装者の男女恋愛が見たいッ!戦姫絶唱シンフォギア SLS 作:ふみー999
遅くなって申し訳ありません。言い訳になりますが、仕事とリアルの予定が立て込んで執筆に当てられる時間が少なかったのと、単純にデート描写を書くのが難しかったです。
いや、本当に難しかったです。甘い展開ってなに?何食べれば思いつくのだろうそんなことを考えながらひねり出したのが今回です。いつもよりも長くなってしまいましたがどうぞお付き合いください。
追記 ギアマニア当選いたしました!!8月10日フォニックゲインを高めて参加しますとも!今回は2次会のオールカラオケにも参加してやら!
集合場所でのトラブルがあったものの響たち5人は無事ショッピングモールへと訪れていた。休日ということもあり家族連れや友人同士など様々な人でモール内はごった返している。
「さて!まずはどこから攻め込んでいきましょうか!」
「討ち入りでもするのか?」
「テンション高いな~ヒビの字」
響は両手を広げ、後から着いてきている翼たちに振り返りながら、楽しそうに笑みを浮かべて尋ねた。上機嫌な様子の響に翼と流生は苦笑する。
「だってせっかくの翼さんたちとのお出かけですよ?楽しまなくちゃ損じゃないですか」
「まあまあ、響ちゃん。お店は逃げないから。色々見て回ろう」
深が響が楽しそうにしているのを見て朗らかに笑いかけた。
「つうか深。会うの久しぶりだな。謹慎中なにしてたの?」
「実験道具一式持ち出せなかったので、とりあえずCD調整の仮説立てとその計算をしていました」
「……お前、趣味とかないの?」
「私が言うのもなんだが、少しは休息を取ったほうがいいのではないか?」
流生と翼が深と会話をしている間に響と未来は少し離れたところで、内緒話をしていた。
「響、本当にやるつもり?」
「当たり前だよ、きっかけがしょうもないことだったとはいえ、深君とデートすることになったんだよ。この機会を無駄にしてなんかいられないッ!」
固く拳を握り締めた後響はカバンの中から雑誌の切り抜きを取り出してパラパラと目を通し始めた。切り抜きには『気になる彼の落とし方—実践編—』と書かれている。
「ダイジョーブ、私にはこの虎の巻があるからね。デートなんてへいきへっちゃら」
「声が上ずっているよ。まったく不安だな……」
がちがちに緊張した声音のまま響が自分の胸を叩いているのを未来は冷や汗を流した。
めくられたページには『レッスン1:相手の容姿を誉めろ』と生々しいことがポップなフォントで書かれていた。
「二人ともどうかしたの?」
響たちが背を向けて内緒話をしていることを気にした深が不思議そうに話してくる。響は突然の声掛けにビクリと肩を飛び上がりそうになるのを押さえて固まった。まさか先ほどの会話を聞かれたのでは。そう考えてしまった響は油の切れた機械のようなぎこちなさで振り返るとパクパクと口を動かしたが何も言えないでいた。
「ええっと、とりあえずどこに行きたいか考えていたんです。暑いしアイスとか食べたいかな~」
そんな響の様子を見かねた未来がはぐらかしてぎこちない笑みを浮かべる。
深は特に疑うことはなく納得した様子で微笑んだ。そしてちらりと自分の後ろにいる翼たちを見る。
「そっか、それなら早速行こうか。あの二人がそわそわしているから」
深の視線の先を未来が見るとポーカーフェイスをしようとしているが、遊び始めるのは今か今かとワクワクした様子を隠しきれていない流生と翼がいた。
未来は未だに硬直している響の脇腹を肘で小突き、アクションを起こせと促した。小突かれた響はハッと意識を正気を取り戻し、意を決して深に声をかけた。
「ソ、そうだネ!行こうか~あ!そうだところで深君今日は——」
「そういえば響ちゃん。今日はすごい可愛くおめかししているね。似合っていると思う」
「……オリガト」
相手を褒めようとしたところで予想外のカウンターを喰らった響はまた赤面して硬直してしまう。幸先に不安を覚え、こみかみを押さえる未来なのであった。
そうして始まったデート。響の懸命な奮闘が幕を上げた。
『レッスン2:間接キスで意識させろ』
暑いからと言った未来の言葉通り、最初に訪れたアイスクリーム屋の前、響は自分の手の中に収まっているバニラ味のソフトクリームを凝視していた。隣ではすでに購入したレモン味のソフトクリームをスプーンで食べている深がいる。
これおいしいから一口どうぞ、と言って食べてもらい、その後自分が食べることで間接キスを成立させる。恋愛心理戦における絶唱を今まさに響は繰り出そうとしていた。
「よ~し、やるぞ……し、深君これ——」
「ん、これおいしい。はい、おいしいものどうぞ」
意を決して声をかけようとしたところに深の方からすっと薄い黄色のアイスが乗ったスプーンが差し出された。
「あぁ、おいしいものどうも」
反射的に響はそれを口に入れて咀嚼する。口の中にレモンの清々しい酸味と甘さが広がった。
「う~んレモンの酸味がちょうどいい~ってハッ!」
十分にアイスの味を堪能してから自分がなにをやったのかを理解した。口にしたスプーンは先ほど深がすでに使っていたスプーンだったわけであり、つまりこれは恋愛心理戦の絶唱。
「響ちゃんってやっぱりおいしそうに食べるよね」
そんなことを気にせず、レモンよりも爽やかな笑みを浮かべて響が食べているところを深は眺めていた。
「ッ~~!!」
声にならない叫び声をあげた響の顔はアイス程度ではすぐに溶けそうなほど真っ赤になった。
一方その頃翼と流生はというと、アイスクリーム屋の前で二人そろって顎に指を置いてメニュー表を吟味していた。
「……ワサビ味?アイスと合うの?」
メニュー表の中に見慣れない味があるのを見かけた翼が興味津々にそれを見つめていた。しかし、実際どんな味なのか分からず注文するかどうか二の足を踏んでいると流生が隣から話しかける。
「とりあえず、抹茶選んでくださいよ」
流生にそう言われると翼は頷く。流生は抹茶とワサビ味のアイスを店員から受け取ると翼に抹茶味を渡した。
「お、意外とうまい。はいこれ」
ワサビ味を一口食べ、おいしいことを確認するとそのまま翼の顔の前に差し出した。
「確かにこれはありね。はいこれ抹茶」
「どうも~」
翼は差し出されたわさびアイスをそのまま一口食べると、自分が持っている抹茶アイスも一口食べ、差し出されたワサビアイスと交換する。二人は交換したアイスを普通に食べ始めた。
戦場が服屋に移り変わっても響の奮闘は続いていた。
『レッスン3:イメチェンした服で意識させろ』
アイスを食べ終えた後、響たちは服を見にアパレルショップを訪れていた。選んだ服を持って更衣室に飛び込んだ響は手に取った服を見て気合を入れた。
「よ、よぉしやるぞぉ」
手に取ったのは普段では選ばないようなタイプの服だった。具体的に言うと肩とヘソが出ているような丈の短いタイプのトップスと膝上までしかないジーンズだった。
鏡で自分の姿を見て変なところはないか確認する。正直肌を見せすぎて恥ずかしさもあるがこれも深に意識してもらうためだ。ええいままよッ!と意を決してカーテンを開けた。
「ど、どう、似合うかな!?」
ほぼ自棄っぱちに目の前にいる深に問いかける。恥ずかしさでもじもじしてしまい、声も上ずってしまったが仕方ないから許してほしい。
深は驚いたように目を丸くした。
「う~ん」
そして、何かを探すようにあたりを見渡して夏物のカーディガンを見つけるとそのまますっと響を包み込むように肩にかぶせた。
「こういうのと一緒に組み合わせた方がいいかも。響ちゃん可愛いんだから、あんまり肌を見せるのはよくないと思うよ?」
「ッ~~!!」
カーディガンを着せるために当然目の前まで接近し、ゼロ距離で微笑みながらかわいいと言われた響はまたしても顔を赤らめて小さくこくりとうなずくしかなかった。
一方翼と流生はというと。
「薄緑と桜色どちらがいいと思う?」
薄緑とピンクの夏用ブラウスを両手に持って翼が流生に問いかけていた。
「薄緑じゃないですかね?」
「即答ね」
「お嬢、確か去年買った夏用のプリーツスカート、合わせるのがないって悩んでたじゃないですか。あれと組み合わせられそうだなと」
「ああ、それいいわね」
持っている服との組み合わせまで考えて服選びをしていた。
飲み物を買ってくると言って流生と深がいなくなったのを見計らって響はその場で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「駄目だッ!ことごとく深君に先を越されるッ!!」
「大丈夫か立花?」
クワっと声をかけてきた翼の方を向いて響はまくし立てる。
「ドキドキとときめきで心臓のガングニールがはじけ飛びそうですッ!!」
気が付けば通路側にさりげなく立って人とぶつからないようにしてくれる優しさやら何気なくかわいいと言ってくるあの笑みに、魅了しようとしているこっちが逆にノックアウト寸前にされてしまっていた。
「あぁ、うん。とりあえずなんだか愉快なことになっているのは分かった」
響の剣幕に冷や汗を流しながら翼はこれ以上聞くのは長くなりそうだからやめようと思った。未来はなかなかうまくいかない親友のアプローチに指を額に当ててため息をつく。
「響がこんなに恋愛耐性がないのは予想外でした。まあ、深さんが手強いのもありますが……」
「槙野は恥ずかしげもなく相手を褒めるからな」
翼も未来の言いたいことが理解できるのか、うんうんと頷いている。そんな様子の翼に未来はどうしても聞きたいことがあった。
「そんなことよりも私気になることがあります」
「そんなことって未来酷いよ~」
「な、なんだ?」
そんなこと扱いを受けた響が文句を言うのをよそに未来はずいっと翼の方へと近づく。翼は、未来のその圧にたじろぎ、半歩後ろに下がった。
「翼さんと流生さん。なんだか距離近すぎません?」
響が悪戦苦闘している隣で、この人たちはというと無駄にいちゃついていた。具体的に言うと、ちらっと翼さんが見たUFOキャッチャーの景品を何も言わずに流生が取って渡していたり、翼の口元についたアイスをナフキンで流生が拭っていたり、さっきだって流生は翼にだけリクエストを聞かずに飲み物を買いに行っていた。翼に尋ねると言わなくても分かるからとのことだ。まさしく阿吽の呼吸とかツーカーの仲と呼べるものだった。
「そうだろうか?別に普段とそんなに変わらないと思うが」
「普段からあの距離感なんですか!?」
しかし、当の本人はきょとんと、さも普通のことだけれども何か問題があったのかというように首をかしげていた。未来は思わず驚きの声を上げてしまう。
「あぁ、そりゃ驚くよね。私も驚いた」
そんな未来のリアクションに響も同調してうんうんと頷いた。未来は神妙な面持ちで確信を突く質問をした。
「お二人って……その、交際していたりしますか?」
きょとんとしていた翼が慣れた様子で首を振り未来の質問に答えた。
「前にも立花に聞かれたが私たちはただの幼馴染。流生の好みのタイプはもっと……我の強い姉御肌な女性だ」
からかい合って喧嘩をして、それでも仲直りをしてまた笑い合う。そんな二人を一番近くで見てきたからそう言いきれる。
「それって奏さんのことですか?」
響は翼が濁して言った人物が誰なのかはっきりと口にする。
「……あぁ、そうだ」
少しだけ返事を言いよどんだのは流生への罪悪感からだと思う。私はそんな好きな人を見殺しにすることしかできなかった流生をあの時、責め立てたのだから……。
三人の間に少しだけ沈黙が流れる。未来は触れてはいけないことに触れてしまったと肩を落として謝罪した。
「すみません、余計なことを聞いてしまって……」
「いや、いいんだ。あまり気にしないでくれ。そういえば、二人の帰りが何だか遅いな?」
翼は話題を変えるべく未だに戻ってこない流生と深に意識を向けた。ジュースを購入するだけだからそんなに長い時間はかからないと思っていたのだが遅れているようだ。
「だったら私探してきます!未来たちはここにいて」
「あ、ちょっと響?」
突然、走り出した響に未来は声をかけて止めようとした。すると響はくるりと振り返りこぶしを握り締める。
「まだまだ私は負けないよ~次のプランで今度こそ意識させるんだッ!」
そう宣言して再び響は走り出していった。取り残された未来と翼が見ている中でその背中はあっという間に見えなくなっていった。
「立花は大丈夫なのか?」
「……ダメだと思います」
翼はあっけにとられたようにつぶやき、未来は今日何度目かもう分からないが再びこみかみを押さえるのだった。
「告白とかしないんですか?」
「なんだよ、藪から棒に」
ガコンッと自動販売機から出てきたジュースを取り出しながら流生は深の声掛けに答えた。自販機で飲み物を買うだけだったのだが、ふと梅よ〇しが飲みたくなりダ〇ドーの自動販売機を探していたら少し遅くなってしまった。意外と探すと見当たらないんだよなダイ〇ー。
「いや、今日一日、見ていてなんで付き合ってないんだろうと思ったので」
翼が「んっ」と言えば即座にカバンから袋を取り出しゴミを受け取り、流生が「そういえば」と言えば翼が家のシャンプーの残量が少なかったことを思い出す。そんなやり取りをかれこれ十数回は見た。付き合っているというよりも、もはや熟年夫婦の域に達しているように端からは見えるが実際は付き合ってすらいないのである。
「告白ねぇ……」
付き合わないのかという疑問はこっちの台詞だと喉元まで出かかったが流生は言わず、めんどくさそうに頭を掻いた。
「防人の務めを果たそうとしているお嬢が色恋沙汰なんてしようと思えると思うか?それに———」
そして少し言葉を溜めて、飲み込んだのとは別の本音をこぼすのだった。
「それに、今は忘れているだけでお嬢には恋より煌めくもんがあんだよ。俺は隣でそれを見ているだけでいい。それでいいんだ」
奏を失ってからの二年間、鋭すぎる刃のように身も心も構えて生きていたから翼はその煌めくものを忘れてしまっている。響たちのおかげで少しずつ奏がいた頃に戻ってきていた。だからきっともうすぐ思い出すだろうと流生は感じていた。見失わせた自分にそんな資格があるのかとも思うがこれだけは譲れない。幸福に笑い、夢を描いて羽ばたく。寂しがり屋で甘えん坊、泣き虫な彼女がそんな姿を見せてくれるというのならそれだけでいい。それ以上を求めるのは贅沢というものだ。俺だけにその笑顔を向けてほしいなんてそれこそ愚の骨頂だ。心の中でそう自己完結し、流生は再び自販機から出てきた缶ジュースを取り出した。
「それじゃあ翼さんが他の男とデートしていてもい——」
「おっと~せっかく買った缶ジュースを握りつぶしてしまった~」
自己完結したのだが、思わず力が入ってしまったようだ。手に取った缶ジュースがぺしゃんこになってしまった。まったく、深が変なことを言うからこんなことになるのだ。
「こりゃ手を洗わなきゃだな。おら深、お嬢たちを待たせているんだ。先行っててくれ」
それだけ言ってジュースを押し付けると濡れた手をひらひらさせながら洗面所へと流生は向かっていった。
「えぇ……」
深はその後ろ姿を戸惑いながら見送るしかなかった。
迷った。ジュースを買いに行った二人を探してモール内を勢いで走ってきたがさてここはどこだろうか。響はう~んと頭をひねって考えた。
「ど~こいったんだろう二人とも?って、これじゃあ私が迷子だよ!?」
意気揚々と飛び出したはいいが人込みに紛れてしまい人の流れに流されて気づけば雑貨屋が立ち並ぶブースに流れ着いてしまった。まずいこのままでは未来たちには呆れられるし、深君達にも心配をかけてしまう。
「とりあえず、館内マップを見て……マップどこ?」
解決策を見出したと思いきや、それもできそうになく、腕組みをしてう~んと唸った。
「う~ん……駄目だ、全然思いつかないッ」
がっくしと肩を落として落ち込む。今日は何をやっても空回りばかりしてしまっている。流石に少し凹んでしまった。
「私、やっぱり呪われてるかも……ん?」
ふと低くなった視線の先にきらりと光るものがあった。なんだろうと近づいてみるとそれはショーケースに飾られたブレスレットだった。
「あ……深君に似合いそう」
一目惚れだった。上品な宵闇色の金属の下地にぐるりと輪を書いて走る乳白色で縁取られた黒猫と月の意匠が施されていた。その猫がどことなくモチに似ている。一目見て彼がつけているところを想像した。困ったような優しい笑顔をして腕につけたブレスレットを見つめる姿はよく映えるだろうなと思った。そんなことをふと想像してしまうとはまったく恋の病理とは恐ろしい。
じーっと見ていると店の店員が朗らかに話しかけてきた。
「嬢ちゃん、お目が高いね!そいつはツングースカ級の爆発でも耐えるほど頑丈に作られているから一度買えば一生使えるしろもんだよ!」
「わ~、アクセサリーでなかなか聞かないおすすめのされ方されました」
店員のずれたおすすめに面食らったが意匠は確かにセンスのいい代物だった。壊れにくいと言うのならプレゼントにしてもいいかもしれない。そう思ってちらりと値段を見る。
「えっと百、千、万……」
ちらりと店員を見るととてもいい笑顔で親指を立てていた。とても、響のお小遣いでは買えない金額だった。再び響はがっくしと頭と肩を落とすしかなかった。
「これください」
すると横からすっと綺麗な手が伸びてきて、響が眺めていたブレスレットを指差してきた。響が顔をあげるとそこにはよく見知った、探し人の顔があった。
「——し、深君?どうして……」
「未来ちゃんから話を聞いて、無事でよかった」
急に現れたことに目を丸くして響が驚いていると、深は微笑みながらここに来たわけを説明した。どうやら一度集合場所に戻り、私が探しに行ったことを聞き、探してくれたようだ。
「ごめんね、深君。迷惑かけちゃったね」
「ううん、僕たちが遅れたのが悪いから気にしないで」
結局迷惑をかけてしまったことに響が肩を落として落ち込むと、深は手を振ってフォローを入れる。しょんぼりとしながらも響が顔を上げるのを見て一安心すると、深は懐かしむように、申し訳なさそうに目を細めた。
「なんだか……前にもこんなこと、あったよね」
「……そうだね」
響も苦笑しながら答えた。何時の事を言っているのか、言わなくても分かった。お父さんがいなくなったあの夜。泣いている私を貴方は真っ先に見つけてくれた。そして泣きじゃくる私を慰めて、抱きしめ、そして背負いながら言ってくれた言葉があった。
「私を想う人、あれからたくさんできたんだ」
お母さんやお祖母ちゃん、未来はもちろん、翼さんや流生さん、司令に了子さん、緒川さん、あおいさん、朔也さん、創世ちゃんに詩織ちゃん、弓美ちゃん。他にもたくさんの人が、私のことを案じて、想ってくれていることが今は分かる。そしてそのことが嬉しかった。
「深君の言う通り、幸福がやってきたなって思う」
屈託なく笑みを浮かべると、つられて深君も微笑んでくれた。その笑みが本当に心から嬉しそうなものに見えたのは私の願望だろうか?
「そうみたいだね、今の響ちゃん、花のようないい笑顔をしている」
「そうかな、なんだかそう言われると照れるな——それに……その……」
頬を掻き、照れ笑いをした後、上目遣いに深を見つめた。言葉が詰まったがつまり、言いたいことはその、想ってくれる人は他にもいるわけで、それが自惚れでないことを確認したかった。
「うん、もちろん。僕も君を大切に想っているさ」
そんな私のわがままも察して、貴方は欲しい言葉をくれる。
「……言わせたみたいになっちゃったね」
「ううん、本心だよ」
「……そっか」
心臓が痛いくらいに響き、頬もまた赤くなった。会話は一度そこで途切れ、深は店員とやり取りを始めた。そんな彼の背を見ているとくすぐったい心地よさを感じて妙に居心地がよかった。
—貴方が好きです—そう、口走ってしまいたくなるくらいに。
「響ちゃん、左手を借りるね?」
けれども、響が口を開く前に深は振り返るとその心地の良い手で響の手を取り、手首に何かを付けた。
何だろうと響が見るとそれは先ほどまで見ていた黒猫の腕輪だった。
「その幸運が続いてほしいから僕からのお守り。知っている?黒猫って本当は縁起がいいんだよ」
「え、でも……」
教え子に教え諭すように人差し指を立てて深は話していた。一方、腕輪の値段を知っている響は焦ってしまった。
そんな響に気が付いた深は微笑むと心配しなくていいと首を小さく横にふるう。
「お金のことは気にしないでいいよ。司令にもたまにはお金を使えってお小言を言われているくらいだから。僕からのプレゼント。まあその、今日の記念にってことで」
深は弦十郎からの小言を思い出し、ばつの悪そうな顔をする。どうやらそれは嘘ではないようだった。
「あ、あのね!」
けれども響にはこのブレスレットを受け取れない理由があった。値段もあるがそれ以上に、ある意味わがままな理由だ。
「実はこれ、深君に似合うかなって思って見てたんだ……できればその……受け取ってください」
そう言ってブレスレットを外すと、響は両手でそれを持って表彰状を受け取るときのように頭を下げ深の前に差し出した。
「これを、僕に?」
頭を下げたままだから響には見えなかったが深が面食らっているのが雰囲気から伝わってくる。けれども、すぐに彼が笑みを浮かべた時の息遣いが聞こえてきた。
「……分かった。ありがたく受け取るね」
響が顔を上げると差し出したブレスレットを深が優しく包むように受け取り、そのまま自分の手首につけた。
「似合うかな?」
そう言って、困ったような優しい笑みを浮かべブレスレットを見た後、響に見せるように差し出して問いかけてくる。その姿は響が想像した通りだった。
「うん!すっごく格好いいと思う!」
「そ、そうかな……ありがとう」
思った通りの姿に響はやや興奮気味に深に近づき、ブレスレットをよく見た後、そのまま見上げるように深に向かって微笑んだ。
「……みんなを待たせても行けないしそろそろ行こうか」
「?うん、そうだね!」
そう言うと深は先に歩き出した。彼には珍しい行動に響は首をかしげたがあまり気にせずその後を追いかける。追いかける背中越しに見える深の耳が、少しだけ赤くなっているように見えた気がした。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回は、なるべく早く投稿できるように頑張りたいと思っているのですが……。あの~アズールレーンの8周年オフ会の幹事をしておりまして、その準備で忙しくなるので頑張りますがまた遅くなるかもです。
楽しみにしてくださっている方々には申し訳ないのですが、しばし、ご辛抱のほどをお願いしたくございます。
よろしくお願いいたします。
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