装者の男女恋愛が見たいッ!戦姫絶唱シンフォギア SLS   作:ふみー999

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どうもふみー999です。
色々言い訳する前にこれだけ言わせてください。
Happy birthday!!立花響!!!
いや~~おめでたい!こんな日に最新話を投稿できるのは感無量です。この作品でシンフォギアが少しでも盛り上がってくれたなら幸いです!!

さて、お祝いした後で言い訳おば……
忙しかったんですッ!!仕事が!8月は!忙しかったんです(´;ω;`)
んも~書類も監査も嫌じゃああああ
同じ文章でもどうして小説書くのはこんな楽しいのでしょうね~~

まあ、愚痴はもういいとして最新話お付き合いくださいどうぞ!!


第5話 Break-in:黒き撃槍

 ノイズに占拠されたQUEENS Music会場。そのステージの上で、翼は眼下に佇むノイズたちとそれを召喚したマリア・カデンツァヴナ・イヴへと視線を向けていた。その瞳は歌女としての物ではなく、戦士の、防人としての強い闘志が宿っている。

「……」

臨戦態勢を整えるべく、首元のリボンを外すと、内側からギアペンダントが姿を現し、担い手の戦意に呼応するように緋色に輝いてみせた。

「怖い子ね。この状況にあっても私に飛び掛かる機を窺っているなんて」

 そんな翼にノイズを呼び出した張本人であるマリアが声をかけてくる。

「でも逸らないの。オーディエンスたちがノイズからの攻撃を防げると思って?」

「くっ……」

 尊大にして余裕を持った声音で的確に翼が懸念していることを言い当てるマリア。彼女が言うように、現在会場にいる観客全てがノイズによって取り囲まれている。いわば人質だ。下手に動けば、どれだけの人的被害が出るか分からない。

 翼はその事実に忸怩たる思いを抱きながら唇を震わせることしかできなかった。

「それに、ライブの模様は世界中に中継されているのよ?日本政府はシンフォギアについての概要は公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら。ねぇ、風鳴翼さん?」

 そんな翼を嘲笑うかのようにマリアは、会場上空に表示されている全世界のニュース画面を見上げる。

「甘く見ないでもらいたい。そうとでも言えば私が鞘走ることをためらうとでも思ったか!」

 侮った物言いが翼の神経を逆撫でする。自分の保身のために戦うことはできないだろうと暗に述べるマリアの言葉は防人としての誇りを侮辱するものだった。

翼は一歩も引き下がらずに、手にしたマイクを剣のようにマリアへと向けた。

「フッ、貴女のそういう所嫌いじゃないわ。貴女のように誰もが誰かを守るために戦えたなら世界はもう少しまともだったかもしれないわね」

 翼の啖呵を聞いたマリアは満足げな表情をした。だが、その表情はすぐに翳り、なにか苦しいものを抱えたものに代わる。

「なん、だと……?マリア・カデンツァヴナ・イヴ、貴様は一体……」

「そうね、そろそろ頃合いかしら」

 その変化に翼は戸惑い問いを投げる。しかし、マリアはその問いに答えず、手にしたマイクをパフォーマンスのように大きく回して口元へと持って行く。

「私たちはノイズを操る力を持ってして、この星の全ての国家に要求する!」

「世界を敵に回しての口上ッ!?これはまるで……!」

宣戦布告。それも世界に対しての。あまりに現実味のない大言壮語にいよいよ翼は開いた口がふさがらなかった。

だが、当のマリアはこの状況を楽しんでいるかのように、絶対の自信があるといった勝気な表情を崩さない。

「そして———」

 高々と、マイクが上空へと放り投げられる。誰もがそちらへと視線を釘付けにされた。

その刹那——。

 

Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた情熱)

 

 黒き烈槍の顕現を寿ぐ聖詠(うた)をマリアは高々と歌い上げた。

「まさかッ!?」

 目の前で起こったことを翼はすぐには信じられなかった。否、信じたくなかった。

 聖詠をマリアが口にした瞬間、フォニックゲインが爆発的に高まり、バリアフィールドを彼女の周りへと形成する。収束していくフォニックゲインは黒を基調とした武装へと物質化し、彼女の身体へと装着されていった。

「私は……私たちはフィーネ。そう、終わりの名を持つ者だッ!!」

 武骨にして流麗、たなびくマントを翻す漆黒のシンフォギアを身に纏ったマリアは高々と名乗りを上げる。

 だが、翼にとって最重要事項はそこではなかった。

配色も異なる。マントも存在していなかった。だが、その姿を翼が見間違えるはずはない。その姿は、そのシンフォギアは、かつての比翼が身に纏い命を散らしたもの。そして、その意志を受け継いだ後輩が全霊を持って身に纏うものだ。

 そのシンフォギアは——

 

 

 

「ガングニールだとぉ!?」

 朔也によって解析されたアウフヴァッヘン波形の分析結果を見た弦十郎は司令室で叫んだ。予期せぬその結果に動揺を隠せなかったのだ。

≪黒い……ガングニールッ……!≫

 通信機越しに、響の戸惑った声が聞こえてくる。いや二人だけではない。おそらくヘリで様子を見ているクリス達も含めて司令室にいる全員が、マリア・カデンツァヴナ・イヴが身に纏ったガングニールのシンフォギアに驚愕している。

 混乱しかけた司令室を正気にさせたのは一本の通信コールだった。メインモニターに防衛省からのホットラインが繋がれたことが表示され、弦十郎の端末に一人の初老の男性が映し出される。 

「斯波田事務次官ッ!」

 通話の相手は二課のバックアップを行っている防衛省の官僚、斯波田賢仁事務次官だった。

≪厄ネタが暴れてんのはこっちばかりじゃなさそうだぜ。まぁ少し前に遡るがな≫

斯波田はこの状況であっても落ち着いて好物の蕎麦をすすりながら事態の情報共有をし始める。

≪米国の聖遺物研究機関でもトラブルがあったらしい。まぁなんでも今日まで解析してきたデータのほとんどがお釈迦になったばかりか、保管していた聖遺物までもが行方不明って話だ≫

「こちらの状況と連動していると?」

≪蕎麦に例えんなら十割ってことはあるめぇ、まぁ二八でそういうこったろぉ≫

 事の重大さとは打って変わって斯波田は淡々と蕎麦をすすっている。それは緊張感の無さではなく、いくつもの修羅場をくぐって身に着けた歴戦の自然体だった。

 その落ち着きように二課も引っ張られ、混乱しつつあったものが落ち着きを取り戻している。弦十郎は気を引き締め直し、再びモニターを確認してライブ会場を注視した。

≪我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだな、差し当たっては国土の割譲を求めようか≫

「なんだとっ!?」

 突拍子のない要求を聞き、冷静になろうと努めようとした司令室に再び衝撃が走る。だがマリアはこちらの戸惑いなど気にもせず、声明を続けている。

≪もしも24時間以内にこちらの要求が果されない場合は各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう≫

≪はっ、しゃらくせぇな。アイドル大統領とでも呼べばいいのかい?≫

「一両日中の国土割譲なんてまったく現実的じゃありませんよ!」

 斯波田は呆れ、いっそ笑えてくるといったように苦笑する。朔也はあり得ないと驚きのままに体を弦十郎の方へと向けてきた。

「急ぎ対応に当たります」

≪おう、頼んだぜ≫

 弦十郎は焦ることなく、斯波田へと報告する。斯波田も一言だけ声をかけると通話を終了したのだった。

 

 

 

 

 マリアの声明が発せられた会場は依然として沈黙を保っていた。だがそれは、観客が冷静だからではない。声を発することを許さないノイズが、自分たちを殺せる死の圧力があるからであり、いつパニックが引き起こされてもおかしくはなかった。

 その現状を翼はステージの上で見ていた。マイクを握る手に力が籠る。

「何を意図しての語りかは知らぬが……」

「私が語りだと?」

 にじみ出る怒りを込めて、翼はマリアを指さす。

「そうだ!ガングニールのシンフォギアは貴様のような輩に纏えるものではないと覚えろッ!」

 

Imyuteus ameno(羽撃きは鋭く)——

 

≪待ってください翼さん!今動けば、風鳴翼がシンフォギア装者だと全世界に知られてしまいます!≫

 翼がシンフォギアを身に纏わんと聖詠を歌った瞬間、インカムから焦った様子の緒川の声が聞こえてきた。翼は思わず聖詠を中断する。

「でも、この状況で……」

「風鳴翼の歌は!戦いの歌ばかりではありません。傷ついた人を癒し、勇気づけるための歌でもあるのです」

 緒川にしては珍しい強い口調で自分を諫める言葉に、翼の鞘走らんとした気持ちが鳴りを潜める。

「確かめたらどう?私の言ったことが語りかどうか」

 戦えと、問いかけるマリア。だが、翼はその言葉には応じなかった。歌を捨ててはならない。翼はその決意をもって再びマリアへと視線だけを返す。

「ならば……」

 その視線に、何かを感じ取ったマリアは納得したかのように微笑んだ。そして会場に向けてマイク越しに再び声を発する。

「会場のオーディエンス諸君を開放する!ノイズに手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか!」

 突然の人質解放に会場はどよめきが広がっていく。翼もまた、マリアの意図が分からずに困惑した。

「何が狙いだ?」

「フッ……」

 マリアは戸惑う翼の姿すらも勝気な微笑を浮かべて楽しんでいるようだった。

 だが、そんなマリアの耳元に通信が入る。相手はライブ前に話をした枯れた声の女性だった。

≪何が狙いですか?こちらの有利を放棄するなど筋書きにはなかったはずです。説明してもらえますか?≫

「このステージの主役は私。人質なんて私の趣味じゃないわ」

 落ち着いていながらもマリアのアドリブに苛立ちを感じていることが声音から伝わってきた。しかし、マリアも引くことなく淡々と答える。

≪血に汚れることを恐れないでッ!≫

 そんなマリアの反応にいよいよと言ったように老女は声を荒げた。それは子供を叱る母のような厳しさのある声だ。

 二人の会話がヒートアップしそうになったまさにその時だった。老女が見ている画面にマリア以外の誰かが通信に割り込んできたことを示すウィンドウが表示された。 

割り込んできた声の主は若い男の声だった。やや間延びしたような口調でからかうように二人を仲裁しようとしている。

≪おやおや、ナスターシャ。別にいいじゃないか、犠牲を出すことが目的じゃ~ないんだ。帰れる場所があるやつらは帰った方がいい。そうだろう?≫

≪貴方までッ!≫

 男は帰った方がいいというマリアに賛同する言葉だけは真面目な口調でナスターシャと呼ばれた老女へと投げかける。

 作戦中の甘い考えをする二人にナスターシャはいよいよ怒りを隠さなくなってきた。

≪おやおや、怒らないでくれよ。なぁに、マリアならうまくやるさぁ。何せ、国土をいきなり要求する大暴君だからねぇ。おぉ怖い怖い。暴君ネロもびっくりな女王の誕生だ≫

 男は再び飄々とした態度に戻り、ナスターシャの怒りを受け流そうと軽口を叩く。クツクツと笑った後、男は一拍置いてから、もう一度真摯な口調に戻った。

≪なぁ、ナスターシャ。要は寝坊助を叩き起こせればそれでいいんだろ?≫

 目的が完遂できれば、余計な血を流さずともいいはずだと、ナスターシャを説得する。その言葉を聞いてナスターシャは深いため息をついた。

≪……はぁ、調と切歌も向かわせています。作戦目的をはき違えない範囲でおやりなさい≫

「……了解、マム。ありがとう……それに——」

 マリアはナスターシャが折れてくれたことに安堵して感謝を述べる。それを説得してくれた男にも感謝を言おうとすると、言い終わる前に当人に割って入られた。

≪おやおや、礼を言われることなんてしてないさ?でもそうだなぁ~、どうしてもって言うならデート一回でいいぜ?≫

 通信越しでもウインクをしているだろうことが分かる軽い口調に、マリアの頬が自然と緩みそうになる。しかし、すぐにマリアは自分を諫めるように表情を強張らせた。

「茶化してないで、貴方も働きなさい?」

≪おやおや…… Capito, nostra regina.(了解だ。我らが女王陛下)

 最後までからかうことを止めずに男は通信を切るのだった。

 

 

 

 

 突然の人質解放を受けて、観客たちが混乱と恐怖の内に避難を始めている。その様子を司令室で見ながら弦十郎は、マリアたちの狙いを見極めようとしていた。

(フィーネを名乗ったテロリストによる国土割譲の要求……ノイズを制御する力により、世界を相手にそれなりの無理を通すこともできるだろう……だが……)

 たとえノイズを持ってでも、あまりにも無理筋過ぎる要求を行っている。だとするならば、目的は別にあるのではないか。敵の目的が見えてこないことに不気味さを感じていると緒川からの通信が入ってきた。

≪人質とされた観客たちの解放は順調です≫

「分かった。後は——」

≪翼さんですね。それは僕の方でなんとかします≫

「頼んだぞ」

 以心伝心、いや当然の帰結だった。響たちが現着するまでにはまだ時間がかかる。だとするならば現場にいるシンフォギア装者、風鳴翼が自由に動けることが事態鎮圧に向けた最善策なのだ。

緒川がどれだけ早く、中継の檻を破ることが出来るか、弦十郎はなるべく急いでくれと心の中で思った。

 そして、弦十郎にはもう一つ気にかかっていることがあった。

(流生は、何をしているんだ……)

 それは先ほどの通信以降、こちらからの応答に答えなくなった流生の存在だった。現在、ノイズは停止しているとはいえ、いつ動き出すかは不明だ。一刻も早い観客の避難は急務だった。それだというのに流生は現在こちらでもどこにいるのか分からない。

翼が戦う傍らで誰よりも逃げ遅れた人命の救助に徹してきた避難誘導のエキスパートが通信に出ないことに歯がゆさを感じざるを得なかった。

 

 

 

 

「ヒナ、私たちがここに残っていても足を引っ張っちゃうよ」

混迷を極めるライブ会場を見下ろしていた未来に創世は避難するように声をかけた。

「立花さんだって遅刻してますけど向かってるんですし」

「期待を裏切らないわよ、あの子は!」

 詩織と弓美も響のことを信じて避難しようと明るく投げかける。

「……そう……だよね。わかった」

そんな友人たちの説得に未来も不安を抱えたまま笑みを浮かべ、関係者席を後にした。

(響、早く来て……)

 関係者席を後にする一瞬、未来は空を見上げて親友の到着を祈る。空には欠けた月が浮かんでいた。

 

 

 

 

 全速力で会場へと向かうヘリの中で、響たちは弦十郎から非難が完了したことを知らされた。

「よかったじゃあ観客に被害は出ていないんですね!」

 死者がでなかったことに安堵しほっと肩の力が少しだけ抜ける。

 通信では弦十郎の他に、朔也も会話に加わっており解析結果の共有を行っていた。

≪現場で検知されたアウフヴァッヘン波形についてはこちらでも調査中。だけど、まったくのフェイクであるとは……≫

 朔也の言葉に、響は自分の胸の内に意識を集中する。手を当てた心臓、そこには確かにガングニールの力を感じられた。

「私の胸のガングニールが無くなったわけではなさそうです」

≪もう一振りの撃槍……≫

「それが、黒いガングニール……」

 弦十郎のつぶやきがやけに重く響いた。自分以外の人がガングニールを使い、そしてテロを起こしている。偶然か、それとも運命めいたものなのか、瞳に映るマリアの姿が暗く重い物に響は感じられた。

「……深君はどう思う?」

「つうかさっきから黙り込んでいるが、どうなんだよ専門家?」

「……」

 響は胸の底に沈む重さを抱えきれず、思わず深へと呼びかけた。それに乗っかる形でクリスも先ほどから深が黙り込んでいることへの指摘をする。

 しかし、それでも深は返事をせず黙り込んだまま、会場の様子を静かに観察していた。いや、あまりにも静かすぎた。響が深の顔をうかがえば、抜身の剣のような鋭さをもって画面を睨みつけている。瞳の奥には業火が燃えていた。怒りに似た赤い熱だった。

「——?深君?」

「ッ!……米国の聖遺物研究所には日本政府が保管していたものとは別の聖遺物も保管されていました。それに……先生も、出入りしていた。ガングニールの欠片が響ちゃんの物とは別に存在していたとしても不思議ではありません」

 響が息を飲み、つぶやいた自分の名前にようやく反応した深は堰を切ったように研究者としての所見を述べた。

≪つまり、本物ということか≫

「おそらくはそう考えた方がいいかと」

「……」

 弦十郎と対策について話を重ねる深。そんな深の横顔を響は心配そうに見つめることしかできなかった。

 

 

 

 会場の通路を緒川は走り、急いでコントロールルームへと向かっていた。目的は一つ、世界中に向けて放送されている中継の遮断だ。

(今、翼さんは世界中の視線にさらされている。その視線の檻から翼さんを解き放つには……)

 一刻も早くコントロールルームへと行くべきだったのだが、緒川は足を止めた。通り道とは違う階段、その上に走っていく少女らしき人影が2つほど見えたからである。

「……?ッ!」

 逃げ遅れた観客がまだいたのかと緒川は避難誘導するべくそちらの方へと走っていった。

「やっべぇ、あいつこっちに来るデスよ!」

 物陰に隠れた少女は緒川が自分たちの元へとやってこようとすることに焦っていた。おでこにトレードマークのヘアピンをバッテンにして付けた黄色い髪なびかせて、少女は一緒にいるもう一人の少女へと耳打ちする。

「大丈夫だよ切ちゃん。いざとなったら……」

 呼びかけられた少女、調は慌てる切歌とは真逆に落ち着いた様子だった。感情が薄いと言った方が正しいかもしれない。調は自分の胸元にある緋色のペンダントを掲げて見せた。いざとなればこれを使ってしまえばいいというような仕草だった。

「うわっ!調ってば穏やかに考えられないタイプデスか?」

 そんな調の様子に切歌は慌ててペンダントを調の服の下と仕舞いこんだ。それと同時に緒川が二人のもとへと駆けつけてくる。

「どうかしましたか!」

「ッ!?」

 ビクリと冷や汗をかく切歌と、じっと緒川を見つめる調。緒川は二人の様子を気にすることなく避難を訴える。

「早く避難を!」

「わぁ!えっとデスね!」

「じー」

「この子がねっ!急にトイレとか言い出しちゃってデスね!」

「じー」

「ははははっ……参ったデスよ!」

 無言で緒川を撃退する隙を伺い見つめている調をかばう様に切歌が何度もひょこひょこと前に出て言い訳をする。空笑いで誤魔化しているが自分でも苦しい言い訳だと思わざるを得ない切歌だった。

「え?あぁ、でしたら避難口の方にありますからご案内しますよ」

 幸いにも、緒川もそこまで不審に思うことはなく避難客だと思ったようで、親切に出口までの案内を名乗り出る。それがかえって切歌にはしんどかった。

「うぇ!?えっと大丈夫デスよ!!自分たちでなんとか行けるデスから!?もしくはここいらでチャチャッと済ませちゃうデス!」

「ですが……」

 さすがに緒川も不審がっている。どうしたものかと焦り、自分の額に冷や汗が流れるのを切歌が感じていると緒川の後ろから別の人影が駆け寄ってきているのが見えた。

「調!切歌!こんなところにいたのかい?探したよ」

 その人影は緒川の横を通り抜けると切歌と調の視線に合わせるように跪き、二人の手を取った。

「まったく離れるなって言ったじゃないかい?」

「うぇ!?そんなこと聞いてないデス……」

 突然言われた記憶が無いことで注意を受けて切歌がとっさに訂正しようとすると男はウインクをして切歌の発言を抑えた。合わせろと言外に言っている。

「保護者の方ですか?」

 突然現れた男に緒川が声をかけると、男はゆっくりと振り返る。そして、緒川に近づくとその両手を握り締めて今にも泣きだしそうと言わんばかりの表情を作った。

「貴方こそ妹たちを保護してくれていたのですね?ありがとうございます!この子たちに何かあっては、オレは生きてはいけませんからねぇ。貴方はまさにレムスとロムルスを救ったファストゥルスのようだ」

 掴んだ緒川の手をブンブンと振り回して、大げさな神話に例える男の様子に緒川も若干気圧されていた。緒川は保護者が来たのならと愛想笑いをしてその場を後にしようとする。

「い、いえそんな大層なことはしていませんよ。ともかく、皆さんは安全なところへ避難してください」

「おやおや、お急ぎのようで……。一体どこへ行こうというのですか?」

 そういった瞬間、男の雰囲気がガラリと変わる。笑みは変わらない。しかし纏う気配に殺気が混じった。

「ッ!?」

殺気を感じた緒川は、すかさず男の手を離すと飛び退いて距離を取る。牽制も兼ね、銃を手にしようとスーツの下へと手を伸ばした。

しかし、伸ばそうとした腕は何かに引っ張られるように地面に向かって下ろされ、上げられなくなってしまう。

「これはッ!?ガハッ……!」

緒川が状況を理解しきる前に、男は緒川に近づくとみぞうちに拳を叩き込んだ。突然の衝撃に緒川は意識を失いだらりと前のめりに倒れてしまう。

「おやおや、恐ろしいねぇ。あの一瞬で殺気を読まれたっていうのかい?ただ者じゃ~ないなぁお兄さん?」

 緒川の反応に驚き、額の汗を拭う仕草をする。そして、切歌たちの方へと男が振り返ると先ほどよりもやや軽薄な笑みを浮かべた。

「大丈夫だったかい、お二人さん?」

「あちゃ~、結局穏やかに済ませられなかったデスよ。別にわざわざ気絶させる必要はなかったんじゃないデスか?」

 やってしまったと頭を抑えながら切歌が男に抗議すると、男は両手を軽く上げて肩をすくめた。そして倒れている緒川を転がして仰向きにする。

「左肩が右肩より若干上に上がっていたからなぁ。銃持ちなのは一目で分かる。この場でそんな物騒なものを持ち歩いている人はご退場願うに越したことはないだろ?」

 男はごそごそと緒川の懐を物色し、取り出した銃をプランプランさせて切歌に見せる。そしてすかさず分解してその辺に放り捨てた。

「まったく、抜け目のない人デスよ。ともかく助かったデス」

「じー」

「ん?どうしたデスか、調?」

 男に呆れながらも感心していると、隣にいる調から視線を感じて切歌は振り向く。

「……私、こんなところで済ませたりしない」

 何か大切なことを言いたいのかもしれない。そう思っていた切歌だったが、どうやら調は先ほどの言い訳に自分を使ったことを抗議したかっただけのようだった。マイペースな調の様子にがっくりと首を垂れてしまう。

「……そこデスか。まったく調を守るのが私の役目とは言え、毎度こんなんじゃ体が持たないデスよ」

「……いつもありがとう。切ちゃん」

 仕方のない姉妹に接するように切歌が言うと、調は初めて笑みを浮かべた。そんな二人のやり取りを見ていた男もまた、微笑ましいものを見たというように先ほどとは違う笑みを浮かべる。

「おやおや、相変わらず仲が良いねぇ~。でもそろそろ動いてくれるかい?マリアが独奏し始めそうだ」

「了解デス。調、こっちもやらかすデスよ」

「うん、いこう」

 男に言われた二人は返事をするとライブ会場の方へと駆け出していく。

「頑張れよ~。さてと、オレもこのお兄さんをふんじばったら向かうとするかねぇ」

 男は小さくなっていく二人の背中を見送った後、倒れこむ緒川を見下ろしていた。

 

 

 

 

 マリアが人質の解放を宣言してから数分後、会場を埋め尽くすほどいた観客の避難は完了し、その影も形もなくなっていた。

 伽藍洞になったライブ会場には虚しい風が吹き、何もせずただ鎮座するノイズだけが哀しく佇んでいる。

「……帰れる場所があるやつらは帰った方がいい、か……。本当に、帰るところがあるというのは、羨ましいものよね」

 マリアはその会場を見つめながら先ほどの通信を思い出してつぶやいていた。翼はそんなマリアを警戒したままに見つめている。

「マリア……貴様は一体?」

「観客は皆退去した。もう被害者が出ることはない。それでも私と戦えないというのであれば、それは貴女の保身のため」

 声をかけてきた翼にマリアはマイクを向ける。するとそれに呼応するように会場にいたノイズも翼の方へと体を向けてきた。いつでも戦う準備が出来ているというように。

「貴女はその程度の覚悟しかできてないのかしら?」

 この期に及んでもシンフォギアを身に纏わない翼を挑発するようにマリアは笑みを浮かべる。

「グッ……」

 それでも翼が歌う様子を見せないでいると、マリアはマイクを剣のようにして構えて飛び掛かる。

 応戦しなければやられる。翼も手に持ったマイクを剣の代わりとして構えマリアに対抗しようとした。その刹那——

「「ッ!?」」

 しかし、二人は戦うことなく同時に息を飲んだ。開戦する直前に、二人の間に上空から一本のペンライトが降ってきてステージの床に突き刺さったからだ。

「観客の安全のために黙って聞いてりゃ、さっきからべらべらと勝手なことを抜かしやがって」

マリアが声のする方を見上げるとステージの巨大スクリーンの上に佇む人影がいた。

「貴方、何者?」

警戒したマリアが声をかけると、その人影は軽くスクリーンの上から飛び降りてきた。そして、マリアの目の前、翼をかばう位置に膝をついて着地するとゆっくりと起き上がり手にした薙刀を肩に担ぐ。

「なに、ただのオタクよ」

「流生ッ!?」

 生身のままに薙刀を構えた幼馴染の姿に翼は驚きの声を上げるしかなかった。

 




最後までお読みいただきありがとうございます!!
結局、今回も男の名前出せなかったな……次回こそは名前を出します!多分!!
アンケートの結果、やっぱり謎の男の活躍が皆さん気になってくださっているようですし、頑張って活躍させたいところです!

今回もアンケートを実施しようと思います!気になるキャラを教えてください!

それではまた次回お会いしましょう!
お気に入り登録、しおり、評価、感想、心からお待ちしております!どんな小さな一言でもいいです!よろしくお願いします!!

誰の活躍が気になる?

  • 流生
  • 謎の男
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