すでに既知の方もいらっしゃいますでしょうが、新たに短編を書き始めました。今話の投稿が遅くなったのはそれのせいです。
本当はこっちの方がある程度進むまで同時に複数作品を抱える事は一本一本の更新頻度が下がるのでやりたくなかったのですが、既に下がり切っているの以上いっその事気晴らしも兼ねて吐き出しちまうか!という訳で書く事にしました。
あ、宣伝とかそういうのではないので、深くは気にしないでください。投稿遅い言い訳みたいなものなので(←屑)
(・・・前線の押され具合の割に、負傷者の救出は結構順調みたいね。)
簡易的に設置されたブルーシートの上に横たわる負傷者達を一瞥し、ぼんやりとそんな事を思う。
「離れてください!負傷者が通りますので!!」
お昼時を過ぎ、西へと傾き始める陽が明確に分かる時刻。アツコという生徒を始めとしたアリウススクワッドに二度の逃走を許した上にアリウス自治区へ続く地下墓地への突入にも失敗してしまったイサネは、取り残された残党を掃討後、未だ激戦が続く通功の古聖堂を脱出し、トリニティ学園に戻ってきていた。
(二兎を追う者は一兎をも得ず。二兎追ってたつもりじゃなかったんだけどなぁ。というか黒服の奴、秘匿回線があるのになんで普通にスマホに掛けてくるんだ。馬鹿じゃないのあいつ。)
次々と負傷者を乗せた担架を見送り、人混みをするすると抜けていくイサネ。刃物を用いた戦闘により付着した返り血は、白シャツの上でかなり強い朱を主張している。が、今だけに限ってはそれを心配する必要はない。
調印式襲撃と大型ミサイルによってトリニティの統制が完全に乱れた、人員に富む正義実現委員会と言えど今回においては殆どが各地にで払わざるを得ない上、休日気分の一般生徒も混乱によってそれどころではない為、今すぐにイサネをどうこうしようとする者は居ない。
「さて、一先ず弾薬類でも補充しに戻ろうかな。あの数相手だと流石に足りない。」
そういう訳で、今トリニティ内をかなり自由に動き回れるイサネは、一旦弾薬補給と情報の精査を行う為に一度簡易拠点に戻るという旨を黒服に伝え、最短経路で簡易拠点のビルに向かっているのだが――
「これはトリニティを害さんと企む忌々しき
――五月蠅い。
「・・・うるっさ。」
そう、とにかくうるさいし邪魔なのだ。ゲヘナに宣戦布告を呼び掛ける暴徒共が。主にゲヘナ嫌いの集まりであり、三大分派屈指の強硬派でもあるパテル分の生徒達がこの襲撃をゲヘナのものであると断定し、全面戦争を訴えては通りを完全に封鎖し、ありとあらゆる通行の邪魔をしているのだ。現にイサネも、この連中の暴動によって既に4度の迂回を余儀なくされている。
「ありったけの武器と人員をここに集結させろ!パテルの名の元、フィリウスの陰謀に囚われてしまったミカ様を奪還し、ゲヘナに宣戦布告だ!」
「・・・」
そしてこれで5度目。人員の規模としては20~30人程度と暴徒が属するパテル分派の総数からすればごく僅か。それでも道を塞ぐには十分過ぎる。
(まるで自分達が正義であるかの様に報復攻撃を謳う・・・法の守りを失った人の行き着く先はどこに行っても一緒なのね。ゲヘナ。ゲヘナの仕業かぁ・・・)
足を止め、ぼんやりと思考を回し始める。
(あいつらは無法者の集まりなど敵じゃないとでも思っているんだろうけど・・・あぁ見えてゲヘナは戦える奴が多いからなぁ。校則が形骸化している以上統率は取れないけどね。)
トリニティとゲヘナの全面戦争。
他学園と比べて不良の割合がとち狂っており、一般生徒の統率が殆ど効かないゲヘナが一見不利に見えるが、逆を返せばゲヘナ生の殆どが戦闘要員になり得るという事でもある。対して荒事が苦手な生徒の割合が多いトリニティでは数の総数で劣り、ゲヘナに攻め込む場合は圧倒的な数的不利と滅茶苦茶なゲリラ戦を押し付けられる事になるだろう。
要するに、ゲヘナがトリニティを攻め落とす事は不可能に近いが、逆もまた不可能に近いのだ。
「まぁ、そんな事どうでもいいんだけどね。」
しかし、イサネにとって全面戦争の有無などどうだっていい。今は目の前の依頼を達成する事が全てであり、ゲヘナとトリニティで前面戦争が起きようと知った事ではない。目の前のうるさい連中をどうにかする事の方が何倍も大事だ。
「・・・無理矢理行くか。不愉快だし。」
そろそろ迂回して時間を無駄にするのにも嫌気が差してきた所。イサネは面倒事に絡みに行く覚悟を決め、ぎゃあぎゃあとうるさい推定パテル分派の生徒達へと気配無く歩んでいく。そして――
「我々こそが正当なる―――」
―――右アッパー。
「邪魔。」
一切の予備動作を排した右アッパーが、騒ぎ立てるパテル分派の生徒一人の腹に突き刺さる。
「ごぉっは・・・ッ!?」
最早暗殺にも等しい完全な認識外からの一撃。今の今まで元気にゲヘナがどうのと叫んでいた生徒はその威力を前に胃液を吐いて目を剥き、体を痙攣させながら地面に蹲る様に沈む。
「んな・・・ッ!?」
そして鈍い打撃音を起点に、イサネの存在をその場に居る一同が認識する。まずは突如として暴動を起こしかけていたパテル分派の一人が殴られた事に認識が向き、次にその生徒の前に居る
だが、イサネは周囲の事など歯牙にも掛けない。地面に沈む生徒を気にも留めず、左隣に居た生徒に狙いを定め、今度は左手でその細首を掴む。認識が未だ誰かに襲われたという所に居る生徒達に反応など出来よう筈もない。
「うぐぇっ!?」
がっしりと首前面を抑えた左手に力を加え、締め上げる。人工筋肉が常識から逸脱した作用力を指に伝え、瞬く間に気道と頸動脈を数秒で封鎖する。
「く・・・うごっ!?こ、こぇぇぇ・・・ッ!?」
呼吸すら出来なくなった事で最後の抵抗すらも奪った。だがイサネはそのまま首を絞め続けるのではなく、そのまま掴んだ生徒の後頭部を地面に叩き付ける。
べきゃッ!という鈍い音と共に、綺麗に並べられた石畳に後頭部が叩き込まれる。悲鳴も、力みの声もない。ただパテル派の生徒一人が一瞬で半殺しにされたという結果だけがそこにあった。これで彼女が死ななかったのは一重にキヴォトスの住人特有の頑強さのお陰だろう。常人なら確実に頭蓋が逝っていた。
「な、なんですかあなたは!?いきなり・・・まさか、忌々しいゲヘナの――」
2人を落とした所で、漸く周囲の認識がイサネに追い付く。暴動気味とはいえ、それでもまだ騒動の行きから出ない2、30名程度の集まり。それにいきなり襲い掛かったイサネに校則的な違反があり、やっている事が非常識と言えどパテル派の生徒達は被害者にある。
「喋るな。」
「がッ!?」
当然、パテル分派の生徒の一人がイサネに鋭い非難の声を上げるが、最後までそれを言い切る前に帰ってきたのは4文字の拒絶と顔面への一切の容赦ない右ストレート。更に続いて喉腹股を狙った三連撃。
「くそ、敵襲だ敵襲!ゲヘナが―――」
「違います!あれは万物の天敵です!何の用があってかは知りませんが・・・!」
「品の無い傭兵風情が・・・!」
そして3人目が無抵抗で殴り倒されたタイミングでパテル分派の半暴徒達も敵襲だと銃を構える。しかし、普段から花よ蝶よと扱われ、決められた型でしか戦闘を知らないお嬢様達の実力など、イサネからすれば銃を握った事のない素人とほぼ同程度でしかなかった。
咄嗟に銃を構える所までは良かったものの、彼女達に出来たのは罵声を口走る事が精々だった。イサネの真っ正面に居た生徒が高そうな装飾で飾られたサブマシンガンの銃身を掴まれてぶん殴られ、それに焦って引き金を引こうとしたもう一人が顎を掴まれて膝蹴りを顔面に貰う。
「うっ、速――」
「品がないのはお前らだろ。群れないと何も出来ない寄生虫風情が。」
二人の犠牲を代償に数人はイサネに照準を向ける事が出来たが、撃てば当たる武器ではない銃火器。戦い慣れしていない者達の銃撃などイサネの足を止める事すら叶わなかった。反応が遅れた1人が右肘を極められ、そのまま銃撃の盾にされる。当然、仲間を盾にされた時の対処法などお嬢様達が知っている筈もなく、容易に接近を許す。そして――
「あっちこっちでぎゃあぎゃあ五月蠅いんだよ。もうちょっと隅でやってくれ。」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
殴る、蹴る、踏む、投げる、締める・・・人が素手で行えるあらゆる暴力が半分暴徒と化していたパテル分派の生徒達を一方的に襲う。敢えて一撃で沈めず、嬲る様に戦術的に無為な追撃を加えるイサネらしからぬ苛立ちのサイン。
20幾つ対1という数の差は烏合の衆と化した者達には適応されない。また距離を置いて銃撃が有効な位置まで下がるという選択を取れる程、彼女達の頭脳は柔軟ではない。
「・・・どこまで行っても、こういう輩は必ず居る。認めたくはないけど。」
時間にして2分と43秒。銃を抜かず、ナイフを用いず、素手による打撃で素人とはいえ20幾つという数の生徒をたった一人で。
「ぐ・・・わ、私達・・・パテル分派に楯突くと―――ごぉっ!?」
「・・・やっぱり殺さないと駄目かも。」
辛うじて意識のある生徒が怒り心頭とばかりに呻くが、言い切るよりも速く彼女の頭部に金属板仕込みのブーツの踵が落ちる。
「はぁ、まさか今のパテル分派って全部こんな感じなの?パテル以外にも頭の固い奴なんていくらでも居るだろうに・・・力づくでいくしかないか。」
地面に倒れ伏せるパテル分派の生徒達を見つめながら、イサネはトリニティに対して対話という手段を一時的に閉ざす事を決める。
対話とは、双方の合意があってこそ初めて成り立つ事。
――どちらかの合意が無ければ、それは押し付けでしかない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あれから数度に渡り暴徒の群れを黙らせたイサネは、面倒な手合いに捕捉される前にどうにか黒服の居るビルの一室へと辿り着く事が出来た。
「え、今道路封鎖されてるの?市街地ほぼ全域で?」
「はい。正義実現委員会が殆ど出払っている理由も広大な道路の閉鎖にあたっている為であり、超広範囲の封鎖によって現在のトリニティの交通網は完全に麻痺しています。」
「道理でどこもかしこも大渋滞だった訳だ。ま、学内は学内でパテル分派の連中が全面戦争だーって騒いでいるけどね。」
部屋に入るや否や黒服の含みある笑い声がイサネを出迎えたが、作戦に失敗した事を咎められる事はなかった。そして今、イサネは騒動前に予め黒服に準備をお願いした弾薬や武装を補充ないしは追加し、2度目におけるどちらかの作戦目標必達の為に備えていた。
「それを貴方が攻撃したおかげでネットの一部では軽い騒ぎになっていましたよ。万物の天敵が混乱に乗じてトリニティを消しに来た、と。クックック、消しに来たとは、あながち間違いでもなさそうですね。」
「まぁ完全に消せるとは思えないけど、学園としての秩序を崩壊させるくらいまでなら割とすぐに出来るんじゃない?相応の準備は必要だけどね。」
「クックック・・・
準備の最中で交わされていた雑談だったが、その中で発された黒服の言葉を聞いたイサネの表情が人類を嫌う殺戮者のそれへと移り変わる。
「・・・流石に気付く輩も居るよな。あれだけ大きい図体が砂漠にぽつんとあると。で、
「おや?別に私は貴方の、とは一言も言っていませんよ?ククク、一体何の事だと思ったのですか?・・・まぁ私の方でもあれが何かは分かりませんが。」
「ならそれ以上は踏み込まないのが賢明ね。死にたくないなら特に。」
人殺しの眼になったイサネから実態を伴っていると錯覚するほどの敵意と殺意があふれ出すが、黒服は手慣れた様に誤魔化し、背筋を凍てつかせる殺意を逸らして話を本題に切り替える。
「話が逸れてしまいましたが、どうでしょうか。失敗したと連絡を受けはしていますが、今の所何か糸口などは掴めましたか?」
最も見られたくないものをちらつかせた上に話を誤魔化した黒服に白けた目線を送りながら、イサネは通話で話した内容のおさらいと詳細を問う黒服にこれまでの作戦における成果を話す。ミサイル着弾から始まり、古聖堂奥における攻防までの一連の動きを、イサネは紙の地図も合わせて仔細に共有する。
「ふむ、アンブロジウスは撃破できたと。・・・かの異形の戦闘能力は最低でも2、3個の中隊程度なら余裕で制圧できると聞いているのですが?」
「攻撃の予兆が分かり易すぎる。あと攻撃も単調でフェイントもフェイクも無い。更にその場から動かないともなればただの木偶でしょ。あんなのに中隊とか絶対要らない。誇張。」
アンブロジウス。イサネの中では未知なるエネルギーを適当に振り回すだけの的という評価だが、どうやら製作者曰く中隊を複数個要求するレベルの性能を持っているらしい。イサネは全く以てそうは思わなかったが。
「あれを見て尚攻撃が単調ですか。・・・クックック、まるで戦う為に生まれてきた様な存在ですね、貴方は。」
「そんな訳ないでしょ。私だって最初はごみ漁りが日課にして残飯が主食の元孤児よ。」
「・・・失礼ながら、貴方もアリウス出身ですか?」
「・・・殴るぞ流石に。というか殴るね。」
思った事を馬鹿正直に伝えた結果、黒服から返ってきた言葉にイサネは問答無用で拳を固める。孤児を舐めるな、と。・・・鈍い打撃音が、ここでも沈黙に反響する。
「・・・そ、それで・・・あと一歩のところでスクワッドに通路を封鎖されてしまったと。」
「悔しいけどそういう事。纏めると、今回の作戦で古聖堂からの侵入ルートは見つけられた。ミメシスの生成リソースになってるっぽい奴も見付けた。でも突入には失敗したしリソース元は殺し損ねた。」
腹を抑えて激痛に呻きながらも話を続ける黒服に、イサネも何食わぬ顔で本題に戻る。
「多分だけど、今の古聖堂はアリウスの占領下にあるだろうから再突入は楽しそうだけど賢明じゃない。だから別の入り口も見付けたいんだけど・・・」
一回目の突入作戦で最も僥倖だった事はイサネがアツコ――ミメシスのリソース元の殺害に執着していた為に本来の目的がアリウス側に知られなかったという事。故に二度目の突入でアリウス自治区到達にのみ意識を置けば虚を突く事自体は出来るだろう。
だが、再攻撃を敢行する場合、虚をつく以前に古聖堂を占領したアリウス生とミメシスの大群を1人で相手する必要があり、普通に通路への扉を閉鎖されて終わる可能性が高い。その為、二度目の突入作戦においては別口を利用する方法をイサネは考案したいのだが、
「古聖堂のものと比べ手掛かりがないと。」
「それ。それなんだよ。」
そう、無いのだ。別の出入り口を見つける為の手掛かりが。
アリウス分校は現在まで舞台から姿を隠し続け、トリニティのごく一部が存在を辛うじて知っている程度の学園。当然当時のアリウス生の先達達が通った通路やその出入口などが記録に残っている筈もない。
「さっきと同じ進入路だとまた閉鎖されて終わる可能性が高い。でも別ルートは手掛かりの一つもなくて見つける事自体が困難・・・あ、そうだ。」
手詰まりかと一瞬眉間に皺を寄せるイサネだったが、ふと一つの手立てを思い付く。
「何か思い付きましたか?私のサポートが必要なら今の内に教えてください。そろそろゲマトリアの会合の為にここを離れないといけませんので。」
「じゃあ弾薬と予備装備をここに置いて行って。第一目標をスクワッドの殺害に切り替えて、仲間の命を人質に取って入り口を吐かせる。最悪強行突破する。」
「ククク・・・ノープランと同義ではありませんか?」
押しても駄目、引いても駄目。ならば殺すしかないじゃない。元より作戦云々は
「あいつらと撃ち合って気付いたんだけど、スクワッドのリーダーってリソース元――アツコって言うらしいんだけど、このアツコを傷付けられると怒るんだよね。つまりサオリの弱みはスクワッドの面々かアツコなんだよ。」
「なるほど。」
「ならそいつらを無力化なり拘束なりして目の前で拷問にでもかけれてやればあっさりと吐いてくれるんじゃない?って。」
さも名案を思い付いたと言わんばかりに美貌をぱぁっと明るくするイサネだが、そもそもどうやってスクワッドに辿り着くのか等と言ったプロセスが一切不明であり、これを作戦と呼ぶには余りにも何も無さ過ぎる。
「それは作戦とは言えないのでは?スクワッドの元まで辿り着く算段は――」
「・・・思い出したんだ。目に映る敵全部殺せばミッション達成が私のスタンスだって事に。だから今回もそれでいく。ターゲットと邪魔する奴らは皆殺す。・・・うん、それが私だ。」
「・・・出来れば思い出して欲しくはありませんでしたね。まぁ元より策と言える策が無かったのも事実ですが。」
だが、黒服もまたそれを止める事はしない。何故なら両者共に目的はベアトリーチェの計画の頓挫。それさえ達成できるのならそこまでの道筋や手段など二の次でしかない。
目的の為に秩序の外に出る事も厭わない者が二人が一つの法外れな
「とは言っても殺すとなると結構な労力と後処理が必要になるから、皆殺しはしないだろうけどね。でも、アツコはともかくベアトリーチェには確実に死んでもらう。」
ここがキヴォトスで良かった。
今後、この不倶戴天の獣に狙われた者がどれだけ口にするだろうか。ガブリエルを以てしても、その腸の中身を知る事は叶わないだろう。
「とはいえどうしようかな。そろそろ古聖堂の方に居る
「私の方は明後日か明々後日にはここを出ますので、何かあればその間にどうぞ。」
一度目の評決は、既に下されたのだから。ここではない何処かで。
どうしよ、エデン条約3章以降のプロット白紙のままなんですけど...
あ、次回は先生パートから始まります。すぐにイサネかアズサパートになると思いますが。