ある魔法少女の物語   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

恭一は高校生活を送りながら、魔女と魔法少女の存在に悩む。
彼はまり恵と仲直りし、奈穂子と一緒に昼食を食べるが、魔女の襲撃に遭う。
ジュウげむという存在が魔法少女と魔女を操り、恭一達はその策略に翻弄される。
恭一達は魔女の正体を探り、ジュウげむの真意を解き明かそうとするが、
ジュウげむはカタリナに何かをした後、魔女を探すと言って去っていった。


第12話 憎悪の魔女

 翌日の朝。

 カタリナは、いつものように自分で作った朝食の弁当を食べていた。

 だが、カタリナは違和感を感じていた。

(何も味がしない……?)

 そう、いつもは口の中に伝わる味を、今日は何も感じていないのだ。

(おかしい。以前は美味しかったのに……今は美味しくも不味くもないなんて)

「……?」

 ルーナは様子がおかしいカタリナに首を傾げる。

 カタリナは首を横に振った。

「いいえ、何でもないわ。さあ、魔女を倒すわよ。ジュウげむが、そう導いているのだから」

「……」

 ルーナはこれ以上、何も言わなかった。

 カタリナ自身も、魔女を倒すためなら味覚を捨ててもいい、と思っていた。

 この先にあるジュウげむの目論みを知らないまま。

 

 一方、こちらは恭一サイド。

 高校の授業が終わり、奈穂子やまり恵と別れて自宅に帰ろうとした矢先の事だった。

「ようやくゲームを進める事ができるぞ」

「そうはいかないよ」

 恭一が自宅でゲームをしようとすると、突然、目の前にジュウげむが現れた。

 彼(?)が現れたという事は、すなわち……。

「うおっ、ジュウげむ! いつの間に!?」

「どうやらまた、魔女が現れたみたいだよ。今、カタリナが魔女の相手をしているんだ。

 彼女一人だけじゃ心許ない。キミも戦うんだ!」

「ちょっと待ってくれ、まり恵を呼んでくる!」

 正直、恭一も一人だけでは心許ないと感じ、まり恵が帰ろうとしている道を走った。

 すると、今にも帰りそうなまり恵と出会った。

 恭一は彼女に向かって大声でこう言った。

「まり恵ー! 俺のところに来てくれー! 今、魔女が現れて大変な事になってるんだ!」

「うるさいわよ、恭一……。え? 魔女ですって?」

 魔女という言葉を聞いたまり恵は、すぐに恭一のところに駆け寄った。

 恭一とまり恵は、ジュウげむがいるところに戻る。

「魔女はどこにいるんだ!?」

「ボクについてきて!」

「ええ!」

 恭一とまり恵は、魔女を探すべく、ジュウげむの後を追っていった。

 

「うわぁ、酷い……」

 魔女の結界の中は、死屍累々としていた。

 人々は怒りに満ちた表情を浮かべながら、互いに棒やゴルフクラブなどを振り合っている。

 奈穂子がこれを見たら、吐き気がするだろう。

「ここに潜むは憎悪の魔女。人間に憎悪の感情を与え、殺し合わせる」

「……」

 この魔女はこれまでの魔女と違い、具体的な感情の名を冠している。

 すなわち、無かった事になるのは天災ではなく人災か……とまり恵は勘ぐるが口には出さない。

 カタリナはルーナと共に矢を放っているが、一向に状況が良くなる気配はない。

 恭一とまり恵はぐっ、と拳を握る。

―勇者よ、あなたに力を貸します。

 恭一の頭の中に女性の声が聞こえると、目の前に光の大剣が現れる。

「今、助けに行くぞ! カタリナ!」

「あたしも戦うわ!」

 恭一はそれを手に取ると、カタリナのところに向かった。

 まり恵も魔法少女に変身し、走り出した。

 

「……!」

「二人とも、こっちは危険です!」

 カタリナは駆けつけた恭一とまり恵の方を向く。

 そうしている間に、魔女は容赦なく使い魔と粘液を飛ばしてくる。

「きゃっ!」

「危ねっ!」

 攻撃を受け、転倒するカタリナを支える恭一。

「カタリナ、無理はするな。俺達も戦う!」

「あなたは下がってて!」

「はい!」

「……!」

 カタリナとルーナは後方に下がり、恭一とまり恵が魔女の方を向いて構える。

 魔女は、巨大なゲル状の魔物の姿をしていた。

 その肉体からは異臭が放たれ、吸っただけで不快になりそうだ。

 恭一、まり恵、カタリナは鼻をつまむ。

「この魔女の身体は、人々の憎しみを吸って巨大化するんだ。早めに倒して!」

 ジュウげむが魔女について説明する。

 つまり、時間をかければ、この魔女は巨大化して結界全体を覆い尽くす。

 そうなれば、倒す事は困難だ。

 

「だったら短期決戦で行くぜ!」

 恭一は光り輝く大剣を振り、大きな衝撃波を飛ばして攻撃する。

 カタリナとルーナは光の矢で魔女の弱点を撃つ。

「でぇぇえええいっ!」

 まり恵は勢いよくハンマーを振り下ろし、魔女目掛けて叩きつける。

 魔女の身体の一部が潰れるが、すぐに再生し、

 先端から白く濁った粘液が水鉄砲のように発射された。

「危ない!」

 粘液が恭一に当たる直前、まり恵が身を挺して恭一を庇い、代わりに魔女の攻撃を受ける。

「やだ、身体がべたべたする! もう、いやーっ!」

 この粘液は、ある意味魔法少女の天敵である。

 まり恵は必死で粘液を振り払っていた。

「ったく、これだから魔女は嫌なんだよ! ほら、今、粘液を取ってやる!」

 そう言って、恭一は剣を振り、光をまり恵目掛けて飛ばした。

 その光が当たると、まり恵の身体に付着した粘液が少し取れた。

「……ありがとね。もう、許さないんだから!」

「俺もそのつもりだ! 食らえ、クリムゾン・ナパーム!」

 恭一は光の剣で魔女を一閃した後、爆炎を起こして大ダメージを与える。

 さらに、ルーナの援護を受けたカタリナが、魔女に魔法の矢を乱射し蜂の巣にし、

 まり恵がハンマーを叩きつける。

「ぐああぁぁぁっ!」

「きゃぁぁぁぁっ!」

 魔女は白く濁った粘液を水鉄砲のように発射し、恭一とまり恵の肌を炎のように焼いた。

「もう許さねぇ! 倒れろ! ラフディバイド!」

「ジャスティスアロー!」

「☆◇×▽!」

 恭一は魔女が巨大化しないように、魔女を連続で斬りつけた後、

 剣の切っ先から白い光を立ち昇らせる。

 カタリナが放つ矢は正義の光を纏い、ルーナは手からビームを放つ。

「とどめよ! フリーズインパルス!!」

 そして、まり恵はハンマーに冷気の力を宿し、魔女を勢いよくぶん殴った。

 ハンマーの先から凍り付いた空気が、霜となって舞い落ちる。

 その霜が魔女の身体を覆い尽くすと魔女は氷の像になり、

 しばらくすると白く光って粉々に砕け散った。

 結界は消え、そこにいた人々は別人のように大人しくなり、武器を落とした。

「あれ? 俺達は一体何をしてたんだ?」

「さあ……」

 

「魔女を倒せたみたいだね」

 すると、ジュウげむが恭一達の前に現れた。

「キミ達が無かった事にした災いは、アメリカ同時多発テロだよ」

 それは2001年9月11日に発生した人災。

 世界貿易センタービルとペンタゴンに飛行機がぶつかり、破壊された事件。

 あるテロリストによって起きた、最悪の人災。

 それが無かった事になり、人々からそれらに関する記憶は消えた、とジュウげむは語った。

「魔法少女よ、勇者よ、災いに勝ってありがとう」

「はいはい、どういたしまして」

「ジュウげむ、あなたは本当に過去を変えたいの? そんな無意味な事をしていいの?」

「……私は、これからどうすれば……」

 恭一はジュウげむに軽く礼を言い、まり恵とカタリナは怪訝な表情でジュウげむに質問した。

 すると、ジュウげむは左右の目を光らせた。

「ボクはキミ達人間の味方だ。そんな事を言うなんて馬鹿だね。

 新型コロナウイルスの存在そのものを無かった事にしたから、

 多くの大規模イベントは無事に開催されたし、

 東京オリンピックだってかなり盛り上がって経済も鰻上り。

 そんな幸せを自分から捨てちゃうなんて、キミ達はどうかしてるよ。

 いつか、キミ達はこの選択をした事に後悔する事になるよ。

 こんな事をしなきゃよかった、って!」

 そう言って、ジュウげむは翼を羽ばたかせ、どこかに飛び去っていった。

 

「過ぎ去りし時は、決して戻ってこないのが理。そんな理なんて、無くなっちゃえばいいのに」

 

 その頃、奈穂子は恭一の帰りを待っていた。

「……私、本当に恭一君の力になれるのかな。いつも守ってもらってばかりだし……」

―なれるよ。

 どこからか声が聞こえてくる。

 しかし、周りには誰もいなかった。

「幻聴……なのかな? よし、恭一君を信じよう。

 恭一君は、絶対に魔女を倒して、帰ってくるって」

 

「ただいま、奈穂子!」

 そして彼女の思った通り、恭一は無事に帰ってくるのだった。




ジュウげむにとって災いは魔法少女に消されるためだけにあるもの、と言っておきましょう。
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