異世界転移ニッポン「…あれ?これ帰れるんじゃね?」   作:(休止中)サン少佐

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1.4 ― 二人の政務官、再び

 「ヴァルツゥルム協定加盟に関する動議が国会に上がったそうだ。

外務省としても"侵略の脅威"が減っただけで落ち着ける。防衛省もそうだろ?」

「勿論だ。突然"日本初の防衛出動が―――"なんて洒落にならんからな。」

防衛省の岩倉政務官と外務省の逢田政務官は、赤坂のとある料亭に居た。

「…まあ、党内も含め各方面から非難轟々(ごうごう)だから、通るかどうか怪しいが。」

協定加盟を巡り、国会は紛糾していた。

 ヴァルツゥルム協定は相互独立保障を含んでおり、戦争に巻き込まれる可能性が高まる。

"平和の為に正式加盟の推薦を受諾するべきで無い"と言う勢力も居れば、"大国による相互独立保障の輪が広がる事が平和に繋がるのでは無いか"と言う勢力も居て、"()()"…失礼、"防衛力を強化せよ"と言い出す勢力も居る。

「準加盟の時も騒がしかったよな…〈自由貿易に関するヴァルツゥルム協定〉は言わば"関税の禁止"だよ。経済界から色々反発があったし…。」

 関税が無ければ国内産業に影響が及ぶと言うのは言うまでも無い。しかしながら、他国に比べて優越な産業ならば、逆に他国の産業に悪影響を与える事も可能である。

ヴァルツゥルム協定の準加盟の際は…幸運にも後者が起きたのだ。

 

 

「―――話は変わるが、この前外務省(そちら)から貰った〈サンプル〉だがな、…面白い結果が出た。」

「面白い結果?」

…1年前、日本国外務省は〈王国〉の貿易業者を経由して、異世界における主要動力である〈魔素粒子機関〉を入手し、防衛省は魔素粒子機関を既存動力と変換出来ないか模索し始めていた。

「魔素粒子機関は内燃機関と比べて静音で、大気に依存しない。…潜水艦の非大気依存推進としてこれ以上無いシロモノだ。」

 "非大気依存推進"とは、内燃機関の作動に必要な酸素を取り込む為に"浮上"や"シュノーケル航行"をする事無く、潜水艦を長時間潜航させるのに使用する技術の総称である。

この場合、魔素粒子機関の作動は酸素を必要としない、即ち大気に依存しない為、酸素を取り込む為に浮上する必要が無くなるのだ。

「魔力で動く潜水艦…。」

何ともファンタジックな文言だが、彼は真面目に言っている。

「アメリカが消え…護るべき海域が増えた今、長距離航行可能な潜水艦の配備は急務だ。…いっその事、この魔素粒子機関を活用出来たら良いが…。」

逢田がそう言うと、岩倉は「無理だ、単純に技術が無い。」と返した。

「各方面で魔法の解析を進めているが、まだ"魔力エネルギー"や"魔法"の原理が掴めん。未知の新素粒子(魔素粒子)の存在が証明出来ただけでも大成果だ。…〈魔素粒子動力潜水艦〉の実用化は数十年後になるだろうがな。」

 しかしながら、前述の通り原子力潜水艦の配備については急務である。

異世界の海軍戦力に関しては未知数だが、原潜(もしくはそれに準ずるもの)があれば防衛力を高められる。

「…米軍との交渉も難航している、在日米軍は原子力関連技術の提供を渋っていてな。」

「原潜も無理か。」

「いや、此処だけの話だがな…。

 

在日米軍が〈USS.ロナルド・レーガンの燃料棒交換〉について打診して来た。」

 

 ニミッツ級航空母艦〈CVN-76"ロナルド・レーガン"〉

米海軍の原子力空母で、横須賀港を母港とする第5空母打撃群の旗艦。かの有名な〈トモダチ作戦〉の主力艦として東日本大震災の被災地支援で活躍した事で有名である。

 原子力空母は定期的な整備と〈核燃料棒交換〉が必要であり、船体を切り裂いて核燃料を交換せねばならない。…しかし、大和型戦艦より巨大になったアメリカの原子力空母(ロナルド・レーガン)を収容出来るドックが、果たして国内に存在するだろうか?

 

 岩倉は「そこで防衛大臣(須田先生)は、在日米軍に〈取引を仕掛ける〉つもりらしい。」と言い、意地悪な笑みを浮かべた。

 

――――――――――――――――――

 

 「…一先ず(ひとまず)は、()()()()()()と言うべきか。」

1ヶ月後、横田基地にて。

異世界転移から5年が経過した今、在日米軍はUSS.ロナルド・レーガンの核燃料棒交換について、日本政府からの協力を得られた事に安堵していた。

「暫くUSS.ロナルド・レーガン(レーガン閣下)は休暇だ。…色々な意味で寂しくなるな。」

在日米軍の象徴たる艦艇が数年間のドック入りとなったのだ、新世界におけるアメリカの影響力は著しく低下としたと言える。

「しかし良かったのですか?日本に原子力技術者を供与して。」

「…仕方なかった。日本政府はあのUSS.ロナルド・レーガン(レーガン閣下)を人質に取ったんだからな。」

防衛省の〈取引〉とは、"防衛省がUSS.ロナルド・レーガンの核燃料棒交換のドックを建造する代わりに、在日米軍は防衛省・自衛隊の原子力潜水艦開発に協力せよ"と言うものだった。

「本国無き今、我々は何の為にあるのか…在日米軍の存在意義が分からん。…少なくとも役に立った筈だ。」

「全くその通りです。」

"アメリカはもう無い"。…彼等を包むのは、受け入れ難い現実である。

 

 「しかし…〈大使殿〉は〈例の案〉を模索しておられます、米軍の影響力(プレゼンス)を自衛隊に与えてはなりませんぞ、司令官殿。」

「…分かっている。」

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