交流が続いた。示しあわせることはなかったけれども、公園に犬を連れていくと稀に会うことがあった。そのたびにふたりは犬たちを遊ばせ、そのあいだに会話をはずませていた。
このような年齢差の異性の友人をなんと呼ぶべきなのだろうか。俊典にはそれを表現するための語彙はなかった。
考えてみると俊典には普通の友人がいなかった。普通の友人──サラリーマンをしているような一般的な友人。
塚内直正がその枠にはいらないわけでもなかった。しかし、それもヒーローとしての自分があってのものである。
何も特別なことはない。何も劇的なことはない。それでも俊典は萌胡との交流で穏やかなものを感じとっていた。かつてないほどに。
「女ができたのか?」
「えっ」
轟炎司がそんな連絡をしてきたのは、萌胡との交流が半年ほどしてからだった。
「オフのときにバーニンが公園で見かけたと言っていたぞ。たのしそうだったとな」
バーニンほどのエンデヴァーの関係者なら、今の俊典の姿を知っていてもおかしくはない。迂闊だったかな? と彼は逡巡した。
「かなりの歳の差に見えたらしいな」
「友達だよ。無職の老人にもよくしてくれる」
「おれは男女の友情を信じるほうではないからな」
「それっぽいね」
「何?」
「なんでもない」
互いに廃業してからはこの程度の連絡をするくらいにはなっていた。友人と言えるほどでもなかったけれども、以前の立場を共有できるのは大きかった。
友人と呼びづらいのは昔の因縁と、単に性格の相性がわるいからである。
「本当に何もないんだよ、不思議と縁はあったけど」
「縁とは?」
「神野区で最後に助けた……あの人だよ」
「何もアリアリだろうが」
「それだけなんだよ、会ったのも偶然だし」
「なのに会ってはいるんだな」
「うっ」
「話したのか」
「話していないよ、話せるわけがない」
「別に良いじゃないか」
「……」
話しても良い──そのほうが誠実だ。誰が自分の正体を隠しながら、友人を誇ることができるだろうか。そんなことを平然とするのは宿敵くらいのものである。
しかし俊典は難色を示して、炎司にこんなふうに返す。
「怖いのかな。今の関係が変わってしまうのが……友人から……ヒーローとファンに戻ってしまうような」
「……ヒーローとファンか」
それは強者と弱者の関係にも似て、互いの目線が完全に合うことはない。庇護者はその背中ばかりを見せられて、救世主の表情を見られないものである。
しかし、ときに例外はある。炎司はその例外を知っていた。
「ときには憧れゆえの理解があるものだ」
炎司は知っている。どれほどの汚穢を見せつけられても、憧れの火がときに理解を凌駕することを。あの争乱のあともファンレターは届いたのだから。
盲目的に信じるのではない。どんな人物も完璧ではない。あの少年は若いながらにそれを受けいれることができたのである。
見ろや!
あの少年は今でも元気にしているのだろうか。
「あの女はオールマイトに憧れているのか」
「それは……」
俊典は逡巡する。自分の像を萌胡が眺めているときの、あの慈しみの表情を思いだしていた。
「ちがうと思う」
「それなら話してみると良い。すぐでなくても良い、おまえの決心がついてから」
「……ありがとう。きみは強いな」
「已めろ。おまえに褒められるなんて、背筋が痒くなってくる」
炎司は電波の向こうで今も車椅子に乗っているのだろう。轟燈矢が亡くなったあとも彼は戒めの姿を受けいれていた。
その姿はエンデヴァーでいたころよりも遥かに強いものだった。