TSしたら口数少ないイケメン親友に歪んだ溺愛?されてます   作:エイジアモン

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24.親友とカップル割引

 

「今日見たい映画あるんだけどさ、良いか?」

 

「良いけど、何見るんだ?」

 

 ハルを迎えに行って合流し、今は電車に乗って移動しているところだ。

 

 今日のハルは黒髪ポニーテール、そしてミニのプリーツスカートで、上着は名称はよく分からないけど半袖のシャツっぽい服で、流石に胸の谷間や肩は出してないが最高に可愛くて、スタイルが良いから最高に美しい。

 なぜ親友だと口では言っているのにこんな格好なのか。

 朝迎えに行った時に開口一番、慌てた口調でハルは言った。

 

「いやなんかほら! 俺も本当はもっとちゃんとした格好しようと思ったんだけどさ! 可愛い女の子と一緒だとキリも上がるだろ!? だから本当は嫌だけどキリの為に着てやったんだ、本当は嫌だけどな~。――だからキリは感謝するように!!」

 

 ちゃんと可愛いから安心しろ、と言うとその後も色々と言い訳をしていた。

 ズボンを取ろうとすると手が勝手にミニスカートを取るだとか、可愛い格好しないといけないような気がした、とかだ。

 

 なんだその言い訳は、と思った。

 もしかして心の奥にある恋人への意思や想いがそうさせたのだろうか、だとすれば、それは良いことだ。

 

 さて、話を戻すと、電車で揺られているところへ、ハルが映画を見たいと提案してきた。

 オレはとりあえずゲーセンで時間を潰そうと考えていたので、今日一番の目的であるカフェから離れた場所でなければどこでも付き合うつもりだ。

 映画館なら距離も近いし丁度良いくらいだ。

 

「怪獣映画だよ、なんかすげえ評判良いんだって。前作はほら、電車ぶつけるやつで中学の時に一緒に見にいっただろ」

 

「あああれか、そういえば見にいったな。あれの新作か……。そりゃ楽しみだな」

 

 思い出した、あれは中学2年の夏休みか、2人で見にいったんだ。

 見終わった後、オレもハルも盛り上がって、パンフレットを見ながらあれこれと語り合ったんだ。

 懐かしいな、あれの新作か。

 

 あの時の感動と興奮を思い出し、オレの心は弾むようにウキウキとしてきていた。

 そしてそれはハルも同様なようで、楽しみでうずうずしている様子が見てとれた。

 

「覚えてるか? 中学の時は見た後にめっちゃ盛り上がったよな! 今回もそんな作品であって欲しいな!」

 

「ああ、覚えてるよ。ハルが早口になってた事もな。懐かしいな」

 

「だってしょうがないだろ! 面白かったんだから!そりゃ早口にもなるって!」

 

 ハルは興奮していて声が大きくなっていた。

 電車の中で喋る声量としては一線を越えている。つまりうるさい。

 

 ハルの声量を抑えるべく、自分の唇に指を立て、続けてハルの唇に同じように指を当てた。

 

「ハル」

 

「あ」

 

 指を立てるジャスチャーと合わせて、声を抑えて呼びかける事で、声を抑えるように促す。

 ハルもすぐにそれを理解し、両手で口を抑え、周りをキョロキョロと見回した。

 

「ごめん、ちょっと興奮してた」

 

「気を付けろよ」

 

 そう言って頭をポンポンと叩く。これくらいは親友でも許されるだろう。

 

「む〜」

 

 ハルはちょっと膨れっ面になっていたけど、それもまた可愛い。

 本当に何をしても可愛いか美しいのだからオレが困る。

 自分を抑えるのが大変だ。

 

 そして周りからのある種の視線と心情が見える気がする。

 

 2つ。

 一つは一言で言えば、「うるせえなこのバカップルが!!」だ。

 もう一つは羨望。

 怪獣映画の話を楽しそうに語る美少女とカップルに見えるオレに対して。

 ま、これはちょっとオレの願望かも知れない。

 

 とは言っても、実態は恋人同士じゃないので悲しい事ではあるが。

 まあ見てろ、近いうちに本物の恋人にもなってやるさ。

 

◇◆◇

 

「まあまあ面白かったな。思ってたのとはちょっと違ったけど」

 

「そうか?オレは十分面白かったが」

 

「えー、そう? 俺は前作の方が良かったなあ、いきなり宇宙人と戦うなんて思わなかったし、流石に話飛びすぎじゃない?」

 

 お昼のカフェへの移動中、そんな感じに映画の感想を話し合っていた。

 だけど正直言うと、もはや映画より次のイベントであるカップルカフェへと意識が向いていた。

 昨日罰ゲームとして勝ち取ったハルのお昼拒否権無しの権利、これを盾になんとかして連れて行くつもりだ。

 

「ところで今日の昼は何処行くんだ? まあ俺に拒否権は無いんだけど、気になる」

 

「着いてからのお楽しみだ」

 

「なんだよー。教えてくれてもいいじゃん、けちー」

 

 軽口を言い合いながらも二人で移動して、 目的地のカフェに着いた。

 

「ここだ」

 

「へぇ~…………え??」

 

 ハルは店構えを見て、看板を見て、店内の様子を見て、驚愕の表情でオレを見た。

 

「おいキリ!! ここカップル限定割引って書いてあるんだけど??」

 

「そうだな、丁度良いじゃないか、はたから見たらオレたちはカップルにしか見えないだろうし、お得だぞ?」

 

「いやだって! 違うじゃん! 俺たちは親友で、恋人同士じゃないだろ!!」

 

「ハル、お前はそう思っていてもだ、今日のハルの気合の入った格好を見て、オレと並んで歩いてたら周りからはどう見えるとおもう? だから安心しろ、バレはしない」

 

「い、いや……これは……」

 

 ハルは自分の姿を見直し、言葉に詰まった。

 やっと自分でも気付いたのだろう、周りからオレたちがどう見られているのか。

 さらに追い打ちだ。

 

「そもそもだ。昼飯に関してはハルに拒否権は無い」

 

「う……」

 

「というわけで今日の昼はこのカフェでカップル割引で飯と、カップル限定カフェを食べるからな、ちゃんと付き合えよ」

 

 ハルは頭を抱え、葛藤しているようだった。

 そして覚悟を決めたのか大きく深呼吸して、オレを見据えた。

 

「分かった。これは罰ゲームだ。店の中にいる間だけはカップルを演じてやる」

 

 演じる、か。……今はそれでも良いだろう。

 

「よし、じゃあ入ろうか」

 

「お、おう……」

 

◇◆◇

 

 店の扉を開けて中に入ると、ハルは緊張した面持(おもも)ちで後ろに付いて店に入ってきた。

 店内はオレの思惑どおりカップルだらけで、何となく甘く、桃色の空間になっているような気がする。ハルへの良い刺激になるだろう。

 

「カップル様で御座いますか?」

 

「はい」

 

 店員さんから声を掛けられ、肯定するとカップル席へと案内された。

 カップル席といっても対面に座る2人掛けの席に足元に荷物を入れる籠があるような普通の席で、白を基調としたレースのテーブルクロスがちょっとぽい雰囲気なくらいだ。

 

 とはいえカップル席は並んでおり、辺りはカップルだらけで、これはハルでなくてもあてられそうだ。

 

「なんかすげーいっぱいカップルがいるんだけど……俺たち場違いじゃないか?」

 

 ハルは周りを見回し、小声でオレにつぶやいた。

 確かに場違いかも知れない、オレもそう思う。だがそれは悪い意味ではなく、ハルが可愛くて綺麗すぎて存在が浮いている、という意味だ。

 だけど今回はそんな事は言ってやらない。

 今回はこの雰囲気に呑まれて感化(かんか)してもらう必要があるからな。この状況でお前が一番なんて言ったら調子に乗ってしまうかも知れない。

 

 不安そうなハルを見ているのは心苦しいが、今回はスルーして店員さんにドリンクと食事と食後のパフェを注文する。

 

「なぁ、おい」

 

「大丈夫だろ、多分。そんなことよりちゃんとカップルを演じろよ」

 

「う……分かったよ……」

 

 と、そこへドリンクが出てきた。

 大きめのグラスにアイスティーが一つ、そこへストローが2つ刺さっていた。

 いきなりこれか、徹底してるなあ。

 ちょっと感心してしまった。だけどハルはどう思うかな。

 

 予想通りの反応をハルは示した。

 

「って! まさかこれ二人で飲むのか?」

 

 始めは声が大きく、そしてすぐに小声でオレに言う。

 だけど大丈夫、これは想定済みだ。

 

「別に問題無いだろ。中学の時だって回し飲みしてたんだし、何か問題あるか?」

 

「た、確かにそうだけど……でも……、こんなの……意識しちゃうじゃん」

 

 最後の言葉の声量はさらに小さく、オレがギリギリ聞き取れるかどうか、という程だった。

 

「ハル、意識しても良いんだぞ」

 

 優しく、諭すように、そう伝えた。

 まさかハルから意識すると言われるとは思わなかったけど、そこの認識は緩めて貰わないと困る。

 いつまでも意識しちゃ駄目だ、と思い込まれても先へ進めない。

 だから例えこの場で否定されてもオレからは意識しても良いんだ、と枷を外してやる意味はあると思うんだ。

 

「バ、バカ言うな。俺たちは親友だぞ、そんな事なるわけないだろ。あ~~……ったく、しょうがない。……恋人を演じる恋人を演じる……」

 

 なにやらブツブツと唱え始めた。

 そして意を決したように顔を上げ、オレを見る。

 

「よ、よし! 大丈夫だ!」

 

「じゃあ飲むか」

 

 お互いにストローに口を付け、アイスティーを飲む。

 自然と顔の距離が近くなり、ハルはすぐそばだ。

 ハルはというと、気合を入れたにもかかわらず下ばかり見てオレを見ていない。

 全く、こういう物はお互いの顔を見ながら飲む物じゃないのか?

 

「ハル、ちゃんとこっちを見ろ」

 

 ちゃんと恋人を演じてもらわないとな、と注意する。

 ハルはストローを加えたままコクコクと頷き、オレを見て、一言発した。

 

「……近い」

 

「そりゃそうだ」

 

 ほんのりハルの頬に紅が差しているような気がする。照れているのだろうか。

 そのままストローから口を離し、食事の到着を待つ。

 まだまだ序の口だ、もっと恋人に染まってももらうし、距離も近づいてもらって、根本から認識を変えてやるからな。

 

 だから今は、ちゃんと恋人を意識して演じてもらわなければ。

 

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