異世界に転移したのは日本だけではなかった~SCP財団日本支部召喚~ 作:M6A1(晴嵐)
―あらすじ
前回に続き皇太子来訪について話し合い。
取りやめを求める軍部と軍部の怠慢だと思っている外務省、お互いにヒートアップしていく中、着地点はどうなるのか?
それでは本編をどうぞ。
「海軍から情報は来ていますか?」
「何の事だ?」
外務省に海軍からは世界連合艦隊との衝突以降、特に情報は来ていなかった。
他官庁からの問い合わせなので、仮に情報が来ていたとしても「何の事だ?」と答えただろうが。
「各官庁が情報を共有しなければ…今後の帝国運営に支障をきたしてはいけないので、この場でお話しします。日本国について、どの程度の認識がありますか?」
ランボールが神妙な面持ちで尋ねてくる。
「我が帝国と同じ転移国家であり、そこそこの技術力は有しているが軍事力が低い。また島国であり他国に対する植民地化政策も進めていない為、規模も小さいだろう。この世界では列強のパーパルディア皇国を降したものの、技術格差によるもので、我が帝国に比べたらその力は重視すべきほどではない」
ダラスは外務省が認識している事実を淡々と告げる。
「我々もそのような認識でしたが、どうも海軍が日本国に怯えている様なのです」
海軍が日本に怯えている?
ダラスのみならず、シエリアにとっても初耳だった。
「何故です?」
「分かりません。現時点では、陸軍も海軍が日本国と衝突したという情報は入ってきていませんので、何らかの接触があったのか。はたまた何らかの情報を掴んだのか、全く分かりませんが…」
「怯えているという根拠は?」
「ギーニ国会議員はご存知か?」
「ああ。海軍と財界にパイプが強い議員だな。主戦派で極めて好戦的。確か転移直後からこの世界を征服するべきだと主張し、パガンダ王国*1での皇族殺人事件*2の後にタカ派の議員連盟の長として選出され、逆らう国の民は皆殺しにしてしまえとまで発言した超過激派人物だな。私個人としては帝国が世界を支配するのは賛成だが、ギーニ議員のやり方では必ず後世の支配に禍根を残してしまうだろうから反対だがね。財界の中でも兵器関連の企業とのパイプが太く、海軍では転移前は占領地護衛艦隊とのパイプが強かったはずだ。今は本国艦隊に編入されていたと思う」
ダラスの発言にランボールが頷く。
「そう。そのギーニ議員が急に消極的発言をしています。この世界の蛮族どもは既定路線通りに制服すべきだが、同じ転移国家である日本国とは戦わず講和すべきだ。同じ科学技術国家として不足する部分を補い合い、共に発展すべきだ。とまで言ったらしいのです」
「それだけで怯えていると思えないが」
「現時点では情報がこれだけしかありませんが、海軍の同期から『上層部がとても怯えている』と私に伝えてきました。一体何故怯えているのか…引き続き情報収集しようと思っています」
一度ランボールは間を置き、話を区切る。
「そして今後、戦況については詳細に分析しますが、今回のバルクルスへの攻撃、不意打ち等奇襲ではなく正規に警戒していてもなお被害を受けたのであれば、日本国の戦力と今後の作戦、進撃速度を見直す必要があります」
冷静な分析を行うランボールの発言は、ダラスの愛国心を逆なでした。
「栄えある帝国陸軍将校がそんな考え方でいいのか!海軍が何を掴んでいるのか、そして議員が何故そんな発言をしたのか知らんが、グラ・ルークス皇帝陛下の速やかなるムー大陸の制圧、そして早期の日本国攻略という命が出ている限り、それに従い命を掛けて命令を守るのが我々の務めではないのか!」
ダラスは皇帝 グラ・ルークスを神のように崇めている節があった。
「私は日本国と講和すべきだとは一言も言っていない!戦力を見直す必要があると言ったのだ!」
「陸軍は臆病風に吹かれたのか!」
「私の一言で陸軍全体にレッテルを貼るな!精神論だけ振りかざして何が出来るのだ!最前線の兵は分析、判断を間違えれば死ぬのだぞ!安全な所から口だけ出す外務省には分からぬかもしれないが、冷静に敵を分析するのは将校の務めであり、義務なのだ!必要な情報を確実に掴み、前線の兵の被害が減るように全身全霊を掛けることが、多くの死傷者を出すことが分かっていて、なおも死地に赴けと命令する側の最低限の義務なんだよ!」
グラ・バルカス帝国海軍ではある程度合理的な考え方が浸透していたが、陸軍には未だ精神論を唱える将校が多い。
そんな中、ランボールは珍しく合理的な思考をする人物であった。
再び議論が白熱して話しが脱線しそうになったため、シエリアが割って入る。
「ダラス、一々噛みつくな!冷静な議論が出来なくなる。ランボール殿、失礼した」
「ぐっ!(この小娘が!)」
ダラスは注意を受け黙る。
シエリアの脳裏には、先日行われた朝田との会談で見せられた映像が思い浮かぶ。
映像が赤ちゃんの手よりも小さいサイズのカード状の装置に記録され、劇的に薄いテレビが再生機能を備えていた。
帝国を上回る軍事技術を持っている可能性…あまりにも恐ろしいその想像を今までと同様、常識的理性で打ち消した。
「好戦的なギーニ議員が日本との講和を望む等、普通では考えられないことです。具体的に何があったのか、何を掴んでいるのか、我々独自のルートで調べてみます。海軍に何があったのかも合わせて調査します」
「よろしくお願いします。我が陸軍も情報を掴み次第、またお伝えしようと考えます」
日本国が脅威となり得る可能性がある事が、この場で共通認識となる。
議題は皇太子来訪に移った。
「グラ・カバル皇太子の来訪は、陸軍としてとても現状満足のいく警備態勢とは言えません。外務省が本件の主体の様ですので、延期を申し入れることは出来ませんか?」
「バルクルスの警備責任は軍部にあるのだろう?軍備を増強するなりなんなりして、警備を万全にすべきだ!」
ランボールの皇太子来訪延期の発言に、ダラスが噛みつく。
「その軍部が基地壊滅の原因が判明するまで、やめた方が良いと言っている」
「皇太子殿下が来ることは決定事項だ。人が足りない?危険性がある?出来ない理由を並べるのではなく、やらなきゃダメなんだよ!そんな意気込みで良いのか!」
「意気込み?そんな姿勢?こちらだって精一杯やっている!物事を成すにはプロセスと適切な人員配置、そして時間が必要だ!意気込みも必要だが、精神論だけでは危険性は除去できないのだ!」
「ダラス!噛みついても何も生まれないだろう」
三度議論が白熱した為、シエリアが割って入った。
「ランボール殿、失礼した。皇太子殿下の御身を危険に晒すわけにはいかないだろう。外務省からも、皇内庁に危険性があるため中止することを進言しよう」
会議終了後、シエリアは本土の省庁に対し「最前線基地 バルクルスが攻撃を受け、未だ危険が除去されていない為、皇太子殿下の来訪を延期して頂きたい」という旨を進言した。
―グラ・バルカス帝国 帝都 ラグナ
皇城の一室で、皇内庁幹部が冷や汗をかきながら皇太子 グラ・カバルを説得していた。
「最前線基地のバルクルスは、正体不明の攻撃を受け相当の被害を受けております。殿下の御身を危険に晒すわけにはいきません。本件の攻撃原因と安全性が確認されるまで、バルクルス視察を延期なさるか、レイフォル出張所へ変更を…」
「ふん。お前は分かっていないな。最前線基地とは危険なもの。そんな事、百も承知だ。しかし私は信頼している。絶対的な強さを持つ帝国臣民の作りし兵器を、そしてそれを運用する精鋭の帝国兵を!確かに危険はあるだろう。だが危険があるからといって私が行かなければ、グラ・カバルは安全な所にしか行かない臆病者だと考える者も出るだろう。皇族の、しかも皇太子が危険な最前線基地で兵達を激励する。これこそが重要なのだ!私が行くことは決定事項だ。外務省と軍部には、皇太子権限で行くことは決定事項だと伝えろ」
あまりにも危険すぎる。万が一、皇太子殿下に何かあれば、軍部と外務省の幹部全員ただでは済まない。
皇内庁幹部も例外ではいだろう。
「し、しかし!殿下、ご再考を!本当に危険性が高いのです!」
「くどいぞ!」
幹部はカバルに一喝された。
この日、皇太子権限による最前線基地 バルクルスへの視察が決定してしまったのだった。
―ムー国 キールセキ陸軍基地
基地内にある会議室、そこでムー国軍幹部、自衛隊幹部(財団職員含む)、そして第2文明圏各国の軍団長が集まり作戦会議を始めようとしていた。
「ただいまより、グラ・バルカス帝国のバルクルス基地への攻撃、そして同基地占領作戦の会議を始めます」
後にグラ・バルカス帝国の命運を決定づける事象、その1つ目が刻一刻と近づきつつある。
少し裏話を。
文章は基本原作(web版)を元に書いていますが、日付等は有志の方々が作られたwiki版の歴史年表を参考にしています。
今回、カバル皇太子やバルクルス基地への攻撃が史実より2週間~1ヶ月早いですが、それでも原作とずれが無いのは、某ゲームの単語を借りれば「歴史の修復作用」、分かりやすく言うなら「史実と多少のずれがあっても、余程の事がない限りその結果は収束していく」からです。
もっと簡単に言えば、「皇太子来訪と基地攻撃は"絶対に"同タイミング」になります。
誰も歴史からは逃れられないのだよ…
今後のパーパルディアは?
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原作通りに敗北
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更に大敗北を喫す
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