TSしたら口数少ないイケメン親友に歪んだ溺愛?されてます   作:エイジアモン

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16.天使と買い物

 

 今日は土曜日、という事で叢雨(むらさめ)くんにハンバーグを作って、食べてもらう日だ。

 

 たった1週間だけど、毎日最低3個は作って練習した。

 正直、味はお母さんには全然及ばないし、形もイビツで焦げが目立つ。

 

 ギリギリ、お母さんが言うには「ギリギリ赤点回避かな」という事らしいけど「それでも良いからお出ししなさい」という事だった。

 

 正直こんな物を出すのは(はばか)られるけど、出すと決めたからには今日はいつも以上に、今まで学んだ事を発揮して作らなければ! と気合を入れる。

 

 さて、今日はちょっと気合を入れる意味でも髪型を変えてみようと思う。

 料理の邪魔になりにくそうな髪型……と、思いつくのはポニーテールだ。

 というわけでしっぽの高さを調節して俺好みのポニーテールにする。

 

 次に服装だけど、これは叢雨くんが好みそうな格好をしようと思う。

 そうなると一言で言えば露出が多い服だ。

 

 そうだな……肩とヘソ出しで行こう。

 スカートは……まあミニスカートが定番だな。

 っていうか、ミニプリーツスカートだけでこんなに買ってたのか……。

 いや俺も好きだけどさ。……履くのが好きかはまた別だけど。

 

 ヘソ出しオフショルダーの服を着てみた感覚は何というか……凄く心許(こころもと)ない。

 服を着てるという感覚が薄く、羽織ってる?とかそんな感覚で簡単にずり落ちそうだ。

 ってかこれで料理するの? ……まあエプロン着けるから大丈夫でしょ。

 

 さて、身なりはこれで良し! いつでも来い!

 

◇◆◇

 

「ピンポーン」

 

 呼び鈴が鳴り、急いで玄関へと向かう。

 扉を開けて叢雨くんの顔を見る。

 

「おはよう叢雨くん!」

 

「おはよう」

 

 いつもの鋭い目に一見無表情だ。

 だけど俺には分かる、今少し嬉しいだろ? 分かるよ、俺もだ。

 

「さあ上がって! ……と言いたいところだけど、まずは買い物に行こう!」

 

「?」

 

 いきなり何の事だ、と思ってそうな顔だ。

 

 実は昨日の夕方、お母さんと材料を買いに行ったときにこう言われたのだ。

 「明日一緒に材料を買いに行きなさい」と。

 買うところから見せる事で、ただ作るよりも印象が良くなるという事らしい。

 

 家庭的な面を沢山見せる事で好印象だと。

 

 うん、分かる。元男からするとめっちゃ分かる。

 時代的なあれでなんだかんだあっても、男からすれば家庭的な女性って良いよね。となるものだ。

 家に帰ったらお風呂とご飯とワ・タ・シの3択を迫られたい。

 レンジでチンして1人飯などクソ喰らえだ。

 

 うちのお父さんだって帰りが遅くなってもお母さんがちゃんと温め直して、食べなくても同じ食卓に座って夫婦の会話をしているぞ。

 

 というわけで心から納得した俺はその作戦で行く事に決めた。

 それに……買い物デートというのも悪くない。

 

「お母さん! ちょっと行ってくるね!」

 

「ちょっと待て」

 

「ん? どうしたの?」

 

「今日は一段と可愛いな」

 

 !?

 おまっ!? お前ぇぇ!! 普段そんな事言わないくせに!!

 不意打ちは卑怯だぞ!!

 

 頬は一瞬で紅くなり、頭は熱を帯びた。

 

「――あ、ありがとう」

 

 叢雨くんを直視出来ずに顔を逸らし、顔を隠すように手で髪をいじりながら、それだけ言うのが精一杯だった。

 

 そんな俺を叢雨くんは抱き締めた。

 驚いたけど、俺も叢雨くんの背中に腕を回し、大きな胸に顔を埋めるのだった。

 

「い、行こうか!!」

 

 ひとしきり叢雨くんの匂いを吸い込んで身体を離し、玄関を出る。

 そのまま叢雨くんの手を引いてスーパーへ買い物に出かけたのだった。

 

◇◆◇

 

「何を買うんだ?」

 

「ハンバーグの材料だよ」

 

「なるほど」

 

 手を繋ぎ、店内を回った。

 材料を選ぶ俺と、カゴを持って所在なさげな叢雨くん。

 まるで迷子の子供を引き連れているような、そんな気分だ。

 

 こういう来慣れない場所だと叢雨くんでもこうなるんだなあ。

 なんか可愛く見えてきたぞ。

 

「随分と慣れてるな」

 

「まあね、最近は毎日のように来てたし」

 

「そんなに練習したのか」

 

「あ〜、うん」

 

 少しの気恥ずかしさを覚える。

 でもね、その程度の練習じゃあ、全然なんだよ。

 

 と思っていたら、叢雨くんがお菓子をカゴに入れ始めた。

 

 ってコラ! 勝手に入れるな。

 あ、ジュースまで! ちょっと!?

 

「オレが出す」

 

 またそんな事を。

 いつも出して貰ってばっかりじゃ悪い。

 

「あのね――」

 

「オレが何もしないのはおかしいだろ」

 

「――う」

 

 多分、材料選びからハンバーグ作りも全部俺がやるから、材料代くらいは出したい。叢雨くんはそう考えたんだろう。

 そしてお菓子やらジュースやらを入れる事で、叢雨くんが代金を払う事に対する俺の罪悪感を減らしてるんだ。と思う。

 ……考えすぎかなあ、ちょっと叢雨くんに都合良く考えすぎてるかも。

 

 まあいいや、その方が相手を悪く思うより何倍も良いし。

 

「――うん。ありがとう叢雨くん」

 

 そう言って、叢雨くんに微笑んだ。

 瞬間、しまったと思った。

 

 いつもならここで抱き締めてくる。

 だけどここじゃ、レジ待ちしているここじゃ流石にどうかと思う。

 だけど叢雨くんは、繋いでいた手を恋人繋ぎにしただけでそれ以上は何もしてこなかった。

 

 ふぅ……。

 どうやら叢雨くんもここではマズいと思ったのか、抑えてくれたみたいだ。良かった。

 

 と思っていたのも束の間、会計を終えてスーパーを出たら。

 

「もういいか」

 

 そう言って抱き締められた。

 叢雨くん、君の判断基準おかしくない?ここでも沢山の人がいるんだけど?

 

 だけどまあ、店内でしなかっただけ良かったかな。よく我慢したね。

 そう思って、抱き締められながら叢雨くんの頭を撫でてあげるのだった。

 

 当然、場所が場所だけに注目を浴びた。

 終わった後は、そそくさと逃げるようにその場を離れた。

 

 よく考えたら、最近は毎日来ていたし、このスーパーは家から近い。これからも来る事になるだろう。

 うわあ、やらかした。

 これからどんな顔して来れば良いんだ。

 

「……すまん」

 

 帰り途中、もう一度謝ってくれた。

 今更どうしようも出来ない、けどまあ……許すけど。

 

「しょうがないなあ、許してあげる」

 

◇◆◇

 

「ただいま〜」

 

 そう言ってリビングに顔を出す。

 

「はい、おかえり」

 

 お母さんの返事。

 

「じゃあ早速作るから、叢雨くんはリビングで待ってて」

 

 そう言ってキッチンへ向かった。

 

「……」

 

 材料を広げ、エプロンを着けていると視線を感じる。

 心配でお母さんが見に来てるのかな、なんて思いそちらを見ると、叢雨くんだった。

 

「どうかした?」

 

「エプロン姿も可愛いな」

 

 !?

 こいつはッ!!

 何だよ今日はもう!! いつもはそんな事言わないだろ!!

 てか、邪魔だからキッチンから出ていけ!!

 

「ありがと!! でも邪魔だからリビングで待ってて!」

 

「邪魔しないから作るところを見ていたい」

 

 子供か!?

 う〜ん、いや、本当は邪魔なんじゃなくて、恥ずかしいから何だけど。

 後、見られてると緊張して失敗しそう。

 

 そんな事を考えていると、お母さんが助け舟を出してくれた。

 

「ダメよ叢雨くん、緊張して失敗したら大変よ?」

 

「まる焦げでもオレは食べます」

 

「そうじゃなくて、ハルちゃんが包丁で手を切ったら? ……だからダメ」

 

「それは……。ハル、邪魔してすまん」

 

 お母さんの説得により、やっとリビングへと戻っていった。

 去り際にお母さんはウィンクしていった。

 格好いいなあ、俺もあんな大人になりたいものだ。

 

 でも良かった、オレが舐めますとかズレた事言わなくて。

 本当にやりそうだからな……叢雨くんなら。

 

 さてと、それじゃあハンバーグ作りに集中するか。

 

◇◆◇

 

 ハンバーグ作りは想像以上に困難だった。

 

 なぜかというと、普段作っているのより厚みもサイズも大きいからだ。

 厚みが違えば焼き加減も当然変わってきて、加減が分からない。

 

 そしてまあ、当然の帰結として、焦げが多めのハンバーグの完成だ。

 だってしょうがない、焦げないようにすると中までちゃんと火が通ってない可能性があるから。そっちの方が危ない。そんなものは食べさせられない。

 

 問題は、普段からこのサイズを作る事は無いと言う事だ、家族でこのサイズを食べられる人はいない。だから練習も出来ない。どうしたものか……。

 

 まあ、それは一旦置いておき、一応、本当に一応だけど完成した。

 お母さん曰くギリギリ赤点回避してたものが、今回は余裕の赤点だと思う。

 

 まじでこれ出すの〜?

 嫌だなあ、とは思うけども、もう一個作るには材料が足りない。

 

 しょうがない。

 まる焦げでも食べると言ってくれたし、これを出すしかない。

 

 大きくため息をつきつつ、皿に人参とブロッコリーとハンバーグを乗せて、ハンバーグソースをかけて、完成。

 

「出来たよー」

 

 リビングに声を掛けると叢雨くんがすぐに来た。

 心待ちにしていたと思う、でもこんなのでゴメン。

 

 こんな恥の塊みたいなハンバーグ、それでも叢雨くんなら食べてくれると思う、けど、それは叢雨くんが俺の事が好きだからだ。

 決して美味しいわけじゃない、ほんと、もっと上手くならないと。

 

「……はい」

 

 恐る恐るハンバーグの乗った皿を渡す。

 見るからに焦げが多く、お店どころか普通の家庭でもお出し出来ない代物だ。

 恥ずかしさと情けさなで一杯だ。

 

「ありがとう」

 

 だけど叢雨くんは嫌な顔一つせず、それどころか嬉しそうに、それは無表情でも感情が見える、というようなものでは無く、普通に表情に表れていた。

 そしてそれを受け取ってダイニングの食卓に置いて、嬉しそうにそれを眺めていた。

 

 残りの皿やご飯なんかは俺とお母さんで運んだ。

 

「アレ以外はまあまあね。でもアレは……言わなくてもいいか」

 

 お母さんはそう評価した。

 本来はまあまあと評価されるのも初めてで嬉しいはずなのに、ちっとも嬉しくなかった。

 だって、アレのために頑張って作ってきたんだから。

 

「ハルちゃん、まだ1週間なんだから、それで追い越されたらお母さんも立つ瀬が無いよ。だから、今はアレでも良いの。でも食べてくれる叢雨くんに感謝しないとね」

 

「……うん」

 

 そう言って、お母さんは俺を優しく抱き締めた。

 

「お母さんね、ハルちゃんが女の子になって嬉しいな。だって前はこんな風に抱き締めたら嫌がるんだもの」

 

「お母さん……」

 

「さ、叢雨くんが待ってる、行きましょ」

 

「うん!」

 

 お母さんに慰められて、俺たちは叢雨くんが待つダイニングへと移動した。

 

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