ミレニアムムジカクテンセイシャ   作:二重アゴ

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続いた



イシュと部活(1)

イシュと部活(1)

 

「お腹へった!」

「……おはよう。ずいぶんとお寝坊さんなのね」

「おはようございます」

「わっぴー」

 

嗅ぎ慣れない匂い、白い天井。多分体操服に着替えさせられていることから推測して恐らく保健室。

先生と作業通話するASMRが約8万本売れてそうな声と、最近出たASMRが約3万本売れていそうな、聞き慣れない声につい声が出てしまった。

セミナー、いわゆる生徒会の役員であり親友同士の2人だ。

2人は自然とベッドサイドにイスを置き、腰を据えた。

 

「お目覚めのところごめんなさい。あなたが音無イシュさんでお間違いありませんか?」

「うん」

「初めまして。私はセミナーで書記を拝命しています、生塩ノアと申します」

「同じくセミナーの会計、早瀬ユウカよ。早速だけど、今回の騒動について話を聞かせてほしいの」

「騒動?」

「そうよ。あなたがネル先輩と戦ったことについて!」

「うん、良いけど」

「では、戦うに至るまでの経緯をお教えいただけますか?」

「ミレニアムじゃあネルが強いって聞いた。だから戦ってみたかったの」

「それだけ?!そんな理由でネル先輩と?!」

「ユウカちゃん落ち着いてください」

「そうだよ。せっかくの美人が台無し。強いヤツがいたらとりあえず戦いたいって思うでしょ?」

「そうですよねー?イシュちゃんの言うとおりですよ」

「……もう、ノアまで。それで?あの場所を選んだ理由はあるのかしら」

「邪魔が入りそうになかった場所だから。それに壊れちゃっても大丈夫そうだった。仮に不良がいても巻き添えになると思った」

「一応治安のことは意識していたのね」

「うん。不良が増えた。お小遣いいっぱい増えた」

「あなたねぇ、やんちゃ過ぎるのよ!だいたい何なのよ!銃撃戦で地面にいくつも大穴が開くわけないでしょ!ノアも見たでしょ?!」

「ええ、あの痕跡は銃撃戦でできるものではありません。爆弾などを使いましたか?」

「うん。特製の爆弾とロンカ使った」

「どんな威力してるのよ……ロンカって何なのよ……とにかく!ミレニアム内で使いたいなら火力を落とすこと、良いわね!」

「えーやだー……」

「いいわねっ!」

「経緯はわかりました。ではイシュちゃん、最後に私から連絡があります。既に配信されていますが、新入生向けのオリエンテーションの期間が終わってしまいました。ですので改めて説明致します、また後日セミナーの部室までお越しください」

 

おバカが目覚めて。いつの間に着替えたのか保健室に備え付けの予備の体操服になっていた。

ネルとのケンカで約2日間を通しで戦って負けて3日間眠りこけたイシュ。

1日目のうち半日、12時間、泥のように眠って怪我は完治していた。残りの2日半はただ疲れただけで眠り姫になっていたらしい。

寝起き早々にイシュを訪ねたのはセミナーのユウカとノアだ。

単語からイメージができないが、セミナーは生徒会と言えば分かりやすい。

セミナーの2人はネルとのケンカの経緯を知りたがったらしい。経緯からあれこれと話し合ってイシュの処分が決まるようで。

寝起きの頭でふわふわと答えてしまった気がするけれども、まあいいか。

サイズが大きく、ブカブカの体操服にブルマ、ブルマから覗くインナー。イシュはベッドから床に届かない足を放りだし、床に立つ。

裸足のまま保健室の出入り口までセミナーの二人を見送った。

 

「……あの子、小さいのに派手なやつつけてたわね」

「ユウカちゃん?なにか言いましたか?」

「何でもないわ。仕事は山積みよ。早く部室に戻りましょう」

 

 

室笠アカネ。

C&Cにおけるコールサインゼロスリーを戴く女性。

アカネはC&Cという部活の二年生の先輩で、豊かなアッシュグレーのロングヘアーで黒縁メガネをかけた物腰柔らかい人物だ。

メイド服でなければどこかの令嬢ではないかと見まごうほどの美しくも何処か儚げな雰囲気を持つ人。

メイド服の上からでも分かる豊満な胸、クラシックなメイド服にヘッドドレス、差し色の水色のラインが美しい。

綺麗で微笑みを絶やさない優しそうな人、お姉ちゃんみたい、というのがイシュの第一印象。

イシュが眠っている間、彼女に起こった出来事が徐々に明らかになってきた。ネルがフルーツの入ったバスケットを持って見舞いに来ていたことを、アカネが伝えてくれた。

他にも、C&Cの面々も持ち回りでイシュの面倒を見てくれたようだ。

当然、彼女たちにも授業や任務がある。その僅かな時間を割いてイシュの面倒を見に来ていた。

部長命令の体だが、それぞれができるときでいい、というくらい大雑把なもの。

アスナは「この子まだまだ起きないよー!」からのイシュを抱き枕にしてぐっすり夢の中へ旅立ったそう。

カリンはイシュを尻目に数学の勉強をしていたようで、静かな環境が功を奏したのか、あるいはスナイパー故の集中力か。少し勉強が進んだ。

推測ばかりだが、証明しようにもイシュは夢の中。またアカネもイシュに付きっきりでいたはずもなく。

フルーツが沢山盛られたバスケットだけが話の信憑性を与えていた。

これらの話はアカネから聞いた話でしかない。それでもイシュはC&Cの面々に随分と世話になったのだと実感したのだった。

セミナーの二人の急な来訪で忘れていたお腹の虫が暴れ出す。

セミナーの人が来て緊張していたところに、物腰柔らかなアカネが来て、多少は気分を持ち直したのだろう。

 

「あら、お腹が空いたのですか。部長から頂いたフルーツを剥きましょうか」

「うん!お腹すいたー。あとでくるーって回って!」

「はい、良いですよ」

 

メイド服可愛いね、とへにゃりとした笑顔でご機嫌なイシュ。こちらは高校生とは思えないほどの、良くて中学生、悪くて小学生のような、幼い子どもの笑顔に対し、アカネは穏やかに微笑んで。

このような穏やかな時間を大切にしたいのだろう、とイシュには感じられた。

ベッドに腰掛けて足をプラプラさせながら、瀟洒なメイドの一挙一動に感嘆の声をあげて。

ブルマでスースーするのか、細い足太ももを掛け布団で隠して足をプラプラ。どうも落ち着きがない。そわそわしている。

まずはリンゴから。アカネは柔らかな手付きでリンゴを押さえ、優しげな微笑みを浮かべてリンゴを食べやすく輪切りにしてくれる。

 

「たくさん食べる!」

「ええ、バスケットいっぱいにフルーツを頂いておりますのでたくさん食べましょうね。少し食べたらお風呂に入ってキレイにしましょう」

 

イシュはぐっすりと眠って、只々空腹を訴えてくる腹の虫を収めるため、たくさん食べるのだと意気込んでいる。

リンゴはお腹が空いているイシュがすぐに食べられるようにと配慮された切り方で、メイドの本分を十分に発揮していた。

大きな声で元気に「いただきまーす」と言えば、美味しさと食べやすさを重視して輪切りにされたリンゴを一口、シャクリと音がなった。

甘くて美味しい。見た目通りの子供舌のイシュだが、甘くて美味しいものは大歓迎だ。手を頬に当てて思わず溢れる笑み。

イシュの反応を見て、アカネはイシュの心中を察し、果物を用意してくれる。

アカネは少しずつ果物を剥いていき、とうとうイシュの口まで運ぶようになっていた。

アカネはイシュの顔を見て、時折話しかけながらイシュの小さな口に合わせて切った果物をどんどん口に入れていく。

イシュは「甘い♪」「美味しい♪」と頭の悪い感想を垂れ流しながら、バスケットの果物を全て食べきった。

  

果物を食べる姿はまるでリスを想像させる。幼い顔立ちに小柄な姿から、アカネはネル部長を追い込んだとは素直に信じられないほどだ。

表情の変化は薄くとも、人懐っこく、雰囲気から感情を察してやれば、だいたい言いたいことは分かる。

彼女も多くのミレニアム生と同じく、裏表がない、素直な生徒の一人だ。

 

ネル部長をスッキリさせる、というのは簡単ではない。

まず、コールサインを持つもの全員でネル部長に挑んで、ようやくといったところだろう。

聞くところによると、丸2日間、廃墟を戦場跡にするほどに暴れまわったらしい。

そんな人物をリーダーが逃すだろうか。セミナーの会計の胃を犠牲にしてしまえば、部長の欲を満たせる。

会計のユウカから、被害総額の概算を出してもらえばあちらも納得するのではないだろうか、と詮無きことを考えるアカネ。

 

1年生に見られる、制服に"着られている"姿だが、イシュがメイド服を着たらどのようになるのだろうかとアカネは思考の末、ネルサイズの予備を用意しようと思いついた。

保健室のベッドで寝かされた際に服も強制的に着替えさせられており、汚れた服は洗濯済みである。

洗濯済みであるが、血痕は落ちても戦闘の余波で制服に空いた穴は勿論、一部が焼け落ちたりしている。もう着れやしないだろう。

如何にミレニアムであろうとも制服の申請にはセミナーを通さなければいけないし、イシュに合うサイズ、即ちキッズサイズが「はいどうぞ」と用意されるわけではない。

イシュもメイド服に関心を寄せているのだから、丁度いいタイミングとも言えた。

メガネのレンズの向こう側ではイシュが笑顔でリンゴを食べいる姿。アカネはイシュの勧誘に取り掛かろうとしていた。

 

「イシュちゃんはメイド服に興味がおありですか?」

「うん!可愛いもん」

「このまま体操服で過ごしていただくのも忍びありません。サイズがあればご用意致しますね」

 

生で本物のメイド服が見られて、あまつさえ自分のために果物を剥いてくれるシチュエーションにイシュは笑顔が普段より三割増だ。

そんな幼い笑顔にアカネも笑顔が溢れる。

果物を食べて、お腹の虫から開放されたイシュは意気揚々とシャワー室に向かおうと保健室の扉を開けるが。

 

「お風呂どこお?」

「ご案内します。一緒に行きましょうね」

 

アカネも高校一年生を相手にしているのに、イシュの見た目の幼さから幼い子を相手にするような柔らかい口調となっている。

3大校の一角に数えられるミレニアムは生徒数が多い。

銃撃戦と実験での爆発音。ミレニアムサイエンススクールに限らず、これらは日常の喧騒と変わらない。

銃撃戦や爆発音が頻発するということは、負傷する生徒もおり、服を汚す生徒も発生する。

そんな生徒たちのために用意されているのが、保健室とシャワールームだ。

総数20の保健室と同数のランドリールーム。最大300人が同時に使えるシャワールーム。

本来なら一箇所に纏めるような学園内の設備だが、時間を尊ぶミレニアムでは、各建物に設置されている。

生徒数の多さからシャワルームが数多くあるため最先端科学を用いた専用の施設まで用意される。その中の1つにアカネはイシュを案内した。

 

「おおおー大きい! 大きいことはいいことだー」

「この施設では理論上300人の生徒が同時にシャワーを浴びることができます。ゆっくりシャワーを浴びて頂いて構いませんよ」

「うん。しっかり洗ってくるね」

「私はメイド服を探してまいりますので、またお会いしましょう。1時間後でよろしいですか?」

「うん!」

 

首がとれそうなほどに空を見ても頂点が見えないシャワールームに両手をブンブンと振り回して大きい!と大喜びするイシュの姿にアカネはまた微笑みが溢れる。

1時間後にここに集まろう、と待ち合わせをして別れた2人。

 

 

アカネの足は自然と部室へ向き、歩きながら考えていた。

アカネを困らせたのはイシュの小さな身体、すなわち身長だ。140cmの小さな体は、C&Cの中でも一際小さいネルよりも更に小さい。

メイド服は部長の予備があったが、スカートは短くされている。

ミニスカートでもロングスカートでもイシュには似合うだろう。部員内でもイシュの姿は共有されている。

けれど、まだ見ぬ『ゼロフォー』を除く、コールサイン持ちはアカネを除く全員がミニスカートだ。だからバランス調整という名の仲間作りがしたかったアカネ。

短いやり取りからイシュの活発で落ち着きのなさ、ゆるーくマイペースな性格を読み取ったアカネは、動きやすいミニを好むかと思われた。

だがネル部長から聞き及ぶイシュの武装は球状の四機と銃器。

レイヤードスリットスカートならば、新しい戦闘メイドとしての1つの姿として、また彼女の活発さを邪魔をしない服装になるのではないだろうか。

レイヤードスリットスカートならセクシーさとカッコよさのギャップを引き出せるのではないか。

ロングスカートと比べると隠せる弾薬が減るのは仕方がないが、彼女には肉弾戦という武器がある。

しかし、身長が低いイシュにレイヤードスリットスカートは似合うだろうかと思うと、そうとは思えない。

 

ロングスカートならば、イシュの愛機4機分と、替えの弾薬をたくさん隠せるとようになると教えてやれば良いかもしれない。

スカートの中に彼女の周囲を飛び回るといわれる球状のものを4機ともスカート内に格納できる。

球状のものはともかく、弾薬はどのように出し入れしているのか?秘密です。

 

部内で決を取ろうとスマートフォンを取り出し、モモトークのC&Cのグループでアンケートを取った。

ロングスカートをミニスカートに仕立て上げるのはアカネの手に掛かれば一瞬だ。エプロンにだって可愛らしい装飾を飾ることもできる。

メイドとは万能なのだ。

もし彼女がC&Cに入部することがあれば、イシュの肩に彼女のコールサインを入れてあげよう。

手のかかる幼い妹を相手にしているような不思議な感覚、といえば良いのだろうか。

無邪気で、人のパーソナルスペースにスルリと入ってくる小さな女の子。次代のC&Cを担うかもしれない少女。

人知れず、口元を手で抑え笑みを浮かべるアカネ。

ネル部長はそんなことはなくケンカ友達のようなものなのでしょうけれど、私にとっては手のかかる妹のようなものですよ。

 

 

1時間後、シャワールームに戻ってきたアカネ。手にはメイド服一式が用意されていた。

その間のイシュはというと、シャワーを浴びていた。

身体を綺麗にしたあと、待っているのはメイド服だ。サイズがあったら良いなぁ。

アカネが着ているメイド服を思い出す。

上下が黒のドレスに同色のスカート。裾から覗くフリルが可愛い。その上から白いフリルがあしらわれたエプロンを着ている。

右の二の腕には『03』の数字。濃茶と薄茶のチェック柄のストールをずっと身につけてるから寒がりなのかな?

でも、あのストールがあるだけで優雅さがプラスされてるんだよねぇ。不思議。

もし、これからメイド服を着ることになるなら、どんなメイド服になるのだろう?

シンプルに黒いドレスに白いエプロンを身につけるのかな。

ブーツなんて履いてみたら戦闘で大助かりなんだけど、こっそり履けたりしないかな。

 

 

「イシュちゃん、メイド服の用意ができました」

「やったあ!見せて見せて」

「後ろに立ちますね。目を瞑ってくださいね」

 

シャワー後のボディソープの香りとシャンプーの香りがする。強くない香りで清潔感を感じさせる。

メイド服を見たイシュちゃんの目がキラキラと輝いていました。ハンガーにかけたメイド服を見せると、落ち着きがない様子が見て取れます。

姿見の前でルンルンしています。ウズウズしています。「早く早く」と急かされているみたいです。

姿見の前に立つイシュちゃんの身体にメイド服をあてがう。

 

「目を開けてください」

「わぁー可愛い……」

「とってもお似合いですよ」

「良かったぁ、背が小さいから似合わないかなって思ってたの。本当に着てもいいの?」

「ええ、勿論。御主人様にもご覧いただきましょう」

「んー?先生に?」

「ええ、お会いしていないでしょう」

「うん、確かに。遠目から見たくらいだから忘れられてるかもー」

「御主人様に限って、そのようなことはあり得ませんよ」

「そうかなー?」

「(あら、すっぴんですね。すっぴんで赤ちゃんのようなモチ肌。羨ましい限りです)」

 

私が用意したメイド服はシンプルなものです。

黒いドレスにスカートの裾には長さが違う二段のフリルをたくさんあしらわれており、白いエプロンにはモモフレンズのワッペンをつけました。

先程の話から、モモフレンズが好きという話でした。推しはスカルマンとウェーブキャットさん。でもガチではないとのことです。

 

イシュちゃんは早速体操服を脱ぎ捨てました。それはもう、豪快に。一部は裏返ったまま、手で簡単に丸めてポイ。

ブルマも躊躇なく引きずり下ろし、体操服の近くへと投げていました。

最初に白のウルトラロングのオーバーニーソを身に着けて。

片足で立っているのに一切身体がブレていませんね。足先までオーバーニーソでカバーしたら、そのまま足を上げていき、床と平行になるくらいまで足を上げました。

足を上げてから、きっちりとオーバーニーソに足を通し、片方は完了しました。もう片方も同じ要領で履いていますね。

踝まで隠す黒いドレスに袖を通し、背中のチャックを締めます。

モモフレンズのアップリケがつけられた白いエプロンを両肩と両脇に通して腰の後ろで結ぶ。

首元の水色のリボンをちょうちょ結びで結んであげて、襟元にはミレニアムの象徴である校章、『7n』がしっかりと視認できるように前に向けて。

白いヘッドドレスに白いタイツにローヒールの黒いパンプス。櫛で髪を整えて、カチューシャ型のヘッドドレスを頭につける。

 

「メイド服に合わせて、タイツと靴も用意してみました。確かめてみてくださいね」

 

最後に黒いローヒールのパンプスを履いて完成。

露出は必要最低限で、本人の良さを全面に出した可愛らしい小さなメイドさん、といったように見えます。

 

「靴のサイズは問題ありませんか?」

「うん!ぴったりー」

「お似合いですよ、イシュちゃん」

「わっわっ……!」

「では、皆にお披露目に行きましょうか」

「うんっ!」

「あとで撮影もしましょうね」

「やったぁ!アカネも一緒に撮ろうね!」

 

心ここにあらず、といったところでしょうか。放心していたようです。

C&Cはメイド部とも呼ばれ、ミレニアム内では公然の秘密ですが、エージェントの集まりです。メイド服はC&Cの制服でもあります。

学園祭などのイベントごとで、ミレニアム生がコスプレや仮装としてメイド服を着る姿は一時的に見られます。

ですが、まだ正式に入部していない生徒に、正式なメイド服を着せるということは、私が知る限りありません。

入部前のメイド服の着用は遠回しな『コイツはもうC&Cだ。手を出すな』宣言に他なりません。

部への所属をアピールするわけではないのですが、ネル部長が勧誘をしている事実はミレニアム生の多くが知るところです。

ここキヴォトスは女子生徒ばかりです。たった二人で廃墟を戦場跡にした噂の広がりは早く、研究の虫といえるミレニアムの生徒も女の子、ということですね。

 

イシュちゃんは浮かれています。

可愛らしく仕上がったメイド服を着て歩くのは嬉しいようで、語尾に音符がつきそうなほどなほどの浮かれ具合です。

端から見てもご機嫌といった様子で、そんな様子を見たミレニアム生も思わずニッコリしています。彼女たちの瞳はマスコットを見るそれと同じですが……。

時々無意味に十秒ほどターンしてスカートの裾が広がるのを楽しんでみたりしていますね。

翻るスカートを見るのが楽しそうです。

縁石の上に軽やかに乗り、つま先立ちで歩き始めました。スカートの裾が風になびく中、イシュちゃんの動きは一切ブレず、まるでバレリーナのようでした。

周囲のミレニアム生が驚きの視線を向ける中、イシュちゃんはそのまま小さなターンを決めて、さらにバランスを保ったままスカートの裾を軽くひらめかせた。

「見て、見て!すごいでしょ?」と言いたげな笑顔を浮かべながら、彼女の足元は一瞬も揺らぐことなく、まるで縁石の上に描かれた線の上を歩くかのように完璧なバランスを保っていました。

向かい側からやってきた生徒たちは、イシュちゃんの優れた体幹に感心するしかなかったようです。あんぐりと口を開けていましたし。

イシュのつま先立ちで歩く姿は、まるで空中に浮かんでいるかのようで、イシュちゃんもその感覚に楽しそうに微笑んでいました。

指先で摘んで腰を捻ってスカートを見て。アカネに向き直り、カーテシーを披露する。

アカネからするとまだまだ練習が必要なレベル。だが、イシュちゃんの表情を見ていると、本当に楽しそうです。

スカートを摘んでは落とす。その度に翻るスカート、スカートの裾から覗く二段フリルが美しく舞う。

イシュちゃんの、これらの動きから、戦闘メイドとしては素晴らしい領域にあると思えます。メイドとしての技能はこれから鍛えればいいのです。

 

「えへへ……えへへ……可愛い」

 

先ほどから何度もターンをしていても一切揺るがない体幹は素晴らしいですね。どのように鍛えたのでしょうか。

見た目の割にしっかりとしている下半身、薄く割れた腹筋、三半規管も強いですね。

先ほどから何度もターンを繰り返しても一切目を回す様子もなければフラつきもありません。また腕も細腕ながら圧縮に圧縮を重ねた強靭な筋肉がついています。

着替えに託つけてイシュちゃんの肉体を検分しましたが、身体能力のレベルが想像がつきません。

無理矢理ギチギチに詰め込まれた筋肉を圧縮に圧縮を重ねているような鋼の肉体で、多くの部位が発達していました。

特に強いのが足です。ネル部長の話によると、戦闘も中々できるようで、本気の『怒ったネル部長』を相手に追い込んだとのことです。

非常に頑強で弾が当たらない。何らかの神秘が作用しているのか分かりませんが、とにかく弾が当たらなかった、当たっても効果が薄かったようです。

球体から出るビームが廃墟のビルを断ち切り、爆弾は地面に穴を開けるほどの威力だそうで、ネル部長が楽しそうに話していたのが印象的でした。新入生で"これ"なのだから恐れ入ります。

C&Cに今までいなかったタンクの役割を持たせるのでしょうか。『5番目』は既にいるらしいのですが、私達は誰も会っていません。

新入生のイシュちゃんであるとは考えられません。

もし、イシュちゃんが入部してくれたなら、コールサインを戴く日も早いのではないでしょうか。彼女はそれくらいの新人です。

 

「このままC&Cに入ってみるのはどうですか?」

「うーん。いくつか気になるところがあるから考えてみる」

「C&Cに入れば毎日着られますし、リーダーとも遊べますよ」

「とっても魅力的……」

 

 

メイド服を着てからは全然落ち着きもなく、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。

イシュの成績ではセミナーは確実に無理であり、またセミナーで使えるような特殊技能、例えば数字に強いだとか、暗号が解けるとか、完全記憶能力といった"強み"もない。

セミナー以外ではエンジニア部、トレーニング部、C&C、まだ部活紹介の映像を見ていないから判断はできないが、大方この辺りで落ち着くだろうとイシュは考えていた。

 

イシュはこのメイド服が気に入っていた。

肌触りがいいし、見た目の割には暑くないし、とっても動きやすい。またロングスカートの中やメイド服の中など武装を隠しやすいスペースが多いのが助かる。

スカートの中に爆弾や愛機ロンカを詰められるし、銃もハンドガン程度なら太ももに隠せる。ヒールに慣れれば今までと遜色なく戦えるだろう。それくらい体によく馴染むのだ。まるで、これを着ているのが当然とばかりに違和感を感じない。

イシュは大いに悩んでいた。

先ほどユウカに言われたことだ。

 

「あ、そうだ。さっきのセミナーの人に、火力を落としなさいって言われちゃった。どうしよう?」

「そうですか。でしたらガンショップを覗いてみますか?気に入る銃があるかもしれません」

「うん、覗いてみるだけ覗いてみようかな、気に入ったのがあったらそれ使うかも」

 

話しているだけであっという間にC&Cの部活に着いた。

メイドたちが屯する光景にまた「わぁ……」と表情の変化が薄いながらもゆる~い笑みを浮かべた。

観音開きのC&Cの部室に入ったイシュだが、扉を開けて真正面にはステージとプロジェクタースクリーンが目に入る。

それからステージの方を向く椅子達。恐らく200人は収容できるくらいに広さをもつ部室。これだけの広さが必要なほどに部員がいる部活なのだと今更知ることとなる。

 

「わぁ……戦うのにちょうど良さそう。ネルもいるし、アカネもいるし、知らないお姉さんもいる。全員対私だったらどこまでできるかな」

「あん?イシュか?」

「ネル、わっぴー」

「おう、お疲れ様。馬子にも衣装ってやつだな。もう大丈夫なのかよ?」

「うん、平気。ぐっすり寝て元気いっぱい。果物ありがとう。全部食べた」

「おう、元気なら問題ねえ。またやるぞ」

「体験入部終わったらね。その時はいっぱい遊ぼうね、ネル。そういえばネルは元気になったの?」

「見ての通りだ」

「うん、元気そう。もっともっと遊べるね」

「その子が例の子?メイド服着てる!かわいいー!」

「可愛いでしょ?アカネが着せてくれたの!」

「アカネもお疲れ様、大変だったでしょ」

「いえ、大人しくしてくれていましたので、それほどでも」

「その子、うちの子になりそう?」

「ええ、新しいコールサインを担うのは彼女だと確信しています」

 

一ノ瀬アスナ。

胸元が大きく開いたメイド服にミニスカートから覗く脚が美しい、はちきれんばかりのプロポーションの金髪碧眼の生徒。

アスナと話をしていたネルが振り返り、アカネと一言二言話をすると、『小さくて可愛い生き物』を見つけたアスナはイシュを笑顔で抱き寄せる。

アスナに抱き寄せられたイシュは自然とアスナの腰に腕を回し、身長差から谷間が目の前にあり、顔を押し込むことになる。

 

「私、一ノ瀬アスナだよ!貴方は?」

「音無イシュ!よろしくねアスナ」

 

高身長のアスナと低身長のイシュ、独特の距離感の2人は、ただ一言二言話しただけで距離感が縮まっていく。

腰に腕を回したままイシュが見上げて、アスナの手がイシュの頭を撫でる。

 

「仲良くなれたようでなによりです。あとはC&Cに入るだけですね」

 

幾つか撮っていたアカネは更に撮影を始める。

メイド服に着替えてウキウキのイシュ、アスナと抱き合うイシュ、ネルと仲睦まじく会話する様子。

それらはアカネのスマートフォンに保存されることになった。

アンケートの結果、別衣装が同数だったため決選投票です

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