装者の男女恋愛が見たいッ!戦姫絶唱シンフォギア SLS 作:ふみー999
みなさん、ご無沙汰しております。お待たせしてしまい申し訳ございません。
前回を投稿した直後から38℃の熱が出て執筆どころではなく、治る間もなくアズールレーンの8周年イベントに参加し、そこから連勤による連勤で本当に執筆する時間がなくここまで時間がかかってしまいました。
私がぼんやりしている間に、シンフォナーレは大盛況に終わり、絶ステも開催されていました。ナーレで恋の桶狭間と教室モノクロームが生歌で歌われたと聞き、微笑みながら血の涙を零した私でございました。
そして、絶ステの方でしたが、なんとこの『戦姫絶唱シンフォギアSLS』合同SS誌『70億分の一唱』に第8話まで参加させていただきました!書き下ろしとか入れればいいのにそんな暇もなくそのまま本編の掲載になってしまいましたが、参加させていただいたヨリヒト様、誘ってくださったNack様にはこの場を借りて改めて御礼申し上げます。
さてさて、話を物語に戻しましょう。前回何かに気づいてしまった深。一体どうなるのか。どうかお付き合いくださいませ!
「深君、大丈夫かな……」
翼のライブから寮へと戻ってきた響はソファーに腰掛けぬいぐるみを抱きしめていた。窓の外には綺麗な満月とそれを隠すように漂う叢雲が見えた。それを見ながら響は一緒に帰ってきた未来にぼやくように尋ねた。
「どうしても行かなきゃいけないところって言っていたけどなんだったんだろうね?」
洗濯物を取り込んで来た未来が返答すると響は別れた時の深の様子を思い出す。何かに気が付いた様子で険しい表情をしていた。けれども、私たちが心配するとすぐにいつもの優しい、けれどもどこか困っているような笑顔を浮かべて大丈夫だと言いそのまま行ってしまったのだ。
「すぐに終わる用事だって言っていたけど、やっぱりノイズに関することなのかな?」
「う~ん、どうだろう。そこらへんきちんと聞けなかったからなぁ~明日深君に会ったら聞いてみようかな……」
頭を捻って響は深が何をしようとしているのか考えてみたが、特にこれだということが思い浮かばなかった。
「それならいっそ、今日急に帰った埋め合わせにデートもしてほしいって誘ったら?」
「デッ!?い、いやいや未来、それはいくらなんでも急すぎないかな!?」
洗濯物を畳みながら何の気なしに未来が言ってくるのを聞いて響はポッと頬を赤らめて抗議する。どうして今の流れでそんなことをお願いする流れになるのか。
「だって、響。正直に言うけどもっと積極的にアプローチしないと脈ないよ?この間、出掛けた時の様子だと響だけが舞い上がっていて深さんずっと平常心だったし……」
「で、でも私だってかわいいって言われたり、き……綺麗になったって言われたりしているんだよ?ちょっとくらいは意識されているんじゃ……」
「……それじゃあ聞くけど、響は例えば流生さんと深さんどっちにかっこいいとか褒める言葉を言いやすい?」
「うぐっ、それは……」
響の反論に未来は淡々と反論を返す。そしてその質問の意図が響にも分かってしまった。男性として意識している深への方がそういった賞賛を伝えるのは難しいことを響も実感として理解していたからだった。
「簡単に容姿を褒めてくるってことはそれに恥ずかしさを感じていないということだよ。つまり、深さんは響に女性としての魅力を」
「うわあああ待って未来!!それ以上言わないで!!私の心が取り返しのつかないほどにボロボロにされちゃうからぁ!!」
意中の相手から女としての魅力が無いと思われているなど認識してしまって立ち上がれる乙女がこの世界にどれほどいるのだろうか。響は聞きたくないというように持っていたクッションを頭からかぶりソファーに丸まる。
「だからこそ、デートに誘って意識してもらえるようにしなきゃだって言って……あれ?」
そんな様子の響を見ながら未来はため息交じりに声をかけ続けたが、何かに気が付いたように言葉を止めた。響も何事かと頭を出すと窓の外でざあざあと突然激しい雨が降り始めていた。
「予報では今日一日晴れだったのに?洗濯物取り込むのが間に合ってよかった」
「……」
未来が安堵の声を上げているのを聞きながら、もう一度響は空を見上げる。先ほどまで見えていた月は、突然雨を降らせ始めた雨雲に隠されて見えなくなってしまっていた。
「深君……」
ぬいぐるみを抱きしめる腕に力が入る。突然降り始めた雨に響はなんだかとても嫌な予感がするのだった。
響たちに無理を言って先に帰った後、深は一人で二課本部へと訪れていた。
まだ謹慎が解かれていない身のため見つかれば、減給か謹慎延期となるかもしれない。それでも深はあることを確かめずにはいられず二課へと足を向けた。一人、二課へと続くエレベーターに乗り込む。自分の通信機を機械に押し当てるといつもよりもエレベーターの駆動音がうるさく聞こえる。そして落下するエレベーターシャフトも、いつもよりも長く感じられた。
「……」
やがてエレベーターは地上空間を抜けて、極彩色の壁画がある空間へと進んでいく。相変わらず響いてくるのは駆動音だけ。深は身じろぎ一つせず壁面のレリーフが映るエレベーターの窓を見つめていた。ガラスに光の反射で一定のリズムで自分の姿が映りこむ。最初は今の自分の姿が映っているだけだったが、次第にそこに映り込むものが変わっていった。
ガラスに映り込んだのは今よりも少しだけ幼い自分。初めてこの二課に訪れた時の警戒と不安を押し隠していた僕とそして、その傍らにいる先生だった。
—ほら、リラックスなさいな。そんなガチガチのままじゃこれからやっていけないわよ?—
先生は冷たいジュースを僕の頬に当てた。いたずらに成功したことを喜ぶ子供のような人懐っこい笑みを浮かべて僕の頭をくしゃくしゃと撫でて、持っていたジュースを渡してくれた。
エレベーターが止まり、扉が開く。深夜で節電のために薄暗くなった廊下がまっすぐに伸びている。深はエレベーターを降りるとそのまま自分の研究室に向けて歩き始めた。深が通り過ぎた闇の中にまた過去が幻のように浮かぶ。
—うん~ちょっ~と爪が甘いけど合格。初めてでここまでよく仕上げたわね深—
二課で学び始めて2か月たった頃、先生から出された課題を初めて一人で終わらせた。その成果を見せて、頭を撫でて褒めてくれたのがこの廊下だった。思えば先生と呼び始めたのはこの頃だったな。
廊下を進んでいくと休憩スペースが見えてきた。ここを曲がれば自分の研究室だった。パチンッと頬を叩く音が深には聞こえた気がした。
—自分が何をしたのか分かっているの?少しは自分の身も大事になさい!—
実験の功を焦って自分の命を危険に晒した後、ここで頬を先生に叩かれて叱られた。普段温厚な先生がものすごい剣幕で声を張り上げていたから少し怖かった。でも、心の底から僕のことを案じてくれているのだということは伝わってきてどこか嬉しかった。
角を曲がり自分の研究室へとやってきた。数日間訪れていなかったが特に代わり映えのしない部屋を眺める。中央に置かれた自分のワークチェアをしばらくぼんやりと見つめていた。
—まったく、こんなところで眠ったら風邪をひくわよ—
実験に疲れて椅子でそのまま眠ってしまった夜。先生はそう言って毛布を被せてくれた。本当はその時に起きてしまったけれど、気恥ずかしさと嬉しさがあって僕は寝たふりを続けていた。そんな狸寝入りに気づいたのかいなかったのか。先生はそっと髪を撫でて立ち去って行った。
あの人は、いつも僕の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
不安を感じたら支えてくれて、頑張ったら褒めてくれて、悪いことをしたら叱ってくれて、僕の身を案じてくれた。響ちゃんに言われたように先生のことを僕は失った母さんのように慕っているのだ。だから——
「信じていたい……」
端末のロックを解除して目的のデータを閲覧する。調べていたのは深自身が作った発信機の出す電波の履歴だった。翼が絶唱を放った戦闘で雪音クリスに付着させ、ライブ会場に戻ってくる響ちゃんに渡していたこの発信機は、特殊な金属加工をしている弾丸の中にナノマシンが入っている時はこちらが指示を出さなければ微弱な電波しか発さない。しかし、弾丸から取り出した瞬間から発信機としての電波を出し続ける。そして、その電波のログは全てこの深のパソコンへと送信されることになっていた。深がこれを利用したのはここ数か月でクリスと響の二人だけだ。
閲覧する期間を定めてデータの照合を開始する。確認するのはあのデュランダル移送の日、天下の往来独り占め作戦を決行した日だった。
「……外れていてくれよ」
自分の仮説が間違っていてくれという祈りを込めてつぶやき、エンターキーを押す。するとデータの照合が始まった。結果が出るまでの数分が嫌に長く感じる。
「……ッ」
深は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して不安を押し込むように一気に飲み干した。そして、自分の首筋に触れる。広木防衛大臣が殺害され、焦って飛び出したあの夜にあの人に撫でられた箇所に触れたのだ。
そして、結果が出た。
結果を言えばその日のログは何もなかった。いや、何も無さ過ぎた。本来あるはずの非アクティブ状態のものも含めて不自然なまでにログが消された形跡があった。
深はすぐにコンソールを操作し、データを復旧させる。巧妙にデータは消去されていたが4割ほどの回収に成功する。
「ッ……くそ……」
その結果を見て深は歯をギリッと食いしばり吐き捨てるようにつぶやいた。復旧したデータはあの日、深と流生が逃げたコースを、深が動いたルートを指し示していたのだ。
この結果から分かることはシンプルだった。あの日、深は自分の作った発信機によって追尾されていたのだ。そのデータを見て雪音クリスが追跡してきていたというのならば流生しか知らない廃坑のルートにも対応できたことにも納得がいった。
発信機は二課にある深のこの研究室で厳重に管理していた。それを自由に持ち出し、そして深に付着させ、事が終わった後にこのPCのプロテクトを破りデータを消去することが出来た人物こそが、二課にいる内通者であることは間違いない。
そしてそれが可能な人物を深は一人しか思い浮かばなかった。
そこまで考えて、深の後ろで自動ドアが開閉する音が聞こえてきた。誰が来たのか深は振り返らなくとも分かった。
懐からハンドガンを取り出して振り向きながら構える。銃口の先には普段の人懐っこい笑顔からかけ離れた無表情の櫻井了子が立っていた。
「……データを改ざんしたのは先生ですか?」
深の問いかけに了子は何も答えない。銃口を向けられているというのに一切の焦りもなくまっすぐに深を見つめていた。
「……答えてくれよ!!」
声を荒げて深は詰問を続ける。溢れてくる自分の感情を深はもはや制御できなくなっていた。
「二課をずっと裏切っていたんですか?雪音クリスに指示を出してデュランダルを強奪しようとしたのも、2年前のライブ襲撃も、全て貴方が引き起こした?僕の家族を……母さんを、ヒビキを殺したのも貴方だって言うんですか?」
ハンドガンを握る手に力が籠り銃と手がカタカタと震える。それでも照準は了子を捉えている。
「撃ちたいなら撃ちなさい。貴方には、その資格があるわ」
激情に駆られた深の疑問に了子はただ一言、淡々とそう言い放った。それが答えだった。
冷水を頭からぶっかけられたような衝撃が体中を駆け巡った。銃爪にかけた指に力が籠る。後数ミリ動かせば弾丸が発射される。この距離で外すことはまずない。撃てば確実に放たれた弾丸が眉間を捉え先生の命を奪うだろう。
撃て、と自分の本能が叫んでいるのが深には分かった。
撃て、仕留めろ。今目の前にいるのは紛れもない敵だ。この一年間追い続けてきた父と母と妹の仇だ。そう頭の中の黒い衝動が吠える。
撃て、今撃たなければ一人だけ生き延びてしまった贖罪を果せない。
撃て、今撃たなければ助けられなかった家族に報いることが出来ない。
撃て、今撃たなければお前は一体何のためにこの一年間を過ごしてきた。
響ちゃんの前から姿を消して傷つけてまで果たしたかったことが今できるのだ。
仇を討つために、知恵を身に着けてきたのだろう?
仇を討つために、今日まで生きてきたのだろう?
だから撃て、伐て、討て!
痺れる脳が悲鳴を上げている。けれども———
―その知恵を、今日までの命を、与えてくれたのは誰だった?―
心は静かにそうつぶやいた。
「なんで……」
深の胸の内には次第にさきほどまでとは違う別の感情がこみ上げてくる。それは頬を伝って零れ落ちた。
「最初から裏切っていたのなら、どうして僕に優しくしてくれたんですか?知識を、技術をくれたのは何のために?」
一度あふれ出した涙は留まることを知らず視界をぼやけさせる。
憎むべき相手なのに憎みきれなかった。それは今まで受けてきた言葉が、行動が、優しさに満ちていたことを知っていたから。
素人意見しかない論文の改善案を真剣に教えてくれた。
眠った僕に掛けてくれた毛布の暖かさを覚えている。
危険なことをした僕を本気で案じて怒ってくれた。
「なんで……」
そしてなにより——
「なんで、僕のことを拾ってくれたんですか……」
頭を撫でてくれた、あの手のぬくもりを忘れることはできなかった。
深はもう銃を構えることすらできず、だらりと腕を下ろしてその場に崩れ落ちてしまった。
「……ッ」
視界がぼやけて、平衡感覚を失ったかのようにグルグルと回り始めた。手足も痺れ始め、力が入らなくなっていった。
「これ……は……?」
恩師に裏切られた絶望や悲しみによるものだけではない。明らかに自身の体に生じている不調に深が驚いているとふと、視界の端に先ほど自分が飲み干したペットボトルが転がっていた。
「ま……か‥‥毒……?」
うまく呂律が回らなくなった口を押えて深は飲んだ水を吐き出そうとする。しかし、飲み干してから数分以上経っては意味がなく次第に全身の感覚が無くなり、痙攣しながら床に倒れ伏してしまった。
「安心しなさい。それはただの筋弛緩剤。それで死ぬことはないわ」
そんな深を見下ろしながら了子はようやく口を開いた。その口調はどこまでも淡々としていて、感情を押し殺しているような声音だった。
「今、この場所で貴方を殺して痕跡を残して尻尾を見せるような真似はしたくないの」
了子は倒れこんでいる深の体を抱きかかえて持ち上げた。その手つきは眠る子供を寝室に運ぶ母のように優しいものだった。
「貴方は本当に優秀だったわ。私の提唱する理論をこれほど短期間で理解して応用できる人間なんて後にも先にも貴方以外いないでしょうね」
声すら発せない深に了子は語り続ける。
「けれども、貴方ほど愚かな人間も他にはいないでしょうね。家族の仇をとりたいと言いながらその仇を慕って、一番近くにいたにもかかわらず、私の正体にも手口にも気づくことが出来ず。……いえ、気づこうとしなかった。その結果、こうして最期を迎える。なんとも滑稽で無意味な人生」
了子は深を抱きかかえたまま誰もいない廊下を歩いていく。言葉では嘲笑っているのに、その声音はどこまでも無感情なものだった。
「貴方の愚かさには感謝しているわ。おかげで疑いの目をそらすことが出来た。カディンギル完成までの十分な時間稼ぎが出来たわ」
計画がうまくいっていると語る声にも喜びは乗っていない。まるで意図的に自分の気持ちを押し隠しているかのようだった。
「おかげで私の悲願が叶う。5千年の悲願についに手が届く。その点では貴方の死は無駄ではないかしらね」
自分に言い聞かせるように言葉を紡いていたが、やがて了子はエレベーターホールの前までやってきていた。深を一度壁に寄りかからせて、エレベーター横の端末を操作すると危険を知らせるような普段よりも高い音程の電子音が響き、エレベーターが来てもいないにも関わらず扉が開かれた。
了子はもう一度深を抱きかかえるとそのまま扉の前まで歩み寄る。その目の前にはエレベーターシャフトが、果てが見えないほど深く深く地下へと延びている。
「ど……して……」
了子と深の視線が交わる。深はその顔を見て目を見開くと、力を振り絞りかすれた声を出した。動かない手をそれでも了子の顔へと伸ばそうとする。
「……さようなら、深」
けれども、その問いかけも、その手も了子には届かなかった。了子は深の体から手を離す。そして深の体は扉の向こうへと投げ捨てられた。
重力のままに深の体は下へと向けて落ちていく。それでも深はどんどん遠くなっていく了子の顔を見続けていた。
言葉にできなかったその問いを深は了子が見えなくなるまで目で訴え続けた。
やがて了子の姿も見えなくなる。頭から落ちていると力の抜けた自分の腕が見えた。そして、その右手に着けている腕輪が一瞬輝く。響からもらった猫の意匠が掘られたあの腕輪だった。
(どこにも行かないって言ったのに……。ごめんね、響ちゃん。また約束を破ってしまった)
声すら発せない謝罪をして深の意識は暗闇に塗り潰される。そうして深は奈落の底へと消えていった。
「……」
深がエレベーターシャフトの底へと落ちていくのを了子は何も言わずに見続けていた。すぐにでも深が飲んだペットボトルなど証拠を隠滅する必要があるのだが、姿が見えなくなってからも動く気にはなれずしばらく立ち尽くしていた。しかし、背後の廊下に何かが動く気配を感じた。誰かに見られたかと焦り了子は急いで振り返る。
「……あなたは」
そこにいたのは人ではなかった。廊下の隅に黒い影が主と同じ月に似た黄色い目で了子のことをじっと見つめていた。
「……飼い主と同じところへ行きたくないなら、とっとと消えなさい」
了子はそんなモチを冷たくあしらうように言い放つ。しかし、モチは逆に了子へと近づいて行った。
「あなた……何をッ!?」
モチは了子の肩に飛び乗ると頬を微かに伝う涙を拭うように舐めた。そうすることを願った誰かの代わりを務めるように。
そして、了子が驚いている間に飛び降りるとそのまま廊下を歩いていった。
了子は何も言わずにその姿を見送るのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
……いや~書いててしんどかったですね……
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