キヴォトス怪談集   作:電気未

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閑話

その日、シャーレの当番として呼ばれていた私は先生と一緒に遅めの昼食を取っていました。私はサンドイッチ、先生はアンパンを食べることにしました。

 

「最近暑いね、クーラーこのままで大丈夫?」

「大丈夫です」

 

あと二週間もすれば、大抵の学校は長期休暇に入ります。それに合わせるように、近頃はとても暑くなってきました。

 

「クロノスもあと10日で夏休みになります。この時期は取材が捗るのでありがたいです」

「心霊スポットとかに行く生徒が多いの?」

 

鋭いですね。肝試しに行く人が多いのも一因ではあります。

サンドイッチを片手に持ちながら、先生の方に身を向けます。

 

「それも含めて、いつもとは違う環境に身を置くことが増えるからです」

「違う環境?」

「はい。親族の家や海、トリニティの方だと避暑地の別荘に行く人も多いらしいです。

そういった日常と離れた場所では、『遭いやすい』みたいですよ」

 

私がそういうと、先生は途端に黙り込んでしまいました。

アンパンもあまり減っていませんし、お腹が冷えてしまったのでしょうか。

 

「寒くないですか、先生?」

「ああ、うん。大丈夫。…フミコは()()()()()()怪談を集めてるんだよね」

「はい、そうですけど」

「なら、これはただの昔話だと思って聞いてほしい」

 

昼食を食べる手を止め、机に視線を落としながら先生は語り始めました。

 

「私も夏休みに怖い経験をしたことがあるんだ。

私がキヴォトスの外から来た人間なのは知ってるかな。これはキヴォトス(ここ)に来る前の話でね──。

子供のころ、夏休みに祖母の家に一人で帰省したことがあったんだ。本当は少し不安だったけど、『慣れといたほうがいい』って親に言われてね。電車で3駅くらい先の祖母宅に行った。

…ああ、もちろん一人で電車に乗ったのが怖かった、とかそんなのじゃないよ。

それから二日間は持ってきた本を読んだりテレビを見たりして普通に過ごした。問題なのは三日目、祖父のお墓参りに行った日の夜。

祖母が友達の家に野菜を届けに出かけて、私は一人で留守番することになった。

その日は見たい番組があったし、好都合だと思ったね。それでテレビを見始めてから5分くらい経ったとき、インターホンが鳴った。

もうとっくに夜の10時を過ぎてるし誰だろう、とか考えながらインターホンの画面を覗くと、両目が隠れるくらい長い髪の女性が映っていた。

その人はずっと、身じろぎもせずただそこに立っていた。

それだけでも不気味で怖かったけど、インターホン越しに見えた夜空に…月が。

月が二つ見えたんだ。

多分、見間違いなんだけどね。私はそれが、気味が悪くて仕方なかった。

助けを求めに行くことも、直接その人と話すことも考えたけど…一度でも目を離したり、話しかけたりしたらダメな気がした。

どうすることもできず画面を見つめ続けて、もしかしたらずっとこのままなんじゃないかって思ったとき、その人は……『またね』そう言って、笑った。

その後のことはよく覚えてないんだけど、気が付いたら布団で寝てて、祖母に聞いても何もなかったとしか言われないし…夢だったのかな。

長くなったね、聞いてくれてありがとう。

よし、仕事に戻ろうか。」

 

一通り語り終えた先生は、私に背を向けて伸びをしました。まるで、見たくないものがあるとでも言うように。

その日、この話をしたあとの先生と目が合うことはありませんでした。

 

 

 

シャーレからの帰り道、ふと空を見上げると月が浮かんでいました。先生が見た二つの月とは何だったのでしょうか。

夢の中の出来事だと言われればそれまでですが、私は一つの可能性を知っているような確信がありました。答えが喉元まで出かかっている感触があるのに、その姿は見えない。そんなモヤモヤとした感覚に苛まれながら暗い地下歩道を歩きます。

 

「─あ」

 

答えは唐突に私の目に飛び込んできました。地下歩道の階段の下の方。そこから入口を見上げると、一人の生徒がいました。そのヘイローは、まるで。

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