透き通る世界で二度目の答えは出せるのか   作:回り針

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リアルが忙しい日が続いたのとモチベの低下が重なり、前回よりかなり時間が空いてしまいました。申し訳ない。



私には成れない、少なくとも本物には

 

 

 

 

―――そこで再会したのは、決して偶然などではないのだろう。

 

 

だが、今のアズサにその必然を理解する余裕などなければ考える猶予もなかった。

 

 

苦悩の果てに見つけた得難き友を捨てて、安寧と幸福を捨てて、家族を討って外道に堕ちなければならないのだから。

 

(爆薬がもう殆ど残ってない・・・補充しに戻る時間的な余裕もない。)

 

数時間前の奇襲は失敗した。アリウスが古聖堂を制圧後、スクワッドが休息の為に移動した廃ビルに先んじて潜んだ所までは良かったものの、あと一瞬の所でサオリに存在を勘付かれてしまった。まだ奇襲の優位性はあると戦闘に臨んだが、自らの戦い方の教官を相手にするには余りにも戦いを知らなさ過ぎた。

 

追い込まれた所で煙幕を撒き、隠し持っていたペロロのぬいぐるみ(起動済ヘイロー破壊爆弾)を置いていく事でどうにか逃げ遂せたが、あれでサオリが死んだとは思えない。その代償にアズサは、大切なもの全てを自ら放り捨てた。

 

 

「うん?・・・アズサ?」

 

 

もう失うものなど無い。怖いものは先生や大切な友人達の死以外何もない。人殺しも、自分が死ぬ事も、最早目的の二の次となってしまった。次は無い、ここで自分がサオリのどちらかが死ぬまで殺し合う。そんな心境で古聖堂に向かっていたアズサ。

 

 

――そこに、悪魔が現れたのは。

 

 

決して偶然などではない。アズサの薄暗い覚悟と悲壮に暮れた決意が呼び寄せた、ないしは導いたのだろう。

 

アズサの知る限り誰よりも戦いに優れ、無慈悲で狡猾。それでいて誰よりも簒奪を是とし、殺しを肯定する人類の悪夢そのもの。

 

 

 

「い、イサネ・・・」

 

 

 

標根イサネという一人の少女に。

 

 

「ど、どうしてここに・・・」

 

 

まともな人間社会に出て間もないアズサに願掛けや占星術など分からない。動揺を露わにするアズサがほぼ無意識に零した言葉に、イサネは当然と言わんばかりに即答する。

 

 

「んー、依頼。」

 

 

彼女が誰かからの何かしらの依頼によってトリニティに足を運んでいる事は既に聞いた事。恐らくイサネは彼女視点からして部外者でしかないアズサにこれ以上を話すつもりはない事だけは理解出来た。

 

しかし、その後アズサが彼女の前で何を語り、彼女の口から何を聞いたのかは自分の事ながら大分ぼんやりとしか覚えていない。その後の方がずっとずっと記憶に鮮明だったし、なによりこの時は既に記憶がどうのなど言っていられる精神状態ではなかったから。

 

 

「へぇ、少なくともこっち側に来る覚悟は出来てるみたいだね。じゃあさ―――」

 

 

だが、一つだけ確実な事ならある。

 

 

 

 

「私と共同戦線を張らない?」

 

 

 

 

「・・・分かった。もう後戻りは出来ない。」

 

 

 

 

彼女の誘いに乗って手を取り、悪魔に己を捧げた事。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あーぁ、殺し損なっちゃった・・・まーったく、羨ましい奴らだ。」

 

最低限の街頭に微かに照らされ、イサネは溜息と共に悪態をつく。

 

「最悪私に刺し殺されても何らおかしくなかったというのに・・・つくづく人間らしくない。」

 

始まりはトリニティ領内にあると思われるアリウス自治区へと続く隠し通路を探していた時の事。

 

日は落ち切って月が辛うじて暗雲の隙間から暗闇を照らす時間帯。搬送された負傷者は概ね収容が終わり、時間帯故に人が殆ど出歩かないタイミングを狙っての行動だったのだが、運悪くゲヘナとの全面戦争を目論むパテル分派の暴徒達に絡まれてしまったのだ。

 

 

―――不良ばかりのゲヘナなど、お前の様な薄汚い傭兵諸共・・・!

 

 

そして本当に運の悪い事に、彼女達の厚顔無恥を体現した暴言がイサネの怒りを煽ってしまった。殺意を抑え込んでいるに過ぎない状態のイサネを。

 

結果、言葉よりも先に手が出た。任務的にも常識的にも良くない事だとは分かっていたが、かといって抑える理由もなかった。というより半ばから殺す気ですらあった。幾度となく道を邪魔された鬱憤が再燃し、何人か殺った方が連中にとってもためになるだろうという思考すら浮かんでいたかもしれない。

 

ナイフによる腱の破壊に始まり、女性の命とも言われる髪を掴んでの拘束に投げ技。敢えて気絶させない事による苦痛の延長に、更には失明の危険性が高い目を狙った殴打など、素手で出せる一般的な残虐行為は大体やった。そういう選択を取る程度には、イサネは苛立っていた。

 

「私も生徒だって言ったって・・・学校通った事ないから分からないんだよねぇ。今更通う気も起きないし。」

 

そして一方的な暴行の末、悲鳴を聞き飽きたイサネが一人の首にナイフを突き立てようとした丁度その時、先生の声がナイフを握る手を止めた。あと一瞬でも遅ければ手遅れになっていた、本当に間一髪のタイミング。イサネは不快な相手を殺し損ない、パテル分派の生徒はトラウマを代償に一生を得た。

 

その後は当然口論に発展。しかし、先生の覚悟を前にイサネの単純にむかついた程度の理由が相手になる筈もなく、こうして殺傷を諦めた。

 

「・・・殺しに理由なんてないよ。人類を地球上から殺し尽すって決めた時に初めて、人殺しに理由が出来たんだから。」

 

まるで言い訳を連ねる子供の様に、イサネはぼやく。

 

「死の実感はいくらでもあったけど、人を殺してるって感じた事なんて殆ど無かったし。」

 

これまで幾億が生温い程の人命を奪ってきたイサネもといイレーネ。そんな彼女ですら、人類の駆逐を決意するまで人を殺す理由など一つ足りとてなかった。

 

今の自分を作り上げてくれた恩人に報いる為に、生き残る為に、意味を考える事すらも蔑ろにしてひたすらに戦場を駆けた。

 

漸く振り返った時には既に、軌跡は血に沈んでいた。友人も、知り合いも、恩人も、全て自分の掌の中で骸になっていた。自分が握り潰した、血塗れの掌の中で。

 

「空を汚し続ける人類を憎んだのは事実だけど、実際に行動に移すまでは・・・いや言い訳でしかないか。というかそんな事考えてる場合じゃなかった。やる事やらなきゃ。」

 

とは言え、自分のエゴの為に大勢の人間の命を一方的に潰したことに変わりはない。イサネは回顧を始める思考を切り替える。

 

「黒服はもうアリウス自治区へ行った。トリニティとゲヘナの戦力はまだ機能麻痺してる。古聖堂への再突入となるとまたあの大軍を相手にしないといけないのがネックだけど・・・」

 

現状判明している情報からどう動くべきかを練りながら、激戦の跡地、通功の古聖堂へと足を進める。

 

「強行突破もあり・・・でもアリウスの弱体化と予防線も兼ねてミメシスのリソース元は殺しておきたい。先生が目覚めたのが予想よりも早いのがどうにも気になる・・・」

 

古聖堂に滞在しているアリウスの軍勢は単独でも強引に突き進める。追加のトラップや防衛陣地はコジマ粒子の使用でどうにでも出来る。懸念点があるとすれば先生の動きが一番。

 

「傷は閉じてない筈だけど、そろそろ動き出しててもおかしくない筈。トリニティとゲヘナの混乱と機能麻痺を回復させて、その後部隊を率いて古聖堂に攻撃を始める。殺るなら――うん?」

 

誰も居ない事を良い事に、ぶつぶつと思考の残滓を口から零しながら戦闘の痕跡が入り混じり始めた小道を進むイサネだったが、ふと何者かの気配を感じ取り思考を止める。

 

(知ってる気配だ。)

 

周囲を見渡し、右手をライフル用ホルスターに収めてあるアサルトカービン(擲弾筒付きM4A1)のグリップに添えて奇襲に備える。正面には辛うじて残っている古聖堂の外壁。周辺にはそこに続くぎりぎり道だと分かる程度の小道。

 

(・・・訓練されている感じの気配。右かな?)

 

どうにもつい最近知った気配。微かな足音から対象が居る方向を把握したイサネは足を止めて息を殺し、すっと自分から見て右方向を見る。

 

 

トリニティの制服にイサネの銀灰色とはまた異なる白菫色の長髪。腰から生える花の装飾が施された小さな、しかし穢れの無い純白の翼。

 

 

――アリウスからの転校生にして元密偵の白洲アズサ。

 

 

自分の居る小道の一つ隣の小道。ぼうぼうと無作為に生え茂る雑草や雑木を挟んだ先に、アズサは居た。下を向いて、どこか頼りなさそうな足取りで古聖堂に向かっていた。

 

 

「うん?・・・アズサ?」

 

 

「ッ!?」

 

 

存在の正体を認識した時、無意識に名を口に出してしまった。しかも呟きというよりは呼び掛けにも近い程の声量だったらしく、草木を遮蔽に数m離れているアズサにもがっつり聞かれてしまったらしい。

 

(あ、しまった。)

 

びくりと肩を跳ねさせるアズサを見、イサネは己が失態を悟ると同時に殺していた息を元に戻す。この状態でまだ見つかりませんはどう足掻いても無理がある。初めから隠密する気のなかったイサネは、背の高い雑草を無理矢理突っ切ってアズサの前に姿を現す。

 

「い、イサネ・・・?」

 

「奇遇ねアズサ。随分と憔悴してる様に見えるけど・・・もしかして寝てない?」

 

緩慢な動きで自らを見るアズサの顔色は、何処をどう見ても過度なストレスによる精神汚染を抱えている人間のそれだった。推測するまでもないが、一睡もしないままこの一夜を動き続けていたのだろう。

 

「ど、どうしてここに・・・」

 

「んー、依頼。」

 

疲弊しきっているアズサの口から出た定型文過ぎる問いにこれまた定型文の様な回答を返しながら、イサネは考える。

 

(アズサの目的はサオリを殺す事。私の目的はアツコという生徒を殺してアリウス自治区に入る事。目的は概ね一致している。)

 

イサネとアズサの目的がスクワッドである事は確実。アリウスの洗脳教育に最後の最後まで抗い続けたアズサに人殺しが出来るとは思えないが、そこはさしたる問題ではない。

 

(憔悴度合いからして、あの後にアズサはもう一度スクワッドと交戦して負けたのかな。それで、次こそはって感じか?)

 

ほぼ事実を当てている推察を元に、イサネはアズサに同じ問いを投げる。

 

「そういうアズサは、どうしてここに?何をするにしてもまずは休むべきだと思うけど。」

 

こんな状態のアズサの回答など殆ど察しがついていたが、問わねば話の流れ的に不自然だ。アズサもアズサで、目的をぼかしたイサネとは対象に昏い声で質問に答える。

 

「・・・サオリを、消す。ヘイローを・・・破壊しに行く。」

 

「アリウスを止める為に?」

 

「そうだ・・・」

 

当然返ってきたのはイサネの予想ど真ん中の回答。しかし、イサネからすればその言葉は余りにも薄っぺらいものにしか感じられなかった。

 

 

「出来るの?事情が事情だったとはいえ、人を殺した事のない貴方が。元家族の、命を取れる?」

 

 

恐らくだがアズサは殺せないだろう。絶望に打ちのめされても立ち上がって足掻き続けるその精神力には関心するが、それとこれとはまた意味が違う。本当の意味で人を殺めるのには、また別種の精神力が必要となる。

 

「出来る出来ないじゃない、やらないといけない。これ以上、私のせいで皆に迷惑を掛け続けるのは嫌だ。」

 

「今更じゃないそれ?まぁいいか。」

 

アズサの表情からして相応の覚悟をしてきた事は理解出来た。だが、それでも最後は引き金から指を離してしまうだろう。救いのない先の為に外道に堕ちる事など、根本から狂っているか腐っていない限りそう出来る事ではないのだ。

 

(ふぅん、少なくとも覚悟はしてきたみたいね。)

 

自分から何を言っても聞きはしない。でも少なくとも腹は括ってきたらしい。ならばその覚悟、存分に利用させて貰おうではないか。

 

先生と交流のある生徒なので、適当に騙して使い潰す様な真似は出来ない。が、自ら破滅を望んだ場合は別だ。自分で選んだ道で、自らの意思で破滅へと歩んでいくのなら何も問題はない。

 

(サオリに執着してるようだし、足止めでもして貰おうかな。その間にアツコを殺して自治区に入る。もしくはスクワッドもここで全滅させる。)

 

脳内で思案しながら、イサネは口を開く。

 

 

 

「まぁ目的も概ね一緒みたいだし・・・アズサ、共同戦線でも張らない?」

 

 

 

乗るか乗らないかはアズサ次第。自ら手を取るなら、自らの意思でそれを望むなら、何も問題はない。アビドスの時の黒服と違って、やりようによってはアズサが手を汚さないままにイサネの目的を果たす事だって十二分に可能だ。・・・()()()()()()()()()、だが。

 

「目的が一緒・・・?」

 

「ガスマスク付けた亡霊みたいな連中、あれのリソース元がスクワッドの中に居てね。予防線の為にも潰しておこうかと思って。」

 

「リソース元?まさか・・・」

 

「貴方はサオリが目的なんでしょ?だから手を組まないかって事。同じアリウススクワッドが狙いなら丁度良いでしょう?やる事も同じ人殺し、丁度良いでしょ?」

 

がっつり悪い大人がする様な誘い方だが、既にイサネは外道の人間だ。人を陥れる事に良心の呵責など全く響かない。

 

 

 

「・・・分かった。もう後戻りは出来ない。」

 

 

 

数秒の沈黙の後、アズサは首を縦に振った。悪夢に自らを捧げた。悪魔の取引に応じ、禁断の契約を結んだ。

 

契約成立(エンゲージ)ね。じゃあ古聖堂まで向かいましょう。ぱっと見た感じだけど、アリウスの生徒達は中で待機してるみたいね。」

 

「あぁ、外の見張りは基本的にミメシスがやっているんだろう。問題はどうやってスクワッドの元まで行くかだ。動きがないのはまだ準備中だからだと思う。」

 

減音器(サプレッサー)があるから、これで少数の所を突破しようか。あれがユスティナ聖徒会の複製(コピー元がキヴォトスの人間)なら、全ての個体が独立した個の筈だから発覚しても認識は遅れる筈。」

 

M4A1の銃口に減音器を取り付け、イサネは息と気配を殺す。アズサもそれに続き、正面口ではなく迂回口を探すべく外壁にに沿う様に進む。

 

「所で、サオリを殺すとは言うけど、具体的な算段はあるの?」

 

「ない。ここに来る前に一度廃ビルに居た所を急襲したけど、勝てなかった。」

 

「なるほどね・・・」

 

アズサがどうなろうと知った事ではないが、決してアズサを陥れたい訳ではない。故にアツコとサオリを殺す為に最大成果かつこちらの損失が少なくなる様に策を練る。

 

 

一歩、また一歩と、

 

 

足掻いた果てにどん底から這い上がったアズサは、再びどん底へと落ちていく。

 

 

血塗られた深淵へと、堕ちていく。

 

 

 

―――一歩、また一歩。

 

 

 

他でもない自らの意思で。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

古聖堂の大礼拝堂跡。

 

 

「アズサ・・・アズサぁッ!」

 

 

戦闘態勢のミメシスが多数展開する大広間跡に一人、アズサは現れた。廃ビルで負った生傷をそのままに、疲弊しきった顔を確固たる決意を上書きして。

 

 

「やってくれたな・・・!よくも姫を・・・絶対に許さない・・・っ!」

 

 

その姿を認めるや否や、サオリはかっと怒りを露わにする。

 

 

「私は、サオリを止めてみせる。例え、この身がどうなろうとも。」

 

 

対するアズサの顔もまた、悲壮の戦意から動く事はない。

 

「お前にそんな事が出来るものか!任務から逃げたお前が、在りもしない偽善に縋ったお前が!私達の怒りと憎しみに、耐えられる訳が無いだろうっ!」

 

「逃げてなどいない。初めからそのつもりで任務に志願した。・・・そしてそれを見抜けなかったのはサオリだ。お前の節穴が、失態を招いただけだ。そもそもあの時だって、サオリが油断していなければアツコは――」

 

「黙れッ!!どちらにせよお前が姫を傷付けた事実は変わらないッ!」

 

廃ビルにおける戦闘で姫――アツコを危うく危険に晒しかけたアズサに激昂するサオリだが、アズサはそれに静かに、しかし確固たる声量でイサネ即席仕込みの煽り文句をサオリに返す。

 

「そうやって自分の失態を棚上げするのか。私の元教官は、一体いつから保身なんてものを考える様になったんだ?」

 

「貴様ぁッ!!!」

 

聞くに堪えない醜い言い争いを、恥も外聞もなく繰り広げる。殺意のままに相手を貶し、怒りのままに侮辱する。

 

愚かさの極みでしかないが、既にアズサの中には最早エンディングと呼べる未来などない。憎み合って恨み合って、最後に殺し合う。そしてその末に皆死ぬ。それでアリウスが、サオリが止まるならもうそれで良かった。

 

卑怯者と呼ばれようが裏切者と誹られようが、人を殺して死ぬつもりのアズサにはそれすらも敬称の様にしか思えない。

 

 

 

「・・・私は今日、人殺しになる。」

 

 

 

時間は明け方。天候は雨天と小雨の中間くらい。眼前には中隊程の数のミメシスを従えたサオリとスクワッドのメンバー。対してこちらは1人。戦った所で蹂躙されるだけにしか思えないが、アズサに恐怖はない。

 

 

 

「アズサぁッッ!!」

 

 

 

サオリが咆える。

 

 

 

「・・・もう二度と、あの世界に戻れないとしても。」

 

 

 

()()()を聞こえる声で喋る。

 

 

覚悟などとうに出来ている。今更こんな言葉、言い訳にしかならない。だからこそ、彼女はこれを合図にしようと言った。

 

 

だからこそ、全力で叫ぶ。彼女に聞こえる様に、アズサから見て真右に潜むイサネに届く様に。

 

 

 

「もう二度と、あの世界に戻れないとしても!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声を聞いた瞬間、イサネは両手に持っていた閃光手榴弾とスモークグレネードをアズサとサオリのちょうど真ん中あたりに向けて投擲する。

 

彼我の距離は数十mの上多数のミメシスにより視界も殆ど通らないが、完全にフリーの状態で投擲できる状態でかつ位置が明確に割れているなら問題はない。

 

 

「・・・ッ!!?、姫を守れッ!!」

 

 

サオリは突如として割り込んできた投擲物二つに数時間前の奇襲がフラッシュバックしたのか、ミメシスに指示を飛ばすと同時に後方へ飛んで目を左腕で庇う。

 

直後、瞼も諸共視界を潰す閃光が爆ぜ、遅れて濃い煙幕が広範囲にかつ勢い良く吹き荒れる。

 

(今。)

 

閃光を確認したイサネはコジマ粒子を全身に回し、全速力で走り出す。右手でアサルトライフルを抜き、左手に持ったククリナイフを握り直す。

 

狙いはアツコではなくサオリ。市街地、昼間の古聖堂内において常に隙あらばアツコを狙っていた事からサオリ自身への意識が薄れると読んでの狙いの変更。

 

「ふぅッ・・・!」

 

瓦礫の悪路を物ともせず、数十mを数秒で駆け抜ける。道中邪魔になるミメシスはイサネの存在に反応する前にククリを振るって斬り捨てる。

 

「イサネっ!」

 

ものの数秒で数十mを駆け抜けたイサネは、速力を落とさぬままに煙幕の中に突っ込む。

 

(見えた、そこか。)

 

幾ら強化手術で常人よりも遥かに優れた視力を持つと言えど、濃い煙幕により物理的に視界が遮られてしまえばすぐ目の前すらも視認できない。だが、それでもイサネは煙幕に巻き込まれたサオリの居場所を把握する。

 

何も強化手術で強化されているのは視力だけではない。筋力や柔軟性、身体能力におけるあらゆる要素が人間の自然値を大きく上回る強化がされている。・・・つまり視覚が利かなくとも他の感覚器で幾らでも気配を探れる。

 

「ふっ・・・!」

 

サオリの位置は完璧に細く出来ている。イサネはククリの切っ先を気配の先に向け、何の迷いもなく気配の先に突き込む。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

しかし、イサネの右手に待ち望んだ感触は訪れなかった。想定されたパターンの内の一つではあったが、それでも望まざる結果の一つでもある。

 

「相変わらず、セレンのバックアップなしでの奇襲は上手く行かないものね。まぁあっちは世間に知られ過ぎていたというのもあるんでしょうけど。」

 

ククリの柄を握る右手に感触はあった。だが、掠った程度の僅かな感触。イサネはその感触から刺突が躱された事を認める。

 

「標根イサネぇ・・・っ!」

 

「数時間振りねアリウス。ミメシスのリソース共々殺しに来たよ。」

 

サオリの気配が前方に遠ざかるのを感じたイサネは、右手に握ったアサルトライフルを気配の方向に向けて掃射。更に煙幕外からもイサネ以外のものの銃声が鳴り響き、いよいよ戦闘の火蓋が叩き落とされる(地獄の釜の蓋が抉じ開けられる。)

 

「アズサ。」

 

「どうした?」

 

躊躇いは厳禁ね(ちゃんと殺せよ)?」

 

ククリナイフを鞘に納め、自らが炊いた煙幕から飛び出すと同時にアズサに釘を刺す。常にどこかに光があると足掻き続け、陽の光を見続けたアズサの事だ、サオリを殺すと言っても何だかんだ最後には殺害を躊躇する可能性が否めない。

 

「っ、分かってる。」

 

アリウスを撃破できたとしても、そうなってしまっては困るのだ。止めてくれと、私の家族なんだと、まだ希望はあると、そう掌を返されてしまっては。

 

(やっぱり上っ面だけにしか聞こえないな。心の底から腹を括り切れてない感じがする。・・・やっぱり向いてないよ、アズサ。)

 

すぐさま投げ返されたアズサの回答を聞いたイサネは益々確信を強めつつも、銃口をこちらに向けて反撃に移ろうとするサオリとの撃ち合いに興じる。

 

「お得意のゲリラ・・・いや、数に物言わせた真似だけはしないでよね?」

 

「ちッ・・・!」

 

戦闘スピードに着いて行く事が出来ないミメシスの群れを掻い潜り、イサネとアズサ、スクワッドの6人は位置を入れ替え相手を変えて撃ち合う。

 

 





ACfA×ブルアカのクロスオーバー作品なのにタグに"アーマードコア"とか"AC"タグを入れた方が良いのでは? ...と30話を投稿した時くらいからずっと悩んでおります。

だってネクストほとんど登場してないし...

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