優しい先輩が切れるナイフになるまで   作:回忌

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SRTの悪夢

「今のは…」

 

乾いた音だった

彼が愛用するのはイオンライフル、あんな派手な音は鳴り響かない

そもそも彼スカウトスナイパートレーニングを死ぬ程嫌っており絶対スナイパーにはならないと公言するほどだ

 

そんな彼が態々弾の落ちる実弾スナイパーライフルを使うだろうか?

 

ありえない

 

「FOX4、応答しろ」

 

無線機に呼びかけるが、全く答えない

なんの応答も無いのである、いつもは直ぐに答えるというのに

 

それがFOX1の不安を煽る

 

「FOX4応答しろ!」

『やった……!やったぞ!』

 

性格にも合わない大声を上げた直後に嬉しそうな声が上がる

彼女の声だ、それを聞いてユキノは安心した声を漏らす

それは他の小隊員も同じだったようである

 

ンンッと咳をしてユキノは無線機を持ち直す

 

「FOX4、状況を」

『こちらFOX4!あの野郎の眉間にぶち当ててやった!

 今頃夢の中にでも行ってるだろうよ!』

 

気分の高揚によってか彼女らしくない台詞が飛ぶ

帰ってから修正しないとな……そう思いながらため息をついた

 

兎も角、安全は確保されたようなものである

 

声色を正し、言いつける

 

 

 

 

「了解FOX4、警戒を怠るなよ」

 

 

 

余裕そうな声が返ってくる

 

 

 

 

『安心しろ!今なら何でもぶち抜───────』

 

 

 

 

 

 

 

バキャッ、ジー、ジー、ジー。

 

 

何かが壊れる音と砂嵐の音

 

 

 

「……FOX4?」

 

応答は無い

先程の余裕そうな声はどこにもない

それどころか砂嵐の音がどんどん酷くなっていくばかりである

先程の不安を煽る感じがさらに強くなって襲いかかる

 

「FOX4!」

 

応答、無し

 

ハッとしてユキノは彼女のスナイプポイント見る

いつの間にか風が吹いており、空中には彼女が身に付けているはずの迷彩シートが空に浮かんでいた

 

 

 

そして、ユキノは見た

 

 

 

「嘘だ」

 

 

 

砂漠に赤い花を咲かせているFOX4を

 

 

「嘘だ」

 

 

遠く離れているはずなのに、彼女の光のない瞳孔が見える

頭には風穴が空いてだらしなく手足を投げ出していた

ドロドロとした脳髄と血がアビドスの砂漠を濡らしていく

 

 

「ッ!?嘘でしょ!?」

 

盾を構えていたクルミがそれに気付いてしまった

ポイントマンである彼女の意識は死んだオトギにずれ、盾が僅かながら逸れてしまう

 

無論、それを彼が見逃す筈もない

 

「っあぐ」

「あっ、え?」

 

ピシュン、軽やかな音が通り過ぎる

しかしそれは軽快な音に合わない威力を発揮していた

 

 

つまるところ余所見をしてしまったクルミの脳天を貫いたのである

丁度彼女の後ろにカバーとして居たニコの顔に脳髄が撒き散らされる

いくらSRTの訓練を受けた人間とて、このような訓練はされていない

 

そもそもされることは無い

 

「……あ、ぁあ…ひっ」

 

だからこそ、腰を抜かしてその場に座り込んでしまうのは誰も非難出来ないことであるのだ

ガシャリと音を立てて彼女のショットガンが転がる

それを見たユキノは上の空だった心を取り戻し、ニコの肩を叩く

 

 

「た、立てFOX2!いい的に────────うぅッ!?」

 

 

盾役が居なくなった砂漠の小隊なぞ、ただの的に過ぎない

彼からすればまるで七面鳥を撃つようなものだろう

しかしどうやら今回は狙いが逸れてしまったようで放たれた弾丸はユキノの左腕を吹き飛ばした

 

サウスポーである彼女にとっては利き手を無くした様なものである

 

「全員撤退!奴は私が抑える」

「EAGLE1!頼んだぞ…クッソォ……!」

 

またしても飛んできたエネルギー弾を弾きながらEAGLE1は叫ぶ

背中に生えた翼をはためかせ、彼女は廃墟へと向かった

 

すると空を飛ぶ彼女に対してヘイトが向く

怪我人の多い彼女達にイオンライフルの弾丸が飛んでくることは無い

 

ユキノは重いだけの愛銃を捨て包帯を巻き付ける

腕が無くなるなんて事は一度も無かったからなんともやりづらい

 

「EAGLE2!生存確認!」

「了解!」

 

それと同時に進行で生存者の確認をする

辺りの確認は大事だ、いつの間にか死んでいるかもしれない

そう思い報告を待つ……いや学年は相手の方が上だが今は四の五の言ってられない

 

「C&Cは無事!八名KIAだ!」

「畜生…兎も角脱出だ!ここに来る時に使ったジープに乗り込むぞ!」

 

保護対象は無事、しかし小隊は12人中8名が死亡した

前代未聞の事件であるし恐らくSRTは崩壊する

畜生、どうしてこうなった

 

ユキノは悪態をつきながら爆音が響く砂漠から命からがら逃げ出すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FOX小隊ポイントマン……クルミ、死亡

 

同小隊スナイパー……オトギ、死亡

 

 

 

 

 

 

 

「最高権力の最強が来るか」

 

凄まじいスピードで迫り来るEAGLE1に対してエネルギー弾を放ちながら呟く

SRTのEAGLE小隊、特にその中のリーダーであるEAGLE1はかなり経歴が特殊だ

俺と同じようにブラックマーケットで燻っている所を連邦生徒会長に拾われたらしい

そこからまるで恩を返すかのように急成長を遂げ、SRTの最強と呼ばれる程の成績を生み出した

 

 

んまぁどれがどれか?と聞かれれば分からないが任務中傷1つ負わないというのは有名だ

 

元トリニティというお嬢様学校生まれのくせによう動くものである

 

「まるで蝿だな」

 

EAGLE1は50口径のアサルトライフルという頭悪い銃を持っている

何でも取り回しが良くて威力の高い銃を求めた結果それに落ち着いたらしい

それだったらブローニングにグリップとストックでも付ければ良かったんじゃないだろうか

 

無粋か

 

「この距離ならスコープは必要ない」

 

かなり近付いてきた、これなら目星で当たる

必要なくなったスコープを取り外し伏せ撃ちから立ち上がる

 

「シネェエエエッ!!!」

「野蛮ッ!」

 

その時丁度、悪寒が走るような感覚を覚える

殆ど反射的にその場から動く……その判断は正しかった

自分の居たところを何かが抉る、その衝撃で廃墟が崩れていく

 

崩れゆく廃墟からジャンプし、場所を移そうとする

 

「逃げるな人殺しめ!」

「人殺しを保護してるお前が言えるかよ!」

 

修羅のような顔をしたEAGLE1が突っ込んでくる

身体の至る所に50口径が突き刺さる、かなり痛い

悪態をつきながらイオンライフルを連射する

 

しかし上手く背中の羽を使って空中制御し、避けやがった

 

やはりSRT特殊学園の最強、他の奴らのように直ぐ終わりはしない

 

場所は既に少し離れた砂漠へと変わっていた

イオンライフルのマガジンをリロード、残っているマガジンは少ない

早期決着が望ましいことである

 

口元についた砂を拭う

 

「私は、私はお前のことが最初から信用ならなかった……!」

 

砂が舞い上がり、EAGLE1が突っ込んでくる

勢いをそのままにナイフを突き刺そうとしてくる彼女を受け流す

 

彼女は睨みながら攻撃を続ける

 

「貴様が……貴様がSRTに来てからだ…!」

 

殆ど愚痴のようなものだろう

己の激情を撒き散らすように彼女は喋る

よく見てみれば彼女の顔にいつもの威厳と冷静さは無く、報復心が支配しているように見えた

 

「お前がSRTに来てから……全てがおかしくなったんだ!」

 

どうやら彼女は極度の戦闘ストレスにより被害妄想を発症してしまったようである

俺を指さしながらそんなことを叫ぶ

 

「……ハハハ」

 

自嘲気味の笑い声が漏れる

俺が来てから全てがおかしくなった、か

それはあながち間違いではないのかもしれない

現にSRTで…いや、キヴォトスで初の死亡事件の被害者なのだ

その上今はキヴォトスで初の殺人鬼である

 

致し方無しか

 

俺がそう思っている時にも彼女の慟哭は続く

 

「影印メシド!私はお前が死神に思えてならんのだッ!」

 

極度の戦闘ストレスと小隊の死は彼女のメンタルをボロボロにしてしまったようである

恐らく彼女の目には俺が異形の死神にでも見えるのだろう

噂に聞くほどの威厳や冷静さの無い、ただの若いガキだ

 

上からのかかと落とし、そこからのなぎ払い

 

ご自慢の最強戦闘スキルはどこへやら

もはや型のない滅茶苦茶な攻撃が飛んでくる

 

「死神が居る限り……私達の悪夢は終わらないんだッ!!!」

 

叫ぶ

 

どこまでも不毛な大地に無意味な慟哭が響き渡る

彼女にとってその悪夢は覚めるものでは無い

その地獄はどこまでも続くものなのだろう

 

まぁ、知ったことではない

 

 

「アァアアアァァァアア!!!」

 

 

弾の切れたライフルを投げ、人とも獣とも言える叫び声を上げて彼女は突っ込んでくる

愚直に、まっすぐこちらに突っ込んでくるのだ

もはやその姿は醜い獣としか言えないものだ

 

哀れな奴である、俺は静かに銃口を向けた

 

 

There You are(これでもやるよ)

 

 

 

カチリと引き金を引いた

 

 

 

 

 

胸元に大きな風穴が空く

 

「あぁ」

 

彼女はある種の納得したような声を漏らす

ごぽりと口から血の塊が吐き出され、アビドスの砂漠を汚す

ガタンと膝立ちになり、そのまま彼女は倒れてしまう

 

それでもなお、彼女は俺を睨んでいた

 

「影印メシド…」

 

何かを探すように彼女の腕が伸びる

しかし、それは何も掴まない……あっても砂粒くらいだ

 

視界も恐らくもう何も見えていない

 

 

ハイライトの消えかけた目で、彼女は呟く

 

 

 

 

 

 

 

「SRTの……悪夢…………」

 

 




コイツ多分某ウサギ隊長に後ろから刺されてもおかしくないと思うんですけど(名推理)
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