TSしたら口数少ないイケメン親友に歪んだ溺愛?されてます 作:エイジアモン
インターホンを押し、玄関先で待つ。
嫌なイメージしか湧いてこない、緊張で汗が吹き出してくる。
ハルじゃなくておばさんが出てきて、昨日の事を責められたらどうしよう。
駄目だ駄目だ!! こんな気持ちじゃ!!
悪いイメージを振り払うように頭を振っていたら、玄関の扉が開いた。
「はーい、って……」
ハルだ。
会う度に思うが、本当に綺麗で可愛くて、最高だ。
微笑みを向けられたら抱き締めたい衝動に駆られてしまう。
目が合い、お互いに言葉に詰まる。
何を考えているのか、その表情からは
責められるのか、扉を閉められるのか、それとも無視されるのか。そんなネガティブな思考が駆け巡る。
その沈黙は、とても長く感じ、永遠に続くんじゃないかとさえ思えた。
そして多分、一瞬の沈黙の後。
「ようキリ、そんじゃ行こうか。 いってきまーす」
――え?
それは余りにも予想外の反応だった。
ハルは家の中に声を掛けた後、オレの横をスっと通り玄関から出たところでオレに振り返った。
「おい、行かないのか? 何ぼーっとしてんだ」
「え、あ、ああ。すまん――」
ハルの言葉で我に返ったオレはハルの元へと急ぐ。
何だ?どういう事だ?
まるで昨日の事など無かったかのように――。
いやそんな事はどうでも良い。
ただとにかく、ハルに拒絶されなかった。
それだけは間違いなく、その事実が嬉しくて嬉しくて、感じた違和感に気付かない振りをした。
横に並び、いつものように手を繋ごうとハルの手を取った。
ハルの手は柔らかく、少しオレの手より冷たい。女の子の手だと実感し、それが良い。
その細く、力を込めれば折れそうな白い指にオレの指を絡ませようとした。
「おい! いきなり手を握ろうとすんな! 気持ち悪りぃな!」
ハルはオレの手を振り払った。
――え?
「気持ち……悪い……?」
信じられなかった。聞き間違いだと信じたかった。
だけど実際に手は振り払われた。それが現実だ。
「ん? ああ、いくら親友でも手を繋ぐとか、女同士じゃあるまいし冗談でもやめろよな」
「あ……そうだな……すまん……」
――親友。
そういえば、さっきハルはオレの事を“キリ”と呼んだ。これは以前の、中学時代にハルがオレ呼ぶ時のあだ名だ。
昨日までは“叢雨くん“だった。
流石にもう違和感を見ない振りは出来ず、さっきの言動を思い出す。
――話し方も変わっていた。
やはり昨日の事が影響しているのは間違いない。
じゃあどういう風に影響しているかは……分からん。
分からない、けど確かな事は、今のオレは“叢雨くん”ではなく、“親友のキリ”のようだ。
まあいいか、とりあえず今はハルの横にいられるならそれで良い。
そんな風に呑気に思っていた。
◇◆◇
「おい、一体どうしたんだお前ら」
いきなり望《のぞむ》に問い掛けられる。
今は体育の時間、男女別合同クラスでの授業中だ。
「何がだ」
「今週入ってから変だぞ、特にハルちゃん。俺らへの話し方は別に変わってないけど、霧矢、お前への話し方と接し方だ」
「話し方はまあ、そうだな。接し方もそんなに違うか?」
ハルはオレ以外への周りへの接し方や話し方は先週までと同様で変わらなかった。
オレに対しては話し方が変わっていたのは分かっていたが……接し方は特に違うような気はしなかった。手は繋がせてもらえないが。
学校ではいつもオレの隣にいるし、そこは変わってないと思うんだが。
「全然違うぞ。 ……霧矢お前、気付いてないのか? ハルちゃんがお前の隣にいる時、先週までの恋する乙女な雰囲気じゃなくて、……そうだな……あえて言うなら、まるで気心の知れた親友みたいだぞ」
「あ〜、言われてみれば違うような気もするな」
「まじで気付いて無かったのかよ……。 ――何だよ、まさか日曜のデートで何かあったのか?」
「……いや、望におすすめされた水族館デートは上手くいった。その後が……な」
「言ってみ? わざわざハルちゃんがいないタイミングを見計らって聞いてやってんだから」
「そうだな、望なら言っても良いか――」
――ハルと中学まで親友だった事と、日曜の事後に起きた事、そしてここ最近の事を掻い摘んで説明した――
「なるほど親友ねえ、どおりでいきなりあそこまで好きになったわけか。 ――いや待て、親友が女になったからって好きになるか? 例えば仮にだ、霧矢が女になったとしよう…………う〜ん、いや無理だろ普通。 相当な関係だぞお前ら」
まあ普通はそうだろうな。
だがオレとハルの関係は長く、心の底で繋がっているかのような深さだ。そこらの親友関係と同じにしてもらっては困る。
しかし
「問題はそこじゃないだろ」
「だな、なんでハルちゃんが霧矢と同一人物である“キリ”を別人のように扱うか、だ」
望に説明するために頭の中で整理したら、自分でも少し分かってきた。
まず前提として、ハルはオレの事を中学まで親友だった
そして暮雲 霧矢だと明かした事で、どうしてかは分からないが、オレを“叢雨くん”ではなく、親友の“キリ”と見てるようだ。
思えばハルの家でゲームをした時、やけにゲームのキャラ“きりや“を特別扱いしていた。
あの時のオレはそれもオレなんだけど、と思った程度だった。
だけどハルにとってそのゲームの“きりや”は中学時代のオレとの思い出のキャラで、大事なものだったのだろう。
だからわざわざ“むらさめ”を作ったんだ。
多分その“むらさめ”もハルにとっては大事なキャラなのだろう。
そしてハルにとって今のオレは、親友のキリだ。
だから距離感も近いし、だけど手を繋ぐような男女の交わりはしないのだろう。
男同士は思春期以降、肩を組む事や肩に腕を回す事はあっても、手は繋がない。それは男女関係だと決まっている。
――という事は、今のオレでもハルと肩を組んだり腕を回しても大丈夫なのか?
早速この後試してみようと思う。
で、今後どうすれば良いか望と話し合った結果として、特に良いアイデアは出なかった。
望の見解としては、親友は親友であって、そこから恋人にはならねえよ。という事だからだ。
地道に頑張るしかないな、という毒にも薬にもならない着地点だ。
だけどオレは諦めない。
そもそもオレがハルに求めるのは、親友で恋人、という両取り、欲張りセットなのだから。
◇◆◇
結論から言うと、上手くいった。
休憩時間中、肩に腕を回してみたところ、それはすんなりと受け入れてくれたのだ。
流石に下校時には「歩きにくいからやめろ」と言われてしまったけど。
これはオレにとって、ハル成分が不足していたオレにとって、ハルに触れられるというのは大きな一歩だ。
先週までは当たり前だったハルに触れられると言う事のありがたさを噛み締めている。
後はハルに絡んだり、ふざけた振りをして、髪に触ったり、腕に触れたりするようになった。
望からは「霧矢はキャラ変わりすぎだ」と言われるくらい、喋る事も増え、周りの目が少し変わったような気もするが構うものか。
オレはもっとハルと触れ合いたいし、ハルの声を聞きたい、もっと関係を深めたいんだ。
とはいえ、ハルはあくまで親友として仲良くしているだけで、望の言うように恋愛に発展しそうな要素が全く見当たらない。
仲も良い、距離感も近い、だけどそれは親友としてだ。
末端での交わり、手を繋ぐ事は
その殻を破る方法は、考えても考えても思い浮かばなかった。
そんな進んでいるのか後退しているのか分からない日々を過ごし、金曜の下校中にハルが不意に言った。
「そういや週末どうすんだ? 特に出掛ける予定も無いけど」
思わず喜びに声を上げそうになる。
どうやって週末一緒に過ごそうかと理由付けや言い訳に悩んでいたところだ。
ハルがそう言ってきたという事は、オレを誘っているという事だ。
「親友として遊ぶ」という
悪い男にでも襲われたらどうするんだ。
さて、どうしようか……。
デート……もとい、どこかへ一緒に遊びに行くのも良い。
と言っても、いかにもデートな所は駄目だろうけど。
映画は大丈夫だろう、カラオケ……もOK、ボーリングやゲーセンは言わずもがな。
普通の男女ならそこから発展もあるだろうけど、俺たちだと本当に友達同士の遊びで終わるだろうから、それでは恋人など程遠い。
だが先週行ったような水族館とかテーマパークみたいなところは難しいだろう。
――そうだ。
カップル限定でお得なお店で食事をするというのはどうだろうか。
折角女だし、お得だからと押せばいけそうだし、入ってしまえばその雰囲気に呑まれてしまうのではないだろうか。
うむ、名案だ。それで行こう。
「日曜はどこか遊びに行こう。土曜は……どうするか」
「じゃあ……俺んちで良いか?あんまり金も無いし」
「別に良いぞ」
金などオレがなんとでもするのに。
まあ実際は祖父から貰ったお小遣いなんだけど。
ただ、ハルの家でゆっくり出来るならそれでも良い。オレの家はまだ避けたい。
「じゃあまた明日な」
「分かった。また明日」
こうして、ハルの家の玄関先で分かれた。
◇◆◇
帰宅し、早速日曜の予定を立てる。
幸いな事に、すぐにカップル限定のメニューがあるカフェが見つかった。それも意外と多い。
とはいえ、個室は流石に嫌がられるだろうし、周りにはカップルがいる、という雰囲気が大事だから、個室ではない軽めの、あくまでカップル限定割とカップル限定メニューがある、という程度のカフェに留めておいた。
後は明日、上手く切り出して約束を取り付ける事だ。
――それにしても
ハルとの関係は良好だ。親友として、だけど。
色々と試してみたけれど、やはり男同士の親友と変わらない距離感なら接触が許されるけど、それ以上、というか、男女の接触になるととたんに拒否反応を示す。
やはり望の言うとおり、親友は親友で、恋人は恋人で別物なのだろうか。
いや、オレだって分かってる。普通の関係ならそうだと思う。
でもハルは特別だ。
元男の親友同士で、今は男と女だ。オレとなら、親友と恋人を両立させる事だって可能なはずだ。
”叢雨くん”も”キリ”も、どっちもオレなのだから。
思うに、ハルの中では”恋人の叢雨くん”と”親友のキリ”は何故か完全に別人のイメージで、だから親友と恋人の境界を超える、つまり”叢雨くん”なら"キリ"の領域を、”キリ”なら”叢雨くん”の領域を侵す事に過剰なまでの拒否反応を示すのかも知れない。
それを越えようと思うなら、例えば、恋人だけの関係を求めるならオレは”親友のキリ”を諦め”恋人の叢雨くん”になれば良いのではないか。
だけどオレは欲張りだから、親友でも恋人でもありたい。
ハルは多分、”叢雨くん”も”キリ”も好きなはずだ、その方向性は違うだろうけど。
後はその方向をその2人じゃなくて、オレ自身に向けさせればいけるだろうか?
だとすれば後の問題はその方法なんだけど……。
あ~~~もう、どうしたら良いか分からん。
……寝るか。