ある魔法少女の物語   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

恭一達はさらわれた奈穂子を助けるため、ジュウげむを追う。
洞窟で使い魔と戦い、過去の記憶に苦しむ。
まり恵は母を救うために魔法少女になり、三加は両親の離婚を取り消すために契約した。
カタリナは震災の教訓を守るために戦う。
恭一達はジュウげむの誘惑を振り切り、奈穂子を救うために進むのだった。


第21話 真実

「使い魔がいるって事は、この辺に魔女がいるはず」

 恭一達は奈穂子を助けるため、地下を進んだ。

 使い魔がいたため、魔女が陣取っているはずだ。

 だが、いくら歩いても、魔女に出会う事はない。

「おかしい……どうして魔女がいないんだ? 使い魔がいるなら、魔女もいるはずなのに……」

 恭一は魔女がいない事に疑問に思いながらも四人はついに奈穂子が囚われた場所に辿り着いた。

 そこにあったもの、それは……。

 

「な、何これ……!」

 少女が眠る筒が、たくさんあった。

 恐ろしい光景を見たまり恵が固まる中、ジュウげむはいつも通りの表情だ。

「よくここまで来たね。ここは『災禍の柱』。

 ここで、世界各地で過去に起こった災いを、少女の中に入れて、少女を魔女に変える。

 そう、魔女は災いを背負った少女の成れの果てさ。

 そしてボクは、願いを司る存在――『フォルテュナ』だ」

 災禍の柱について、ジュウげむ――フォルテュナは説明する。

 過去に起こった事件や災害を、少女を依り代に具現化した存在、それが魔女の正体だったのだ。

「どうして、こんな事をするんだ!」

「魔女を倒せば災いは消える。何故それを否定するんだい?」

 フォルテュナは、全く悪びれもしない。

「ボクは、ある人の願いから生まれたのさ。

 天災や疫病から世界を守りたい、そのためにそれをコントロールしたい、という願いからね」

「な……!!」

 自然災害や感染症といった「天の災い」は、人では制御できないはずなのに。

 この生き物――フォルテュナは、できると言った。

「どうして、そんな事ができるの!?」

「天災や疫病は人の目には見えないから、人はそれから逃げる事しかできなかった。

 でも、ある人が願った事で、ボクは生まれ、人は災いに対抗できるようになった。

 それが、キミの前世、セーラだったんだよ!」

「え……!?」

 フォルテュナは、真っ直ぐに奈穂子を見据えた。

 全ての元凶であるフォルテュナが生まれたのは、奈穂子の前世のせいだったのだ。

「14世紀フランスに生まれた農民の少女セーラは、『人の苦しみを取り除きたい』と願った。

 その願いからボク――フォルテュナは生まれ、ボクはセーラの願いを叶えて魔法少女にした。

 魔法少女になれば、その強大な力を使って、過程を無視して結果だけをもたらす事ができる。

 災いを最初から起きなかった事にする事も可能だ。

 だけど、対価も無しに力を使えると思ったのかい?

 実は、魔法少女は力を使うごとに体や心が磨り減っていくんだ」

「何っ!?」

 フォルテュナが告げた真実に、恭一は愕然とする。

 魔女と戦っている魔法少女の気が抜けたり味覚障害になったりするのは、そのせいだったのだ。

「やがて抜け殻……空っぽの器になったセーラに、

 ボクは14世紀に大流行した死の疫病『黒死病』を降ろし、『魔女』に変えた。

 セーラは最初の魔法少女にして最初の魔女なのさ」

「……」

 なおも淡々と真実を話すフォルテュナ。

 まり恵はショックのあまり、言葉が出なかった。

 セーラの願いは、セーラ自身も滅ぼしたのだ。

「魔女になったセーラは、ヨーロッパ各地に災厄をばら撒いた。

 それから600年後の1949年、ボクはジュウげむと名を改めた。

 そして、日本の少女、若林沙耶はボクと契約して魔法少女になって、

 魔女になったセーラを倒し、黒死病の流行は無かった事になった」

「もしかして、若林って……俺のばあちゃん!?」

「その通り。だから、キミは魔法少女じゃないけど、魔女と戦う力を持っているんだよ」

 まさか、自分の祖母が魔法少女だったとは。

 つまり、頭の中に聞こえたあの声は、若林沙耶の声だったのだ……と理解する。

 

「話は変わるけど、どうして災いを簡単に無かった事にできるの?

 一度起きた災いの爪痕は、簡単には消せないものなのに」

「簡単さ、セーラの思いがあまりにも強すぎたから、

 ボクはありとあらゆる法則を無視してどんな願いでも叶えられる存在になったんだよ。

 簡単に言えば、現実改変だね。

 災いの取り消し方としては、過去に起こった災いを少女の身体に降ろし、

 スケールを縮め、魔法少女でも倒せるようにして、過去を変える事ができるようにした。

 こうして今までに取り消した災いは、黒死病流行、天明の大飢饉、リスボン地震、石油危機、

 スペイン風邪、関東大震災、日航機墜落事故、阪神淡路大震災、アメリカ同時多発テロ、

 SARS、MARS、新潟県中越沖地震、ラクイラ地震、

 東日本大震災……はキミ達が魔女を魔法少女に戻したから駄目だったけど」

「……」

 以前、恭一達はジュウげむの謎を知るために図書室で調べ物をした事がある。

 天明の大飢饉が無かった事になったのは、やはりフォルテュナの仕業だったのだ。

「取り消した災いは他にも、熊本地震、西日本豪雨、エボラ出血熱、北海道地震、

 2019年の台風19号、そして、新型コロナウイルスCOVID-19。

 人は数多くの災いに苦しめられていたけど、もう、全部無かった事になったんだ。

 世界のために魔法少女に、そして魔女になってくれて、ありがとう」

「ふざけるな! 何が『ありがとう』だ!!」

 それは、あまりにもおぞましかった。

 災いを取り消すために誰かが人間をやめなければならないという、残酷な真実。

 恭一はそれを聞いて怒りが爆発し、フォルテュナに向かって大声で叫んだ。

「苦しみを消したのにどうして感謝しないんだい?」

「災いが起きた時でも、笑っていたい奴や、

 災いから立ち直ろうと努力している奴は世界にいくらでもいる!

 お前はそいつらの気持ちを、平気で踏み躙れるのか!?」

「恭一、それはキミのエゴだよ。災いに絶望する人も、それと同じくらいいる。

 キミは彼らの気持ちを踏み躙っているんだよ」

「だけどよ、災いを取り消したのだって元はといえばセーラ……いや、お前のエゴのせいだろ!」

 フォルテュナのおかげで、世界から災いが消えている事もまた事実。

 しかし、それはフォルテュナのエゴでもあった。

「幸せで、裕福で、健康な人だけの世界のどこが間違ってるんだい?」

 フォルテュナと恭一達は、平行線だった。

 世界を良くしようとするとはいえ、無実の人を犠牲にするのは、

 恭一にとって許せない行動なのだ。

「まやかしの幸せなんて、必要ない! 今すぐ魔法少女と魔女を生み出すのはやめろ!!」

「もう遅いよ。

 ボクはこれから、20世紀に世界中を苦しめた最大最凶最悪の災禍、世界恐慌を取り消す」

「何……!?」

「そのために魔女になってもらうのは、彼女さ」

 そう言ってフォルテュナが見せたのは、宙に浮いている奈穂子だった。

 彼女の表情は虚ろで、生気が見られない。

「奈穂子!!」

「彼女は類稀なる魔法少女の素質を持つ。つまり、類稀なる魔女の素質を持つのと同じ。

 彼女ならきっと、この災いもあっさり取り消せるだろうね」

 フォルテュナは、世界恐慌を奈穂子に降ろし、

 魔女にして恭一達に倒してもらい、世界恐慌を取り消すつもりらしい。

 もしも、世界恐慌が無かった事になれば、

 世界に与える影響は今までに取り消したどんな災いよりも大きい。

 しかも、魔女になった奈穂子を倒す事は、恭一には絶対にできないのだ。

「奈穂子を返せ!!」

 それだけは阻止しようと恭一は飛びかかるが、フォルテュナは涼しい顔をしていた。

「おっと、ボクを倒したらどうなるか分かるかな?

 ボクを倒した時点で魔法少女が退けた災いは蘇り、キミ達の戦いは無かった事になる。

 理想郷は無くなり、世界は複雑で理不尽になる。それでもキミは、ボクを倒すのかい?」

「……ああ!」

 魔法少女システムを破壊すれば、

 フォルテュナがたくさんの少女を犠牲にした事は無かった事になる。

 しかし同時に、世界から消えた災いも戻ってくる。

 恭一は一瞬躊躇ったが、すぐに頭を振り、フォルテュナの誘いを振り払う。

「失った過去を取り戻したい……そんな気持ちは俺にだってある。

 けれど、それが出来ないからこそ、人は前を向いて進む事ができるんだ。

 もしそれが出来るようになったら、人は全く成長しなくなるんだぞ!」

「人の望みによって生まれたボクを、どうして人が否定するんだい?

 災いが起きて辛い目に遭いたくないだろう? そう願ったのは、人じゃないか」

「お前がやってるのは、ただの現実逃避だ。現実逃避で人が強くなれるわけがない!

 今と未来を捨てて過去を取るなんて、俺は絶対にしたくないし、これからもしない!」

「キミはそんなに、人の強さを信じたいのかい?

 人はありもしない何かにすがらなければ生きていけないほど弱くて儚いのに」

「確かに、俺達はお前から見ればちっぽけな存在だ。

 でも、誰の手を借りずとも幸せを見つけ出す事ができる。

 幸せは誰かが与えるものじゃない。幸せは、自分の手で掴んでこそ価値がある!

 だから……もうご都合主義はいらないんだ!」

 恭一はフォルテュナの全てを否定した。

 フォルテュナに生殺与奪どころか運命の全てを握られるなんて、御免だからだ。

 

「やれやれ、キミ達はそんなに不幸が好きなんだね。せっかく幸せにしようと思ったのに……」

 彼の毅然とした態度を見たフォルテュナは、呆れたようにこう言った。

 フォルテュナは背に白い光の六翼を生やし、神々しい姿へと変化する。

 すると、ドン、という大きく鈍い音と共に、恭一達は、吸い込まれるような感覚に襲われた。

 ……いや、本当に、吸い込まれようとしている。

「何をした!?」

「この地球の自転と公転は止まった。今から太陽がこの地球を引き寄せて吸い込む。

 そして、汚らわしい地球は太陽の中に消える。過去、現在、未来の全ての災いと共にね!」

 なんと、フォルテュナは最後の手段として、地球そのものを滅ぼそうとしたのだ。

 最早フォルテュナの目には、恭一達の存在は全く映らなくなった。

 フォルテュナは自身を否定したもの全てを地球ごと消し去ろうとしている。

 恭一は地球を滅ぼそうとするフォルテュナに、光の剣を向けてこう言った。

「奈穂子を返して、この世界を元に戻すんだ!」

「災いだらけの世界なんて必要ない。なんて汚い世界。価値なんて全くない」

「世界はお前一人だけのものじゃない! 色々な人が生きて動くのが世界なんだ。

 それを『必要ない』の一言で片付けるな!」

「言いたいなら好きなだけ言え。こんな失敗続きの世界なんて、消してやる!」

「俺達の世界を、絶対に消させはしない!」

「奈穂子は必ず、あたし達が助けるわ!!」

「あなたがやっているのは世界を救う事じゃない」

「もう、永遠の悪夢は繰り返しません!」

「☆▲◇○!!」

「フォルテュナ、消えるのはお前だ!!」

 三人の魔法少女は変身し、恭一は光を纏う。

 恭一は光の剣、まり恵はハンマー、三加は本、カタリナは弓矢をフォルテュナに向ける。

 ルーナも、フォルテュナを鋭い目で睨みつけた。

 勇者と魔法少女と現実改変能力者の、最後の戦いが始まろうとしていた。




次回はラストバトルとなります。
過去に縋りつくラスボスを倒すべく、主人公は彼に挑みます。
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