先生、ちょっとお時間頂戴(1)
公式おバカ2号の行進
運転班に所属する生徒が運転する車の後部座席に乗り、イシュは廃墟に辿り着いた。
ここは連邦生徒会が立入りを禁止しているエリアである。
境界線を境に、徘徊する無数の武装機械兵が襲撃してくるエリアになる。
イシュは今、境界線の外側、機械兵の徘徊するエリアの外にいる。
「どれだけ時間がかかるか分からないから先に戻ってて。夜まで連絡がなかったらコールサイン持ちの誰かに連絡してね」
「了解。イシュちゃんまたねー」
離れていく車に手を振って見送った後、イシュは廃墟に目を向けた。
イシュが廃墟を訪れたのは理由があった。
廃墟を徘徊する機械兵で自分を鍛える方法がまず一つ。
機械兵はたくさん湧いてくるし、対集団戦の練習ができるし、好きなだけ戦える。
例え弱くとも数の暴力に抗うための手段の確立を目指している。
数の力というものは侮れない。
スタミナがあり継戦能力が高いイシュであろうとも疲労はするし、多数を倒すために体術や他者の銃器を奪い使用する節約ならぬ節弾をするにも限界がある。
戦い放題壊し放題のわんぱくセットは、さすがのキヴォトスであろうとも簡単にはお出しされない。
ワラワラと湧いてくるところを探すためSNSで調べてみても見つけられないから、このような場所は貴重だ。
イシュだけではなく、他の部員も利用することで部全体の戦力上昇も見込める方法として提案するための調査。
レベルアップとして定期的に暴れるケセドくんあたりを叩き起こせば練習になる。
なら対人はどうだろうか、ということでSNSを漁っていたのだが、簡単には見つからない。
機械兵で慣らせてから現実のスケバンの群れに放って実戦する手順ならばステップアップの演習として利用できる。
でも、スケバンで満足できなくなったらSRTの教官に来てもらって扱いてもらうのもいいかもしれない。
「ヴェリタスに頼んだら強いヤツがワラワラ湧いてくるところ調べてくれるかなぁ。あとは他校に襲撃する?」
ヴェリタス。
ミレニアムサイエンススクールの部活の一つで『セミナーに情報を独占させない』ために設立された部活なのだが、非認可の部活のため部費が出ることはない。
一年生の問題児クインテットのうちの1人、小塗マキが所属しており、諸事情で副部長の各務チヒロことチヒロママが部活を切り盛りしている。
そんな彼女たちは依頼の名目で頼めばやってくれるかもしれない。
せっかく戦うなら強い相手と満足するまで戦いたい。
毎日トリニティ自治区かゲヘナ自治区で暴れたら毎日剣先ツルギや蒼森ミネ、空崎ヒナと遊べるかな。
ゲヘナ自治区で暴れたついでにアビドス高等学校の"暁のホルス"こと小鳥遊ホシノが釣れたらいいな。釣れたら毎日が満足で楽しいだろうし。
空崎ヒナの神秘弾に硬い装甲、剣先ツルギの超回復だとか、蒼森ミネとインファイトで殴り合うのも楽しそう。ずっと楽しめる相手が良い。特に剣先ツルギには、昔の自分とは違うことを知らしめたい。たぶんあっちは私の正体に気付いていないけれど。
身近にはネルだけど、暇な時は他の子と集まって何かしているみたいで中々戦えないし、他のコールサイン持ちとはそれぞれに任務があるから中々遊んでもらえない。悲しいね。寂しいね。
☆
そんなわけで廃墟に遊びにきたイシュだったが、無数の機械兵がいるのが見える。
電子音を鳴らしながら、哨戒をしている機械兵を眺めて弱そう、とだけ呟いた。
強い奴は、いるだけで強いやつだけが持つ特有の何らかの"圧力"を感じるものだ。
その場の空気を支配し、こちらの神経を高揚感で研ぎ澄ませる。
例えば剣先ツルギは押しつぶされそうになる威圧感。カズサは背中に氷柱を差し込まれたかのような感覚。仲正イチカからはドロリとしたプレッシャー。
そのようなものを感じないということは、イシュにとって歯牙にも掛けない相手だということ。
一定のラインを超えなければ何もしてこないが、興味本位でイシュは境界線の手前に足を置いたまま、腕だけを境界線の内側に入れてみた。
すると、どうだろう。哨戒中の機械兵は銃を撃ってくるのだが、撃たれた銃弾は腕だけではなく体にも当たる。
発砲された弾丸にあたれば痛いだけで済むのがキヴォトス人だが、弾丸を浴びてもイシュは痛みを覚えている様子はなく、キョロキョロと周囲を眺める。
機械兵が通信を始めてから、芋づる式に機械兵が湧いてくる。
「これだけ集めておけば、少しは練習になるかな?」
イシュは境界線の内側に入り、意図して集められた機械兵達を"ターゲッティング"で撃っていく。
どぉぉぉん、どぉぉぉぉん
銃声が響き、飛び立つ鳥すらもいない。何らかの理由でビル内が剥き出しの苔むした廃ビルが乱立し、傾いた電柱。ここが横断歩道であることを示す記号である白線はどこもかしこもヒビ割れている。
そんな廃墟にショットガンが出す音ではない、いつもの腹に響く音がする。身軽に飛び上がったイシュは近くの機械兵の首部分をへし折る。
首に相当する部分からオイルを吹き出す機械兵を盾に"ターゲッティング"から銃弾を吐き出していくこと約一時間。体を動かしてもワラワラ湧いてくる機械兵を見て。
「ここは良いところ。訓練場所に丁度いい」
位置情報を記録してC&Cに共有しておこう。
無限湧きって言ったら良いのかな。戦闘班で共有しておけば、いつでも遊び場所にできる。
「ん?これだけ機械兵が湧いてくるってことはアレ、練習できちゃう?」
手持ち無沙汰に"ターゲッティング"に触れ、機械兵に銃弾をプレゼントしながら考えていく。
雷鳴の夜の夢の中の機械の体が使う、あれこれの神秘の力。
それぞれが何が何だか分からない力であるが、『あの機械の体にできるのならば、私にもできる』という直感がイシュの心に囁く。
『ここには誰もいない。練習するなら今だ』『どうせすぐに使うことになるからいきなり本番で使うよりも練習するほうがいい』と囁く声がひとつ。
『身につければ、貴方は貴方じゃなくなっていく』『今より更に、人から離れていく』と囁く声がひとむ。
イシュは迷っていた。すぐに必要なのは
恐ろしい力だが、この力は
恐らく、アレをあーしてこーして脳を壊す力。どのような理屈か分からないし、賢い人に見てもらって考えてもらうほうが良いのかもしれないが、
トリニティの百合園セイアの"第六感"、"異様なほどに鋭い勘"のような、確信とも言える、極めて限定的な
全ては先生とC&Cとゲーム開発部が解決する。解決はするのだが、全ては丸く収まらない。今度はまた別の人がいなくなってしまう。
C&Cとゲーム開発部の皆と
Divi:Sionのデータを破壊してしまえば後々困る?
火力に困れば私が波動砲を使えば火力の足しになる?
「ゲマトリアのーベアおばーはー、無職のおばさん!無職で二飜!おばさんで三飜!」
元気いっぱいで頭の悪さを披露する歌を歌いながら向かうのは工場だ。
相変わらず追ってくる機械兵の銃撃を背中で撃たれながら時々発砲、機械兵を体術で壊していく。銃を踏み潰して壊していくのも忘れない。
「包囲しようとしてくるけど、ダメなんだなぁ。あっそうだ!」
舗装されていながらも手入れがされていない廃墟は徒歩での移動には腐心しないが、エンジンを持つ乗り物など、人類が考案した楽な移動法を否定する。
追いかけてくる機械兵が発砲する音がするも、イシュには何も感じない。
何も感じないからこそ、動くタイプの障害物程度の認識しかない。だからイシュは夢の中で見た光景を現実で出力できるかどうか試していた。
眼の前にいただけの機械兵が持つ銃を肘から先を千切り飛ばし、膝を踏み台にして両脚で首を絡め取ると、イシュは機械兵に肩車されているように見える。
他の機械兵は、イシュめがけて銃撃を始めるが、そんなことは関係ないとばかりに"ターゲッティング"を持つ両手を大きく振り、機械兵の両足の間に頭を滑り込ませていくとどうだろうか。
機械兵の首をしっかりと挟み込み、脚力と体重と腰を最大限に使用すると、空中で美しい回転を描き、コンクリートの塵と埃が舞った。
いわゆる、フランケンシュタイナーというプロレス技の簡易型になるだろうか。
イシュの小さな体で機械兵との体格と体重差をひっくり返すためには膝や足首などの下半身から攻めるのが定石だが、イシュは機械兵の行動そのものを観察するために脚を中心とした下半身を破壊しないでいた。
機械兵は地面に叩きつけられ、イシュは背中から転がり、すぐに動き出し機械兵の上で馬乗りになっている。
"ターゲッティング"をたすき掛けにして、薄青に染まった光を纏った手で機械兵の頭を両手で挟むように添えて。
たった一言だけ、口を開いた。
「"サークル"」
夢の中で機械の体が使っていたもの。
薄青に染った光は機械兵の頭に吸い込まれ、淡い燐光を残して消えた。
"サークル"は効果が未知数な神秘の力だ。"サークル"だけではない。他の神秘の力も同様に、使う相手とタイミングを適切に選択しなければならない。
夢の中で"サークル"の餌食になった四人組のうち、一人にしか効果はないが、彼らは"サークル"の餌食になると"はじめからいなかった"ように消えてしまった。
"サークル"を頭に受けた機械兵は体を数度震わせ、立ち上がると機械兵の間を抜け、銃口を下げたまま歩き去ってしまった。
「……?どうなってるの?」
"サークル"を頭に受けた機械兵の一連の動きを目視で確認し、記録のための映像を用意するためにドローンを起動する。
追跡装置をつけておけば良かった、と後悔したイシュだが、もう遅い。すでに機械兵はどこかにいってしまった。
ミレニアム製のドローンだ。当然起動も早いし、弾丸にも強い。それに自動的に接続機器を分析し、最適化を済ませてくれる。
自身が作り上げた廃墟の新規マップデータ読み込み完了、追跡装置とのデータリンクが完了するまで一瞬で済む。またこの性能のドローンが安価で買えるのがミレニアムサイエンススクールの生徒の特権の一つだ。
他の自治区のドローンではこうも上手くいかないし、弾丸にも弱い。それにマップデータの読み込みも遅く、雑というより、荒いのだ。
一度ミレニアム製のドローンを使えば癖になるくらいだ。だが、ミレニアム外に出すとなると、性能分のお金が掛かるし、出荷前に性能面でも下げられる。それにミレニアムが抱える天才達の暇つぶしの玩具にされる可能性もある。
「よし、サンプル数を増やすために同じことをしよう。それからリオ会長にみてもらお!考えるのは賢い人のお仕事!」
ドローンと追跡装置をリンクさせ、さあ準備ができた、と思い、あとは行動に移すだけ。
頭がいい人が考えた結果と、自分の感覚が伝える感触を、"サークル"の餌食になった機械兵の未来を。
残った機械兵に視線を移すと相変わらず銃を向け撃ってくるだけだ。
「えへへ。じゃあはじめよー」
リオ会長に
あまりにもゴキゲンすぎて"ゴキゲンです"オーラが視認できそうなくらい、小さな身体からオーラが満ち溢れていた。
先のプロレス技もどきのものよりも、より簡単に機械兵を地面に制圧する方法があった。
一瞬だけ脚に力を込め、機械兵の後ろに回り込み、機械兵の膝裏を小突いてやると、簡単に転んだ。それから先程と同じように"サークル"をプレゼントして、それから頭に発信機をつける。
イシュが機械兵に仕掛けたのは非常に分かりやすい言葉で伝えるのなら、膝カックン。
幼い頃、誰もが一度は仕掛けて、仕掛けられたことがあるであろう、簡単なもの。
機械兵を後ろから見てわかったが、エネルギー供給がされていないし、この手の機械兵に対してセンサー類の機器異常を引き起こすのは"サークル"の効果を知りたいイシュにとっては使えない手の一つである。
ドローンが表示してくれるマップデータと追跡装置の位置情報から、何してるかなー?と眺めながら歩いていると、工場が見えてきた。
未だ電子音で会話らしき行動をしながら雑兵を増やしてイシュを撃ってくるが、やはり意に介す姿も見られない。
ドローンが展開する空中ディスプレイで"サークル"を受けた機械兵の動きを観察すると、どの機械兵も不規則な動きを繰り返している。
何の規則性も見受けられず、銃口を下げたまま、思い思いのままといえばいいのだろうか。不規則な行動を繰り返している。
これらのデータをすべて残し、リオ会長だとかの頭の良い人に考えてもらう。……もちろん自分でも考えるよ、本当だよ。イシュちゃん嘘つかない。
☆
イシュが工場に辿り着いた時、機械兵はイシュを追う脚を止めた。
屋根を支えるための柱の間から光が指す中、剥き出しの配管、埃っぽい内部。
今にも連邦生徒会長の声で"ここに何かありますよ"という言葉が聞こえてきそうな、雰囲気を醸し出す工場内だ。
イシュは進んでいく。そこで機械音声が聞こえてきた。
『接近を確認』
部屋に響き渡る機械音声。
部屋中に響かせる意味はわからない。
『対象の身元を確認します。音無イシュ、資格がありませす、資格があります。資格がありません。資格があります。資格がありますん、資格があります』
あーあ。機械音声君壊れちゃった。
私知らないよ。といった顔で、自分以外にもこの工場内に誰かがいるのかと、キョロキョロと周囲を見回しても誰の気配も感じられないし、姿も視認できない。
『入室権限が付与さささされれていまま。承認しましした。』
頭上にはてなマークを浮かべたイシュだが、資格があるのかないのか自分でも分からないまま入室権権限を付与されちゃった。
まあ、いっか。何かあったら連邦生徒会で何とかするでしょ。連邦生徒会で解決できなかったらミレニアムで解決して『貸し』にするなり、政治的な手札になるだけだし。
現場で働く私みたいなソルジャーには必要ないもんね!
『下部の扉を開放します』
「下ぁ!?」
ガチャンと開いた下部への扉。
機械兵相手にプロレス技を仕掛ける戦闘メイドだからか、キヴォトス人だからだろうか。高所からの落下であろうとも着地し、"ターゲッティング"を構え即座に周囲の安全を確保する。
イシュは今、自分が置かれている状況を
イシュが落ちてきた扉はおそらく閉まっている。上部から差し込む光は、落下地点からは見えない。
上部と違って、光すら差し込まない、薄暗く埃が舞い散る内部には、たった一箇所だけ光が差し込む場所があった。
「……リオ会長に繋げて。今すぐに」
ついてきているドローンに指示を出して、光が差し込む場所に目を移し、脚を進めていく。
イシュの視線の先には裸の少女がゆったりと椅子に腰掛けていた。
『イシュ、どうしたのかしら』
「……リオ会長、見てもらったほうが早いと思う。私のドローンをハッキングして。ドローンが見ている光景を一緒に見てほしいの」
『わかったわ』
イシュはふわふわと飛ぶドローンを従え、裸の少女に近づいていく。
ドローンのハッキングが終わったのか、ふわふわと浮かんでいたドローンの制御はイシュの手から離れ、リオの目となった。
距離を取って眺める限り、胸は上下していないし、身じろぎひとつすらない。
『もっと近づいてもらえるかしら』
「うん。多分、この子って……」
『ええ、そうね』
イシュは裸の少女に近づき、口元に手を添えてみると、呼吸すらもしていない。
呼吸していると起こる胸の上下運動、横隔膜が上下に動いて胸郭が上下に動き、胸腔内の圧力が変化することで肺が膨らんだり縮んだりしていない。
『AL-1S、神々の名もなき王女』
「リオ会長の娘!!」
『何を言ってるのかしら』
「えっ?」
多分この子、髪を整えれば先生とリオ会長の娘とか、年が離れた妹で通ると思うの。
今頃リオ会長がどんな顔をしているか分からないけれど、きっと私は良いことをしたんだと思う。多分。メイビー。
名もなき神々の王女って……やだなぁ。この子がオンラインゲームの姫みたい。
「じゃあ、この子は……!上から音がする。誰か来そうだから切るね。後でちゃんと説明してね」
『……』
セミナーの私室でイシュの声を聞いた時点で接続を切ったのだろう。リオ会長によって操作されていたドローンが今まで通りの動きを取り戻していた。
いそがしかったです
アンケートの結果、別衣装が同数だったため決選投票です
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