ミレニアムムジカクテンセイシャ   作:二重アゴ

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拙作をお読みいただきましてありがとうございます
過分な評価までいただきありがとうございました
不思議なもので、お読みいただいただけで頑張って続きを考えようと思いましたので初投稿です


イシュと部活(2)

イシュと部活(2)

 

数日後。セミナーの人と日程の調整をしてこの日の放課後にセミナーの部室に訪問する流れになった。

新入生向けのオリエンテーションの説明と部活の仮入部についての説明という話だ。

セキュリティーキーに学生証を翳して入室。

なんと今回、アカネの入れ知恵の結果イシュは手土産を用意していた。

放課後にしたのも、放課後から少し時間が経ってからの訪問になったのも、これが理由だ。

 

「こんばんは。音無イシュ、来た。これ、みんなで食べて」

「こんばんは。あら、ありがとうございます。このお店はトリニティにしかないスイーツですね」

「時間をとってもらったから」

 

イシュを出迎えたのは生塩ノアだった。

膝を超える超ロングの白い髪に白いアウター。白のジャケットに白のミニスカートでありながら黒タイツを履く優しげな目をしている美しい少女だ。

お土産に選んだこれはキャスパリーグこと杏山カズサから情報をもらった。

対価はスイーツのおごりだ。何でも、「放課後スイーツ部」に所属していて、カズサを含めて四人で甘いものを食べているらしい。

かつてのケンカ友達はお嬢様学校のトリニティ総合学園の生徒として、仲間と青春を送っていた。

硝煙の匂いから随分と遠ざかっていたようでも『染み付いた癖』は抜けきってないから腑抜けきってはないようだけれど……。

 

 

中学時代から、不良をボコボコにしてお小遣い稼ぎに没頭していた時期に出会ったのがキャスパリーグだった。

黒髪のワンレンボブ、ピンクのインナーカラーのトリニティ総合学園の生徒。赤い目にネコミミがついているが、片方の耳がぺたんと垂れているのが特徴的な元伝説のスケバンで現"普通"の生徒。

最初のキッカケは何だっただろう。確かカツアゲされそうになったところをボコボコにし返した時だったかな。

30人ほどの不良集団は集団としては大きいもので、ボコボコにした集団の名前なんて覚えてないけれど。

カズサとは仲間を呼んだ不良の援軍として来た時が初対面だった。

ただの不良だと思っていたけれど、他の不良とは動きのキレが違ってた。気絶した不良の山を築き上げた頃、最後に戦ったのがカズサだった。

たまたま合流が遅かっただけで、リーダー格ではないものの、他の不良とは一線を画す強さをしていた。

対峙する時に話すことなんてないけれど。それでも対峙した時になんとなく強さが分かるくらいに他の不良とは強さが違った。

醸し出す雰囲気が違うって言ったらいいのかな。まあ、そんな感じ。

結局撃ち合いになったけれど、遮蔽物に隠れながら素早く動いて、私とはある程度の距離を保ったまま戦ってたっけ。

真正面から歩いていっても逃げられるのは分かってたから、パルクールみたいに建物の屋上から屋上へ移動して、カズサがいるところ目掛けて落ちながら撃ってたら気絶してた。

神秘を込めて撃てば、実弾より威力が高くなるけれど、連射は出来ないって知ったのは、その時かな。

それで、初対面はこんな風にお互い口を開くこと無く戦ったわけだけど、2回目以降は少しずつ話すようになっていったの。

「夜露死苦」の刺繍を入れた制服を着てたり、顔が割れないようにマスクをつけてたり。そういう不良って結構目立つんだけど、カズサはネコミミだからすぐに分かった。

フード越しからでもすぐに分かるもん。撃ったらキレられた。

たぶん、宇沢に纏わり付かれてフラストレーションが溜まっていたんだと思う。問答無用だったもん。

宇沢?私と目が合うと隠れちゃう。ちょっかいかけてこなきゃ撃たないのに。

 

カズサが追われていた時があったの。

カズサって群れるのが好きじゃないみたいで、気が合う数人の不良と行動を共にしていることが多かったんだって。

それで、詳しくは話してくれなかったんだけど、不良集団から追われていて、身を隠している時に私と会って。

カズサの口から「助けて」だなんて絶対に言わなかったけれど、カズサと行動を共にしていた不良が「助けてくれよ」と話してきた。

全く知らない仲じゃないし、別に良いかなって思ったの。

 

「な、なあアンタ。助けてくれない?」

「ちょっと。コイツじゃなくても良いでしょ」

「だってよお、ウチらって猫の手も借りたいくらい追い込まれているんだぜ。クソッ、ウチらが何をしたっていうんだよ!」

「知らないけど、見つかったらアケミから"ケジメ"あるかもしれないね」

「だからイヤなんだよ。絶対折れるだけじゃ済まねーって」

「話せば分かる人なんだけどね」

「アケミの前に行くまでにボロ雑巾にならなかったら良いけどな!」

「少し時間あるし、いいよ。襲ってくる不良を全員ボコボコにしたら良いんでしょ?」

「そうだけど」

「なら決まり。えーっと、私が前に出るからカズサとあなたは後ろから来て」

 

それからはもう滅茶苦茶だった。私も不良たちも全員が自分の情報を隠そうとしているから、みんな不審者の格好してるの。

で、その不審者達は不良たちと交戦を始めて。

カズサ達の追手を片付けていると、不良と敵対関係にあるヘルメット団の団員が絡んできたの。

数が減った不良とヘルメット団は援軍を呼ぶと、下部組織まで現れて更に場は混沌としてきて。

不良の一団とヘルメット団の一団が混じり合い、撃てば誰かに当たる状況の中で、私は笑顔だったと思う。

背中を合わせてスケバンやメルメット団と対立し、小さなグループから大きな一団まで総勢150人程度。ごっちゃになっていて囲まれながらもボコボコにしたのは懐かしい思い出。

2人でボコボコになった顔を見て笑いあったっけ。弾切れして不良が使っていた銃も使って、最終的に立っていたのはカズサと私の2人のみでカズサの友達は気付けば気絶してた。

不良たちが暴れてるって通報でもあったのかな。そこに現れたのは正義実現委員会きっての超武闘派、トリニティの戦略兵器こと剣先ツルギ。

今でこそ正義実現委員会の委員長だけど、この時には既に武闘派で有名だったっけ。

黒い羽に両手のショットガン。長い黒髪に黒のセーラー服。スカートの一部が赤く染まってるヤベーやつ。一体何したの?

 

「いーひひひひひひ!戦いだぁ」

「あっは♡」

「ちょっと、引くよ!」

「先に行ってて」

 

カズサだって友達を抱えたままではすぐに捕まってしまうだろうし。少しでも遠くに逃げるための時間を稼ぐだけ。

カズサは友達だと思っているし、友達を助けるのに理由なんていらないよね。

だから剣先ツルギと対峙する。他の正義実現員会の面々はまだ辿り着いていないようだから時間稼ぎくらいならできるかな。

独断専行でもなさそうだし、スナイパーの配置が完了するまで動かないつもりかな?

バーサーカーに見えるけれど、本当は理性的に戦いを楽しむタイプのように見える。訂正、やっぱりバーサーカーだ。

武闘派として他自治区にまで謳われるだけある。腰を落とし、膝を軽く曲げているだけで、構えもしていないのに肌に感じる圧が心地良い。

だから、"少し遊ぼうね"

 

私が持つ弾が入ったアサルトライフルは拾い物で、使い方は勿論、残弾数も把握していない。

最初に引き金を引いたのはどちらからかな。

互いに足を動かしながら撃ち合ったの。

あー、この感じ、全然効いてない。落ちていたハンドガンを拾って更に火力を足してみてもまだまだダメなようで。

私が持ってきた銃は弾切れだし、落ちている銃はほとんど残弾数が少ないだろうし、壊れてるものも多い。ハンドガンはいらないからポイっと。

どうしようかな。使えるものがない。だったら使えるもので戦うしかないよね。

剣先ツルギだもん、仕方ないよねぇ?

当時はロンカを作成中で、手元には無かったの。

でも爆弾は手持ちで8個ほどあるから銃と爆弾でできるだけ時間を稼がないと。

目的はカズサとカズサの友達の撤退の支援だし。

でも剣先ツルギは流石に疼いちゃうって……。ああ、嫌だなぁ、勿体無いなぁ。

 

「ま、いっか」

 

時折手持ちの銃で反撃しながら付かず離れずの距離を保つ。

そう、これは強行偵察、強行偵察なの。

 

爆弾を転がす。

コロコロと転がる白い爆弾は剣先ツルギの足元まで転がり、爆発。残り7個。

それなりに威力があるから多少なりとも負傷は負わせられるだろうと思ったんだけど……全く効いてない!

 

「さあ!暴れる時間だ!」

「うっそ♪」

 

ツルギの顔には煤が付いているくらいで、見る限り、負傷という負傷は見受けられなかったの。

笑っちゃうよね。

正義実現委員会の両翼の片割れと、誰にも邪魔をされずに、お互いに大義名分を掲げて戦える機会なんて滅多にないもんね。

だから、きっと短い時間だけど思いっきり楽しもうね。

 

イシュが銃を撃つのと、ツルギのダブルショットガンが火を吹くのは同時だった。

身元を隠すためのボロ切れを纏ってサングラスとマスクで顔を隠しながら、見据えるのは剣先ツルギのみ。

銃口を向けるのは、剣先ツルギだけ。

剣先ツルギのブラッド&ガンパウダーも私の方を向いている。

この世界には私と剣先ツルギだけしかいない、と錯覚するほどに集中していた。

頭は剣先ツルギ相手にどのように立ち回るかシミュレーションを行い、自分ができる動きと立ち回りをエミュレートしていく。

機動力では私が上、防御はおそらく互角。攻撃力は私が負けている。

 

不意に銃撃の音が響く。

 

「邪魔をしないで、仲正(なかまさ)イチカ」

 

当時から頭角を表し始めた、黒髪のロングヘアに正義実現委員会の黒いセーラー服を着た糸目の少女、仲正イチカは、前髪で目が隠れた子達3人を引き連れて撃ってきた。

援軍に現れて、ヘッドショットを食らったけど痛くないから無視してた。

 

「あの子ヤバいっすね。ツルギ先輩案件確定っす」

 

仲正イチカの独り言に反応はしない。

目の前にいる剣先ツルギとまだまだ戦える時間がある。

ビルまで全速力で駆け抜け、壁を蹴り上げて宙に浮かぶ。空中にいる数秒間、すべてがスローモーションのように見えた。剣先ツルギがショットガンを私に向け、狙いを定める瞬間までが永遠のように感じた。

二人だけの世界で、剣先ツルギが飢えた獣のように私を見つめていた。

剣先ツルギの愛銃ブラッド&ガンパウダーの銃口が私に向いて引き金に指が掛かるその瞬間までもが、感じ取れたような気がした。

仲正イチカと目隠れちゃん達には爆弾をプレゼントして黙ってて貰おっと。残り6個。

剣先ツルギは当然、空中の私を狙って撃ってきた。

爆弾の煙でモヤモヤしてるのに正確に狙ってくるあたり、戦闘のスイッチが完全にオンになってるよね。

散弾は広がって当然私を捉えるけれど、神秘弾でお返ししたら不良のアサルトライフルがバラバラになった。ごめん。

これで手持ちの銃は無いから体と爆弾を使うしかなくなっちゃった。

んー?剣先ツルギがのけ反っている?ならチャンスだね。

私は剣先ツルギに接近して、拳を腹に入れようとしたんだけど、銃床で頭を殴られた!しかも二連発!一回一回は痛くないけれど、続くと痛かったなぁ。

お返しに爆弾を剣先ツルギの腹に密着させて、爆弾ごとブン殴る!

手にはツルギの腹に良いのが入った感触があったし、爆発の威力から、すぐに戦線復帰は難しいんじゃないかなって思ったけど、楽しそうに笑ってる。

 

「くすぐってぇじゃねぇか!」

「ははっ!さすがは正義実現委員会の次期委員長。ヤバい」

 

もうヤバいしか言葉が出なかったよね。

現状じゃあ意識を刈り取れそうにない。

手持ちの銃はない、逃走用に使うのも含めて使える爆弾は残り5個。

ああ、なるほど、超回復なのね。間近で見てよく分かった。超回復は一撃で意識を刈り取るのが定石だけど、一撃で刈り取れそうにない。厄介だなぁ。

だけど、こんな機会は滅多にないから格闘戦に移行しようかな。

格闘戦をする時は、この小さな体が恨めしい。結構鍛えてる方なんだけど、もっと大きかったらもっと不利を無くせると思うんだよね。これは将来の私に期待しよう。

爆弾で結構な距離を吹き飛ばされて、剣先ツルギと仲正イチカ達の弾幕をジグザグに走りながら接近して。

剣先ツルギの腹に左右で拳を打ち込んでいく。壊れたり弾切れの銃の中から使える銃を探すより、インファイトで戦う方がまだマシだ。

銃を使うなら仲正イチカ達の銃を奪えないかな。チラリ、仲正イチカと目が合った。笑みを返しておく。

うわっ!腹筋かったあ!拳が少し痛いんだけど。

跳んで側頭部を蹴り飛ばしても仰反るだけ。どれだけタフなの。剣先ツルギと仲正イチカ達が撃ってくるけど、目隠れちゃんか仲正イチカから銃を奪っても良いかもしれない。

仲正イチカの方に走って行って、撃たれる。遮蔽物に隠れたね。走ってきた勢いのまんま、遮蔽物に手を掛けて、そりゃっ。

目隠れちゃんの1人の腕を掴んで捻ると、銃を取り落としそうになってたから、それを手にして神秘を込める。

えっ?!えっ?!って顔をしている目隠れちゃんを尻目に、目隠れちゃんの肩に銃を乗せて、撃つ!

大きな建物を一部破壊するくらいの大きな爆発音の中に残りの爆弾のうち一つだけ放り込む。ついでに仲正イチカたちにもプレゼント。

チラリと、通りの向こうに顔を向けたら逃走を意識してくれるかな?

 

「また今度遊ぼうね、剣先ツルギ」

「足りねぇ……まだ足りねぇなぁ!」

「私もそうなの!でも、もうバイバイしないとダメなの!」

 

1人なら撤退は楽なものだと思ってたんだけど、追ってくるんですけどー!機動力は私のほうが上なんだから逃げ切ってみせるよー。

バンバン撃ってくるし、銃を使い捨てで気前よく使ってる。さすがトリニティ、金満な学校だけある。

看板とかを爆弾で落としていってるのに全く気に留めずに突っ込んでくるんだけどー!

もう撤退!これじゃあ、関係ない騒ぎで拘束されそうだもん。はい、撤退!

捕まったら原状回復の費用だとか、そんなものをふっかけてくるんでしょ。私は知ってるんだよ。お金を払いきるまでシスターフッドで汚れ仕事をさせられるんだ!私は詳しいんだ!

私はめちゃくちゃ走った。息が切れるくらい走ったし、少しでも身軽になるために爆弾ぜーんぶ落として行ったし!

お腹に入れた大人と生徒のラブロマンスものの総集編のコミカライズも落として行ったんだから!

痛い出費だった……。

 

時にケンカをして、時に共闘をしたカズサとの思い出が湧き上がってくる。

色々あったけれど、結局あれからモモトークを交換して、時々会うようになって。高校入学前だったかな。カズサが「スケバン辞める」って聞いて。

カズサにタイミングを合わせたわけじゃないんだろうけれど、カズサの友達も「高校では勉強しようって思う」って言ってスケバン辞めたし。今は立派なゲヘナで風紀委員に入っているらしいよ。

 

 

イシュはまだメイド服だった。

よほど気に入ったのか、着せられてから毎日着ていた。

ソファーに案内され、個人情報という機密を取り扱うという理由からセミナーの部室の外に出してはいけないタブレットで学生証をスキャンする。

音無イシュ、新入生向けオリエンテーション未修了。部活動未加入。

隠された別項目には、私立ゴロゴロニャー中学校出身、中学の成績平均45点、中学時の部活不良ぶっ飛ばす部、入試時の平均点数49点、持病なし、既往症なし等など。

ほんの表層を覗くだけで完全に個人情報が筒抜けであるため、ノアは目を必要最低限しか動かさない。

 

「では新入生向けのオリエンテーションについてですが、まずはこちらを御覧ください」

 

タブレットからホログラムの映像が映し出される。学生生活を送るうえでの注意事項や規則などなど。

立入禁止区域にブラックマーケットや連邦生徒会が指定する立ち入り禁止区域の説明などもあり、映像は30分ほどで終わった。

 

「これまでで何か質問はありますか?」

「なーい」

「次は部活動の紹介の映像になります。このミレニアムでは多くの部活が存在します。既存の部活でやりたいことがない方は部活を立ち上げられますが、ルールがあります」

「そうなんだ」

「『部員が4人以上』で『実績を証明する必要がある』ので、部活を立ち上げるのなら覚えていてくださいね」

「はーい」

 

ソファーに両手を着いて、足をプラプラさせながらホログラムが映し出す部活動の光景を眺める。

既に部活に入っている子は、3つに大別される。

中学時代の先輩を追って部活に入るなど、ミレニアムに入学した時点で入る部活が決まっている子達。

部活に未加入の生徒は、まだ研究分野が決まっていない子やイシュのように入りたい部活を高校から見つけるような子達。

最後に部活には入らない子。

ミレニアムは『千年難題』を解決するための学校、故に研究者気質の生徒が集まり、自分たちの研究内容に近しい部活に勝手に入って移っていく。

ホログラムに目を移せば、各部の部活動中の光景を垣間見ることができたが、ゲーム開発部など幾つかの部活が抜けているようだ。

 

「どの部活も楽しそう」

「そうですね、どの部活に仮入部に行くのか迷われているのであれば、ご自身の好きなことや興味があることを挙げてみましょう」

「戦うこと、ロンカの強化。今の目標は視覚の共有とかAIを積んで育ててみたいかな」

「戦いに興味がおありなのですね。ミレニアムでは珍しいですね」

「戦うのが好きなの。ロンカを改良して、ビナーくんとかで実験して、ヒエロくんでお口直しするの」

 

あ、ロンカはこれね、とノアに見せたのは、スカートを軽くたくし上げると、4つの球状の物体だ。

イシュの周囲をふわふわと飛び回る。イシュの「戻って」の一言でスカートの中に戻っていく。

 

「さきほど仰られたビナー君と、ヒエロ君とは何ですか?」

「何かよくわからないけれど、デカくて強いヤツ」

「存じ上げませんね」

「ビナーくんはね、ヘビなの。アビドスの砂漠にいるから遊びに行きたい」

「ちょっと待って頂戴。面白い話をしているわね。ぜひ私も聞きたいわ」

 

そんな会話の中に入ってきたのは生徒会長の調月リオだ。

黒髪のストレートロング、長身で豊かな胸部、細い腰をしている、ハスミとは別の意味で色気がある女性だ。

 

「えーと、かいちょーだっけ?」

「生徒会長の調月リオよ。ところで聞かせてくれないかしら」

「ビナーくんのこと?いいよ」

「ありがとう。それは"預言者"でいいのかしら」

「よくわからないけどたぶんそう。部分的にそう」

「キヴォトス各地に出現するのね?」

「うん。ケセドくんとかヒエロくんとかシロクロもいるけど、ゴズくんはきらーい」

「ありがとう。何か助けになれることがあったら言って頂戴。私はいつでもあなたの力になれるわ」

「はーい。ありがとう」

 

リオの声は穏やかだが、その言葉にはミレニアムサイエンススクールを率いる生徒会長としての決意と強さが感じられた。

イシュはリオの言葉を聞いて軽くうなずきながら、少し考え込んだ表情を見せる。

 

「預言者に会いに行くとき、かいちょーにも声かけるね」

「それは楽しみだわ。だけど、気をつけてね。預言者は一筋縄ではいかない存在よ」

 

リオが微笑みながら言うと、イシュは少し興奮気味に笑顔を見せた。

リオに一緒に行こうね!と幼気な笑みを向けるイシュは、お菓子も用意しなきゃ、と笑う。

 

「ねえ、かいちょーも戦ったりするの?」

「ええ、必要なときはね。でも、私が戦うのは少し違うわ。私はどちらかというと、みんなを守るために戦うことになるわね」

 

リオのその言葉に、イシュは少しだけ首をかしげるが、ミレニアム生の皆を守るために戦うのだと受け取った。

戦う理由や目的が違っていても、かいちょーには何か独特の強さがあることをイシュは感じていた。

それは自分たちより更に先の未来を見据えたような言い方だった。

 

「ふーん、まあ、かいちょーなら頭良いだろうし、きっと何でもできるんだろうね。今度一緒に戦ってみよ」

 

ミレニアムでは生徒会長という役職から頭脳労働ばかりをしてきたが、まさか戦闘に誘われるとは思っていなかったであろうリオ。

リオはその提案に驚きつつも、軽く笑ってうなずいた。

 

「いつでもお相手するわ。でも、私を過信しないで。イシュにはイシュの戦い方があるように、私の戦い方もあるわ」

「ノア、途中で邪魔してごめんなさい。続けて頂戴」

 

その後、リオはノアに軽く頷き、再び生徒会長としての役割に戻るべく、自身の席に戻っていく。

イシュはその背中を見送りつつ、手を振る。自分の中で芽生えた新たな興味を感じていた。

 

「面白いかいちょーだね」

「ええ、彼女はとても頼りになりますよ。さて、それでは部活についての話に戻りましょうか?部活動はどうしましょうか」

「C&Cとエンジニア部に仮入部してみる」

「わかりました。こちらから連絡しておきます。何か質問がありますか?」

「ねえねえ、シャーレと兼部できるの?」

「問題ありません。ミレニアムのすべての部活はシャーレとならば兼部可能です」

「兼部できる数の上限は?」

「2つですね。原則では、一人一部活と考えていただいて構いません。シャーレが例外なだけですから」

 

新入生向けのオリエンテーションは簡単に終わった。時間にして約2時間はかかっただろうか。

他愛のないおしゃべりも交えてノアに甘えつつ一対一で話して、イシュはノアとの距離を少し縮められた。

 

連邦生徒会長が設立した超法規的機関S.C.H.A.L.E。通称シャーレ。

『先生』が顧問として各自治区の生徒たちの困り事を解決する。所属する学校や部活の垣根を超えて生徒たちの協力を仰げる組織だ。

シャーレに所属することにより、各自治区の強いやつを見つけるのが目的なイシュは先生が着任したら所属するつもりでいた。

噂に聞く空崎ヒナや剣先ツルギといった超一流の生徒と戦えるなら入る価値がある。剣先ツルギとはちゃんと戦いたい。

 

 

エンジニア部とC&Cに仮入部して、コトリの説明を最初から最後まで足をプラプラさせながら聞いて、ヒビキとウタハにつきっきりで教えてもらいながら簡単なものを作り、ビームかっこいいよね、とロマンを語り合い。

愛機であるロンカを見せて改良したい旨の相談役にもなってくれて。ロンカの悪かったところだけを直してもらったり、潰されたときの対策であれこれと話し合い。

C&Cではメイド服を着て、パトロールという名のゲーセンのはしごを楽しんだついでに因縁をつけてきた不良をボコボコにしたり。アスナやアカネとガンショップ巡りをしたり。ふと目にとまったショットガンを買った。

何でも、頑丈で量産されているものとのことで、メンテナンスの方法は勿論、カスタムパーツも豊富だそうだ。

イシュは、この銃を手にとってみて、派手にデコるよりも、必要最低限の情報だけを刻み、この銃には鈍色が最も似合うと確信していた。

ネルから体術が良くなったと褒められてご満悦になったりと毎日が忙しく、騒がしくて楽しい日々が続いていった。

 

「たのもー」

 

ここはC&Cの部室。

以前と同じようにスキャナーに学生証をスキャンさせ入室。

意味深な笑みでネルが「待ってたぜ」というと、イシュは入部する宣言をしたのだ。

まずは見習いとしてスタートして、メイドとしての基本的な教養や礼儀作法、戦闘技術などのスキルアップを三ヶ月の間、徹底的に叩き込まれる。

基本的な体力をつけるために、毎日朝晩に10キロの荷物を抱えて10キロを走破する過酷な訓練だ。遅れる生徒には後ろを走る先輩から撃たれるという指導だ。

基礎を学び終えると、適正と希望に沿って各々の進みたい方向に向けスキルアップを進めていく。

エージェントとして花形の「コールサイン」を目指す生徒である戦闘班、補給班、運転班、潜入班、メイド班に別れていく。

憧れのコールサインは戦闘班の中から優秀なもの"だけ"が取得できる、一種のエリートの称号だ。

毎年選ばれるが上限は6人。各学年1人ずつでは少なすぎるし、かといって3人ではレベル差がある。だから2人ずつが丁度いいのだろう。先輩の卒業のタイミングでコールサインは代替わりをするし、一学年から排出されない年もある。

200人程の部員の中で戦闘班は約100人。100人の中から選ばれるのは、今年は1人だけだ。

"5人目"はいるらしいのだが、誰も知らなかったり、永久欠番だとか、そんな噂がある。

戦闘班は愛銃の取り扱いは勿論だが、格闘技も含める広範な戦闘スキルを習得していく。また任務や戦場に合わせた武装を選択する能力が求められる。

補給班は、どんな状況でも必要な物資を確保する。現地調達も行い、"どのような手段を使ってでも"消耗品や食料の補給をするのが主な任務だ。

運転班は、エンジンで動く機械であるものならば、どんなものでも乗れるように訓練し、あらゆる地形に対応するため、荒れ地での戦車操作から、ヘリで緊急脱出まで幅広い運転技術を鍛え上げる。物資の運搬の必要性からよく補給班と共同任務を行うことが多い。

潜入班は他校に潜入し、内部情報を取得することが主な任務だ。言葉遣いや自治区特有の文化に適応するスキルを磨き、学園内に溶け込みながら情報収集を行う。隠密行動や情報戦に長け、任務の成功に欠かせない重要な役割を担う。

メイド班は他の班の助けとなるべく動く、メイドの生徒たちだ。戦闘が苦手な子や、サポート役が好きな子が多くいる。スペシャリストはいないが、ゼネラリストが多い彼女たちは多くを学んでいた。

そんな彼女たちは扱いが悪いわけではなく、彼女たちが本当の「縁の下の力持ち」だと語る生徒も少なくない。

イシュはエージェントを目指す戦闘メイドの道を進む。むしろ戦闘しか出来ないから他の班には入れそうにない。

戦闘メイドは基本的な技能である、お料理作りやお菓子作りから"お掃除"、洗濯も含めた一般的なメイドとしての技能も習得していく。

一般的なメイドの技能に加えて、戦闘メイドとしての技能を高めていくための3ヶ月が始まる。

 

イシュがC&Cに入部した情報はリオにも当然齎されニッコリ。理由はどうであれ、"分かっている"生徒が部活に所属し、最も都合よく手綱を握れる部活に入部したからだ。

リオ独自の調査から任務という名のキヴォトス各地の調査や戦闘まで任せられる。

リオは相変わらずの不器用さでイシュに構おうとしていた。だがリオが声を掛けようとした時に限ってすぐ近くでイシュが走っていってしまう。

時には銃撃の練習をしていたり、問題児カルテットのモモイやマキと一緒に遊びに行ってしまったり。

リオはイシュとの接触を図ろうとしていた。

ミレニアム生の中でもとびっきり小さくて、幼い子供。

日常を過ごす姿を見ていると、穏やかに、健やかに生活している面よりも、心配と危なっかしいが先にくる。強さは承知しているものの、小さな子が不良の集団相手に飛び込んでいく姿はリオの胃を刺激する。

リオは不器用ながらミレニアムの生徒会長として、可愛い下級生達を守るべき存在としている。

時には親のように陰で見守り、時には厳しく指導し見守っている。

親が子に向ける愛情ではない。それでもリオはミレニアムとミレニアムの学生達を愛し、穏やかに見守りながらも、誰にも察知されることなく専属メイドと共に孤独な戦いに身を投じようとしていた。

 

 

「オラオラ!さぼってんじゃねーぞ!」

 

エージェントを目指す一年生の背中を追い立てるのはネル。手に持つ愛銃ツイン・ドラゴンで走る生徒の足元に弾を打つ。

400mトラックをひたすら走り、もう既に何周走り通しだったか全員が分からなくなった頃。全員が程度に差はあれど、息を切らしながら走り込みをする中イシュは突出していた。既に周回遅れを幾度も。

メイド服のままトラックを独走し、息を切らすことなくどんどん進んでいく。話す余裕があるくらいだからまだまだ走れそうだ。

 

「あと1時間は走れねーとコールサインなんざ夢のまた夢だ!いけ!」

「ネルこわーい」

「うるせー!お前はコイツらの倍は走れ!」

「ほーい」

 

基礎訓練をこなすイシュだが、肉体に関しては他の追随を許さないほどに突き放していた。お気に入りのメイド服を着込んだままでトラックを爆走する姿はアニメのようだった。

ネルというキヴォトス有数の超一流相手に2日間戦い続けられるスタミナ、ヘルメット団のヘルメットをぶち抜き炸裂する拳、当たっただけで骨が砕かれる蹴り。

どれをとっても戦闘メイドとして頭1つ抜けていた。他の部員は『如何に2番目に滑り込むか』の競争になっていた。

残念なことにC&Cの基礎訓練には勉強の項目がなく、もし勉強の項目があれば、イシュは確実に一番にはなれない。

 

「はーい、終わり!」

 

犬のメカがイシュに向かって行く。C&Cで世話をしているメカドッグ、彼は計測だったりスケジュール管理をこなす。またタオルも準備していたりする。

イシュは早々に規定の走行距離を走り終え、メカドッグにタッチ、クールダウンを行いメカドッグと遊ぶ。

肩で息すらせずにメカドッグと遊び始めるイシュをみた他の部員はドン引きしている。だが、部員たちはイシュが真面目に取り組んでいることも分かっている。

イシュにとっては『自分の成長のため』に行っているので、その分やる気が満ち溢れ、もっと負荷が高い訓練でも問題ないと言いたげにしていた。

 

「イシュ、おめーは明日から2年用の基礎訓練だ。1年向けの訓練じゃあお前にとって時間の無駄だ」

「はーい」

「明後日には3年向けの訓練に行くかもしれねえな。ま、その時は遊んでやんよ」

「やったあ!じゃあ明日頑張るから明後日遊ぼうね!銃の練習してくる」

 

イシュのいう銃の練習とは、愛機ロンカを操り、威力の調整をする練習と、購入したショットガンに慣れる練習だ。

調整しないままではビルすらも断ち切る砲撃だ。このままでは自治区内はもちろん学内でも使えない。

毎日続けていき、射撃場の的すべてを塵に変えていった。実戦は廃墟に籠もったり、エンジニア部から廃ドローンの処分を定期的に請け負ったり。

『五分以内に全て破壊する』『走りながら全て破壊する』など、毎回別の目標を設定している。

ショットガンの名前を"ターゲッティング"にして銃身に刻み、C&Cの証を貼った。銃撃、銃の取り回しを中心に、手に馴染ませるように触れる。

そんなコールサインを獲るための"訓練"とメイドの教養の訓練は続いていく。

 




次は花のパヴァーヌ読み直したら初投稿します

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