お隣さんちの異世界人   作:わー

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第4話

「おねーさん、俺たちと遊ばない?」

「あー……」

 

 完全に気分により、今日の毛利は女の身体で外出をしていた。が、無駄に整っている容姿からか、明らかにイキってますといった風貌の大学生に絡まれてしまっている。

 適当にあしらおうとするが、これまた中々にしつこい。強引に突破しようと思えばできないこともないが、人の目が全くないわけでもない中、強硬手段を取るのもなあ、と。毛利は内心悩んでいた。

 

「……おい、そのお姉さん嫌がってんだろ」

「あ? 誰お前。引っ込んでろよクソガキ」

「……おー」

 

 周りの人間が目を逸らして避ける中、勇気を出してナンパ男に口を出した少年。黒い学ランを身に纏うことから、恐らく放課後の学生だろうか。何かしらトラブルを起こせば学校側で問題にされるリスクもあるのに、立派なもんだなぁと。まるで傍観者のような思考をしている毛利。

 

 彼の脚はガクガク震えており、まるで生まれたての子鹿のようである。

 

「ど、どかねえよ!」

「ならお望み通り物理的に……!」

「はーい、そこまでっす」

 

 振るわれた拳は少年に届かず、毛利の掌によっていとも容易く受け止められる。

 そして、そのまま拳を握り締める。シチュエーションからすればご褒美とも取られかねないが、毛利の握力はかのゴリラをもゆうに上回る。

 加減されているとはいえ、そのレベルの力で握られたのだ。ナンパ男は即座に顔を歪め、声を上げる。

 

「いでででででで!?」

「その子に謝って帰るんなら離すけど」

「あ、謝ります! 謝りますから!」

 

 ん、と。手を離されたナンパ男は、即座に学生に向かって土下座した。そのフォームはなんとも美しい物であり、流石の毛利も一瞬見入ってしまった。

 なぜこのような地に真なる土下座の使い手が……と思考をしているうちに、彼はピューッと逃げ帰ってしまった。捨て台詞を吐く余裕すらなかったらしい。

 

「大丈夫っすか、少年」

「は、はい……。すんません、助けるつもりが逆に助けられちゃって」

「んー……そっすね。確かに、君の行為は、リスクを考えると手放しに賞賛される物ではないのかもしれないっす」

 

 う"、と。顔を歪めた少年を見ておもしろそうに笑う毛利。

 

「でも。あんだけ人がいた中、君だけが俺を助けようとしてくれたのもまた事実っす」

「…………」

「ありがとう、少年」

 

 そう言って、彼の頭を何往復か撫でた毛利。彼女の方が身長は幾分か高く、見上げる形になった少年はその顔を少し赤くした。

 

「……あの」

「ん?」

「俺、会田タケトって言います。近くで駄菓子屋の店番やってるんで、良かったらまた。お礼も、したいんで……」

「なーんで君がお礼をするんすか。ま、了解。そのうち行かせてもらうっす」

 

 その返事を聞いたタケトは嬉しそうに、少し恥ずかしそうに頷いた。

 時刻はすでに夕暮れ。タケトとしてもそろそろ帰らねばドヤされる時間帯であるし、毛利としてもお腹が空いてくる時間帯。解散の流れになるのは、自然と言えるだろう。

 

「んじゃ、改めてありがとっす──タケトくん」

 

 気をつけて帰るっすよー、と。そんな言葉に、返事をする余裕もなく。タケトは、毛利の口から発された己の名を噛み締めていた。

 とある休日、その夕暮れ。ここに、純粋な一人の少年の性癖が破壊された。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「何やってんすか、エルマさん」

「それは私のセリフだ! なぜモーリスがこちらの世界にいるんだ!?」

「暇だったからっす」

「……頭が痛い」

 

 スーツを着て頭を抱える美女。傍目に見ればバリバリのキャリアウーマンにでも見えるのだろうが、彼女に与えられた仕事はお茶汲みのみ。

 パソコンの起動方法すらおぼつかず、もちろんプログラミングどころかタイピングすら何それ状態。ポンコツもいいところである。

 

「あ、エルマさん。お茶のお代わりお願いっす」

「……お前は、パソコンが使えるんだな」

「そりゃまあ」

「…………くッ!」

「なんでもいいっすけどお茶。はよ」

「なんか当たりが強くないか!? 向こうにいた時はエルマさんエルマさんって、敬ってくれていただろう!?」

 

 立場的には一応混沌勢と敵対関係にあった毛利。当然、調和派であるエルマとも何度か邂逅はしていた。

 明確な立場に上下はないものの、上位存在である彼女には、様付けこそしないものの、かなりの敬意を込めて扱ってはいたのだが。

 

「だって今のアンタ、完全にポンコツじゃないっすか」

「うっ!?」

「……まぁ本音は、ドラゴンを顎で使うのが楽しいからってだけっすけど」

「酷いな!?」

 

 毛利とて、弱いドラゴンぐらいなら簡単に倒すことができる。某精神子供のまま大人にならざるを得なかったドラゴン相手にも、勝てはしないものの、負けることもない程度の実力はある。

 だが。そこと一線を画すエルマやトールに敵うことはない。それ故に、自らより明確に上の存在である彼女を顎で使えることが、地味に快感なのだ。

 

「後。こっちの俺は毛利っす」

「わ、わかった。毛利と呼べばいいんだな」

「ん、わかったら早くお茶淹れてきて欲しいんすけど」

「……すまない、毛利」

 

 突然真面目な顔に戻り、謝罪の言葉を告げてくるエルマに疑問符を浮かべる毛利。

 エルマは所謂人間一年生。お茶汲みは一般的な人間にとって簡単にこなせる仕事であるのだろうが、彼女にとっては全くの未知。それこそ、トールとの戦闘よりも難儀なもの。

 

「……お茶の淹れ方を、教えてくれないか」

「ええ……」

 

 毛利から向けられるドン引きの視線。それを受けて、エルマは少し、いや、かなり精神的なダメージを受けた。




タケトの性癖は遅かれ早かれ破壊されるからもーまんたい
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