お金のない夜凪(偽)さん 作:貯金は大事
一度は考えたことがあるだろう。他人になりたい。違う自分になりたい。別の人間になりたい。自分以外の誰かになりたいって。でも、そんなのは夢物語。人は自分以外の誰かにはなれない。
だから人は夢を見る。なりたい自分になる夢を。
でも、それは本当に夢で終わってしまう。だって、なれるわけがないから。私は私でしかない。他の誰でもない。私は私として生きていくしかないんだ。そう考えながら己の心の領域の中身を開ける。
「………ない、わね」
財布の中身を見届けてから、ふぅと一息つく。いつからだっただろうか。私の懐がこんなにも寒くて寂しくなったのは。
───10年前。
私の名前は夜凪景。某演劇漫画で聞いたことのある名前だがそこまで気にすることはない。だって私は偽物だから。いくら容姿が似ていても中身が違う時点で本物にはなれないし、ただの他人のそら似ならぬ架空のそら似だ。そんなのはどうだっていい。何故って?それは……
「ねぇ、お父さん。本当に出て行っちゃうの?」
「そうだよ、景。これからはお母さんと二人で暮らすんだ」
おかしい。何故だ。ここまで似なくてもいいだろう。なぜこんな危機的状況に陥っているんだ。
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遡ること約一時間前。お父さんが知らない女の人を連れてきた。その女の人はゴミでも見るかのように私とお母さんを見つめていた。
「その人が貴方の言っていた人?」
「そうだよ」
「そう、貴方決めたことなら私はそれでいいわ」
何を言っているのお母さん。それにお父さんも何を言っているの?なんでそんな冷静でいられるの?なんで?ねぇなんで?───わからない。わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない
───わかんないよ!!!!!!
心の何処が壊れる音がした。静かに、そう静かに。小さく、誰にも気づかれない程に。暗い。周りがだんだん小さくなって、周りの人間の息遣いや外の音が心地よい程よく聞こえる。時が止まっているみたいに時間の流れが遅い。不思議と今までの思い出が蘇る。お父さんと元気な頃のお母さんと行った遊園地。誕生日に買って貰ったクマのぬいぐるみ。お父さんが忙しそうに書き殴った小説のお仕事。お父さんとお母さんと見た心の底から笑った映画やドラマ。
───嗚呼、頭が割れそうだ。
また私の中の何かが壊れた音がした。それはきっと、私が私でいる為の何かだ。でも、もう戻れない。いや、戻らないんだ。だって私は偽物だから。本物じゃないから。ならいっそこのまま消えてしまえばいい。そうすれば楽になれるから。
そうやって殻に閉じこもった
お父さん(クズ)とお母さん(お人よしすぎる)による精神攻撃で5歳の幼女の心には耐えられなかったらしい。そこでなぜか私(一般人?)がこのピュアな幼女の中に入ってしまった。
うん。ちょっと意味わかんないよね。私も意味わかんないからお互い様だ。でも先ずは今、この現状をどうにかするしかない。もう手遅れな気がするけれど。
あぁ、考えれば考えるほど───本当に頭が割れそうだ。
私はいったい何を書いているんだろう。