装者の男女恋愛が見たいッ!戦姫絶唱シンフォギア SLS 作:ふみー999
前回から思ったよりも時間がかかってしまいました。
なんか思ったところまで進まなかったのですが長くなったためひとまず投稿しようと思います!
よろしくお願いします!
ツヴァイウイングの公演中に発生した認定特異災害ノイズによる被害は死者、行方不明者合わせて12874名にものぼる大惨劇となった。その中にはツヴァイウイングの比翼、天羽奏も含まれていた。
胸に刺さった異物を除去する手術とリハビリを終えて日常に戻った響を待っていたのは残酷な現実だった。
被害者のうちノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度であり、残りは逃走中の将棋倒しによる圧死、避難路確保のために争った末の傷害致死であることが週刊誌に掲載された。その結果、世論は生存者に向けたバッシングへと傾いていく。ただ生き残ったから、それだけの理由で生存者たちは追い詰められていった。
響もその中の一人だった。将来有望な生徒が死に、なぜ響が生き残ったのか。そんな女子生徒のヒステリックな叫びから響への差別は始まった。
机や持ち物に殴りかかれる暴言の数々。消えろ、死ね、生き残るべきではなかった。
自宅に死を助長するような張り紙を張られ、いたずらに石を投げ入れられた。
「ほかの人もしているから」という免罪符を手に入れた人々が安易に投げつける暴力。
そんな地獄の中でも響は落書きを消し、張り紙をはがし、日常を過ごす。
今日も、学校を終えボロボロになったカバンを持って親友の小日向未来と共に下校していた。
「それじゃあ響、また明日ね」
「うん。未来、また明日」
二人の通学路の分岐点、別れの挨拶をする未来に響は笑顔で答える。数歩歩いたところで未来は立ち止まる。
「…響、ごめんね。私がライブに行こうなんて言わなければこんなことには…」
未来は大粒の涙を流して響に謝罪する。何度も何度も手で涙をぬぐうが尽きることなく流れ続ける。そんな未来の手を響は優しく握り包んだ。
「未来のせいなんかじゃないよ。だから未来が謝ることなんてない。」
優しく、諭すような口調。慈母のような穏やかさで響は未来に話しかける。
「でも私、響に何もしてあげられていない。」
「未来はこうして一緒にいてくれる。こうやって一緒に帰って、また明日って言ってくれる。何もしてないなんてことないよ。」
「でもっ」
「未来は私の陽だまりなんだよ。だから一緒にいてくれるだけで温かくて勇気をもらえる。」
握っていた手を離すと響は胸をはり手を乗せてふんっと鼻から息を吐く。
「心配しないで、私元気は人一倍あるんだから!ご飯だってモリモリ食べちゃうし、明日のサッカーだってバンッバンッシュート決めちゃうんだから!ってうわッ」
「響!?」
シュートの素振りをした響は態勢を崩してその場に転んでしまう。
「あいたた、やっちゃった」
「もう、何やっているのよ、響は」
「えへへ、面目ない。」
照れた様子で響は頭をかくと起き上がり埃をはらう。
驚いた未来は自然と涙が止まっていた。
「見ていてハラハラするよ。」
「そんなことないよ、私へいきへっちゃらだよ」
どや顔で言い訳にもなっていない言葉を紡ぐ。自然と二人は一緒に笑った。
そしてしばらく笑った後、手を振って未来を響は見送った。
姿が見えなくなったのを確認するとその顔から笑みが消えてしまう。
(私が暗い顔していたら、未来にますます心配かけちゃうよね…)
響は先ほどよりもゆっくりと歩きはじめる。家に帰ればまた、張り紙が増えているかもしれない。ペンキで落書きもされているかも。
最近はお父さんもお酒を飲む量が増えて家族に辛く当たることも増えてきていた。
いろいろな不安が押し寄せて足が鉛のように重い。
—未来のせいなんかじゃないよ—
さっき未来に告げた自分の言葉がふと蘇る。
(それならいったい、誰の…)
「…あれ、ここは?」
気が付くと知らない河川敷を歩いていた。どうやら無意識に遠回りをしてしまっていたようだった。夕日に照らされた川がキラキラと光って見える。道の下の堤防に生えている草が風に揺らされてゆったりとたなびいている。土のにおいが風に乗って鼻孔くすぐる。その風になぜか心を揺さぶられたような気がした。
響は足を止め堤防ブロックの上に腰を下ろした。
どれほどそうしていたのだろう。気が付くと眺めていた水面に月が浮かんでいた。
あたりも暗くなり街灯が世界をオレンジ色に染めている。
「…帰らないと。お母さんたち心配するよね。」
自分に言い聞かせて立ち上がる。ふともう一度水面を見つめると何かが浮かんでいた。
よく見ると流木のようだった。しかし、そのうえで何かがもぞもぞとうごめいている。
「ミャー」
目を凝らしてみるとどうやら子猫が流木と一緒に川に流されているようだった。
不安定な流木は今にもひっくり返りそうで、子猫は怯えた様子で助けを求めて鳴いていた。
「っ!大変!」
何か助けられそうなものはないかと辺りを見渡す。しかし、そう都合の良いものはどこにもなかった。
響は意を決して猫を助けようと川の中に飛び込んだ。水の流れは速いが、幸いにも9月の上旬で水もまだそこまで冷たくなく、水位も浅かった。
「待ってて!今助けに行くから」
じゃぶじゃぶと水をかき分けて響は猫へと近づいていく。しかし、5メートルも進んだところで突然水深が深くなり響は足を滑らせてしまった。
引き返そうにも川の流れが速く押し流されてしまう。何とか助けを呼ぼうと手を水面に上げようとする。しかし、体が浮き上がらず呼吸すらままならなくなっていった。
必死にもがくが、もがけばもがくほど水の中に押し込められていく。
(私、ここで死んじゃうのかな…)
肺の中の空気がこぼれていき息が苦しくなる。響はライブ会場で感じた死への恐怖をまた感じていた。
死の恐怖に連鎖するように苦しい思い出が次から次へと思い出される。
あぁ、これは報いなのだろうか。たくさんの人があの会場で死んで、自分だけが生き残って、周りの人が言うように悪いのは私で、神様がここで死ぬべきだと告げているのだろうか。
頭の中で流れ続ける負の走馬灯を眺めながら響はそう考えてしまう。もうあがくことすらやめてしまおうかと考えたとき。
そんな奏の言葉が脳裏に蘇った。
(…嫌だ、こんな風に終わるのは。まだ死にたくない。死にたくないよ。)
真っ暗な水の中で響は水面に向かって手を伸ばす。
(誰か‥助けて…)
黄色い月が水面に映ってキラキラと光っている。その月を破くように水の中に誰かの手が差し出された。
響は消えゆく意識の中でそれを掴んだ。
意識が戻ると響は自分の頬がざらざらした何かに触られているのを感じた。
「わっ、くすぐったいよ」
目を開けると先ほど流木の上で怯えていた子猫の黒猫が響の頬を舐めていた。
全身が黒い毛並みだが頭の一部だけ白い毛が混じった猫だった。その毛並みを水で濡らして体のラインが浮き出てしまっている。さらに特徴的だったのは尻尾だった。どこかで切れてしまったのだろうか。根元から先が無く止血のためにハンカチが巻かれていた。
黒猫は響が目を覚ましたのを確認すると顔を摺り寄せ甘えてくる。自分を助けようとしてくれた人のことが分かっているようだった。
甘える猫の頭を撫でた後、響は改めて自分の様子を確認する。どうやら川に飛び込む前の岸に戻ってきていたようだった。自分の体を見ると砂利の上で横向きに寝かされていた。右手は頭を支えるように顎の下に入れられている。保険の授業で習った回復体位というものを取られているようだった。そして、体には男物の学ランが掛けてあった。起き上がるとずるりと落ちてしまう。
砂利を踏む音が背中側からして振り返る。
「よかった、目が覚めたようだね。」
そこには一人の少年が立っていた。学ランを脱いだワイシャツ制服姿でやや痩せ気味の細い体をしていることが見て取れる。
不思議な印象の少年だった。特に目を引くのはその髪だ。夜空のような黒い髪に黄色みがかった灰色の白髪が幾重も混ざっている。そしてその髪の奥に黄色い瞳が穏やかに響を見つめている。少年の後ろの空にある、月とそれを隠すように浮かぶ叢雲にそっくりだった。
その特徴的な髪もそして全身も水で濡らしている。どうやらこの少年が溺れた響を助けたようだった。
少年は響が意識を取り戻したことに安堵する。しかし、次の瞬間に頬を赤らめ響から目をそらした。
「ええっと、とりあえず貸した学ランはそのまま使ってくれると助かるかな。なんというか目のやり場に困るというか」
そう言われ響は自分の体を見つめる。季節はまだ秋にならずまだ暑い。当然夏服を着ていたため水に濡れた服が透け下着が薄っすらと見えてしまっていた。
響は慌てて学ランで体を隠ししゃがみ込む。そして少年に背を向けていそいそと学ランにそでを通す。微かにコーヒーの匂いがした。
「お、お見苦しいものをお見せしまして」
「い、いやそんなことは・・・」
「・・・」
「・・・」
お互いに気まずい空気が流れる。響がどうしたらいいかと混乱していると黒猫が少年に近づいていく。足元まで行くとみぃーと甲高い鳴き声をあげた。少年は黒猫を抱きかかえると優しくなでる。
「貴方が助けてくれたんですか?」
「うん、溺れているのが橋の上から見えたから。僕も慌てて飛び込んだんだ」
響は座ったまま響は頭を下げて礼を述べた。
「ありがとうございました。もう助からないのかなってそう思って」
「僕はたいしたことはしてないよ。君が手を掴んでくれてよかった。お前も無事でよかったな。」
うりうりと猫を撫でながら少年は首を横に振り答える。
「そんなことないですよ。貴方は私の二人目の命の恩人です!」
「二人目ってことは前にも溺れたのかな?」
「いえいえ、溺れたんじゃなくて別の件で…」
響は言いながら言葉尻が小さくなっていく。少年は響の隣に置いてあるカバンに視線を移した。そこにはクラスメイトから書かれた悪意ある言葉が書かれている。響は体を動かしてカバンを隠そうとする。
「…もしかしてだけど、ツヴァイウイングのライブにいたのかい?」
ビクリと響の体がはねた。額から嫌な汗が垂れて呼吸が乱れる。また、悪意ある言葉を投げかけられるのではないか。そう身構えていたが続いたのは予想外の言葉だった。
「僕もあそこにいたんだ。」
「え?」
「だから、そんなに怯えないで。君を傷つけたりするつもりはないから」
座ったままの響に少年は屈み、黒猫を抱えていない方の手を差し出してくる。
その姿に響はライブ会場で自分を助けようとした少年の姿が重なった。
差し出された手を取り立ち上がる。
そして、自分の抱いた直感が正しいのかが知りたくて少年に問いかけた。
「私、立花響って言います。貴方の名前は?」
「ヒビ…キ?」
少年は固まってしまった。まるで信じられないものを見たかのように驚き、瞳孔が開かれていた。響が困惑する中、少年は目を閉じ深呼吸をする。そしてゆっくりと目を開くとまっすぐに響を見つめた。
「僕は深、
これが立花響と槙野深の2度目の出会いであった。
それから響と深の交流は始まった。交流と言っても放課後、少し遠回りをするようになった響が出会った河川敷で1時間にも満たない時間、話をするだけだった。
話す内容も休日に行ったパン屋さんがおいしかったとか、そういったたわいのない話だった。
「それでね、その時未来が言ってきたんだ。響はもっと落ち着いた方がいいと思うよって」
「響ちゃんと未来ちゃんは本当に仲がいいんだね」
「うん、私の自慢の親友だからね。深君はいないの?親友みたいな人」
「いたにはいたんだけどね。『私のアントワネットを見つけてきます!』なんて言って、小4でフランスに行ってそれっきりだよ」
「フランス!?はへぇ、すごいねぇ」
お互いのこと、嬉しかったこと、楽しかったこと、なんてことはないこと。そんな普通の会話を出来ることが響には嬉しかった。普通に接してくれることがとても気が楽だった。
そうして話をしていくうちに深のことを少しずつ知っていくことが出来た。
年齢は14歳、誕生日は2月15日、血液型はA型、身長は160㎝、体重は45㎏、趣味は散歩と人助け、好きなものはコーヒー、彼女いない歴は…年齢と同じ。
そして…あのライブ会場で母親とお腹の中にいた妹を亡くし、今は父親と二人暮らしをしていることも知った。
「…あの時、深君のお母さんと妹さんが亡くなったのは…私を助けたからだよね…」
それを知った時、響は申し訳なさでいっぱいになった。蔑まれて罵られても仕方がない。お前のせいだと言われると身構えた。それでも深にそう言われると想像するだけで響は身が凍るように恐ろしく感じた。
「君のせいなんかじゃないよ。だから響ちゃんが気に病むことじゃない」
しかし、返ってきたのは罵声でも、非難でもなかった。
「響ちゃんだって、巻き込まれて怖い思いをしたんだから。だから自分が悪いなんて考えなくていいんだ。」
「でも、私が早く逃げていれば深君達だって逃げられたかもしれない」
「あそこで正常な行動をとれた人の方がきっと少ない。」
心から響を案じる言葉だった。
「それにあの時響ちゃんは一人で逃げないで母さんに肩を貸してくれたでしょう?ありがとう、見捨てず手を貸してくれて。遅くなっちゃったけどお礼が言えてよかったよ。」
震える声で深は響にお礼を言った。
「むしろ、ごめんなさい。僕が不甲斐ないばっかりに、君も大怪我をさせてしまった。あの時、もっとうまくやれていれば。もしかしたら誰も傷つかずに済んだかもしれないのに。」
響が顔を上げると深は水面を見つめていた。水面にあの日を思い浮かべているようだった。
「そんな、それこそ深君のせいなんかじゃないよ。あの時も、この前だって私の手を引っ張ってくれたから、だから私は今生きているんだよ」
「…そっか、そういってくれるんだね」
深は上を見て瞳を強く閉じる。眉間にしわを寄せ溢れそうになるものを耐えているようだった。
響がどう返事をすればいいか迷っていると、深の懐がもぞもぞと動き中から黒猫が出てくる。ミィーと高い声で鳴くと深の膝の上に座りゴロゴロと喉を鳴らして丸くなる。
あの後、引き取り手が見つかるまでの間深が預かると言い、家に連れて帰っていた。二人で会うときはいつも連れてきてくれていた。
「…そういえば、まだこの子の名前決め手なかったね。」
「うん、名前を付けるとさ。引き取り手が見つかった時に離れがたくなるかなって思って。」
「でも、いつまでも名前がないままじゃかわいそうじゃないかな。」
深は子猫を持ち上げて顔の前に持ってくる。そのままじっと見つめあう。子猫がなんだよと抗議の目を向けてくるとまた膝の上に置いた。
「それじゃあさ、響ちゃんも名前を考えてあげて。」
「え?わたし?」
「うん、君も響ちゃんが名付け親だと嬉しいよな~」
ナゥっと、もうなんでもいいから決めてくれといっているかのような返事がきた。
「あれ?そうでもないのかい?」
猫のそっけなさに深が呆気にとられた。
その横で響はうんうんと唸り名前の候補を考える。
「ミケ…でも黒猫だし…。タマ…イクラ…ウニ…トロ…」
「ぷっ、響ちゃん。途中から寿司のネタになっているよ。」
思わずといった様子で深が吹き出し笑う。響は自分の顔が熱くなるのを感じた。
「だ、だっていきなり名前を決めてっていうから」
わたわたと慌てて響は弁解する。深はそれすらも面白いようで肩を震わせて忍び笑いを続けている。
「もう、深君!ひどいよ!」
「…ごめんごめん。あんまり必至だから、つい。」
呼吸を整えると深は響を見て謝罪する。この時初めて、響を
ドキリと心臓がはねた。
「でも、そうか。食べ物で考えるのはありだね。」
響が固まって深から目をそらせないでいる横で、深は一人納得した様子でうんうんと頷く。
「ねえ響ちゃん。この子の名前、モチなんてどう?」
「…えっ?モ、モチ?」
「うん、ほら、この子の頭、丸く白い毛が生えているでしょ?お餅みたいかなって思ったんだけど。」
響の目の前に猫を持ちあげ、見せてくる。確かに丸い白い毛並みはお餅のように見えた。
「うん。いいと思う…」
「だってさ、よかったなモチ~」
もう一度持ち上げられた猫、改めモチは脇の下に手を入れられぷらーんぷらーんと深によって揺らされる。
(…深君ってこんな風にも笑えるんだ。)
楽しそうにモチに話しかける深の横顔を見て響も心がほっこりとした。自然と笑みが浮かんだ。
そうしてそれから少し経った後、その日はそれぞれ帰ることになった。
家に戻り、夕食を食べ、入浴をし、寝る準備をして布団に入る。
そこでようやく響は自分が恋をしたのだと自覚した。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回でようやくオリ主の深君のフルネームを出すことが出来ました。
本編に入る前の響との出会いの話、本当は今回だけで終わるつもりだったのですが思ったよりも長くなってしまいました。
次の話で一端区切り、本編に合流すると思います。
どうかお付き合いいただけると幸いです。
感想、待っております。
というわけでばいばーい。