ある魔法少女の物語   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

カタリナと恭一は、それぞれの仲間と共に魔女と戦う。
カタリナは味覚を失い、恭一はジュウげむの導きで魔女を探し、魔女を倒して人々を救う。
ジュウげむは彼らの勝利により、過去の災害を無かった事にする。
しかし、カタリナと恭一はその行動に疑問を持つのだった。


第13話 幸せ

 憎悪の魔女を倒し、アメリカ同時多発テロは無かった事になった。

 カタリナが味覚障害になったのを除いて、災いは綺麗さっぱりなくなった。

 

 そして、今日も恭一達は真字駆高校に通う。

 1時間目は数学の授業だったが、恭一はいつものようにぼんやりと聞いていた。

「幸せ……か」

 確かにジュウげむの言う通り、新型コロナウイルスが最初から存在しなかった事になり、

 2020年は「五輪の年」となって世界中が熱狂の渦に包まれた。

 だが、恭一はどうしても納得がいかなかった。

 過去を変えれば失われたものが戻ってくるが、同時に過去を変えた事で失われるものもある。

 ジュウげむはそれに、全く目を向けていないのだ。

(失われるものといえば、少女の日常くらいか。……いやいやいや、軽く見るんじゃない。

 奈穂子の日常を失いたくない)

 過去を変える――すなわち、魔女を倒すには、魔法少女か恭一にしかできない。

 だとすれば魔法少女を呼びたいところだが、ジュウげむと契約する事になる。

 恭一はこれ以上、魔法少女と魔女が関わる事件に関わりたくなかった。

 どうすればいいのだろうか……。

 

「……若林。ぼーっとしているが、どうかしたか?」

「はっ! す、すみませんでした」

 その時、数学教師の元井先生が恭一に声をかけた。

 恭一は我に返った後、元井先生に謝った。

 

「なあ、奈穂子」

 そして、休み時間に入り、恭一は奈穂子に問う。

「こんな世界って、おかしくないと思わないか?」

「おかしいって……」

「確かに、俺達は魔女を倒して過去を変えている。けれど、過去を変えて本当にいいんだろうか。

 人はより良い未来を築くために災いを教訓にする、って宮園先生が言ってた。

 でも、災いを無かった事にしたら……」

 過去を変えれば、それに繋がる未来も変わる。

 すなわち、教訓による成長も、無かった事になる。

「それでも今の真字駆市は平和だよ。ね、恭一君?」

「だけどよ、そんな世界を黙って受け入れるほど俺は頭が良くないんでね」

 恭一にとって、普通の少女を魔法少女にし、

 さらに過去改変をさせたジュウげむは許せないようだ。

 結果として世界は平和になっているようだが、そこに至るまでに、

 何人の未来をジュウげむは奪ったのか……恭一はそれに怒りを露わにしていた。

 そして、恭一は奈穂子にも意見を聞いた。

「奈穂子は、これをどう思うんだ?」

「私は……」

 奈穂子が何か言おうとした矢先、授業開始を知らせる鐘が鳴った。

「あ、そろそろ時間だよ! 教室に戻ろう!」

「そ、そうだな」

 

 そして、全ての授業が終わり、放課後。

 恭一と奈穂子は、全ての元凶であるジュウげむを探しに向かった。

 彼(?)はどこにいるのか分からないため、探すのに大変苦労した。

 それでも数分後、二人はジュウげむを発見した。

「お前は、何の罪もない少女を戦いの道に進ませて、これまでの歴史をひっくり返したいのか?」

「魔法少女を生み出したのは確かにボクさ。でも、それを望んだのはキミ達人間じゃないか」

「確かにそうだけど……でも、何かを犠牲にして得た平和なんて、やっぱり間違ってるよ!」

 ジュウげむは少女の日常を奪い、歴史を歪める戦いに加担させた張本人だ。

 さらに奈穂子までその道に引き込もうとするため、

 彼女は毅然とした表情でジュウげむに反論した。

 だが、ジュウげむは悪びれず、涼しい声で言った。

「何を言ってるんだい? 世界平和のためには、一人くらい犠牲になってもいいだろう?」

「この野郎……!」

「落ち着いて、恭一君!」

 恭一はジュウげむに向かって手を振り上げるが、奈穂子は恭一の手を掴む。

 彼女の困った表情を見た恭一は、手を下ろす。

「どんな形だろうと、世界が平和ならそれでいい。みんなが幸せならそれでいい。

 平和のためには、魔法少女が必要なんだ」

 ジュウげむは世界を平和にする事に執着している。

 そのためならどんな犠牲があっても構わない。

 恭一や奈穂子から見れば、それは異常だった。

「じゃあ、例え話を言うよ。あるところに、傷ついた子供が倒れていた。

 その子供は手当てをしなければ死んでしまう。でも、キミは救急道具を持っていない。

 そこに、ボクが現れ、契約すれば助けると言った。さあ、キミはどうしたい?」

 この例え話の答えは、「ジュウげむと契約して子供を助ける」というのが普通の考えである。

「誰か、手当ができる人を呼んでもらう。それが、私の答えだよ」

 だがそれは、周りに誰もいないのが前提だ。

 その穴を突いた奈穂子が、こう答えたのだ。

「驚いた。キミは頭が良いんだね」

 ジュウげむは奈穂子の答えに驚くが、奈穂子は毅然とした表情を崩さない。

「私には恭一君がいる。恭一君なら助けてくれるって信じてるから。

 だから、あなたの誘いには、乗らないよ」

 奈穂子は、幼馴染の恭一を非常に信頼している。

 口先だけではなく、心から彼を信じているから、彼女も魔法少女にならないと決めているのだ。

 それに対しジュウげむは、表情一つ変えず、奈穂子だけを見てこう言った。

「キミの事が分かった気がしたよ。

 類稀なる魔法少女の素質を持ちながらその時になるまで決して魔法少女にならない。

 ……キミは必ず、この世界を変える切り札になるだろう」

 そしてジュウげむは恭一の方を向き、奈穂子の時とは違う声色で言った。

「脚本通りに動かない役者も、舞台も、この世界には必要ないからね。……それじゃ」

「あっ、待て、ジュウげむ! お前にはもう少し聞きたい事が……!」

 ジュウげむは、テレポートで姿を消した。

 現場に残っているのは、恭一と奈穂子だけだった。

 

「……脚本通り、か」

「ジュウげむは、私達を舞台に上げているみたいだね。

 過去を変えてまで、みんなを幸せにしたいのかな。だとしたら、私は……」

「安心しろ、お前は魔法少女にはしない。だから、これからも俺を信じてくれ」

「うん!」

 

 ジュウげむが望む「幸せ」とは、一体何なのだろうか。

 恭一と奈穂子の戦いは、まだ終わらなかった。

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