装者の男女恋愛が見たいッ!戦姫絶唱シンフォギア SLS   作:ふみー999

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どうもふみー999です。
新年、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
いやはや、師走とは言ったもので全然執筆時間が確保できず、年内での投稿ができませんでしたッ!!悔しい非常に悔しい。
本当なら昨年の内に一期完結しているつもりだったというのにまだかかるようです……。まあ、うだうだ言っていても進まないので今年も頑張って執筆していこうと思います。気長にお付き合いいただければと思います!
それでは本編を付き合いください。今回は切りのいいところが見当たらずちょっと長めになっております!


第43話 bouche:パンドラの旋律

カディンギルの第一射が放たれた後の旧深淵(アビス)は、発射の余剰エネルギーが電流となり、パリチ、パチリとスパークした音と、次弾発射に備えたデュランダルが発する鈍い駆動音に支配されていた。

 その絶望の音による支配に反逆するようにガシャンと大きな音を立てて通気口のカバーが外れ地面に落ちた。そして、通気口の中から一人の人影が姿を現す。

「……端末のセキュリティロックが甘い。これなら……」

 起動状態のデュランダルを見つめた後、その人影はデュランダルの下にあるコントロールパネルへと近づき、操作を始めるのだった。

 

 

 

 

「そんな……せっかく仲良くなれたのに……こんなの嫌だよ……嘘だよ……」

カディンギルの一撃から月を守るために絶唱を放ち、地へと墜落したクリスの生存は絶望的だった。

「もっとたくさん話したかった……話さなかったら喧嘩することも、今より仲良くなることもできないんだよ!」

こみ上げてくる嗚咽に耐え切れなくなった響は膝から崩れ落ちる。悔しさに土を握りしめ頬から涙がこぼれていく。心臓が嘆きにどくりと跳ねた。

「クリスちゃん、夢があるって……でも、私クリスちゃんの夢聞けてないままだよ……」

「自分を殺して月への直撃を阻止したか……ハッ無駄なことを、見た夢も叶えられないとはとんだ愚図だな」

 フィーネはつまらないものを見たと鼻で笑う。そんな姿に響の中で獣がうなり声を上げ始めた。

「笑ったか。命を燃やして大切なものを守り抜くことを。お前は無駄とせせら笑ったか!」

怒気と殺気を込めた目と刃を翼はフィーネへと向ける。脳裏には2年前の奏の姿が、そして今ボロボロになって倒れ伏す流生の姿が浮かんでいた。それでもフィーネは薄ら笑いをやめなかった。

「笑うとも、つまらぬことで散らしてしまう安い命など!雪音クリスも、天羽奏も、そして槙野深もな」

「ッ!?」

あげられた名前を聞いて、響は息を飲み、目を見開きゆっくりと顔を上げてフィーネを見つめた。

「どういう……こと……」

かすれる声をこぼした響へとフィーネは何かを投げ捨てた。軽い音をたてて響の前に転がってきたのは一丁のボロボロの拳銃だった。それに響は見覚えがあった。深が使っていたものだ。

「お前の想い人も、もうすでに死んでいる。私の正体に気づき、一人で確かめに来てそのままカディンギルの奈落へと墜ちていった」

 せせら笑いは続く。わざとらしいまでの憎たらしい口調でまくしたてていたが響には徐々にその声が聞こえなくなっていった。土に汚れた拳銃を震える手で拾う。冷たい金属の感触が嫌にはっきりと伝わってきた。

「……」 

 ライブの後、別れる間際の深の姿を思い出す。あの時何かに気づいて深君は険しい表情をしていた。きっとあの時に了子さんがフィーネだと気づいたんだ。だから一人で確かめに行った?

「あれだけ吠えた復讐すらろくにできずに」

 心臓が早鐘を打つ。目の焦点が定まらない。餓えた獣のように荒くなった呼吸が犬歯をむき出す口からこぼれた。

「……」

 了子さんはフィーネじゃないって信じて、信じたくて、了子さんが疑いをかけられないように一人で行ったの?誰にも、私にも相談しないで、できないで、一人で抱え込んで。

「今頃はカディンギルに焼かれて骸すら残ってはいないだろう」

一人で苦しんだっていうの?家族を亡くして、信じたかった人に裏切られて、自分の命すら奪われて……。

「……」

 

死んだっていうの?

 

「……それが」

 

嘘だよ……

 

「それが……」

 

もうどこにも行かないって約束してくれたんだよ?

 

「それが、夢ごと命を、大切な物の全てを、握りつぶしたやつの言うことかあああああ!!!」

黒い感情が悲鳴となって響の身体を包みこむ。もはや響に自分の気持ちを制御することはできなかった。

 

 

許せない

 

 

「うuUああ゛あ゛あAaあaaあ゛あああ゛ああAあああaああaああAああ!!!!」

 

 

憎い

 

 

目の前にいるこいつが、許せなくて、憎い。

慟哭に吠え、血の涙を流し続ける黒い獣がそこにはいた。

「立花!?おい!立花!」

 突然姿を変えた響に翼は動揺を隠せなかった。全身を黒い何かに塗り固められたその姿が本当に自分の知る立花響なのかと考えずにはいられない。

 しかし、フィーネはそんな響の姿に目を細めるだけだった。まるで、この反応が起きることをあらかじめ察していたかのように。

「……融合したガングニールの欠片が暴走しているのだ。制御できない力にやがて意識は塗り固められていく」

 哀れなものを見るような目をするフィーネ、翼はかつて櫻井了子が立花の胸のガングニールが体組織と融合していっていると話をしていたことを思い出した。

「まさかお前、立花を使って実験をッ!?」

目を閉じて、一拍おいた後フィーネは再び黒い笑みを浮かべて両手を広げた。

「実験を行っていたのは立花だけではない。見てみたいとは思わんか?ガングニールに翻弄されて人としての機能を損なわれていく様を」

「お前はそのつもりで!立花を!奏を!!」

 その時、我慢の限界だと言わんばかりに黒い獣が地を踏みしめてフィーネへと飛び掛かった。

「うぅぅGuaaあaあaaあああああaaaaa!」

「立花ッ!」

 飛び掛かってくる響の一撃をフィーネは動くことなく鞭を使って防ぐ。次いで二撃目を振りかぶった響を鞭でいなして退かせる。

 吹き飛ばされた響は地へと叩きつけられるが即座に態勢を立て直し再びフィーネへと飛び掛かった。

「もはや人に非ず。今や人の形をした破壊衝動……」

 

ASGARD

 

 飛び込んでくる響にフィーネは鞭を織り束ねて作った防御壁を展開して迎え撃つ。

「うぅuGuがああああ!!!」

 しかし、その障壁を響は拳一つでぶち破り、フィーネの体を真っ二つに引き裂いて見せた。

「もうよせ立花ッ!これ以上は聖遺物との融合を促進させるばかりだ!」

 あまりにも普段の響とはかけ離れた暴走状態に悲痛な声を出して翼が止めようとする。しかし、翼の声に反応を見せた響はフィーネへと向けていた敵意を翼へと向け飛び掛かってきた。

「ぐuうヲおおおおooああaああaあああ!!」

「立花ッ!」

 飛び掛かってきた響を肘鉄で吹き飛ばすが響は止まらない。目の前にいる存在すべてを憎んで壊さんとその牙と爪を翼へと向けて再び襲いかかってきた。

 

 

 

 

「どうしちゃったの響ッ!?元に戻って!」

 突如として翼に襲いかかる響をモニターで見ていた未来はたとえ届かないとしても叫ばずにはいられなかった。

「もう終わりだよ私たち……」

 隣でモニターを見ていた弓美が零れ落ちるようにつぶやく。その表情は絶望に染まっていた。

「学院がめちゃめちゃになって……響もおかしくなって……」

「終わりじゃないッ!響だって私たちを守るために——」

「あれが私たちを守る姿なの!?」

 未来の言葉を否定するように弓美はモニターに映る響を指さした。映っているのは理性のない獣のように呻き、暴れまわる響だった。けれども——

「私は、響を信じる……」

 未来はそれでも響は響のままでいてくれると信じて目をそらさなかった。そんな未来の姿を見て、弓美は涙をこぼしてうつむいた。

「私だって響を信じたいよ。この状況を何とかなるって信じたい……でも……でも……」

「板場さん……」

 詩織が案じる横でとうとう弓美は限界を迎えて膝から崩れ落ち、顔を手で覆った。

「もう嫌だよ……誰か何とかしてよ……怖いよ……死にたくないよ……助けてよ響……」

 そんな弓の姿を見て弦十郎は悔しそうに拳を握る。

「……見ていることしかできないのか……。クリス君も、深のことも救えんで、俺たちはどこまで無力なんだ……」

悔恨に歯噛みをして弦十郎は救うことができなかった子どもたちの名前を口にする。大人として守るべき存在だった二人を無残に散らせてしまった自分の無力さが今はどこまでも悔しかった。

「クリス……深さん……」

 弦十郎が呼んだ名前を聞いて未来は少しだけうつむいてしまう。

クリスとはさよならも言わずに別れてそれっきりだった。深とだってまた会えるって気にも留めずにわかれてそれっきりだった。だというのに二人にはもう二度と会えない。その事実が胸を締め付けて苦しめてくる。そして——

「響……」

 そして、今未来が感じている痛みはきっと、いや今未来が感じている以上の痛みが響を襲っている。あの黒い姿は響の悲鳴を形にした姿にしか未来には見えなかった。

 響が、痛みに苦しんでいる。そう認識した時、このままではいけないと心の奥底からこみ上げてくるものがあった。

(何ができるの?いや、なにか、なにかがきっとあるはずなんだ!戦って、苦しんでいる響を支えられるように、一人で背負い込まなくていいように、私にできる戦いがあるはずだ。)

「何か、できることはないんですか?私たちが響たちのためにできることは!」

 少なくとも、彼ならば絶対にここで諦めたりはしない。苦しんでいる響に私が差し出せる手を考えるんだ。例え戦う力が無くたって、できることをするんだ。

未来の言葉に弦十郎たちがうつむく。その時、朔也が操作していた端末が警戒な音声を鳴らした。そして画面には外部からの通信が入ったことを伝えるSOUND ONLYの文字が表示された。

『未来ちゃんの言う通りです。まだ、諦めるには早すぎる』

「貴方は……!?」

通信から聞こえてきた声は未来のよく知った声だった。

 

 

 

 

 暴走した響の猛攻を前に、翼のギアが限界を迎え、腕のアーマーが砕け散った。もはや余力も残っておらず肩で息をして、翼はうめき声をあげる響を見据えた。

「ははは、どうだ?立花響と刃を交えた感想は?お前の望みであったなぁ?」

 ボロボロになった翼の無様さを嘲笑うフィーネ。翼がその姿を見れば、暴走した響に真っ二つに引き裂かれた体が徐々にくっ付いていき、傷が最初からなかったかのように消え去っていた。

「人のあり方すら捨て去ったか」

「私と一つになったネフェシュタンの再生能力だ。面白かろう?」

 具合を確かめるように手を握っては開き、フィーネは翼の侮蔑に余裕の笑みすら浮かべる。

 そして、カディンギルが再び鈍い音を立ててエネルギーの再チャージを始めた。

「まさかッ!?」

「そう驚くな。カディンギルがいかに最強最大の兵器だとしてもただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品。必要が限り何発でも打ち放てる。そのためにエネルギー炉心には不滅の刃デュランダルを取り付けてある。それは尽きることのない無限の心臓なのだ」

 カディンギルの再装填に動揺する翼にフィーネは研究結果を自慢するように愉悦の笑みを浮かべて語る。クリスは倒れ、響は暴走した。そして残った翼も虫の息、もはやフィーネは自分の勝利を信じて疑わなかった。

「だが、お前を倒せばカディンギルを動かす者はいなくなる」

 しかし、翼はそれでもまだ諦めてはいなかった。いまだ折れない強い意志を持った瞳と剣の切っ先をフィーネへと向けてくる。

「Uuu……」

「立花……」

その翼の前に牙をむき出しにした響がゆるりと立ち上がり飛びかかる構えを取った。

翼はゆっくりと瞳を閉じた。深呼吸を一回。

「立花……私はカディンギルを止める。だから……」

静かに覚悟を口にする翼に響は飛びかかった。翼に目掛けてその爪を大きく振りかぶる。当たれば、シンフォギアを装着していたとしてもただでは済まない一撃だ。

「ッ?」

その一撃に対しての翼の行動にフィーネは思わず息を飲む。迎撃でも、回避でもなく翼は剣を地面へと立てて無防備を晒した。嘆きも怒りも響のすべてを受け止めようとするように。

「GUUUGAAAAAAAAA!!!!」

鈍く嫌な音が鳴り響いた。けれども、いつまで経っても翼は自分を襲い来るだろう痛みを感じなかった。疑問に思い、ゆっくりと目を見開く。そして息を飲んだ。

「……それは、師匠の役目……だぜ……」

 目の前には自分の代わりに響の攻撃を受け止め、ぽたぽたと滴る血に塗れた流生の背中があった。

「……流生ッ」

「行け」

 翼が案じるのを妨げるように、少しだけ上げた口からかすれた声を出して流生は翼を見る。

行け、それが今お前のやることだろう。立花のことは自分に任せろ、と流生の黎明の瞳が訴えかけていた。

 今にも死んでしまいそうな流生に任せていいのか、躊躇いが翼の中で一瞬ちらつく。

「ッ……」

けれども、彼の強さを、成すべきことを成す強さを誇りに思うと言ったのだ。その私が防人の務めを投げ捨てて流生に逃げろと言うことは、彼を裏切ることだ。

「……立花を頼んだわよ、流生」

「御意のままに」

 私は、私たちは防人なのだと、自分に言い聞かせて決心し、突き刺した剣を引き抜き二人の横を通り抜けフィーネのもとへと向かう。

「……死んだら、許さないから」

「フッ、お嬢のほうこそ」

 決意しても、後ろ髪を引かれてしまう。そんな翼の背中を押すように流生は静かに笑うとなんてことないというように軽口で返した。胸の奥にくすぐったさとチクリとした痛みが翼を襲う。馬鹿、と小さく呟いて釣られて微笑み、再び歩み始めた。

「……」

 そんな二人のやり取りを冷ややかな目でフィーネは見つめる。眼前に立つ翼はすでに戦士の顔つきに変わっていた。

「待たせたな?」

「どこまでも貴様らは剣と、その鞘と逝くか」

 呆れ、ともすれば哀れみすら感じてフィーネは鞭を翼に向けて構える。翼は剣を固く握りし再びフィーネに向けて切っ先を向けた。

 防人としての使命も、ようやく思い出した自分の夢も、雪音が、奏が、流生が繋いだものもその全てを刃に賭して今、世界を救わん、と。

「今日に折れて死んでも、明日に人として歌うために。風鳴翼が歌うのは戦場ばかりでないと知れ!」

「人の世界が剣を受け入れることなどありはしない!」

 翼の啖呵にフィーネは二本の鞭を打ち付ける。翼はそれを跳躍で回避し空高く飛び立った。

 

颯(はやて)を射る如き刃 麗しきは千の花

宵に煌めいた残月 哀しみよ浄土に還りなさい…永久に

 

 拘束されていた響が唸り声をあげて流生から跳躍して距離を取る。獣のように手足を地面に着いた響は流生に向かって威嚇するように唸り声をあげた。どうやら標的を流生へと変えてくれたようだった。

「暴走形態か……たく、ハザードは止まらないってか?冗談きついぜ……」

 軽口をたたきながら、力の入らない右手をだらりと下げ左手だけで構えを取り迎撃の準備をする。

「来な、ヒビの字。お前の怒りや嘆き。お嬢に変わって相手してやるからよ」

 

Amenohabakiri Load

 

流生は額に打ち付けて無理やりCDの起動スイッチを押す。CDから流れる電子音声に反応するかのように響が流生目掛けて襲い掛かってきた。

「GUuuuuaaaaAaaaa!」

 眼前にまで迫る響の爪を体を倒すようにしてぎりぎりで避け、その攻撃をCD側面に押し当てた。ギリギリと火花を散らしてCDのディスクが回転する。

 

采声

 

声紋認証によりCDが再起動。青いフォニックゲインの羽織を纏い、襲い掛かる響を迎え撃たんと流生は地面を蹴った。

 

慟哭に吠え立つ修羅 いっそ徒然と雫を拭って

思い出も誇りも 一振りの雷鳴へと

 

 上空へと逃げた翼を迎撃せんとフィーネは再び鞭をふるう。それを翼は足のブレードをもってまさしく一蹴し、そのままの流れでアームドギアを大剣へと変化させる。

 

蒼ノ一閃

 

 渾身の蒼ノ一閃が鞭とぶつかり爆炎が身を隠す。そのど真ん中を突っ切り大地へと着地する。その隙を見逃さずにフィーネが再び飛ばしてきた攻撃を体を倒すように低姿勢になり躱し、肉薄する。

「のぁっぐぁあ!」

 ゼロ距離まで近づき、変化させた大剣を大振りに横一線に叩き込む。フィーネは轟音とともに吹き飛びカディンギルの外壁へと叩きつけられた。

 

去りなさい!無想に猛る炎

神楽の風に 滅し散華(さんげ)せよ

 

 響の猛攻を流生は冷静に一撃ずつ確実にいなしていく。暴走する響の攻撃は予想以上に苛烈を極めていて万全の状態であったとしてもいつまでもさばききれる自信はなかった。翼が手を焼くのも納得がいく。

「GUuuuuaaaaAaaaa!」

 唯一幸いだったのは攻撃が直情的で読みやすいことだった。響が放つ横薙ぎの一閃を前に転がることで回避して再び構えをとる。目の前にいる響はまるで餓えた獣の様だった。

「辛いよな、大事な人を亡くすのは……」

 けれども流生には別のものに響が見えた。泣いているようにしか見えなかった。

 フィーネに対する大切なものを奪った相手への怒り、深を、大切な人を失った悲しみ。そして、自分は何もできなかったという自責の念。強い負の感情が今の響を動かしている。さながら、泣きじゃくって暴れる子供だ。自分を見ているようだった。

「けどよ、違うだろ……」

 攻撃をいなしながら流生は悔し気に奥歯をかみしめた。マイナスのエネルギーを糧に戦う響の姿が見ていられなかったからだ。

「お前のしたいことはこんなことじゃねえだろ!おい!ヒビの字!お前はいったい何のために戦うんだ!」

 当たれば頭が吹き飛ぶ蹴りをぎりぎりで避ける。流生は肝を冷やしながらも響から目をそらさず声をかけ続けた。

「誰かを助けたくて力を求めたんだろ!誰かの助けになりたくて強くなったんだろ!その手は!束ねて繋ぐための手のはずだろうが!」

 爪による突きを反時計回りに回転して回避し、響の後頭部に蹴りを入れて吹き飛ばす。

「GUuuuuaaaaAaaaa!」

吹き飛ばされた響はすぐに体制を立て直して咆哮をあげ、流生目掛けて襲い掛かった。

 再び迫りくる響を見据え、流生は避けようともせずに構える。

「姐さんから継いだ力をそんな風に使ってくれるな!!」

 響の一撃が流生の脇腹に突き刺さる。流生は苦悶の表情を浮かべながらも突き刺さった響の腕を取り脇下でロックする。

「いい加減、目ェ覚ませぇ!!」

 動きを止めた響の額に目掛けて渾身の頭突きを繰り出した。ガンッと重たく鈍い音が辺りに響いたのだった。

 

闇を裂け 酔狂のいろは唄よ 凛と愛を翳して

いざ往かん…心に満ちた決意 真なる勇気胸に問いて

 

フィーネが叩きつけられた隙を翼は見逃しはしない。天高く舞い上がり、アームドギアを超巨大形態へと変化させ、その柄を足のブースターで加速した蹴りを持ってフィーネに目掛けて突撃させる。

 

天ノ逆鱗

 

「チッ!!」

 フィーネは三重に張ったバリアを持ってその攻撃を防ぐ。翼の天ノ逆鱗は2枚のバリアを割ったが抜ききることはできなかった。

 

嗚呼絆に すべてを賭した閃光の剣よ

 

 流生の渾身の頭突きを受けた響の動きが止まる。やがて響を光が包むとシンフォギアが解除され、学生服姿となった彼女が姿を見せた。

「師匠……私……私……」

「心配すんな、急所は避けた」

正気を取り戻した響は自分がつけた流生の脇腹の傷を見て声を震わせていた。実際内臓に直撃しないように流生は攻撃をそらしてはいたがそれでも深く痛々しい傷は確かにそこにあった。

流生が続けて響に声をかけようとしたとき、翼とフィーネが戦っている方から轟音が鳴った。

流生は振り返り援護に行こうとすると、響は力が抜けたように膝から崩れ落ちる。生気がその瞳からは無くなっており、涙がこぼれ始めていた。

「私、もうどうすればいいか分かりません。何をもって戦えばいいのかも……」

「……」

学園が崩壊し、クリスが倒れるところを目撃し、深の死を知ってしまった響の心は限界を迎えていた。立ち上がるにはもはや寄る辺がないのだと流生にも理解できた。だが——

「諦めるな」

それでも流生は師として激励を送る。

「ぎりぎりまで頑張って、ぎりぎりまで踏ん張って、最後まで諦めないで戦った奴だけが奇跡を掴める。俺は、そう信じている」

 先に行くぞ、と流生は背中越しに響に伝え、死地へと飛び込んでいった。

 

四の五の言わずに 否、世の飛沫と果てよ

 

炎鳥極翔斬

 

バリアにはじかれ、刀身が起き上がる。柄に立っていた翼は両手に剣を構えてカディンギルへと向けて紅蓮の炎を纏って飛翔する。

「初めから狙いはカディンギルかッ!」

 翼の狙いに気づいたフィーネが止めようと渾身の力で鞭をふるった。だが——

「させるかよ!」

 響を相手にしていたはずの流生が死角から手榴弾を放ち、爆発がフィーネの鞭を阻む。流生は爆発と同時に即座にフィーネの懐へ飛び込み一撃を食らわせようとした。

「煩わしい!!」

 しかし、溝内にいれようとした一撃はフィーネの手によって捕らえられ、反撃の一撃を食らってしまう。

「しまっ……がはッ!」

 人からかけ離れた力の一撃をもろに食らってしまった流生の意識が混濁する。全身から力が抜けて倒れそうになったところをフィーネの鞭が拘束した。

(届けッ!)

 カディンギルへ向けて翼は全力を賭して飛び続けていた。流生の声が聞こえた後、フィーネからの攻撃は途絶えている。あの重傷で、フィーネの相手などいつまでも持つわけがない。流生がなんとかフィーネを食い止めてくれているうちにカディンギルを破壊しなければ、焦りに奥歯をかみしめた。

「——奏、力を貸してッ!」

 自分を勇気づけるために奏の名前を呼んだ。守るための力を私に貸してくれと。その祈りが通じたのか。翼は自分の背中に温かい手の感触を感じた気がした。

—翼—

 奏の声が聞こえた気がした。ずっとそばにいてくれたのだと背中の熱が教えてくれたようだった。

—ワタシとあんた、両翼そろったツヴァイウィングならどこまでも遠くへ飛んでいける—

 奏がそばにいてくれている。ツヴァイウィングは今でも両翼がそろって飛んでいるのだと感じられた。

できる、どんなものでも超えてみせる。そんな自信が翼の中にあふれてくる。

「立花ぁああああああ!!!!」

 地上にいるであろう後輩に、奏の後を継いだ彼女へと叫んだ。見ていてくれ、誰かを防人るということの意味を!

 

 

だが、カディンギルを破壊せんとしたその時、翼の横を何かが通り過ぎて行った

 

 

 通り過ぎて行ったそれは鈍い音を立ててカディンギルへとめり込み土煙を上げる。フィーネの攻撃がそれたのかと思ったが違う。土煙が晴れたそこにいた人を見て翼は自分の身体から熱が奪われていくのを感じた。

「あ……」

 叩きつけられていたのは、見るも無残な姿になった流生だった。

「俺ごと切れ!お嬢おおおお!!!」

 最後の力を振り絞ったように流生が叫んだ。一瞬が永遠に引き延ばされたように感じる。どうすればいい、カディンギルを破壊しなければ世界を守れない。けれども、剣を振るえば流生が死ぬ。混乱が徐々に翼を侵食していった。

 

「所詮剣を謳ってもお前も女だったということだな」

 

 その一瞬が致命的だった。

 

NIRVANA GEDON

 

 逡巡が生んだ隙をフィーネは見逃しはしなかった。放たれたエネルギー弾は確実に翼の背中を捕らえ、飲み込んだ。

「翼ぁああああ!!」

 流生の悲鳴が響く。爆炎の中から弾き飛ばされた翼にはもはや意識はなく地面に向かって自由落下していく。流生はカディンギルを蹴り落ちていく翼へと手を伸ばした。だが、その手は決して届かなかった。

 翼もまた、ぐちゃりという嫌な音を立てて森の中へと消えていった。

「翼……翼ぁ!!」

 遅れて地面に落下した流生はもはや立ち上がることすらできない体を引きずって翼のもとへと向かおうとする。だが、そんな流生を嘲るように森へと向かって伸ばされた流生の手をフィーネが踏みにじった。

「お前はつくづく、最後まで足手まといだったなぁ」

「ッ!くッ……あああぁあああああ!!!!」

 フィーネの嘲笑を聞いた流生は激昂のままにフィーネをにらみつける。そんな流生にフィーネは蹴りを入れて弾き飛ばした。

「ちくッ……しょう……」

 悔しさを呻いて流生の意識がなくなった。

「ようやくだ……もはや私を阻むものはいなくなった!五千年の悲願がついに叶う時が来たのは……フフフッハハハハハハハハ!!!!」

 勝利を確信したフィーネの高笑いが周囲一帯へと響き渡ったのだった。

 




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