ミレニアムムジカクテンセイシャ   作:二重アゴ

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ホシノ先輩の戦闘巧者っぷり、天才っぷり、先輩らしさを出せたら良いなと思います。
GW、終わってしまいますね……GWが終われば、社畜に戻りますので、再びのんびり更新になります。よろしくお願いいたします。


幕間(1)

公式おバカ2号、砂漠の中の学校へ

 

アビドス高等学校に届いた突然のメール。

通常、スパムや迷惑メールは、自動で迷惑メールフォルダに振り分けられる。

しかし、このメールは、なぜか受信フォルダの中に堂々と居座っている。

黒髪のショートヘア、エルフ耳で紺のブレザーに水色のネクタイを締めた少女、奥空アヤネはメガネをクイッと押し上げ、メールを読み始めた。

アヤネはメールを読み終えるなり、思わずため息をついた。

内容は、まさかの5W1Hが完全に欠落したメール。

誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように。これらが抜けたメールからは情報を読み取れない。

悪戯メールだと切り捨てるのは簡単だが、アビドスに何らかの問題を持ち込まれては堪らない。

 

「……一応、先輩方と先生に報告しておこうっと」

 

小さ呟く。

セリカちゃんにも知らせてあげないと怒られそうだ。

全員が揃っているタイミング、会議の後が良いかな。

すぐに出来る対策ような話ではない。いつ来るか分からない相手に対して備えるのも難しい話だ。

それに、今はシャーレの先生のお陰で補給は行き渡っている。

悪意があるようにも見えない。悪意があるのなら、ヘルメット団のように、前触れもなく襲撃してくるはずだ。

現役のアビドス生として不本意だけど。……本当に不本意だけど、今のアビドスに、"予告"までして奪う価値があるものなんて存在しない。

 

 

アビドス高等学校は砂に覆われた学校だ。

砂とともに生きている、といえば、聞こえはいいが、かつてはキヴォトス最大のマンモス校であった。

生徒会長が70名おり、群雄割拠の大混乱時代を超えた全盛期では、人・物・金が、ありとあらゆるものが潤沢であった。

また、その時代にはアビドス郊外の砂漠のオアシスで『アビドス砂祭り』という、他学区からですら人が集まるアビドス名物の催事も行われていた。

だが、数十年前のある時期から頻発し始めた砂嵐により、アビドス自治区の環境は激変。

砂が生活圏内に入り込んできて、最初は視界の悪さやフィルターの目詰まりの頻度が高い、程度に収まっていた。

次第に機械類が壊れる頻度が増した。インフラや建造物に影響を与え始めた頃には、少しずつ人口流出が始まっていった。

当時の生徒会は、進む砂漠化への対策で、多くの資金を注入したが、事態は好転しなかった。

好転の見込みがないとして、人口の激減に歯止めが効かなくなってから、経済も落ち込んでいく。

様々な対策が施されてきたが、それら全てが芳しくない結果であり、学区の殆どが砂漠に覆われていく。

それからもグレーゾーンな金利でお金を貸すカイザーローンから、借金をしてまで対策費用を捻出したが、状況は悪化する一方。

残ったのは自治区の規模に対して少数の大人と、億単位の借金を返済しなければならない5人の生徒。

現在のアビドス高等学校も校舎本館は砂に飲まれており、数度の移転を経て現在は自治区の別館で落ち着いている。

 

「これで定例会議を終わります」

 

アヤネの一声で、先生を交えた会議は恙無(つつがな)く終了した。

あとは雑談タイム、というのも定例なのだが、アカネはメールの件を切り出した。

 

「ちょっといいですか?会議の本筋とは関係ないんですけど。少し前に変なメールが来たんです」

「変なメール?詐欺のメールだったり迷惑メールじゃないの?」

 

テーブルに両手をついて、立ち上がろうとした黒髪のツインテールで猫耳の少女、黒見セリカが答える。

アヤネと同じく1年生で、生粋のアビドスっ子のツンデレ少女だ。

ようやくヘルメット団の襲撃が無くなったのに、また問題?といいたげに眉をひそめる。

アヤネの話を促すように、パイプ椅子に座った。

 

「どんなメールですか?」

 

明るい金髪で碧眼、カッターシャツの上から黄色のカーディガンを着ている少女、十六夜ノノミが反応した。

うへぇ~とテーブルでダラけているピンクの髪色でオッドアイの少女、小鳥遊ホシノはアヤネに耳だけを向けていた。

 

「ん、見せて」

 

口数少なく答えたのは砂狼シロコ。銀の髪にケモ耳が生えた少女は、最速の答えを得ようとしていた。

個人差はあるものの、セリカやシロコといったケモ耳の生徒は動物的直感に優れる場合がある。

論理や分析ではなく、本能や感覚に基づいて瞬時に状況を判断する能力が、このような回答をさせた。

 

「では、見てください」

 

先生を含めた全員が、テーブルに置かれたタブレットを覗き込む。

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------

件名:アビドスのみんな、わっぴー

本文:

アビドスのみんな、元気?

行く前にメール送った方がいいかなって思ったから、先にメール送るね!

今度アビドスに遊びに行くから一緒に遊ぼ!

---------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「……わっぴー?なにこれ」

「なんでしょう?」

「意味がわからないわね!」

「うへぇ~。悪戯じゃないの?」

"…………こういう事をやりそうな生徒に心当たりがあるんだ"

 

ホシノの脳裏に先日の夜のパトロールの時が蘇る。

 

「(……つけられている)」

 

砂に埋もれた市街地。半分埋まった家と外灯の中で、何者かが距離を保ちながらこちらを追っている。

何度か振り返っても姿は見えないが、それでも全身を舐めるような執拗な視線は消えなかった。

砂が足跡を消し、侵食が進む建物は軋む音を出す時がある。それがかえって想定外の物音を帳消しにしてくれる。

それに加え、身を潜めるには十分な廃墟。

広い自治区なだけに、パトロール範囲も当然広くなる。

不自然なまでに感じる視線。何度か振り返ってみても、姿は見えない。

アビドス自治区の住人なら声を掛けてくるし、アビドス生に優しくしてくれる人もいる。

 

「出てきなよ。バレてないと思ってるんだろうけど、おじさん気付いてるからさ」

 

夜の砂漠は冷える。

冷たい風がホシノの頬を撫でる。

ホシノは盾である『IRON HORUS』を展開し、視線の主に向けて身構える。

少しして、恐る恐る出てきたのは見知らぬ制服の少女だった。

 

「あ、あの……!お手洗いどこですか?」

 

ホシノはじっと相手を見つめる。制服には見覚えがない。だが、感じ取ったのは、場違いな緊張感。

一見すると素人を装っているが、足運びを始めとする身体の動き、息遣いが一般的な生徒の()()ではなかった。

訓練を受けていないなら、呼吸が浅く、早くなるものだが、目の前の少女は一定の呼吸を保っているからだ。

 

「(アビドスではなく、私個人を調べに来たスパイ……かな?)」

 

その実、少女の正体はC&Cでスパイとしての訓練を受けた少女だった。

とあるコールサイン持ちから、アビドスの小鳥遊ホシノを調べるようにという無茶振りをされて来てみた。

本来ならば、時間をかけて自分自身を自治区や学校に"馴染ませていく"ものだ。

だが、アビドスの全校生徒は()()5人だけ。お互いがお互いをよく知っている。そんな学校に溶け込むのは不可能だ。

指示通り、実際に来てみたものはいいものの、歴戦の戦士の雰囲気を纏う少女に近寄れなかった。

彼女のリーダーのネルと方向性は違うが、"強者"特有のオーラというものだろうか。隙を見せると確実に"喰われる"と思うほどの強者であるように見せた。

近づけないのも、早く『お花を摘みたい』のも事実である。

こんな辺境の砂漠に送られて、コールサイン持ちは横暴だ、と数時間は恨んだ。

恨んだものの、ゆっくりと夜空を眺める機会が得られたと思えば我慢できた。

任務が終わったらまたすぐ別の任務が待っている。そんな日々に疲れていた彼女は、今回くらいは休息だと割り切っていた。

彼女は今回の任務は事実上の休暇だと割り切り、気楽に過ごすことにした。

連邦生徒会への影響力を失って久しいアビドス。アビドスの情報なら手早く終わらせて、休暇気分で満喫すると決めた少女だったが……。

まさかの捕捉されているとは思いもしなかった。

スパイであることも忘れて、素直に溢れたのは、嘘偽りのない自然な言葉だった。

 

その後は誰も語らない。

ただし、スパイの少女に刻まれた傷は深いものだったとだけ添えておく。

 

 

「ん、"遊び"の意味か分からない」

「ヘルメット団みたいに襲撃してくるんでしょうか」

「うへ~、これだけじゃ分からないことばかりだね~」

「ヘルメット団が来たら、またボコボコにしてやるんだから!」

「落ち着いてくださいセリカちゃん。先生、何かご存知ありませんか?」

"……実は"

"このわっぴーっていう挨拶をする子に、思い当たりがある"

 

「わっぴーって挨拶だったの?!」

「変わった挨拶ですね☆」

 

先生はイシュについて、簡単に説明を始めた。名前はもちろん伏せたまま、学校名も部活名も語らずに、ゆっくりと。

 

"強い相手を見聞きすると、その日に襲撃するくらい、わんぱくで遊びたい盛り。しかも甘えん坊なんだ"

"近くで見ている子から聞いたのだけど…………その、なんていうか……、えーと、……その……包容力のある、優しく受け入れてくれる先輩を選んで、膝の上に座ったりする子のようでね"

 

先生が見てきた中での印象と、ユウカが穏やかな笑顔で語る"身長が低い少女"の話が重なる。

ユウカがイシュの体重増加を語る時のだらしない顔を見ても、先生はその話題には一切触れない優しさがあった。

 

「その、なんというか……変わった子ですね」

「可愛いですね☆」

「うへ~、おじさんと趣味が合いそうだねぇ~」

 

対策委員会が、包容力という単語から連想したのはノノミだった。

ノノミの顔から、視線は落ちていき、()()()()()に目をやるのは、ごく自然なこと。

当のノノミは、あら~と両手を顔に添えていた。

 

一方その頃、イシュは、アビドス高等学校へ向けて、自身の愛車で久々の全開走行に近い巡航速度を楽しんでいた。

街中では決して出せない速度で走る車は、砂を数メートルも巻き上げる。腹に響く低音マフラーの音。

防弾・防爆のカスタムを施し、重厚になった車体を押し出すのはターボ。

エアインテークが空気を吸い、タービンが唸り声を上げ、強烈なトルクがタイヤに伝わり、タイヤが路面を食む。

クラッチを操作し、ギアを上げる。2速から3速へ。スピードメーターは、もうすぐ90の数字を示そうとしていた。

走り始めてどれくらい経っただろう。

ふと気付くと、近くには、バイクに跨るヘルメット団の少女たちがいた。

今、初めて出会って、言葉すら交わさずに走る。風を切りながら、視線が交差する。

友達でも何でもないけれど、一緒に何かしているだけで、彼女たちが、ほんの少しだけ分かった気がした。

少し走ったところで、ヘルメット団の少女たちは手を振り、別の道へと曲がっていく。イシュはクラクションを短く鳴らして、それに応えた。

砂が舞い上がる視界の向こう、どうやらここは幹線道路らしい。彼女たちと手を振って別れたその背中を、少し名残惜しく見送った。

 

 

その頃、アビドス高等学校に設置されたアラームが鳴り響く。

すぐに立ち上がる一同は、ガンラックへ急ぎ、それぞれの愛銃を手にしていた。

 

「南方30kmに不審な車両がこちらへ向けて移動中です。皆さん、出撃の準備をお願いします」

「「「はいっ!」」」

「うへ~おじさん遣いが荒いよアヤネちゃーん」

 

背面にアビドスの校章が入ったタブレットを手に、情報共有を行う。

アヤネはオペレーターとして、校舎の4階に駆け上がる。先生は戦闘指揮をするため、アヤネと同行し、シッテムの箱を取り出していた。

全員が耳にインカムを着用し、手早く周波数が合っているかの確認を済ませる。

 

"よろしくね、アロナ"

【はい、よろしくお願いします、先生!】

「ん、行く」

「ちょっとシロコ先輩!」

「シロコちゃーん、気をつけてくださいねー」

「うへ~シロコちゃんは元気だねぇ、おじさんも見習わないと」

 

シッテムの箱から、アロナが返事をする。先生にしか聞こえていない、幼い子どもの声。

待ちきれずに窓から飛び出すシロコを追い、対策委員会の少女たちは、校舎の前の砂漠の砂が混じるグラウンドの土を踏みしめる。

程なくして辿り着いた校門。

アラームが鳴ってから、対策委員会が位置につくまで約6分。これが彼女たちの即応力だ。

悲しいことに、襲撃され続け、配置の手順が半ば自動化してしまうほどに慣れてしまった結果だ。

アラームが鳴ってから、約20分。

配置についたものの、校門に登ったシロコが目を凝らす。

 

「ん、来た。もうすぐ来る」

「えっ!?どこどこ、シロコ先輩!見えないんだけど!」

「うへぇ~シロコちゃんはわんぱくだねぇ、おじさんシロコちゃんが元気に育ってくれて嬉しいよ」

「少し時間が掛かりそうですね☆」

 

対策委員会全員の目に、舞い上がる砂煙の形まで視認出来るほどに不審車両が近づいてきた。

三角形に広がった砂煙が、迫ってくる。低音マフラーの音が耳に聞こえるほどの距離で、セリカは憤っていた。

 

「もう!うるさいわね!何なのよあの車!」

「ん、速い。もうすぐそこまで来てる」

「不審車両は、ブルーのセダンタイプ、丸いヘッドライトが特徴の車両です」

「うへ~あと1分ってところだねぇ~。皆、準備はいい?」

「はい~、私はいつでもオッケーです☆」

 

ゆっくりと不審車両が校門前に停まった。

運転席のドアが開き、姿を見せたのは、身長が140cmと小さく、メイド服を着込んだ少女だ。

助手席に手を伸ばし、愛銃を取り出す。愛銃は、いつもの冷たい感触は、戦闘に向けてのスイッチ代わりだ。

自身のコールサインを示すものも、学生証も、C&C所属を示す証を除いた身分証はすべて置いてきた。

"ロンカ"も自室でお休み中。スマホはプリペイドを契約して使用するほどの徹底ぶりだ。

今の状態のイシュは、先生が身分を保証しなければ、ただのメイド。キヴォトスの強者を求めて彷徨い歩く野良メイドだ。

対策委員会の視線を受けた少女は、わっぴーと声を上げた。

 

「あら、モモフレンズですか?」

「うん!知ってるの?」

「私、Mrニコライさんが好きなんです~☆」

「わぁ!わぁ!Mrニコライが好きな人と初めて会った!えっと、ちょっと待ってね」

 

メイド服の腰部分のエプロンに手を突っ込み、ゴソゴソすると、Mrニコライのキーホルダーが出てきた。

それを手に載せて、ノノミに差し出す。

 

「この間、D.U.のモモフレのガチャガチャで当たったの。あげる」

「いいんですか?ありがとうございます~☆」

 

モモフレンズファンでも、人によってはグッズを譲りもする。

モモフレンズ繋がりで知り合ったヒフミとも似たような出会い方だった。

そんなノノミとイシュがやり取りをしている間に、先生とアヤネが校門前に来ていた。

 

"こんにちは、イシュ。アビドスに何か用事?"

「あっ、先生だ。わっぴー。用事というか、メール送ったから来た」

「ちょっとアンタ!あんな変なメール寄越しておいて、よく顔を出せたわね!」

「まあまあセリカちゃん」

「……?」

「もう!今日来るだなんて聞いてないって言ってんの!」

「うへ~セリカちゃん、そこまでにしようよ。シロコちゃんも銃を下ろして」

「えーと、イシュちゃん、でいいのかな?おじさんとお話しよっか~」

「うん」

「じゃあ、あのメールから説明してくれるかな?」

 

シロコはイシュを見て、いつでも戦えるように脚を動かしていた。

ホシノに言われて、銃を向けていたことを思い出したのか、銃を下ろそうとするが、中々下ろそうとしない。

ホシノの手により、ようやくシロコの銃口は地面に向いた。

セリカは、ふん!とそっぽを向き、少し距離を取る。ノノミとアヤネはホシノを信じて、状況を見守ることにしている。

 

「アビドスのみんなには、遊びに行くからってメールした」

「遊ぶって具体的に何を指すのかな?」

「戦いとか」

「そっか、君はアビドスを襲撃をしようとしているの?」

「違うよー。アビドスを襲撃するならメール送らないよ?」

「???」

「???」

「もう一回聞くよ。君はここに、何をしにきたの?」

「……戦い。特に強者との、戦い!あなたを前にして分かった。アビドスの最強は、やっぱりあなた」

 

シロコのケモ耳がピンと立つ。

ホシノの内心は、やっぱりか、だった。先日のスパイのことがあってから予感はしていた。

 

「他の子には手出ししないのなら、おじさんが戦ってあげるけど、どう?」

「わかった。今は対策委員会の子に銃を向けない」

「……契約成立だね。じゃあ、おじさんいってくるから後はよろしく~」

 

うへぇ、と呟き、肩を落としながら校門から離れるホシノと、ホシノを追いかけるイシュ。

残りの対策委員会の生徒と先生は、校舎へ戻り、アヤネのドローンで戦況を見守ることにした。

 

「うへ~君もおじさん遣いが荒いね~筋肉痛になっちゃいそうだよ~」

「そんなことはないよね。重心のブレはないし、今もあえて、隙を作ってる。まるで誘ってるみたい」

 

相当戦い慣れてる、相当な場数を踏んでいる、という言葉は出なかった。

巧妙に隠している強者としての気配。

背中を見れば分かる。猛禽類を幻視するほどの強者。

だが、強者らしい雰囲気は、立ち居振る舞いや言動からは容易に読み取らせてくれない。

戦闘の舞台は校門を出てすぐ。目の前には住人がいなくなった住宅が立ち並ぶ。

足元にはアスファルトと砂が半分ずつ。太陽の照りつけが砂を反射して眩しい。

 

「先手は譲ってあげるよ。それともコイントスが好みかな?」

「ありがたく先手は頂くね」

 

ホシノは盾である『IRON HORUS』を斜めに構え、ショットガンを盾に空いている穴に添える。

イシュは戸惑いなく発砲するが、当然盾に阻まれる。そこでイシュは、盾から突き崩そうとする。

ホシノに向かって走り出し、まずは盾を引き剥がそうとしていた。

 

「そうなるよね?でも、やめてほしいな」

「ううん?」

 

シールドバッシュが返ってくるのもイシュは想定済みで、シールドバッシュのタイミングに合わせてバックステップをする。

ほんの数秒宙に浮くイシュの小さな体だが、宙で2回転して音なく着地。

スカートを摘むと、落ちてきたのは爆弾。それをホシノ目掛けて蹴り飛ばし、イシュは"ターゲッティング"の引き金に指を掛ける。

腹に響く発砲音が3度鳴った。

イシュだってC&Cの末席だ。爆発の黒い煙の中でも、ホシノの気配を察知し、狙いを定められる。

首筋に何かが掠った。ほんの一瞬、肌を掠めたような感覚があった。

爆発の煙が止んだ時、イシュは太陽を眺めていた。

 

「えっ」

「うへぇ~ごめんね~」

 

脚に何の感触が無かった。触られた感触も、蹴られた感触も。いつも通りだったはず。

いつ?どこで?どうやって?

胸元に添えられたホシノの愛銃であるEye of Horus。

 

パタン、と盾が倒れる乾いた音がした。

 

違う、ネルとはまるで違う。

ネルは、撃てば返ってきた。でも、ホシノは、受け流してから返してくる。端的に表すのなら、守る戦い方。

特徴的なオッドアイは下がり「うへぇ」と気怠そうな小さな呟きを零した。

咄嗟に片腕で体を持ち上げ、足元を払うイシュだが、Eye of Horusの銃口は胸から脚に滑っていった。

 

「シロコちゃんが真似しちゃダメだからね、まずはそのわる~い脚から止めさせてもらおうかな」

「止められるかな?」

 

イシュは、片手だけで逆立ちになり、両脚を回転させる。つま先の感触は、Eye of Horusの感触だろう。

ホシノは愛銃を取り落とすのを恐れてか、バックステップで回避するが、その先が、盾を置いていた場所だった。

「うへぇ」と呟きながら盾を拾う姿と、戦いの中の姿が、あまりにも違いすぎる。

 

「あはは♪」

「ありゃ、壊れちゃったのかな」

「こんな相手は初めて。私は音無イシュ。名前、教えて」

「うへ~おじさんは小鳥遊ホシノだよ~よろしくね~」

 

イシュの間合いは全て読まれきった。

手足の長さから引き金に指を掛ける刹那の癖まで。

だが、イシュにも意地がある。

 

「じゃあ、続き、しよ?」

「うへ~動いてもないのに疲れたよ~」

 

お互いの立ち位置は、いつの間にか最初の位置に戻った。

イシュの独特の発砲音、脚を使おうとしていた。が、ホシノからの返事は閃光弾だった。

イシュが爆弾を持っているのだから、当然、ホシノも銃以外の道具を持っている。

ホシノが投擲した閃光弾を認識したイシュは小さな声を漏らして、銃を持つ手で両目を覆う。

この隙を逃すホシノではない。盾を前に出して突っ込んでくるホシノは、愛銃の引き金を引く。

Eye of Horusから吐き出される弾丸は、イシュの体に当たるも効果は薄い。それでも、効果はある。

イシュが銃に神秘を込めて吐き出した神秘弾は、ホシノの鉄壁の防御を、わずかにだが、めくりあげることに成功する。

 

「あれぇ~?おかしいな」

「いや、あの盾どうなってんの」

 

2()()()()()()()()()()()()()()()()ホシノの盾は、まさに鉄壁だ。

そんな盾を一時的にめくりあげてからは、ホシノの脚へ撃とうとするが、その前にホシノのEye of Horusが火を吹いた。

 

「いてて。君の"それ"って、こうやるのかな?」

「うっそー!」

 

ホシノの神秘弾。

髪色と同じ神秘が籠もった弾丸を受けたイシュは、ボールのように弾かれていく。

家2軒分のブロック塀を破壊し壁を突き破って、リビングに転がり込んだ。

 

「やあやあメイドちゃん。気分はどうかな?」

「まだ戦えるよ!」

 

イシュが開けた穴の中から現れたホシノ。

イシュは膝立ちになり、"ターゲッティング"を構えてホシノ目掛けて突っ込んでいく。

走りながらリロードを済ませたイシュ。Eye of Horusの銃口はイシュの方を向いていた。

だが、撃とうとすること自体がフェイントで、Eye of Horusの銃口を手で抑え込み、ホシノへ向けて発砲しようとする。

ホシノの盾は"偶然"にも、"ターゲッティング"の銃口を塞いでいた。

 

「……あっ、マズ」

「アビドスに騒ぎを持ち込んだ罰ってことで、これで終わり。いーい?」

 

目で分かっても、脳は既に命令を下している。引き金を引く指は止められないし、止められる3本目の手もない。

独特の発砲音のあと、"ターゲッティング"の銃口が、花弁のように広がった。

銃は、発射時に高圧のガスが弾丸を押し出すことで動く。このガスは本来、弾丸と一緒にまっすぐ前へ抜けるのが前提だ。

だが、この時のように、銃口が一部でも塞がると、ガスが逃げる道が塞がり、内圧が急上昇して、銃口が破裂する。

イシュは気付いていないが、銃口を盾で塞いだ時、一瞬だけホシノの垂れた目は、鋭く上がっていた。

 

「……これはダメだね、私の負けだー……」

「うへ~、君は、おじさんが君と同じくらいの歳の時よりも強いよ~」

「嘘だー」

「1年後、2年後が楽しみだよ~。君、アビドスに馴染みそうだし、このままアビドスの子にならない?」

「だめー」

 

ホシノは垂れ下がった目でイシュを見つめて、手を差し出した。イシュはホシノの手を掴み、起き上がった。

戦いの後は、お互い笑顔。

 

ネルは銃を掲げて言っていた。

『お互いを理解するには、"これ"が一番早い』

ネルの顔が脳裏に浮かぶ。うん、うん、確かにそうだ。言葉を交わすより"これ"が一番分かりやすい。

イシュが感じ取ったのは、後輩の盾としての役割を全うしている、ということだ。

敵を倒して後輩を守る、攻撃的タンクという役割。

敵の弾丸から後輩を護るための本来の意味での盾としての役割。

 

全力を振り絞り負けたのではなく、テクニックで制圧された。ホシノの手の中で転がされた結果だ。

力で押し通すのではなく、()()()戦い方。

 

「ん~?何か言った~?」

「ううん、何でもない」

「じゃあ、学校に戻ろっか」

「うん!」

 

まるでアビドス生の扱いになっているが、この少女はミレニアム生だ。

2人揃って校舎に戻ると、校舎の出入り口で対策委員会の皆と先生が待っていた。

イシュはノノミの姿を認めると、真っ先に胸に飛び込んだ。

ノノミは、本来ヘリコプターや車両に取り付けて使用するガトリングガンを携帯武器として使用している。

そんな彼女の武装は、弾薬や銃身駆動用のバッテリーが必要で、必要なものを揃えれば総重量100kgを超える武器となる。

使用時に体がブレないほどに鍛え上げられた体幹は、ガトリングガンを発射中でも揺るがない。

ガトリングガンよりも軽いイシュが胸に飛び込んでも、何ら問題はない。

 

「……負けちゃった。くやしいぃぃぃぃぃ!!!」

「あらあら、そうですか~。よく頑張りましたね~☆」

「うん……」

 

対策委員会の皆と先生は、破壊されたイシュの"ターゲッティング"の銃口に目を留め、次にホシノの顔を見た。

両肩を下げて、「うへ~ノノミちゃん、おじさんも疲れたよ~」とノノミに抱きつくホシノ。

 

「あらあら、ホシノ先輩も仕方がないですね~☆」

 

年下の子と先輩に抱きつかれるノノミ。

セリカは気になっていたことを先生に聞いた。

 

「ねえ、先生。あの子、いくつなの?」

 

アヤネは特に気にした様子はなかったが、先輩2人があんな調子だからか、自然とセリカの話に耳を傾ける。

シロコはイシュを見つめて、何かを考えているようだった。

 

"セリカやアヤネと同級生で、15歳だよ"

 

時が止まった。

 

「「ええー!!」」

「本当ですか?私たちと同級生で、あれは、幼すぎませんか?」

「嘘でしょ?!あんなにも小さいのに、一部は小さくないけど!嘘じゃないでしょうね!」

"本当だよ"

「ん、私もホシノ先輩に負けた。悔しいのなら反省して、体を動かして発散するべき」

 

ノノミ成分を補充したイシュは、シロコと一緒に木の枝を持って、地面に絵を書きながら反省会を始める。

十分に反省したあとは、アビドスの校舎がパルクール会場に代わる。

体を動かすのが好きな両名は、相性が良いのか、イシュがシロコに懐いて姉狼が爆誕した。

アビドスの砂の大地に、新たな友情が芽生えようとしていた。

 




お読み頂きありがとうございます。
ホシノ先輩の戦闘にご満足いただけたでしょうか。
私のイメージを形に出来たと思います。
銃破壊については、恐らく審議が別れるでしょう。
ですが、作中でも言葉にしている通り、アビドスを騒がせた罰です。

ブルアカアニメで、ノノミの膝はホシノだけのものじゃないって言っていました。
つまり、イシュを膝に載せても問題ないということ。

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旧題 : (自称)モブ日記▼特に理由も説明も無くキヴォトスの生徒になった(自称)一般人が、宇宙世紀の天パのようなセンスをもって(主観的には)淡々と生きていく話です。▼アークナイツでタルラ救済SSを考えているうちに、ふと気が付けばブルアカのSSを書いていた。これは…ゴルゴムの仕業だ!▼SS処女作です。▼基本的には原作通りに進みます。▼メインストーリーを読破され…


総合評価:5820/評価:8.41/連載:14話/更新日時:2026年01月25日(日) 21:49 小説情報

聖園ミカにTS転生した(作者:魔女じゃんね☆)(原作:ブルーアーカイブ)

聖園ミカに男性が憑依した話。結果、原作以上にアグレッシブな準問題児になった。ナギサ(の胃)は死ぬ。駄文注意


総合評価:3444/評価:7.18/短編:21話/更新日時:2026年06月03日(水) 22:21 小説情報

生徒(黄昏接触済)に転生したけど何とか原作以上の結末を目指します。(作者:冴月冴月)(原作:ブルーアーカイブ)

▼ 目が覚めたら目の前にシュロが居た。▼ 絶叫から始まった二度目の人生はキヴォトス、それも目覚めた時点で自分は普通の生徒ではない状態だった。▼「なんで私黄昏に接触してるの? アヤメは??」▼ 脳内を疑問符で占領されつつも、折角転生出来たならと百花繚乱編に限らず、先生を助けるべく奔走することを決める。▼「私が皆の『吉兆』になれるように」▼ そんな思いを抱いて。…


総合評価:1782/評価:8.22/連載:9話/更新日時:2026年05月24日(日) 18:30 小説情報


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