静寂の最期   作:suzuki00

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囚われの証言

翌日の昼、六人は誠の部屋に身を寄せていた。

 

 ベッドの上には、昨夜救い出した若い女性が横たわっている。顔色は青白く、声もかすれていたが、その瞳には必死の光が宿っていた。

 

 

 

 「……ありがとう……助けて、くれて……」

 

 弘子がそっと手を握り、水を口元に運んだ。

 

 

 

 誠が慎重に問いかける。

 

 「君の名前を、聞いてもいいか?」

 

 女性は弱々しく唇を動かした。

 

 「……美咲……杉山、美咲……」

 

 

 

 その名に、翔子が大きく目を見開いた。

 

 「杉山……? 私と同じ……」

 

 

 

 誠は依頼人から預かった写真を取り出し、彼女の顔に重ねて見せた。

 

 「やはり……君が依頼人の娘さんだな」

 

 美咲は小さく頷き、そして途切れ途切れに語り始めた。

 

 

 

 「ここは……死を望む人を……“商品”にしてる……。安楽死は……表向きだけ。本当は……薬を弱くして、まだ息のある人を……箱に入れて……」

 

 言葉が詰まり、咳き込む。翔子が背をさすった。

 

 

 

 光輝が険しい表情で身を乗り出す。

 

 「生きたまま……搬送してるってことか? 何のために」

 

 美咲は苦しげに首を振った。

 

 「……分からない。でも……“提供先”があるって……聞いた」

 

 

 

 沈黙が落ちた。

 

 正弘が低く呟く。

 

 「提供先……臓器か、実験か……」

 

 弘子が顔を覆い、震える声を漏らした。

 

 「人を……ただの資源として扱ってるのね」

 

 

 

 悟は拳を握りしめた。

 

 「そんなの……絶対に許せない」

 

 

 

 誠は冷静にノートを開き、断片的な言葉を記録していった。

 

 「つまり、この施設は“安楽死施設”を装った、人体供給の中継地……」

 

 彼の声には探偵としての冷徹さがあったが、その指先はわずかに震えていた。

 

 

 

 翔子は美咲の手を握りしめ、必死に問いかけた。

 

 「どうしてあなたは……まだ生きてたの?」

 

 美咲は微かに笑った。

 

 「……きっと、運がよかっただけ……薬が弱かった……」

 

 

 

 やがて彼女は力尽きるように瞼を閉じた。呼吸は浅いが、まだ確かに生きている。

 

 弘子が毛布をかけ、静かに言った。

 

 「この子を守らなきゃ。私たちが」

 

 

 

 誠は全員を見渡し、低く告げた。

 

 「彼女の存在は決定的な証拠だ。だが同時に、最も狙われるだろう。俺たちは今夜から完全に監視の対象になる」

 

 

 

 光輝が唇を噛みしめた。

 

 「……もう引き返せないな」

 

 

 

 部屋に漂う緊張感は、死を望んで集まったはずの彼らを、むしろ“生き延びるための同志”へと変えていった。

 

監視強化

 

 

 

 翌朝、施設の空気は一変していた。

 

 廊下には普段見かけない職員が立ち、要所ごとに視線を光らせている。

 

 食堂でも自由に席を移動することができず、志願者たちは半ば監視下に置かれているのが明らかだった。

 

 

 

 悟は落ち着かない様子で食器をいじり、翔子は下を向いたまま箸を動かせずにいた。

 

 光輝が小声で言う。

 

 「……完全に目を付けられてる。昨日のセンサー反応、やっぱり誤魔化しきれなかったな」

 

 悟は頷きながらも、周囲の耳を警戒して言葉を飲み込んだ。

 

 

 

 昼過ぎ、看護師の荒川澄江が翔子を呼び止めた。

 

 「最近、夜更かししていませんか?」

 

 穏やかな声だったが、眼差しは鋭く光っていた。

 

 翔子は一瞬息を呑み、「……眠れなくて」とだけ答えた。

 

 

 

 荒川は微笑みを浮かべたまま、低く囁いた。

 

 「無理に隠さなくてもいいんですよ。ここでは、皆さん同じ道を歩むのですから」

 

 その言葉は慰めではなく、警告として響いた。

 

 

 

 一方、川添は誠を呼び出し、中庭のベンチで向き合った。

 

 「昨夜、地下に誰かが入った形跡がある。……あなたではありませんか?」

 

 川添の声は淡々としていたが、目は誠の一挙手一投足を逃さなかった。

 

 

 

 誠は煙草を指に挟み、短く息を吐いた。

 

 「探偵は嘘をつかない……とでも言いたいところだが、時には沈黙が最善だ」

 

 川添はしばし誠を見つめ、やがて小さく首を振った。

 

 「あなた方は、もう戻れないでしょうね」

 

 

 

 夜になると、志願者たちは再び集まった。

 

 光輝が苛立ちを隠さず口を開いた。

 

 「職員ども、完全に俺たちを監視してる。次に動けば確実に捕まるぞ」

 

 正弘は低く唸り、拳を握った。

 

 「だが、美咲を守るには行動しかない。見つかった時点で俺たちも処分対象だ」

 

 

 

 翔子が震える声で言った。

 

 「もし捕まったら……私たちもあの箱に?」

 

 悟は彼女の肩に手を置き、強く頷いた。

 

 「だからこそ、俺たちは絶対に捕まらない」

 

 

 

 誠は全員を見渡し、慎重に言葉を選んだ。

 

 「職員の中には揺れている者もいる。川添や荒川……彼らは完全に敵と決まったわけじゃない。

 

  内部の分裂を突ければ、まだ道はある」

 

 

 

 光輝が眉をひそめた。

 

 「信用できるのか?」

 

 誠は淡々と答えた。

 

 「信用はできない。だが利用はできる」

 

 

 

 その夜、施設の監視カメラは不自然なほど多くの赤いランプを灯していた。

 

 まるで「お前たちを見ている」と告げるかのように。

 

 

 

 志願者たちは胸の奥に重い恐怖を抱えながらも、次の一手を探さずにはいられなかった。

 

 ――生き延びるために。真実を暴くために。

 

 

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