、瞬く間に喰い荒らされる。

 

 

―――伝承無き伝説。

 

 

かの世界を壊し、破壊され見る者が居なくなった歴史に刻まれる事となった比類無き最強最悪のイレギュラーが、澄み渡る青春とキヴォトスでその顎をかつてない程大きく開いた。

 

「まだ温い!もっとだ!はははッ!もっと速くがいい!もっと先がいいッ!」

 

当の本人はそんな事知らんと言わんばかりにブーストを吹かし続け、勝者無き戦場を闘争本能の赴くままに駆けずり回る。

 

左手に握ったライトマシンガンはほぼ常時引き金を引き続けたせいで既に弾倉は空。拾った武器なので予備弾倉を持っている筈もなく、既に無用の長物と化している。その上絶え間なく撃ってはリロードを繰り返したアサルトライフル(M4A1カービン)の予備マガジンの数も目減りしている。

 

だが、武器が無いなら敵から奪えばいい。最悪ナイフがあるから敵の無力化自体はどうにでも出来る。イサネにとって、生身での戦闘が基本のキヴォトスにおける武装の喪失はそう苦しい事でもない。何ならマニピュレーターでの殴打(超高額の修理費)が要求されるネクストの全武装喪失の方が何十倍もきつい。

 

(はははッ!侵入経路、アリウスの侵入経路はどこだ・・・!?)

 

予備マガジンがまだ残っている右手のアサルトライフルでアリウス生とミメシスを無差別に撃ちながら、イサネはアリウス自治区へ続く地下墓地(カタコンベ)の入り口を割り出すべく戦場を俯瞰する。

 

(・・・あそこか?やけに後衛がする装備をした奴らが多い・・・)

 

そして増援らしきアリウス生の動きの流れから最寄りの経路を簡単に算出。用済みとなったライトマシンガンを捨て、何個目かも忘れたアサルトライフルの弾倉を交換。更にAMSにメインブースタを切る感覚(指示)を出して浮遊に用いるコジマ粒子をカット。向きを調整して地面から高さ5m程から地上へ降下。

 

「ははっ!邪魔ぁッ!!」

 

「ぅごぇぇッ!?」

 

目の前に居たアリウス生の鳩尾に金属板仕込みの飛び蹴りを喰らわせながら全身を始め、定めた方向へ地を削る様にブースト。コジマ粒子を纏った銃撃でミメシスを撃ちつつ、正面に立ち塞がる生徒の顔面を狙って疑似コジマブレードを起動(左腕にコジマ粒子を即時充填してアッパー)。ガスマスク諸共顎を吹き飛ばす。

 

アッパーを打ち切った左腕をそのまま右腰に持っていき、鞘に収まったコンバットナイフの柄を逆手に握る。

 

「標根イサネ!やはりあなたでしたか!一体、何のつもりでここに居るのです!」

 

「クライアント間で結ばれた情報を易々と教える訳ないだろう馬鹿が!あっはははッ!そんな事より、簡単にやられてくれるなよ!?良い囮なんだからさぁッ!」

 

「おと・・・!?ふざけた事を・・・ッ!」

 

自分の左側から聞こえたハスミの怒声に挑発で返しながら、鞘からナイフを抜く。そのまま目の前に居るミメシスの脇腹を刺し貫き、強引に突き進む。

 

「ははは・・・相も変わらず、邪魔をしてくれる。」

 

銃声と爆発音で音が掻き消される環境でもハスミの声が届く程度にはトリニティの残存戦力と近い位置に居る為か、時折アリウス生やミメシスに混じって正義実現委員会の黒セーラーを着た生徒の姿もちらほら見かける。

 

はっきり言って邪魔でしかない上に、今の今まで半ば指名手配みたいな扱いをされていたせいかどさくさに紛れてこちらを狙ったと思われる銃撃が飛んでくるのも鬱陶しい事この上ない。

 

(・・・どうする、やっちゃうか?)

 

だが、この状況で正義実現委員会とやり合う事にメリットはない。剣先ツルギとやり合えるのならまだ精神的満足が満たせるだろうが、その為だけに依頼遂行における時間的猶予が削られるのは大変宜しくない。

 

 

「ははは・・・っ!私を相手する戦力も無いのに、一々撃ってくるんじゃないッ!!」

 

 

一瞬の逡巡の後、イサネが取った選択は左手に握ったコンバットナイフをハスミ目掛けて全力で投擲する事。大量のコジマ粒子を一瞬だけ左腕に回し、ばねの様なしなやかさとパワーアームの様な膂力でナイフをぶん投げる。

 

「ッッ!!?」

 

投擲されたというよりは最早射出機から射出されたに近い刃渡り15cmのナイフ(コンバットナイフ)は、ハスミが視認するよりも先に彼女の左頬をやや深く切り裂き、背景へ消えていく。

 

「副委員長!?」

 

「ハスミ先輩!!」

 

正義実現委員会に構ってはいられないが、舐めた間合いを咎めたい故の選択。・・・これまでの交戦で既にはぐれたと思しきゲヘナ風紀委員会の生徒も正義実現委員会の生徒も平等に轢いてはいるので今更ではあるが。

 

「ひゃははっ!」

 

「ぁがっ!!」

 

ナイフの投擲結果を見ず、イサネは目の前に居た黒セーラーの生徒の頭部を左足で蹴り飛ばすと再度前進。火力を正面に集中させ、正面突破を始める。

 

 

「道を開けろぉーーッ!!あぁーっはっはっはっはっは!」

 

 

イサネがキヴォトスに来てから最大規模の戦闘ではあるが、やはり雑魚ばかりで闘争本能を満たせそうにはない。とはいえ依頼を放棄するのは傭兵としての評価に響くので、ツルギを攻撃したい衝動をぐっとこらえて突き進む。

 

「らぁぁぁッ!!」

 

「く、突破された!スクワッドに報告、天敵が包囲網を突破し――がッ!?」

 

大礼拝堂の辛うじて残った右壁にある出入り口跡を塞ぐアリウス生に対し、微ブーストで時速100km分の慣性が乗った飛び蹴りを叩き込み、物理的に出入口を塞ぐバリゲートを生徒ごと破壊する。

 

飛び蹴りを喰らわせたアリウス生と突き破ったバリゲートをクッションにして廊下に飛び出し、即座に周囲を見渡す。現在位置は大礼拝堂を出てすぐの小スペース。そこから出口側と奥側に廊下が続いており、増援と思しきアリウス生が奥へ続く廊下から現れては最前線となっている大礼拝堂での戦闘に小隊ごとに飛び込んでいる。

 

(・・・ミサイルの爆発範囲的にもっと奥なのは確実。後は奥のどの辺りから来ているか。)

 

ミサイルの爆発により廊下も大体が吹き飛んでおり、大礼拝堂を中心に広がる大激戦の一部になっている以上アリウスの侵入口はもっと奥だと確信したイサネは、こちらに気付いた増援部隊が攻撃に移るよりも先に立ち上がって一瞬だけオーバードブーストを起動。

 

一瞬で音の壁を突き破って廊下の奥まで突き抜け、衝撃波ですれ違ったアリウス生とミメシスを吹き飛ばしつつ残った壁を破砕する。加速時間は大体0.3秒前後だが、これだけの加速でも巡航ミサイルの爆発範囲の外に出る事は十分に可能であり、ミサイルの範囲外にある筈のアリウススクワッドの待機位置と地下墓地へ続く階段を特定中に大激戦に巻き込まれることは少ない。

 

「巡航ミサイルなどと言う割には戦艦に積んでる対艦ミサイルの方が妥当な感じだな。ミサイルはベアトリーチェの差し金だろうが・・・所詮は戦いを知らない研究者気取り、ミサイルの種類など分からないか。」

 

まだ足りない、もっと戦わせろと荒ぶる闘争本能を宥めつつ、イサネは小数のミメシスやアリウス生の小隊を潰して先へ進む。幸いと言うべきか当然と言うべきか、侵入経路は前線に向かうアリウス生達の存在から簡単に追跡出来た。

 

「スクワッドに報告、万物の天敵が大礼拝堂を抜けて進軍中!小数では――ぐえっ!?」

 

「止めろ止めろ報告なんてするな・・・っ!」

 

イサネをどうにかして足止めせんと攻撃を仕掛けてくる者を轢き潰し、交戦を無駄と判断して上官へ情報を送ろうとする者の背中を撃ち、通功の古聖堂の更に奥へ奥へと歩を進める事数分。

 

アリウス分校の部隊を返り討ちにしながら強行突破で経路を突き進んだイサネは、大礼拝堂の更に奥の奥にあった中庭の付近に侵入経路である地下墓地へ続く階段がある事を導き出し、そこに辿り着く。

 

中庭への入り口には高さ約2m、横3m程の如何にも重厚そうな扉が鎮座しており、押した所ではびくともしない。が、イサネはそこで止まらない。

 

 

「っ、おおぉぉぉぉーーッ!!」

 

 

完全に閉鎖された扉に対し、イサネは疑似コジマブレードでの破壊を敢行。一瞬の溜めの後、コジマ粒子を充填した右腕を全身を使って目の前の閉ざされた扉に叩き込む。

 

ごぉんッ!と言う凄まじく鈍い音が響き渡り、高さ2m程の扉にイサネの右拳が深々と突き刺さる。幾ら頑丈で重厚なオーク材と金属による補強と装飾が施されていようと、完全放置による経年劣化には逆らえない。

 

そして間を置く事なく解放。右腕に圧縮充填されていたコジマ粒子がインパクトを起点に爆発反応を起こし、翠緑の爆発を起こすと同時に扉を無数の木片に変えて吹き飛ばす。

 

(ここだ、遂に辿り着いた。中庭のどこかか、その・・・奥か?隠し扉臭いな。)

 

翠緑の爆発から抜けたイサネを迎えたのは如何にも放置された中庭といった景色。花壇に植えられた草花は枯れ、石材の床も隙間から雑草が生えている。倒壊した噴水も乾き切り、既にその下にある水路のシステムが死んでいる事を一瞬で理解させる。

 

そして、そんな中庭に居たのは小数のアリウス生と大勢のミメシス。更には身長が3mはありそうな巨大な黒い異形。

 

 

「・・・ここまで来たか。」

 

 

「来てやったぞアリウススクワッド!・・・あ、いや、私はお呼びじゃないんだったっけ?」

 

 

そして、その陣容の中央に居る4人組――アリウススクワッド。そのリーダーことサオリが、静かにイサネを見据える。

 

(あの青みがかった黒髪がサオリってのと、その横に居る紫髪が多分ベアトリーチェの計画に使われる生贄兼ミメシスの生成リソースなのは分かるんだが・・・しまった、アズサに名前を聞いとけば良かった。)

 

対するイサネは3mはあるフードを被り顔が分からなくなっている謎の異形に目もくれず、周囲に展開するアリウス生とミメシスの分布と装備構成を頭に叩き込む。

 

「追ってくるであろう事は分かっていた。だが、ここまでだ。・・・アンブロジウス、奴曰く失敗作との事だが、貴様一人では突破もそう容易くはあるまい。」

 

「アンブロジウス・・・?あぁ、あのでかい奴か。」

 

サオリの言葉に反応を返しつつ、イサネは改めて視界に映った巨大な異形を眺める。

 

身長3m程の巨躯はそれに見合う程度には肉付きがあり、色以外人の身体にも似た両肩からは地面にまで届き得るほどの長さの手。手首には刺々しい腕輪と思しき装飾に過剰なまでに伸びた青白い爪。頭部は光輪に見立てたと思しき装飾が付いたフードと肩出しのローブ。地面まで垂れるローブの隙間には何も見えず、足は無いと思われる。

 

(・・・なんとなくだけど、こいつはユスティナ聖徒会のミメシスとは別種な気がする。亜種というか技術の応用?まぁAFじゃあるまいし、銃が効けばどうにでも出来るな。)

 

如何にもthe・異形といった印象をアンブロジウスなる存在に抱くイサネ。だが、その心に恐怖はない。右腕での疑似コジマブレードの為に左手に持ち替えたアサルトライフルを改めて右手に持ち直し、弾倉の中身を確認。

 

(もし死なないのなら最悪無視すればいいだけの話。ここでの目的はあの生贄を殺すかアリウス自治区に続く地下墓地へ入る事。・・・大丈夫、気の済むまでやり合っても支障はない。)

 

カイザー名物のパワーローダーは初見でもある程度どの様な武器を持ち、何処から攻撃が飛んでくるのかは見ただけで概ね理解出来たのに対し、このアンブロジウスは武装らしき物を一切所持しておらず、攻撃手段の一切が想像できない。

 

「まぁ他の奴らよりは強そうだ。はっははっ、簡単に死んでくれるなよ?」

 

「その大口が、どこまで持つか見物だな。・・・行け、アンブロジウス。目の前に在る異教者を、その聖域から駆逐せよ。」

 

サオリの指示を起点に、アンブロジウスはゆらりとその長大な腕をイサネに向ける。直後、イサネの居た場所に黒と青白いエネルギーの様なものが集い、そして爆ぜる。範囲こそ2mくらいだが、座標を指定して仕掛け無しにいきなり爆発を起こす事が出来るというのは明確に脅威だ。

 

だが、イサネもイサネでアンブロジウスが腕を上げた時点で既に跳躍姿勢に入っており、エネルギーが爆発する頃には既に宙を舞い、アンブロジウスから見て斜め上の位置で銃を構えていた。

 

「一先ずどうだ・・・?」

 

一瞬イサネの姿を見失ったアンブロジウスの頭部目掛け、イサネはアサルトライフルの引き金を引く。ハンマーが撃針を叩き、撃針が銃弾の雷管を叩いた事で銃弾がエネルギーを得て加速。バレル内を通って射出されていく。

 

銃口から射出された5.56mm×45mmNATO弾達は一直線にアンブロジウスの頭部目掛けて飛翔し、そのままフードで覆い隠された頭部に全て命中する。しかし、アンブロジウスが怯む様子は一切なく、とてもじゃないがダメージがある様には見えない。

 

(・・・効いてはいる。ただ数を当てる必要はありそう。)

 

全くダメージが無い訳ではない。その一方で耐久力はキヴォトスの住人達やミメシスを大きく上回る事を理解したイサネは更に口角を上げ、追撃の爆破を展開したPAで受けて地面に降りる。

 

「はは、ははははっ!良い!悪くない!雑兵の相手をするよりもずっとずっと楽しい時間を過ごせそうだ!あっははははッ!」

 

「その愉悦も、所詮は偽りの感情に過ぎない。 vanitas vanitatum. et omnia vanitas。どこまで行こうとも、そこに意味など無いのだから。・・・アリウススクワッド、戦闘開始。」

 

サオリの指示が走り、スクワッドの3人がそれぞれ愛銃を構えて配置につく。周囲のアリウス生やミメシスもまた戦闘態勢をとり、イサネに銃口を向ける。

 

 

「殺人者気取りが笑わせる。お前に、人殺しが何たるかを教えてやるよ。」

 

 

自身に向けられた30以上の銃口に怖気付く事もなく、イサネは不敵に笑う。

 

 

 





作品評価の項目から質問が来ていましたので、ここでお答えします。
Q.セレンとリリウムはこの先出てきたりはするのでしょうか?
A.幾つかそういうシーン構想はあります。ただ、
・2話の段階でカーパルス後も生存が確定している二人がキヴォトスに来る理由や方法が未定。
・リリウムはともかくがっつり成人していて、何なら先生よりも年上のセレンの扱いをどうするかが未定。
・イサネと再会した時の二人の反応とイサネの反応がどうなるか未定。
・ブルアカ原作メインストーリーのどこにこれを挟むか、またどの様な展開から繋げて、それからの物語にどう影響させていくのかが未定。

と、原案どころか部分部分での1シーンがなんとなくの思い浮かんでいる程度といった所で、出すのか出さないのかもまだ不明という所です。



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