静寂の最期   作:suzuki00

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内部探索

 

 深夜零時。

 

 館内の照明は最低限に落とされ、廊下は半ば闇に沈んでいた。

 

 悟、翔子、光輝、塩谷夫妻、そして宮本誠――六人は互いに目を合わせ、小さくうなずいた。

 

 

 

 「廊下のカメラは二階までだ。地下の通路までは死角になる」

 

 誠が囁くと、光輝が皮肉混じりに笑った。

 

 「まるで企業の倉庫荒らしみたいだな。慣れてそうで怖い」

 

 「仕事柄な」誠は短く返した。

 

 

 

 最初の目的地は、関係者以外立入禁止と記された「処置室」だった。

 

 ドアノブをそっと回すと、鍵はかかっていない。息を殺して中へ入る。

 

 

 

 部屋の中央には清潔なベッド。壁際には点滴や薬瓶が整然と並んでいた。だが異様なのは、棚の引き出しに収められた無数のファイルだった。

 

 悟が一冊を手に取る。

 

 「……これ、カルテか?」

 

 翔子が顔を覗き込み、声を失った。

 

 そこには“志願者の入居日と処置日”、そして「結果:安楽死」の文字が並んでいたのだ。

 

 

 

 光輝が低く呟いた。

 

 「やっぱり……死を“処理”しているんだ」

 

 

 

 正弘が棚の奥を探ると、別の書類が見つかった。

 

 《次回搬送予定:三名》

 

 そこには匿名のコード番号が記されていた。

 

 弘子が震える声で言う。

 

 「搬送って……どこに?」

 

 

 

 答えはなかった。だが、死を迎えた者が忽然と消える理由の一端が透けて見えた気がした。

 

 

 

 そのとき、廊下から物音がした。

 

 ――コツ、コツ。

 

 皆が息を呑む。誠が素早く照明を消し、耳を澄ませた。

 

 

 

 ドアの向こうで誰かが立ち止まる気配。

 

 低い囁きが漏れた。

 

 「……まだ残っているな」

 

 

 

 翔子が小さく悲鳴を漏らしそうになり、悟が肩を押さえた。

 

 数秒後、足音は遠ざかっていった。

 

 

 

 「今日はここまでだ」

 

 誠の判断で一行は処置室を後にし、それぞれの部屋に戻った。

 

 

 

 ベッドに潜り込んだ翔子は、胸の鼓動が止まらないのを感じながら天井を見つめた。

 

 ――ここは人を救う場所じゃない。人を消す場所だ。

 

 

 

 恐怖と同時に、強い決意が芽生えていた。

 

 「まだ見つけなきゃ……あの人の娘を」

 

職員との駆け引き

 

 翌朝の食堂は、奇妙な静けさに包まれていた。

 

 前夜の探索で心身をすり減らした六人は、互いに言葉少なに食事を口にしていた。

 

 

 

 そんな中、職員の川添幸雄がトレイを手にして隣の席に腰を下ろした。

 

 「昨夜は……眠れましたか?」

 

 その問いに、悟の手が一瞬止まった。

 

 「ええ、まあ」

 

 努めて平静を装うが、川添の目は鋭く、嘘を見抜いているように思えた。

 

 

 

 「この施設では、不思議な体験をする方が多いんです。声を聞いたり、影を見たり……」

 

 川添は淡々と言った。その声音は冗談めいていながら、どこか底知れない重みを孕んでいた。

 

 

 

 午後、廊下を歩いていた翔子は、看護師の荒川澄江に声をかけられた。

 

 「昨夜、部屋を出ていましたね?」

 

 翔子の胸が跳ねた。荒川の目は優しいが、その奥に冷ややかな光が潜んでいた。

 

 

 

 「……眠れなくて、廊下を歩いていただけです」

 

 必死に取り繕うと、荒川はしばらく沈黙し、やがて小さく笑った。

 

 「ここでは“眠れない夜”が続く人ほど、早く決断される傾向があります。……ご自身の心と向き合ってください」

 

 

 

 その言葉は忠告か、それとも警告か。翔子は返事ができず、ただ頭を下げてその場を去った。

 

 

 

 夜、探偵・宮本誠は川添を中庭で呼び止めた。

 

 「率直に聞きたい。あなたはここで何を見てきた?」

 

 川添はしばらく空を見上げ、低く答えた。

 

 「数えきれない最期を見ました。皆、安らかな顔で逝きましたよ。……それが“正しいこと”か、は分かりませんが」

 

 

 

 誠は一歩踏み込んだ。

 

 「安らかに逝くためだけの施設なら、なぜ“消えた”ように処理される? カルテも、搬送記録も――俺は見た」

 

 

 

 川添の目が細くなった。

 

 「……探しすぎると、ここでは長くいられませんよ」

 

 それは脅しではなく、むしろ哀れみのように響いた。

 

 

 

 同じころ、荒川はナースステーションで一人書き物をしていた。

 

 彼女の手帳には、こう走り書きが残されていた。

 

 

 

 《また彼らが動き始めている。

 

  止めるべきか、それとも……見守るべきか。》

 

 

 

 小さなランプの灯りに照らされたその文字は、揺れる心の証だった。

 

 

 

 翌朝、志願者たちは再び集まった。

 

 「職員たち……やっぱり何か知ってるな」光輝が低く言う。

 

 悟も頷いた。

 

 「でも川添さんの目、あれは……全部を否定してるようには見えなかった」

 

 

 

 翔子は手を握りしめた。

 

 「どっちにしても、私たちは真実を知りたい」

 

 正弘と弘子も、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

 誠は全員を見渡し、言葉を選んだ。

 

 「次は、もっと深く踏み込む必要がある。だが同時に、職員の中に協力者を探すことも考えた方がいい」

 

 

 

 小さな集会は、さらに緊張を帯びて幕を閉じた。

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