お隣さんちの異世界人   作:わー

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第2話

「毛利くん、マンション一緒だったんだ」

「でなきゃ小林先輩がドラゴン飼ってることに気付かないっすよ」

「まあ、それもそうか」

「ちなみに、本日は何のご用で?」

「あ、そうだそうだ。これ、うちのメイドが作り過ぎちゃってさ。良かったら食べてよ」

 

 小林から手渡されたのは、タッパーに入った野菜炒め。使われている具材はキャベツ、玉ねぎ、細切りにされた人参、そして豚肉。ごくごく一般的なものか。

 

「メイド……って、ドラゴンすか」

「ん、そうだよ? あ、名前はトールね。ずっとドラゴンドラゴンって、言いにくいでしょ」

「ああ、はい。……凄いすね、トールさんを小間使いですか」

「……一応言っとくけど、私が隷属させてるとか、そういうわけじゃないよ?」

「わかってるっすよ、それは」

 

 というか。まだ無理やり隙をついて隷属させた、とか、何かしらの利益の合致で契約した、とか、そっちの方が納得がいく。

 小林とトール。両者間で一致する利益があるとはとても思えない。あるとすれば、それは打算的な物ではなく、ある種好意からくるようなものになるだろう。

 

 とんでもないことだ。混沌勢筆頭、滅ぼした国は数知れず。屠龍派の怨敵であるトールを、絆してしまったということになるのだから。

 

「……本当尊敬するっすよ、小林さん」

「そ、そう?」

「仕事早いですし、残業耐性高いですし」

「そっちかい」

 

 割と大真面目に、毛利は小林の事務能力を高く評価している。多少の無茶には耐えられる体力と忍耐力、早い処理速度、無意識的に発揮するリーダーシップ。これほど事務職に向いた存在もそういない。

 この学習能力であれば、専門性の高い仕事をやらせたとてそのうち順応することだろう。

 

「あ、そうだ。ちょい待ってください」

 

 小林から受け取ったタッパーを置きにいくついでに、毛利はお返しをしようと自分の部屋に一度戻った。

 一人暮らしには少し広い部屋。所狭しと置かれた謎グッズの間をすり抜け、クローゼットを漁る。

 スーツに加え何着かの普段着。それらを掻き分け、一着の服を手に取った。

 

「これ、プレゼントです。日頃のお礼ってことで。サイズも……まぁ、多少デカいかもっすけど、多分許容範囲っす。多分」

 

 毛利の言う通り、サイズ感的に彼が着るには少し小さい程度の大きさ。これであれば、小林でも部屋着として着ることは可能だろう。

 しかし。問題点はそこではない。この男、毛利は、普段着として侍Tシャツを採用するセンスの持ち主なのだ。

 

「…………」

「"一生ニート"。良い響きっすよね」

「………………あり、がとね」

「はい!」

 

 いい笑顔でそう返事をする毛利に対し、小林はこれ以上返す言葉を持たなかった。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「滝谷先輩って」

 

 オタクなんすか? と。仕事の休憩中、後輩からそんなことを言われた滝谷は、内心冷や汗が止まらなかった。

 件の後輩、毛利とは別段親しいわけではなく、プライベートでも特に関わりはない。そんな彼にすらバレているのだ。まさか、自身のオタク趣味が全体に共有されているのでは──。

 

「あ、他にバレてるとかじゃないっすよ。俺もそっち系の趣味してるんで、ちょっとした会話の節々から何となく察したって感じです」

「……え、毛利くんもオタクなの?」

「はい」

 

 アニメ。漫画。それらに付随する公式からの供給、および二次創作によるフィギュアや同人誌。かくも素晴らしき日本のオタク文化。出始めにはオタクをこれでもかと敵視していたメディアも、近年はこぞって掌を返しこの文化を称賛している。

 

 それはさておき。異世界出身の毛利にとっては、別の視点で異世界転生ものを見ることができる。''転生特典しょぼくね"、だとか、"この国の政治綺麗すぎるだろ"とか。本家本元異世界出身の彼は、そんなことをダメ出ししながら作品を視聴しているのだ。

 

「え、じゃあコミケとか行ったり……?」

「しますね。売ったりはしないっすけど」

「お、おお…………!!」

 

 オタクは、非オタと思っていた存在が同志だったことが判明した瞬間、感情が最高値まで上振れる。滝谷は正しくその状態、興奮のあまり叫び出さないように感情を律するのが精一杯である。

 しかも、"俺オタクなんだよね〜"と言いながらワン○やドラ○ンボールしか知らないタイプの、トラップを仕掛けてくる類ではない。ガチガチなタイプのオタクである。

 

「なら、今度飲みに行こうよ。色々話したいこともあるし……」

「お、良いっすね。まぁ俺酒は飲めないんすけど」

「あ、そうなの? なんか意外だね」

「酒に酔った時、勢いで局長の上半身吹っ飛ばしちゃって……。何とか生きてたんで謹慎だけで終わったんすけど」

「…………あー、もしかして君、トールちゃんと同郷?」

「いぐざくとりー、っす」

 

 ビシッ、と。滝谷を指差し、ポーズを決める毛利。無駄に決まっているのが腹立たしい。

 

「お近付きにこれあげますよ、これ」

「え、なにそれ。なんかものすっごい禍々しいんだけど」

「向こうの呪術師お墨付き、呪いの藁人形っす。こっちの人なら確実に一人は持ってけますよ」

「しまっておきなさい。というかなんで会社そんな物持ってきてるの」

 

 こう言っておいてアレだが。後になって、毛利にこれを持たせておくほうが危険だったんじゃないか、と、自身の判断を若干悔やんだ滝谷であった。




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