お隣さんちの異世界人   作:わー

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お隣さんちの異世界人

「……毛利くん」

「はいっす」

「そっち、終わりそう?」

「終わんないっすね」

「……今、なにしてるの?」

「ソシャゲっす。……お、勝てた」

 

 ズデーン、と。絵に描いたような転げ落ち方をした小林は、顔から外れかけた眼鏡を元の位置に戻し、ジト目でスマホに視線を落とす男──毛利のことを見つめた。

 ただでさえ納期前のデスマ状態、果たして再び日が昇るまでのうちに家に辿り着けるかどうか。よしんば辿り着けたとしてもシャワーを浴びてUターンコースなのではないか。絶望的な思考が脳内を渦巻いているからこそ、注意する口調にもいまいち覇気がない。

 

「いやあ、だってねえ。小林先輩、この会社おかしいっすよ」

「……うーん、わからんでもないけどさぁ」

「人手足りんわパワハラ上司は居るわで、本当に」

「一応人材募集の広告は出してるらしいんだけどね」

「それ、余計絶望的なやつっすよ」

 

 給料普通、仕事は大量、アットホームな職場です! まぁ、普通に考えて人が集まるはずもない。

 仕事内容が内容ゆえ、そこらの求職者を雇って即戦力とすることも難しい。育てようにも、この状態で果たして誰が教育係を引き受けてくれるのだろうか。

 

「まあ何はともあれ、改善傾向が見られないって話っす」

「……まぁ、上も色々考えてんでしょ」

「いっそクーデターでも起こします? 剣かなんかでとりゃーって」

「剣て。今時そこらの強盗でも銃使ってんのに」

 

 そもそも真っ先にクーデターが出てくるのはどうなんだ。普通はストライキとかその辺が相場じゃないのか、と。

 齢23らしい目の前の後輩が危険思想に染まりかけているのでは──と、かなり低下した思考力のせいか、訳のわからない方向に思考が流れる小林。その間にも毛利は両手を使って数本の剣をジャグリングするという、見事な曲芸を披露しており──。

 

「……ん?」

「ん、どしたんすか。小林先輩もいります?」

 

 ほい、と。目の前に差し出される、七色にピカピカと光り輝く剣。さしづめゲーミングソードとでも名付けたところか。やたら派手で機能性はないにも等しいが、とりあえず映える。なんかかっこいい。

 液晶と向き合い続けて数時間、疲弊した小林の目にレインボーの輝きは眩しすぎた。目を押さえていると、それに気づいた毛利が剣を消す。

 

「あ、すんません。配慮欠けてました」

「あ、うん。それは別に良いんだけど……。その剣、どこから出したの?」

「え、魔術っすけど。ほれほれ」

 

 虹色に光る剣、ただただ金色に光る剣、コバルトブルーに光る剣。数々の光る剣シリーズが小林の前に姿を現した。もはや銃刀法違反とか、そんなツッコミを入れている場合ではない。

 

「魔術ゥ!?」

「またまた、演技はやめてくださいよ。この程度で驚くわけないじゃないっすか、家でドラゴン飼ってる人が」

「え"」

「あれ終焉帝の娘っすよね? いやあ、凄いっすね先輩は。あれ飼い慣らせる奴なんざ向こうにも居ないっすよ」

 

 怖かったなー、と。ニコニコ笑う毛利。絶句する小林。

 

「一応聞いておくけど、毛利くんってドラゴンだったりする……?」

「や、人間っすよ」

「……もしかして、異世界人?」

「こっちの人からしたらそうなるんすかね」

 

 まあ。トールのような──と言っても彼女はその中でもまた一つ飛び抜けた存在であるのだが、ともかく、そのような化け物が跋扈する存在の世界出身ともなれば、地球人類とは隔絶した能力を持っているものなのだろうか。  

 ドラゴンが存在するのだ。それこそ魔術や魔法のような、ファンタジー的な技術を人類が習得していたとしても、何も不思議はない。

 

「これでも安心したんすよ? 俺」

「え?」

「小林さんが俺と同郷だって分かって。いやぁ、案外心細いもんっすよね」

「……あのね、毛利くん」

 

 私は地球生まれ地球育ちだよ、と。そう声に出した瞬間、毛利は先ほどの小林よろしく、綺麗な形で椅子からずっこけた。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「あ」

「ん?」

 

 トテトテ、と。擬音が付きそうな走り方で毛利の元に駆け寄る、白髪の幼女。その辺で買った普通のズボンに、胸元に大きく"侍"と記載された謎のシャツ。顔がいい為ギリギリ誤魔化せてはいるが、間違いなく平日夕方に公園に居てはいけない類の人間である。

 

「モーリス、久しい」

「今は毛利って名乗ってるんで、そっちで呼んでください。……えーっと」

「ん。カンナ」

「あー、はい。カンナさん」

 

 再起動した、カンナと共に下校していた女子児童──才川は、毛利のことを物凄く警戒していた。警戒していたが、まぁカンナが懐くのであれば悪い人ではないのだろう、と。そう推測して、自らも毛利の元へ近づいた。

 

「えっと、あの……」

「ん、才川。毛利が怖いのは見た目だけ。中身は優しい」

「……え、見た目怖いすんか俺」

「モーリは、背が高い」

「あー……」

 

 数字にして約185cm。メチャクチャ大きいかと言われれば割とそんなこともないが、少なくとも小学生からすれば巨人といいところ。

 生物の本能として、明らかに自分より大きい存在は怖がってしまうものである。

 

「毛利っす。えっと、才川さん、でいいんすかね」

「あ、はい! 才川です! よろしくお願いします! ……あの、カンナさんとはどういう関係なんですか?」

 

 当然の疑問であろう。話し方からして恐らく親類ではない。であるのならば、目の前の男とプリティーミラクルエンジェルカンナはどのような関係なのか。親衛隊隊長として、才川には毛利のことを見極める義務がある。

 

「ん? あー……言われてみりゃ、俺らってどんな関係なんすかね」

「……難しい。けど、親公認の付き合い?」

「あー……いや、それだととんでもない勘違い生む気が……手遅れっすねこれ」

 

 才川は顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。カンナが頬を突っついてみるが、なんの反応も示さない。

 厄介ごとの気配を感じた毛利は、公園一帯を覆うようにして防音の結界を張った。幸いにして、中にいるのは己とカンナ、才川のみ。外にさえ漏らさなければどうにでもなる。

 別に逃げ出すことも可能ではあるが、変な噂が立つ可能性を残すと後が怖い。

 

「……コン」

「コン?」

「このロリコン!! 仮に親が認めていようと、アンタなんかにカンナさんは渡さないわよ!!!!」

 

 カンナを後ろに回し、必死に啖呵を切る才川。その時毛利は、近所のスーパーでこの後行われるタイムセール、その争奪戦の戦略を立てることに思考の9割を費やしていた。




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