異世界転移ニッポン「…あれ?これ帰れるんじゃね?」   作:(休止中)サン少佐

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2.4 ― フェレンツ人機甲部隊の侵入 ――アルジョント=ヴァル北での対機甲戦闘――

 アルジョント=ヴァル北部の森林部。

道路脇に生い茂る(くさむら)、一見して何も無い様に見える。

「…1-3からCP、道路上警戒準備完了。オクレ。」

 彼等(かれら)は獲物を狙う虎の様に潜んでいる。例を挙げるならば、清朝の説話集『唐人説薈』の『人虎伝』の如く、陸上自衛隊の自衛官等が潜んでいるのである。

『人虎伝』と違う所と言えば、虎は、自身の醜悪なる姿を故人(とも)に見せるのを憚った(はばかった)が故に潜んでいるのでは無く、ただ報告にあった獲物(敵戦車部隊)を待っているのである。

『CP了解、オワリ。』

 それぞれ110mm個人携帯対戦車弾(パンツァーファウスト3)や89式5.56mm小銃(ハチキュウ)を構えながらであるが…彼等(かれら)、そして自衛隊にとっても初の実戦。

 この非日常的状況に際して、自衛官等の緊張は極限まで高まっていた。

『斥候から1-3、そちらから約300m先に4両の戦車を確認。

なお当該戦車部隊にあっては随伴歩兵を確認できず。オクレ。』

「1-3了解。オワリ。

全体、対機甲戦闘用意。」

 遂にフェレンツの戦車小隊が現れた。現れてしまった。

彼等は分遣隊本部の恐れていた様に、アルジョント=ヴァルへ向かって南進し続けていたのだ。

 「CP、こちら1-3。

敵性と思しき4両の戦車を発見。当該戦車部に対する先制攻撃の可否を問う。」

 副小隊長の"七瀬(ナナセ)"一等陸曹は、分遣隊本部に対して前述の様に報告する。

…数十秒の間の(のち)、その無線に対して『対機甲戦闘を実施せよ。』と応答がした。

「全体、私の指示があるまで攻撃を禁ずる。」

 彼女の声は全員の無線を通じて伝達され、暫時、自衛官等を緊張が包み込んだ。まるで冷ややかな風、もしくは生暖かい不快な風が脊髄を撫でる様な、筆舌に尽くし難い、戦闘を前にした緊張感である。

 対戦車(AT)装備を持つ者は、その草木でカモフラージュされたフェレンツの戦車へ向けて構えた。

 

 近づくにつれ、その振動と轟音は強まっていく。

まるで地を踏む巨獣である。

 

 

 

 …しかし、敵戦車は、自衛隊員等が潜む叢の()()()()()で停車した。

まるで()()()()()()()様に。

 先頭の敵戦車から一人の敵兵が身を乗り出し、ストックの無い突撃銃らしきものを持って下車、叢に潜む自衛官等の方へ向かって歩き始めた。

「…何だ…?…まさか気付かれたか…?」

 

 

 

 

 

 …その心配は杞憂に終った。

敵兵は戦車へ向かって手で合図すると、小走りで戦車に戻り、暫くして、再び敵戦車隊は前進を始めたのである。

「…よし…よし来た…。」

 そして敵戦車隊が自衛官の構える対戦車装備の射線に入った、その時…。

「全体、発砲を許可。

撃て!撃て!撃て!」

 複数の発砲音の(のち)、放たれた数十発の対戦車擲弾は、その殆どが的確に敵戦車を貫いた。

 先頭の車両は白煙を吹いて停車。機関部に命中したのか、魔力エンジン特有の花火の様な爆発が、車両後部から発生した。

そして後方の一両は、前面から黒煙を吹き出し、そのまま前の車両に衝突した。

「先頭の敵戦車は既に無力化!最後尾の奴は砲塔が生きてる!」

「撃て!撃て!撃て!」

身動きが取れない敵戦車に向かって、何度か対戦車擲弾が発射された。

その殆どが命中するも、敵戦車は付近の叢に機銃弾を浴びせて応戦する。

 すると、中央に居た二両の敵戦車が、道を塞ぐ戦車の残骸を避けて後退を始める。

二両目は既に10発近い対戦車擲弾を受けていたが、

「AT撃て!早く撃たんか!」

七瀬は語気を強める。叢が紅く染まる中、発射されない対戦車擲弾に苛立ちを感じたのだ。

 

「…あっ…。」

 

 その時、眼前で立ち上がった、ある自衛官の身体が、左右に裂けた。

戦車の機銃が直撃したのである。

…彼の持っていたパンツァーファウスト3が、七瀬の少し前に落下した。

 

 彼女は決心した。

機関銃でもって戦友の形を崩す敵戦車を、自らの手で無力化する。

身動きの取れない3両目の戦車は、既に10発近い対戦車擲弾の命中を受けて、目に見えって損傷を追っている。

 …そしてその道具は、直ぐそこに落ちている。

「……クソっ…野郎!!」

 

そして彼女は、敵戦車へ向けて照準を合わせた(憎悪の眼差しを向けた)

 

 

 

 

 「…現状報告!現状を報告しろ!」

「誰か!…誰か生きてるか!」

白煙の中、生き残った自衛官達は互いに声を掛けながら状況把握に努めた。

 

 少なからず殉職者が出た事は、紅く染まった叢が語っている。

…後に判明した偵察小隊の損害、"殉職者16名、行方不明者4名"。

うち11名の死因は敵戦車の機銃に関連し、戦車に轢き潰された"交通事故"が3名、2名が砲弾の爆風によるショック死。

(なお)、行方不明とは"遺体が発見出来なかった事"を意味している。

 七瀬一等陸曹の率いる偵察小隊は、この日、アルジョント=ヴァル北部森林地帯において、熾烈な対戦車戦闘を繰り広げたのであった。

 

 

 

 

 

 「…殉職者16名、行方不明4名。」

アルジョント=ヴァル分遣隊本部は重々しい空気に包まれていた。非戦闘地域でのみ活動を許された支援隊が、戦闘地域で交戦を行い20名の損失を出すに至ったのだ。

「撤退すべきだった。…もっと早く。」

そう呟いた幹部の手には、ある"通達文"が握られている。

 …先程、立憲共和国の陸軍から通達があった。

 

" リール立憲共和国陸軍部 発、 日本国自衛隊リール復興支援隊アルジョント=ヴァル分遣隊 宛。

 膺懲作戦総司令部は、皇国連邦統合軍の管轄たる西方阻止線の戦略的後退を決定した。アルジョント=ヴァルは戦闘地域と成り得る事から、貴隊におかれては早急に撤退されたし。"

 

…遅かった。

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