今回は一万字を超えており、長くなっております。
先の野球イベントと、今の電車ないなった事件で自身の想像力のなさに呆れています。
公式おバカ二号、二度目の廃墟へ行く。
ゲーム開発部がG.Bibleを求めて動き出した頃、イシュは既にオフロード車に乗り込み、廃墟に来ていた。
オフロード車のフォルムはタイヤが付いた四角い装甲車。荷台にはAMAS君とバイクを積載していた。
キヴォトス仕様の防弾・防爆カスタムで、小柄な生徒4人と大人1人に加えて十分な荷物も積載可能な大型車両だ。
エンジンが唸りを上げ、砂埃を巻き上げながら、廃墟の影が近づいてくる。
「さーて、まずは慣らし運転。"ロンカ"出番だよ。出ておいで」
廃墟に潜む侵入者排除用のロボットたちは、侵入者を察知すると即座に通信を開始する。
イシュの声に応じて、ロングスカートの裾から4つの浮遊球体、"ロンカ"が滑り出るように出現した。
球体たちは無言で宙を舞い、イシュの死角を守るように、あるいは支援射撃が可能な位置へと移動していく。
イシュが一歩進めば、"ロンカ"も同じように追従する。まるで、彼女の影のように。
「"ロンカ"、このあたりを一旦全部薙ぎ払って」
無論、"ロンカ"から返答はない。
機械兵がイシュの侵入を察知し、即座に仲間を呼び寄せる。まるで蜂の巣を突いたような騒ぎだ。
イシュは荷台からオフロードバイクを降ろし、キックペダルを踏み込む。エンジンが唸りを上げた。
「あっ……」
"ロンカ"の目に相当する部分に青白い光が宿り、イシュの周囲に4本の青白い光線が縦横無尽に走る。
"ロンカ"は悪くない。イシュの指示通りに"周囲を薙ぎ払った"だけなのだから。
崩壊しそうなビルを完全に倒壊させて、廃車を爆発させる。今にも崩壊しそうなビルを溶かし、信号機を折っていく。
ついでに少なくない機械兵も巻き込まれていった。南無。
アクセルを捻り、イシュは思わず「ハッ」としてしまう。先生と話をして『無傷で倒すほうがカッコいい』って言ったところなのに、この様だ。
「……私がやった訳じゃないから問題ないよ、ね?ヨシ!ペアに分かれて行動を開始!」
私じゃない。
あの子達がやった。
知らない。
済んだこと。
魔法の言葉を胸に秘め、2機ずつ二手に分かれた"ロンカ"に再び青白い光が宿る。
廃墟に踊る青白い光線は地面を抉るように迸り、廃墟を平地に変えていく。
「このあたりは少し走りやすくなったね」
イシュを見つけた機械兵は、バイクに乗るイシュ目掛けて発砲してくるが、イシュは意に介さない。
発信機をつけた機械兵の行動を探るためにアクセルを捻り、AMASが表示してくれる位置へ向けてハンドルを切った。
☆
AMASが表示する位置情報を目指して走り回ること10箇所。
それらの全てが、まるで魂を抜かれたように鋼鉄の肉体は動きを止めており、機械兵の目に相当する箇所から光は消え失せていた。
かつて廃墟で侵入者を相手に銃撃をしていた機械兵としての姿はもう無く、ただの鉄塊と化した姿。
廃墟の中のオブジェと一体化した姿は、錆付いて自壊を待つだけ。
そんな機械兵の姿を見たイシュは2秒ほど見つめて、再びアクセルに手をかけた。
「なるほど……AMAS、ちゃんと映像を保存してリオ会長に送っておいてね」
イシュにとって、サークルの結果だけが気になっていた。
イシュが求めるのは"壊される夢を抜ける強さ"だ。
キヴォトスには特殊な能力を持つ生徒がいる。
イシュの身近なところではアスナの"最適解"を最短距離で引き寄せる直感、コユキの暗号解読。他校では、トリニティ総合学園の救護騎士団のセリナのワープ、同学園のティーパーティーの百合園セイアの予知夢という形で現れる未来予知。
だが、アスナは暇になれば高次脳障害に似た症状を発症するし、セイアは現実と夢の区別が曖昧になるといったリスクを内包している。
"サークル"は、機械を壊す力。機械兵においてはOSを破壊する力。
対機械において絶対的なアドバンテージを誇る。
対人に対しては、恐らく自分の名前などの情報を忘れてしまう。放心、或いは昏倒し、結果的にその場から離れてしまう。
コントロール出来るのならば、洗脳の手段にも利用できるほどに脳や脳に準じる部位の破壊に特化している。
そんな強力なものには当然リスクが付きまとう。
これまでにイシュは数度しか"サークル"を使用していない。だからだろうか。リスクの有無が分からない。
自分の体に異変があれば、分かるはずなのだが、イシュは今現在、自身の変調を認識していない。
☆
ゲーム開発部と先生は苦戦していた。
廃墟で機械兵に発見されてからというもの、ワラワラと湧くように現れる無数の機械兵たち。
いくら撃ち倒しても、次から次へと現れるそれらは、確実にゲーム開発部のリソースを削り取っていく。
銃で応戦すればするほど、限られた弾薬はじわじわと減っていく。
先生をかばいながらの戦いは、さらに彼女たちの自由と余裕を奪っていた。
弾丸一発が致命傷となりうる存在を守りながら戦う。そのプレッシャーは凄まじい。
加えて、敵は火力も高く、数も多い。
「このままでは、いずれジリ貧になる」
それは誰の口からも語られないが、全員が悟っていた。
無限湧きとしか思えない敵に足止めされ、徐々に消耗していく状況。
弾が減るたび、焦りが募る。
人は、普段と違う行動を強いられると、神経をすり減らす。
脳が一度に処理できる情報量には限界があるという「認知負荷(Cognitive Load)」の概念の通り、イレギュラーな状況は、思考リソースを容赦なく奪っていく。
たとえば、初対面の人と話すとき。
慣れない作業を任されたとき。
新しいツールを前にしたとき。
人は、そんな場面でこそ緊張し、慎重になり、疲れやすくなる。
つまり、慣れないことをすると疲れる。そういうことだ。
適度な緊張は集中力を高めてくれる。だが、過剰なストレスは集中力をむしろ削っていく。
そして、今の彼女たちは、間違いなく、後者だった。
才羽姉妹は二回目で、アリスとユズは始めての場所で、先生の指揮に耳を傾けながら、戦況を打開しようとしていた。
先生にはアロナのバリアがあっても、ゲーム開発部は、アロナのバリアの出番があること事態を避けていた。
避けられる負傷は避けるべきであるし、アロナのバリアだって何度も展開できるわけではない。いずれ限界がくる。
才羽姉妹が機械兵を引き付けていく。才羽姉妹が機械兵の銃弾が
「アリス!」
「アリスちゃん、やっちゃって!」
「はい!――光よ!」
そんなゲーム開発部は苦境の中でも、才羽姉妹が機械兵を引き付けてアリスが纏めて撃つという打開策を言葉無く連携してみせた。
今のアリスは光属性の広域アタッカーだ。
光の剣:スーパーノヴァの光がゲーム開発部の視界を真っ白に染めたあと、視界が開けると機械兵が溶けていた。
「よし!」
「やったねアリスちゃん」
「……待って。第二陣が来てる……!」
「お姉ちゃん!撤退しよう。このままじゃ私達はジリ貧だよ。弾だって心もとないし、安全第一で出直そうよ」
ミドリは愛銃の残弾を見て、ため息を吐きそうになっていた。
廃墟までまだまだ道のりは遠い。現段階で約半分の弾を吐き出していた。
「ううん、ここで引くわけにはいかない」
モモイは決意を秘めた目をしていた。
俯いていたユズにモモイの決意は伝播し、ミドリはため息をついた。
「こういう目をしている時のお姉ちゃんって聞かないもんね」
「突破しよう。ここで撤退しても状況は悪化するだけだよ。今はアリスのお陰で手薄になっているけど、この戦闘音を聞いて機械兵はどんどん集まり続けてくるはず。G.Bibleがある工場に入るのは、今が一番のチャンスなんだよ!」
「大丈夫です。私は今までに27回のダンジョン捜索と139回のレイドバトルを成功させてきました。このパーティーならきっと、うまくいくはずです」
「どう転んでも……危険はあるよ……」
「……機械兵が来てる!」
わずかに弛緩した空気がユズの一声で一気に引き締まる。
ゲーム開発部は一斉に銃を構える。今は辛うじて隠しきれている疲労感の中、モモイの「行くよ!」の声に合わせてゲーム開発部と先生は走り出す。
ユズとアリスが先頭を走り、才羽姉妹が
才羽姉妹の猫耳型ヘッドセットには、耳を澄ませなくとも追ってくる機械兵の発する音が聞こえてくる。
後に機械兵が足並みを揃えて向かってくる音が、少しずつ近づいてきているのが分かる。
嫌でも聞こえてくる音に対し、銃を持つ手に自然と力が籠もる。
先生もシッテムの箱を手にして状況を俯瞰しようとしている。誰から漏れたか分からない、乾いた唾を飲み込む音が静かに響いた。
ゲーム開発部は残弾を把握しながら、どのように立ち回るべきか。弾を節約しつつ、機械兵たちから伸びる手を振り払わなければならない。
「……機械兵が来てる……」
「痛っ!みんな!両サイドからくるよ!」
「お姉ちゃん!」
「わかった!」
ユズの一声で空気が凍り、廃墟の横道から金属の脚音――地面を蹴る重々しい音が連なって響き出す。
ユズの愛銃である、にゃん's ダッシュから牽制の一発がお見舞いされると、機械兵はたたらを踏み、一瞬だけ歩みを止める。
「アリス!ユズ!先生を守りながら先に行ってて!」
アリスが先生と共に先行し、ユズが追いかけて才羽姉妹が背中合わせで撃っていく。
アリスもユズも先生も、時折振り返りながらも工場へ向けて走っていく。
「行くよミドリ!」
「うんっ!」
残弾の少なさから目を反らしながら、機械兵に背を向けて走っていく才羽姉妹。
追手はまだまだいる。
「ミドリ!弾ないんでしょ?!」
「モモイ、ミドリ、端に寄ってください!光よ――」
「ちょ、アリス!」
閃光が迸る。
閃光は射線上の機械兵と地面を溶かしていた。
モモイが感じたのは、すぐ隣から感じるミドリの荒い息と跳ねる心臓の音。
今から走り出すのは難しそうで、残弾の少なさから数的不利、物理的なリソース不足は否めない。
屍と化した部品を踏み越え、機械兵たちはゲーム開発部に迫る。
「モモイ!ミドリ!」
「先生……!」
「そうです!今は……!」
才羽姉妹を庇うために走り出した先生を見て、ユズは顔を青くして手を伸ばす。
機械兵たちの銃口は今にも叫びだしそうな才羽姉妹と、才羽姉妹を庇おうとする先生に向けられそうになっていて。
才羽姉妹が先生に手を伸ばし、お互いがお互いを庇おうとして、アリスも光の剣:スーパーノヴァを前面に押し出して走り出した時。
ユズは僅か先の未来を思わず予測し、想像してしまって。
「"ロンカ"、全機砲門開放、手加減は不要!てぇ!」
メイド服のロングスカートを瞬かせ、オフロードバイクに跨ったイシュが獣の咆哮のような爆音を響かせながら、空中から降下してきた。
地上に影だけを先に落とし、次の瞬間には後輪から地面に着地。そのまま体重移動と腕力だけで衝撃を殺し、マックスターンで旋回。
巻き上げられた砂煙の中で、イシュ特有の腹に響く発砲音と、四機の球体から青白い閃光を出した音だけがゲーム開発部の耳に残った。
巻き上がった砂埃が落ち着いた頃、ゲーム開発部が目にしたのは破壊の痕跡だけだった。
「わっぴー」
「イシュ!助けに来てくれたの?!」
「イシュちゃん!」
「イシュです!」
ミドリが目を見開き、安心したのか座り込んだままイシュを迎えて、モモイは立ち上がり、イシュとハイタッチを決めて。
先生はありがとうと笑顔で告げて、ユズが大きく息を吐き出し、アリスは笑顔でイシュを出迎えた。
「ふっふーん。私だってお姉さんなんだからねってあああ!!これ怒られるやつぅぅぅぅ!!」
ガッシャーン!!
サイドスタンドを出さずにいたせいで、バイクを倒してしまったイシュ。
やってしまった、と頭を抱えるイシュ。
それによく見てみれば、全力で"ロンカ"の砲撃を受けた場所は機械兵たちはもちろん、地面も見る影もなかった。
スプーンで掬われたような跡が向こう30メートル以上は続いている。
「これ、請求こないよね?」
「あははは!」
「もう!イシュちゃんったら」
「みんなが無事で良かったです!イシュ、ありがとうございます」
「助かったよ。ありがとうイシュ」
ユズも近づいてきて、皆が皆の無事を確認し合って。
みんな少し埃っぽいだけで大きな怪我をしているわけでもないけれど、銃弾を幾つかもらった程度の軽症だ。
「ねえねえイシュ、私達あの工場に向かうんだけど、一緒に行かない?」
「イシュちゃんが一緒にいてくれると助かる」
「パーティーメンバーが多いほうが楽しいです!」
ユズもコクコクと頷き、先生もユズに同調して、「私達を助けてくれない?」と言うと、イシュはいいよーと非常に軽い調子で言う。
そんなゲーム開発部と先生とイシュが目指す先は工場の中にあるG.Bibleだ。
「ぱんぱかぱ~ん!メイドが仲間になりました!」
「助かるよ!実は私達弾が心許なくってさ!」
「ありがとうイシュちゃん」
「……ありがとう」
「いいよー。私達友達でしょ?あっAMAS、こっちだよー」
イシュについてきていたAMASも仲間に加えて、工場の入口に辿り着いた。
☆
工場内部に辿り着いた一同。
ミドリは先の戦闘の興奮していた気持ちが、ようやく落ち着き、モモイは軽やかな調子で唄うように自分たちの強さを冗談半分で誇示する。
「私達は結構強かったりする?他の学校やC&Cと戦えたりするんじゃない?」
「少なくともC&Cは無理だと思うけど、確かにびっくりするよね。きっと先生のおかげですよね」
「うん、わたしもそう思う……先生がいると安心感がぜんぜん違う……」
イシュからすると、一般メイドの子たちには勝てても、C&Cは無理だと断じていた。
単純に戦闘力と地力が違うし、踏み越えてきた場数が違う。
イシュの場合は、今のところC&Cでの実績は皆無だが、中学時代にちょっと
それにミレニアム最強のネルに負けはしたものの、周囲の被害さえ無視するならば食いついていける実力はある。
「皆は残弾どれくらい?私は問題ないけど」
「バッテリーがチカチカしています。マナが足りないということでしょうか?」
「マズイね。アリスは先生を守りながら来てね」
「出来るだけ戦闘は避けていこっか」
「ここは……」
「アリス、どうしたの?」
「わかりません……ですが、どこか見慣れた光景です。こちらの方に行かないといけません」
「えっ……?」
「……」
アリスに声を掛けたモモイが固まり、イシュが表情を変えずにアリスの言葉に耳を傾ける。
先に進もうとしていたモモイがアリスのつぶやきを拾い、アリスの元へやってきた。
「アリスの記憶にはありませんが、セーブデータを持っているみたいです。この体が反応しています」
「例えるなら、そう。チュートリアルや説明がなくても進められるような……或いは何度もプレイしたことのあるゲームを遊んでいるような……」
後に続く言葉にイシュは考えた。アリスの口から語られる記憶は、どこから始まっていたのだろうか。
まるで、『頭では忘れているけれど、体は覚えている』状態だ。
例えば、幼い頃に覚えた自転車の乗り方。
幼い頃は転んでばかりで、痛い思いをしながら乗り方を覚えた。だが、大きくなって、数年ぶりに乗ってみたら、案外簡単に乗れるようなもので。
廃墟で眠る少女なんて、浪漫の塊である。
だが、後で大問題になるかもしれない子、AL-1Sは放置できなかった。明らかに怪しいからだ。
AL-1Sがミレニアムに損害を与えるかは不明だが、損害を与えるならば、まずはミレニアムからだろう。
だからイシュは放っておけなかった。イシュはミレニアムの先輩や同級生が大好きだからだ。
仮に動き出した時、活動を遅らせる、或いは、停滞させるためにOSそのものを壊す"サークル"を当てたイシュだが、"サークル"が効いていたのか効いていないのか。
仮に動き出して敵対したとしてもイシュ1人か、或いはC&Cで戦い、活動を止められるならそれでいい。
動かなくなれば、リオ会長やヒマリ
バレたらネルに怒られるかもしれないけど。いや、十中八九怒られる。最近話せてなかったから、少し話したいし。
結果的にゲーム開発部の元で壊れたせいで、手を出す必要こそなくなったものの、この場には"なにかがある"。
リオ会長は、手隙のC&C部員の都合も合わせて、それらを見越してイシュを寄越したのだろう。
どういうことだろう?とモモイが首を傾げているころ、ミドリが生きているコンピューターを見つけた。
小さな機械音が2度鳴った。
【Divi:Sion systemへようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください。】
モモイがG.Bibleについて検索しようか、や、ミドリが怪しすぎるでしょ、とツッコみ、Divi:Sion systemがこの工場の名前?
といった各々が疑問に思ったことを口に出している間、イシュはモモトークのC&Cのグループを開き、現在の位置情報や状況を共有していた。
アスナがアリスを見て、"大丈夫♪"と断言するなら、それでいいし、なにかあれば、リオ会長からC&Cに任務が降りてくるはずだ。
ゲーム開発部に目をやれば、キーボードを発見したアリスが、G.bibleと入力していた。
すると、Enterを押す前に画面に記号が浮かび上がる。
【あなたはAL-1Sですか?】
イシュは、ディスプレイを見た瞬間、手に青い燐光を宿していた。
モモイとミドリがいる方向から、ヒュッ、と息を飲む音がしたので、振り向いてみると、才羽姉妹の顔は目を見開いていた。
「ねえねえ、これって……」
AL-1S。その単語を見た途端、イシュは燐光を湛えた掌をコンピューターに当てた。
【音声を認識、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S】
イシュの"サークル"を纏った掌がコンピューターに触れてから、水が土に浸透していくように、ゆっくりと吸い込まれていく。
アリスは、もはやAL-1Sではない。かつて工場の地下で眠りについていたAL-1Sはもう居ない。
敵意は無く、友情で結ばれた仲間。今はゲーム開発部のタンクにして、光属性のアタッカーだ。そしてプログラミング担当。
「えっと……AL-1S、っていうのは、アリスちゃんのことなの……?」
「あっ……ごめん。ユズちゃんには言ってなかったかも」
何も知らないユズが素朴な疑問を口にし、ミドリがフォローを入れる。
ユズの問いに戸惑いつつも、ミドリが小さく答える。その隣で、コンピューターとアリスの対話は静かに進んでいく。
「あなたはAL-1Sについて知っているのですか?」
【それは……あwせdrftgyふ】
画面に映し出された文字列は、人間にたとえるなら返答に困っている様子だった。
先ほどは音声を認識して反応を返してきたのに、今は急に応答が不安定になる。
やがて表示されたのは「電力限界まで残り45秒。電源が切れると同時に本体は消失します」という警告。
モモイが慌ててG.Bibleのことを聞き出そうとすると、コンピューターの画面に新たなメッセージが表示された。
【あなたが求めているのはG.Bibleですか <YES/NO>】
ミドリが慌てながらも、珍しく大きな声で、YESといえば、コンピューターは返答を返す。
コンピューターは残り35秒という時間を淡々と示しながら、回答する。
『世界で一番大事な宝物なのに破棄だなんて!』というモモイの叫びを聞いたコンピューターは、データを転送するので、保存媒体を接続するよう提案する。
画面に表示されたその言葉に、一同は息を呑む。
コンピューターが語るには、G.Bibleはこのコンピューター内に存在しているが、電源の消失とともに失われるという。
保存媒体を探すと、手元にあったのはモモイのゲームガールズアドバンスSPのメモリーカードだけだった。
ユズは躊躇なくデータケーブルを接続し、転送を開始する。
【異常な外部干渉を検出しました。迅速な行動を推奨します】
「異常な外部干渉って……何?! データは無事なの!?」
【転送開始……保存領域が不足。既存のデータを削除します。残り5秒】
「ちょっ、私のセーブデータ消してるー!?!」
悲鳴を上げるモモイ。だが、コンピューターは淡々と作業を続け、セーブデータを次々と削除していく。
モモイのやりこみデータが消える様子に、イシュはそっと天井を仰いだ。
モモイのやりこみデータが消されていく様子を見て、イシュは目を細めて天井を眺めた。
悲しいですよね、辛いですよね……。ばにたすばにたーたす
【残念、削除】
「ん?君、もしかして……茶目っ気ある?」
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉおぉおおおお!!」
やがて転送が完了し、ゲームガールズアドバンスSPの電源が落ちた。
しかし次の瞬間、再び画面が灯り。
【転送完了】
そこに表示された新しいファイル名は、G.Bible.exe
「こ、これって……」
「これ、今すぐ実行しよう! 本物かどうか、確認しなきゃ!」
モモイの手が震える。手の中のゲームガールズアドバンスSPは、未だ画面を変えず静かに佇んでいた。
新しいデータを転送したファイル名は<G.Bible.exe>
「こ、これって……」
「こ、これ今すぐ実行しよう!本物かどうか確認しなきゃ!」
僅かに震えるモモイの手。
モモイの手に握られている、ゲームガールズアドバンスSPは未だ画面が変わっていなかった。
「実行!って、あ、なにかポップアップが出てきてきた!」
生唾を飲み込みながら、モモイの一挙一動を見守るゲーム開発部と先生とイシュ。
望んだものが今、モモイの手の中にある。G.Bibleがあれば、ミレニアムプライスで皆をあっと言わせるゲームが作れる。
ゲーム開発部の面々の胸中は、単語こそ違えど、『面白いゲームを作りたい』想いは同じだ。
「パスワードが必要?!なにそれ!どうすればいいのさ!」
「……大丈夫、普通のパスワードならヴェリタスが解除出来るはずだよ」
コクコク、と頷くユズにそうだろうねぇ、と呟くイシュ。
"サークル"の影響が、どれだけ及んでいるかわからない状況である。
コンピューターも、"サークル"の影響を嫌ってか、電源が切れる前に極力排除しようとしていた。
だが、完全には排除しきれていないはずだ。そうでなければ、異常な外部干渉を検出しました、から、変化があるはず。
隙を見て、モモイのゲームガールズアドバンスSPに"サークル"を当てれば良い。
ゲーム開発部は、ヴェリタスにパスワードを解いてもらうことで意見を一致させる。
「そ、そうだね。そうすれば……!」
「これがあれば、本当に面白いゲームが、『テイルズサガクロニクル2』が……!」
「作れるはずだよ!よしっ!待っててねミレニアムプライス!……いや、キヴォトス大賞!」
私達の新作は今度こそ、キヴォトスのゲーム史にいい意味での影響を与えてやるんだから!!
改めて決意表明したところで、ここは工場内部。当然声が響く。
「お姉ちゃん……そんな大きな声を出したら……」
「あっちゃー」
ミドリの、ここにいると教えているようなものだよ、と言葉が出る前に機械兵たちが湧いてきた。
機械兵同士の通信だろうか。それらのやり取りの密の多さからユズは怒ってると勘違いしてしまったようで。
「お、怒ってる……!」
「わわっ!撃ってきた!早く逃げよ」
「お姉ちゃん、その前に」
「わかってる!ゲームガールズアドバンスSP確保!」
「ゲーム開発部と先生は先に行って。私が
「イシュ、気をつけてね」
「はーい」
「イシュちゃん!お願い……!」
「イシュありがとね!」
「お任せあれ。私のことは気にしないで、絶対に振り返らずに進んでね」
「せっかくG.Bibleを見つけたのに、こんなところでやられるわけにはいかない!みんな無事で部室に帰るよ!」
「「「うん!」」」
"ターゲッティング"を手に、引き金を引く。
先行するゲーム開発部と先生の背中を見つめて、イシュは、その場に立ち止まり撤退の支援を開始する。
まずは時間稼ぎ。
彼女たちの体力と足の速さから逆算して、15分以上機械兵を引きつければ、イシュひとりで撤退できる。
15分以上機械兵を引き付ければ、イシュ1人で撤退すれば良い。
機械兵の足に向け、発砲し、イシュ自身も数歩ずつ撤退していく。
この間も機械兵が機械兵を呼び、すでに20体以上が周囲を囲みはじめていた。
「ユズ!?大丈夫?頑張って!」
「ミドリ、振り返らずに走って」
「アリスはその調子!いいね」
「先生、私は大丈夫だから安心して」
機械兵だろうか。地面から重量の機械兵が走る振動を感じる。それも10体近くだ。
イシュの鼻には嗅ぎ慣れた硝煙の香り。外れた弾丸が工場の壁に突き刺さり、飛び散る破片が視界の隅に入る。
振り返らずに走るように伝えても、優しい彼女たちは振り返ってイシュの無事を確認してくる。
機械兵達は、たった1人残ったイシュ相手に発砲し続けてくる。
イシュは発砲を気にすることはない。機械兵の弾丸で倒れるほど、ヤワではない。
時折、ゲーム開発部に弾丸が逸れそうになって、ヒィと声が聞こえてくるが、イシュはゆっくりと立ち止まり、撃つ。
腹に響く発砲音を聞かせておけば、ゲーム開発部と先生はイシュの無事を確認できるだろう。
この音が後方に届いていれば、きっと彼女たちは安心して進める。
振り返れば、ゲーム開発部と先生の背中はどんどん小さくなっていた。
うん、これでいい。
「ゲーム開発部と先生は撤退できた。さ、遊びは終わり」
緩く刻まれていくバックステップの足は止まり、"ターゲッティング"を持つ手に神秘が籠もる。
これから始まるのは蹂躙劇。
発砲音が怒涛のように重なり、イシュの弾丸が機械兵たちに降り注ぐ。
的確に要所を撃ち抜かれた機械兵は、次々とその動きを止め、火花を散らして倒れていく。
発砲音の中から、通信音が聞こえる。仲間を呼ぶ通信が行われているのだろう。
バックステップの間に、"ターゲッティング"にリロードを済ませる。
メイド服の袖口や襟の隙間から銃弾を取り出して、撃って、撃って、撃ち続ける。
独特の発砲音が止まって硝煙の匂いと油の匂いが混ざりきった頃、その空間は、もはやただの“廃墟”と化していた。
未だ通信を続ける機械兵がいくつか残る。だが、それらももはや脅威ではない。イシュは撤退可能と判断した。
目の前には機械兵の部品が足の踏み場も無いほどに散乱している。手足の部位であったものが山のように積み重なっていた。
「バイクと車を回収して戻りますか!」
天井から垂れ下がるケーブルに火花が散り、散らばる小さなパーツを踏みつけ、イシュは音を残して廃墟を後にする。
後は、心配そうな顔で待っているであろう、ゲーム開発部と先生を車で拾い、ミレニアムに戻るだけだ。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
まとまったお休みですので、こちらに注力して参りますのでよろしくお願い致します。
次話が難産になりそうな予感がします。
皆様に読んで頂き、感想を頂くことが作者のモチベーションに繋がります。
またアンケートを設置しておりますので、気軽にお答え頂くと助かります。
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