ミレニアムムジカクテンセイシャ   作:二重アゴ

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拙作をお読みいただきありがとうございます
入れておきたい話ができたので初投稿です。
まだパヴァーヌは見れていません。

8/3 1:14
今回の前書きを書いている時刻です。
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UA8,881
嘘でしょ…

たくさんの方への目にとまっているようですね。嬉しい限りです。
また、誤字報告もいただきました。ありがとうございます。
これらすべてが書くモチベーションであります。
まだまだ迷走中の拙作ですが、今後とも宜しくお願い致します。



コールサイン05

コールサイン05

 

体育の授業等で利用されるグラウンドには、C&Cの名義で利用申請が行われていた。

以前のトレーニングでも使用した、イシュがメイドの同級生を抜き去った場所と同じエリアになる。

そもそもミレニアムサイエンススクールの学生は、運動に力を入れる生徒がほとんどいない。

トレーニング部のスミレ以外に利用する生徒はほとんどいないため、利用申請は簡単に通る。

グラウンドには、集まれるだけのC&Cの部員が集まっていた。

カリンなど一部の任務が割り振られている生徒を除く全ての人員が学年ごとに整列する姿は壮観なものだ。

様々な髪色、十人十色のヘイロー。誰一人としてヘイローが消えている生徒はおらず、イシュを除いて不動の立ち姿のままで待機していた。

C&C全員に割り振られたグラウンドへの集合時刻で2年生以上の生徒は悟り、1年生は首を傾げ朝礼台へと視線を向ける。

ヒトロクサンマルの定刻から始まるミーティング、集合。

朝礼台の横にコールサイン持ちが整列し、朝礼台にネルが立ち、拡声器にスイッチを入れる。

 

「とうとう、この時期が来たわけだ。2年以上の奴らはわかるだろうが新入りのために説明してやるよ」

 

2年生以上は微動だにせず、1年生は「なんだろう?」と周りの部員とヒソヒソ話を始める。

上級生の視線に気付いた1年生は気まずそうに顔を伏せ、口を閉じた。

1年生の列の中に混じるイシュも、何だろう、と考え始める。

当然、イシュがジッとしていられるはずがなく、メイド服を着込んでユラユラと左右に揺れている。

ヒソヒソ話が自然と耳に入る。何も知らない1年と何かを知っている2年生、3年生の違いは何なのだろうか。

 

「どうして自分たちが集められたか分からねえって顔してるな。教えてやるよ。これからコールサインが1人増えるんだが、あたし達なりの歓迎をしようと思う」

 

ネルは1年生たちの様子を見て、1人1人の顔を見ていく。イシュも壇上のネルと目が合ったような気がした。

ネルの視線を返すのは68の瞳。その顔には疑問符が浮かんでいた。

だが2年生以上は懐に手を伸ばすもの。愛銃のセーフティを解除するもの。1年生と2年生以上の間で明らかに空気感が違う。

1年生は、『歓迎』の単語からかフワフワしている雰囲気を醸し出しているが、上級生はいつでも撃てるようにピリピリしている。

まるで自宅と戦場にいる時のような落差が学年別で存在していた。

いくら引き金が軽いキヴォトスでも。更には理知的な者が多いミレニアムであっても、このような『歓迎』は存在する。

 

「1年、音無イシュ。前に出てこいよ」

 

思いもよらぬ呼び出しに、イシュは小さな身体で人混みを縫って朝礼台の前に現れる。

1年生の中でも、背が低く幼気で、特に内面、外面共に幼い生徒。ミレニアム内で、ある意味で有名な生徒だ。

入学早々美甘ネルにケンカを売った生徒。結局返り討ちに遭ったようだが、3日間眠ってからはケロリと回復して何事もなかったかのように復学している。

肉体派、武闘派の一部の生徒からは好意的に見られており、ネルの強さを身を以て知る3年生からは『おもしれーやつ』という評判。

2年生からは『わざわざ負けるケンカするなんておバカ!』という評判。

1年生からは『入学して早々に先輩にケンカを吹っ掛けるちょっと怖い子』との評判だ。席が近いモモイとマキ。それからモモイの双子の妹のミドリ、ヒビキ、コトリ、コユキなど、友達は出来ている。

思い立ったが吉日、ではないが、学年に関係なく強い生徒の話を聞くと、その日の内に襲撃してくるのは変わらない。

全体的に見ると、ミレニアム内のごく一部では好意的に見られており、一般生徒からもマスコットのような扱いで評判は悪くない。

 

全学年のC&Cの部員の一部は分かっていた。それ以外の部員は訝しげな様子を見せる。

『あんな小さな子が?』『小さくて見えない』『嘘でしょ?』『あんなにも小さな子なら簡単に組み伏せられる』

そんな声なき声が聞こえてきそうな中、ネルは告げた。

アカネに渡された『05』の数字が書かれた布を手に持ってヒラヒラとさせていた。

 

「それじゃイシュ、まずはこっちに上がってこい。それから部員達に顔を見せてやれ」

 

イシュは朝礼台に上がり、ネルの手で右肩にコールサインを示す布が安全ピンで止められた。

安全ピン?と不思議そうな顔でヒラヒラ揺れる布を伸ばしたり捻ったりしてみたり。

流石にイシュでも、この場でお喋りを始めるほど空気が読めないわけではない。

眼下から突き刺さる目に向き直り、視線の数々を自覚する。

 

「(ふぅん?私がチビだから雑魚だと思われてるパターンかな。ネルっていう見本がいるのに。腹立つなあ)」 

 

団上のイシュからは分からないが、他のコールサインを持つメンバーは状況を掴んで笑っている。

アスナは隣に立つアカネに話しかけてキャッキャッとはしゃいでいる。

 

「お前らの前に立つコイツ、音無イシュがコールサインゼロファイブだ。お前らは納得できっか?」

 

否、否、否。断じて否!!

あんなお料理も掃除も洗濯も上手にできない子よりも私が優れている。あんなにも小さな子には荷が重い。代わりに私がなってあげる。

そんな視線を受けるイシュは俯き、肩が震えていた。『可哀想に』と同情の目を向ける視線は2種類の意味がある。

1つ目は『あの子はこれから襲撃される』

もう1つは『あの子がこれから襲撃してくる』

たった一人に向けるものではない、言葉なき悪意を受け、俯いたイシュの唇はわずかに釣り上がった。

 

「納得できねえよなぁ!だったら奪ってみろ!期限は夏と冬、それぞれ一ヶ月の間だ!今はイシュにコールサインを預ける!

 その間に"これ"を取れたやつが次のコールサインゼロファイブだ!で、イシュ。お前はどうする?今なら返品を受け付けるぜ?」

 

ネルはニィと笑みを浮かべてイシュに問いかける。イシュは拡声器をネルから奪い取り、宣言する。

小さな身体で胸を張って。腰に手を当てて。

 

「5秒あげる。この場に残ったやつは全員半年入院コースにする……のはちょっと可哀想だからやめておく。でも残ったヤツの牙は5分で折る」

 

つまりは『渡さない』と言いたいのだ。向かってくるやつは叩き潰す、と言いたげな視線を部員たちに投げかける。

釣り上がった唇のまま、愛銃となった"ターゲッティング"に手を掛ける。この集合に参加している部員の人数はコールサイン持ちを除くと105人。

イシュの宣言の後、素早く動き出す部員達。我先にと逃げ出す部員は実際にイシュと同じグループで基礎訓練を行った部員達だ。

走り込みで自分達を周回遅れにして、筋トレでは成長に悪影響がない範囲でトレーニング部顔負けのトレーニングを積み、戦闘面ではボコボコにされた。格闘戦のペアになった子は2日ほど流動食になった。負けはしたものの、ネルと戦える生徒なのだ。

それを知らない生徒達は、小さなイシュを舐めてかかっている。

部内でたった噂が事実だと知る者たちは慌ててグラウンドから離れていく。

例えばあのスタミナで追い立てられたら。

例えば、乱戦の中で小さな体躯を活かして懐に潜りこまれて、あの体術を体に叩き込まれたら。

例えば、バカみたいな火力の爆弾で吹き飛ばされたら。

目視できる限り、素早く行動を起こして逃げ出した部員達は37名。彼女たちはほとんどが裏方の部員だ。

また一部ずる賢い部員は、襲撃の様子を見て、イシュの手札の一部でも見て後の襲撃に備えている。

100人の不良やヘルメット団くらい一人で相手にできなければコールサインを持てない。

ミレニアムの自治区の治安を守り、生徒を守る。それが"ミレニアムに奉仕する"ということ。それだけコールサイン持ちというのは重い。

残った部員は全学年合わせて68名。この68名全てがコールサインを狙うかつてのライバルであり、今は挑戦者だ。

セーフティを解除する音やスライドを引くもの。そんな音が1つの音楽になっていく。

1年生たちの耳に、セーフティを解除する微かな音が届く。どこからともなく聞こえるそれは、まるで戦場の鐘のように響いた。

 

―――――5

――――4

―――3

――2

―1

 

「全員、よく見てろよ。これからおもしれーもんが見られるからよ」

「ヤバくなったらリーダーが何とかしてね」

 

壮絶な戦闘が始まろうとしていた。

イシュは、たすき掛けにしたショットガン"ターゲッティング"を手に取る。

"ターゲッティング"は頑丈で機能性も高いショットガンで、イシュの手により鈍色に染め上げられている。

無駄の無いフォルムは光沢消しが施されており、まだ可愛らしくデコレーションもされていない。

イシュが持つショットガン、外の世界ではレミントンM870と呼ばれるそれは、公的機関でも使用されるほどの信頼性を持つ、堅牢にして頑丈なショットガンだ。総生産量1,000万丁を超える傑作。

今はイシュの手により、"Targeting"と刻まれた一丁で、C&Cの証が貼られている、鈍色に染め上げられた銃身を持つ。

イシュは鈍色が好きだった。見ていて落ち着くからだ。

この"ターゲッティング"は仮入部の時に手に入れたもので、堅牢にして頑強であることから量産されており、フォルムに惹かれて弾薬一式と合わせて購入したものだ。見せ武器としての役目も存在する。

 

イシュは朝礼台の縁に移動する。

両足に隠されたハンドガン2丁の存在を悟られないように、朝礼台からはじき出されるようにイシュは約4m程飛んだ。

地上約4メートルの空中でリロードし、引き金を引く。

神秘を込めた弾は爆発音を発し、小さな散弾が散っていく。その1つ1つに込められた神秘が部員たちに牙を剥く。

青白い小さな散弾は、触れた部員は弾の着弾と同時に爆発し、部員たちを地面に転がせた。

音もなく着地すると発射音が都合2度。ドスン、という腹に響く音で実弾の散弾が飛散し、転がされた部員に突き刺さる。

イシュは目にも留まらぬ速さで動き、次々と部員たちを制圧していく。"ターゲッティング"の発砲音と共に、誰もがイシュの恐るべき戦闘力を目の当たりにしていた。

そこには、小さいからとバカにする生徒達はもういない。立ち向かい、共同で倒すべき敵として、C&Cに所属する生徒たちの前に立ちはだかった。

部員たちは次々と倒れ、戦場の中心にはイシュが立ち、イシュの周りに散らばる部員たちは地面に倒れ伏している。部員たちはその恐るべき光景を目の当たりにしながらも、残されたわずかな希望を胸に戦い続けたが、イシュは容赦なく彼女達を追い詰める。

「うっ……」「うぐっ……」といった低いうめき声が響いた後、気絶する生徒達。

次々と放たれる銃弾が部員に当たると倒れ伏すものや、たたらを踏む部員、イシュに銃口を向けてくる部員達。

自然と囲まれていた。

部員たちが放つ銃弾は、まるでイシュを避けるかのように空を切り、イシュに触れた弾も、イシュの防御力によってダメージを与えることができない。

1発、2発と弾がイシュの身体に命中するが、彼女は微動だにせず、まるで弾丸を無視しているかのようだった。

間違いなく照準は幼気な少女の額を捉えていたのに、銃口を向けてきた多くの部員とコールサイン持ちの目には、"弾が自分から避けている"ように見えた。

手首を捻ると袖口に仕込んだ実弾が"ターゲッティング"に補充され、引き金を引く。

ドン、という発砲音の後、ドサリと人が倒れる音。

避けなかった銃弾はイシュに当たるが、持ち前の硬い防御力で痛みすらも感じていないのか、表情1つ変わっていない。

本来、キヴォトスの民は銃弾が当たっても『痛い』で済む。痛いで済むのだから、気軽に銃に手を掛け、引き金を引く。

ごく一部の生徒は、防御が高い。例えばゲヘナの空崎ヒナはスナイパーライフルの弾が額に当たっても傷すらつかないどころか、当たった場所からスナイパーの位置を特定する。

イシュも似たようなもので、持ち前の高い防御力と回避のせいで、弾丸が当たっても痛みを感じない。

当たる直前、コンマの世界の中でイシュに迫る弾丸は、生まれ持った神秘の装甲で威力が減退する。

2度、3度とリロードを繰り返し撃ち、大方部員を片付ける中にダンスのステップを盛り込んだ動きの中でスカートを摘めば、爆弾がコロリと転がる。

それらの爆弾をしゃがみこんで蹴り飛ばすと、あっという間に10人片付いた。

楽だーなどと零す前に、地面には半径30m程の浅く広い穴が空き、砂煙が舞う中、一箇所からイシュが抜け出した。

ネルから見て盗んだ体術を駆使し、残った部員達に突っ込んでいく。

 

「ショットガンと爆弾で大多数がダウンか。残りは残党狩りだってわけだな」

 

「あははー見てー結構飛んだー」っとアスナは愛らしい笑みを浮かべて、爆弾で吹き飛んだ部員を眺めて。流れ弾は持ち前の"直感"で全て躱す。

ネルは流れ弾など初めから意に介していないし、アカネは顔を動かさずに足先の動きだけで流れ弾を躱し、ストールで包みこんで落としたり、はたき落とす。

イシュはというと、真正面から全ての銃口を引き付け、イシュに発射された弾丸は一部被弾するも大方6割は"弾が避けて"いった。

ネルの解説通り、残党狩りに移行していく。接近戦で足を払いゼロ距離でヘッドショット。時には拳で鳩尾を抉りこみ、足払いののち、膝が腹に突き刺さったりと。

体術で部員の意識を雑に刈り取ったイシュだが、殆ど空だった胃の中身をぶちまけ、意識を飛ばした部員に目をやることなく。

最後までほぼ無傷で立っていたのはイシュ一人だけだった。

倒れ込んだ部員達の中で只1人だけ立っているイシュ。

その姿は、一人で集団を相手にした戦闘の結果を物語っている。イシュは獣のように、目を凝らし、淡々と次の標的を探していた。イシュの背後には、既に動けなくなった部員たちが転がり、まだ手を出せないでいる者たちが固まっている。

 

「(これで誰がコールサインゼロファイブにふさわしいかどうか、わかったんじゃねえの)」

 

ネルは遠くから見守りつつ、内心でごちた。朝礼台から全体を見て、コールサイン持ち以外の全学年のC&Cの中で突出した強さを持っていたのがイシュだった。

一瞬の静寂が続き、その後、周囲の部員たちは次々と敬意を込めた拍手を送った。

事実上の降参宣言。

最初は戸惑っていた1年生も、やがて理解し、イシュがただの"チビ"ではないことを知った。イシュの身体の小ささは、決して弱さを意味しない。それどころか、むしろイシュの戦いぶりはまるで戦場に舞い降りた猛獣のようだった。

 

「どうだ、納得しただろ?それでもアイツを倒したいってヤツがいるならあたしのところに来い」

 

ネルの問いかけに、部員たちは頷く。イシュがコールサインゼロファイブとしての資格を持つことを、"今は"全員が認めた瞬間だった。

イシュは照れくさそうに肩をすくめ、メイド服の裾を整えると、ショットガンをネルに向けた。

 

「まあ、こんなもん。やろうよ、ネル」

 

イシュは笑っていた。楽しいから笑っているのが分かる。

笑っていたのだが、以前と比べて心のなかのどこかで冷静な部分があり、朝礼台に登った段階で戦力分析を終了させていた。

それから、戦闘終了までのおおよその時間を測り、プラス2分で戦闘を終了させた。

 

「(これが、成長……!私、成長している……!!)」

 

敵対勢力の戦力分析から戦闘終了までの時間が、戦闘班としてみっちりと教育された成果が、出ている。

感動に打ち震えるイシュ。この感動を誰かに伝えたい。伝えたいのだけれど、伝え方が分からない。

それに、このまま戦い続ければもっと成長できると思ったイシュは、"ターゲッティング"を下ろさなかった。

グラウンドは浅くも広い30m程の穴が空き、陸上競技用のウレタン舗装は一部がめくれ上がり、バラバラに散っていた。

 

「だーめ♪」

 

瞬間移動の如きアスナの早業で砲身を空に向けられる。

アスナを意識から外した、ほんの一瞬の隙を突かれた。

アスナの手には"ターゲッティング"の砲身が握られており、手首を返されて"ターゲッティング"を取り落とす。

 

「離して、えー?」

「離したよ」

「アスナぁー」

「なあにー?」

「収まりつかないからアスナ、相手になって」

「えーお腹空いたからやだー」

「ええー……アカネも駄目?ネルは?」

「誰が彼女たちを介抱するのでしょうか?」

「ってわけだ。あたしはセミナーに行ってくる。イシュも来い」

「……はぁい」

「あれだ。会計に抱きついて思いっきり甘えてみろよ」

「部活で作ったクッキーも持っていってみては?可愛らしく包装できたでしょう?」

「!!ユウカ達許してくれるかな?!うん、作ったやつ持っていく!」

「おう、その意気だ。おう、お前ら!そこの寝転がっている奴ら保健室に放り込んでおけ!」

「私は指揮をしてますね。アスナ先輩、手伝ってもらえませんか?」

「アスナちゃん了解ですっ」

 

ビシッと敬礼してみせたアスナとアカネは倒れた部員たちの介抱、戦闘に参加しなかった部員たちの陣頭指揮。

ネルとイシュはセミナーであれこれと。

今回参加できなかったカリンは『いつものことか』と華麗なスルーを決め込む。

 

『C&C聞こえる!?緊急事態よ!エンジニア部が作ったロボットがまた暴走したの!今、図書館のそばにいるわ!』

 

突如入るユウカからの通信。

ネルとイシュは顔を見合わせて、ニヤッと笑う。

 

「アスナ!アカネ!お前たちは伸びた部員たちを保健室に放り込んでおけ!イシュ!お前はあたしと共同任務だ!」

「りょうかーい。うへへぇー、逃しはしないよー」

 

『まあ、いつものことなんだ。許してほしい』

こんな通信から始まったエンジニア部とのホログラム通信だが、エンジニア部の部長である白石ウタハが直々に機械の詳細を語り始める。

白石ウタハ、薄紫の髪を持ち、シャツの上から紺のセーターを着込み、白いジャケットを羽織る生徒だ。

ウタハは優秀なエンジニアで、多種多様なメカを発明し続けている。

しているのだが、ウタハを含むエンジニア部製の機械は変な暴走をする時がある。

 

「コールサイン、ダブルオー、行くぞ」

「コールサイン、ゼロファイブ、いくよー」

 

ミレニアム最強と戦闘大好きっ子がロボットの鎮圧に向かい、走り出す。

2人共、機動力が武器の1つのために、走り出しからトップスピードに乗るのが速く、トップスピードを維持し続けている。

3分ほど走った先には5mはあろうかという巨大なロボがいた。

ウタハ曰く、廃棄予定のドローンの無事なパーツだけを組み替えて作り上げたものなのだが、右手が銃に置き換えられており、左手は盾を装備していた。

歩く度に揺れる周囲を尻目に、ネルとイシュは対処を開始する。

 

「3分で片付けるぞ」

「りょーかい!足から壊せば良いんじゃないの?」

「それでいい。さっさと片付けるぞ」

「はーい」

 

ネルもイシュ同様にロボットに対して脅威を感じていないのか、割と呑気な返事を返す。

ツイン・ドラゴンの60発の連射とイシュの神秘弾で簡単にロボットの膝は壊れてしまい、まずは他の建物に危害が及ばないように、右腕から取り外して。

「話にならねー」と、やる気を無くしたネルの代わりにイシュがロボットを解体していく。

戦闘班で学んだことをおさらいするように、殴ったり、蹴ったりしているイシュだが、殴るだけでロボットのボディはヒビ割れていき、蹴れば砕けていく。

 

「元はドローンだもん、脆いねー」

「見ててやるから色々試してみろよ」

 

ネルはその光景を見ながら、満足そうに微笑んだ。「引き入れてみて正解だった」と心の中で思いながら、イシュの成長を確信した。

コールサインゼロファイブを持つ資格があることを、戦闘班の中でも頭1つ以上抜けた戦闘能力を見せて、イシュは見事に証明してみせた。

ネルからは身体の使い方を、動き方を吸収し、さらに戦闘班で格闘技も学習して、少しずつだがイシュは強くなっていっている。

 

 「(あたしやアカネ達が卒業した後のダブルオーに良いかもしれねえな。だが頭がなぁ)」

 

イシュに負けて悔しがっているヤツらもそうだ。

強くなりたいヤツを強くしていき、強いヤツが増えればそれだけC&Cの地力が上がり、結果を出したヤツらに続けと他のヤツも強くなろうとするだろう。

来年以降も見越したC&C全体の強化に繋がるなら多少忙しくなっても構わないとネルは思っている。

 

ネルは決して学習面で遅れているわけではない。登校中に不良に絡まれて出席日数が危ないだけだ。ネルの出席日数が危ないことくらい、ミレニアムの不良なら誰でも知っている。

だがイシュの学習面は……残念というしかない。

苦手な教科があるくらいなら目を瞑ろう。だが全教科でダメダメな結果であるから中々に難しい。

リオかヒマリならアイツをどうにかできるかと想像してみると、ヒマリがリオにダル絡みしながらも、ずっと甘やかしている姿しか想像できない。

 

「(アイツら、後輩が大好きだからなぁ)」

 

ネルはイシュがロボットを破壊する様子を見ながら、はぁ、とため息をついた。

 

 

セミナー、部室。

会計のユウカは呆れ果てていた。『またC&Cか』と。

ネルの破壊とアカネの爆破癖で建物や精密機器などをふっ飛ばしたりして嵩む弁済金。頭を悩ませるのはいつもユウカだ。

 

「はぁ、ネル先輩。またですか」

「……、あのね、ユウカ。今回は私が悪いの。だから、ごめんなさい」

「……イシュ、あなた……」

 

ユウカは感動に打ち震えていた。

謝罪すらしないネル、罪悪感を感じていないアカネ。

その点イシュはどうだ。手作りのチョコチップクッキーをお土産に持ってきてくれて、更には辿々しくもコーヒーを淹れてくれる。

可愛らしい小さなメイドさん。

 

「あら、あなたがコールサインを取ったのね?」

「仮だ仮。これを取られたらコイツはコールサイン持ちじゃなくなる」

「ユウカ、私負けないよ。だって私強いから。でもミカとツルギは難しいかも」

「ミカってトリニティのティーパーティーのホストの?」

「うん。ピンクの髪のパテル派のトップ。お姫様ですっごく強いの」

「あたしとどっちが強いかわかるか?」

「ドリームマッチの結果だけどわかんない。実際にやってみないと」

「正義実現委員会の委員長に武闘派のパテルのトップか、楽しみだな」

「とてつもなく高い耐久だからネルだったらいい勝負できるかも。火力足りないならすぐ終わるよ」

「そっかそっか、良い情報をありがとうな」

「トリニティにケンカ売りに行くなら一緒に行く!だから誘ってね。ナギちゃんとセクシーフォックスセイアと会いたい」

「はいはい、この話はそこまでです。絶っっっ対にやめてくださいね?イシュも良いわね?弁済金は後日請求しますからね!」

「ユウカ、大好き」

「!?ちょちょちょっといいいイシュ?いいいいきなり何かしら?」

「ユウカ、いつも優しい。だから大好き」

「――……」

「鼻血垂れてるぞ。まあいいか。イシュ、帰るぞ」

「はーい」

 

ネルに唆されてイシュがユウカに抱きついて甘えて上目遣い。

ユウカは滂沱の涙を流し、イシュの頭を何度も撫でていた。

 

「イシュは良い子ね。あなたはネル先輩やアカネみたいになっちゃダメだからね。悪いことをしたら、今みたいにちゃんとごめんなさいって言うのよ。できるわよね?」

「うん!」

 

辿々しい腕前の小さなメイドさんはあざといところもあって、表情の変化は少ないけれど雰囲気でどんな感情を抱いたかもわかる。

小さくて強いのに甘えん坊でよく抱きついてくる。会計の役割からどの部活にも良い顔をされないことが多いユウカだが、それでも懐いてくれる可愛い後輩。

持ち前の気質から後輩に慕われていることも知らないユウカは、この日、顔はとろけにとろけていた。

 

『少ししおらしくしてから、ごめんなさいって言えばユウカちゃん許してくれるよっ』

 

笑顔が眩しいアスナちゃんがイシュの耳元で囁いた。




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