異世界転移ニッポン「…あれ?これ帰れるんじゃね?」 作:(休止中)サン少佐
2.1 ― 神代の大砲台
―――日本国の異世界転移から5年後…。
『総理大臣閣下、駐車場現着。オクレ。』
『こちら警備室、総理現着了解。』
ある春の深夜、日本国の首相官邸に政府高官等が続々と集合しつつあった。
発端は、数時間前に日本国外務省駐〈王国〉公使館から送られた外交公電である。
「日本時間午後10時頃、〈共和国〉政府が〈相互独立保障に関するヴァルツゥルム協定〉に基き、"〈フェレンツ諸氏族〉によって国家の主権及び独立を揺るがす事態が発生した"と宣言致しました。…その為、我が国には参戦義務が生じる事となります。」
…ヴァルツゥルム協定への正式加盟において、最も危惧していた事態に発展したのである。
「日本は…戦争になるのか?」
"大野"内閣総理大臣は呟いた。
平和主義を掲げる国家において、"戦争"は最も避けたい事象である。
すると、須田防衛相は「…総理、我が国はまだ攻撃を受けていない。」と言い、更に「…自衛隊法76条1項2号の規定に基づけば、友好国たる〈王国〉への攻撃によって〈存立危機事態〉*1が発生し、我が国が攻撃を受けずとも防衛出動は可能です。…しかし主要交戦国は〈共和国〉であって、更には"王国も参戦を決めかねている"状態であると言う情報もあります。
…我が国の出る幕では無いかと。」と続けた。
〈自衛隊法76条〉
内閣総理大臣は、外部からの武力攻撃*2に際して、わが国を防衛するため必要があると認める場合には、国会の承認*3を得て、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。ただし、特に緊急の必要がある場合には、国会の承認を得ないで出動を命ずることができる。
〈自衛隊法76条1項(2)号〉
"我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態"
内閣総理大臣は前述の事態に際して、国会の承認を得て武力行使を指示出来るのである。
だが諸大国が沈黙を貫くならば、日本が防衛出動を拒否したとしても咎められる事は無いだろう。
「もし王国や〈皇国連邦〉が参戦の構えを見せるならば、我々も然るべき態度を示す必要があります。我が国も〈共和国への支援〉ならば出来ない事も無い。…今の所は日和見で居ようでありませんか。」
…須田防衛相は言った。
だが、その数時間後。
「何…?王国が…?!」
大野総理を驚かせたのは、日本国外務省〈王国〉駐在臨時公使からなされた二つの情報である。
"王国の議会である〈貴族議会〉において、フェレンツ諸氏族への出兵に関する動議が提出された。"
"フェレンツ諸氏族は共和国に対し、
異世界において"核兵器"に相当する兵器、〈魔力兵器〉を使用した。"*4
…それは即ち、須田防衛相の言う"然るべき態度を示す"必要性が出て来た事を意味する。
「自衛隊を戦闘地域に派遣する事だけは避けたい。」
大野総理が呟くと、須田防衛相は
「…総理、平和主義国家たる日本としては、"フェレンツ国との平和的解決"と言う外交努力を示したいものでありますが、ヴァルツゥルム協定の加盟国である手前、何らかの協力を行わざるを得ないと考えます。例えば、輸送協力や物資協力、医療協力や資金協力です。」
と言った。
…現在の日本の認識は、〈ヴァルツゥルム協定諸国は"共和国の平和回復活動の為"に軍を派遣した〉と言うものであった。その為、自衛隊による直接的な戦闘行為は何としても避けるべきと、心の何処かに鍵を掛けていたのだ。
半年ほど前に、フェレンツの森林地帯に突如として現れた"工場群"。
その中枢において、今、正にフェレンツ諸氏族は
『全作業管制及び部隊に通達!攻撃数値は次の通り!
方位11時35分、角度30度、弾種"魔素粒子砲弾"!繰り返す、方位11時35分、角度30度!』
堅牢なる大トーチカにて、"神代の怪物"が唸り声を上げる。
その図体は巨人の指が如く、響き渡る声に従って、その口を向けた。
「動力管制へ、魔素粒子タービン位置どうか。』
『こちら動力管制、タービン位置に縦+0.003vei*5横+7.0veiの修正あり。
60秒以内に修正、完了次第通達致します。』
「了解した。」
『第三管区より弾薬運搬車到着!
装填部隊!展開!』
大陸において蛮族の代名詞となっているフェレンツであったが、この恐るべき大砲台によって、その事は覆る事となる。
『こちら装填部隊!作業完了であります!』
「よし…
第一管区内の全作業員へ伝達!総員、第二管区へ撤収!」
『こちら動力管制、タービン位置修正完了しました!』
『砲術指揮所、了解!
射撃管制!第一、第二、第三、第四タービンを起動せよ!』
…怪物の唸り声が如く、振動が大砲台を包み込む。
「第五、第六タービン始動準備!」
『了解、第五、第六タービン始動準備。』
「…始動っ!」
その瞬間、大砲台より青紫色の閃光が放たれ、続けて砲声が轟いた。
…かつてフェレンツの地には、諸氏族を統一せし国家があったとされる。
山脈に隔たれたフェレンツ高原に小国を築き、魔法技術の粋を極めた、"天上帝国"。
「この砲声は…"最前列"の
その国家の名を、〈最前列〉と言う。
列強諸国は〈脅威の排除〉を目的として出兵を行ったのであった。
第二章 ― 日本国自衛隊の海外派遣