亀のような歩みですが、2章も進めていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいします。
公式バカ2号、ようやく出番か?
「モモイ、伏せて!!」
珍しい、ハレの慌てた声がモモイに伝わる。
えっ、というとぼけたモモイの声がした後に、爆発音。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!な、何!?何が起こったの?!」
ぺたんと尻もちをついて、騒ぎ出すモモイ。
対物狙撃用に使用される13.97mm弾は壁に大穴を開けた。
「お姉ちゃんの背があと5cm高かったら、おでこにクリーンヒットだったよ」
「小さくって良かったぁ……あんな弾を受けちゃったら痛いだけじゃ済まないよ」
「この辺りはもう、C&Cの狙撃手のカリン先輩の射程圏内ってわけだね」
「ミドリ、伏せて!!また来るよ!」
弾着しただけで、凄まじい音を生み出す、脅威の狙撃能力。
才羽姉妹が今いる場所から、どの程度の距離が離れているか分からないが、確実に頭を狙ってくる狙撃手の腕は恐ろしい。
もし、ここで、他のC&Cの人に出会ってしまったら。カリンの狙撃に対応しながら、他のC&Cの人に対処なんて出来るわけがない。
「走るよ、ミドリ」
「うん!」
遠く離れたビルの屋上。
コールサイン、ゼロツー推参。褐色の肌に黄金の瞳。メイド服に白ニーソの大革命。
見晴らしが良く、障害物もない。彼女の美しく手入れされた黒髪すら揺れない、スナイパーとして絶好の環境。
愛銃のホークアイ越しに覗く光景は、壁を背に一生懸命走る才羽姉妹の姿があった。
小さくって、すばしっこくて、当てにくい。だが、速度と行動パターンは把握した。
「壁を背にしても、安心じゃないんだ」
「それはどうかな?」
「私の計算結果は君と違ってね。君の弾丸が彼女たちに当たる可能性は0%だ」
「誰だ?!」
カリンの返事を返したのは、雷ちゃん。
ウタハがいつも連れているターレット、あるいは椅子の白いボディの可愛い子。
こんなにも可愛らしい見た目をしているのに、PMCの戦闘用オートマタ数百台に匹敵するほどの戦闘能力を持っているとされている。
こんな可愛い雷ちゃんでも、戦闘力を有しており、カリンに向け撃ってきた。
「紹介しよう。エンジニア部の新作の、全ての天候に対応可能な二足歩行型戦闘用の椅子。雷の玉座さ」
「はぁ?!」
カリンの頭に疑問符が浮かぶ。
凄いのは分かる。分かるのだが、椅子とは……?二足歩行……?
纏りきらない言葉が、はぁ?!の一言に凝縮されていた。
「ずっと気になっていたんだ。どうやって、ゲーム開発部がセミナーのセキュリティを突破して、ここまで来れたのか」
「あなた達が、先生と協力していたのなら納得できる。だが……私を倒すつもりなら、あなたは奇襲するべきだった」
「ここがあなたの計算ミスだ、そうだろう、ウタハ」
「ああ、そうだね。ここは遮るものが何もない。そう、天井すらもね」
「はぁ?」
カリンとてC&Cに選ばれるほどの人材だ。
例え大型のスナイパーライフルを持っていることで、動きは制限されても、身につけた近接格闘術で対応可能だ。
だが、カリンの耳に届くのは、ヒュー、と甲高い風切音。低く響く着弾音。
「曲射砲。一体どこから」
「うちのヒビキが反対側から、ね」
カリンがヒビキを狙撃する場合、幾つもの壁や天井を貫通させなければならない。
だが、雷ちゃんとウタハを相手にしながら、ライフルで曲射が出来るというのなら話は別だ。
「もう一度言おう、計算通りだ」
ウタハとヒビキの手により、カリンは事実上封殺されている。
狙撃が止まった才羽姉妹が動き出そうとするが、足元が揺れた。
アカネがシャッターを爆発させたせいで建物そのものが大きく揺れる。
「ユウカ、聞こえますか?モモイちゃんとミドリちゃんは今どこに?」
「さっきまでカリンが足止めしていたわ」
ひとまず、閉じ込められてグズグズ泣いていないようで、心の隅ではホッとしていたユウカ。
だが、才羽姉妹の進行が想像以上に早いのが気掛かりだった。
「イシュもいるんでしょ?」
「ええ、出番はまだ先ですが、良い子にしていますよ」
「なら良いわ、挟撃しましょう。アカネ、動けるわね?」
「ええ、勿論、と言いたいところですが、電源が落ちていますね」
ユウカとの通信そのものが不可能になったアカネは、そこまで徹底しますか、と独り言を呟いた。
アカネはメイドだ。メイドは決して、髪を振り乱しながら足音を立てて走ったりしない。
「アスナ先輩、今、どちらにいらっしゃるのでしょうか」
☆
校舎内部。
ここまで来たら、セミナーの差押品保管庫は目と鼻の先だ。
才羽姉妹は互いの顔を見合わせて、頷く。
「お、やっときたね!」
「!」
「!?」
イシュの声ではない。暗がりからでも分かるほどの高身長だからだ。それに良い匂いもする。
事前情報では、ネルは居ないと分かっている。カリンとアカネは既に交戦済み。
身長が高くて、良い匂いがして、まだ出会っていないC&Cは……。
「遅かったねー。待ちくたびれたよ~!」
「ようこそ、ゲーム開発部と……先生だ!ずっと会えるのを楽しみにしていたんだよ~!」
「アスナ先輩!?」
「あ、アスナ先輩がどうしてここに!?」
「どうしてって……なんとなく?ここで待っていたらあなた達に会える気がするんじゃないかな~って」
「そんな予感がしてたの!それじゃあ始めよっか?」
「念の為に聞くんですけど、何を始めるんですか?」
「戦いだよ~、戦闘。私、戦うの大好きなんだ~」
「あっ、そうだ!自己紹介まだだったよね!コールサイン・ゼロワン、アスナ!いっくよ~」
「やっぱりぃぃぃぃぃ!」
オペレーションルーム。
刻々と変化し続ける戦況に、新戦力を投入を決定したユウカ。
侵入者撃退のために些事を横に置き、メイド部の指示に従うようプログラミングされた押収品のロボットが投入される。
これでゲーム開発部が不利になる要素が追加されていく。
時間を掛ければ掛けるほど、セミナー、防衛側に戦力が追加されていく。
現在交戦中のアスナを除くと、アカネとイシュがほぼ無傷で残っているのだ。イシュに至っては居眠り寸前である。
ところ変わって校舎内部。
現在交戦中のゲーム開発部は、一方的にやられていた。
「いててて」
「……デタラメに強い、これがC&C……」
「ふ~ん……」
アスナの心の中は、意外な驚きがあった。
インドア系の部活で、戦闘経験も少なく、動きも鈍いだろうと踏んでいたアスナ。
だが、その予想はいい意味で裏切られていた。
思ってた以上に筋は悪くない、戦闘能力は低いものの、双子特有のチームワーク、阿吽の呼吸とでも言い換えてもいい。
お互いがお互いを自然にフォローする。モモイが飛び出せば、自然とミドリが援護する。逆も然り。
お互いを知り抜いているからこそ、出来る芸当。
「双子のパワーってやつかな!良いじゃん良いじゃん、もっと戦おうよ!」
「うわぁぁぁん!なんでアスナ先輩に会っちゃうかなぁ!」
「お姉ちゃん、一旦退却しよ」
「うん、仕方ないね」
「だーめ、そんなことさせないよ~」
才羽姉妹は、今できる精一杯の行動をしている。だがアスナはどうだろうか。
豊富な運動量に、直感と経験に由来する、その時の最適解の行動を続ける。
アスナ1人に翻弄されている才羽姉妹だが、つい少し前に、何度も聞いた破裂音にも似た爆発音。
「これは……カリン先輩の狙撃!じゃあウタハ先輩は……」
ウタハは転がされて、カリンの下敷きになっていた。
カリンの意外と大きなお尻。貴重な情報を届けてくれたウタハに敬礼。
先輩想いであることを逆手に取られたヒビキは、沈黙してしまう。
「ウタハ先輩捕まっちゃったって連絡があったよ!」
「アカネ先輩も、爆弾でシャッターを破壊して出てきたって!それにたくさんロボットを連れてきてるんだって!」
「やばいよお姉ちゃん」
「そうだね」
「何だか分かんないけど、私たち優勢って感じかな!もしかして、そっちの作戦は破綻寸前だったり?」
「……まだ、失敗じゃない!」
ミドリが提案していた、失敗した時の作戦。
非常に高確率で詰むポイントはここ。だから、ここには居ない誰かに先を託す。
イシュがもっと下層の階に配置されていたら、成功しなかった作戦。
ゲーム開発部の面々をよく知るのは、C&Cの中ではたった1人、イシュだけだ。
「ユウカとアスナの声がする!」
居眠り5秒前のイシュは、目を覚ました。
でもユウカとアスナの姿が見つけられず、すぐに欠伸を噛み殺している頃。
作戦指揮を取るユウカまでもが校舎内部に来ており、才羽姉妹は作戦が始まって以来の大ピンチに陥っていた。
「ん~、何かの相談かな?必死さがなくなっているけど、諦めたのかな!」
「この状況です。諦めるのが賢明ですよ」
「げぇっ、ユウカ!」
「よくもここまで引っ掻き回してくれたわね。ここだけは褒めてあげる」
「でも、猶予を与えたから、こんな事態になったのも事実。私が甘かったかしら」
「もう悪戯では済まないわよ。無条件で一週間停学か、拘禁は覚悟しなさいよね」
「こ、
「1週間……ミレニアムプライスに間に合わなくなる」
「今はアリスちゃんも反省部屋にいるわ。1人じゃあ寂しいから可哀想だったけど、あなた達が行けば寂しくなくなるわね」
「うぅ……」
「お姉ちゃん……」
「捕まっても大丈夫かなって思ったけど……ユズとアリスだけじゃゲームは作れない」
「突破しないと!みんなでゲームを作りたいから!」
「へぇ……私たちを?どうやるのかしら」
「お待たせしました、ユウカ。アスナ先輩」
アカネの体重の話は誰も聞いていない。いいね?
アカネは多数のロボットの進行に合わせてゆっくり来た。決して体が重たかったからではない。いいね?
「あ、アカネ先輩にロボットがいっぱい!!」
「今度こそ本物のようですね。改めて、初めまして、モモイちゃん、ミドリちゃん。ここまで来てしまったら言い訳はできませんよ?」
「シャーレにも抗議文を送ります。先生、ご承知ください」
「ごめんね、先生。私たちにもっと力があれば……!」
「先生、私たちのせいで……ごめんなさい」
"諦めないで"
「ですが、この状況じゃあ……」
「ターゲットを確認、魔力充填100%」
「この音は……!」
「伏せて、お姉ちゃん!」
「光よ!!!!」
「たった一発でこの威力?!まさか……!」
「カリン、応答してください!カリン!カリン?!そういえばカリンの火力支援はいつから……?」
戦闘ロボの半数をなぎ倒し、C&Cの主力であるアスナ、アカネを一発で戦力外にまで追い込んだ正体。
ユウカは1度、とてつもなく巨大な、銃らしきものを見たことがあるはずだ。
「モモイ、ミドリ、今のうちです!行きましょう!」
「アリス!」
「アリスちゃん!」
「どんなゲームの中にも、主人公は、決して仲間を諦めたりしませんでした」
「アリス……分かった!行こう!」
「アリスちゃん……」
誰も気付いていなかったが、アカネたちへの支援射撃を閃光弾により止めさせられたカリン。
ヒビキの曲射砲から一方的に打ち込まれる閃光弾に歯噛みするカリンは、その場にいるウタハと会話をしていた。
スナイパーとして、視界を塞がれても対処できるが、ウタハが撃てないように邪魔をしてくるのだ。
アカネをなんとか振り払い、逃げ切ったゲーム開発部。
ようやく差押品保管庫に辿り着いた。
☆
「はぁ、はぁ、なんとか逃げ切れた……。先生、ミドリ、アリス、大丈夫?」
「HPは全快です」
「私も先生も大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「……?」
「ミドリ、どうしたの?」
「うーん、何だか分からないんだけど、違和感があるの」
差押品保管庫は暗く、グチャグチャであった。
ガラスが割れていたり、棚が倒れていたり、整理整頓が行き渡っていないように思える。
ミドリは戦闘の余波ではないかと推測を立てて、話していく。
この差押品保管庫に入った時から感じている違和感をずっと拭えないでいた。
ミドリが感じているのなら、モモイも感じていると思っていたのだが、そういう訳ではないようだ。
先程からユウカたちの行方を推論を交えて話している。
「とりあえず、『鏡』を持ち出しさえすれば、あとはヴェリタスがどうにかしてくれるはずだよ!」
「先生、先生は何か違和感を感じませんか?」
"小骨が喉に引っ掛かっている、というのかな"
"そんな違和感を感じるよ、何か忘れているような、何か大事なことを見落としているような気がするんだ"
「先生も?」
「そうですよね……何かを忘れているような気がしてきました」
「あっ!見つけた!これが『鏡』!これさえあれば……!」
「よしっ!さあ、早く帰ろー……」
「……?」
「静かにお願いします」
「?」
「誰かが、こちらに向かってきています。足音から人数は恐らく1人」
「えっ……」
「うーん、1人だったら突破できるかな。このまま、ここにいて、奇襲しよう」
「……」
「ちょ、ちょっと待って。ハレ先輩から連絡が来てる。なになに……逃げて、いや隠れて、早く何としてもうjひkm,」
「えっ?一体どういうことなの?」
「どうしたんだろうハレ先輩……」
「接近対象を確認。ミレニアム生徒名簿を検索、対象把握」
「身長146cm、ダブルSMG、メイド服の上からスカジャン」
「えっ……」
「嘘……まさか……?!」
「隠れて……!」
ハレから連絡が来て、遅れて確認したミドリが文面を見て、口をあんぐりと開けた。
いや、まさか。そんなはずはない。彼女はミレニアムの外郭かどこかで用事があって、いないはず。
「もうめちゃくちゃだな」
ネルは差押品保管庫を一瞥し、散らかり尽くした様子を見て
ゲーム開発部は小さな体を存分に活かし、姿を隠す。
ネルの姿を確認した途端、声にならない声を上げ、なんで、と心のなかで叫ぶ。
「んん?今なにか聞こえたような……」
部屋の角の天井側にイシュが張り付いているのを確認したネルは、小さくため息をついた。
ネルを見たイシュは口だけを動かして、は・な・さ・な・い・で、と伝える。
イシュの存在に気付いていないゲーム開発部は、ネルが来たという事実に戦々恐々として、背中に冷たい何かが伝うのを自覚する。
単に恐怖に支配されている才羽姉妹。アリスは、初めて恐怖を感じており、勝率0%という残酷な数字が弾き出される。
「ふーん。確かに気配はする。机の下か?」
ひとつひとつ机の下を覗いていくネルに、才羽姉妹は恐怖と戦っていた。
暑い時とは違う、額に玉のような汗が滲む。もう目の前までネルが調べていた。
もう、終わりだ、と皆の心が一致した頃。
「あ、あの!」
「あん?」
「ネル先輩大変です!」
「(ユズぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!??!?!?)」
「あんたは?」
「せ、セミナー所属のユズキです」
「戦闘ロボットが暴走したせいで、今、あちこちがめちゃくちゃなんです」
「アカネ先輩とアスナ先輩が制圧を試みていますが……」
「んだよ、暴走か?あれを差し押さえたのなんか随分前だろうに、まだ整備終わってねえのか」
「じょ、状況的に、助けが必要だと思い、そ、それでここにいると聞いたので……」
「はぁ、仕方ねえな」
「わ、私はここの整理をします。そ、そ、その戦闘は怖くって……」
「んなことどうでも良いけどよ、あんた。覚えときな。戦闘で一番大事なのは武器でも経験でもねぇ」
「は、はい……?」
「度胸だ。」
その言葉を聞いていたイシュも、小さくコクコクと頷く。
困惑しているのが丸わかりのユズキ(ユズ)だが、それでも、一人の先輩として、1人の自治区を護る者としての心意気。
「その点、あんたは素質がないとは思わねぇな」
ニッとユズキ(ユズ)に笑みを向けるネル。ネルは間違いなく、後輩を導く先輩の1人としてユズキ(ユズ)に言葉を贈っていた。
「自分が、どう思われているくらい、あたしも分かってる。それにあんたが結構なビビリっていうこともな」
「それなのに、初対面であたしに声を掛けてくるなんてのは、それなりに度胸がいることだからよ」
「は、はいいいいい?!ありがとうございます」
「じゃあな、またどっかで会おうぜ」
ネルを見送ったユズは、脚から力が抜け、その場にへたり込んでしまう。
顔を青くしながらも、見送るネルの背は小さくとも大きく、力強いものだった。
「し、死んじゃうかと思った……」
「ユズぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ユズちゃんスゴイ!お陰で命拾いしちゃったよ」
「力になれてよかったよぉ……」
「それより、今、アリスちゃんが持っているのが……」
「はい、これが人類と世界を救う希望の光、『鏡』です!」
「や、やっとだね……」
「お祝いは後にして、急ごう!ネル先輩が戻ってきたら、今度こそ一巻の終わりだよ!」
「……?」
「うーん」
「どうしたのミドリ」
「ネル先輩が違和感の正体じゃなかったの。だから、違和感の正体は分からなくって」
「なんだ、そんなことか。急ごうよ!」
「そんなことってお姉ちゃん……」
「この先には戦闘ロボットがたくさんいるよ、気をつけてね」
「そうだね、作戦はまだ終わってない!」
……作戦は終わっていない。
確かにそうだ。この差押品保管庫に入ってから、ずっと抱え込んでいた違和感の正体を掴めていない。
違和感の正体はネルじゃない。ネル以外の“何か”が、この部屋に潜んでいる。
「私達の目的は『鏡』ではなく、G.Bible!早くヴェリタスの部室に行かなきゃ……!」
「先生、指示をお願いします!」
"みんなで無事に部室まで戻ろう!"
「「「「はい!」」」」
足並みを揃えて、差押品保管庫から出ようとしたゲーム開発部。
早くヴェリタスの部室に向かうため、気が急いていた彼女たちは最初から最後まで、違和感の正体を掴めなかった。
彼女たちは、天井からの襲撃者に誰も気づかない。猫のように無音で着地したイシュは、愛銃“ターゲッティング”をすっと構えた。
ボルトアクション式のショットガンのリロードの音で、ようやく気付いた。
「イシュ?!」
「イシュちゃんがどうしてここに?」
「私たちも依頼で動いてるんだよね。だからさ、『それ』置いていってくれない?」
「そういうわけには行かないよーだ!」
「モモイ達だって大変なのは分かるけどさ、私も部活なんだよね。先生も巻き添えにしちゃいそうだし、早く渡してくれない?」
「そうじゃないと、ちょっと痛い目見ちゃうかもしれないよ?」
"渡したらダメだよ"
「……!走って!」
「もう。私の身体能力知らなかったっけ?廃墟で散々見せたと思うんだけどなぁ」
走り出すゲーム開発部に追いかけるイシュ。
ユズか、モモイか、ミドリか、アリスか?もしかすると先生か?
身を寄せ合って、一塊りになってで走り出したゲーム開発部。
走っている最中に『鏡』の受け渡しをされたら、この中で誰が『鏡』を持っているのか、分からない。
誰が『鏡』を持っているのか分からないようにするためか、或いは先生の側にいると撃たれないと確信しているからか。
「はあ。ちゃんと警告したし、怪我しても怒らないでね」
イシュからすると、ゲーム開発部の動きは遅い。
意図して寄り固まって移動しているからだが、容易に追い越して、また後ろに回って見せる。
「ロボットちゃん達、総員、ゲーム開発部を撃っちゃダメだよ」
普段運動らしい運動をしないゲーム開発部に対し、フルマラソン完走レベルの距離で体を温めるイシュ。
肉体の運動性能の差が大きすぎる為に、どれだけゲーム開発部が頑張って走ろうとも、イシュを離せない。
「こうなれば……!みんな、あとはお願い!絶対に追いつくから!」
モモイがイシュに飛びついてきて、力いっぱい抱きしめる。
その行動は、少しでもイシュに負荷を掛けて速度を落とすためだ。
「お姉ちゃん!」
「モモイ!」
「……ダメっ……」
モモイ……無茶しやがって。
モモイに抱きつかれたイシュは驚いた顔をしてはいる。
脚をバタバタさせてイシュの重心を変え、走りにくくしている。
だが、大きく身長が変わらない2人は、時折バランスを崩しつつも、イシュは腕力で無理やり引き剥がし、モモイを小脇に抱く。
「えっ、えっ」
エッホエッホ。
ゲーム開発部を追いかける速度は落ちたものの、エレベーターにアリスと先生とミドリが乗り込んだ。
足がもつれて乗れなかったユズは、先のモモイと同じく、先に行って、と告げて、プルプルの脚でなんとか立っていた。
「え、えいっ」
ユズまでイシュに飛びついてきた。
イシュが手を伸ばして、エレベーターの扉を止めようとしたものの一歩間に合わず。
「先に行かれたかぁ。仕方ない」
両手にモモイとユズを抱えて、道を戻るイシュ。
両足をバタつかせて抵抗するユズに、お風呂、という一言で大人しくさせると、才羽姉妹がカリンに狙撃された場所まで戻ってきた。
ヒュォォォォと風が鳴き、改めて高いところまで登ってきたのだと教えてくる。
「ね、ねえイシュ。まさか、ここから飛び降りたりしないよね?」
「ちょ、違うよね?」
「ううん?違わないよ。こっちの方が早いでしょ?」
「え?嘘だよね?こんな高いところから飛び降りたりしたら怪我するよ?」
「ううん、大丈夫だって。地上が近づいてきたら、"ロンカ"撃つから」
ユズが青い顔をして、お目目グルグルのまま正気?という顔でイシュの顔を見ている。
モモイは必死に止めようとして、あれこれと話し続ける。
耳元のインカムから流れてくる声。
一言二言話をすると、はぁ、とため息をついたイシュ。
「任務は終わり。はぁ、失敗かぁ……」
モモイとユズを優しく床に降ろして、露骨なため息。
「さ、戻ろ?」
「そ、そうだね」
「うんうんそうしよう!一刻も早く戻ろう!」
イシュには、ネルの視線から何も伝わっていないようであった。
ゲーム開発部、否、エンジニア部とヴェリタスの協力があったとしても、実行したのはゲーム開発部だ。
彼女たちはただのナードではない。ミレニアムの武闘派集団のC&Cを出し抜いて、『鏡』を取った。
これから先、C&Cはゲーム開発部を侮ることはないだろう。
イシュ…「待て」が出来ました。
ユズ…お風呂に連れて行かれることが決定しました。
モモイ…勇気がある行動ができました。
ミドリ…イシュにちょっと引きました。落ち着いて、一歩引いた視線で状況を見ていました。
アリス…ファインプレー連発の今話のMVP
好みを教えてください
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水色と大盛
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水色と特盛
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ピンクと大盛
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ピンクと特盛
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