鬼殺隊は異常者の集まり(ガチ)   作:バケギツネ

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鱗滝さん 災難記

 

『困ったなぁ。全員眠ってしまっている......』

 

 育手である鱗滝左近次。彼の元へ家族と共にやってきた炭治郎。

 

 しかし顔合わせで全ての力を使い果たした鱗滝は、住処の床で死んだように眠り続けていた。

 

 ちなみに、その隣に仮設された炭治郎家(仮)の中でも、彼の家族である禰豆子と六太と茂と花子と竹雄と葵枝が寄り添いあったまま、静かに眠りに耽っている。

 

『これから俺はどうすればいいんだ......』

 

 途方に暮れた炭治郎は、ひとまず今晩の食糧を求めて狭霧山の中へと入っていった。

 

『この山、何か変な匂いがする。うわぁあ、丸太が倒れてきた!危ないなぁ〜。』

 

 道道に仕掛けられていた稽古用の罠を無傷で乗り切り、崖を駆け上がって、滝を泳ぎで逆流して。

 

 やがて炭治郎は巨大な大岩の前へと辿り着く。

 

『こ、これはっ...!』

 

 炭治郎は衝撃を受ける。

 

 太い注連縄がぐるっと巻かれたその岩石は辺りの景観とも相まって、なんとも神秘的な雰囲気を纏っていた。

 

『何て美味しそうな巨大岩(ごちそう)なんだ!早速小屋まで持って帰ろう!』

 

 まあそんな事、炭治郎には知ったこっちゃない。軽々と目の前の巨岩を持ち上げると、そのままテイクアウトを試みる。

 

『鱗滝さん疲れてそうだったからな〜。これを沢山食べさせれば、きっと元気になってくれる!』

 

 鱗滝には命の危険が迫っていた。

 

『おい!そこの大男。止まれ。』

 

 それまで、炭治郎しか居なかった筈のその場に、凛々しい声が響いた。

 

『岩を勝手に持っていくな。それは鱗滝さんの弟子が、最終試験に使うものだ。』

 

 炭治郎は声のする方へと顔を向ける。岩の上には、傷の入った狐面で顔を覆った宍髪の少年が立っていた。

 

 人からは、普通何らかの匂いがするものだ。しかし不思議と、狐面の少年からは何も香ってこない。

 

 違和感を覚えつつも炭治郎は対話を試みた。

 

『ごめん知らなかったんだ!美味しそうだったからつい!』

 

『全く何なんだお前は。刀も持たずにこんな所で何をしている?......ん、待て。美味しそう?』

 

 岩の上から飛び降りた少年に対し、炭治郎は慌てて自らの素性を明かす。

 

 鬼にされた家族を元に戻す為に修練を積みたい事。その為に鱗滝を訪ねたが、今の彼はとても動ける状態じゃない事を伝えた。 

 

『そういう事か。あの人は頑固なところがあるからな。年甲斐もなく、また無茶をしたんだろう。』

 

 匂いが無くとも、仮面で素顔が見えずとも、少年の抱く鱗滝への親愛は炭治郎へと伝わっていた。

 

『キミも鱗滝さんの弟子なの?』

 

『まあ、そんなところだ。名前は錆兎。苗字は知らん。』

 

 自らの名を明かした錆兎は、目の前に立つ呑気な巨漢をマジマジと見つめる。えげつない程に発達したその筋肉を一瞥した後、彼は言葉を続けた。

 

『いい肉体だな。だがその様子じゃあ、全集中の呼吸も習っていないんだろう?仕方がないから、俺が稽古をつけてやる。』

 

『本当に!?助かるよ!』

 

 全集中の呼吸。

 

 身体中の血の巡りと心臓の鼓動を早める事で、隅々の細胞にまで酸素を行き渡らせる特殊な呼吸法である。身体能力や治癒力を向上させ、精神の安定化と活性化をもたらす。

 

 人間のまま鬼と戦う鬼殺隊には不可欠の、基礎中の基礎能力である。

 

 錆兎の指導の元、炭治郎はその極意を学ぼうとしていた。

 

『上半身はゆったりと力を抜け。逆に下半身はドッシリ構えろ。よし、そのまま呼吸だ。』

 

『スゥーーーーッ、ウッ!!』

 

『違う!胸に力が入り過ぎだ。』

 

『うーーーん、難しいなぁ〜。』

 

 生まれてから十と数年。己の野生の勘だけで生き抜いてきた炭治郎にとって、身体の動かし方を他人から強制されるのは初めての経験だった。

 

 そのせいか中々コツが掴めない。

 

『こういうものは、頭より身体で覚えたほうが良い。お前にもそっちの方が向いていそうだしな。おい、』

 

 錆兎の声を合図に、霧の奥から可愛らしい少女が現れる。

 

『初めまして炭治郎。私は真菰。』

 

 彼女の顔には錆兎のものに似た猫の仮面が掛けられ、その手には沢山の刀が抱えられていた。

 

『はい、錆兎。これでしょ?』

 

 少女は木刀を1本選んで錆兎へと投げ渡す。それを構えた彼は炭治郎の方へと向き直った。

 

『そっちは真剣でいいぞ。さあ、早く刀を構えてかかってこい。』

 

『えぇええ!?』

 

 炭治郎は真菰から差し出された真剣を受け取ると、慣れない手つきでそれを抜く。

 

『(ちょっと軽すぎないかな?)』

 

 というのが、生まれて初めて刀を握った彼の感想である。

 

『刀の持ち方がなってない。切っ先に意識を集中させて、両手で力強く握るんだ。』

 

 錆兎のアドバイスに従って、炭治郎は片手でブンブンと振り回していた刀を慌てて握り直した。

 

『切っ先に集中!両手でっ、力強く!!』

 

 炭治郎は“万力”の握力で刀へと力を加える。それに呼応して、彼の握った真剣の刃は“赫”く染まった。

 

『え、ちょ、刀が急に錆びた!?ねえ、錆兎!?真菰!?これ何ぃ!?』

 

『知るか。何だそれは.....』

『え、分かんない...ナニソレ。』

 

『ええぇええ!?』

 

 前代未聞の異常事態に、一同はパニックに陥った。残念ながら、赫い刀が何かを意味するか知る者はこの場にいない。

 

『ま、まあいい!とりあえずその刀を使ってみろ!』

 

『う、うん!分かった!!』

 

 炭治郎はとりあえず、突然変色した気色の悪い刀を再度握り直す。その圧力に耐えきれず、

 

 真剣は刀身ごと爆散した。

 

『うわーーっ、刀を壊してしまった!ごめんなさい!!』

 

 刀という、武器としても食糧としても貴重な品をお釈迦にしてしまった炭治郎は、その場に首を垂れてつくばい、錆兎と真菰に謝罪する。

 

『だ、大丈夫。次はこれ使って!』 

『今度はもう少し力を緩めてみろ。』

 

『う、うん!分かった!!』

 

 真菰から受け取った2本目の刃に、炭治郎はそっと力を込めた。

 

 真剣はやっぱり刀身ごと爆散した。

 

『うわーーーーっ!!』

 

『だ、大丈夫!刀はまだまだあるから!』

『優しくだ!蝶を包むように、優しく握れ!!』

 

『う、うん!分かっ

 

 気付けば真剣は、一本残らず爆散していた。

 

『うわーーーーーーーっ!!!』

 

 彼の握力(ゴリラパワー)に耐えうる剣は、ついぞ現れなかったのだ。悲しいモンスター(炭治郎)の慟哭が霧の中にこだました。

 

『もう良い!お前は素手でかかってこい!』

 

『でも、錆兎は木刀で、俺は丸腰

 

『男がつべこべ言うなぁ!いいからかかって来い!!』

 

 こうして、真剣16本の犠牲と引き換えに、炭治郎の修行は幕を開ける事となる。錆兎は剣を、炭治郎は拳を構えて、互いに向き合う形となった。

 

『さっき教えた呼吸法を忘れるな。俺を殺すつもりでかかって来い。』

 

『え、でも、それは流石に......』

 

『まさか、俺に怪我でもさせるつもりでいるのか?ハハッ、安心しろ。』

 

 炭治郎の心配を一笑にふした錆兎は、即座に彼の真横へと移動する。その素早い身のこなしは、昨晩の鱗滝の動きを想起するものだった。

 

『(速い!でも、これくらいなら目で追える!)』

 

 何とか反応した炭治郎はそのアームマッスルをフル稼働して、剛腕を振り上げる。しかし錆兎の身体は、炭治郎の拳を煙のようにすり抜けてしまった。

 

『もう一度言うぞ。俺を殺すつもりでかかって来い。』

 

 聞こえた声のする方へと回し蹴りを繰り出すも、丸太のように太い炭治郎の脚は、錆兎の身体に触れられない。

 

 代わりにその奥に鎮座していた大岩は、粉々に蹴り壊されていた。

 

『遠慮はするな、安心していいぞ。』

 

 炭治郎の背後では、再び錆兎の声が響いていた。

 

『なんせ俺は、もう死んでるからな。』

 

 錆兎の異様な雰囲気に気圧され、間合いを離そうとする炭治郎。しかしその身体は、金縛りにあったかのように静止する。

 

『俺に一撃加えてみろ。それが“お前の”最終試験だ。』

 

 指一本動かせなくなった炭治郎に、錆兎の一閃が振るわれた。




【大正コソコソ噂話】

 錆兎に真菰。

 2人は、鱗滝への憎悪を抱く異形の鬼の“手”にかかり、志半ばでその若い命を散らしている。

 しかし、師への想いと鬼への憎悪は、彼らの意志を常世へと繋ぎ止め、霊体として存在する事を許していた。

 藤襲山にいた鬼全て(2人の仇を含む)は、霊体となった錆兎と真菰に祟り殺され、その年の最終選別参加者は2人を除いて全員合格となっている。



某水柱
『俺は(錆兎のような生霊になったり、物理攻撃を無効にしたり、金縛りの術を使えたりしないから)柱じゃない。』
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